孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  続くアメリカの経済制裁にコロナ禍で経済低迷 改革も行われているが不十分

2021-06-24 23:24:03 | ラテンアメリカ

(店の前で行列を為すひとびと【6月1日 山岡加奈子氏 新潮社Foresight】)

 

【国内経済マイナス11% 増加するアメリカへの密航者】

カストロ(兄)時代からアメリカと対立を続けてきたキューバですが、オバマ元大統領は国交回復に向けて大きく舵を切りました。しかし、トランプ前大統領はこの流れを止めて、追加制裁も。

 

バイデン大統領は、今のところキューバ関連では大きな動きは見せておらず、キューバからすれば制裁解除という明るい話題は見えていません。

 

****米は対キューバ制裁解除を…国連総会で決議採択、日本賛成・米反対****

国連総会は23日、米国による対キューバ制裁の解除を求める決議を日本を含む184か国の賛成多数で採択した。米国とイスラエルが反対し、3か国が棄権した。同様の決議採択は29回目で、米国のバイデン政権発足後では初めて。

 

キューバのブルノ・ロドリゲス外相は総会で制裁について「(キューバ国民を)窒息死させる」と非難。米国の代表は「民主主義の推進や基本的人権の尊重などキューバに対する取り組みの一環だ」と反論した。

 

同様の決議採択は2019年までに28年連続しており、昨年は新型コロナウイルスの流行で見送られていた。米国はオバマ政権がキューバと国交を回復した16年に初めて反対から棄権に回った。トランプ前政権は経済制裁などで締め付けを再び強め、17〜19年の決議にはいずれも反対した。【6月24日 読売】

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こうしたアメリカの制裁が続く中で、他の国々同様にコロナ禍に見舞われ、基幹産業でもある観光業は壊滅的なダメージを受けています。

 

低迷する経済活動で、アメリカへの密入国を企てる者も増加しています。

 

****キューバの移民船転覆、行方不明者10人の捜索打ち切り 米フロリダ沖****

米フロリダ州キーウエスト沖で起きたボートの転覆事故で、米沿岸警備隊は行方不明になっていた10人の捜索を29日で打ち切ったと発表した。(中略)

 

ボートは米国への移民を目指す人たちを乗せて23日にキューバを出航し、26日夜に転覆した。沿岸警備隊は27日、定例パトロール中に海上で数人を発見して8人を救助、2人の遺体を回収していた。

 

沿岸警備隊によると、キューバの経済危機が悪化したことで、危険を冒して船で米国を目指す人が増えているという。

 

数千人が危険な横断を試みた1990年代に比べれば数は大幅に少ないものの、今回の増加傾向に対して沿岸警備隊は警戒を強め、「航海に耐えられない船で海に乗り出すことは勧めない。定員超過だったり、天候の予想がつかなかったり、人命が失われたりする危険はあまりに大きい」と強調した。

 

米国に入国したキューバ人は、見つかればほとんどが本国に送還される。それでも経済状況が悪化する中、必死の思いで米国を目指す人はさらに増える可能性がある。

 

キューバ政府の統計によると、2020年の同国経済は、新型コロナウイルスのために観光業がほぼ壊滅状態となり、11%縮小した。【5月31日 CNN】

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野球選手がアメリカ・メジャーでの活躍を目指して亡命するというのは、一般人の経済苦からの脱出とは若干意味合いが異なるものがありますが、根底にある自国キューバへの諦めという点では同じかも。

 

****五輪出場を逃したキューバ代表 弱体化の原因と“国外流出”した選手の錚々たる顔ぶれ****

米大陸予選で2連敗を喫して早々に敗退が決まったキューバ代表

 

5月31日(日本時間6月1日)から米フロリダ州で行われている東京五輪アメリカ大陸予選。過去5大会で3度の金メダルを獲得してきたキューバ代表がオープニングラウンドで敗退し、初めて五輪の出場権を逃すことになった。 (中略)

 

かつては“アマチュア最強チーム”として栄華を誇ったキューバ代表。1982年から1997年にかけて国際試合公式戦151連勝をマークし、野球が五輪の正式競技となったバルセロナ大会からアトランタ大会、アテネ大会と3大会で優勝。2006年の第1回ワールドベースボールクラシック(WBC)でも準優勝していた。  

 

だが、近年は代表チームの弱体化が顕著となっていた。WBCでは2009年の第2回大会から3大会連続で2次ラウンドで敗退。2019年に行われた「プレミア12」でもオープニングラウンドで姿を消していた。  

