孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  大統領選を今年後半実施で与野党合意したものの、早くも暗礁に

2024-01-28 22:19:22 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ大統領選の野党統一候補マリア・コリナ・マチャド氏=23日、カラカス(AFP時事)【1月27日 時事】 独裁色を強めるマドゥロ政権への激しい対決姿勢から「鉄の女」の異名があります。マドゥロ大統領がそんなマチャド氏の出馬を許容するはずもなく・・・)

【マドゥロ政権と野党、2024年後半に大統領選挙を実施することで合意 アメリカは制裁緩和の方向へ】
南米ベネズエラの反米左派チャベス前大統領、後任のマドゥロ大統領は政治的には野党・反対勢力を弾圧し、経済的には市場経済の原則を無視した価格統制、それまでのベネズエラの放漫財政を支えてきた石油の価格下落などによって想像を絶する天文学的パイパーインフレーション・もの不足を引き起こし、多くの国民を食事にも事欠く貧困と国外への難民へと追いやる失政を重ねてきました。

野党勢力はグアイド国民議会議長を暫定大統領として、アメリカの後ろ盾もあってマドゥロ政権に対抗していましたが、政権打倒には至りませんでした。(これだけの失政を重ねた政権ですので、いつ倒れてもおかしくない・・・という個人的印象もあったのですが、チャベス前大統領以来の固い支持基盤もあって、やはり権力を握っている者は強い・・・という感じも)

2019年4月30日、野党指導者のグアイド国民議会議長・暫定大統領が、マドゥロ大統領政権の打倒を掲げ、軍に決起を促すとともに、国民にも抗議行動を呼びかけましたが、クーデターは失敗に終わりました。

これを機に、グアイド氏を中心とした野党側の政治運動も失速傾向に。

経済・インフレの方はひと頃のパイパーインフレーション状態はおさまって、やや落ち着きを取り戻してきています。

そうしたなかで起きたロシアのウクライナ侵攻、ロシア産石油への制裁という環境変化で、“ロシア産に代わる石油が欲しい”アメリカ・バイデン政権の思惑から、アメリカとの関係は改善に向かっています。

アメリカがかねて求めていたマドゥロ政権とグアイド氏など野党連合の対話が再開したことを受けて、2022年11月にはアメリカ・バイデン政権はベネズエラ向けの経済制裁の一部を緩和。

以上のような流れにについては、2022年11月30日ブログ“ベネズエラ  底を打った経済 石油を求めるアメリカとの関係改善の流れ 国内野党勢力との対話再開”で取り上げました。

その後、野党勢力を率いてきたグアイド国民議会議長・暫定大統領は“強硬な姿勢は野党勢力からも反発を受け2022年12月30日に正義第一党を含む3つの野党の提案に基づき、暫定政府の解散が野党派国民議会で可決され、暫定大統領および野党派国民議会議長の地位を失った”【ウィキペディア】と失脚しました。

マドゥロ政権と野党勢力の対話を受けて、2023年10月には、2024年後半に大統領選挙を実施することで合意、いわゆる「バルバドス合意」と呼ばれるものです。

****ベネズエラ大統領選、2024年後半実施で与野党合意****
南米ベネズエラの反米左派マドゥロ政権と主要野党連合は(2023年10月)17日、カリブ海の島国バルバドスで協議し、大統領選を2024年後半に実施することで合意した。野党側は統一候補を擁立し、マドゥロ大統領の退陣を目指す構えだ。

大統領の任期は6年で、マドゥロ氏は現在2期目。前回18年大統領選では主要野党候補が排除され、国際社会から批判が相次いだ。地元紙ナシオナル(電子版)によると、国際選挙監視団の受け入れなども申し合わせた。

原油埋蔵量が世界最大とされるベネズエラでは、13年に大統領に就任したマドゥロ氏が独裁色を強め、野党側と激しく対立。トランプ米前政権がマドゥロ政権に圧力をかけるため経済制裁を発動したことなどを受け、経済は一時、年率13万%のハイパーインフレに陥るなど破綻状態になった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、政治混乱と経済危機によって国外に逃れた人は8月時点で人口の27%に当たる770万人を超える。

