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(頭部移植手術を行うハルビン医大のレン教授とカナヴェーロ教授【5月14日 トカナ】)
【世界初の頭部移植 来年初頭に延期】
IPS細胞を使った再生医療など、“日進月歩”という言葉が陳腐に思えるほど近年の医療技術の進歩は目覚ましいものがあります。
一昔前は“夢物語”に過ぎなかった技術も現実のものになりつつありますが、ただ、ヒトの頭部を切り取って、他の体にまるごと移植する“頭部移植”という話になると、さすがに“そんなことができるの?”といった感もあります。
しかし、イタリア人神経外科医セルジオ・カナベーロ氏は「できる!」ということで、今年12月に中国で“輝かしい第1例目”の手術が行われる予定でした。
“なんでも新しいことはまずやってみよう、不都合があれば、その後で対応”という発想の近年の中国なら、こうした手術の場としてはうってつけなのでしょう。(日本ではまず許可されないでしょう)
しかし、世界的に注目されていた(“まともな”医学界からではなく、メディア的にですが)世界初の頭部移植手術は来年1~3月に延期されたとか。
なお、患者がロシア人科学者から中国人に変更されたという話は、今年5月時点ですでに明らかにされていたことです。
****世界初の頭部移植は年明けに中国で実施予定****
今年12月に予定されていた世界初のヒトの頭部移植手術は、来年に見送られることが決定した。日程はまだはっきりしていないが、1~3月に実施されるとの見方が強い。
頭部移植のパイオニア、セルジオ・カナベーロ医師は、9月19日(現地時間)に自身のフェイスブックを更新。年内の手術実施はないことと、患者をロシア人から中国人に変更することを明らかにした。
これまでの予定では、人類初の頭部移植手術を受けるのはロシア人コンピューター科学者のバレリー・スピリドノフだった。手術は文字通り、スピリドノフの頭部を切り離し、ドナー(死体)の体に付け替えるもので、これまでにイヌやサルなどで実験を重ねてきた。(中略)
「生還できる保証はない」
スピリドノフは、筋肉や脊髄神経が徐々に委縮していく「ウエルドニッヒ・ホフマン病」を患っており、幼い頃から車いすでの生活を余儀なくされている。
この2年間スピリドノフはカナベーロと頭部移植手術の準備を進めてきたが、直前になって手術を受けない決定を下した。理由についてスピリドノフは、「(手術後に)再び歩く、普通の生活を送る、少なくとも手術から生還する、という自分の要望に対し、カナベ―ロが約束できなかったため」と語った。
頭部移植手術にもちろん前例はない。術後については、カナベ―ロの「約束できない」という言葉の通りだろう。(中略)
健康情報サイト「ooom」が掲載する記事でカナベ―ロは、(スピリドノフではなく)中国人の患者が手術を受けることを明かした。新たな患者の詳細は不明だが、手術は中国・ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)博士とともにハルビンで行うようだ。今後、レイ博士の研究チームから正式な発表があるとされている。
前例のない大手術に自信
カナベ―ロとレンが長年取り組む頭部移植術は、科学界から大きな批判を受け続けている。倫理的な問題はもちろんだが、何よりも手術が成功する証拠が十分でないとの指摘が多い。手術が失敗に終わった場合に患者が味わう苦しみは想像を絶するものだという。
しかしカナベ―ロは、手術に対して前向きな見方だ。(中略)
カナベ―ロとレンのチームは2016年1月にサルの頭部移植に成功したと発表し、今年4月にはラットでも成功。術後のラットが歩く映像は世間を驚かせた。
論争が尽きることのない問題だが、この治療法の確立に希望を持つ人がいるのも確かだ。【9月21日 Newsweek】
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サルの実験については、“中国で行った頭部を別のサルの身体に接続し血液を循環させる手術――しかしサルは動きを取り戻さなかった”【5月14日 トカナ】とも。
ラットの実験については、下記のようにも。(頭部を完全に切断したのではなく、脊髄を切断後、その脊髄の再結合に“成功した”というもののようです。)
****身体が不自由な患者の頭をドナーの身体に移植する「頭部移植」が現実に?****
<多くの医者に「死んだほうがまし」ともいわれる手術が、人間に迫る>
人間の患者で世界初の「頭部移植」を計画しているチームがラットを使って切断した脊髄を修復させる実験に「成功」。神経再結合の原理を実証できたとして、この手法が「あらゆる動物に有効」なことを示そうとしている。
