孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ムサビ元首相、歴史が与えた役割を引き受けるのか?

2009-07-11 10:48:24 | 国際情勢

(7月9日、言論弾圧と学生への暴行事件が引き金となって1999年7月に起きたテヘラン大学での大規模騒乱から10年となるのに合わせて行われた抗議集会への女性参加者。警官隊は威嚇射撃や催涙弾を放つなどして群衆を解散させました。
“flickr”より By .faramarz
http://www.flickr.com/photos/fhashemi/3704797163/)

【「さらなる自由を望む」】
イランでは改革派の抗議行動を保守強硬派アハマディネジャド大統領が力で押さえ込んだ形になっています。
特に目新しい情報が入っている訳でもありませんが、大統領の発言があまりに面白いので取り上げました。

****「わたしは変化の象徴」=騒乱受け不満意識、改革派に転身?-イラン大統領****
イラン大統領選に勝利した保守強硬派アハマディネジャド大統領は7日夜、テレビ演説し、2期目には経済政策に加えて、改革の推進や自由の拡大、国民の権利などを重視すると施政方針を表明した。大統領選に勝利したものの、改革を訴えたムサビ元首相に大きな支持が集まったのを踏まえ、国民の不満に耳を傾ける姿勢を示した。
大統領はこの中で「わたしは変化の象徴だ。改革を求めているのは、わたしに投票しなかった1400万の人たちではなく、(投票所に足を運んだ)国を愛する4000万の人たちだ」と述べた。その上で国民の意見を聴く機会を設ける意向を明らかにした。
また「さらなる自由を望む。芸術や文化の面でも一層の発展を期待する。警察が文化を監督することを望まない」と訴え、選挙戦でムサビ氏が主張して若者の支持を集めた自由の拡大や文化・芸術面での表現の自由を重視することを強調した。【7月8日 時事】
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アハマディネジャド大統領 が“変化の象徴”かどうかはともかく(今回の混乱が、イラン社会を神権政治から強権政治へ変化させたという意味では確かに“変化”でしょう。)、当面は力で改革の動きを押さえ込みながらも、一定に自由化の姿勢も見せて人々の不満をなだめる・・・そんなバランスをとっていくことになるのでしょう。

【なお続く改革派の動き】
一方、ムサビ元首相は、政党結成で改革の行動を継続していく姿勢を見せています。
****ムサビ氏、政党結成に意欲=改革派結集狙う?-イラン*****
イラン大統領選で敗北した改革派のムサビ元首相は7日までに、陣営のウェブサイトを通じ、「組織を立ち上げることを計画しており、彼らと体系的かつ組織的に行動したい」と述べ、政党結成に意欲を表明した。大統領選敗北の原因に組織力の弱さが指摘されており、政党結成を通じて巻き返しを図る意思を示したとみられる。
ムサビ陣営のサイトは、ここ数日閲覧できないよう当局がブロックを掛けているが、専用ソフトを使えば閲覧が可能。ムサビ氏はこの中で、「われわれは法を順守する必要があり、そのような枠組みはわれわれにとって極めて重要だ」と述べ、政党結成を通じて政治力を高めていくとの考えを表明した。【7月8日 時事】
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改革を求める学生などの抗議行動も小規模ながら散発しているようです。
****イランでデモ再燃 テヘランの所々、数百人単位*****
6月の大統領選の結果確定後も政府やイスラム革命体制への不満がくすぶるイランで、10年前にあった保守派の言論弾圧に対する学生デモの記念日にあたる9日、テヘラン中心部の所々で数百人単位がデモを行おうとし、当局側に強制排除された。目撃者によると、テヘラン大学近くでは催涙弾が撃たれ、武装警察が威嚇発砲した。警棒で殴られ、連行される人もいた。
テヘラン大周辺では、改革派ムサビ元首相支持のシンボルである緑のリストバンドなどをつけた数百人が目撃された。AP通信などによると、「独裁者に死を」などアフマディネジャド政権を非難するスローガンを叫んだ。
治安当局は前日、「いかなるデモや集会も許可されない」と宣言。武装警察を大量に配置。一方、参加しようとした人々が複数の通りからテヘラン大や近くの革命広場を目指したため、所々で衝突が起きたとみられる。
99年の学生デモでは、保守強硬派の志願民兵バシジとの衝突で学生に死傷者が出るなどしたため、自由を求める抵抗活動の象徴とされる。改革派を支持する学生らのグループはこの日を選んで、インターネットなどを通じて全国でのデモを呼びかけていた。【7月10日 朝日】
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“ムサビ元首相の支持者ら数千人がテヘラン大学周辺に集結しようとしたため、警官隊が上空に向けて威嚇射撃したり、催涙弾を放ったりするなどして群衆を解散させた。”【7月10日 時事】 といった報道もありましたが、“数千人”というのはやや数字が大きすぎるように思えます。朝日記事にあるように“数百人単位”といったところが実態ではないでしょうか。

また、イランのイスラム教シーア派聖地コムの改革派系イスラム法学者で作る「コム神学校教員・研究者組合」が4日、ウェブサイト上に声明を発表し、選挙監督機関「護憲評議会」が、アフマディネジャド大統領再選の承認を強行したことについて、「不偏不党の立場を放棄するもので、裁定者として失格だ」と批判したと【7月5日 読売】の報道もあります。

いずれにしても、改革派やムサビ元首相の動きが全く鎮静化した訳でもないようです。
ある意味では、こうしたムサビ元首相や支持者が拘束されずに活動を許されているということは、中国など体制の締め付けが厳しい国に比べると、イランという国はイメージとは違って“民主的”基盤が定着した社会のようです。
中国を持ち出さずとも、体制批判など許されないアラブ国家も少なからず存在します。イランが周辺アラブ諸国から警戒されるのは、単に宗教や核問題だけでなく、そういった“先進性”もあるのでしょう。

【体制側の苛立ち】
もちろん、こうしたムサビ元首相、その支持者の行動に不満を募らせ、訴追すべしとの声も体制指導部には強まっているようですが、それはそれで難しい側面があるようです。
****イラン いら立つ 改革派みな訴追? 逆効果も*****
強硬保守派のアフマディネジャド大統領が再選されたイラン大統領選で「不正」があったとして抗議を続けるムサビ元首相やハタミ前大統領ら改革派指導者に対し、現体制指導部の強硬派から「訴追」を求める声が日に日に強まっている。しかし、指導者の逮捕や訴追で抗議の声を封殺しても、失墜した最高指導者ハメネイ師の権威回復につながらないことは明らかで、むしろ民心の離反を加速させかねない。体制側もジレンマを抱えているといえる。(中略)
現体制が、ムサビ氏に加え、イスラム法学者でもあるハタミ前大統領やカルビ元国会議長、アブタヒ元副大統領ら元政府要人を軒並み裁くという異例の事態となれば、裁判は逆に注目を集め、宗教界も含めて異論が噴出するのは必至だ。【7月6日 産経】
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【歴史が与えた役割】
今後どのように展開していくのか、ムサビ元首相やアフマディネジャド大統領など当事者自身もよく見えないところでしょう。
“人間が歴史をつくるのか、歴史が人間をつくるのか・・・昔からよく言われてきた問いだ。現在は、歴史がムサビに新しい役割を与えたところだ。次の問題は、ムサビがこの役割を本当の意味で引き受け、自分の力で歴史を作るかどうかだろう。”【7月15日号 Newsweek日本語版】

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タイ  タクシン派と反タクシン派 解消されない根深い対立

2009-07-10 21:18:24 | 世相

(今年4月5日 タクシン元首相と握手するUDDメンバー もちろん元首相は海外亡命中なので“看板”ですが・・・ “flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3413719303/)

【2億8000万ドル(約260億円)の投資】
海外逃亡中のタイ・タクシン元首相は6日、太平洋の島国フィジーを訪問し、バイニマラマ暫定首相と会談したそうです。豪州からの報道によると、元首相は「身柄の保護」を条件に2億8000万ドル(約260億円)の投資を提案したとのこと。【7月10日 毎日】

所在が明らかにされていなかったタクシン元首相がフィジーにいたというのも初耳ですが、“2億8000万ドル(約260億円)の投資”というのも、まだそんなに動かせる資金を保有しているのかと驚きでした。
06年のクーデター後、07年6月11日には、タクシン元首相らの不正蓄財や汚職を調査している資産調査委員会が、前首相や親族名義の全21銀行口座の凍結を決定しました。
総額は未公表ですが、タクシン氏らの自己申告に基づき中央銀行が委員会に提出した報告では、約529億バーツ(約2000億円)と言われています。【07年6月12日 読売】
さすがに大富豪、あちこちにいろんな資産を保有しているのでしょう。

【対立の構図】
今年4月、バンコク中心部を大混乱させ、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議を中止に追い込んだタクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)による反政府行動では、タクシン元首相はビデオ電話を通して、「戦いの時がきた」と支持者をあおり続け、抗議行動は日ごとに過激化していきました。
また、自らを失脚させたクーデターの黒幕はプミポン国王を補佐する大御所であるプレム元首相だと「暴露」しました。この発言は、“タクシン元首相は、和解はもはやあり得ないと覚悟を決めたのではないか・・・”とも受け止められました。
しかし、過激化する抗議行動で死者も出るに至り、軍の圧力や世論の批判を受け、タクシン元首相派は街頭闘争を中止する事態に追い込まれました。

この4月の騒動で、アピシット首相辞任も、自身の帰国も果たせなかったタクシン元首相の敗北は明白です。
個人的にも、“これでタクシン元首相の復権はもうないかな・・・”とも思いました。
しかし、タクシン、反タクシン双方の対立の構図は温存されたままで、今なおタクシン派の根強い抵抗が続いているようです。

タクシン支持層の中心は、タクシン政権時代の貧困層優遇政策で恩恵を受けた北部や東北部の貧しい農民や、バンコクなど都市部の労働者です。
これに対し民主党・アピシット現政権を支える反タクシン層は、都市部の富裕層や新興中間層が中心で、王室を頂点とした既存の社会構造の維持を強く求めています。地域的には支持基盤は、首都バンコクと南部になります。

