(9月13日 独立賛成派の集会。クルド語などで「独立のためにイエスを」と書かれた看板が掲げられ、参加者はKRGの旗を振っていた。【9月21日 朝日】)
【カタルーニャ:スペイン中央政府は投票阻止に向けて強硬措置】
9月14日ブログ“スペイン・カタルーニャ州とイラク・クルド人自治政府 二つの分離独立を問う住民投票”で取り上げた二つの分離独立を問う住民投票の期日が近づき、情勢も緊迫しています。
10月1日投票予定のスペイン・カタルーニャについては、自治州政府庁舎などの家宅捜索、州政府高官十数人の拘束など、スペイン中央政府の投票実施阻止に向けた強硬な姿勢が目立ちます。
****住民投票阻止へ関係者拘束・家宅捜索… カタルーニャ独立問題、再び緊張***
スペイン北東部カタルーニャ自治州の分離独立問題をめぐり、中央政府と州側の緊張が再び高まっている。分離独立を問う住民投票を10月1日に強行しようとする州側に対し、投票の阻止を図る中央政府側は州高官の拘束などにも踏み切り、対立は深まる一方だ。
カタルーニャは独自の文化や言語を持つなど伝統的に独立志向が強く、住民投票をめぐる問題はこれまでもくすぶってきた。プチデモン州首相は6月、住民投票を10月1日に行う意向を表明し、州議会は今月6日、関連法を成立させた。
一方、中央政府のラホイ首相はかねて「国を分裂させる」と住民投票に反対の姿勢。関連法も無効として訴え、憲法裁判所は一時差し止めを命じた。現地の報道によると、20日には治安警察が州都バルセロナの自治州政府庁舎などを初めて家宅捜索し、政府高官十数人を拘束した。
これまでにも警察は投票関係者への郵送物や投票用紙などを押収。検察当局は投票に協力的な州内約4分3の市町村の首長に出頭を要請するなど、中央政府側は投票を徹底阻止の構え。
一方、家宅捜索では庁舎周辺で投票推進派の市民が抗議デモを展開。プチデモン氏は「全体主義だ」と中央政府側を強く非難した。
カタルーニャでは2014年にも非公式の形で住民投票が強行され、結果は憲法裁に無効とされた上、当時の州首相が訴追された。今回も認められる可能性は低い。
ただ、世論調査では独立反対が支持を上回るものの、独立問題に決着をつけるため、合法的な投票の実施を望むとの回答が7割超にも上っている。【9月21日 産経】
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カタルーニャ自治州のプチデモン首相は21日、テレビ放映された声明で、「国民党(PP)が主導する政権の傲慢さに辟易している大多数の住民の支持を得ているため、住民投票を決行する」と、独立を問う住民投票を予定通りに10月1日に実施すると表明しています。
最近は、さほど独立の気運が高まっていた状況でもなく、整然と住民投票実施すれば独立支持はの票はそんなに大きなものにはならなかったのでは・・・とも思えますが、上記のような中央政府の強硬姿勢が目立つ状況で行えば、住民の反発が強まり、独立支持の票も増えるのかも。
個人的な思いとしては、異質さを理由に分離独立に向かうことを“当然”とも、“よいこと”とも思いません。できるなら、異質な要素を含めて一体感を保った共同体を形成できるのが一番よいかと思います。多様性を認め合うなかから、より豊かな文化も生まれるものと考えます。
もちろんそのためには、双方の統合に向けた不断の努力が必要になります。
ただ不幸して、どうしても一緒にやっていけないというなら、力づくでそれを押しとどめるというのも共感できません。
最終的には“国家”の枠組みは、住民の選択の結果であり、固定的な国家の枠組みに住民を縛り付けるものでもないと考えます。そのあたりは個人間の結婚・離婚と同様ではないか・・・と思っています。“国家”というのもそれ以上でも、それ以下でもないとも。
【中東全体の枠組みを揺さぶるイラク・クルドの問題】
スペイン・カタルーニャの問題は、欧州への影響はあるにしても、基本的にはスペイン国内の問題ですが、もうひとつのイラク・クルド人自治政府の問題は、中東全体の枠組み変更にもつながり、ひいては世界船体の安定にも影響します。
