孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・パキスタン  対話再開へ合意するも、ムンバイ同時襲撃事件へのパキスタン側対応待ち

2009-07-21 21:12:54 | 世相

(ムンバイ同時襲撃事件で火を吹くタージマハルホテル "flickr”より By Apoorva Guptay
http://www.flickr.com/photos/guptay/3130874049/)

【ムンバイ同時襲撃事件の実行犯 詳細供述】
昨年11月に起きたムンバイ同時襲撃事件では、10人の実行犯のうち9人は死亡、残る1人の裁判がムンバイの特別法廷で行われています。
その被告が、これまでの無罪主張から一転、罪を認め事件の詳細を語ったそうです。

****ムンバイ襲撃、唯一生存の被告が罪認める 否認から一転****
166人が殺害された2008年11月のインド・ムンバイ同時襲撃事件の実行犯として、唯一生存したまま拘束、起訴されたパキスタン人、モハメド・アジマル・カサブ被告(21)が20日の公判で、無罪主張から一転、罪を認めた。
カサブ被告は以前無罪を主張したムンバイの特別刑事法廷で、「告白したい。わたしは有罪です」と述べ、判事や検察官、自らの弁護団まで全員を驚かせた。
その後、被告は襲撃の過程や、パキスタンからほかの9人の襲撃犯とともにマハラシュトラ州の州都ムンバイに到着するまでの詳細などを説明した。
ウジワル・ニカム検察官は閉廷後、報道陣に対し、4月に裁判が開始して以来、134人が被告に不利な証言をしており、被告自身が「すべてばれている」ことを悟ったのではないかと語った。(後略)【7月20日 AFP】
**************************

【印パ関係改善への動き】
カシミール地方の領有権問題などで元々対立が続くインドとパキスタンの関係は、ムンバイ同時襲撃事件以後悪化し、高官級定期対話(和平プロセス)も中断しています。
しかし、アメリカは、パキスタン軍が国内のイスラム過激派タリバン掃討に集中できるよう、印パ両国の緊張緩和につながる対話再開を強く求めています。
こうしたアメリカの意向を受けて、17日のクリントン米国務長官の訪印を前に、インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は16日、非同盟諸国の首脳会議が開かれたエジプト・シャルムエルシェイクで会談しました。

会談後の共同声明では、中断していた高官級定期対話(和平プロセス)の再開で原則合意したことを明らかにされています。

****インド:パキスタンと対話再開へ 両首脳合意*****
インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は16日、非同盟諸国会議が開かれたエジプトで会談し、07年秋以降中断していた和平協議を再開することで合意した。その前段として近く、外務次官級対話を始める。昨年11月のインド・ムンバイ同時テロ事件で悪化していた両国関係は、改善に向け大きな一歩を踏み出した。

約3時間の会談後、両首相は共同声明を発表。それによると、テロ情報などを積極的に共有する一方、インドがパキスタンの貧困撲滅や国内安定に協力することで合意した。ムンバイ事件では、シン首相が公正な捜査と審理を求め、ギラニ首相も全力で取り組むことを約束した。
シン首相とパキスタンのザルダリ大統領は6月の会談で、和平協議再開に向けた条件を提示しあい、今回はその結果を持ち寄る形となった。
オバマ米政権は、アフガニスタンでの対テロ戦争推進に印パの関係改善が不可欠と見て、和平協議再開を両国に求めていた。 【7月16日 毎日】
**********************

【懸案となっている事件処理】
しかし、シン首相は記者会見で「ムンバイ同時攻撃の犯人が正当に責任を問われるまで、包括対話を始めることはできない」と述べ、パキスタンが求めている包括和平対話を再開する可能性は否定しています。【7月17日 ロイター】
“包括和平対話”と“外務次官級対話”の関係がよく理解できませんが、アメリカの圧力もこれあり、交渉再開には応じるが、本格的な和平対話はパキスタン側のムンバイ同時襲撃事件への対抗を見極めてから・・・ということのようです。

“インド側は(ムンバイ同時襲撃)事件について、パキスタン国内に本拠を置くイスラム過激派「ラシュカレ・タイバ」の仕業だと一貫して主張。首謀者引き渡しを要求するとともにパキスタンのテロ組織対策が不十分だと不満を募らせてきた。
とりわけ、パキスタン高裁が6月初め、同組織の創始者ハフィズ・サイード氏の自宅軟禁を解く決定を出したことにインド側は反発した。しかし、パキスタンは今回の声明で、ムンバイ事件の首謀者訴追に向けた「あらゆる努力」を行うと述べ、同氏訴追に向けて今後、善処する姿勢を示した。”【7月16日 読売】

ムンバイ同時襲撃事件に対するパキスタン側の対応が印パ関係改善に突き刺さった小骨となっており、ひいてはアメリカの描くアフガニスタン・パキスタン包括戦略にとっても同様な訳ですが、冒頭AFP記事に戻って、実行犯が詳細供述を行ったことで、パキスタン側の「ラシュカレ・タイバ」関係者への対応にも影響が出ることが想定されます。
スムーズに進めば、そのことで印パ間の包括和平対話再開の時期も早まることにもなるのでは。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ASEANの人権機構 ミャンマー問題にどう対処できるのか?

2009-07-20 20:31:16 | 国際情勢

(ミャンマーの少数民族分布図“flickr”より By haabet2003
http://www.flickr.com/photos/haabet/2932720784/in/set-72157608323325450/
“多民族国家のミャンマーは、人口の3分の2程度を占めるビルマ族以外に、タイ、中国、インドとの国境付近を中心に、細分すると130以上の少数民族が住む。1948年のビルマ(当時)独立後、多くの少数民族が武装勢力を結成し、独立や高度の自治を求めて政府と戦ってきた経緯がある。”【7月20日 毎日】)


【監視・調査機能の付与は先送り】
東南アジア諸国連合(ASEAN)は外相会議で、懸案となっていた域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意しました。

カンボジアやミャンマーなど人権問題をめぐり複雑な歴史を持つASEAN加盟国が人権委員会的な機関の設置に強く反対してきたため、起草作業に入ってすでに4年ほどが経過していますが協議が難航し、ようやく現実のものとなるようです。
しかし、その内容は反対国へ配慮して、内政不干渉を原則として、意思決定は「全会一致」、制裁規定もなく、監視・調査機能もない・・・という実効性を疑わせるものとなっています。

*****ASEAN:人権機構発足で合意 タイで外相会議開幕*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、タイ南部プーケットで加盟10カ国外相による夕食会などを開き、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)まで続く一連の関連外相会議がスタートした。
ASEAN各国外相は19日、域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意した。ただ、強制力のある監視・調査機能の付与は先送りされ、ミャンマーの人権問題改善などに実質的に寄与できる可能性はほとんどなくなった。

人権機構は昨年12月発効のASEAN憲章に創設が盛り込まれ、具体的な権限などの協議が進められていた。外交筋によると、インドネシアなどが各国の人権状況を監視し、問題が起きた場合に調査する機能を付与するよう求めていたが、内政不干渉の原則を主張する議長国タイなどが消極姿勢を示した。このため、監視・調査機能を持たせずに発足させ、5年後に見直す妥協策で決着した。人権機構の正式名称は「政府間人権委員会」。

ASEAN外相会議は20日、ミャンマーで拘束されている民主化運動指導者アウンサンスーチーさんら政治犯の釈放などを求める共同声明を採択する見通し。(後略)【7月19日 毎日】
*************************

人権侵害が疑われる国を含めて全会一致が原則、内政には不干渉、監視・調査機能もなくて、一体何ができるというのでしょうか?
内々の議論で批判することは可能ですが、それすら「内政不干渉」で取り合わないことが予想されます。

“外相会議は20日、ミャンマーで拘束されている民主化運動指導者アウンサンスーチーさんら政治犯の釈放などを求める共同声明を採択する見通し”とありますが、当然ミャンマーは反対しますので、こういうとき「全会一致の原則」はどうなるのでしょうか?
そのあたりの運営のあり方で、「政府間人権委員会」の機能も多少変わってくるかもしれません。

いずれにしても、すでに激しい国際批判に晒されているミャンマー軍事政権は、ASEANの批判など歯牙にもかけないでしょう。(多少、仲間内からの批判ということで、面子的に気にする部分はあるのかもしれませんが)

【「人権機構」議論をしながら・・・】
外相会議で「ASEAN人権機構」について協議しているさなか、ミャンマー国内では野党党員を一斉拘束しています。
ASEANもなめられているようです。まあ、国連事務総長にすらスー・チーさん面会を許さない国ですから、仕方ないところではありますが。

****スー・チーさん率いる野党党員、一斉拘束 ミャンマー*****
ミャンマー(ビルマ)の最大都市ヤンゴンで19日、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる国民民主連盟(NLD)の党員ら22人が、治安当局に一時拘束された。警察筋が明らかにした。
 この日は、スー・チーさんの父親で建国の父と仰がれるアウン・サン将軍が暗殺された命日。警察筋によると、同将軍の廟(びょう)へ向かうNLD党員らが党のバッジなどをつけていたため阻止したところ、別の場所で行進を始めたので拘束したという。すでに全員を釈放したとしている。
NLD本部ではこの日、追悼式典が開かれており、当局は周辺の道路を閉鎖するなどして警戒態勢をとっていた。【7月19日 朝日】
************************