タクシン元首相は、首相時代は金権体質や独断専行、身内びいきが目立ち、決して“民主的”とは言いがたい人物でした。
それでも選挙で民意を集めて政権の座を手にしたという点では、クーデター後の政治混乱のなかで、司法介入によりタクシン派与党を強制解党させて誕生したアピシット現政権に比べれば、民主的とも言えます。
現政権は未だに選挙でタクシン派に勝利する自信がなく、選挙もできずにいます。

これに関し、反タクシン派は、選挙の度にタクシン派が勝利するのは票の買収や民度の低さのためだとしています。
“農村部の票は金で買われたものであり、金で動くような愚か者に国会議員を選ぶ資格はない”との発想で、反タクシン派「民主市民連合」(PAD)支持者は、国王による指名議員を含む「新政治」への移行を求めています。

しかし、タクシン派の選挙での勝利は、地方の民衆の要求や不満に注目したことによるものです。
かつてタクシン政権は小規模な商売を始めたがっている村人に対し、少額の融資を提供。やせた土地から得られるわずかな収入でやりくりする農民たちの債務を免除し、より多くの人々が通える初等・中等教育機関を設立しました。
また、「30バーツ医療制度」も導入。国民が一度に30バーツ(約80円)を払えば診察を受けられ入院もできる制度で、おかげで多くの貧しい農民が医療の恩恵に浴せるようになりました。【7月1日 Newsweek】

それぞれの施策については問題もあるでしょうし、バラマキとの批判もありますが、地方農民や都市貧困層を視野に入れた施策であったことは事実です。そのことが、海外亡命生活をするようになった今なお、元首相を強く支持する勢力が存在する理由でもあります。

アピシット現首相は、イギリスで教育を受けた44歳のエリートで、テレビ映りがよく、頭脳明晰で洗練された人物ですが、タクシン元首相にある親しみやすさを持ち合わせていません。
“多くのタイ人の目に、アピシットは過去数十年にわたってこの国を動かしてきた特権階級の代表と映る。政治と経済を支配してきた都会の新興財閥の復権をめざす動きの象徴でもある。” 【7月1日 Newsweek】

【根強いタクシン支持派】
****タイ:タクシン元首相派候補が圧勝 下院補選で*****
タイ東北部サコンナコン県で21日、国会下院(480議席)の補欠選挙(改選数1)が行われ、非公式集計によるとタクシン元首相派の野党「タイ貢献党」候補が、反タクシン派の与党候補を大差で破った。
貧困農民層が多い東北部は、北部と並びタクシン氏の強固な地盤。海外逃亡中のタクシン氏は投票前、支持者に相次いで電話をかけ、「選挙での勝利が私の帰国に結びつく」と訴えたとされる。地元紙によると与党側は選挙後の会見で、タクシン氏の電話攻勢が貢献党の圧勝につながったと認めた。
タクシン氏の帰国、復権は困難とみられているが、補選の圧勝は東北部で依然、同氏が根強い人気を保っていることを証明した形だ。【6月22日 毎日】
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タクシン元首相は依然帰国・復権の望みを捨てていないようで、また、その支持勢力も未だ強固なものがあるようです。

6月27日には、首都バンコクの王宮前広場で、タクシン元首相支持の反政府勢力「反独裁民主戦線」(UDD)メンバーら約4万人が、アピシット連立政権の退陣と総選挙を求める大規模集会を開き、その勢力を誇示しています。
現在、タイで注目されているのは、08年11月の反タクシン元首相派市民団体「民主市民連合」(PAD)によるバンコク国際空港占拠事件に関与したカシット外相の処遇です。

****タイ:警察がカシット外相を事情聴取 政界混乱収まらず*****
タイのプーケットで、26カ国の外相が参加する「ASEAN地域フォーラム」(ARF)など一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が16日から開かれるのを前に、同国の政界では混乱が続いている。

タイ警察当局は4日、08年11月の反タクシン元首相派市民団体「民主市民連合」(PAD)によるバンコク国際空港占拠事件に関与したとして、カシット外相ら計36人にテロ容疑などで出頭を命じた。カシット氏は6日、これに応じ警察署で事情聴取を受けたが、外相辞任を求める声が強まっている。
カシット氏はASEAN外相会議の議長で、この時期に辞任すれば、4月のASEAN関連首脳会議に続く混乱は避けられず、アピシット首相は対応に苦慮している。
同国の警察内には依然、タクシン元首相の影響力が残っているとされ、今回の外相らへの出頭要請はタクシン派が主導しているとの見方も出ている。
カシット氏はPADが占拠したスワンナプーム国際空港で演説し、元首相を非難。警察の事情聴取で「憲法で認められた権利を行使してタクシン体制に反対しただけで、私はテロリストではない」などと無罪を主張し、帰宅を許された。しかし、その後の世論調査では、回答者の6割が外相辞任を要求。地元紙でも辞任を求める論調が目立ち、風当たりが強まっている。【7月10日 毎日】
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かつて、軍の発砲で多数の死者が出た92年のスチンダ軍事政権と民主化勢力の衝突では、国民の尊敬を集めるプミポン国王が裁定に乗り出し、スチンダ首相が辞任して収束しました。
しかし、昨年来の騒動では、81歳と高齢の国王は動く気配を見せていません。
調停者を欠いたタイの政治対立は、富裕層対貧困層、支配層対被支配層という社会分裂への危機もはらんで進行しています。

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インドネシア  ユドヨノ大統領再選 好調なインドネシア経済を引っ張るムルヤニ財務相

2009-07-09 21:45:05 | 国際情勢

(今年4月に開かれたロンドンサミットでのユドヨノ大統領(右)とムルヤニ財務相(左) “flickr”より By London Summit
http://www.flickr.com/photos/londonsummit/3406188803/)

【「次の5年間で世界はインドネシアの成長を認めるだろう」】
インドネシア大統領選挙は8日に投票が行われ、予想されていたように現職のユドヨノ大統領が再選を果たしたようです。
当選のためには、有効投票の過半数をとり、全33州の半数を超える州で20%以上を得票することが必要で、条件を満たす候補者がいない場合は、9月に上位2人の決選投票が行われることになっていました。

総選挙委員会による正式な結果公表は7月下旬の見通しですが、複数の民間調査機関の集計によれば、現職のユドヨノ大統領(59)が得票率58~60%と過半数を制し、再選を確実としたと報じられています。
民間調査機関LSIによると、ユドヨノ氏の得票率は60.85%で、スカルノ元大統領の長女で闘争民主党を率いるメガワティ前大統領(62)は26.56%。ゴルカル党党首のカラ副大統領(67)は12.59%とされています。(全国の開票所から2200カ所を選び、独自集計した数字)

昨年からの金融危機で東南アジア各国が軒並み景気後退するなか、インドネシアはユドヨノ大統領のもとで経済成長を維持、また、世界有数の汚職大国という汚名を返上し、さらにテロの徹底した取り締まりが奏功したこともあって、ユドヨノ大統領は国民の支持を得ての再選です。
ユドヨノ氏は4日、ジャカルタの競技場で数万人の支持者を前に演説、年7%の経済成長などを改めて約束し、「次の5年間で世界はインドネシアの成長を認めるだろう」と主張しています。【7月5日 時事】

なお、4月に行われた総選挙でも、ユドヨノ大統領を擁する民主党は得票率20.85%と前回7.5%から大躍進し、ゴルカル党と闘争民主党を押さえて第1党となっています。
今回の大統領選挙結果は、この流れを維持したものとなっています。

ユドヨノ大統領は、“英語が得意だったこともあり、米陸軍に派遣され研修を受けるなどした。軍内のインテリ、改革派として知られ、2万冊の蔵書があるとも。前回の大統領選挙期間中には博士課程に在籍し、大統領当選直後に博士号を取得するほどの勉強家。”【7月9日 産経】とのことです。


【今年はインドか中国のどちらかを抜く可能性も】
インドネシアというと、米ソ対立の冷戦の時代に第一回アジアアフリカ会議(バンドゥン会議)を主催し、非同盟主義・「第三世界」のリーダーの1人として国際的にも脚光を浴びたスカルノ大統領、権力を集中させて“開発独裁”のかたちで経済発展を実現し、インドネシアを地域大国としたスハルト大統領の名前が頭に浮かびます。
アジア通貨危機をきっかけに98年には13%のマイナス成長を記録。これが国民の不満を爆発させ、スハルト政権に終わりをもたらしました。
正直なところ、その後のインドネシアについては影が薄いと言うか、あまり明確な印象がありません。
しかし、最近のインドネシア経済は、インドや中国とも比肩されるような好調を実現しているようです。

“10年前には100%を超えていた政府債務の対GDP(国内総生産)比率は、今では30%。企業の借金も、アジアの他の国の企業と比べればはるかに少ない。
財政は緊縮ぎみだが、天然資源の輸出や約2億4000万の人口がもたらす個人消費が成長を牽引する。
経済は、商品価格の急落や世界的な信用収縮という外的ショックにも動じていないようだ(エネルギーは輸入に依存しているため、原油価格の下落はむしろ追い風だ)。
主な新興国のうち、09年に4%以上の成長を遂げる見通しの国は、インドネシアを含めて3カ国。だが、他の2カ国の中国とインドはここ数カ月で急減速し、政策的にもインドネシアよりむずかしい選択を迫られている。
インドネシアは今年、最大5.5%の成長を達成できるかもしれないと、(財務相の)ムルヤニは言う。
昨年の6%をわずかに下回るだけで、今年はインドか中国のどちらかを抜く可能性もある。“【7月6日 Newsweek】

【鉄の女ムルヤニ財務相】
この好調インドネシア経済をユドヨノ大統領のもとで実現したのが、上記記事にも名前が出てくるスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相です。

****インドネシア経済を立て直した女*****
08年12月、ある種の金融津波がインドネシアを襲った。例の世界的信用収縮の波ではない。インドネシア政府が国民や企業に対し、今後きちんと納税すれば過去の脱税は罪に問わないという新政策を打ち出したため、国庫に納税者のお金が押し寄せたのだ。
税収が正確にどれだけ増えたかはまだ不明だが、エコノミストは年間で50%以上は増えたと予想する。「これまで税務上存在もしていなかった納税者や過去の過ちを正したい納税者からの歳入が飛躍的に増大した」と、この政策の発案者であるスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相は言う。