****国境引かれ3000万人分断 迫害や同化強制、苦難の歴史****
クルド人は「国を持たない世界最大の民族」と言われる。推計人口約3千万人は中東の地域大国サウジアラビアに匹敵する。
独自の言語や文化を持ちながら、第1次世界大戦後、英仏露の交渉で居住地域の真ん中に国境線を引かれ、トルコやイラク、イラン、シリアに分断された。以来、各国で迫害されたり、同化を強いられたりする苦難の歴史を歩んできた。
イラクではイラン・イラク戦争中の1988年、フセイン政権軍が毒ガスを散布し、クルド人約5千人を虐殺する事件が起きた。
91年の湾岸戦争後、米英軍がクルド人居住地域に展開し、フセイン政権軍は撤退。クルド人は92年、選挙を実施してKRG(自治政府)を発足させた。そして05年制定のイラク新憲法で、やっと正式に自治権を勝ち取った。
KRGが創設した軍事組織ペシュメルガは、ISが制圧したキルクーク州などで米軍と連携してIS掃討の最前線に立ち、ISを撤退に追い込んでKRGが同州を実効支配することにつなげた。【9月21日 朝日】
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長年の差別・圧政、フセイン政権下の過酷な歴史体験もあって、カタルーニャとは比較できない独立・国家形成への強い思いがあります。
IS掃討で存在感が高まった今を逃したら、次は・・・という思いつめた感情もあります。
****<イラク>クルド人自治区25日住民投票 高まる独立機運****
イラク北部のクルド人自治区で25日、独立の賛否を問う住民投票が行われる。
賛成多数でも独立が即座に認められるわけではないが、独立の動き自体が地域の不安定化につながるとして、イラク中央政府だけでなく、近隣国や米国が反対を表明。
一方、自治区内では赤白緑の3色に太陽をデザインしたクルド人自治区の旗がはためき、「悲願の独立」への機運が高まっている。
自治区の中心都市アルビル。2010年に完成した大型ショッピングモールは若者や家族連れでにぎわう。フードコートのハンバーガーセットは6000ディナール(約570円)で日本とほぼ変わらない相場だが、若者が次々に買っていく。
併設の映画館や仏スーパー大手カルフールも盛況で、「戦乱が続くイラク」のイメージとは程遠い。そんなモール1階の広場に、「独立住民投票にイエスを」との看板が立つ。
「自治区内の道路は安心して走れるが、自治区外に出ると急に治安が悪化し、過激派も出没する。自治区だけで運転したい」。独立賛成のタクシー運転手、ザファルさん(35)の言葉には、経済発展に自信を深め、テロの不安がない環境に身を置きたいというクルド人の気持ちがにじむ。
アルビルのわずか80キロ西に位置するイラク中央政府側のモスルでは、7月まで過激派組織「イスラム国」(IS)による住民の虐殺が続いていた。昨年12月に一家でアルビルに逃げてきた大学生のハジャさん(23)は「(モスルでは)地雷が爆発し、人間の肉片が降ってくる地獄があった。アルビルに来ることができてほっとしている」と振り返る。
自治政府によると、自治区の1人当たりの11年のGDP(国内総生産)は約4450ドル(約50万円)で、中央政府側管轄エリアの約3500ドルを上回る。
近年は原油価格の下落で主要産業の石油業も打撃を受け、経済はやや停滞したが、治安は安定。14年のIS台頭後は独自の治安部隊ペシュメルガが防戦し、現在は自治区内にISの拠点はない。
自治政府関係者は「戦乱が続くイラクの一部という位置付けは印象が悪い。さらに投資を呼び込むためには独立が一番だ」と語り、イラク側を「切り捨てたい」本音を明かす。
だがそれは、ISとの戦闘が終わらない中央政府側から見れば勝手な「火遊び」(アバディ・イラク首相)に映る。「内戦になりかねない」(チャブシオール・トルコ外相)などの物騒な発言も飛び交う。
住民投票は民族の悲願への一歩か。それとも混乱への序章か。投票日が徐々に迫っている。【9月21日 毎日】
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経済的に今後とも順調に運営できるか、特に、トルコ・イラク中央政府の協力なしにやっていけるのかは疑問も指摘されていますが、これまでの“歴史”を踏まえた独立への“悲願”は、そうした議論とは異質なものもあるのかも。