【新たな懸念】
そのミャンマーについて、気になる記事がありました。
****ミャンマー:モン族、軍編入拒否へ 戦闘再開の恐れも*****
ミャンマー国内の有力少数民族モン族の武装勢力、新モン州党(NMSP)が、軍事政権から要求されている政府軍への編入を拒否する意向を固めたことが分かった。NMSP幹部が毎日新聞に明らかにした。同様の動きは他の有力少数民族にも広がっているという。民主化運動指導者アウンサンスーチーさん(64)の拘束で国際社会から批判を受ける軍事政権は、少数民族とのあつれきという別の難問に直面しそうだ。

軍事政権は来年実施の総選挙を前に、国内情勢を安定させるため、少数民族武装勢力を政府軍傘下に編入し、国境警備隊化する方針を決定。今春、停戦中の各勢力に受け入れを求める動きを本格化させ、早期に回答するよう迫っている。
これに対し、NMSP幹部は「(軍への編入で)少数民族勢力をつぶそうという意図は明らかだ」と反発。兵力規模の大きいワ族、カチン族、シャン族の各勢力と4月に対応を話し合った際、要求を拒否する方向で基本合意したという。

一方、タイに拠点を置く亡命ミャンマー人メディア「イラワディ」(電子版)が今月14日報じたところによると、軍事政権は先月7日、NMSPに対し現有兵力を国境警備隊ではなく民兵組織に転換する案を提示した。政府軍編入に拒否反応が強い少数民族への「妥協案」とみられるが、NMSPに近い情報筋は毎日新聞に「民兵組織でも軍の傘下に入る実態は変わらないので、NMSPは拒否するだろう」と述べた。

軍事政権は89年以降、少数民族との和平を進め、主な武装勢力17グループと停戦協定を締結。NMSPとは95年に停戦合意した。NMSP幹部は「戦う意図はないが、政府軍への編入拒否で(軍事政権側から)停戦合意が破棄される可能性はある」と戦闘再開の恐れにも言及した。
モン族は、南東部のモン州などに住む民族。人口規模は100万~400万人といわれる。NMSPは過去に最大3000人の兵力を有し、「イラワディ」によると現在は約700人とされる。【7月20日 毎日】
************************

戦闘再開というようなことになれば、軍事政権の国内支配体制にほころびが生じ、体制変革のきっかけにも・・・という面もありますが、当然ながら少数民族の多くの血が流されることになります。また、総選挙・“民生”移管のスケジュールが遅れることもありえます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サハラ太陽熱発電計画「DESERTEC」とオバマ「ガーナ演説」

2009-07-19 21:13:53 | 国際情勢

(「DESERTEC」の概要図
黄色の丸印が太陽熱発電、以下、太陽光、風力、水力、バイオ、地熱の発電プラント。
それらを高電圧直流送電網で結ぶ計画です。“flickr”より By Erwin Boogert
http://www.flickr.com/photos/erwinboogert/2971667135/

【「DESERTEC」】
太陽熱発電について08年10月9日ブログ「太陽がいっぱい アフリカでの太陽光利用」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081009)で取り上げた際にも触れた、地中海周辺諸国とEUが参加する地中海連合がサハラ砂漠および中東に巨大太陽光発電機を設置する計画に関する記事を最近目にしました。実現に向けて動いてはいるようです。

****ドイツ:サハラで太陽熱発電計画 欧州需要の15%供給*****
北アフリカのサハラ砂漠などに太陽熱発電施設のネットワークを構築し、欧州の一大電力源とする壮大なエネルギー供給計画「DESERTEC(デザーテック)」が、事業化に向けて動き出す。計画への参加を経済界に呼び掛けてきた世界的な大手保険会社「ミュンヘン再保険」が10日、毎日新聞に明らかにした。
同社は13日、独南部ミュンヘンで、独大手企業を集めた初の会議を開く。事業の推進母体となる組織を発足させる予定で、電機会社シーメンス、電力会社RWE、ドイツ銀行などの参加が予定されているという。

デザーテック事務局(独北部ハンブルク)のシュトラウプ事務長によると、計画ではサハラ砂漠など北アフリカや中東諸国に広大な太陽熱発電施設群を建設し、高電圧の送電網によって欧州に電力を供給する。欧州の電力需要の15%を満たす発電網の構築に4000億ユーロ(約50兆円)が必要で、資金調達が最大の課題だ。ミュンヘン再保険は「2、3年かけて事業の枠組みを作りたい」としている。
同計画はハンブルク出身のエネルギー学者クニース氏が発案し、03年ごろから地中海周辺国や欧州の学術界に訴えてきた。世界の有識者で組織するシンクタンク「ローマクラブ」が後押しし、07年、欧州議会に実現を求める計画書を提出している。(後略)【7月12日 毎日】
**************************

推進母体には、関連分野でドイツ経済界を代表する企業が名を連ねるとのことで、政界も好意的だとか。
シュタインマイヤー独外相が「実現性はまだ何とも言えないが、進めなければならない計画と信じている。」と発言しているように、まだ“これから”の計画ですが、2050年までに100ギガワットを生産する予定で、北アフリカ・中東と欧州に供給されるとも言われています。

太陽熱発電は鏡やレンズを使って太陽光を1点に集中させて熱を発生させ、集めた熱で蒸気を発生させてタービンを回し電力を生み出す仕組みですが、日中に熱貯蔵タンクに熱を貯め、夜間にその熱で発電する24時間発電が可能です。
曇りや悪天候の時には石油、天然ガス、バイオ燃料などでタービンを動かすことも出来ます。
また、交流送電では200kmが限界ですが、直流なら電線を少し太くすれば2万kmまでも可能で、理論上は地球上のどこへでも電力を送電できるそうです。
そこで、太陽熱とか水力などが豊富な地域で大規模発電して、その電力を遠隔消費国へ送る「DESERTEC(デザーテック)」のような計画が可能になるそうです。
実際、中国の三峡ダムでは、5000MWの電力を1400km離れた上海まで送電していますが、電力ロスは5%に過ぎないそうです。
【化学業界の話題(http://knak.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/desertec-c077.html)より】

計画に参加する欧州・北アフリカ・中東各国のエネルギー安全保障、CO2削減に役立つだけでなく、将来的には余剰電力を利用した北アフリカ・中東における海水淡水化も視野にいれており、こうした国々の成長と安定に資する計画だとか。

【小規模・分散型の太陽光発電】
壮大な計画であり、本当にその趣旨どおりに機能するなら、単に太陽の恵みまでも欧州に持っていってしまうというものでなければ、北アフリカ・中東諸国の便宜にもなることですから、結構なことかと思われます。
北アフリカには行ったことはありませんが、ミャンマーやバングラデシュなどを旅行していると停電が日常的で、電力問題が経済成長のネックになっていることが実感されます。

ただ、都市部など人口や産業が集中した地区には、こうした計画による電力供給が効果的でしょうが、砂漠の中に点在して暮らす人々にまでその恩恵がいきわたるのでしょうか。
そうした点では、小規模・分散型の太陽光発電(太陽電池を利用)の普及を後押しする補助金とかマイクロクレジットなども、地味ではありますが現実的な施策ではないでしょうか。

【「良い統治」】
もうひとつ懸念されるのは、こうした大規模事業で動く巨額の資金が政界・産業界の一部の者の私腹を肥やすような形で流れ、国民の生活向上に繋がらないこともあるのではないかということです。
グッドガバナンス「良い統治」の問題です。

****「良い統治」へ自助努力を=ガーナでアフリカ諸国向け演説-米大統領****
ガーナを訪問したオバマ米大統領は11日、首都アクラの議会で演説し、「民主主義の本質は、それぞれの国の国民が自身の運命を決定することだ」と強調、アフリカ諸国は腐敗根絶といった「良い統治」に自力で取り組む必要性があると訴えた。(中略)
大統領は演説の中で「(アフリカの)民主主義の強化は、世界の人々にとって人権向上につながる」と指摘。さらに「法の原則が蛮行や贈収賄の支配に取って代わられているような社会には誰も住みたがらない。発展は『良い統治』次第だ」とし、各国の民主化や人権対策を踏まえて積極的に支援していく考えを示した。 【7月12日 時事】
*******************

内容的には当然のことのようにも思えますが、“時の人”オバマ大統領の発言だけに、アフリカでの反響は大きかったとも報じられています。

****民主化求める声アフリカ席巻、オバマ大統領演説効果****
バラク・オバマ米大統領は訪問先のガーナで、「汚職で私腹を肥やす専制的な政治指導者」を非難したが、この言葉はアフリカ全土を揺るがし、13日にはナイジェリアからジンバブエまでの各国で、より良いガバナンス(統治)を求める声の大合唱となった。
オバマ大統領は11日にガーナの首都アクラを日帰りで訪問し、熱狂的な歓迎を受けた。大統領は演説で、人民に対し、自分たちの未来を託せる強い政府を求めるよう呼びかけた。