与野党は昨年11月にも自由で公正な選挙の実施に向けて協議し、バイデン米政権はこれを受けて、ベネズエラにとって重要な外貨獲得手段の原油の輸入制限を一部解除した。今回の合意でさらに制裁が緩和される可能性がある。

米国や欧州連合(EU)などは同日、共同声明を発表し、「公正な選挙と経済、治安の安定につながる今回の合意を支持する」と表明。同時にマドゥロ政権に対し、不当に拘束されている反体制派の無条件の釈放や人権の尊重などを引き続き求めるとした。

マドゥロ氏はまだ出馬表明していない。野党側は今月22日に予備選を実施し、統一候補を選ぶ。ただ、有力候補のマリア・コリナ・マチャド元国会議員が15年間公職に就くことを禁じられるなど、マドゥロ政権は既に圧力をかけており、当局が擁立した統一候補の立候補を正式に認めない恐れも指摘されている。【2023年10月18日 毎日】
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【野党側、大統領選統一候補に「鉄の女」マチャド氏選出 「合意」が守られるのか疑問視する見方も】
上記記事にもあるように、2023年10月、野党側は予備選挙で「鉄の女」とも呼ばれるマチャド氏を統一候補に選出しましたが、政権側の対応が懸念されていました。

****ベネズエラ野党連合、大統領選統一候補に「鉄の女」マチャド氏選出****
南米ベネズエラで(2023年10月)24日、来年後半に予定される大統領選に向けた主要野党連合の統一候補が、マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)に決まった。

同国では反米左派マドゥロ大統領が独裁色を強め、野党と対立。経済も厳しい状況が続く。主要野党連合はマチャド氏の下で政権打倒を目指すが、同氏は当局から公職就任を禁じられており、大統領選に立候補できるかは不透明だ。(中略)

マドゥロ政権下では、政治的迫害を恐れた野党政治家の国外脱出が相次ぐ。「鉄の女」とも呼ばれるマチャド氏は国内にとどまって政治活動を続け、直前に別の有力候補が辞退したことも、支持を集めた背景にある。マチャド氏は22日夜、他候補をリードする暫定結果を受けて首都カラカスで演説し、「これは(現政権の)終わりの始まりだ」と決意表明した。

今後の焦点は、マチャド氏の処遇だ。マドゥロ氏の影響下にある会計検査当局は6月、資産申告が不十分だとして、マチャド氏に対して15年間公職に就くことを禁止する処分を下した。

与野党は今月17日、2024年後半の大統領選の実施や国際選挙監視団の受け入れなどで合意した。ただマチャド氏への処分は残っており、立候補資格が認められない可能性がある。さらに25日には、検察当局が予備選の集計作業で不正があったとして、捜査を開始したと発表した。

マドゥロ政権の正当性を認めず、トランプ前政権時代からベネズエラに対して経済制裁を強化してきた米国は、17日の与野党合意を受けて制裁を一部緩和した。しかし、マチャド氏への処遇が変わらず、野党への締め付けが強まれば再び制裁を強化するとみられる。

原油埋蔵量が世界最大とされるベネズエラでは、石油収入を財源にしたばらまきで貧困層から支持された反米左派チャベス前大統領が13年に死去後、同年の選挙を経てマドゥロ氏が大統領に就任。チャベス路線を踏襲したが、石油価格の下落などで経済は悪化し、ハイパーインフレを招いた。野党との対立も先鋭化した。政治混乱と経済危機で国外脱出した人は8月時点で人口の27%に当たる770万人を超える。【2023年10月26日 毎日】
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しかし、保守系のアメリカWSJ紙は「マドゥロ大統領が公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だ」と批判しています。

****ベネズエラの空虚な選挙取引と米国制裁の効果****
ウォールストリート・ジャーナルの10月18日付け社説‘Venezuela’s Empty Election Deal’は、ベネズエラのマドゥーロ政権が野党連合と来年の大統領選挙の実施について合意し、バイデン政権がこれを評価して制裁緩和を正当化しようとしていることにつき、マドゥーロが公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だと批判している。要旨は次の通り。