住民投票後の計画については、以下のようにも。
****2年以内の独立宣言示唆=イラク・クルド自治政府議長****
イラク北部クルド自治政府のバルザニ議長は20日、自治政府が25日に予定するイラクからの独立の是非を問う住民投票で賛成が多数を占めた場合、2年以内に独立を宣言する可能性を示唆した。クルド系メディアが伝えた。
議長は演説の中で「イラク中央政府と真剣な交渉に入る用意がある。時間が必要ならば1年、遅くとも2年以内ですべての問題を解決し、友好的に別れを告げられる」と語った。【9月21日 時事】
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【イラク中央政府、トルコ・・・軍事介入もありうるとの圧力】
イラク中央政府は当然のように投票実施に反対していますが、この時期に合わせたように係争地キルクークも近いIS支配地域での軍事作戦を始めたことが、クルド側への圧力ではないかとも見られています。
****<イラク>クルド係争地でIS戦開始 住民投票控え緊張****
イラクのアバディ首相は21日、過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点の一つ、北部キルクーク県ハウィジャの奪還作戦を開始したと発表した。
キルクーク県の議会は、クルド人自治区で独立の賛否を問うため25日に実施される住民投票に参加することを決めている。投票直前の「係争地」での軍事作戦開始により、混乱も懸念される。
油田地帯のキルクーク県は公式にはイラク中央政府の管轄だが、クルド側も帰属を主張。クルド人やアラブ人、トルクメン人なども居住する。
イラク軍とクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガはこれまで、「対IS」では協力を続けてきた。だが投票直前というタイミングでのイラク軍による作戦開始を受け、ペシュメルガの幹部は地元メディアに「今回はクルド側は作戦に参加しない」と明言。クルド側地域へのIS流入を防ぐことに集中するとの考えを示した。
緊張が高まる中、自治区の中心都市アルビルでは21日、「偶発的な衝突が起きたら、一日で内戦になる」(40代の商店主)と懸念する声が聞かれた。ある男性は「私はクルド人だが独立より平和を望む。投票を延期してほしい」と話した。【9月22日 毎日】
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自治区域外に位置するキルクークは、IS掃討でクルド側が実効支配しており、油田地帯であることもあって、クルド側としては是非とも取り込みたい思いがあり、イラク中央政府との綱引きが続いている地域です。
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キルクーク一帯の油田の生産量は70万バレル(日量)といわれ、イラク有数の油田の1つ。当地の支配と権益をめぐっては中央政府とクルド自治政府との間で対立が続いてきた。
ISが2014年6月、隣国シリアからイラクに侵攻すると、それまでキルクークに駐屯していたイラク軍が逃走し、ISの占領するところなった。
その後、クルド自治政府の軍事組織ペシュメルガがキルクークを解放し、同地の支配を固めてきた。キルクークの住民はクルド人が最大勢力だが、アラブ人やトルクメン人なども多く住む他民族都市だ。
クルド自治政府には、キルクークからの石油収入を国家独立の原動力にしようという思惑が強い。【9月19日 WEDGE】
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イラクのアバディ首相は16日、「投票が暴力を招く事態になれば軍事的に介入する用意がある」とも牽制しています。
****「独立」投票前に衝突、1人死亡=民族間で緊張高まる―イラク****
イラク北部キルクークで18日夜、クルド人自治区のイラクからの独立の是非を問う住民投票実施を祝うクルド人と反発するトルクメン人が衝突し、クルド人1人が死亡、3人が負傷した。イラクのメディアが19日伝えた。イラクの中央政府や周辺国が反対する中で強行される見通しの住民投票を前に、民族間の緊張が高まっている。(後略)【9月19日 時事】