カメルーンのドゥアラ大学のGuy Parfait Songue教授(政治科学)は、「(オバマ氏の演説は)アフリカを5世紀にわたり麻痺させてきた機能不全に対する宣戦布告のようだった」と振り返る。(中略)
ガーナの民主的ガバナンスを求める団体の代表、Emmanuel Akwetey氏は、「彼は、アフリカとのパートナーシップを相互尊重に基づいて築くという重要で前例のない宣言を行った。この考え方のもとでは、アフリカ各国は自分たちの運命を自分たちの手で築くことが求められる」と話す。「オバマは、アフリカに対し、発展途上を植民地主義のせいにすることなく、発展途上という事実を認めるよう求めた。オバマはアフリカに挑戦状を叩きつけたのであり、われわれはこれを真剣に受け止めなければならない」 
(ジンバブエで)連立政権に参加する野党・民主変革運動(MDC)のNelson Chamisam広報担当は、「人々にインスピレーションを与えるメッセージだ。民主主義の実現に向けて闘っているすべての人々、アフリカが発展と目標を持った大陸であることを望むすべての人々、特に若い世代にとって、大いに励まされる」と話す。(後略)【7月14日 AFP】
************************

同じ内容をフランス・サルコジ大統領あたりが語れば、植民地支配の歴史を糊塗しているとの批判の大合唱かも。
イスラム世界に対するカイロ演説にしても、アフリカ世界に対するガーナ演説にしても、その言葉が人々の耳目を集め、その意図が素直に受け入れられるオバマ大統領の存在というのは、やはり余人を持って代え難いたいところがあります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン  ラフサンジャニ師演説 政権批判するも、「体制安泰」優先

2009-07-18 22:15:12 | 国際情勢

(“flickr”より By paida70
http://www.flickr.com/photos/42386632@N00/3700270524/

【ラフサンジャニ師 金曜礼拝演説】
イランにおける政治的対立は、不正選挙を糾弾し政治的自由を求める改革派ムサビ元首相を支持する人々と保守強硬派のアフマディネジャド大統領率いる現体制の衝突というだけでなく、アフマディネジャド大統領によって既得権益を奪われつつある従来型の保守層とアフマディネジャド大統領を中心とする革命防衛隊グループのイラン指導部内部における権力闘争の側面もあることは、6月18日ブログ「イラン 改革派抗議行動と連動する指導層内部の権力闘争」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090618)でも取り上げたところです。

従来型保守層の代表が、最高指導者の任免権を持つ専門家会議議長でもある保守穏健派の実力者ラフサンジャニ師(元大統領)です。
改革派ムサビ元首相の“黒幕”的存在のラフサンジャニ師に対し、アフマディネジャド大統領は選挙戦終盤で、「分を越えた分け前を取った者は、罰せられなければならない」と、その金権体質を厳しく糾弾して一般大衆の支持獲得に出ました。

そのラフサンジャニ師が17日テヘラン大学での金曜礼拝で演説、大統領選後始めて民衆の前に姿を見せました。

****ラフサンジャニ元大統領「選挙結果に疑念」 イラン*****
大統領選後の混乱が尾を引くイランで、政界の有力者であるラフサンジャニ元大統領が17日、テヘラン大学での金曜集団礼拝で導師として演説し、「多くの国民が選挙結果に疑念を抱いている」と述べた。再選は確定したとして異論を認めないアフマディネジャド政権に対し、国民の信頼を取り戻すよう努力を求めた形だが、現状を打破する解決策は提示できなかった。
選挙後、ラフサンジャニ師が導師を務めるのは初めて。激しく対立する保守・改革両派を仲介しうる有力者として発言が注目されていた。

ラフサンジャニ師は演説で、選挙後の混乱が「国民の信頼を損ねた」と指摘。「何らかの策が講じられるべきだ」と、アフマディネジャド政権に挑戦的な姿勢を見せた。また、選挙の不正を訴える抗議デモや集会の参加者と改革派指導者が大量に拘束された事態について、「彼らは釈放されるべきだ」と政権を批判。メディアへの規制も緩和するよう求めた。
ラフサンジャニ師は大統領選では改革派のムサビ元首相を支持し、保守派のアフマディネジャド氏とは政敵、最高指導者ハメネイ師とはライバル関係にあるが、最高評議会の議長など要職を務め、体制の安定を優先する考えから仲介役としての立場も期待されていた。
しかし、「我々は同じ家族の一員だ。今日の金曜礼拝が危機的な状況を乗り切るきっかけになってほしい」と国民融和を訴えるにとどまった。
 
この日の礼拝にはムサビ元首相も出席。事前の予告があったため数万人の支持者が会場周辺に押し寄せ、「アフマディネジャドは辞めろ」などと気勢を上げた。テヘラン大学の門の前にも数千人が集結したが、ロイター通信によると、警察が排除のために催涙弾を撃ち、少なくとも15人が拘束された。
また、同じ改革派のキャルビ元国会議長が礼拝に向かう途中、志願民兵バシジのグループに殴られたという。元議長の政党「国民の信頼」がウェブサイトで明らかにした。 【7月17日 朝日】
***********************

【「体制の安泰」を最優先】
このラフサンジャニ師の金曜礼拝については、“選挙結果に疑念”“拘束された改革派指導者は釈放されるべき”という政権批判の文脈で報じられているものが多いようですが、現実主義者のラフサンジャニ師がここにきて金曜礼拝という公的な場に出てきたこと自体、何らかの政権側との合意があってのことであり、混乱収束という形で今後のイラン政治への影響力を維持しようという狙いではないか・・・と勘ぐられます。

その意味で、下記の毎日記事が真相に近いような気がします。

****イラン:ラフサンジャニ元大統領「体制の危機」と認識示す*****
イランのイスラム体制の重鎮で、6月の大統領選で改革派ムサビ元首相を支援したとされる保守穏健派のラフサンジャニ元大統領は17日、テヘラン大学での金曜礼拝で演説し、選挙後の混乱について「体制の危機」との認識を示した。その上で「我々はみな家族であり、結束を取り戻す必要がある」と述べ、国民融和を訴えた。
ムサビ氏は「選挙に重大な不正があった」と保守強硬派のアフマディネジャド大統領の再選を認めず、抗議を続けている。これに対し、沈黙を守っていたラフサンジャニ氏が選挙後初めて「体制の安泰」を最優先する立場を鮮明にした。

ラフサンジャニ氏は「国民の多くが(選挙結果について)疑念を抱いている。疑念を晴らすために何かをする必要がある」と改革派の抗議に理解を示した。一方、政権に対し「国民を投獄して敵を喜ばせてはいけない」と数百人に上る拘束中の改革派要人やジャーナリストの即時釈放を要求。メディアへの規制解除も求めた。
ラフサンジャニ氏は、政敵であるアフマディネジャド氏の「再選阻止」を目指し、「黒衣」としてムサビ氏を支えてきたとみられているが、体制や国民の間の亀裂が深まる中、現実主義者として調停に動いた形だ。
だが、ムサビ氏ら改革派勢力が納得する可能性は低く、今後の情勢はなお不透明だ。(中略)

テヘランの金曜礼拝は、政教一致の体制要人が輪番で政治と宗教を語り、政治の方向性を示す最重要の場でもある。ラフサンジャニ氏は選挙後、順番を飛ばされていた。今回、大統領を支持する最高指導者ハメネイ師との間で何らかの合意に達した可能性がある。
演説は国営テレビではなく、ラジオが中継した。体制批判など「不測の展開」を恐れたとみられる。【7月17日 毎日】
***************

なお、ムサビ元首相の出席については、“政権側は出席を阻むこともできたが、建国の父である故ホメイニ師の最側近だったムサビ氏らを閉め出すことは世論の反発を買うと判断した模様だ。ムサビ氏陣営はこうした点を見越して、金曜礼拝を政治的アピールの場に変える意図があったとみられる。”【7月18日 朝日】とのこと。

政権側の締め付けが続くなかで、数万人とも十数万人とも言われる人々が集まったことは、事態に対する国民の不満が根強いことを窺わせます。
ただ、体制の枠組みを維持しながらの変革というのは、結局体制内の権力者の思惑で丸め込まれてしまう・・・そんな結果になりがちです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  中絶容認医師殺害 オバマ大統領誕生による保守化への逆バネ

2009-07-17 22:31:35 | 世相

中絶反対派(反選択派(アンチチョイス)、生命派(プロライフ)とも呼ばれます)による、大統領選挙当時のオバマ候補への抗議行動 “flickr”より By IowaPolitics.com
http://www.flickr.com/photos/iowapolitics/2803756421/)

【日本 出生100に対する中絶数の比率は25.3件】
数年前、ハードボイルド小説「守護者(キーパー)」(グレッグ・レッカ著)という文庫本を何気なく買ったことがあります。
主人公はプロのボディーガードで、中絶反対派の激しい抗議、脅迫に曝される中絶手術を行うクリニックの女医とダウン症の娘のガードを依頼されたことから事件が展開していきます。

日本ではなんとなく中絶行為を現実的に受け入れている風潮があり(もちろん、それぞれの立場からの真摯な議論はありますが)、そうした社会の価値観からすると、中絶を胎児の殺人とするカトリック原理主義の過激な、あるいは狂信的な暴力行為の描写に馴染めないものを感じて、冒頭部だけで読むのを止めてそのまま本棚にしまっています。

日本の現状をウィキペディアからひろうと、以下のとおりです。
“日本国において中絶は、一般的には犯罪行為である。自分や他人の中絶を行った者は、刑法の第二十九章(堕胎の罪)にある、いずれかの条の罪を犯した者として訴追され、懲役刑に処せられる可能性がある。一方、母体保護法(1996年以前の法律名は優生保護法)は、「母体の健康を著しく害するおそれのある」場合等に、特別な医師(指定医師)が本人等の同意を得た上で「中絶を行うことができる」と定めており、この規定に則った中絶は、刑法の正当行為規定の適用をうけて、罰されることは無い。
後述するように、20世紀中盤以降の日本国においては、母体保護法(1996年以前の法律名は優生保護法)が幅広く適用され、多数の中絶が公に行われてきた。厚生労働省の統計によれば、2006年に日本で行われた人工妊娠中絶は276,352件で、15~49歳女子人口に対する比率は0.99%、出生100に対する中絶数の比率は25.3件である。また、法的にグレーな中絶も、公然の秘密として無数に行われているとされる。”【ウィキペディア】