この税収増はスシロ・バンバン・ユドヨノ政権、とくにムルヤニの大きな手柄だ。この国では、98年まで32年間続いたスハルト独裁政権の間に縁故資本主義がはびこった。ムルヤニは閣僚としてユドヨノ政権に参画した4年前から、そうした金融構造の解体を推し進め、金融秩序を取り戻した。
また政府と民間双方の債務を削減し、財政赤字の元凶だった燃料補助金の削減を強行し、税関と税務当局の改革を行うなどして、インドネシアを世界の新興国のなかでも有数の成長経済に押し上げた。【7月6日 Newsweek】
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ムルヤニ財務相はなかなかユニークな仕事ぶりで、着任直後、彼女は幹部職員に「安い給料なのに息子や娘を留学させられるのはなぜ。そのお金はどこから出たの。皆が罪を犯してきたことを認めよう」と迫ったそうです。
“彼女はまた公務員の給料を上げ、過去に生活のために賄賂を受け取った職員を悪者扱いしないことで職場の士気を高め、腐敗に負けない改革者として名を上げた。部下に対するムルヤニのメッセージは単純かつ前向きだ。「私の目標は一つ。国民にわれわれを信用してもらうこと。もし人々が政府を信用できないようなら、この国はどうにもならないからだ」”【同上】

日本では東国原知事の総裁候補云々で騒いでいますが、いっそのことムルヤニ財務相のような人物をヘッドハンティングして日本の総理に抜擢するほうがいいようにも思えます。


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主要国(G8)首脳会議が開幕、しかしその役割には限界

2009-07-08 21:59:03 | 世相

(“flickr"より By oxfam international
http://www.flickr.com/photos/oxfam/3700156699/)

【単なる中間ステップ】
イタリア・ラクイラで今夜から開催される主要国首脳会議(サミット G8)は、今回で35回目。
75年のフランス・ランブイエで開催された最初のサミットは6カ国でしたが、翌年カナダが加わりG7体制へ。
当時は“先進国首脳会議”と呼ばれていました。
98年からロシアも加わりG8体制に。名称も“主要国首脳会議”に変更。

当初、世界を動かす会合のイメージがありましたが、最近はどうも影が薄くなってきており、麻生総理の出席も「どこか行ってるの?この大変な時期に・・・」といった感じです。
それは単に回数を重ねてマンネリ化してきたというだけでなく、国際社会のパワーバランスの変化が原因のようです。
G8はその役割を終えたのではないか・・・との意見もあります。

****G8サミット、廃止へ秒読み段階?****
2009年07月07日 22:53 発信地:パリ/フランス
世界的な金融危機に対し無力だった主要国(G8)首脳会議は、世界経済に対する統制力をゆっくりと失いつつあり、さらに今度は会議自体の廃止さえもが呼びかけられている。
主要8か国の英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、米国は、前年9月に金融危機が発生して以降、方針の声明を発表する以上のことを行うことができなかった。そして難題の解決を、G8に中国やインド、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカなどが加わった主要20か国・地域(G20)に受け渡してきた。ロンドンで4月に金融サミットを開催して金融危機に立ち向かったのは、G20だった。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究者、リチャード・ポルテス氏は、「知りうる範囲でいえば、長年にわたってG7とG8会議から実質的な結果は生まれていない」と語る。ポルテス氏は、「中国やインド、ブラジル、南アフリカを引き入れずに、環境や貿易、国際金融に取り組むことは不可能」と述べる。
米カリフォルニア州立大学バークレー校のBarry Echengreen氏も、「世界最大の外貨準備高の国(中国)が関与することなく、国際通貨システム改革が実行可能だという考えは、ばかげている」と語る。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相も、G8体制に疑問を投げかけている。メルケル首相は前週、「われわれが直面している問題は、もはや先進国だけで解決することが不可能だ」と述べていた。

G8の数少ない擁護者、カナダのトロント大学のジョン・カートン氏は、G8には「果たすべき重要な役割がある」と反論する。カートン氏は、「G20首脳会議は、基本的に、G7とG8が設定した原則や方針に従っているだけ」と述べる。

とはいえ、国際情勢の専門家らの大半は、G8の終わりは近いとみている。
インド国際経済関係研究所のRajiv Kumar氏は、「G20を存続させ機能させたいのなら、この2つ(G8とG20)は共存できない」と語る。
スイス、ジュネーブにある国際関係大学院研究所のCharles Wyplosz氏も同様の考えだ。Wyplosz氏は、「G8を終わらせる準備をしなければならない。G8がG20に主要な問題を受け渡した以上、この小規模グループを維持してゆくことには基本的な矛盾がある」と語った。【7月7日 AFP】
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今回のサミットでは、G8首脳だけの会合は初日のみで、二日目に新興五カ国を加えた拡大会合と主要経済国フォーラム(MEF)、三日目にアフリカ、食料問題に関する拡大会合を開く予定になっています。
経済問題にしても、温暖化問題にしても新興国との調整なしには前進がはかれない現実を反映したスケジュールでもありますが、フランス政府高官は「実質的にはラクイラ・サミットは(9月に米ピッツバーグで開かれる予定のG20に向けての)単なる中間ステップだ」と述べています。

【胡錦濤国家主席の帰国で実質的議論も困難に】
今回、中国の胡錦濤国家主席が新疆ウイグル自治区での混乱を受けて急きょ帰国したことで、改めて新興国、特に中国の国際的枠組み決定における影響力の大きさを感じます。
胡錦濤国家主席はラクイラ・サミットの機会を利用し、米ドルに代わる世界的な準備通貨の検討を開始する必要性について訴える予定でした。
今回のサミットでは温暖化対策も主要な議題となりますが、イタリアのベルルスコーニ首相は、G8の温暖化対策の取り組みについて、中国から「強い抵抗」を受けていたことを明らかにしています。【7月8日 ロイター】
胡錦濤国家主席帰国後も、中国代表団はラクイラに残り一連の会議に出席することにはなっていますが、トップ不在では、その参加は形式的なものなります。

“初日のG8のみの討議には影響はないものの、温暖化問題や世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)をめぐる協議は中国が米国と並び大きなカギを握る。9日以降のG8と新興国による会合の行方は、中国トップの不在という緊急事態で、実質的な議論が成り立たない可能性が出てきた。”【7月8日 時事】

【日替わりメニュー】
そんな“限界”が囁かれるG8ですが、日本からの出席は今年が麻生総理、昨年は福田前総理、一昨年が安倍元総理、その前は小泉元総理・・・と“日替わりメニュー”状態。
6年、7年と同じ首脳が出席する他の参加国の中で、首脳間の信頼構築も難しいでしょうし、日本のかげもますます薄くなるような気もします。

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ウルムチ  暴動後も続く緊張 漢族に報復の動きも

2009-07-07 22:54:31 | 世相

(ウルムチの街角 カシュガルへの旅行途中で立ち寄った際、この町でパスポート・エアチケット・現金・カード全て入ったバッグを置き引きされて途方にくれたことがあり、個人的にはあまり印象のいい街ではありません。
“flickr”より By chenyingphoto
http://www.flickr.com/photos/40713859@N00/3050953722/)

【夜間外出禁止令】
中国・新疆ウイグル自治区ウルムチにおける暴動については、多くのメディアが報じているとおりです。
国営新華社通信によれば、5日の暴動で156人が死亡、1080人が負傷したとのことです。死者は男性129人、女性27人ですが、漢族とウイグル族の割合は報じられていません。

また、今回の混乱で1434人が拘束されたとも新華社は伝えていますが、地元住民によれば、警察はウイグル自治区で無差別の一掃作戦を展開しているとも言われています。【7月7日 ロイター】
混乱はウイグル自治区西部の都市カシュガルにも飛び火して、6日、住民200人以上が参加する抗議デモの動きがあり、警察に排除されています。

ウルムチでは、7日になっても、ウイグル族住民による拘束された人の解放などを求める抗議行動が行われていますが、一方で、多数の漢民族住民がウイグル族側の5日の暴動に抗議、鉄パイプやシャベルなどを持ってデモ行進する様子がTVでも報じられています。この一部はウイグル族経営の商店やレストランを襲ったとも。【7月7日 共同】

当局は5日の暴動に対し、高圧電流警棒や威嚇射撃でこれを鎮圧しましたが、現在も多数の武装警察部隊が展開して緊張が続いています。漢民族とウイグル族の住民同士の対立が激化する状況で、自治区当局は7日、夜間外出禁止令を出しています。

中国当局はこれまでに、今回の暴動について、ラビア・カーディル氏が率いる在外ウイグル人組織の『世界ウイグル会議』が扇動したとして非難していますが、カーディル氏は、亡命先の米国で暴動への関与を否定しています。
なお、米ホワイトハウスは、この暴動について、死者が出たことに懸念を表明しましたが、状況について憶測をめぐらすのは時期尚早との考えを示しています。【7月7日 ロイター】

【引き金となった広東省の事件】
今回の混乱の引き金となったのは、6月26日に広東省韶関(しょうかん)市の玩具工場で、ウイグル族労働者2人が漢族に殺害された事件への抗議活動だったと言われています。
広東省韶関市の事件については、次のように報じられていました。

****中国の工場でウイグル族と漢族が衝突、2人死亡****
香港紙の明報は27日、中国広東省韶関市の香港系大手おもちゃ工場で26日に、新疆ウイグル自治区から雇用された少数民族ウイグル族と漢族の従業員同士が衝突し、ウイグル族の2人が死亡、双方の計118人が重軽傷を負ったと報じた。
明報によると、工場の従業員は約8000人。ウイグル族約600人が採用された5月から、女性従業員への乱暴などの事件が相次ぎ、ウイグル族の仕業と見なした一部の漢族が宿舎を襲った。経営者は明報に対し、「衝突は生活習慣の違いが主な原因」と説明した。【6月27日 読売】
****************************

この事件後、ウイグル族の間で「加害者の漢族は誰も捕まらないのに、被害者のウイグル族がくびになった」とのうわさが広まり、怒りを買っていたそうです。
この“うわさ”については、おもちゃ工場の香港人経営者が事実と異なると否定しています。