10月17日、ベネズエラ政府は、来年大統領選挙を実施することについて民主派野党との政治的合意を発表したが、ほとんど中身は無い。政治犯の釈放も、野党候補の権利を回復する保証も、選挙管理機関の独立性を確保する方法も含まれない。

米政府当局者は、16日、バイデン政権がこの合意を制裁緩和の正当化のために利用する予定であることを記者団に漏らした。しかし、17日に発表された米国、欧州連合(EU)、英国、カナダの共同声明は、この文書が「包括的な対話プロセスを継続し、ベネズエラの民主主義を回復するために必要な一歩」に過ぎないことを認めた。つまり、ただの話し合いの継続だ。

現実は、不人気の独裁者マドゥーロは、クリーンな選挙を実施するつもりも、負けた場合に粛々と退くつもりもない。彼が約束することに前向きな理由は、制裁の解除を期待してのことである。

1998年にチャベスが勝利して以来、ベネズエラで信頼できる選挙が行われたことがない。チャベスは独裁者となり、死の床でその地位をマドゥーロに譲った。

オバマ政権、トランプ政権は、人権侵害と汚職を理由にベネズエラへの制裁を強化してきた。国連高等弁務官は、「ベネズエラは自由で信頼できる選挙のための最低限の条件を満たしていない」と指摘している。

2020年3月には、米司法省はマドゥーロと14人のベネズエラの現職と元職の高官を「麻薬テロ、汚職、麻薬密売」などの罪で告発した。

しかし、バイデン政権は、マドゥーロに親切にすることが、ベネズエラをイラン、ロシア、中国の軌道から引き離す方法だと考えているようだ。

10月22日に野党の大統領予備選が行われる。マリア・コリーナ・マチャドが最有力候補だが、マドゥーロは24年の選挙への彼女の出馬を禁止している。もし彼女が22日に高い支持率で勝利すれば、野党のリーダーとなり、彼女は米国の支援に値する。

ベネズエラの石油産業は、20年以上にわたる犯罪的政権の下で崩壊しており、石油分析筋は、制裁の緩和がすぐに米国のガソリン価格の値下がりにつながることを疑っている。

バイデン政権は、ベネズエラが違法移住者の送還に合意するかもしれないとも期待している。しかし、もし民主主義が米国の目標であるなら、マドゥーロを当てにするのは時間の無駄だ。
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マドゥーロのこれまでの行状に鑑みれば、この合意は制裁緩和目当ての見せかけに過ぎないとの上記の社説の指摘は理解できる。

しかし、トランプ政権下で、最大限の圧力政策を続けて結局成果はなく、むしろマドゥーロの権力基盤は強化されたので、バイデン政権は外交による事態の改善に舵を切り替えたのである。

また、今回の合意は最初の1歩であり、制裁緩和措置は部分的かつ暫定的とされており、まだ続きがあるので、この段階で時間の無駄と決めつけるのはやや拙速だろう。(中略)

10月19日付の報道によれば、米政府は、今回の交渉の進展を評価し、ベネズエラ産石油、天然ガス、金に関する取引について半年間の一般的な許可を与え、一部のベネズエラ国債や国営石油会社の債券・株式の取引を解禁した。

米財務省は、マドゥーロが約束を守らなければこれらの許可は修正又は撤回され、またその他の制裁は引き続き維持されると説明した。  

これまでのマドゥーロのやり方を見ていると、自らが敗北する可能性のある自由で公正な選挙を実施するとは思えないが、ベネズエラの状況は、天文学的なインフレは収まったとはいえ、年間400%の物価上昇は続いている。このような状況にベネズエラ社会がいつまで持ちこたえられるのか疑問である。  

野党連合の結束を維持することは重要であり、制裁緩和の撤回の可能性もちらつかせながら、地域諸国の協力も得て民主化へ向けてマドゥーロを追い詰めていくことも1つの戦略であろう。【2023年11月10日 WEDGE】
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【懸念されていたように最高裁、野党統一候補の出馬を禁止 アメリカは制裁見直し】
しかし、現実は予想された方向に。