中絶をめぐっては、中絶を回避する方策としての“赤ちゃん斡旋事件”とか“赤ちゃんポスト”が世間で論議されることもあります。
また、出生前診断で判明した先天的な異常を持つ胎児を中絶することの是非、不妊治療の副作用として増加している多胎妊娠において、一部の胎児のみを人工的に中絶する「減数手術」の是非などの問題もあります。

【アメリカ ティラー医師殺害事件】
アメリカでは、激しい中絶論議が続いていますが、議論が過激化していく契機となったのが1973年に連邦最高裁が下した中絶容認判決で、“ロー判決”と呼ばれるものです。
「われわれは既婚者であろうとなかろうと、産む産まないというような基本的な個人の問題に政府から不当な干渉を受けないという個人の権利を認める。その権利には妊娠を継続するか否かを決定する女性の権利が必然的に含まれる。」

そのアメリカ・中西部カンザス州ウィチタで5月末、後期妊娠の中絶手術を行っていたジョージ・ティラー医師(67)が射殺された事件が波紋を広げています。
カンザス州では妊娠第3期(28週以降)の中絶について、実施しないと「母体に回復できない障害を残す」などの場合に限り認めています。ティラー医師も妊娠後期の中絶を手掛け、全米から死が避けられない胎児を宿した母親などが医師を頼って訪れていました。

“「要塞クリニック」といわれる仕事場は、道路側に窓がなく、駐車場側の窓ガラスは防弾ガラスで、防犯カメラも装備。86年に入り口に爆弾が仕掛けられ、93年には中絶反対派の女性に医師が襲撃され両腕を負傷した。
中絶反対派は毎日、クリニックの駐車場入り口で患者に中絶しないよう説得。99年には別の反対グループが隣にクリニックを開設、死が避けられない胎児のための周産期ホスピスを始め、米国を二分する中絶論議の最前線となってきた。医師射殺事件後、遺族はクリニックを閉鎖した。”【7月16日 毎日】
小説「守護者(キーパー)」で描かれていた、日本では馴染みがない世界でもあります。

ティラー医師を殺害した犯人は、中絶反対の活動をしていた運送会社員で、「社会の考えでは有罪でも、神の前では許される」「これで彼(ティラー医師)はもう後期中絶手術をできなくなる」と語っています。
ティラー医師の葬儀には、中絶反対派は「神が殺人者を送った」と書いたプラカードを掲げで集まったそうです。

「変革」を掲げ、人工妊娠中絶を基本的に容認するオバマ米大統領は、事件発生から数時間後、「いかに意見の相違が深くとも、凶悪な暴力行為では解決できない」と、怒りを込めた声明を発表しました。
ホルダー司法長官も、即座に全米の主要な中絶関連施設の警備強化を連邦捜査官に指示し、オバマ政権の異例ともいえる対応の素早さは、政権にとって事件の衝撃がいかに大きいかを物語っているとも報じられています。
「史上最も強く中絶を支持する大統領」とも言われる中絶容認派のオバマ大統領誕生への反発が暴力の連鎖を生みかねないとの警戒感があるようです。【7月16日 毎日】

【オバマ大統領誕生 保守化への逆バネ】
オバマ大統領も“リベラル”な側面と、キリスト教的価値観を重視する保守的な側面の二面性があるといわれています。
アメリカ社会は、ブッシュ前大統領と比較するとリベラルな面が取り沙汰されるオバマ大統領誕生への反動・危機感から、むしろ保守化の傾向が勢いを増しているとも。

****米国:民主でも進む保守化 オバマ大統領にも二面性「中道右派の米国」*****
オバマ米大統領の今年1月の就任以来、人工妊娠中絶や同性婚など社会問題を巡る論争が活発化、保守派とリベラル派の断絶を浮き彫りにしている。8年ぶりの民主党大統領の誕生で「リベラル派」が勢いづいていることが背景にある。だが、米社会の保守派は根強く、リベラル派が依然として「弱小集団」であることに変わりはない。むしろ民主党の保守化現象が浮き立っている。

オバマ氏が中絶や同性愛者を基本的に擁護するのは、女性の選択権を尊重し、異性カップルとの権利の平等を図ろうという価値観からだ。ただ、中絶や同性婚そのものには道徳的、宗教的観点から否定的だ。
オバマ氏は就任直後、海外での中絶を支援する非政府組織(NGO)への助成再開を表明したが、それはアフリカなどでのエイズウイルス(HIV)感染拡大阻止が狙いだった。5月のカトリック系大学卒業式では「望まない妊娠をした女性を支援する」と述べつつ、中絶に歯止めをかけたいとも訴えた。
同性婚問題では、異性同士の夫婦と同等の権利を同性愛カップルに付与する「市民婚」制度を支持。同性婚を禁じる合衆国憲法修正に反対する一方、同性婚推進にも反対の姿勢を明確にしている。

オバマ氏は過去の法案への投票分析から「最もリベラルな上院議員」(ナショナル・ジャーナル誌)とされるが、同性婚反対については「私はキリスト教徒だ」と宗教上の理由を挙げるなど、保守的な面も併せ持つ。
こうした「二面性」を持つオバマ氏は、中絶や同性婚を頑強に支持するリベラル派の立場とは異なる。これは保守派を主流とする伝統的な米社会の実態と無縁ではないとみられている。
米世論調査機関ハリスの調査(3月発表)によると、08年の民主党支持層は36%で、共和党支持層の26%を84年以来、24年ぶりに2ケタの差をつけて上回った。しかし、自身を保守派と考える人は37%で、リベラル派18%の約2倍だった。
同社の調査では過去40年、保守派は4割前後、リベラル派は2割前後の傾向が続いており、「米国は中道右派の社会」(ブッシュ前政権のカール・ローブ次席補佐官)との見方を裏付けている。
また、ギャラップ社の調査(6月発表)によると、共和党支持層の73%が保守派だったのに対し、民主党支持層のリベラル派は38%にとどまり、穏健派40%、保守派22%と分散した。同社は「共和、民主とも08年に比べわずかだが保守化が進んでいる」と分析している。
ブッシュ前共和党政権でスピーチライターを務めたピーター・ウェナー氏は保守系ブログに「08年大統領選はオバマ氏の個性が導いた勝利であり、(リベラル派の台頭による)イデオロギーの転換点ではなかった」と指摘した。
(中略)
ギャラップ社の5月の調査では、中絶反対派は51%で初めて5割を超え、中絶容認派(42%)を抜いた。中絶容認のオバマ氏への反動とも言える。(中略)
(同性婚についても)世論の大勢は同性婚反対派だ。ピューリサーチによると、マサチューセッツ州最高裁判決後の04年には反対派は63%で、容認派の30%の2倍超を占めた。ブッシュ政権末期の08年に反対派は49%まで低下するが、オバマ政権発足後は54%に再び上昇した。ここでもオバマ政権への逆バネが表面化した。【7月16日 毎日】
*************************

中道右派の保守的な価値観がアメリカ社会に根強く、リベラルな面もあるオバマ大統領誕生で、むしろ保守化への逆バネが起きている・・・という構図のようです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天然ガスパイプライン「ナブッコ計画」通貨国5カ国調印 供給国は未だ・・・。

2009-07-16 22:04:51 | 国際情勢

(ロシアが進めるバルト海経由でドイツへ直結する「ノルド・ストリーム」計画に参加するEuropipe(独)のパイプのようです。“flickr”より By morak faxe
http://www.flickr.com/photos/39367033@N00/3542346956/)

【ナブッコ・パイプライン】
液化天然ガスを主としている日本ではあまり馴染みがない天然ガスのパイプラインですが、供給国・通過国・消費国など多くの国々の利害が絡むため、国際関係・パワーゲームの縮図とも言えます。

最近話題となったのは「ナブッコ・パイプライン」。
天然ガスのロシア依存から脱却しようとするEUとアメリカが中心になって推進する輸送ルート計画で、中央アジア、中東からロシアを迂回し、欧州にガスを運ぼうというものです。
計画では、トルコからブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを経てオーストリアまで全長3300キロを結び、10年着工で総工費は79億ユーロ(約1兆130億円)、14年完成を目指しています。ロシアに25%を依存する欧州の天然ガス消費の5%を賄うとされています。

****天然ガス「ナブッコ計画」5カ国調印 産出国取り込み激化*****
カスピ海周辺の天然ガスを欧州に送る「ナブッコ・パイプライン」計画の政府間通過協定が13日、トルコの首都アンカラで調印された。ロシア領を通過しない同パイプラインは、欧州のロシアへのガス依存度を低減させるのが狙いだが、ロシアも対抗する構想を進めており、ガス産出国の取り込み合戦が激化しそうだ。

資源外交を強めるロシアは06年と今年1月、ウクライナへの天然ガス供給を停止し、欧州もその影響を受けたことがあり、ナブッコ計画は欧州のエネルギー安全保障を高めると期待されている。
計画にはトルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア、ドイツが参加。13日は、ドイツを除くパイプライン通過国5カ国が協定に調印。欧州連合(EU)からバローゾ欧州委員長、計画を後押しする米政府のカスピ海エネルギー問題担当特別顧問らも出席した。