****「ウイグル族解雇」は誤解=広東の襲撃事件で香港人経営者****
7日付の香港紙・明報によると、「香港の玩具王」といわれる実業家の蔡志明氏(旭日国際集団会長)は6日、広東省韶関市にある同社工場で起きた民族対立事件が新疆ウイグル自治区のウルムチで暴動を引き起こしたとされていることについて、工場のウイグル族従業員を解雇して同自治区に送り返したとの説を否定した。
蔡氏によれば、この工場はウイグル族800人を雇用しており、1人も解雇していない。襲撃事件は、仕事のミスで解雇された漢族の従業員が扇動して起きたという。工場の事件もウルムチの暴動も、根強い漢族と少数民族の対立を背景に誤解が重なって起きたとみられる。【7月7日 時事】 
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【深くて暗い河】
広東省韶関市のおもちゃ工場の事件の真相はともかく、それはあくまでも引き金にすぎず、混乱の根底にあるのはウイグル族住民の漢族・当局への不信感です。
もともと、民族間の溝があるところに、当局のイスラム教への不寛容な施策、漢族の流入による摩擦の増大、漢族主導の経済発展の利益が充分にウイグル族まで広がらない経済格差・社会的地位の格差への不満・・・チベットの暴動と同じような構図です。

以前も書いたような気もしますが、18年前に上海から西安・敦煌・トルファン・ウルムチなどを旅行した際、ウルムチの博物館を訪れたことがあります。
当地の状況を各時代ごとにまとめたパネルがあり、西域が中国支配に入った漢代や唐代の記載は大変興味深いものでした。
当然中国語ですので正確には理解できませんでしたが、ニュアンス的には、漢や唐の時代には諸民族が統一され、中国統一権力のもとで諸民族の共存共栄し、大いに国威を発揚した・・・といった内容でした。
漢族の視点からすればそうなるのでしょうが、西域に暮らしていた人々の視点からすれば、漢族に支配された時代ということでもあり、こうした解釈を現在の西域住民であるウイグル族の人々はどのように思っているのだろうか・・・と当時も訝しく思われました。

世界史の教科書によれば、中国の歴史は中原の漢族と匈奴など北方遊牧民の抗争の歴史であり、中国統一王朝は交易による経済的利益を求めて西域支配に乗り出します。
西域、今の新疆はそうした歴代王朝・部族の抗争の場であり続けた訳で、この地が漢族による中国固有の領土というのは、漢族からの発想にすぎません。世界中の多くの領土問題がそうであるように。

最近、Yahooの動画配信で“シルクロード豪侠”という中国ドラマを観ています。
ドラマ自体は、他愛もないカンフー・チャンバラものですが、漢の時代の西域を舞台にしたドラマで、砂漠やオアシス都市の風情が気に入っています。女優陣が魅力的なのもありますが。

このドラマでは西域の交易を牛耳る漢族集団、北インドに本拠地があるカルト教団、更に匈奴が対立し、西域独立の陰謀、それを阻止しようとする中原の朝廷からの介入等々が展開されるのですが、主人公の漢族刺客が匈奴と繋がっていることに対し、「漢族の裏切り者」「どうして漢族なのに匈奴なんかと・・・」といった非難が浴びせられます。
中国ドラマですから当然ですが、西域は漢族のもの、それを脅かす匈奴は不倶戴天の敵・・・という流れです。

【共存に向けて】
与太話はともかく、歴史的に培われてきた民族間の溝は、今更どうしようもないものでもありますが、そうした溝を越えて他民族を束ねていこうとすれば、まず求められるのは民族を超えた共通理念です。
しかし、ソ連やユーゴスラビアなど社会主義による多民族国家が解体したように、中国でも、思想によって多民族がまとまるという時代ではありません。

社会主義に替わる、民主・自由・平等などの理念も今の中国では見当たりません。
今の中国でそうした理念に替わるものは経済発展・経済的利益になるのでしょうが、新疆でもチベットでも、漢族に偏り地元住民にその恩恵がいきわたらず、むしろ格差への不満が強まっている状況のようです。
実際には、地域全体の経済発展で、地元住民の生活の底上げもはかられてはいるのでしょう。
中国政府は幹線道路や鉄道を建設して観光産業の育成を推進、ウイグル人の住居や教育へも助成、その結果、01年に950ドルだったウイグル自治区の1人当たりの平均年収は、06年には1900ドルへと倍増しています。【7月7日 Newsweek】

中国政府にすれば、これだけやっているのにどうして・・・という感もあるのでしょうが、人間の心は格差や差別に敏感に反応します。また、宗教的不寛容など自己のアイデンティティーを否定するようなものにも敏感です。
中国沿岸部の経済発展や、周辺イスラム国でのイスラムとしての自己主張などの情報も入ってきます。

ウイグル自治区は中国全土の6分の1に相当し、天然資源や希少金属が豊富とされます。中国政府はチベット同様、この地を手放す考えなど毛頭ないでしょう。
今後ともこの地をつなぎとめておこうとするなら、暴発の危険を孕みながら力で押さえ込むより、より高度な自治を委ねる形で、ウイグル人主導でウイグル人の視点に立って、この地の発展が実現できるように、共存共栄に一歩でも近づけるように後押しする方が賢明なように思えます。
賢明云々以前に、そうでなければ、そもそも同じ国民である意味がないように思えます。
国家は、一緒にやっていく意志がある者で構成されるべきもので、いがみあう者同士が一緒にいても仕方がありません。

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景気低迷、議員の不祥事、選挙敗北、党首辞任要求・・・日本ではなくイギリスの話

2009-07-06 21:06:56 | 世相

(欧州議会選挙の歴史的大敗を受けての党大会をなんとか乗り切った“ニュー・ブラウン”
人の話をもっとよく聞けるように耳垢を掃除して、目のはれぼったさを目立たなくするためキュウリを目に乗せて眠り、もっと愛想よく笑顔をつくるように努め・・・ “flickr” By Bearman2007
http://www.flickr.com/photos/bearmancartoons/3612754982/)

【1年間の休暇】
日本同様、景気低迷が続くイギリス。
企業もコスト削減のためいろんな方策を講じているようですが、これなんかいいかも・・・。

****英BT、社員に1年の休暇 給与は75%カット*****
英通信大手BTグループは4日、経費削減対策として、社員の給与を75%カットする代償として1年間の休暇を認めると発表した。
このほか、パートタイムへの切り替えに応じた社員には1000ポンド(約16万円)を支給する。また、子どもを持つ社員には、学校の休暇期間中、給与を削減する代わりに会社を休むことを許可する。
こうした措置についてBT広報は、英国で大量の雇用を抱える企業として景気低迷を乗り切る先進的な経費削減対策だと述べた。
経済低迷が続く英国では、航空最大手ブリティッシュ・エアウェイズも前月末、従業員に無給労働に応じるよう要請している。【7月5日 AFP】
****************************

大幅カットとは言え、4分の1はもらえて、まるまる1年間自由に使える。
私なら海外旅行に出ます。先ずは中国・西安からシルクロードの旅・・・と思ったのですが、今日のニュースでは新疆・ウルムチは大荒れの様子。
その話はともかく、まあ、行き先は他にもいろいろあります。
安宿に泊まって、ローカルバスなどで移動すればそんなお金もかかりません。
しかも、片道切符ではなく1年後に帰る場所もあるというのは、精神的にも楽です。
扶養者があると、そうも言っていられないでしょうが。

【回復は時期尚早】
ところで、そのイギリスの経済状況については、下げ止まりの兆しはあるものの、“回復”とはまだ言えない・・・というところのようです。
日本と似たり寄ったりというところでしょうか。

****英景気悪化は一服も、回復と判断するのは時期尚早─中銀総裁=現地紙
イングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁は、英経済の悪化ペースの一服を示す兆候が最近の指標に見られるが、そこから景気が回復しているという結論を導き出すことは時期尚早だ、との見解を示した。
地方紙サザン・デーリー・エコーとのインタビューで語った。
同紙電子版に19日掲載された記事によると、総裁は「現在、景気見通しが悪化するペースが横ばいになり始めた兆しが一部で見られるが、ここから強気の結論を導き出すべきではない」と述べた。
また総裁は、英経済がリセッション(景気後退)入りするなか、信頼感が著しく低下したことを指摘し、「信頼感の早急な回復は不可能だ。このため、経済の回復にはリセッション入りにかかった期間よりもかなり長い時間が必要だろう」と述べた。
その上で「景気が急速に上向くと見込むことが妥当だとは思わない」と付け加えた。
総裁の発言は、17日の演説で示された経済に対する慎重な見方を踏襲するものだった。【6月19日 ロイター】
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【歴史的大敗に辞任要求】
そうした厳しい経済情勢と相次ぐ議員の経費乱用問題で、ブラウン首相・与党労働党の支持率は低迷を続け、ブラウン降ろしの動きもあって、これまた日本の麻生政権の状況と似たり寄ったりです。

先月4日投票が行われた欧州議会選挙では、 開票率約90%の段階の数字で、労働党の得票率は戦後最悪とされる15.3%。最大野党・保守党(得票率28.6%)はおろか、小政党の英独立党(同17.4%)にも抜かれて第3位に終わっています。【6月8日 時事】

この歴史的な大敗に、党内から党首交代を求める声が強まりましたが、ブラウン首相は労働党所属の国会議員約350人を前に「私には進歩が必要だ」と非を認めて謝罪する一方で、続投への理解を求めました。
結果、大部分の議員の支持を取りつけ、何とか当面の危機を乗り切ったそうです。
首相は議員らを前に「私には強さも弱さもある。党の人材を有効に使い、逃げ出すのではなく、面と向かって問題に取り組みたい」と述べたそうです。【6月9日 朝日】

しかし、その後も支持率は低迷、党内からも辞任を求める声が強まっていますが、首相は先月21日、改めて総選挙前に辞任する考えはないと明らかにしています。
ブラウン首相は、辞任する意思がないのは権力にしがみつきたいためではなく、英国民をリセッション(景気後退)から救い出したいためだと主張しています。また、「私は労働党を次の総選挙に導くつもりだ。われわれは勝たなければならないし、勝つだろう」とも。【6月22日 ロイター】