 

このキューバ代表の“弱体化”の大きな原因となっているのが、選手たちの“国外流出”だろう。現状、キューバ人選手がメジャーリーグに挑戦するためには亡命するしかない。近年ではソフトバンクに所属していたオスカー・コラス内野手が亡命。この五輪最終予選前にはセサル・プリエト内野手が米国内で突如、失踪している。(後略)【6月5日 full-Count】

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【指導部の世代交代 ただし、カストロ遺族の影響力は残存】

こうした困難な状況にあって、キューバ指導部はカストロ兄弟から次世代指導者への世代交代を行っていますが、カストロ支配が消えた訳でもないようです。

 

****カストロ一族のキューバ支配は終わらない****

キューバ共産党大会初日の4月16日に、ラウル・カストロが党第一書記辞任を表明し、党大会最終日にディアスカネル大統領が、後任に就任した。カストロと同年代の革命世代の有力指導者も政治局員から引退した。カストロ兄弟による共産党を通じたキューバ支配が終わったことは間違いない。

 

しかし、ディアスカネル第一書記兼大統領(2018年に見せかけの政権交代の一環としてカストロによって登用された経緯がある)を通じて、或いは、カストロの元義理の息子で孫の父親でもあるロペス・カジェハス将軍等を通じてラウルの影響力は残り、カストロ一族の支配は続くと見られる。

 

他方、ラウル・カストロは、兄の後を継いで以来、公務員の任期制度やキューバ人の渡航制限の緩和、通貨制度の改革などの制度の自由化に取り組み、オバマ米大統領(当時)の下で雪解け関係も進んだわけで、「社会主義か死か」と叫び続けたフィデル・カストロや革命世代のイデオロギーとは一線を画す漸進的かつ部分的開放路線を進めてきた。

 

そのラウルが後継者として育成し、将来を託したのがディアスカネルであるので、これによりキューバ共産党の革命世代から革命後の新世代への権力の移行が完成したとも云えるであろう。

 

ディアスカネル政権においては、国民の生活上の不満等に対処する上でも、これまでのような経済面での市場化を段階的に進めるであろうが、政権の安定性に影響を及ぼすような民主化措置は期待し難い。

 

軍内に多少の確執はあるようであるが、党大会でカジェハスが政治局員に登用されるなどカストロ一族側の新世代も支配力を強化しており、軍内の対立、民衆の蜂起、体制内改革といったことは、何れも現実性に乏しいように見える。

 

ディアスカネル自身は技術者で、共産党のヒエラルキーを上る過程でラウル・カストロに認められたプラグマッティックな人物であるとの評もあり、彼に期待する向きもある。

 

しかし、国民的なカリスマ性があるわけではなく、軍部や情報部門をどこまで掌握しているのか、どこまで本人自身の政策的自由度があるのかは未知数である。当面、他の国と同様コロナ対策やパンデミックによる経済困難にいかに対処するかが大きな課題であり、これに成果を上げることが国民の支持や政権の安定度の鍵となろう。

 

バイデン政権は、ラウル・カストロやその子供、更にカジェハスに対するものを含むトランプ政権による追加的なキューバ制裁措置を解除しておらず、同政権にとってキューバ問題の優先順位は高くないとされており、当面は、米国から何らかのイニシアティブが取られる可能性は低いだろう。【5月11日 WEDGE】

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【経済改革に乗り出すも、その効果は限定的 コロナ禍を乗り切れば改革もスローダウンの可能性】

経済政策としては、二重通貨制度の廃止、自営業の職種拡大という改革も行っていますが、そこには限界も観られます。

 

****キューバの変革:二重通貨制度廃止のインフレ****

二重通貨制度の廃止に踏み切ったキューバを襲った急激なインフレ。自由市場からモノが消え、闇取引が行われている。

 

コロナ・パンデミックに襲われたキューバの2020年GDP(国内総生産)成長率は、マイナス11%を記録した。これはソ連が崩壊した1991年とほぼ同じ水準である。

 

キューバ政府は基本的に、経済危機が深刻になって国民の不満が高まり、追い詰められるまでは改革をしない。その意味では、今回のコロナによる経済危機はいい機会と言えるわけで、2021年1月から施行された改革はその表れであった。

 

ただし、その3カ月後に開催された今年4月の第8回党大会を見ると、勇み足で始めた1月からの改革が足踏みした印象である。

 