供給国としてアゼルバイジャン、トルクメニスタン、イラク、イランなどが挙がっているものの、具体的な取り決めには至っておらず、完成までに十分な供給量を確保できるかが最大の課題だ。ガス埋蔵量世界2位のイランの参加には、米国が強く反対している。
ナブッコ計画は協定内容をめぐり合意が難航、供給国側に将来性への疑念を抱かせた。約150億立法メートルを供給する予定のアゼルバイジャンが先月末、ロシアへの売却にも合意、ナブッコ計画推進国の懸念を呼んだ。
ロシアはナブッコ計画と直接、競合する「南ルート」を計画。黒海の海底を通り、ブルガリアからオーストリアとイタリアをつなぐもので、すでに通過国一部と協定を締結している。【7月14日 産経】
*************************

【てんびん】
パイプライン通過国5カ国が協定に調印したことは“一歩前進”と言えます。
「ナブッコ・パイプライン」に期待する欧州委員会のバローゾ委員長は「このパイプラインは今や不可能ではなく不可避となった」と述べています。【7月14日 ロイター】

ただ、問題は記事にもあるように、肝心の供給国が未だ確保できていないことです。
供給源としてアゼルバイジャンが有力視されていますが、同国は既に生産量の大部分をトルコに供給しており、また、2010年からロシアにガスを輸出する合意に調印したばかりで、欧州とロシアをてんびんにかけていると言われています。【7月13日 毎日】

“てんびんにかける”ということでは、ロシアとの関係が強かったトルクメニスタンも同様で、3月にはロシアへの供給につながるトルクメン国内の東西パイプラインの建設に関する合意書への署名を延期、4月には「ナブッコ」に参加しているドイツのエネルギー大手RWEとの間で、カスピ海の同国沿岸部でガスの試掘と開発に関する覚書を締結しています。
ロシアとの関係は、天然ガスの購入価格交渉のもつれ、パイプラインの爆発事故もあってスムーズではないようですが、当然ロシア・プーチン首相も巻き返しを図っています。
更に、資源外交を進める中国も絡んで、トルクメニスタンではロシア・欧米・中国の三つ巴の争いが展開されています。【4月19日 毎日より】

【クルド問題も】
こうした事態に、オーストリアとハンガリー、アラブ首長国連邦の企業連合はイラクのクルド自治政府と80億ドル規模のガス供給合意を締結。このガスをトルコ経由でナブッコに供給することで不足分を補おうとしました。
しかし、これにはイラク中央政府とトルコが反対しています。
クルド人がエネルギー収入を得れば、ますます分離独立の機運が高まるという懸念からです。
イラク政府は6月、クルド自治政府が独自のエネルギー合意を結ぶのは憲法違反だとして、ナブッコとの合意の無効を宣言。代わりにクルド人自治区外のガス田からの供給を提案していますが、その場合は供給開始が早くても14年以降になることが明らかになっています。【6月30日 Newsweek】

また、トルコはこれまでEU加盟交渉が進展しなければナブッコに協力しないとけん制してきた経緯があり、今後もEUに圧力をかけるカードとしてナブッコを使うとみられています。【7月13日 毎日】

【自信を見せるプーチン首相】
問題山積ですが、その背景にあるのが、ロシアが進める競合計画の存在です。
ロシアは「ナブッコ・パイプライン」に対抗し、黒海経由で欧州に天然ガスを運ぶパイプライン「サウス・ストリーム」計画を推進しています。トラブル続きのウクライナをはずして供給を安定化したいのはロシアも同様です。

****天然ガス輸送 南ルート供給力増強 露、欧州シェア拡大に自信****
ロシアとイタリアは15日、黒海海底を経由して南・中欧に天然ガスを供給するパイプライン「南ルート」について、供給能力を当初計画の2倍にあたる年間630億立方メートルに増強する合意文書に署名した。欧州のガス需要の25%をまかなうロシアは、南ルートの建設によりトラブル続きのウクライナを回避しつつ、欧州でのシェア拡大を狙う。
署名はロシア南部ソチで露国営ガスプロムと伊石油大手ENIが行い、プーチン露首相とベルルスコーニ伊首相が立ち会った。南ルートは総工費250億ドル、2015年までの供給開始を見込む。
AP通信によると、欧州のガス需要は07年の5800億立方メートルから30年には7500億立方メートルへと約3割増加し、将来のガス輸入増は避けられない。
ガスの対露依存からの脱却を目指す欧州連合(EU)や米国は、カスピ海からガスを運ぶパイプライン「ナブッコ」の建設を目指しているが、供給源を確保できていないのが現状だ。
プーチン首相は、ナブッコについて「別の計画が実現できる確証があるのなら、私たちは止めも邪魔もしない」と話し、南ルートの天然ガス供給能力に自信をみせた。【5月17日 産経】
***********************

“私たちは止めも邪魔もしない”(プーチン首相)とのことですが、ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムは6月末、ナブッコがガス供給源と想定しているアゼルバイジャンから優先的にガスを輸入する権利を得るなど、「ナブッコを妨害する試み」も見られます。7月1日にはトルコにも参加を呼び掛けています。

ただ、“ガスプロムが世界的な経済危機で大幅な収益減に見舞われ、資金難から着工を疑問視する見方が浮上。同社内では、バルト海経由でドイツへ直結する「ノルド・ストリーム」の建設を優先する動きもあり、「サウス」計画は不透明感を増している。”【7月13日 毎日】とのことで、こちらも順調ではないようです。

【イランは未だ排除】
ロシア依存からの脱却を目指す「ナブッコ・パイプライン」ですが、供給国が確保できていないこともあって、ロシアからの供給も受け入れるとの話も出ています。

****露「ナブッコ・パイプライン」への天然ガス供給は可能=米高官****
米政府のカスピ海エネルギー問題特別アドバイザーのリチャード・モーニングスター氏は12日、米国主導で建設が計画されている、カスピ海周辺国の天然ガスをロシアの領土を迂回して欧州に運ぶ「ナブッコ・パイプライン」に、ロシアが天然ガスを供給することは可能だと述べた。
一方、イランの同パイプラインへの天然ガス供給には反対するとして、これまで米政府が示してきた立場を強調した。(中略) モーニングスター氏は報道各社の合同インタビューに応え「ナブッコ・パイプラインで輸送される天然ガスの50%は、全ての供給国に対して開放されると理解している。ロシアもこの50%分の枠内で供給することができる」と述べた。
********************

イランの天然ガス埋蔵量は世界第2位で、全世界の埋蔵量の16%を占めると推定されていますが、イランに制裁を続けるアメリカの姿勢はまだこの問題に関しては変化していません。

そのイランはパキスタンと天然ガスのパイプライン建設計画に合意し、すでに一部が着工されています。エネルギーの安定供給の確保に腐心するパキスタンに、国連の経済制裁の下で外資不足にあえぐイランの利害が一致したものです。
このパイプライン計画はもともと「イラン・パキスタン・インド(IPI)ガスパイプライン計画」と呼ばれ、インドも参画する予定でしたが、イランを利することを嫌うアメリカの圧力でインドが離脱した経緯があります。
オバマ大統領はイランとの対話路線を打ち出していますが、イラン大統領選挙後の混乱をめぐってイラン・アメリカが対立すれば、パキスタンへの圧力もかかることも想定されます。【7月1日 産経より】

こうして眺めると、やはりパイプラインは国際関係の縮図です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パキスタン  早すぎる避難民帰還

2009-07-15 20:47:42 | 国際情勢

(場所は定かではありませんが、スワト地区からの難民を受け入れる難民キャンプのひとつ“Amam”
キャンプの名前は、このキャンプではじめて生まれた赤ちゃんの名前からつけられたものだとか。
その赤ちゃんの名前“Amam”は“平和”の意味だそうです。
“flickr”より By Al Jazeera English
http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/3558500711/in/set-72157618622494307/

今月8日、パキスタンの北西部部族地域の南ワジリスタン地区で、米軍の無人機によるとみられる爆撃が数回あり、タリバンの戦闘員と見られる最大48人が死亡したとの報道がありました。
米軍は無人機による爆撃を認めていませんが、同地区に無人機を配備しているのは米軍とCIAのみで、米軍によるメフスード司令官率いるタリバンのパキスタン・グループを標的にした攻撃と見られています。【7月9日 AFPより】

報道された内容自体は、政府によるイスラム武装勢力の掃討作戦が実施されているパキスタンでは珍しいものではありませんが、意外だったのは、その数日後に目にした“避難民の帰還が始まった“という記事でした。
米軍無人機による攻撃などが続行されている状況で、難民帰還が可能になったのでしょうか?