イタリア人神経外科医セルジオ・カナベーロが人間で初の頭部移植手術をすると宣言したのは2015年。身体が不自由な人の頭を、ドナーの身体に移植して動けるようにするという悪趣味なSFのような話だが、今年中に行う予定で準備を進めている。
カナベーロは本誌の取材に応え、「ジェミニ」と名づけた神経結合方法をラットに試したところ、ラットは動けるようになり、拒絶反応も起きなかったと語った。
最新の研究結果は学術誌「CNS Neuroscience and Therapeutics」で発表される。中国ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)率いる外科チームが15頭のラットの脊髄を切断。うち9頭にジェミニを施し、残りは対照群とした。
チームはポリエチレングリコール(PEG)を用いて切断により損傷した脊髄神経を再結合させた。まずラットの脊髄を切断し、アドレナリンを加えて冷却した生理食塩水で止血。その後、9頭はPEGで切断面を接着し、術後3日間抗生物質を与えた。
1頭を除き、すべてのラットが術後1カ月間生存できた。PEGの処置を受けたグループは運動機能が「着実に」回復、術後28日目までに歩行能力を取り戻し、2頭は「ほぼ正常」と呼べる状態まで回復した。
身体機能もかなり元通り?
(中略)成功のカギは執刀医の手際で、損傷を最小限に抑えるよう神経の束をスパッと「鋭く切断する」技術が求められるという。
だが人間への応用は本当に可能なのか。「ここで論じた手法を人間の患者に応用する場合、神経の再結合レベルを評価できる走査技術が役立つだろう。この評価は臨床的回復と直接的に関連付けられる」と、カナベーロは言う。
結論として、この手法で脊髄損傷による身体機能の低下を「かなりの程度」元に戻せる可能性があると、チームは述べている。(中略)
チームはさらに犬で実験を行い、「あらゆる動物に有効」なことを実証するという。数カ月後には結果を発表できると、カナベーロは自信を見せた。(中略)
人間の頭部移植計画は、カナベーロが最初に発表した時から批判を浴びてきた。
ジョンズ・ホプキンズ大学のチャッド・ゴードン教授(神経外科)は2015年にこう語っている。「誰かの脳を別の誰かの脊髄につないで、機能させるなんてとんでもない。その方法が分かるとしても100年先だろう。2年先にできて、移植後に患者が生存し、自発呼吸し、話し、動けるなんて、嘘をつくにもほどがある」【6月15日 Newsweek
】
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カナベーロ氏が自信をみせるように技術的に可能なのか、ゴードン教授など多くの“まともな”科学者の言うように“嘘をつくにもほどがある”のか・・・素人にはわかりません。
“医学界の主流からは認められておらず、移植手術の詳細が明かされないことが疑問視されている”【5月3日 Record china】 とも。
無謀な人体実験のようでもありますが、人類の福祉の向上に寄与した医学における画期的技術“ブレイクスルー”は、“人体実験もどきの暴挙”をとおして現実のものになってきた側面もあるのでしょう。
失敗したら、日本なら殺人罪の可能性もあります。
日本は移植手術に関して制約が多く、海外に渡航して手術を受ける・・・といった話もよく聞きます。
そうした“石橋を叩いて壊すような日本的慎重さ”のきっかけとなったのが、1968年に行われた札幌医科大学の和田寿郎教授による心臓移植手術でした。
当時、バーナード氏の世界初の移植の1年後の成功ということで、メディアで華々しく取り上げられていたような記憶があります。
しかし、事態は暗転します。
“患者は術後83日間生存した。患者の死後、脳死判定や移植適応に関する疑義が指摘され、和田は殺人罪で告発される事態となった。最終的には証拠不十分で不起訴となるも、それ以降日本では臓器移植、特に脳死移植に対する不信感のために国民の合意が得られるのに時間を要し、世界では急速に移植医療が発展する中、日本の心移植適応患者は渡航移植以外の移植の道は約30年間にわたって閉ざされた。”
中国なら、そんな話もないのでしょう。多分・・・・。
それにしても、頭部提供者が“患者”で、体の提供者は“ドナー”ということで、“生きていること”“人間であること”は“頭部(脳)”で決まる・・・ということのようです。
ただ、それほど簡単な話なのか? A氏の頭部をB氏の体につないだ場合、この者はA氏なのか?B氏の人格は完全に消滅するのか?・・・という話もありそうです。
極端な話、“人間の体には結合が難しいが、ブタになら簡単に結合できる”“今の苦痛から逃れるためなら、ブタの体でもいい"・・・ということで人間の頭がブタの体に結合された場合、これは・・・・人間のなのか?