【野党の地滑り的勝利か?】
その総選挙ですが、世論調査によると、やはりブラウン首相・労働党には厳しく、野党保守党が地滑り的勝利を収める可能性が高いことが明らかにされています。

****英国の次回総選挙、野党保守党が地滑り的勝利の情勢=世論調査****
英ピープル紙に掲載されたユーゴブの世論調査によると、1年以内に実施される総選挙で、野党保守党が地滑り的勝利を収める可能性が高いことが明らかになった。
調査では、保守党の支持率が同じ週に行われたユーゴブ調査を2%ポイント上回る40%となる一方、与党労働党の支持率は、同1%ポイント下回る24%だった。
中道左派の自由民主党支持率も1%低下して17%となった。
ピープル紙は、次回総選挙で保守党が獲得する議席は378、労働党は199、自由民主党は42議席になると予測。保守党は労働党と自由民主党を合わせた議席よりも137議席上回り、過半数を大幅に超えるとの見方を示した。
労働党は議員の不正支出疑惑で大きな打撃を受けているほか、ブラウン首相に辞任を求める声が党内からも強まっている。【6月29日 ロイター】
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麻生総理はG8の会合に出かけましたが、ブラウン首相と今後の対応などよく相談されるのがいいかと思われます。

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国際原子力機関(IAEA)事務局長に日本の天野氏 その覚悟は

2009-07-05 11:38:50 | 国際情勢

(使用が許された天野氏の写真がなかったので、代わりに、今年「核技術の日」の4月9日、イラン初の核燃料製造施設落成式で、世界に核の平和利用の進展をアピールするアハマディネジャド大統領。 政情混乱で今後の交渉は更に困難なものになりそうですが・・・ “flickr”より By Père Ubu
http://www.flickr.com/photos/michaelrogers/3428347803/)

【1票差の決着】
“核の番人”国際原子力機関(IAEA)のトップとなる事務局長を決める選挙で、7月2日、日本の天野之弥(ゆきや)ウィーン国際機関代表部大使(62)が当選しました。9月のIAEA総会での正式承認を経て、12月に5代目の事務局長に就任します。任期は4年。

天野氏は出馬表明時から有力といわれていましたが、3月に行われた選挙では、すでに核技術を持ち、核拡散を懸念する先進国と、これから核技術に乗り出したい途上国の票が割れ、親米派と見なされている天野氏は当選に届かず、今回やり直し選挙となっていました。

今回のやり直し選挙でも対立の構図は変わらず、なかなか当選ラインに届きませんでしたが、かなり執拗な日本側の働きかけで、“1票差の決着”となりました。

****IAEA事務局長選、天野氏「薄氷の勝利」舞台裏*****
2日に行われた国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長選で、天野之弥・在ウィーン日本政府代表部大使(62)が当選した舞台裏に、「支持が無理なら棄権を」と対立候補の支持国に働きかける日本の外交攻勢があったことが3日、明らかになった。
当選には、35理事国の3分の2を超す24票が必要だったが、「あと1票」の壁がどうしても越えられなかった。
そこで、規則上、無効票扱いとなる「棄権」に的を絞り、勝利ライン自体を23票に下げる頭脳作戦だった。

2日午後0時35分(日本時間同7時35分)、理事会議長から休憩が宣告されると、日本は最後の説得工作に乗り出した。
「信任投票に持ち込まれたら、ノーじゃなく棄権してください」
午前中の3回にわたる決選投票で、日本が推す天野大使の得票はいずれも23票にとどまっていた。午後3時の投票再開まで2時間余しかなかった。
天野氏自身、受話器をとり、ウィーン駐在のIAEA理事らの説得に当たった。日本の在外公館も、各理事国政府に要請を重ねた。だが、相手候補である南アフリカのミンティIAEA担当大使(69)を支持した12票は、先進国の核政策に不信を持つ途上国が大半で、切り崩しは困難をきわめた。
前回3月の第1回選挙でも、1票差で涙をのんでいた。麻生首相や中曽根外相も多数派工作に乗り出し、「とりつけた約束通りなら、一発で天野氏が当選していた」(外交筋)はずだったが、口約束と実際の結果が異なるのは国際機関の秘密投票の常。3月以降は、「経済支援など、相手の国益になる様々な提案を持ちかける」(関係筋)なりふり構わぬ外交を繰り広げた。他の国際機関の選挙で日本が協力する見返りに、天野氏支持を求める取引を持ちかける場面もあった。
対立候補への支持に寝返ることに抵抗がある途上国も、棄権なら応じるかもしれない--。日本は、そう読んだ。
投票再開は午後3時6分。議長から結果が発表された。「信任23、不信任11、棄権1」。日本の読みが当たった瞬間だった。だが、投票が行われた議場は、拍手もなく静まり返った。激しい集票合戦が、今後の組織運営に影を落とすことを予感させた。
棄権した理事国はどこだったのか。日本の関係者は口をつぐむが、ある関係者は、日本の援助を望む中南米の国名を挙げた。【7月4日 読売】
***********************

“投票が行われた議場は、拍手もなく静まり返った”【上記】“欧州の外交官によると、「結果が公表された瞬間、多くは浮かない表情だった」”【7月3日 毎日】という微妙な決着だったようです。
棄権した国については、上記の中南米の国という見方のほか、長引く選出プロセスを早く終結させたい「議長国アルジェリアの判断では」(外交筋)との見方もあるようです。

【核燃料バンク】
IAEAが直面する難題としては、先ずイランや北朝鮮の核問題がありますが、その他に今回選挙で対立が明らかになった核燃料バンクによる「燃料供給保証」の論議があります。

核燃料バンクとは、ウラン濃縮施設を持たず、核燃料を外国からの輸入に頼る原発の新規導入国向けに低濃縮ウランの供給を保証する備蓄基地のことで、核物質と、濃縮・再処理技術の拡散を防ぐことが本来の目的とされています。供給停止の事態に備えるいわば「保険」として機能することを目指してします。
IAEA事務局では、核燃料バンクは、IAEAと協定を締結した国に設置。バンクは低濃縮ウランを調達し、IAEAは備蓄される低濃縮ウランを管理し、政治的な理由などで加盟国へのウラン燃料供給が途絶えた場合、低濃縮ウランを市場価格で提供します。
すでに、カザフスタンがバンク受け入れ国となる意向を表明しています。

エルバラダイ事務局長は「核兵器の拡散を防ぐため、国際管理の枠組みが必要」とバンク設立に熱意を燃やしており、欧米先進国もこれを支持していますが、途上国には、燃料が一括管理されることで発展途上国の自由な核利用が制限されるのではないかとの警戒感があります。

天野次期事務局長は、核技術をめぐる「持つ国と持たない国」の格差という対立の構図のなかでの船出を強いられる形となっており、天野氏は「あらゆる国から協力を求める」と、結束を呼びかけています。

【“日本の経験をモデルとして世界と共有”】
今回人事に執着した日本政府の思惑は、“国連教育科学文化機関(ユネスコ)の松浦晃一郎事務局長が今秋退任の予定で、主要な国際機関のトップを務める日本人が国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男事務局長のみになってしまう”【7月3日 時事】という焦り・危機感のようです。

しかし、イランや北朝鮮の核問題にしても、核燃料バンクによる「燃料供給保証」の問題にしても、誰がやっても難航必至のように思えます。“火中の栗を拾う”かたちで、敢えてこの問題に“核の番人”のトップとして取り組みたいという天野氏の熱意が、正直なところ個人的には理解できません。
しかも、ノーベル平和賞を受賞し、実績もあるエルバラダイ事務局長の後任です。
恐らく、自分ならなんとかできるという青写真が頭の中にある、あるいは、自分がやらずに誰がやる・・・という気概をお持ちなのでしょうが、立派というか、ご苦労様というか・・・決して皮肉ではありません。そいうリスクをとる覚悟が自分のような小心者には理解できないだけです。

****IAEA:次期事務局長の天野氏会見 日本に感謝を表明****
ウィーンで記者会見し、「公平に、公正に、プロ意識を持って難題に立ち向かいたい」と、IAEAが直面する課題に取り組む意欲を語った。日本人初のIAEAトップに任命されたことに、天野氏は「日本が私を育ててくれた」と述べ、感謝の気持ちをにじませた。
唯一の被爆国・日本から初めてIAEAトップに就任する天野氏は、「日本は核兵器を持たず、核軍縮と核不拡散に最大の努力を払ってきた。原子力の平和利用でも実績があり、日本の経験をモデルとして世界と共有できることに大きな意味がある」と感慨深げに語った。

また、北朝鮮やイランの核問題には「対話が重要だ」と強調。北朝鮮に関し「6カ国協議が一日も早く再開されることを望む。IAEAが再び、検証の分野で重要な役割を果たせるよう全力で取り組みたい」と語った。そして、北朝鮮には「対話に向けたシグナルを送りつつも、相手側の反応を待ちたい」と、今後の経過を見守る姿勢も強調した。
イラン核問題では「残念だが、現時点では有効な話し合いの枠組みがない。IAEAに対するイランの協力を促したい」と話した。
天野氏は昨年9月に、IAEA事務局長選への立候補を表明。以来、選出プロセスは長引いたが、「選挙に初めて挑戦した。多くの人に会って新しいことを学び、自分の足りない部分を知った。アドバイスを受けては努力する経過を繰り返し、楽しい日々だった」と選挙戦を振り返った。 【7月4日 毎日】
***********************

【北朝鮮とイラン】
北朝鮮に関しては、日本が国連安保理や6カ国協議での議論を通じ一貫して北朝鮮に厳しい姿勢で臨んできた経緯から、日本人が「核の番人」のトップとなることで、北朝鮮が態度を硬化させることも懸念されています。【7月3日 時事】
また、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いは、「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答え、“穏健な事務局長にも強硬な事務局長にもならない”との姿勢を示しています。【7月4日 ロイター】

一方、“来日中のイラン国会外交政策・国家安全保障委員会のボルジェルディ委員長は4日、都内で講演し、国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が任命されたことを受けて、「(IAEAが)バランスの取れた、論理的で原則にのっとった立場を示せば、アラク重水炉の査察を許可するかもしれない」と言明した。”【7月5日 時事】とのことです。
お互いに、相手の出方を模様眺めといったところでしょうか。

 
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ミャンマー  スー・チーさん解放に向け国連事務総長訪問 成果は?