懸案だった二重通貨制度

キューバ政府が今年に入って実施した改革は2つある。

1つは「金融の秩序化」(Ordenamiento Monetario)と呼ばれる二重通貨制度の廃止である。これは10年前の第6回党大会から取り組むと発表されていたもので、今年1月1日に実施された。

 

キューバでは1994年から1ドル=1ペソの交換レートを持つ「兌換ペソ(CUC)」と、一般の労働者が受け取る賃金、公共料金や配給物資の支払いに使われる外貨交換できない「非兌換ペソ(CUP)」の2種類の通貨が流通し、1兌換ペソ=24非兌換ペソのレートで交換されていた。

 

2004年には、ブッシュ(子)米政権(当時)による対キューバ経済制裁強化に反発したフィデル・カストロが米ドルの流通を停止。国内の外貨店での支払いは兌換ペソのみとなるなど、兌換ペソは広く使われてきた。

 

この二重通貨制度は、赤字国営企業の保護に使われた面が強い。財務体質が悪化した国営企業に対して、1兌換ペソ=24非兌換ペソの一般レートではなく、1兌換ペソ=1非兌換ペソ、あるいは1兌換ペソ=5非兌換ペソなど、非兌換ペソを過大評価したレートを適用することができたからだ。

 

一方で輸入企業を優遇し、輸出企業の競争力をそぐ側面もあり、早い時期から二重通貨制度を廃止する必要性は指摘されてきた。

 

政府の経済統計を検討する際にも、この二重通貨制度は障害であった。(中略)

 

物価が4〜5倍に

中国やベトナムでも1990年代に兌換通貨と非兌換通貨の二重通貨制度の廃止が実施されたが、これにより自国通貨価値の過大評価が表面化した。両国とも廃止直後からハイパーインフレとなり、収束まで2〜3年を要している。

 

キューバ政府はこのコストを考えて、長年同制度の廃止を先送りしてきた。しかしコロナ危機により、抜本的な改革をする必要がある、とついに腹を決めたということになる。

 

ところが中国やベトナムの場合は、それまでに市場メカニズムの大幅な導入が行われ、民間部門の経済活動の自由度が拡大していた。両国の経済は二重通貨制度の廃止前に高成長を記録し、ハイパーインフレに耐えるだけの余力があった。

 

これに対してキューバの場合は、経済は低成長のまま、コロナ危機に押されて制度廃止を断行した格好だ。

 

対策として、物価上昇に備えて公的部門労働者の賃金を平均5.2倍引き上げること、「不当に価格を吊り上げる場合は」高額の罰金を科すことが発表された。また、「農牧産品自由市場」や「手工芸品自由市場」などの公営市場における価格に上限を設定し、価格統制を開始した。

 

しかし米メディアによれば、二重通貨制度の廃止が発表された2020年12月10日の翌日から自由市場の価格が4〜5倍に上昇したという。

 

政府は1月から価格統制を行い、インフレ抑制に乗り出したが、人々は価格統制された市場に物を売りに行かなくなり商品は闇市場に消えた。食料や衣類などは闇で購入せざるを得なくなっていると考えられるが、闇市場は当然政府の価格統制の外にあり、市場メカニズムが機能するため、高価格となる。

 

自営業の職種拡大も実施されたがーー

キューバ政府が実施したもう1つの改革が、2月に入って行った自営業者の職種の大幅拡大(127種から2000種以上へ)である。これによって医療・教育などの一部の職業を除き、ほぼすべての仕事に自営が認められたが、コロナ下では投入財の入手が難しい。

 

自動車の修理のための部品はすべて輸入に頼っているが、貿易は政府に独占されており、その政府は外貨不足のために十分な量を輸入できないでいる。観光客が来ないので、レストランは休業せざるを得ない。公共交通機関は止まり、買い出しのためには自分で運搬手段を調達しなければならないが、流通はすべて国家独占である。

 

自営業の拡大は歓迎すべきだが、現在はまだその効果が期待できる段階ではない。コロナが収束してから、自営業が発展するかどうかが問われることになるだろう。

 

長蛇の列ができる国営外貨店

この状況下で、国民生活は一層厳しい状況が続いている。

政府が国民に保障する生活必需品の配給は遅配・欠配が目立ち、鶏肉やせっけんなど生活必需品は、国営外貨店でしか購入できなくなった。

 

前述の通り国営外貨店の価格は1ドル=24非兌換ペソの公定レートで計算され、公務員が賃金として受け取る非兌換ペソでも買い物ができるが、商品の入荷量は限られており、外貨店の前では早朝から長蛇の列ができる。列の後ろの方の人は買えないことも多い。