【心停止後の脳を他人の体に移植する「脳移植」】
頭部移植手術も驚きですが、カナベ―ロ氏にはすでに“次の計画”があるとか。
****次の計画……「脳移植」****
・・・・そして「頭部移植手術」を進める一方、カナヴェーロ教授はすでに次の計画を持っている。
ドイツの「Ooom」誌のインタビューで、教授は凍結した脳を解凍し、それをドナーの体に挿入する世界初の「脳移植手術」を遅くとも3年以内に行うと語った。
2018年にはアリゾナ州の「アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーション(Alcor Life Extension Foundation)」で凍結されている脳を再覚醒させる予定だ。教授はそのためのチーム作りもすでに始めている。
教授の考えている「脳移植手術」は「Cryopreservation(凍結保存)」と呼ばれ、身体が法的に死んだ後にのみ行え、心臓停止から2分以内にはじめて15分以内に完了することが理想とされている。
遺体には凍結防止化合物が注入され、マイナス196度で凍結することで細胞の損傷を防ぐ。そして教授は「脳はいわば中立的な器官です。血管、神経、腱、筋肉と違い免疫反応がほとんどないため、拒絶反応の問題は存在しません」と説明する。
教授はこの恐るべき計画について楽観的な態度だが、別の体に脳を入れた後に肉体的、心理的な問題があるかもしれないことを認める。
「あなたの頭はもはやそこには無く、脳は完全に異なる頭蓋骨に移植されます。そこには確かに簡単ではない新しい状況が生まれるかもしれません」(カナヴェーロ教授)
現在、米国には2つの人体冷凍保存研究施設――アリゾナ州の「アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーション(Alcor Life Extension Foundation」」とミシガン州の「クライオニックス研究所(Cryonics Institute)」――が存在する。
アルコー・ライフ・エクステンション・ファンデーションは、全身保存の費用を20万ドル(約2250万円)、クライオニックス研究所は全身凍結保存にかかる費用は最低約3万5000ドル(約400万円)からと設定している。
■専門家の意見
多くの専門家は、脳のような複雑な器官を損傷せずに解凍することに懐疑的である。 今年の初め、英国高等裁判所は10代の少女が極低温で保存されることを認めたが、それに対し科学者は懸念を表明している。
スウェーデンのカロリンスカ研究所の認知神経科学者マーティン・インヴァー氏は、極低温による身体保存は失敗することが明らかで、それらを行う科学者はほら吹きだと憤る。
「脳には1000億の細胞、そしてそれらと他をつなぐ1万個のリンクが有ります。その機能を保存するということは、まったく馬鹿げていて不可能です」と語る。
また多くの専門家は、心臓や腎臓などの器官でさえまだ一度も凍結解凍が成功したことがないのに全身、まして脳が損傷を受けずに蘇る可能性は極めて低いという考えだ。
ニューヨーク大学ランゴン医療センターの医療倫理ディレクターであるアーサー・カプラン博士は、カナヴェーロ教授を「フランケンシュタイン博士」と呼ぶ。アメリカ脳神経外科学会次期会長のハント・バジャー博士は、「私はこの頭部移植手術を認めません。死よりももっと悪いことはたくさんあります」とCNN に語った。
しかしこれらの批判にもめげず、カナヴェーロ教授はこの手術が人間の世界観を完全に覆すものだと自信をのぞかせる。
そしてこの試みが成功すれば、まず宗教は永遠に一掃され、人間はもはや死を恐れず、カトリック教会もイスラム教もユダヤ教も不必要になるという。さらに人間の人生の意味が今までとは全く違うものになるだろうと続けている。