2009-07-04 12:15:07 | 国際情勢

(歴代国連事務総長 左からガリ、アナン、そして潘基文 "flickr"より By Dan Patterson
http://www.flickr.com/photos/creepysleepy/2228677329/)

【面会確約なし】
ミャンマーで裁判が行われているスー・チーさんに関しては、殆ど動きがありません。
わずかに、先月25日に軍事政権のキンイー警察長官が記者会見し、スー・チーさん自宅侵入事件の「主犯」は米国人男性、ジョン・イエタウ被告との見方を示したことが、スー・チーさんに犯意がなかったことを認めたとも取れる発言として、軍事政権がスー・チーさんへの姿勢を軟化させた可能性があるとも報じられている程度です。
しかし、これについても、地元記者の間では長官発言について「イエタウ被告の背後に反政府組織がいたと指摘しただけ」との声もあって、見方が割れているとか。【6月25日 毎日】

裁判ではスー・チーさんは「イエタウ被告が疲れ切っていたので滞在を認めただけ」と無罪を主張していますが、軍事政権側はこの事件を利用して、来年予定の20年ぶりの総選挙期間までのスーチーさん拘束継続(自宅軟禁期限はすでに切れています。)を狙っており、最高禁固5年の有罪判決が出ることが確実視されています。
当初は早期の結審も予想されていましたが、国際社会の反発もあってか、裁判の日程は大幅に遅れています。
軍事政権が国際社会の非難を和らげるため時間稼ぎをしているとも見られている状況です。

そうした状況で、先月26日には国連のガンバリ事務総長特別顧問らがミャンマー入りし、更に、今月3日には潘基文(パン・ギムン)事務総長もミャンマーを訪問して、スー・チーさんの解放を軍事政権に働きかけています。
ガンバリ事務総長特別顧問については、結局、スー・チーさんとの面会は実現できず、首都ネピドーでニャン・ウィン外相と会談し、潘基文事務総長のミャンマー訪問について協議したとだけに終わったと報じられています。

潘基文事務総長のミャンマー訪問については、“スー・チーさんの支持者や人権団体からは、事務総長が今の時期にミャンマーを訪れて政府首脳と会うことは、軍政が主張する裁判の正当性を追認することになりかねないと、懸念する声もあがる。 一方、国連側も「事務総長が訪問するからには何らかの成果がなければ意味はない」(国連幹部)と軍政側から最大限の譲歩を引き出したい考えだ。”【6月26日 産経】とも報じられていましたが、今のところ芳しい成果は出ていないようです。

****スー・チーさん面会確約得られず 潘氏、軍政トップ会談****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が3日、ミャンマー(ビルマ)を訪問し、首都ネピドーで軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長と会談した。潘氏は刑事訴追されて勾留(こうりゅう)中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんとの面会を求めたが、議長は「裁判中」を理由に即答を避けた。スー・チーさんを含む全政治犯の解放も求めたが、回答を得られなかった。

潘氏は会談後、スー・チーさんとの面会について同行記者団に「(4日夜の)出発までの回答を待っている」と述べたが、実現するかどうかは不透明な情勢だ。
潘氏は会談について「ミャンマーにかかわるすべての課題について、非常に忌憚(きたん)のない幅広い意見交換ができた」と語り、主に政治課題と人道援助の2点に絞って協議したことを明らかにした。
具体的な提案として、国連側からは、来年に予定されている総選挙までにスー・チーさんを含む全政治犯を釈放することや、人道支援の分野でのより自由なアクセス、ビザの発給の加速などを求めたという。

これに対し、軍政側からは昨年5月のサイクロン後の緊急支援やその後の人道援助など、これまでの国連と国際社会の支援に謝意が示されたという。
しかし、スー・チーさんの解放を含めた国連側の提案については、検討するとの姿勢を示したものの、いずれも即答を避けた。また、軍政側は総選挙について「公正で自由で透明な選挙となるよう保証する」と語ったとしているが、具体策については示さなかった模様だ。
スー・チーさん問題をめぐっては、裁判や刑務所での勾留がいつまで続くのかの見通しは立っていない。潘氏としては面会を実現し、スー・チーさんと軍政との直接対話や解放に向けた足がかりとしたい考えだが、タン・シュエ議長との直接会談でも面会実現の言質が得られなかったことで、現時点では手詰まりの状態となっている。【7月3日 朝日】
*****************************

なお、スー・チーさんの裁判は、3日に再開の予定でしたが、審理は1週間延期となっています。
関係者の話では、出廷を予定していたスー・チーさん側の証人2人に関する書類を裁判所が受理していないことが理由だとも言われています。

【「緊急の課題で、ほとんど実績がない」】
特別顧問に引き続いての事務総長の訪問ということで、ひょっとしたら・・・と少し期待したところもありましたが、面会すら確答を得られていない情勢で、厳しいものがあります。
この情勢では、仮に面会できても実質的な進展はあまり期待できません。
ただ、軍事政権側も国連事務総長の訪問を受け入れた以上、何らかの“手土産”を出すのでは・・・という、わずかな期待もまだ捨て切れません。手土産が面会だけだったとしたら、ちょっと悲しいものがあります。

潘基文事務総長としても、何らかの成果を出さないと、自分の評価にもかかわってきます。
任期の半分を経過して、潘基文事務総長に対する厳しい評価があります。

****潘国連事務総長「手腕に疑問」 欧米メディア酷評 任期半ば…再選に暗雲*****
5年間の任期の折り返し点を迎えた国連の潘基文事務総長に対し、欧米メディアを中心に指導力への疑問を呈するケースが相次いでいる。辛口の「通知表」を突き付けられている潘氏は、3日からのミャンマー訪問で民主化指導者アウン・サン・スーチーさんらの解放を求める方針を示しており、その手腕が改めて試されることになる。

英誌エコノミストは「あまりにも安易に、あまりにもしばしば責任逃れをしすぎる」と、指導力のなさを酷評。英紙フィナンシャル・タイムズは「国連組織の内部や各国代表部からわき上がっている批判は、彼の再選に疑問を投げかけている」と伝えた。
米外交専門誌フォーリン・ポリシーは、特に失策は犯していないものの、地球温暖化やテロ、金融危機など問題山積の中で有効な手を打てていないと論じ、潘氏側近があわてて反論に回る一幕もあった。国連高官は、潘氏とスタッフの国連職員との意思疎通に不十分さがあることは自覚しており、改善に努めているとした上で、「何もしていないかのように描かれるのは一方的すぎる」と主張した。
潘氏は訪日前、気候変動問題への取り組みについて「私の就任時には限られた指導者しか感心のなかったこの問題が、今では世界の主要テーマとなった」と自賛。1日には東京都内の東京大で対話集会に出席し、ミャンマー軍事政権に政治犯の釈放などを促した。

しかし、ある国連関係者は「紛争解決など緊急の課題で、ほとんど実績がない」と述べ、欧州の外交団などを中心に不満が高まっており、通常なら問題なく実現するはずの再選も危うくなる可能性さえ出てきていると指摘した。
一方で、「2年半前の選挙当時、ブッシュ政権は、イラク戦争をめぐり対立したアナン前事務総長への苦い思いもあり、事務総長に勝手にリーダーシップを発揮されては困るという考え方だった。それがオバマ政権となり、明らかに百八十度変わった」とし、潘氏に同情的な見方も示している。【7月2日 産経】
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【“敬譲、中庸などアジア的な価値”】
こうした欧米メディアの批判を意識して、潘国連事務総長は自国の韓国メディアとのインタビューで「自分なりに一生懸命務め、歴代事務総長のなかで最も熱心に働いているという評価もある」と語っています。

****任期折り返し地点迎えた潘基文国連事務総長*****
気候変動、食糧危機、エネルギー危機、100年ぶりの経済危機に、最近では新型インフルエンザも加わった。危機に直面し人々の国連への期待は大きくなるが、問題は容易に解決されず、自ずと国連への評価、責任者である自身への評価につながるとし、自身への厳しい評価は「謙虚に受け入れる」と述べた。
組織運営に対する評価が芳しくないことについては、「ばく大な組織で職員の文化的背景もそれぞれ異なり、同質性を維持する国家組織とは異なるため、国連は非効率的で透明ではないと非難されてきた」と説明。その上で、この2年半、改革に力を入れてきたが、今はまだ途中の段階で、進むべき道のりは遠いと述べた。(中略)
まともに対処していないと批判されたスリランカ内戦でも、強度の高い声明を22回発表していると強調。昨年5月のミャンマーのサイクロン被害では、軍部指導者に直談判し食糧支援を決め、40万人の人命を救ったことなども紹介し、「国連事務総長だけができる分野がある」と述べた。(中略)
 
アジア人の事務総長は、ウ・タント元事務総長以来、潘事務総長で2人目だ。西欧人らのアジア的リーダーシップに対する理解が不足しているのではとの指摘も、一部にはある。潘事務総長は、ウ・タント氏はミャンマー出身だが、西欧で教育を受けた西欧人だったとし、アジア的価値を完全に備える初の事務総長は自身が初めてだと述べ、敬譲、中庸などアジア的な価値に対する理解不足も、最近の自身に対する批判と無関係ではないことを示唆した。(中略)

この2年半で最も甲斐を感じたのは、2007年12月のバリ気候変動会議だったという。交渉決裂と聞き現場に駆けつけ、各国を説得した。会議場に入ると大きな拍手と声援を受け、それに後押しされ強い語調で訴えたところ、受け入れられ、気候変動問題が世界の最高のアジェンダとなったと振り返った。反対に憤怒を感じたのは、ことし1月にガザ地区でイスラエルの攻撃で炎上する国連の建物の前に立ち、二度とこのようなことが発生してはならないと世界に向け訴えたときだったという。(後略)【6月28日 聯合ニュース】
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潘基文国連事務総長が寸暇を惜しんで働いており、非常に勤勉だということは事実ですが、成果が伴っていないのも事実です。
“敬譲、中庸などアジア的な価値に対する理解不足”というのも、日本人には一定に理解はできますが、厳しい国際社会の対立を調停するうえではなかなか・・・。
今回のミャンマー軍事政権にしても、“敬譲、中庸などアジア的な価値”が通用するようには思われません。