 

またそもそも外貨店の価格は、非兌換ペソの収入しかない公的部門労働者には高価である。公的部門労働者の賃金は5倍に引き上げられたので、国営外貨店での買い物に限れば、購買力は5倍になった。需要は高まったが政府が外貨で輸入する商品の供給は増えず、外貨店でも品不足が続いている。

 

米マイアミのメディアは、外貨もなく多額の非兌換ペソの現金も持たない人々が物々交換をしていると報じている。子どもの食べ物を買うために、自分のよそ行きの服を自宅で売ったり、直接食べ物と服を交換したりしているのだ。

 

1米ドル=24ペソの公定レートについても、現在闇ドルレートは1ドル=50~60ペソと伝えられている。政策の上で市場メカニズムを否定しても、現実の生活の中では闇市場という形でそれが機能する。今のところ恐れていたほど闇ドルレートは上昇していないが、経済が回復すれば米ドルの需要が高まり、闇レートも上昇する恐れは残る。

 

コロナ禍の中で窮乏する国民の不満は久しぶりに高まっている。

1990年代からキューバに関するニュースを報道する米国マイアミのネットニュースのCubaNetは2021年1月5日、2020年のデモの回数は3倍に増えたと報じた(Se triplican protestas públicas en Cuba en últimos cuatro meses de 2020 (cubanet.org)。

 

政府は国民の不満を抑えるためにも、大胆な経済改革を実行する必要に迫られている。

 

中国やベトナムのような経済改革は行わない?

しかしながら、このような状況である割には、第8回共産党大会の前後に発表された経済改革や方針は、今一つ熱意に欠けるのである。

 

実際に党大会での議論を見てみると、基本的には10年前の第6回党大会で決められた「党と革命の経済社会政策に関する指針」を引き続き実行に移していく、という決議が可決されたにとどまっている。

 

市場経済化や資本主義的な制度の導入を警戒していることは、今回の大会の決議の中に、「生産者や商業活動に参加する業者が、社会の利益や原則に反する悪習や投機、条件を押し付けることを防ぐ必要がある」と書かれていることにも表れている。確かに、不当な価格のつり上げを政府が防ぐことは必要だし、大多数の資本主義国の政府でもそのような政策をとれるようにしている。

 

ただ今のキューバの物価上昇は、1月に二重通貨制度を廃止したために起きたインフレを、価格統制で乗り切ろうとしている政府の政策の問題にある。政策の上で市場メカニズムを否定しても、現実の生活の中では公営自由市場から商品が消え、闇市場に流れるという形でそれが機能する。 

 

また、ミゲル・ディアスカネル新第一書記は演説で中国やベトナムの経験に触れたが、問題はその触れ方である。

 

中国もベトナムも社会主義計画経済の重要性を確信しており、それぞれ試行錯誤を繰り返して現在に至っているのだ、と述べたのだ。

 

つまり中国やベトナムの経済における民間部門の役割の重要性には触れず、これらの国々が言説としては、現在も社会主義経済の建設を標榜していることを強調しているように映る。キューバがこれから中国やベトナムのような経済改革を行うことはない、と示唆しているように思われる。

 

更なる経済改革には慎重姿勢

このように国内外の期待をよそに、キューバの指導部は、大規模な改革には慎重な姿勢を崩していない。

 

現在の指導部の希望の星は、キューバ国内で開発された5種のコロナワクチンである。このうちの3種については、国内の60歳以上の市民にボランティアを募り、今年3月には第3フェーズの治験を行った。(中略)

 

ワクチンの成果は現時点ではわからないが、政府はとりあえずワクチン効果を見極めるまでは、さらなる経済改革は見送る公算が高い。キューバ政府は追い詰められれば改革をするが、そうでなければ改革をやめるのが、過去30年間繰り返されてきた習慣だからだ。

 

ワクチンによって集団免疫を確立できれば、経済を全面的に再開し、1〜2月に行った改革だけでどこまで国民生活を改善できるか観察するだろう。他方、ワクチンで期待したほどの効果を得られなければ、もう少し改革を進めるに違いない。【6月1日 山岡加奈子氏 新潮社Foresight】

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国内開発中の新型コロナワクチンに関しては“キューバが開発中の新型コロナワクチン、有効性が92%以上”【6月23日 TBS NEWS】という朗報もありますが、経済改革の側面から見ると、ワクチン開発が順調に進んでコロナ禍が一段落すれば、改革への姿勢もスローダウンする・・・・ということにもなりかねないようです。

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