さて、カナヴェーロ教授は現代のフランケンシュタイン博士なのか、はたまた人間の救世主になるのだろうか? 手術が予定通り行われれば、我々はその結果を間もなく知ることになるだろう。【5月14日 トカナ】
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【全身凍結保存の問題点と若干の進展】
脳移植はともかく、SF定番の全身凍結保存について言えば、現在は治療法がないが、将来、治療法が見つかった時点で解凍して蘇生する・・・ということで、世界全体で約350人(2016年時点)が冷凍保存されているそうです。
****人体冷凍保存の問題点****
細胞が冷凍される際に細胞に含まれる水分は凍結することで膨張します。この膨張によって細胞膜が損傷し、ダメージを受けてしまいます。現在の技術では血液を不凍液と入れ替えていますが、それでも体内の水分全てを不凍液に変換することはできないため細胞の破壊を防ぐことができません。
仮に生きた人間を凍結させ、この状態で解凍を行うと体中の細胞が破壊されているため蘇生できず、死亡してしまいます。
現在でも精子や卵子の冷凍保存、解凍は可能ですが、それはタンパク質レベルの話で、脳や心臓など臓器に関しては実現できていません。
そのため、将来ナノレベルで破壊された細胞の修復ができるようになることが人体の冷凍保存技術を完成させるためには必要なのです。【2016年6月21日 GIBEON】
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この問題にも、進展はあるようです。
****【人体冷凍保存】世界初、米大学が“解凍実験”に成功、コールドスリープ(人工冬眠)実現へ! 技術的ブレークスルー到来! ****
世界中で数百人が未来の蘇生を信じ、冷凍保存されている中、遂に彼らを無事蘇生できるかもしれない技術的ブレークスルーがあったとのニュースが入ってきた。
■米大学が解凍実験に成功
英紙「Express」、「Daily Mail」(8月2日付)などによると、今回蘇生実験に成功したのは、米・ミネソタ大学を中心とした研究チーム。ゼブラフィッシュと呼ばれる淡水魚の胚を使い、ここ60年未解決だった解凍の問題を解決したというのだ。
(中略)鶏肉や牛肉のパックの中に赤い液体は(中略)冷凍肉をゆるやかに冷凍した際に、氷結晶の体積が増加し、細胞組織を損傷させることで溢れてきたものだ。
人体冷凍保存(クライオニクス)においては、不凍結剤を用いて、これを阻止する手段が講じられてきたが、解凍においてさらなる問題が生じた。胚は様々な部分に分かれており、特に比較的大きな卵黄部分が邪魔をすることで、胚を均一に温めることができず、解凍がうまくいかないというのだ。
研究チームが今月13日、科学ジャーナル「ACS Nano」に掲載した論文によると、その問題を解決したのが「金ナノロッド」と呼ばれる極小の金属物質である。
不凍結剤に混ぜられた金ナノロッドが、解凍レーザーの熱を伝えることで、冷凍された胚を素早く温めることが可能になったという。その結果、全体の10%の胚が解凍後に蘇り、順調に成長したそうだ。(後略)【8月3日 トカナ】
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これまで“死”は、貧富の差にかかわらず避けがたい“唯一公平なもの”でしたが、今後は“再生はカネ次第”になるのかも。
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