****最高裁、野党統一候補の出馬を禁止=今年後半の大統領選―ベネズエラ****
南米ベネズエラの最高裁は26日、今年後半に予定されている大統領選の野党統一候補マリア・コリナ・マチャド氏(56)の公職就任を禁じた反米左派のマドゥロ政権の決定について、支持する判決を言い渡した。

事実上出馬を禁じられたマチャド氏は反発。与野党が公平な選挙実施を約束した昨年10月の「バルバドス合意」後の緊張緩和ムードが一転する様相を呈している。

元国会議員のマチャド氏は、主要野党による10月の予備選で、9割を超える圧倒的支持を得て候補者に選出された。しかし、マドゥロ政権は、予備選の前に、マチャド氏が米国のベネズエラ制裁を支持したなどとして15年間にわたり公職に就くことを禁止していた。

この決定の取り消しを求め、マチャド氏が最高裁に提訴したものの、強権色を強めるマドゥロ政権に牛耳られている最高裁は政権に追随した。

判決を受けてマチャド氏はX(旧ツイッター)に「(マドゥロ)体制はバルバドス合意の破棄を決めた」と投稿。一方的な動きを批判した。【1月27日 時事】
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****中南米各国の元大統領らが批判 ベネズエラ野党候補の出馬禁止****
ベネズエラ最高裁が野党統一候補の大統領選出馬を禁じる判断を示し、中南米各国の元大統領ら29人が27日、連名で判断を批判する宣言文を発表、野党候補マリア・コリナ・マチャド氏への支持を表明した。

コロンビアのドゥケ前大統領がX(旧ツイッター)に宣言文を投稿した。マチャド氏について「正当な野党代表で、大統領選の候補であり続ける」と強調した。

ノーベル平和賞を受賞したコスタリカのアリアス元大統領、メキシコのカルデロン元大統領、チリのピニェラ前大統領のほか、スペインのアスナール元首相も名を連ねている。【1月28日 共同】
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今回ベネズエラ最高裁判断を批判して、アメリカは対ベネズエラ制裁の見直しを検討。

****米、制裁見直しを検討=ベネズエラ最高裁決定で****
米国務省は27日、南米ベネズエラの最高裁が大統領選の野党統一候補の公職就任を禁じた反米左派のマドゥロ政権の決定を支持したことを受け、「深い懸念」を表明した。また、一部緩和していた対ベネズエラ制裁の見直しを進めていると明らかにした。

ベネズエラ最高裁は26日、今年後半に予定される大統領選の野党統一候補マチャド氏の公職就任を禁じたマドゥロ政権の決定を支持する判決を言い渡した。マチャド氏の出馬を事実上禁止した形で、国務省は与野党が公平な選挙実施を約束した昨年10月の「バルバドス合意」に反すると非難した。【1月28日 時事】
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もともと内容に欠けるところがあった昨年10月の「バルバドス合意」ですが、野党統一候補の大統領選出馬禁止によって完全に空文化するのか・・・アメリカは再び制裁強化に舵を切るのか・・・倒れそうで倒れないマドゥロ政権の強権支配は続くのか・・・今後の展開が注目されます。

なお、ベネズエラの最近のインフレ状況については以下のようにも。

****ベネズエラのインフレ率、昨年は約190% 12月は前月比で鈍化****
ベネズエラ中央銀行が12日発表した2023年の消費者物価指数(CPI)は前年比189.8%上昇した。伸びは22年の234%からは若干鈍化したが、依然として極めて高いインフレが続いていることが示された。

ただ、23年12月のCPIは前月比2.4%の上昇にとどまった。

ベネズエラは長らく、3桁のインフレ率に加え、より良い未来を求めて多数の国民が国外脱出を図っているため、経済が破綻状態となっている。【1月15日 ロイター】
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インフレ率190%ということは、一年前に比べて物価が3倍ほどになるということですから、まだ尋常ではありません。ただ昨年12月が対前月比2.4%というのは、かなり落ち着いた動きです。
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