****パキスタンで避難民の帰還開始 北西辺境州200万人の一部*****
パキスタン政府が4月から続けているイスラム武装勢力の掃討作戦で、作戦がほぼ終了した北西辺境州スワト地区周辺で発生した国内避難民約200万人の一部が13日、帰還を始めた。約2万3千人が身を寄せた同州ナウシェラのジャロザイキャンプでは、戦闘を逃れてきた人々が、わずかな荷物とともに政府準備のバスに分乗。わが家に向け出発した。【7月13日 共同】
**************************

パキスタン難民の支援にあたっている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告では
“パキスタン政府は7月9日に、段階的な避難民の帰還プログラムを発表しました。UNHCRとパキスタン政府、他団体が共同で制定した枠組みに沿って、キャンプで生活する避難民から自主的に帰還する機会が与えられていく予定です。戦闘があった場所の被害は大きく、地雷や不発弾が残っているなど安全上の懸念があるため、各機関が帰還の条件を確認すべく、共同調査を行います。”ということですが・・・。
(避難民の大多数はホストファミリーの元や、学校の建物や借家に身を寄せていますが、26万人はUNHCRが支援する21カ所以上のキャンプで生活しているとのことです。)

今回の“早すぎる”難民帰還については、やはり事情があるようです。
避難民の帰還を「掃討成功の象徴」と位置づけ、戦闘の長期化でくすぶり始めた世論の政府非難をかわそうとするパキスタン政府の意図があるとか。

****パキスタン:破壊の街へ避難民強制帰還 掃討成功アピール****
パキスタン政府が、武装勢力掃討作戦から逃れた北西辺境州スワート地区の避難民に支給する「生活再建支援金」を増額するなど、早期の帰還を強制的な手法で進めている。避難民の帰還を「掃討成功の象徴」と位置づけ、戦闘の長期化でくすぶり始めた世論の政府非難をかわすためだ。しかし、戦闘による治安悪化や生活基盤の破壊は深刻で、多くの避難民は帰還をためらい、生活の再建に不安感を深めている。

13日に帰還が始まった北西辺境州スワート地区。帰還場所は最大都市ミンゴラなど地区南部に限定されている。ミンゴラに戻ったホテル経営のザルマイさん(35)は、地元記者に「家族が戻れるか下見に来た。帰郷はうれしいが、武装勢力は逃げただけで、問題は何も解決していない」と語り、破壊された街並みを見つめた。
戦闘避難民250万人のうち、同地区出身者は最多の150万人。同地区への早期帰還が、掃討作戦の成功を印象付けると考えた政府は今回の帰還に当たり、約束した支援金2万5000ルピー(約3万円)を「3倍に増やす」と発表。帰還に喜ぶ避難民のニュースを内外に発信してもらおうと、帰還専用バスの準備とメディアの取材支援を行った。
ところが、13日の帰還者は予想を大幅に下回る5000人弱で、その多くが下見目的。地区内には政府軍兵士が展開して武装勢力の攻撃を防ぐ態勢をとっているが、水道や電気など社会資本は復旧しておらず、多くの避難民には自宅が住める状態かどうかも分かっていないからだ。
14日にミンゴラに到着した40歳代の男性運転手は電話取材に、「スワートは観光の町。掃討作戦が国内で続いている限り観光客は戻らない。わずかな支援金では生活の再建は無理だ」と憤った。

掃討作戦自体の批判は控えている地元メディアも、政府の姿勢には疑問を投げかける報道を始めている。14日の有力英字紙「ジ・ニュース」は、武装勢力の抵抗が続いていると指摘し「帰還を掃討作戦の勝利として祝うことはやめた方がいい」とけん制。国連も「帰還は避難民の自由意思で進める必要がある」と、政府の強制的な態度に警告している。
掃討作戦は現在、アフガニスタン国境の部族地域や北西辺境州の西部や南部で激しさを増しており、避難民は増え続けている。【7月14日 毎日】
*******************************

政府による掃討作戦は、アフガニスタン・パキスタン地域の安定化のためにはやむを得ないところではありますが、武装勢力と政府軍の衝突で家を追われ、今度は、生活基盤が回復していない、まだ危険が残る家に“作戦成功のアピール”のために送り込まれる・・・ということでは、難民は踏んだり蹴ったりです。
避難民の安全の確保と生活の保障は最大に尊重される必要があります。

7月2日ブログで、反米イスラム武装勢力に「米国の手先」とレッテル貼ることで、反米感情が強い国民の支持を取り付けようとするパキスタン政府の情報戦略も取り上げましたが、国民の根強い反米感情、200万人にも及ぶ避難民、国内でのテロの増加という現実のなかで、パキスタン政府の苦しい“綱渡り的な”対応が続いています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インド・ネパール  カースト制克服への取組み 皆番号制と給付金

2009-07-14 21:24:58 | 世相

(インドのある村 最下層のダリットの村人はこの水道しか使うことを許されておらず、村のメインエリアに入ることも許されていません。彼等が入ってくると、上位階層の空気を汚染するから・・・ということです。
“flickr”より By Mira (on the wall)
http://www.flickr.com/photos/mmj171188/228853651/)

【カースト制】
人間は自分と他者を区別したがる生き物のようです。
“区別”でとどまるうちは一種のアイデンティティーの表れでもありますが、往々にして、そこに優劣の意味づけがなされ、“差別”につながりがちです。

社会的身分制としてのそうした差別は、日本では同和問題があります。
地方では出身地や姓で特定されやすいこともあって、なかなか消えない根深い問題です。
平等を唱えることは簡単ですし、普段の当たり障りのないつきあいも問題ないとしても、例えば結婚といったことになると、狭い地域社会では乗り越えるには相当のエネルギーを要する問題になります。

社会的身分制について世界的にみると、インドのカースト制があります。
カースト制とは何か?ということに関しては、万巻の書があるところです。
何も知らない私などがとやかく言うつもりは毛頭ありませんが、話の行きがかり上【ウィキペディア】からおおよそを拾うと、バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの4つの身分に分けられるヴァルナと、ヒンドゥーの日常生活において現実的に独自の機能を果たす排他的な職業・地縁・血縁的社会集団、階層を示すジャーティの、二つの概念から構成される身分制です。

4ヴァルナの区分が社会の大枠を示したものであるのに対し、ジャーティの区分はたとえば「壺つくりのジャーティ」、「清掃のジャーティ」、「羊飼いのジャーティ」というように、特定の伝統的な職業や内婚集団によってなされる場合が多く、その数はインド全体で2,000とも3,000ともいわれています。
ジャーティとヴァルナの間には、内婚、職業との結合、上下貴賤の関係など共通する性格も認められ、不可触民のジャーティを除いたほとんどすべてのジャーティは同時に4ヴァルナのいずれかに帰属しています。

カースト制は1950年に制定されたインド憲法で全面禁止が明記されていますが、実際には人種差別的にインド社会に深く根付いています
そのことを示すものとして、同じく【ウィキペディア】からふたつの話を抜粋します。

“カーストが成立した時期には存在しなかった職業などはカーストの影響を受けないと言われる。IT関連産業などは、当然カースト成立時期には存在しなかったので、カーストの影響を受けない。インドでIT関連事業が急速に成長しているのは、カーストを忌避した人々がこの業界に集まってきているからと言われている。しかし、高等教育を受けることが出来ない下層カースト出身者は高度な仕事が出来ない上に、仮に優秀であったとしても上層カースト出身者で占める幹部が下層カースト出身者を重要なポストに抜擢することはなく、表面的にはカーストの影響を受けないIT関連事業においてもカーストの壁が存在するのが現状である”

“保守的な農村地帯であるパンジャブ州では、国会議員選挙に、大地主と、カースト制度廃止運動家が立候補した場合、大地主が勝ってしまうという。現世で(上位カーストである)大地主に奉仕すれば、来世ではいいカーストに生まれ変われると信じられているからである。”

【インド 皆番号制】
こういった社会的身分制度の桎梏から抜け出すのは容易ではありませんが、インド政府も全く無策で手をこまねいている訳でもないようです。

****インド:11億人皆番号制を検討、身分差別根絶の切り札に****
情報技術(IT)大国のインドで、全国民11億人超にそれぞれ異なる16けたの番号を与える「国民皆番号制」の導入を政府が検討していることがわかった。16けたと顔写真だけがプリントされ、名前の記載がないIC識別カードを国民全員に配布し、コンピューター管理する計画。カースト(身分)制度や信教を背景とした差別の根絶が狙い。何千年も続くあしき慣習を先進技術で解消できるか、成り行きが注目される。
連立政府を主導する「インド国民会議派」幹部が毎日新聞に明らかにした。10年度導入を目指し、シン首相の特別チームが調査に着手した。

インドでは所属するカーストが名字でほぼ分かってしまう。憲法は身分差別を禁じているが、地方ではまだ就職や結婚などを身分で差別する習慣は根強く、格差を固定化する要因となっている。
識別カードは各種申請、納税、社会保障受け取り、入学などあらゆる行政手続きを1枚で行うもので、運転免許などの情報もインプットされ、公の場で名前を示す必要が減る。さらに、カードを就職の際の履歴書代わりにするなど、民間のやり取りにも使うよう推奨する。
会議派はカードにより、▽カースト、出身地、信教などが他人に分かりづらくなり、入学や就職で個人の能力が重視される▽結婚も純粋に相手を選べる▽政府も横行する脱税、学歴詐称、偽造免許取得を防止できる▽テロ阻止に役立つ--を利点としてあげる。
会議派は5月に開票があった総選挙で「格差解消」を訴え、低カーストからも支持を集めて躍進した。カード導入を公約実現の「切り札」としている。

ただ「政府の個人情報管理には抵抗がある。登録情報変更を巡る新たな汚職も横行しそうだ」(インドマスコミ研究所のジョシー博士)と懐疑的な見方もある。しかし、会議派は「制度を変えることで差別する人の心も変えたい」と導入に意欲を見せている。
人口約13億人の中国も国民皆番号制を導入しているが、ICカード化は一部で試行されているだけだ。【7月11日 毎日】
***************************