もちろん、各国の利害が対立し、更に安全保障理事会常任理事国の強固な壁がある状況で過大な期待をすること自体に無理があります。ただ、国連事務総長としての鼎の軽重を問われる状況、ひいては国連の存在意義も問われる状況で、なんとか成果を出してもらいたいものです。


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中国  検閲ソフト『グリーン・ダム』のコンピュータへの搭載義務付けを延期

2009-07-03 22:13:43 | 世相

(ネット人口世界一となった中国のネットカフェの様子 “flickr” By TimYang.net
http://www.flickr.com/photos/38692385@N03/3627938925/)

かつて、ベルリンの壁崩壊に代表される東欧社会主義国の瓦解の際に、国境を越えて受発信される情報の影響力が強く認識されました。
支配者にとっては、市民が情報を入手し、また、広く発信する行為は、その存立を危うくするものにもなっています。

【「改革派のジャンヌ・ダルク」】
先のイランでの改革派市民の抗議行動を支えたのも、インターネットを使った“ユーチューブ”や“トゥイッター”による情報の受発信であり、これを抑えようとする当局との間で攻防があったと言われています。

****イラン:反大統領派市民の「武器」はSMSやトゥイッター****
イラン大統領選での「開票の不正」を巡り、アフマディネジャド政権への抗議行動を続ける反大統領派の市民が、携帯電話やパソコンを使って当局と攻防戦を繰り広げている。
イランでは、携帯電話は全国に普及した最も重要な通信手段だ。特に、短い文章を送受信するSMS(ショート・メッセージ・サービス)が人気で、情報交換をはじめ、以前から政権批判のブラックジョークなどの発信に盛んに使われた。
だが、選挙戦で露骨な大統領批判の文章が大量に流布し、当局は投票日前日、サービスを打ち切った。
 
こうした規制に対し、選挙戦後の抗議行動ではインターネット上のサービスが最重要の武器となった。動画サイト「ユーチューブ」▽SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)▽簡易型SNS「トゥイッター」などを駆使。抗議行動などについて情報交換し、衝突の流血現場の生々しい映像を投稿して世界に発信し、当局への圧力を強めた。
当局はネットの接続速度を落とす一方、ブログにフィルターをかけるなど閲覧を妨害。これに対し、反大統領派はフィルターの迂回(うかい)ソフトを使って閲覧を続け、逆にファルス通信や国営イラン通信など政府系メディアのホームページの閲覧を妨害するなど対抗している。(後略)【6月18日 毎日】
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アメリカ国務省は、市民の反政府抗議行動を後押しするため、トゥイッターの運営社が15日に予定していた機器の保守作業の延期を要請。クリントン米国務長官は「トゥイッターは表現手段として非常に重要。特に情報源が多くない場合、通信手段を開放し続け、人々が情報を共有できるようにすることが大切だ」と語っています。

また、“ユーチューブ”に投稿された、発砲を受けて胸から血を流して倒れ、数人に介抱されたものの吐血して死亡した女性「ネダ」の映像が世界中に発信され、「改革派のジャンヌ・ダルク」と呼ばれて、抵抗のシンボルともなりました。 (彼女はデモに参加したというより、デモに遭遇して車を降りたところで発砲を受けたとも言われていますが。)

こうした映像に政権側は神経を尖らせており、保守強硬派のファルス通信の編集局長は23日、イランの国営テレビに出演し、「あの映像は作り物だ」と語っています。【6月23日 朝日】
更に、アフマディネジャド大統領は29日、「外国メディアによる宣伝工作によって事件が政治利用されている」と、司法府に対し事件の真相究明を求める書簡を送っています。【6月29日 読売】

【ネット人口世界一 中国の情報統制】
ある意味では、イランでは比較的自由に情報のやり取りが可能であったこと、当局がそれを抑えきれなかったことが、今回のような大規模な市民運動を可能にした背景にあります。
そこで、そうした市民運動・抗議行動を恐れる支配者側は、普段からより強固な情報管理を行う必要がある・・・と考えることになります。
例えば、中国のインターネットでは、政府にとって都合が悪いサイト、あまり国民に知らせたくない情報にはアクセスできないように、厳しい制限がかかっていると言われています。
ただ、そうした“検閲”も、急速に拡大・進化するネットの現状に追いつけないようでもあります。

****中国、ネット人口世界一に 情報統制に限界、社会に変化*****
中国インターネット情報センターの統計によると、中国のネット利用者は6月末で2億5300万人に達し、米国を抜いて世界一となった。都市部の知識人に限定すればほぼ全普及しているといい、中国では、ネットはすでにテレビや新聞と並ぶほど、大きな影響力を持つようなった。中国当局は海外のホームページへのアクセスを制限し、検閲を強化するなど規制に躍起となっているが、ネットの発展の速さに追いついていないのが現状だ。

胡錦濤国家主席は6月20日早朝、北京市内の人民日報社を訪れ、同社が主催する人気掲示板・強国論壇でネットユーザーと交流した。胡主席は自らが同掲示板をよく見ていることを説明し、「ユーザーの皆さんが共産党と国家に対し、どのような意見や提案を持っているかを知るためだ」と語った。
中国の最高指導者が初めてユーザーと交流したことについては、ある中国人学者は「中国政府はネットの世論を無視できなくなった証拠だ」と分析する。中国で新聞やテレビなど主流メディアは共産党の指導下にあり、政府を批判することはない。政府が打ち出す政策が国民の支持を受けているかどうか、ネット世論が政治家の重要な判断材料というわけだ。

中国政府は2000年ごろから、ネットに対する規制を再三にわたって強化した。「金盾プロジェクト」と称して、賭博やポルノだけではなく、治安、国防、宗教など政権にとって都合の悪いニュースを封鎖、書き込みも厳しく制限した。数十万人といわれるネット警察が毎日ネットを検閲しているという。
しかし、ネットの発展は中国政府の想像を超え、情報の規制がほとんど機能しなくなっているのが実態だ。政府への批判の書き込みは各掲示板にあふれ、削除しきれなくなっている。
今年4月に世界各国で行われた北京五輪の聖火リレーは、人権団体による抗議が相次いだ。中国当局は当初、テレビ中継で抗議の場面をカットするなど情報を封鎖したが、その映像は瞬く間にネットで流れ、多くの中国人の知るところとなり、中国当局はやむなく情報公開に踏み切った。
中国メディアが5月の四川大地震や7月の昆明のバス連続爆破事件をいち早く報道したのは、ネットを前に隠しきれないと判断したためだといわれる。ネットの発展は中国社会に確実に変化をもたらしている。【08年7月27日 産経】
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【“グレート・ファイアウォール”】
上記記事にある「金盾プロジェクト」は“グレート・ファイアウォール”とも呼ばれ、すべての政治的議論論を監視するため、中国国内のインターネットを世界から隔離する計画だそうです。
【ウィキペディア】によれば、“中国国内外で行なわれるインターネット通信の接続規制・遮断する大規模な検閲システム。最終的にはパターン認識(音声認識・映像・顔認識システムなど)の技術を応用することになっており、2008年に完成する予定であったが、遅れている。
現在のところ、Webサーバへの接続の規制において、検閲対象用語を基に遮断を行なうのが特徴である。今後はデータベースのバージョンアップのみならず、パソコンのIPアドレスごとに履歴を解析し、ユーザー各人の政治的傾向を分析した上で接続の可否を判断する推論機能を持たせる予定であり、システム自体が人工知能に近付いてきている。
これは例えばサーチエンジンで「チベット」という単語を単体で調べても問題が無かったとしても、「チベット」を調べた後に「人権」を調べようとすると遮断されるといった事例がありうる、と『産経新聞』では報道された。”とのことです。

当局側は、情報管理をあきらめた訳ではなく、むしろ執拗に検閲強化をはかっています。
今年1月には、インターネット上のわいせつ情報などに対する重点取り締まりに着手する方針を決めたことも報じられていました。
“米ネット検索大手グーグルなど19のサイトについて「低俗な内容を含んでいる」として公表、批判した。中国政府は急速な勢いで拡大するインターネットへの統制を強めてきたが、今回は1カ月かけてネット上のわいせつ情報などを取り締まり、悪質な場合は閉鎖するとしている。”【1月6日 共同】

【“グリーンダム”】
そうした情報統制の一環として、国内で販売されるパソコンに有害サイトへの接続を遮断する政府指定の“検閲ソフト”の組み込みを義務付ける制度“グリーンダム”の導入が予定されていましたが、実施日7月1日の直前になって延期が発表されました。
この延期発表は、多くの国内ネットユーザーからの反対や欧米など各国政府による撤回要求が相次いだことを受けた措置とみられるとも報じられています。【7月1日 産経】

このフィルタリングソフトウェアは、単に“望ましくないコンテンツ”の閲覧を遮断するだけでなく、“違法な言葉”を含んだ“望ましくない文書”の作成もできなくするものです。
ソフトの人工知能が画像と文書をチェックし、禁止サイトのリストに頼らず内容が適当かどうかを判断するそうですが、信頼性はまだかなり低いとも報じられています。
例えば、白人のポルノ映像は検出できるが、肌の色が濃くなると判別できないとか・・・。
また、セキュリティーの点で、パソコンを無防備にしてしまう欠陥もあるとも。【7月1日号 Newsweek日本語版】

“国営英字紙チャイナ・デーリーは2日、中国工業情報省の高官が、延期は一時的な措置で「政府は最終的にはソフト搭載を義務づける。時間の問題だ」と語ったと報じた。
1日の国営英字新聞・環球時報はこの発言とはまったく対照的に「延期後の施行日も提示がなく、計画は忘れられてしまうだろう」と、今後の展開は不明だと伝えた。”【7月2日 AFP】と、今後についてはよくわかりません。

【情報管理社会】
情報管理しているのは中国だけでなく、アメリカも全ての通信を傍受・チェックしているとも言われています。
“グレート・ファイアウォール”にしても、“グリーンダム”にしても、人工知能的なものが各個人の情報を常時監視するシステムというのは、SFの世界であれば、やがて人工知能・コンピュータが人間をコントロールする世界に繋がっていく・・・ということになるのでしょうが、現実世界の将来はどうなるのでしょうか?
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パキスタン  武装勢力掃討作戦へ国民の支持 武装勢力は米国の手先?

2009-07-02 21:24:29 | 国際情勢

(パキスタン北西部スワト地区の戦略ポイントBaine Baba Ziaratを政府軍が5月に押さえました。 Baine Baba Ziaratで見張る兵士 “flickr”より By Al Jazeera English
http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/3558456117/)

これまでパキスタン政府と北西部の武装勢力は和平と戦闘を繰り返してきており、軍内部に武装勢力に近い者を抱えているとも言われる軍・政府がどれほど本気で武装勢力と対する意志があるのか、疑問も持たれていました。
ただ、このところの様相は少しこれまでとは異なるようです。

【南北ワジリスタン地区への本格攻勢へ】
パキスタン政府と北西辺境州スワート地区の武装勢力の和平協定が破棄された5月以降、パキスタン政府軍による武装勢力の掃討作戦が進められています。
今後、メスード司令官が率いる武装勢力の本拠地である南北ワジリスタン地区への本格的攻撃に取り掛かるようです。

****パキスタン軍、地上部隊で本格攻勢へ タリバーン掃討*****
パキスタン軍が、イスラム原理主義勢力タリバーンの本拠地がある北西部の部族地域に対して本格攻勢の準備を進めている。国際テロ組織アルカイダのメンバーも潜伏しているとされ、「テロの温床」と呼ばれる部族地域から武装組織の一掃に成功すれば対テロ戦が大きく前進する可能性があるが、戦闘が泥沼化する危険もはらんでいる。
軍の目標は、武装勢力との衝突が続く部族地域南北ワジリスタン地区。アフガニスタンと国境を接する両地区には、ブット元首相の暗殺などパキスタンでの多くの自爆テロへの関与が指摘されている「パキスタン・タリバーン運動」(TTP)の本拠がある。
TTPは07年12月に、同国北西部の40の武装勢力がベトゥラ・メスード司令官をトップに結成した。武装構成員は4万~5万人。アフガンの旧政権タリバーンの最高指導者オマル師に従い、アルカイダとも連携してパキスタン、アフガン両国でテロや外国軍への攻撃を繰り返してきた。

軍は約2万人の地上部隊を投入する本格攻勢の準備のため、先週から武装勢力の拠点に空爆と砲撃を加えている。
アフガンに駐留する米軍も同地区への無人機による越境攻撃を強めており、6月23日には2回のミサイル攻撃でTTPの幹部ら60人以上を殺害したとされる。これに対し、武装勢力は29日、パキスタン軍の車列を襲撃、兵士12人が死亡した。

パキスタンはこれまで、アルカイダやアフガンのタリバーンに「聖域」を与えているとの米国やアフガン政府の非難にもかかわらず、国内の反米世論や、軍事作戦による住民への被害に配慮して同地区への攻撃を控えてきた。
しかし、今年に入りTTPが北西部でイスラム法による支配を広げ、中央政府の主権を無視する姿勢をみせたことなどで風向きが変わった。TTPが首都イスラマバードの近くまで浸透し、テロによる犠牲者が増えていることも世論の変化を後押しした。
パキスタン軍は4月末以降、北西部スワート地区周辺でTTPの一部の掃討を進め、これまでに武装勢力1600人を殺害した。約250万人の国内避難民が出たが、野党も大半は軍事作戦を支持。ザルダリ政権を揺さぶっていた与野党の対立も棚上げされた格好だ。(中略)
軍事作戦が失敗すればTTPなどタリバーン系武装勢力がさらに力をつけかねない。米国主導のアフガンでの対テロ戦が泥沼化するだけでなくパキスタンの「タリバーン化」が進む危険もはらむ。【7月1日 朝日】
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【「対話再開」を求める声も】
上記記事では、“野党も大半は軍事作戦を支持。ザルダリ政権を揺さぶっていた与野党の対立も棚上げされた格好だ。”と、国内が一致結束して武装勢力掃討にあたっているとされていますが、これには異論、あるいは、裏事情があるのと報道もあります。

異論というか、掃討作戦遂行について国内で不協和音が出ていると報じているのが【6月29日 毎日】
****パキスタン:武装勢力掃討作戦、治安悪化招く結果に******
パキスタンで5月に本格化した武装勢力の掃討作戦は、国内各地で治安の悪化を招く結果となっている。これまで平穏だったパキスタン地震(05年)の被災地、北西辺境州バタグラム地区や北部カシミール地方で初の自爆テロが発生。同州南部でも、政府の「代理掃討役」として組織されたばかりの民兵組織トップが暗殺され、武装勢力の勢力拡大が止まらない。与党連合内には、武装勢力との「対話再開」を求める声が出始めた。

地元警察への取材によると、バタグラムでは22日、北部ベシャンから来た乗用車が警察の検問所で自爆。警官3人が死亡。北部カシミールのムザファラバードでは26日、軍の宿舎前で男が自爆、兵士2人が死んだ。
両地域はイスラム原理主義色が強いが、市民社会は武装勢力と一線を画してきた。しかし、同州スワート地区で軍事作戦が始まって以降、学校や病院などの再建が遅れていることを巡る政府への不満の高まりを背景に、武装勢力が逃げ込むなどしている。(中略)

さらに、政府が6月上旬に武装勢力封じ込めの「切り札」として組織した民兵組織のザヌディン・メスード司令官がデラ・イスマイルハーンの自宅で護衛に射殺され、有力メンバーが次々と離脱して組織は事実上崩壊した。同氏は、米国が賞金500万ドルを懸けた武装勢力のベイトラ・メスード司令官と同じ部族の出身。政府は武器を供与して戦わせ、内部崩壊を企てようとしたが、出はなをくじかれた。

政府が軍事的攻勢を強めれば強めるほど、武装勢力は反撃を強化し、治安は悪化する悪循環に陥っている。イスラマバードの国連機関などは、イラクやアフガニスタンと同様にコンクリート防護壁で周囲を取り囲み、自衛策を講じ始めた。
こうした中、与党連合に参加するイスラム政党は「対話を再開しなければ、パキスタンは分裂する」との危機感を訴えている。【6月29日 毎日】
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どちらが実態に近いのかはわかりませんが、武装勢力の拡大・テロ増加でこれまで以上に武装勢力に厳しい対応を求める声と、その結果としても治安悪化を懸念する声、その両方があるのは事実でしょう。
また、国民の掃討作戦への支持も一定に集まっているようです。

【「武装勢力は米国の手先」】
そのなかで、政府・軍は攻勢を強めている訳ですが、その背景について、ちょっと驚くような記事もあります。
政府の情報戦術によって、反米武装勢力に「米国の手先」とレッテル貼ることで、反米感情が強い国民の支持を取り付けているとのことです。

****パキスタン:「武装勢力は米国の手先」政府が情報戦 国民が作戦支持*****
 パキスタン政府と北西辺境州スワート地区の武装勢力の和平協定が破棄された5月以降、戦闘はアフガニスタン国境全域に拡大している。ただこれまでの掃討作戦と大きく異なるのは、国民の多数が政府の軍事行動を「支持」している点だ。背景には、本来は反米武装勢力に「米国の手先」とレッテルを張ることで、国民と武装勢力を離反させる政府側の情報戦術が垣間見える。

米政府が3月、最高額500万ドルの賞金をかけたパキスタンの武装勢力を束ねるベイトラ・メスード司令官。アフガンの武装勢力タリバンと連携し、国境地域で最も米国への敵対心を見せる人物だ。
ところが今回の掃討作戦開始後、国内各地で「メスードは米国のエージェントだ」との流言が駆け巡った。さらにスワート地区の武装勢力の精神的指導者ファズルラ師らについても「米国の手先」とのうわさが広がった。
政府軍の掃討作戦が続くスワートなどから逃れてきた人々は、一様に武装勢力に同情的だ。そうした中、避難民を自宅などに受け入れているマルダン地区の地区評議会議員、ラシド・ハタク氏(45)は、「ファズルラ師らは武装解除せず勢力を拡大し、和平をつぶした。和平に反発する米国の手先だからだ」と避難民や地域住民らを前に叫んだ。
同様の発言を地域のリーダーたちが次々と行う中、政府の姿勢に多くの支持が集まっていく。ペシャワルの商店主、ファタクさん(37)は「武装勢力がいなくなれば米国はこの地域からいなくなり、国は発展する」と言った。武装勢力が武装解除に応じず、一般市民を巻き込む自爆テロが増えるにつれ、流言はより信ぴょう性を持たれるようになった。
「米の手先」情報について、元政府軍高官は「武装勢力と国民を切り離すのに最も効果的だ」と指摘。国民に根強い反米意識を逆手に取る政府の巧みな工作の可能性があるとみる。国民の支持を取り付けるという政府側の狙いは一定の効果を上げているといえそうだ。(後略)【7月2日 毎日】
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こうした反米を基調にした情報戦術で当座はしのげても、やがてアメリカが展開するアフガニスタン・パキスタンの包括的戦略とはいずれ齟齬をきたすことが出てくるのでは・・・とも思えます。

【攻勢か対話か】
いずれにしても、「武装勢力の大半は空爆が始まった直後、ひげをそり、髪を短く切り逃げた。誰が武装勢力か見分けもつかず、和平に後戻りできない状況になっている」(【7月2日 毎日】)との声もあり、北西部での戦闘が激化するほど、パキスタン全土で、テロによる治安悪化が進みそうです。
それに伴い、2番目に引用した記事のような「対話再開」を求める声も強まるでしょう。
また、民間人犠牲者や難民も更に増加します。
パキスタン政府・軍が、どこまで掃討作戦を続けられるか、どこかでまた「対話再開」となるのか・・・よくわからないところです。

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