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クルド人は、トルコ、シリア、イラク、イランなどの山岳地帯を中心に、国境をまたいで約3000万人が生活しているということで、問題はイラク国内にとどまりません。
****米やトルコ、中止求める 影響波及や治安に危機感****
住民投票で賛成多数となれば、独立へ向けた動きが加速する。だが独立しても、国際社会と周辺国の理解と支援がなければ、国家運営は立ち行かない。
KRGは独自の行政機関、議会、軍事組織を持ち、イラク政府から独立した外交も進める。自治地域の原油生産は1日60万バレル前後。約9割がトルコ経由のパイプラインで輸出され、外貨獲得を支えている。
だが、KRGと友好関係を保ってきた隣国トルコは、住民投票の中止を求めている。トルコは人口の約2割の約1500万人がクルド人とされ、住民投票が自国のクルド人の独立機運を高めると危惧する。トルコが石油パイプラインを止める対抗策に出れば、KRGの経済は行き詰まる。
約600万人のクルド人がいるとされるイランも、最高指導者ハメネイ師が「イラクの領土の一体性を損なう」として、住民投票の中止を求めている。
トランプ米政権も15日、「ISを掃討し、解放された地域を安定させる努力を妨げる」として、中止を求める声明を出した。
バルザニ大統領は2015年に任期が切れたが、選挙を経ずに大統領職にとどまり、正統性が問題視されている。議会も同年から事実上の解散状態が続き、権力監視は機能していない。
欧米はIS対策を理由にKRGの「非民主的」な状態に目をつぶってきたが、KRGが住民投票を強行すれば、関係見直しを持ち出す可能性もある。【9月21日 朝日】
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トルコは国境付近で軍事演習を行い、圧力をかけています。
****<トルコ>イラク国境付近で軍事演習 独立住民投票に圧力****
イラク北部のクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票を巡り、実施に反対する隣国トルコがイラク国境付近で軍事演習を開始した。投票強行の構えを崩さないクルド自治政府に対する圧力とみられ、緊張が高まっている。
トルコ政府は、住民投票によって自国内のクルド人の独立機運が高まることを危惧。クルドの現地メディアなどによると、トルコ軍は18日、自治区と接するトルコ南東部シュルナク県の検問所付近に戦車など100台を集結させ、演習を始めた。
イラク中央政府のアバディ首相は16日、AP通信に「衝突が起きれば、イラク軍も軍事介入する可能性がある」と警告している。(後略)【9月21日 毎日】
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現在のところ、国際的に住民投票実施を支持しているのはイスラエルだけです。(独立クルドが、アラブ諸国、イランなどとの間の“緩衝地帯”となることを期待か)
独立後の経済運営への不安、イラク中央政府・トルコの軍事介入もありえるという不安感などから、クルド内部にあっても、慎重論があるようです。
“バルザニ大統領が率いる与党のクルド民主党(38議席)と連立政権を組むクルド愛国同盟(18議席)は住民投票の実施を支持するが、最大野党のゴラン(24議席)は「クルド人全体の合意がなされていない」として延期を求めている。”【9月21日 朝日】
最悪の場合、イラク中央政府やトルコの軍事介入もありうる、あるいは、仮にイラクのクルドが独立へ向けて動き出すと、トルコ・シリア・イランにおけるクルド人勢力が刺激されて活動を強める・・・ということから、新たな内戦も懸念され、今後の成り行きは中東世界の枠組みを揺るがしかねない問題ともなっています。
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