記事にもあるように、先の総選挙で会議派は「格差解消」を訴え、低カーストからも支持を集めて躍進しました。
これは、ダリット(4ヴァルナ外の不可触民)から立候補して、選挙における台風の目になるのではないかと目された、インド最大州ウッタルプラデシュ州の首相を務めるマヤワティ氏の選挙戦を意識したものでもありました。

選挙戦では不発に終わった(それだけカーストの壁は厚く、ダリット以外からの支持を集められなかったということでもあるでしょう。)“ダリットの女王” マヤワティ氏ですが、自身の立像を州の予算で次々に建立しているのは公金の不当支出に当たるとして、支出の自粛や捜査を求める訴えが最高裁に起こされています。マヤワティ氏は州都ラクノーなどで、自身や党創設者の立像のほか、党のシンボルであるゾウの彫像60体などを相次ぎ設置。200億ルピー(約400億円)を無駄遣いした疑いが指摘されているとか。【7月11日 時事】
このくらい“あくが強い人物”でないと、ダリットから州首相へ上り詰めることなどできないのでしょう。

【ネパール 結婚給付金】
カースト制はインドだけでなくネパールにも存在します。
ネパールでは民族も絡んで更に複雑な様相もあるとか。
そんなネパールでも、カースト制を乗り越える取組みが行われています。

****異カースト間の結婚に給付金、差別対策で ネパール*****
ネパール新政権は13日、最下層民「ダリット」への差別対策として、異なるカースト間の新婚カップルに10万ルピー(約12万円)を給付すると発表した。
Surendra Pandey財務相は、この日の議会で、違うカースト出身者同士の結婚は現在でも冷ややかな目で見られており、そうしたカップルは10万ルピーを給付されることで、結婚生活を少しでも楽に始められるだろうと話した。
全人口の約13%を占めているダリットに対する差別は1960年代に法律で禁止されたが、「不可触民」の伝統は特に地方で根強く残っており、そうした場所ではダリットが寺院に入ることや共同の井戸から水を飲むことなどが禁止されている。
ダリットに属するある活動家は、今回の政策を歓迎する一方で、夫が10万ルピーを受け取ったあとで妻を捨てるといったような悪用を防ぐ努力も政府に求めている。
Pandey財務相は、ネパール社会では疎外されることの多い未亡人の救済策も発表した。妻が再婚という新婚カップルには5万ルピー(約6万円)の補助金を支給するという。【7月14日 AFP】
**********************

確かに、異なるカーストの未亡人と結婚すれば10万+5万ルピーもらえることになれば、カネ目当ての結婚詐欺まがいのことが横行しそうな気もします。
それはともかく、インドの皆番号制にしても、ネパールの給付金にしても、人の心のうちにある差別の感情を突き崩すことは容易ではありません。
ただ、だからといって放置していい問題でもなく、また、平等をお題目のように唱えるだけでも限界がありますので、実態面に切り込むあの手この手を試行錯誤することは有意義なことかと思います。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  軍閥勢力復権の動き オバマ大統領、ドスタム将軍の犯罪を調査指示

2009-07-13 21:54:34 | 国際情勢

(2003年10月 アフガニスタン北部の重要都市マザーリシャリーフ ドスタム将軍配下の北部同盟の兵士 
“flickr”より By Olivier_P
http://www.flickr.com/photos/78978789@N00/496065484/)

【ドスタム将軍】
アフガニスタン「北部同盟」のドスタム将軍と言うと、北部ウズベク人を基盤とした軍閥でソ連侵攻後のアフガニスタン内戦においてその勢力を誇示し、タリバン政権崩壊時にはアメリカと協力してその崩壊に一役買ったことで、よく耳にした名前です。

今はタリバンが非民主的・反人権として国際社会の“敵”になっていますが、タリバンと対峙したドスタム将軍など軍閥勢力も、その残忍さにおいては五十歩百歩だとの評価も聞きます。
彼等の協力でアメリカのアフガニスタン侵攻・タリバン政権崩壊は予想されたより短期で終了しましたが、そのことはタリバン政権崩壊に功績があった軍閥勢力がその影響力を新政権においても保持する結果ともなり、アフガニスタンの民主化にとって問題を残した形になっていました。

ドスタム将軍について言えば、新政権で国防次官、大統領顧問を歴任。
その後、2004年10月のアフガニスタン大統領選挙に立候補し、出身民族のウズベク人の支持を得て10%を得票し、第4位につけました。
2005年には、カルザイ大統領によって、新設の参謀総長に任命されています。【ウィキペディアより】
ついでに、彼の性格・行動について【ウイキペディア】では、“彼は非常に傲慢かつ残虐な性格で、権力のために他を顧みず、私利私欲のためだけに人々を苦しめると言われる。しかしながら、彼は世俗的な環境で育ち、宗教的に過激なところはなく、彼の統治下では、住民に対する締め付けは緩やかだったともされる。また、旧共産政権下で軍人、官僚だった者達にとっては、ドスタム以外に頼れる人物は存在しない。旧ソ連撤退後、ナジブラ政権崩壊に資するなど、打算的な一面がうかがえる。”と記述されています。

【軍閥復権】
そのドスタム将軍など軍閥勢力に対し、8月の大統領選挙を控えたカルザイ大統領がポストをばら撒く形で権力中枢への復帰を約束し、その支持を得ようとしていると報じられています。

****アフガニスタン大統領選、政権に復帰しつつある軍閥*****
アフガニスタンでは8月に大統領選挙が行われるが、有権者が戦争の深手を負った自国に対し民主主義への希望を失うなか、人権侵害行為で非難を集めたかつての軍閥が政界の中枢部に復帰しつつあると、人権団体などが指摘している。
ハミド・カルザイ大統領は2001年、米軍による攻撃開始直後に就任した当初は、ソ連のアフガニスタン侵攻やイスラム原理主義組織タリバンとの戦闘で勇名をはせた軍閥たちとは距離を置いていた。しかし今回、タリバン政権崩壊後2度目の大統領選に出馬するにあたり、カルザイ氏は軍閥の司令官らに要職への復帰を約束して支持をとりつけ、勝利をほぼ確実にしつつある。支持を表明した軍閥には、北部同盟のラシド・ドスタムなどが含まれている。

アフガニスタンの人権団体「アフガニスタン・ライツ・モニター」は今週、「軍閥や民兵の司令官や人権迫害者らが、金や権力、影響力に物を言わせて自分たちの将来的な利益を確保しようと、大統領選のプロセスをハイジャックしつつある」と警鐘を鳴らした。 
同団体によると、アブドラ・アブドラ元外相らほかの候補者たちもカルザイ大統領にならい、軍閥の支持をとりつけることに躍起になっているという。
ほかにも内閣や議会、各州の要職には、民兵の元司令官らがすでに少なからず存在している。(中略)

アフガニスタン専門家で国際治安支援部隊(ISAF)のアドバイザーでもあるサラ・チェイエス氏によると、アフガニスタン国民はこの(タリバン追放の)とき、有能かつ責任感をもって国民1人1人に奉仕する政府の樹立に国際社会が手を貸してくれるものと期待したが、それは見事に裏切られた。
というのも、外国の支援部隊はタリバンと国際テロ組織アルカイダとの関係を断つことだけに専念しているからだ。
その結果、政府の腐敗とも相まって、政権に不満をもつ国民の一部はタリバン寄りになってきているという。
アナリストのワヒード・ムジャ氏は、「アフガニスタンは多民族国家で、イデオロギーに基づいた強力で全国的な政党がないこともあり、軍閥につけ入るすきを与えている。こうした軍閥は通常ならば犯罪者扱いされるが、指導者を選ぶ選挙になると突如として、英雄に様変わりする」と指摘している。【7月2日 AFP】
***************************

【ドスタムの犯罪】
“こうした軍閥は通常ならば犯罪者扱いされるが”とありますが、ドスタム将軍の過去の戦争犯罪について、オバマ大統領が、これまでのブッシュ政権の隠蔽方針を改めて、調査を指示したとのことです。

****オバマ大統領、タリバン戦闘員の投降後大量死の調査命じる*****
バラク・オバマ米大統領がガーナ滞在中のインタビューで、2001年にアフガニスタンの旧勢力タリバンの戦闘員約2000人が、拘束された後に死亡した事件について、米国が支援していたアフガニスタン軍閥が関与したとの疑惑の調査をブッシュ前政権が阻止しようとした可能性を調べるよう、命じたことが明らかになった。
オバマ大統領は、米国時間13日に放映予定の米CNNのインタビューで、「この件に関して最近、適切な調査が行われていなかった可能性が示され関心をもった。安全保障担当チームに事実の収集を要請した。すべての事実が集まった時点で、どう対処するか決定を下すことになるだろう」と語った。

問題となっている事件は、2001年11月、米中央情報局(CIA)の支援を受けていた軍閥のラシド・ドスタム将軍配下の部隊が、北部クンドゥズでの戦闘後に拘束したタリバン戦闘員を、貨物コンテナに閉じこめて窒息死させたり、コンテナごと銃撃して殺害したとされるもの。殺害された人数は最大2000人とみられている。
米紙ニューヨーク・タイムズは前週10日、ブッシュ前政権の高官らがこの事件をめぐり、米連邦捜査局(FBI)、国務省、国防総省それぞれによる独自調査を阻止したと報じた。同報道によると、当時の米政府高官らは、事件に関与したドスタム将軍の部隊にCIAが資金提供していたため、事件をもみ消したがったとしている。(後略)【7月13日 AFP】
*************************

恐らく、オバマ政権の調査指示は、上述のようなアフガニスタン大統領選挙で進行しつつある軍閥勢力復権を念頭に置いたものでしょう。

【「良い統治」】
ガーナを訪問したオバマ米大統領は11日、首都アクラの議会で演説し、「民主主義の本質は、それぞれの国の国民が自身の運命を決定することだ」と強調、アフリカ諸国は腐敗根絶といった「良い統治」に自力で取り組む必要性があると訴えています。
大統領は演説の中で「法の原則が蛮行や贈収賄の支配に取って代わられているような社会には誰も住みたがらない。発展は『良い統治』次第だ」とし、各国の民主化や人権対策を踏まえて積極的に支援していく考えを示しています。 【7月12日 時事より】

「良い統治」、グッドガバナンスが社会の発展にとって重要であることは誰しも認めることでしょうが、それが多くの途上国で実現できずにいることも事実です。
アフガニスタンの現況、タリバンの復活・攻勢も、「良い統治」の欠如のあらわれでしょう。
このうえ、軍閥勢力が復権する事態ともなると、アメリカのアフガニスタン侵攻は一体どういう意味があったのだろうか・・・ということにもなります。

****警官の殺害1日平均6~10人、アフガニスタン*****
イスラム原理主義組織タリバンの反政府活動が激化しているアフガニスタンで、3月以降、同組織に殺害された警官は1日当たり6~10人に上っており、過去1週間だけで50人近くが殺されている。
また、ここ1週間のタリバンによる襲撃事件の数々では民間人69人が死亡し、その前の週と比較して死者は37%増えた。
首都カブール近郊のロガル州では9日、トラックに仕掛けられた爆発物により約20人が死亡、約半数は通学途中の生徒たちだった。同日には道路脇に仕掛けられた爆弾や自爆攻撃でも、同じく死者が出た。【7月12日 AFP】
**********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  カリフォルニアをどげんかせんといかん・・・のですが

2009-07-12 22:01:07 | 世相

(“flickr”より By mars_discovery_district
http://www.flickr.com/photos/marsdd/533599024/)

【見えない新芽】
イタリア・ラクイラで開催された主要国首脳会議(G8サミット)の首脳宣言では、世界経済の現状を「株式市場の回復など安定化の兆しが見られる」とする一方、「状況は依然として不確実であり、経済や金融の安定に大きなリスクが引き続き存在する」としています。

ひと頃のような急速な悪化は一段落したものの、出口はまだ見えない状況は日本を含め各国共通です。
米労働省統計局が7月2日に発表した統計によると、全米の6月の失業率は9.5%に達し、5月の9.4%から更に悪化しました。

“失業率がここまで悪化したのは、実に26年ぶりのことだ。最後に失業率が10%を超えたのは82~83年の不況のとき。当時のアメリカは、79年の石油危機と21.5%にまで上昇した高金利の後遺症に苦しみ、貯蓄貸付組合(S&L)の崩壊に直面していた。
失業率は再び大台に乗るのだろうか。何人かの楽観的なエコノミストは、金融回復の「グリーンシュート(新芽)」が出ていると指摘したがるが、多くの州の大地はむしろ枯れ果てているように見える。特にカリフォルニア州やオレゴン州、ネバダ州といった失業率が11%を超える西部の州では、新芽はまったく見えない。
それでも、現在の「大不況」は1930年前後の「大恐慌」ほどではない。当時は景気低迷が43カ月続き、平均失業率は25%近くに達した。今回の不況はこれほど長くは続かないだろうが、皮膚感覚では深刻だ。”【7月5日 Newsweek】

【住宅バブルがはじけて】
映画の都ハリウッドとハイテク企業の拠点シリコンバレーを抱え、流行の発信地でもあるカリフォルニア州では、住宅市場の低迷が長引き、失業率が5月には11.5%を記録するなど景気後退で税収が急激に減少、赤字が260億ドル(約2兆5000億円)に達する深刻な財政危機に陥っています。
住宅バブルとその崩壊は全米的なことですが、とりわけカリフォルニア州では不動産市場が過熱し、州の経済全体が不動産投機を中心に回っていたこともあって、住宅バブル崩壊の痛手も大きかったようです。
そうしたなかで、議会では福祉・教育予算のカットで財政再建を目指す共和党と、税収増を掲げる民主党が対立。予算を組めないまま新年度を迎えています。

すでに2月段階で、シュワルツェネッガー知事は20万人以上の州職員に給与なしの自宅待機を命じ、各地の保健所や運転免許試験場がいっせいに休業となっています。この休業は2週間おきの金曜日ごとに実施されるとのことで、職員は月2回の休日の増加と引き換えに、給与を約10%カットされます。

財政収支の均衡化に向けた予算が合意に至らないまま7月1日の新年度入りとなったことを受けて、シュワルツェネッガー知事は1日、財政非常事態宣言を発令。
州当局は納入業者などへの支払いを停止し、将来の支払いを約束する「IOU」(借用書)を発行することになりました。

****財政難の米カリフォルニア州、ついに「借用証」****
深刻な財政難に陥っている米カリフォルニア州は2日、納入業者などへの支払いができなくなったため、通称「IOU」と呼ばれる借用証の発行を始めた。
返済の保証はなく、金融機関が換金を拒めば、ただの紙くずとなる恐れもある。アーノルド・シュワルツェネッガー知事はすでに非常事態を宣言したが、事態は深刻度を増している。
AP通信などによると、同州の赤字は260億ドル(約2兆5000億円)に達し、とりあえず33億ドル(約3200億円)分の借用証を印刷することにした。金利は3・75%で、10月2日が換金の期限。福祉団体や自治体への支払いにも用いる。
金融危機に陥っている金融機関が換金に応じるケースは限定的とみられ、州政府が資金を工面するには、支出の大幅カットしかない。同州は1992年に暫定的に借用証を発行したことがあるが、本格的な発行は30年代の大恐慌時以来となる。【7月3日 読売】
***********************

【ターミネートできない財政赤字】
2003年、カリフォルニア電力危機などによって60億ドルにも上る負債を抱えた州の財政をどう再建するか、経済をどのように活性化させるかが特に重要視され、シュワルツネッガーは「増税なき財政再建」を掲げて知事に当選しました。
しかし、事態を打開できないシュワルツェネッガー知事への市民の不信感も高まっており、“共和党員のシュワルツネッガー氏は主演映画「ターミネーター」で有名。州財政の安定化を公約し知事に就任したものの、財政赤字を「ターミネート」(処理)できずにいる。”【7月3日 ロイター】とも。

州議会の多数を占める民主党は歳出削減の必要性で共和党と一致していますが、増税には共和党とシュワルツェネッガー知事が反対しています。
民主党と共和党の対立はカリフォルニア州だけのことではありませんが、カリフォルニア州では予算と増税は3分の2以上の賛成が必要とされることが事態を難しくしている側面もあるようです。

さすがに、州上院の民主党幹部が増税の要求を撤回すると表明するなど、議員の間では歩み寄りもみられ、合意の可能性も出てきた・・・とも報じられていますが【7月3日 ロイター】、いまのところ合意に至ったとの報道はまだ目にしていません。

【「注視はするが、自州で解決すべき問題」】
こうしたカリフォルニア州の財政危機の救済に、連邦政府は消極的のようです。

****カリフォルニア州の財政危機、米政府は支援に消極的******
米ホワイトハウスのギブズ大統領報道官は16日、カリフォルニア州の財政問題は同州が解決する問題と述べ、支援に消極的な姿勢を示した。
ホワイトハウスのギブズ大統領報道官は、政府による緊急融資の可能性について質問された際「われわれは引き続きカリフォルニアが抱える問題を注視していくが、残念ながらカリフォルニアの財政難は同州が解決しなければならない問題」と語った。
景気後退(リセッション)や失業率の上昇、住宅市場の低迷により、カリフォルニアの税収は大幅に落ち込んでいるが、財政赤字拡大で公債発行による資金調達は困難になっている。
州財務官は、資金を手当てしないと数週間以内に財源が枯渇し、50日以内に財政破たんするとの見方を示している。

同州はここ1年近く連邦政府による支援を模索しているが、ガイトナー財務長官は春に、財政難に陥っている州への支援を検討しているものの、7870億ドルの景気対策に盛り込まれた計画以外は考えていないことを明らかにした。
ギブズ報道官は「明らかに国内の多くの州は景気低迷の影響で財政がひっ迫している」と指摘。今までにないような規模の財政支出で州に資金が向かうようにしたことで、オバマ大統領がこの問題に一部対処したと述べた。
連邦政府が地方政府への支援に消極的だったのは今回が初めてではない。1975年にニューヨーク市は深刻な財政危機に陥ったが、当時のフォード政権は同市への支援を拒否した。
格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は15日、カリフォルニア州の財源が7月末までに枯渇するかもしれないとし、同州債を格下げする可能性を示した。【6月17日 ロイター】
**************************

日本でも夕張市の事例のように安易な救済策はとられませんので、ましてや自助努力の国アメリカではなおさらでしょう。
“黄金の州”復活に向けてシュワルツェネッガー知事が道筋を描けるのか、残された時間はあまり多くありません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする