孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア「ボコ・ハラム」 支配地域は縮小したものの、テロは周辺国にも拡散

2015-11-19 22:40:57 | アフリカ

(「ボコ・ハラム」が活動するチャド湖周辺の風景 沼地を行くラクダというのも、日本ではイメージできない光景です。 “flickr”より By Maris Davis Joseph https://www.flickr.com/photos/marisdavis/22782039351/in/photolist-zcdf4F-A7iKKs-BeyAE1-BdGFvx-AHaUzV-AMkESw-AqRMj8-AdsZ3f-A1y9yd-AqREXF-B8MLWY-zWJCb3)

同じ発想による「日系人の強制収容」と「難民受け入れ拒否」】
最初に、昨日のブログで取り上げた難民に関する記事をひとつだけ。

****<米国>日系収容例えに難民支援を中断 ロアノーク市長****
米南部バージニア州ロアノーク市のデビッド・バワーズ市長は18日、パリ同時多発テロなどを受け、シリア難民の受け入れ支援を中断するとの声明を発表した。

市長は、第二次世界大戦中に米政府が安全保障上の脅威を理由に日系人を強制収容したことを引き合いに出し、中断の必要性を説明した。しかし、米政府は戦後、日系人の強制収容を謝罪しており、声明は批判を浴びそうだ。

声明は、パリ同時多発テロや首都ワシントンを攻撃するとの脅迫などを挙げ、シリア難民の受け入れ支援は「これらの戦争行為や残虐行為が終わるまで」中断すると表明した。

そのうえで「ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃の後、日本国籍の外国人たちを隔離せずにいられなかったことを思い出す」と指摘。過激派組織「イスラム国」(IS)による脅威は当時と同様に深刻だとの認識を示した。

米政府は第二次大戦中、日系人約12万人を「敵性外国人」として強制収容所に送った。うち3分の2は米国生まれで市民権を持つ2世だった。

しかし、米議会の調査委員会が1983年に強制収容は人種差別、戦時ヒステリーだったとする報告書を発表した。88年にはレーガン大統領が基本的人権の侵害だったと認め謝罪する日系アメリカ人補償法に署名するなど、米政府として謝罪している。

一方、西部ワシントン州のインズリー知事は18日、米公共ラジオのインタビューで、日系米国人の強制収容について、不適当な判断であり、米国の基本姿勢と合致しないものだったと指摘。「そのようなことを今すべきではない」と語り、米国はシリア難民の受け入れを続けるべきだとの姿勢を示した。【11月19日 毎日】
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日系人の強制収の例えは、日本人にとっては非常にわかりやすいものがあります。
「何かしでかすかもしれない敵性外国人」として日系人を強制収容した措置に対し、これを不当と考えるのであれば、「イスラム教徒はテロを行うかも・・・」という考えでイスラム教徒全体を敵視・排斥するような動きに対してもやはり不当と批判すべきでしょう。

パリ同時テロ犠牲者は世界各地のテロ犠牲者のほんの一部
ところで、パリ同時テロ以来、すべてのメディアはこの事件一色の感もあり、国家レベルでも、フランス・ロシアなど関係国で動きが見られます。

もちろんパリ同時テロが重大事件であることはいうまでもありませんが、ちょっと違和感もなくはありません。「あまのじゃく」かもしれませんが・・・。

****なぜパリばかり注目」=アラブ世界に違和感―仏同時テロ****
13日に起きたパリ同時テロをめぐるニュースが連日、世界で大々的に報じられている。

一方、アラブ世界では、今回のテロをはるかに上回る犠牲者がシリア内戦などで毎日出ているが、パリほど注目されない。人々の間では「なぜフランスの事件ばかり関心が集まるのか」と違和感が広がっているようだ。

アラブ世界のイスラム教徒の間でも、129人が犠牲になったパリ同時テロへの関心は高い。市民からは、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」を非難し、突然の凶行で命を落とした人々やその遺族らへの同情の声が聞かれる。

ただ、その1日前の12日にレバノンの首都ベイルートで起き、40人以上が死亡した連続自爆テロは、あまり各国メディアで報じられていない。クウェート紙アルライは「レバノンの人々は、世界にとってレバノンの犠牲者はパリと同等でなく、忘れ去られたと感じている」と伝えた。

エジプト紙アルワタンも「アラブ諸国では毎日人々が死傷しているのに、なぜフランスばかりなのか」といったフェイスブック投稿者の違和感を伝えるコメントを掲載。

町の喫茶店では「世界は二重基準だ」と不満の声が聞かれたことにも触れ、「強い国は注目され、弱い国は(強い国より)悲惨な事件が起きても目を向けられないものだ」と語る大学教授の見解を紹介した。

フェイスブックでは、プロフィル写真上にフランス国旗を映し出す機能が搭載され、世界中で多くの人がこれを利用している。こうした中、エジプトの著名俳優アデル・イマム氏は「フランスよりレバノンの方が(エジプトに)近い。だから私は連帯を表明する」と述べ、自らの写真にレバノン旗を重ねた。【11月18日 時事】 
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テロはパリやベイルートだけでなく、世界各地で連日起きています。
2014年の1年間にテロの犠牲となった者は世界で3万人を超えます。欧米で起きているテロは、そのなかのごく一部に過ぎません。

****世界のテロ犠牲者3万人超、過去最悪に 14年報告書****
17日に発表された世界のテロ動向報告書によると、2014年のテロによる犠牲者は前年より80%増えて3万2658人に達し、過去最悪となった。同報告書は、フランスのパリやレバノンのベイルートで起きたようなテロが世界に拡大する現状を浮き彫りにしている。

報告書は米メリーランド大学の集計をもとに、シンクタンクの経済平和研究所がまとめた。それによると、14年に発生したテロの78%はパキスタン、ナイジェリア、アフガニスタン、シリア、イラクの5カ国に集中。しかしテロが世界に拡大する中で、発生国の数も犠牲者数も過去最多を記録した。

テロは過去15年で激増し、14年の犠牲者数は2000年の9倍に上る。犯行声明が出されたテロでは、イスラム過激派「ボコ・ハラム」と過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」による犯行が51%を占めた。

イラクのテロによる同年の死者は9929人に達し、1国の犠牲者としては過去最悪。増加数が最も高かったナイジェリアの死者は7512人となり、前年の4倍を超えた。

500人を超す死者が出た国の数は、5カ国から11カ国に増えた。この中には、289人を乗せたマレーシア航空機がミサイルで撃墜されて墜落したウクライナも含まれる。

一方、欧米では2001年の米同時多発テロを除けば、2000年以降のテロによる年間の死者は、世界全体の0.5%にとどまっている。

欧米で起きているのは主に過激派や国粋主義者、白人至上主義者などが単独で引き起こす「一匹オオカミ」型のテロで、2006年以来の死者の70%がそうした犯行による犠牲者だった。

世界の経済損失は過去最高の529億ドル(6兆5300億円)となり、13年比で61%増、2000年に比べると10倍を超す。

テロは難民や避難民を発生させる重大な要因にもなっていると報告書は解説。「テロの影響が大きい11カ国のうち10カ国では、難民や国内避難民の比率も高い。これは現在の難民危機と、テロ、紛争との間に強い相関関係があることを物語っている」と指摘する。

テロを引き起こす2大要因としては、政治的暴力と衝突を挙げた。1989~2014年のテロの92%は、国家の関与する政治的暴力が横行する国で起きていた。

ISISの台頭も著しい。イラクとシリアへは2011年以来、推定100カ国から2万5000~3万人の外国人戦闘員が流入した。この流れが衰える兆しはなく、2015年1~6月だけで7000人以上が流入したと推定している。【11月18日 CNN】
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ナイジェリアで支配地域を減らした「ボコ・ハラム」 周辺国に活動拠点を移し延命
ISと並んでテロの最多要因となっているのがナイジェリアの「ボコ・ハラム」。
その支配地域は縮小しているものの、最近でもテロ活動は頻発しており、その地域もナイジェリアに隣接する国々に及んでいます。

****周辺国に飛び火したボコ・ハラムの野望****
ナイジェリアを拠点とするイスラム武装組織ボコ・ハラムの掃討を最優先課題に掲げたブハリ政権の発足から半年。掃討作戦は大きな成果を挙げ、国内でのボコ・ハラムの支配地域は劇的に縮小した。

ただし彼らの息の根を止められたわけではない。ボコ・ハラムはナイジェリアに隣接する国々に活動拠点を移し、延命を図っている。

標的とされるのは、今年3月にナイジェリアと共同でボコ・ハラム掃討作戦を行ったカメルーンやチャド、ニジェ
ール、ペナンといった周辺国だ。

チャドでは先週、3件の自爆テロが相次ぎ、40人以上が死亡。チャド政府はカメルーンやナイジェリアなどとの国境に近いチャド湖周辺に非常事態宣言を出した。
アメリカが先月、300人の派兵を発表したカメルーンでも先週、自爆テロが発生した。

周辺国への攻撃は、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に忠誠を誓い、西アフリカでのカリフ制国家樹立を目指すボコ・ハラムの方針とも一致している。ブハリが勝利宣言できる日はまだ遠そうだ。【11月24日号 Newsweek日本版】
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歓迎すべきニュースもなくはありません。
ボコ・ハラムの支配地域が縮小したことで、このところ、ボコ・ハラムにかつて拉致されていた人々の解放も実現しています。

****子どもや女性338人救出、ボコ・ハラム拠点から ナイジェリア****
ナイジェリア軍は28日、イスラム教過激派組織「ボコ・ハラム」の拠点、北東部ボルノ州のサンビサ森林地帯近くに拘束されていた338人を解放したと発表した。 

同軍は27日、サンビサ森林地帯周縁の2つの村にあるボコ・ハラムの拠点とされる複数の宿営地を襲撃、作戦を実行した。ボコ・ハラム戦闘員みられる30人を殺害し、武器・弾薬を押収した。

解放された人質338人の192人が子どもで、138人が女性だった。サンビサ森林地帯には、昨年北東部のチボクで拉致された女学生約200人が拘束されていると考えられているが、今回救出された人質の中に、この女性らが含まれているのかは不明だ。

ナイジェリア軍が公開した写真には、赤ちゃんを抱いた女性の数人の姿もあった。【10月29日 AFP】
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そもそも、何百人もの女性・子供を人質にしている部隊が、なぜ容易に発見されないのか・・・という疑問は感じますが、なにぶん通信・交通手段も極めて限られた地域のようですから・・・・。

一方、テロの方は17、18日にも連続して起きていますが、ボコ・ハラムは拉致した少女を使った自爆テロを繰り返している点でも卑劣極まりないものがあります。

****ナイジェリア 爆発物着けた少女の自爆テロ****
西アフリカのナイジェリアで、少女が身に着けた爆発物を爆発させる自爆テロなどが相次いで、40人以上が死亡し、イスラム過激派組織ボコ・ハラムによる犯行とみられています。

ナイジェリア北部の都市カノの市場で、18日、若い女2人が身に着けた爆発物を相次いで爆発させ、近くにいた人少なくとも12人が死亡、およそ60人がけがをしました。

警察によりますと、2人はいずれも頭や体の線を隠すベールを着ていて、1人は10代前半の少女だったということです。

ナイジェリアでは、過激派組織IS=イスラミックステートに忠誠を誓うイスラム過激派組織ボコ・ハラムが、警戒されにくい女性や子どもに爆発物を身に着けさせ、人混みで爆発させるテロを繰り返していて、今回も同様の手口とみられています。

ナイジェリアでは前日の17日にも北東部の都市ヨラの市場で爆発があり、子どもを含む32人が死亡、80人がけがをしたばかりです。

ボコ・ハラムは、過激派組織の壊滅を掲げるブハリ大統領がことし5月に就任してからも、市民を狙ったテロを激化させ、この半年の犠牲者はおよそ1000人に上るほか、隣国のチャドやカメルーンにも勢力を拡大していて、壊滅の見通しは立っていません。【11月19日 NHK】
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過激思想の温床となる社会の改革が求められるブハリ大統領
ボコ・ハラムのような勢力が台頭したのは、ナイジェリア北部イスラム教徒が開発の恩恵に浴することなく貧困の中に置き去りにされてきたという、腐敗と汚職にまみれたナイジェリアの政治に根幹があります。

ブハリ大統領には、単に軍事的にボコ・ハラムを討伐するだけでなく、国民が平等に豊かになれる社会の実現、腐敗・不正の一掃が期待されています。

ブハリ大統領は1980年代に軍事クーデターで実権を握ったことがありますが、そのときは「綱紀粛正」を掲げたものの、強権的支配に陥り、また、無理な緊縮政策で経済混乱を招いて失脚しています。

今回は、経済面の実務家を閣僚に起用するなど、前回の失敗から学んだところもあるようです。
ただ、就任から半年でようやく組閣というのは・・・いろいろと内部事情もあるようです。

****就任半年、ようやく組閣=実務家重用―ナイジェリア大統領****
ナイジェリアのブハリ大統領は11日、5月末に就任してから約半年かけてようやく組閣にこぎ着けた。

内閣不在の間、長引く原油価格安などで経済は一段と減速した。重要閣僚には投資銀行出身者など実務家がずらり並んでおり、今後は速やかな改革実行が問われそうだ。

ブハリ大統領は要の財務相に地元投資銀行幹部などを歴任した女性のアデオシュン・オグン州財務長官を抜てき。米石油大手エクソンモービル出身のカチク国営石油会社(NNPC)社長に、石油担当相を兼務させた。

インフラ整備を一手に担うファショラ電力・公共事業・住宅相は、前ラゴス州知事として最大都市ラゴスを西アフリカの一大ビジネス拠点に発展させた実績を買われた。

実務家を要所に配した布陣を、前ナイジェリア中銀副総裁のモガル米タフツ大教授は「有能な人物による堅実内閣」と評価した。

だが、ここに来て経済を取り巻く状況は厳しさを増している。原油安による通貨安圧力を抑え、外貨準備の減少を防ぐために中央銀行は外為市場規制を導入。国内は著しい外貨不足に見舞われている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)ラゴス事務所の宮崎拓所長は「決済の遅延など、日系企業も含めて事業に影響が出ている」と懸念を示した。

組閣に時間がかかった背景には、閣僚候補の不祥事などに関する「身体検査」のほか、宗教の違いや多くの部族を抱える大国特有の地域バランスへの配慮、与党・全進歩会議(APC)内の調整などに手間取ったためとされる。 【11月14日 時事】
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パリ同時テロで更に遅滞する難民受け入れ 勢いを増す反移民勢力

2015-11-18 22:48:37 | 難民・移民

(2015年に海を渡ってイタリア・ギリシャに到着した難民・移民は75万人超、EUがイタリア・ギリシャからの移転を約束したのが16万人、受け入れ可能場所は1418人分、11月4日時点で実際に移転が完了したのは116人で目標の1000分の1未満 【11月6日 CNN】)

移民・難民政策への批判を強める欧州各地の極右政党
欧州各国の難民受け入れは進んでいません。

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EUは、押し寄せる人々のうち、今後2年間に難民申請をする計16万人を、各国で分担することを決めたが、これまで受け入れられたのは130人にとどまっている。

受け入れが進まない理由の一つはまさに、イスラム過激派の思想に感化された若者によるテロの脅威だ。今年1月に17人が死亡したパリの連続テロ事件以降、欧州では移民系の若者によるテロが相次ぎ、中東欧を中心に「イスラム教徒の難民にテロリストが紛れ込み、テロを起こす」との警戒感が強い。【11月15日 朝日】
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押し寄せる難民・移民に対する反感・警戒感が高まる欧州にあって、パリ同時テロはイスラム教徒への警戒感を強めることで難民受け入れを一層難しくするであろうことは事件直後から予想されていましたが、テロ実行犯の一人がシリア難民ではないかと指摘されたことで、難民受け入れを拒否する動きが更に強まっています。

事件の起きたフランスでは、さっそく極右、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が受け入れ中止を要求していますが、他の国々でも同様の動きが見られます。

****パリ同時多発テロ】仏極右政党「移民受け入れを即刻やめろ」 反移民勢力、支持拡大に動く****
パリ同時多発テロを受け、欧州各地の極右政党などポピュリスト(大衆迎合主義者)勢力が欧州の移民・難民政策への批判を強めている。実行犯の一人がシリア旅券を所持し、難民にまぎれて欧州連合(EU)域内に入り込んでいた可能性があるからだ。「反移民」の支持拡大に利用しようとの思惑がうかがえる。

フランスの極右、国民戦線(FN)は16日、声明で「ジハーディスト(聖戦主義者)が移民にまぎれてわが国に入っている」とし、「移民の受け入れを即刻やめるべきだ」と主張した。

FNのルペン氏は世論調査で3割前後の支持率を維持。最大野党の保守系、共和党のサルコジ党首、オランド大統領を引き離している。2017年の次期大統領選の前哨戦として12月に行われる地域圏選挙でも躍進するとみられ、テロが追い風となる可能性がある。

オランダ極右政党、自由党のウィルダース党首もテロ後、「オランダの国境をいますぐ閉じろ。国民を守れ」とルッテ首相に対して要求した。欧州の移民・難民流入問題の深刻化を受け、自由党の支持率も急伸しており、強気の姿勢だ。

英国独立党のファラージュ党首も16日、「大量の移民や文化間の亀裂を抱える英仏や欧州諸国は過ちを認めるときだ」と述べた。

一方、EUの難民申請者の受け入れ分担策に反対したハンガリーのオルバン首相は16日、「(移民らの)全員がテロリストだとは思わないが、どれほどのテロリストが入ったかは誰も確答できない」と懸念した。

ポーランドでは反移民などを掲げて10月の総選挙で勝利した保守系「法と正義」の新政権が16日に発足。難民受け入れ分担策への合意撤回について、シドゥウォ首相は「合意は尊重するが、市民の安全が優先だ」と含みを残した。【11月17日 産経】
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こうした動きに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民をスケープゴートにするべきではない」と訴えています。

****UNHCR「難民をスケープゴートにするな」 テロ受け****
パリ同時多発テロを受けて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、「難民をスケープゴートにするべきではない」などと訴える見解を出した。

テロの実行犯が欧州に殺到する難民らに紛れ込んでいたとの疑惑が浮上したことから、一部の国々が難民流入を阻止する動きを強めていることに懸念を表明。「欧州に来つつある難民の圧倒的多数は、紛争による生命の危険などから逃れるために避難している」と主張した上で、「難民を、最悪の悲劇の第二の被害者にしてはならない」と求めた。【11月18日 朝日
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これまで難民受け入れを牽引してきたドイツにあっては、事件後もメルケル首相などは難民政策の見直しなどには触れていません。
触れてはいませんが、強いメッセージも今のところ聞こえてこないような気もします。

オバマ大統領「責任を果たさなければならない」 共和党との政治抗争にも
そうした難民受け入れ反対の声が強まるなかで、受け入れ継続をアピールしたのがアメリカ・オバマ大統領です。
ただ、反対の声も共和党サイドを中心に高まっています。

****難民受け入れ、反対論強まる=米大統領「責任果たす****
パリ同時テロの実行犯とされる1人が難民に紛れて欧州に入域した疑いが浮上したことを受け、移民国家の米国でもシリア難民受け入れに反対する声が強まってきた。

オバマ大統領は「責任を果たさなければならない」として、2016会計年度(15年10月〜16年9月)に1万人を受け入れる方針を変えていないが、今後の展開次第では見直しを迫られる可能性も出てきた。

反対論を最初に声高に唱えたのは、保守層の世論に敏感な大統領選の共和党候補だ。マルコ・ルビオ上院議員は15日のテレビ番組で「難民はこれ以上受け入れられない」と主張。「問題は身元確認ができないことだ。シリアには(調査のため)電話する相手がいない」と説明した。

共和党指名レースで首位争いを繰り広げる元神経外科医ベン・カーソン氏も「米国に連れてくるのは思考停止。とてつもない間違いだ」と大統領の方針に反対。不動産王ドナルド・トランプ氏は「私が(大統領選に)勝てば、シリアから来た人々を(本国に)送り返す」とさらに強硬だ。

一方、テッド・クルーズ上院議員は「キリスト教徒なら、テロを起こすリスクはない」と、キリスト教徒に限って難民と認定すべきだと主張。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も「キリスト教徒に努力を集中させるべきだ」と同調している。【11月17日 時事】 
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また、共和党知事の多くの州も受け入れ反対を表明しています。

****31州の知事が反対=米のシリア難民受け入れ****
パリ同時テロの実行犯とされる1人が難民に紛れて欧州に入った疑いが出ていることを受け、米国でシリア難民の受け入れに反対を表明した州知事は17日までに、全体の半数を超える31人に達した。CNNテレビが報じた。賛成派の知事は7人にとどまっている。

こうした情勢を受け、マクドノー大統領首席補佐官らオバマ政権高官は17日、州知事34人と電話会議を開催。「大統領は米国民の安全が最優先だ。最も厳格な身元調査を受けた難民以外は入国させない」と語り、1年間でシリア難民1万人を受け入れる政権の方針に理解を求めた。【11月18日 時事】 
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広がる難民受け入れ反対論に、オバマ大統領は「ヒステリー」との批判も。

****米政府、34州に難民受け入れ要請 オバマ氏「ヒステリー」と批判****
・・・・・一方、バラク・オバマ米大統領も、シリア難民がもたらす安全保障上の危険性についての「ヒステリー」が米国内で広がっていると批判。

「(反対派は)夫を亡くした女性や孤児が米国に入ってくることを恐れているようだ」と述べた。【11月18日 AFP】
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ただ、次期大統領選挙も絡んで、オバマ大統領対共和党の政治抗争ともなっています。

****シリア難民受け入れ停止求める 米下院議長、法案提出へ****
米下院のライアン議長(共和党)は17日、パリ同時多発テロを受け、オバマ政権の年間1万人のシリア難民を受け入れる計画について「テロリストに我々の思いやりを利用させるわけにいかない」と述べ、停止を求める考えを示した。

ライアン氏は記者会見で「気の毒に思うことより、いまは安全を優先すべき時だ」と強調。「テロリストが難民に紛れて侵入できないよう確認するため、難民(受け入れ)計画を停止するのが、賢明で責任ある行動だ」と述べ、下院に計画停止を求める法案の提出を検討していることを明らかにした。

ライアン氏はまた、オバマ大統領が過激派組織「イスラム国」(IS)を「封じ込める」と発言していることを念頭に、「単に封じ込めるだけでは不十分で、打倒しなければならない。だが、現在はその包括的な戦略がない」と現政権の戦略を批判した。【11月18日 朝日】
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社会の偏見こそがテロの温床
確かに受入難民の中にテロリストが紛れ込み、国内で事件を起こすことは十分あり得ます。その点を心配するのはわかります。

しかし、だからといって難民を締め出すとか、キリスト教徒だけ受け入れるといった、イスラム教徒全体を敵視して「危険な連中」と見なすような考えこそが、難民・イスラム教徒を社会から疎外し、彼らを過激なテロへと走らせる最大の要因であり、将来のテロの温床をつくりだすものだと言えます。

テロを生まない社会は、一部狂信的な者による不幸な事件がその過程においてあったとしても寛容の精神をゆるぎなく維持することで可能となると思われます。

テロを恐れて難民を締め出したとしても、締め出された人々の怒り・不信感は、やがてより深刻なテロとなってその国の偽善と欺瞞に襲い掛かることでしょう。

****移民への偏見、過激行動の一因****
ダニエラ・クリムケ独ハンブルク大学教授(国際テロ・犯罪学)

パリの同時多発テロは1月の仏週刊新聞社襲撃に比べて脅威の拡散という点でも桁違いだった。欧州の難民政策も大きな影響を受けるだろう。すでにポーランドが欧州連合(EU)の難民受け入れ分担に反対するなど波紋が広がっている。

シリアなどから流入する難民の中に、過激派組織「イスラム国」(IS)の息のかかった者が紛れ込んでいないか、警戒する必要はある。しかし、問題の本質は欧州諸国が長い間、移民らの社会統合に力を注いでこなかったことにある。

フランスはドイツと並ぶ移民大国だが、社会統合策が成功しているとはいえない。むしろ社会の偏見は強まっている。移民らの大半は経済社会の中心にはなれず、常に不満を抱えている。これが彼らの孤立化を助長し、過激な行動に走らせる一因ともなっている。

移民の側も西洋社会がイスラム社会を敵視していると主張する代わりに、溶け込めない理由を受け入れ先の人々に根気強く訴えていかなければならない。

イスラム過激派とイスラム教は、区別して考えなくてはならない。だが、テロの脅威にあおられて感情論に傾けば、その重要な区別は容易にできなくなってしまうかもしれない。二つを結びつけて外国人排斥を訴えてきた右翼勢力などにとって、今回のテロは願ってもない機会になってしまう。【11月18日 朝日】
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これまで欧米社会は人道主義や寛容の精神を価値あるものとしてきました。

今回事件によって欧州・アメリカにおいてイスラム教徒社会に対する偏見が強まり、難民受け入れが困難となるのであれば、事件を起こしたテロリストたちは実に効果的に欧米社会の欺瞞を暴き、その根底を揺さぶる一撃を与えた、彼らのテロは大成功だったと言えるでしょう。
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パリ同時テロを受けて強まる米仏、ロシアの対IS作戦 シリア内戦の政治解決に向けた動きも加速

2015-11-17 23:06:34 | 中東情勢

(14日、ウィーンで開かれた多国間外相級協議に出席したケリー米国務長官(中央)とロシアのラブロフ外相(奥右)ら(AP=共同)【11月15日 共同】 
ウクライナ問題で国際社会からはじき出されたロシアですが、すっかり国際社会の中央に復帰したようです。)

ウクライナ問題の幕引きを図るロシア
ウクライナが解決しないうちにシリアにも・・・と活発なロシア・プーチン大統領の戦略ですが、ウクライナではこの数か月戦闘はほとんど行われていません。

さしものロシアも原油安と経済制裁のなかで二正面作戦を続行するのは負担が重すぎ、ウクライナでは出口を模索していると思われます。

****ウクライナ・シリア「2正面作戦」の撤収を図るプーチン****
ウクライナ東部は停戦順守

シリア空爆とは対照的に、ウクライナ東部の戦闘は下火になり、停戦合意はほぼ順守されている。ウクライナ政府軍と東部親露派は10月、小火器の撤去を行った。戦車など重火器類も既に、前線から15キロまで遠ざけられた。昨年4月に始まった東部の戦闘の死者は双方合わせて8000人を超えたが、今年2月の停戦合意がようやく履行されつつある。

その背景には、東部の武闘派指導者が穏健派に交代したことがあろう。主戦派のモズゴボイ野戦司令官が5月に何者かに暗殺され、その後親露派指導部内で武闘派の退潮が続いた。親露派は11月に強行するとしていた独自の地方選挙を来年に延期した。いずれもロシアが背後で画策した可能性がある。

モスクワ・タイムズ紙(10月18日)は、「ロシアのウクライナ東部介入は裏目に出た。ウクライナ軍は予想以上に善戦し、西側は予想以上に対露制裁で結束した。

プーチン大統領は東部親露派の主張を軽視するようになり、自らもウクライナ南東部のノボロシア地域を取り戻すという構想を放棄したようだ」と書いた。

プーチン大統領は当面、不利な2正面作戦を避け、シリアで攻勢に出て、ウクライナ東部では戦術的撤退を選択しつつあるようだ。(後略)【10月30日 名越健郎 フォーサイト】
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独自の地方選挙を強行しようとするなど、ミンスク合意を台無しにしかねない強硬な東部親ロシア派は、もはやプーチン大統領にとっては邪魔な存在ともなりつつあるようです。

****プーチン大統領のシリア介入に悲鳴上げる親ロ国****
縮小に向かうドンバス(ウクライナ東部)事業
・・・・ロシアの目的は2月のミンスク停戦合意に表われているように、この地域に自治権を付与して、ウクライナ内にとどめることにある。そうすることで、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止し、かつ財政はウクライナ側に負わせることができる。

実現すれば、ローコスト・ハイリターンな事業となる。そのため、ロシア政府はドンバスの人民共和国の「国家承認」や「ロシア連邦への編入」を考えていない。(中略)

人民共和国内のロシア編入派が排除されている。例えば、ドネツク人民共和国のナンバー2であるプルギン人民議会議長が議長職から解任されるという事件が9月に起きている。

プルギン氏は、ウクライナ側との武力衝突で功績があった人物で、人民共和国内でロシア編入派の急先鋒だった。親ロ的であろうと、こうした人物は、今のロシア政府にとって迷惑な存在である。【11月10日 藤森 信吉氏 JB Press】
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ロシアの厳しい財政事情のもとで、ウクライナ東部やモルドバの沿ドニエストルなど親ロシア派勢力は「仕分け作業」の対象となっているようです。

ウクライナについては、11月に入っても関係国の間で協調的な方向で動いています。

****停戦履行なら対ロ制裁解除=米長官****
ケリー米国務長官は2日放映のロシア・テレビ局「ミール」のインタビューで、ウクライナ東部情勢に関し、2月の停戦合意が完全履行されれば対ロシア制裁を解除する考えを示した。(後略)【11月3日 時事】
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****重火器撤去完了「12月初旬」・・・ウクライナ東部****
ウクライナ情勢を巡り、独仏露とウクライナの4か国の外相は6日、ベルリンで会談した。

独DPA通信などによると、ドイツのシュタインマイヤー外相は、ウクライナ政府軍と親露派武装集団がウクライナ東部からの重火器の撤去を12月初旬までに終えることで合意したことを明らかにした。今年2月、双方による停戦合意で重火器の撤去が決まっていた。【11月7日 読売】
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ただ、戦闘はおさまっても、ウクライナ政府は破綻寸前の財政という難題を抱えており、債権国ロシアの協力が望めないなかで苦しい状況にあると見られていました。

しかし、これについても情勢は急変したようです。

****プーチン氏、突然柔軟に・・・・ウクライナ債務見直し****
ロシアのプーチン大統領は16日、主要20か国・地域(G20)首脳会議閉幕後の記者会見で、ウクライナが抱える30億ドル(約3600億円)の対ロシア債務について、12月に迎える返済期限の見直しに応じる用意があると表明した。

ウクライナは2014年3月に南部クリミアを併合したロシアと対立しているが、13年12月に30億ドルの財政支援をロシアから受けており、その返済を求められている。ウクライナ問題をめぐるロシアと米欧の関係悪化が続く中、プーチン氏は経済状況が厳しく返済が困難なウクライナに突然、柔軟な姿勢を示し、国際社会の意表をついた。

大統領は30億ドルについて年内の一括返済は求めず、米国か欧州連合(EU)、国際金融機関が返済を保証することを条件として、16年から18年までの3年間に10億ドルずつ返済する案を示した。【11月17日 読売】
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介入するにしても、撤収するにしても、なかなか機敏なプーチン大統領です。
いずれにしても、ロシアのウクライナからの撤収の方向は一段と明確化したように思えます。

国際テロへ方針転換したISに対し、ロシア・米仏が軍事対応を強化
ウクライナから抜け出したロシアが向かう先はシリアです。
かねてよりシリアへの介入を強めていたロシアですが、テロの脅威が表面化したことで更に対応を強めるものと思われます。

ただ、泥沼の長期戦に陥ることは避けたいところで、短期の軍事介入で政治解決に向けた道筋をつけたい思惑でしょう。

エジプト・シナイ半島上空でロシア旅客機が墜落した事件では、テロによるものとする英米の指摘に対し、シリア介入に関する国内世論が厳しくなることを警戒して「テロ説」を認めるのに慎重だったロシアですが、結局「テロ説」を認めるところとなっています。

****<ロシア機墜落>テロと断定・・・・プーチン氏「犯人見つける****
ロシアのプーチン政権は17日、10月末にエジプト東部シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落の原因について、機内に仕掛けられた手製爆弾によるテロと断定した。
ロシアの治安機関・連邦保安庁(FSB)のボルトニコフ長官がプーチン大統領に調査結果として報告した。

プーチン氏は「必ず犯人を見つけ出し、処罰する」と述べ、ロシア軍によるシリア領空爆の強化も指示した。FSBは犯人に関する情報の提供者に5000万ドル(約61億6000万円)の賞金を出すと発表した。【11月17日 毎日】
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ロシアはテロと断定したうえで、敵対するシリアのイスラム過激派への攻撃を更に強化する方針です。

****シリア空爆強化を明言=ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は17日、エジプト・シナイ半島での旅客機爆破テロを受け、シリアでの空爆を強化すると明言した。【11月17日 時事】 
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****イスラム国」にミサイル攻撃=ロシア海軍****
フランス紙ルモンド(電子版)は17日、仏国防省の情報として、ロシア海軍が地中海から巡航ミサイルで「イスラム国」が首都とするシリア北部のラッカを攻撃したと伝えた。【11月17日 時事】 
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パリ同時テロを受けて、フランスは「フランスは戦争をしている」「ISを撃破する」(オランド大統領)と、対IS攻撃を一段とエスカレートさせています。

****フランス軍 シリアのIS拠点ラッカを空爆****
フランスのパリで起きた同時テロ事件を受けて、過激派組織IS=イスラミックステートに対するフランス政府の対応が注目されるなか、フランス軍は15日、シリアにあるISの拠点に対して空爆を行ったと発表しました。

パリで起きた同時テロ事件について、フランス政府は、過激派組織ISによる犯行とみています。

フランス政府の対応が注目されるなか、フランス軍は15日夜、ISが一方的に首都と位置づけるシリア北部のラッカで、ISの拠点2か所に対して空爆を行い破壊したと発表しました。標的としたのは、ISが司令室や武器庫、それに訓練所などとして使っていた施設だとしています。

また、今回の作戦はアメリカ軍と協調して行ったということです。

フランスのメディアは、今回の空爆について、フランス軍がことし9月からシリアで行っている空爆の中で最も大きな規模だったとしています。

テロ事件のあと、フランスのバルス首相は地元テレビに出演して、「われわれは戦争状態にある。シリアでも敵を攻撃して全滅させなければならない。この戦争に必ず勝つ」と述べています。
今回の発表は、事件のあとも空爆を継続して行うことでテロにきぜんと立ち向かう姿勢を示したものとみられます。【11月16日 NHK】
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ISによって「われわれはフランスのパリを破壊した。われわれは米国のワシントンを破壊するだろう」とテロ予告を受けた形のアメリカも、攻撃をエスカレートさせています。

****<米軍>IS石油輸送車116台破壊 資金源の根絶狙う****
過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を実施している米軍主導の有志国連合がシリアで、ISの資金源となっている盗難石油の大型燃料輸送車を総攻撃し、燃料車116台を破壊した。米軍が16日明らかにした。

これまで非戦闘員の運転手が犠牲になるのを避けるために控えていたが、パリでの同時テロなど大規模テロを防ぐためには資金源根絶を優先させる必要があると判断、攻撃に踏み切ったとみられる。(中略)

燃料輸送車の運転手には非戦闘員もいるとされ、空爆で巻きぞえにする恐れもあった。高官によると、米軍は空爆前に上空から避難を促すリーフレットを投下するなど警告したうえで作戦を実施したという。【11月17日 毎日】
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これまで反政府勢力を支援してきた欧米ですが、そうした支援にもかかわらずISがこれまで決定的なダメージを受けることなく存続してこれた背景には、「シリア内戦・IS台頭は、なんだかんだ言っても中東での出来事であり、自国に直接被害が及ぶものではない・・・」という欧米側の認識と、そこから生まれる“本気になれない”対応があったのではないでしょうか。

「欧米諸国・ロシアはイスラム過激思想に感化されやすい若者が自国でトラブルを起こさずにISにひきつけられて国外に出て行く、そしてシリア・イラクの戦闘で死んでいくのは好都合とも思っているのでは・・・(自国に戻ってくるのは困りますが)」というのは、まったくの個人的な邪推ですが。

しかし、パリ同時テロのような形で自国への脅威が顕在化した以上、これまでのような“手ぬるい”対応では済ませられない・・・というところにもなっているのでは。
旅客機を爆破されたロシアも同様です。

アメリカ、フランス、更にロシアの対IS攻撃における協調も検討されています。

****イスラム国」攻撃強化へ=仏大統領、米長官と会談―容疑者追跡続く・パリ同時テロ****
フランスのオランド大統領は17日、パリ同時テロを受けて訪仏中のケリー米国務長官と会談し、過激派組織「イスラム国」への対応を協議した。

ケリー長官は会談後、記者団に「過激派組織と効果的に戦うためのあらゆる方策を話し合った。『イスラム国』の中核への攻撃を強めなければならない」と述べ、米仏両国が一層の情報共有などで合意したことを明らかにした。

オランド大統領は16日の演説で「フランスは戦争状態にある。われわれのシリアでの敵は『イスラム国』だ」と述べ、同組織壊滅への強い決意を表明。シリアでの空爆を続ける米国、ロシアとの協力を深める意向を示している。

バルス仏首相は17日、地元ラジオで「オランド大統領は来週ワシントンとモスクワを訪れ、オバマ米大統領、プーチン・ロシア大統領と会談する」と語った。(後略)【11月17日 時事】
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11月14日ブログ「パリ同時多発テロ 劣勢に立ち始めたISが国際テロを強化か シリア問題・難民問題への影響も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151114)でも取り上げたように、今回のパリ同時テロについては、シリア・イラクで包囲網を狭められつつあるIS側の方針転換によるもの・・・との指摘がなされています。

****仏、ISと全面対決 国際テロへ、IS戦術転換か****
・・・・(ISは)本拠地とするイラクとシリアでは苦戦を強いられている。イラクでは13日に北部の拠点であるシンジャルが、クルド人部隊に奪還された。西部アンバル州ラマディでも、イラク治安部隊が攻勢を強めている。また、シリア政府軍は10日、ISが2年間占拠を続けてきた北部アレッポ近郊の空港を解放した。

今回の同時テロが標的としたのは、ISと敵対するフランスの首都で、世界的に著名な国際都市パリ。そこで、大規模なテロを「成功」させれば、組織の知名度が格段に上がる。IS側には、過激思想を支持する各国の富裕層から寄付金を集め、戦闘員の志望者を増やしたいとの思惑もあったとみられる。

AP通信によると、イラク政府はパリでテロ事件が起きた前日の12日、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が戦闘員に対し、欧米やロシア、イランなど交戦する国に対する攻撃命令を出したとの情報を覚知。フランスを含む関係国に通知していたという。(後略)【11月17日 朝日】
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ISの国際テロへの方針転換は、欧米・ロシアの対応を本格化させる形で、自分の首を絞める形になりかねないものにも思えます。

もっとも軍事作戦の強化によって、仮にISがシリア・イラクで消滅したとしても問題が解決する訳ではなく、各国におけるイスラム教徒が社会から疎外された状況が続く限り、テロの脅威もなくならないことは言うまでもないところです。

その意味では、今回のようなテロによってイスラム教徒への目が更にきつくなるようであれば、将来的なテロの新たな温床ともなりかねません。

シリア内戦の政治解決に向けた動きも加速
一方、パリ同時テロを受けて、IS対策と表裏の関係にあるシリア内戦の政治解決に向けた動きも、早期解決を図るロシアを軸として始まっています。

****シリア和平へ行程表、18か月以内に民主選挙****
シリア内戦の解決を目指し、ウィーンで20か国・機関が参加して行われた関係国会合は14日、アサド政権と反体制派の交渉を年内に開始し、18か月以内に民主選挙を実施することを骨子とした政治行程表の履行で合意した。

国際社会がパリ同時テロをきっかけに、イスラム過激派組織「イスラム国」伸長を招いた主要因である内戦の解決に動き出した形だ。

共同声明は、国連主催の下で年内に交渉を開始し、その後6か月以内に「包括的で宗派に偏しない統治機構」を樹立、交渉開始から18か月以内に「自由で公正な」選挙を実施することを目指すとした。

10月下旬、ロシアの提案として伝えられた和平案に沿った内容で、行程表作りはロシア主導で進められた模様だ。

シリア内戦をめぐっては、昨年1月に政権側と一部の反体制派が参加した和平会議が開催されたが、成果なく頓挫。アサド政権は今回、対話に前向きな姿勢を示しており、大統領の即時退陣を主張して対話を拒み続ける反体制派連合組織「国民連合」が交渉に応じるかどうかが当面の焦点となる。【11月16日 読売】
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アサド大統領の処遇や反体制派の扱いについて、未だ米ロの間で溝はあるようですが、対IS軍事作戦での協調が進めば、シリア内戦の政治解決についても“落としどころ”に到達する可能性も高まると思われます。

なお、アメリカは従来同様、穏健な反体制派によるシリア国家を主張していますが、これに関しては「穏健派?そんなものあるのかい?」というロシアの方が現実に近いようにも思えます。
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イラク  ISから奪還したシンジャル ヤジディ教徒の悲劇 報復行為の懸念も

2015-11-16 22:29:42 | 中東情勢

(昨年8月 ISの攻撃からシリア側に逃れるヤジディ教徒 【2014年8月14日 The Huffington Post 】)

「イスラム国(IS)」との戦いを続けるイラク軍は、今春以降、ユーフラテス川沿いの要衝ラマディの奪還作戦を続けていますが、ISの抵抗にあって大きな前進は見られていません。

そうした中で、ISを追い詰めつつあるのがクルド人勢力で、米軍主導の有志国連合による空爆の援護を受けながら要衝シンジャルをIS支配から奪還したことは、一昨日のパリ同時テロを扱ったブログでも取り上げたところです。

****<イラク>要衝をISから奪還 クルド治安部隊****
イラクのクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガは13日、シリア国境に近い町シンジャルを過激派組織「イスラム国」(IS)から奪還した。シンジャルはISが実効支配するイラク北部モスルとシリア側をつなぐ幹線道路上にある要衝で、自治政府はモスルを孤立化させ、攻略に弾みをつけたい考えだ。(後略)【11月14日 毎日】
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イラク北部シンジャルは“ISは、この地域で暮らす少数派のヤジディ教徒に対し、「悪魔を崇拝している」として迫害を加え、多くの女性を連れ去ったほか、数千人を殺害したとみられています。これがきっかけで、アメリカは去年8月にイラクでISに対する空爆に踏み切ったほか、国連も「宗教や民族を理由にした虐殺だ」と非難しています。”【11月16日 NHK】と、ISとの戦いの転換点ともなった場所です。

奪還されたシンジャルでは、ISによって殺害された見られるクルド系少数宗派ヤジディ教徒の遺体が多数見つかっています。

****集団墓地で130遺体発見=「イスラム国」が虐殺―イラク北部****
イラク北部シンジャルで、過激派組織「イスラム国」が虐殺したとみられる地元のヤジディ教徒の集団墓地が確認され、イラクのクルド系メディア「ルダウ」によると、16日までに130遺体が発見された。

シンジャルは13日、クルド人部隊が「イスラム国」から奪還した。その後の捜索で、14日に女性80人、15日に男性50人が埋められているのが分かったという。

「イスラム国」はヤジディ教を邪教扱いし、信者に迫害を加えてきた。治安当局者はルダウに「罪のない人々の殺害だ」と語った。イラクではヤジディ教徒以外でも「イスラム国」から解放された地域で集団墓地が相次いで見つかっており、大規模殺害の実態が改めて浮き彫りとなった。(後略)【11月16日 時事】
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“地元議員の一人はAFPに、墓穴は町はずれにあり、まだ遺体の発掘は行われていないが、40~80歳くらいの女性78人の遺体が埋まっているとみられると述べ、さらに、ISは女性を性奴隷として売買しており、「(ISの)戦闘員らは若い女性だけを奴隷にしたかったようだ」と語った。”【11月15日 AFP】とのことで、殺害された女性は中高年で、若い女性は性奴隷として連行されたとも思われます。

ISは「悪魔を崇拝している」としてヤジディ教徒を迫害していますが、その女性を性奴隷として拉致・売買していることはかねてから報じられているところです。その実態は悲惨なものです。

****イスラム国、性奴隷の凄惨な実態。元奴隷女性の告白(イラク****
イラク北部でその信仰から虐殺の危機にあるクルド系少数宗派ヤジディ教をご存知であろうか。

昨年8月にイラク北部のシンジャー地区から数百人の女性や少女が誘拐され、5000人以上の男たちが殺害された。捕らわれの身となった彼女たちはISIS戦闘員たちの性奴隷として苦難の日々を送っている。

ヤジディ教はイスラム教の教えにゾロアスター教や古代ペルシャの宗教、ミトラ教が入りまじった豊かな伝統を持った宗教である。その教徒は60万人とも言われるが、ISIS(自称イスラム国)からは悪魔を崇拝する信仰としてこれまで何度も迫害を受けてきた。

普通の幸せな生活をしていたというBushraさん(21)、Noorさん(22)、Muniraさん(16)の3人の女性(いずれも仮名)。ISISに突然村を襲われ、家族からも引き離され、性奴隷として過ごしてきた。

幸運にもISISから逃げ出すことに成功した彼女たちが、その真実を知ってもらいたいと苦渋に満ちた自らの体験を『CNN』のインタビューで語った。

Bushraさんによると、誘拐された少女たちはまずISIS内の産婦人科医のもとに連れて行かれ、処女であるかどうか、妊娠していないかどうか調べられるという。

妊娠3か月だった友人はすぐさま別の部屋に連れて行かれ、2人の医師によって堕胎処置がとられた。出血がひどく話すことも歩くこともできない状態だったにもかかわらず、彼女は残酷にもレイプされた。

Bushraさん自身も、レイプされるなら死んだほうがましと殺鼠剤を飲んだが死にきれず、病院で胃の洗浄を受け「そう簡単には死なせない」と脅されたそうだ。

若い女性や少女は動物のように扱われ、武器売買の交換要員、勇敢に闘った戦士への贈り物にもなる。Bushraさんは家族もヤジディ教も捨て、イスラム教徒に改宗し戦闘員と結婚することを強要された。そこには選択肢はなく絶望だけがあったという。

年老いて太った醜い男に選ばれそうになったNoorさんは恐ろしくなり、なりふり構わず他の戦闘員に自分と結婚してくれるように懇願して結婚した。

だがその後も「10人の戦闘員にレイプされればイスラム教徒に改宗できる」という考えを強制され、結局11人の男に次々とレイプされることになった。

イスラム過激派はコーランによってこれらの行為は正当化されていると主張している。NoorさんもBushraさんと同様に自殺をはかったが死にきれず、回復するやいなや再びレイプされたという。…

MuniraさんはISIS戦闘員に「ほうび」として2度売られ、3度目は他の少女とトレードされた。少女たちは一列に並ばされ、腹、歯、胸が念入りにチェックされる。男が気に入ると有無を言わさずレイプされた。

現在、この3人の女性は保護され新しい生活が約束されているが、いまだに捕らわれの身となった数百人の女性たちがいる。捕らわれた中には、絶望して自殺を図る女性が後をたたないという。

彼女たちが勇気をもって語ったISISの現状。誘拐された女性たちの一刻も早い救出を願ってやまない。【10月16日 TechinsightJapan 】
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9歳のヤジディ教徒の少女がISの戦闘員10人以上に強姦され妊娠したケースなど、このような話は昨年から繰り返し報じられています。

こうした経験をした女性が解放されても、再び村の中で生きるのは難しいものがあります。妊娠していると夫は受け入れないとも・・・

悪魔の所業と言わざるを得ませんが、当然のごとく迫害されたヤジディ教徒の憎しみは、ISと同じ宗派でISに協力した者もいるイスラム教多数派のスンニ派住民へ向けられます。

****ISから奪還の街、ヤジディー教徒がイスラム教徒の家に放火か*****
クルド人武装組織がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から奪還したイラク北部シンジャルで、ISに迫害されてきた少数派ヤジディー教徒がイスラム教徒の家を標的として放火や略奪を行っていると、複数の目撃者が15日、明らかにした。

シンジャルでは13日、米軍主導の空爆に援護されたイラク・クルド人自治区の治安部隊がISに総攻撃をかけ、街を奪還した。

だが、匿名を条件に取材に応じた目撃者の1人は「イスラム教徒たちの家が略奪され、放火されている」と話した。特に、街がISに制圧された後で壁などに「スンニ(Sunni)」と印を書き込んだ家々が狙われているという。

この「スンニ」の文字は、ISに対し攻撃対象の家ではないことを知らせる目的で書き込まれたとみられる。

別の目撃者も、ヤジディー教徒らがイスラム教徒の家を略奪し放火したのを見たと語った。また、モスクの1つが放火されたとの証言もある。

これに対し、クルド人治安部隊はシンジャルで放火や略奪が起きているとの情報を否定。個々の目撃証言についても、事実関係は確認できていないとしている。

昨年8月、ISから逃れてきたヤジディー教徒らはAFPに対し、イスラム教徒の近隣住民たちがISに誰がヤジディー教徒かを教え、襲撃に加担していたと話していた。【11月16日 AFP】
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憎しみ・復讐の心情は当然ではありますが、憎しみと報復からは何も生まれないのも事実です。憎しみの連鎖が続くだけです。

パレスチナ・イスラエルでも、イラクの宗派対立でも、世界各地の民族・宗教対立でも、憎しみの連鎖を断ち切れないのが現実ではありますが・・・・。
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北方領土  ロシアにとっても「お荷物」ではなくなりつつある現状で難しい返還交渉

2015-11-15 23:38:15 | ロシア

(択捉島に完成した新空港 サハリンのユジノサハリンスク(豊原)と空路で結ばれることになりました。【11月4日 SPUTNIK】)

平和条約締結交渉は再開したものの、深い溝
今日・明日にトルコで行われるG20首脳会合に合わせ、安倍首相とロシア・プーチン大統領の会談が予定されています。
18日からマニラで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での会談を調整していましたが、プーチン大統領がAPEC欠席を発表したため、G20での実施に向け調整が行われていたものです。

対ロシア関係で日本側の最大の関心事は北方領土問題ですが、今回はそうした実質協議というよりは、実質協議に向けて、年内の訪日が困難になっているプーチン大統領訪日の再調整が話し合われと思われます。

10月に再開した平和条約締結交渉について継続していく方針についても触れられるかもしれませんが、中身が問題とされています。

北方領土問題とリンクする平和条約締結交渉については、9月にモスクワを訪問した岸田外相とロシアのラブロフ外相と会談で再開が合意され、10月8日に次官級協議が開催されています。

しかし、領土問題を切り離す姿勢を見せるロシア側との隔たりは大きいことが指摘されています。

****日露外相会談を開催 平和条約締結交渉再開で一致****
ロシアを訪問中の岸田文雄外相は21日夕(日本時間同日夜)、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談し、平和条約締結交渉を再開することで合意した。安倍晋三首相が意欲を見せるプーチン大統領の年内来日に向けた調整を進めることでも一致した。ただ領土問題をめぐりロシア側は強硬な姿勢に終始し、歩み寄りはみられなかった。

両国は平和条約締結問題を話し合う外務次官級協議を10月8日にモスクワで開催し、具体的な協議を進める。平和条約を主題にした次官級協議開催は、ウクライナ危機を背景に昨年1月以降、中断されていた。(中略)

ただ北方領土問題をめぐっては岸田氏が「突っ込んだ議論を行った」と述べたのに対し、ラブロフ氏は「北方領土という話はなされていない。議題となったのは平和条約締結問題だ」と領土問題の存在を否定するかのような発言を行ったうえ、「この問題は日本が第二次大戦後の歴史的事実を受け入れないと前進できない」とも語り、日本側を強く牽制した。
ラブロフ氏は日本の対露制裁を念頭に、「両国間の雰囲気は友好的とは言いがたい」とも述べた。【9月22日 産経フォト】
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****日ロ次官級協議、領土議論平行線****
外務省の杉山晋輔外務審議官が8日、モスクワの外務省別館で、ロシアのモルグロフ外務次官と約1年9カ月ぶりとなる平和条約を巡る次官級協議を行った。ただ、北方領土問題を巡る議論は平行線に終わった。

会談は、昼食を挟んで8日夕(日本時間同日深夜)まで、約7時間続いた。会談後、杉山氏は「会談に非常に厳しい側面があったことは否定できない」「隔たりは大きい」と述べた。次回協議の日程についても具体的に決まらなかった。

岸田文雄外相が先月に行ったラブロフ外相との会談で、平和条約交渉の再開で合意。今回の次官級協議は合意後最初の実質的な交渉だった。日本側が実現を目指しているプーチン大統領の年内訪日に向けた準備という意味合いもある。【10月9日 朝日】
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ロシアにとってお荷物だった極東の島々が、今後その価値をどんどん増していく
北方領土に関するロシア側の姿勢は、ここ数か月でみても今まで以上に硬化しているように見えます。
メドベージェフ首相等閣僚の相次ぐ北方領土訪問は、プーチン大統領の領土問題に関する姿勢を反映したものと思われます。

****北方領土、ロシア閣僚次々 対日路線転換、プーチン氏了承か****
ロシアのソコロフ交通相が7日、北方領土の国後(くなしり)島を訪れた。8月にメドベージェフ首相が択捉(えとろふ)島を訪れたほか、7月以降、ロシア閣僚の北方領土訪問が相次ぐ。プーチン大統領も了承のうえで、北方領土交渉の中断も辞さない対日姿勢に転じた可能性が高い。

ノーボスチ通信によるとソコロフ氏は、国後島の道路や港などを視察した後、択捉島に向かう予定という。日本の外務省は7日、在京ロシア大使館に電話で「日本の立場と相いれず、極めて遺憾であり抗議する」と伝えた。

メドベージェフ氏は7月23日の閣議で北方領土を国境防衛の拠点として強化する考えを表明。他の閣僚にも北方領土訪問を促した。

こうした政府の姿勢は、2014年のウクライナ危機以前と比べると大きく変化している。13年末、メドベージェフ氏の側近は朝日新聞の取材に「首相が北方領土を訪問する計画はない」と述べた。13年4月の日ロ首脳会談で安倍晋三首相とプーチン氏が北方領土交渉の再開で合意したこと、さらに安倍氏が14年2月のソチ冬季五輪への出席を検討していたことへの配慮だったとみられる。

しかし、今年7月以降、北方領土訪問に抗議する日本政府に対して、ロシア外務省は「日本の立場を考慮する考えはない」と繰り返している。9月2日には、外務省で対日関係を担当するモルグロフ次官が北方領土問題について「私たちは日本側といかなる交渉も行わない。この問題は70年前に解決された」と発言。外務省報道官が記者会見でロシア政府の立場だと確認した。

プーチン氏は、北方領土交渉を続ける考えを繰り返し表明してきた。相次ぐ閣僚の北方領土入りや外務省の声明は、日本がウクライナ問題で欧米とともに対ロ制裁を続けるなか、プーチン氏自身が承認したうえで対日路線を転換したことを示している。プーチン氏は、両国が基本合意していた年内訪日の実現を重視していないとみられる。

一方、プーチン氏自身は北方領土を訪問していない。昨年ウクライナから一方的に併合したクリミア半島には繰り返し訪れており、今のところ北方領土問題で対話の芽を完全に摘むことは控えている模様だ。【9月8日 朝日】
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ロシアにとって、北極海航路など北極圏戦略においても、北方領土の軍事的重要性が増しているとの指摘もあります。

****クリール諸島の基地増強へ=北方領土か、対日関係影響も―ロシア****
ロシアのショイグ国防相は22日、北極圏戦略の一環として、クリール諸島(北方領土を含む千島列島)に軍事基地を増強すると表明した。インタファクス通信が伝えた。北方領土の基地が増強されれば、対日関係にも微妙な影響を与えそうだ。

ロシアが、北極海航路などの文脈でクリール諸島の軍備増強に触れたのは初めてとみられる。

プーチン政権は資源や北極海航路支配などを狙い、北極圏で軍事力を強化中。クリール諸島の海峡は、ロシア極東のオホーツク海から太平洋、北極海に至る出入り口に当たり、北方領土の軍事的重要性も増しているとされる。

ロシアにとっては、戦勝70年で高揚させた国民の愛国心だけでなく、北極圏をめぐる安全保障戦略の観点からも、北方領土問題で譲歩は難しくなったと言えそうだ。(後略)【10月22日 時事】 
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ロシアは重視する極東開発を促進する施策の一環として、国民への土地無償供与を北方領土にも適用する方針です。

****ロシア 北方領土の土地を国民に提供へ****
ロシア政府は、極東地域の人口増加に向けて、国民に土地を無償で提供する制度を来年5月から始めることを決め、北方領土にも適用する方針で、北方領土をあくまでロシアの領土の一部として開発を進める姿勢を重ねて示しています。

この制度は、ロシアのプーチン大統領が極東地域の人口増加に向けて政府に検討を指示していたもので、極東地域の開発を担当するトルトネフ副首相が12日、モスクワでメドベージェフ首相と協議し、この制度を来年5月から始めることを決めました。

それによりますと、ロシア政府は、希望する国民に1人当たり1ヘクタールを無償で貸し出し、農地として5年間、利用するなどの実績が認められれば所有を認めるとしており、北方領土にも適用する方針です。

北方領土を巡ってロシア政府は、来年からの10年間に日本円で1300億円規模の資金を投入してインフラ整備などを行うことも明らかにしています。

政府は、今回、実施を決めたこの制度によって、極東地域に人や投資を呼び込む効果を期待しているとしていますが、北方領土をあくまでロシアの領土の一部として開発を進める姿勢を重ねて示したもので、日本側で波紋が広がりそうです。【11月14日 NHK】
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軍事的な問題を含め、単に国家の施策の問題であれば、ロシアにおける絶対的決定権を有するプーチン大統領を経済協力等の見返りで説得できれば・・・ということもあり得ますが、ロシア国民の関心が北方領土を含む「極東」に向きつつあるという話になると、現状を変更するのはプーチン大統領をもってしても難しくなります。

極東の島々は、もはやロシアにとってのお荷物ではなくなりつつあるようです。

****空前の観光ブームに沸くカムチャッカ、そして択捉島も****
西側に懲りて東に走るロシア人、北方領土返還はまた遠のく

肩身が狭くなった西欧
クリミア半島の一件以来、西欧はロシア人には肩身が狭い。黒海沿岸のソチやアナパ、など、ロシア国内にも歴史的に有名な海浜リゾートがあるが、冒険好きの若い連中にはちょっと刺激が足りない。

そこで最近になって登場してきたのが、カムチャッカやサハリン、さらにはクリールの島々だという。ロシア極東のリゾート化が始まったのだ。

私の住むプロスペクトミーラ(平和大通り)に、この9月、小さな店がオープンした。 店名はずばり「赤イクラ」。経営する会社はサハリンリーバ社(サハリン魚類会社)。

サハリンで集荷したイクラを航空便でモスクワに運び、新鮮なうちに、同社のチェーン店で販売する。どの店も在庫が終了次第、閉店。これが大変な人気なのである。

これまでモスクワで販売されていたイクラは、長期保存に耐えるよう水分が抜かれ粒と粒が筋子のようにつながってしまった、硬い卵である。

ところが、サハリンリーバ社が持ち込むイクラは水分が残り、舌の上で卵が弾けるような感覚。ロシア人がまだ味わったことのないイクラなのだ。(中略)実はこのイクラは択捉島の水産工場製とのこと。

その技術は日本から入れたもので、品質は日本製のイクラと同じだろうと言う。そのイクラが最近整備された択捉空港からサハリンに空輸され、他地区から集荷された水産品とともにコンテナ積みされて、モスクワまで輸送されるのだそうだ。

そして、そのサハリンから届いたイクラにモスクワでは行列ができる。

カムチャッカ産にも長蛇の列
これと同じ光景を先日クロックスエキスポの展示会場で行われた「黄金の秋」展でも見ることができた。
こちらはカムチャッカ産のイクラ。価格はサハリンリーバ社のイクラと同じく、300グラムで1500円程度である。ここにも長い行列ができていた。

今や、ロシア人にとり、我々の言うところの「北方領土」は美味いものの一大産地となりつつある。

文頭に戻ろう。ヨーロッパへのバケーションが楽しみにくくなるにつれ、リゾートとしてのロシア極東はその意義をますます強める。

ウラジオストク郊外にロシア国内4カ所で建設中のカジノ村の最初のコンプレクスがオープンし、すでに年末のホテル予約が取れないというニュースに接したのはまさに数週間前のことである。

旅行社はカムチャッカのツアーを充実させて、ホテルも雨後の筍のように次々にオープンしている。

サハリンは千島列島への空路のハブとして、ますます成長が見込まれる。そして、択捉島。水産業の一大拠点として、モスクワの民間資本の資金もかなり流れ込んでいると聞く。

今、ロシアを巻き込みながら、世界はものすごい速度で変化している。
ウクライナ紛争も、シリアでの反政府派攻撃も、そしてその結果なのだろうか、今回シナイ半島上空で失われた224人のロシア人の命も、ソチオリンピックの終わった2014年2月には予想さえできなかった事態である。

これらの新しい事態と太い糸で結合され、あるいは見えない細い糸で絡み取られるようにして、極東の半島や島々もそのロシアの変化の中に取り入れられていく。

お荷物だった極東の島々が・・・
客観的に見て、ロシアにとってのお荷物だった極東の島々、そして半島は、今後その価値をどんどん増していくだろう。

新しい観光地、グルメランド、漁業基地、水産物加工場、すでにこれだけの多面性を実現したこの地が、今後多くのロシア人を呼び込むことに成功すれば、ヨーロッパ側に大きく傾いていたロシアの東西バランスを真ん中に戻すことができるかもしれない。

皮肉なことに、ロシアの西側での苦難は、最も忘れられていたロシアの領土である極東を蘇らせることに貢献することになる。

このような大事業が見え隠れする北方領土をロシアが日本に返還することがあるのだろうか。いや、正確に言えば、歯舞、色丹というすでにロシア側が一度返還条件まで明示した2島については、当然返還されねばならない。

しかし、国後、択捉の2島について、すでに見てきたロシアの変化の中においては、日本への返還はプーチン政権の選択肢からはすでに除外されているのではないか、と「赤いイクラ」の店の前に列を作る人々を見て考える。

我が国の選択は、択捉島の水産加工産業の拡大に我が国も参加し、その利益を両国で確保することではないのか。
日本人もロシア人とともに、レジャーや事業目的で国後、択捉に自由に出入りできるような状態を作ることではないのか。

北方領土に指一本触れることなく、遠くからロシア高官の北方領土訪問を非難するだけでは、我々日本国民はロシアの前で確実にガラパゴス化していくだけである。

北方領土に対する我が国の政策は、激動する現代に即した方向に今からでも転換せねばならない。【11月12日 菅原信夫氏 JB Press】
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領土問題というのは絶対に譲歩できない問題であると多くの人には認識されているようですが、私個人としては、領土というものは戦争を含むいろんな事情で取ったり取られたりした結果のもので、それ以上でも以下でもないと考えています。

また、北方領土に限らず、どんな問題についても利害が対立する双方に言い分・主張・立場があります。

自己の主張に固執するあまりに内向きになり、世界の流れから切り離されていくよりは、一定の段階で手を打ち、不満足な状況でも止むなしと受け入れ、大陸に、極東に目を向けてフロンティアを求める方が、少子高齢化で今後ジリ貧が予想される日本社会にとって資するものであるように思えるのですが。

蛇足ながら、戦後70年が経過した現在、歯舞を除く島々において、そこに暮らすロシア人の生活も確立されています。昔のように本土から見捨てられた状態ではなく、それなりに関心も資金も向けられる状況にもなっています。日本の要求であれ、プーチンの決定であれ、今更「返還」と言われても・・・というのが現地に暮らすロシア人の心情でしょう。

だったら島を追われた日本人の心情はどうなるのか・・・という話にもなるのでしょうが、現状を覆すにはあまりに年月が経ち、新しい現実が出来上がってしまっています。

そうしたことを踏まえた対応が現実的に思えるのですが、領土問題というのは未来永劫絶対に譲歩できない問題であるという立場からは、人々の暮らしなどどうでもいい話になるのでしょう。
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パリ同時多発テロ  劣勢に立ち始めたISが国際テロを強化か シリア問題・難民問題への影響も

2015-11-14 23:23:32 | 欧州情勢

(バタクラン劇場そばの路上で抱き合う人たち=パリで2015年11月14日未明、ロイター【11月14日 毎日】)

支配地域を縮小させたIS 「どこであろうと、武器を手に取れ」】
フランス・パリで起きた同時多発テロについて、オランド大統領は「イスラム国(IS)」による犯行としています。
死亡者数は下記記事では127人とされていますが、AFP通信によると、けが人は250人以上で、うち99人が深刻な状態とも報じられており、今後数字は更に増加することが予想されます。

****仏大統領、「イスラム国」の犯行=同時テロ、127人死亡―空爆への報復か****
フランスのオランド大統領は14日、パリ中心部の劇場などで13日に起きた同時テロについて、過激派組織「イスラム国」の犯行だと言明した。

「イスラム国」も14日、犯行を主張する声明を出した。同組織はこれに先立つビデオ声明で「フランスは(同組織への)空爆を続ける限り平和ではいられない」と表明した。

オランド大統領は「国内の共犯者の支援を得て、国外から準備・組織・計画された」と指摘。一連のテロで、127人が死亡したと述べた。AFP通信によると、約180人が負傷し、うち約80人が重傷。これまでに日本人の被害は確認されていない。事件では犯人とみられる8人が死亡した。

事件の目撃者によれば、犯人はアラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んで銃を乱射。フランスによるシリア軍事介入を非難していたとされる。(後略)【11月4日 時事】 
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フランスは9月からシリアでのIS空爆も開始しており、今後更に空爆を強化する方針が報じられていました。

****仏、ペルシャ湾に原子力空母派遣へ・・・空爆を強化****
フランスのオランド大統領は5日、イスラム過激派組織「イスラム国」を攻撃するため、原子力空母「シャルル・ドゴール」を近くペルシャ湾に派遣する方針を明らかにした。

仏軍は9月、「イスラム国」が拠点を置くシリアで空爆を開始しており、戦闘機ラファールを搭載する同空母を投入することで、シリアやイラクで「イスラム国」への空爆を強化する方針とみられる。

シャルル・ドゴールは仏軍が保有する唯一の空母で、今年2〜4月、ペルシャ湾に派遣され、イラク空爆作戦を実施した。現在は、南仏の軍港トゥーロンに停泊している。【11月6日 読売】
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ISの活動本拠地であるシリア・イラクにおいては、クルド人勢力を中心に、ISに対する反攻が進みつつあるように見え、イラクにおけるISの拠点であるモスルへの圧力を強めています。

****<イラク>要衝をISから奪還 クルド治安部隊****
ラクのクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガは13日、シリア国境に近い町シンジャルを過激派組織「イスラム国」(IS)から奪還した。シンジャルはISが実効支配するイラク北部モスルとシリア側をつなぐ幹線道路上にある要衝で、自治政府はモスルを孤立化させ、攻略に弾みをつけたい考えだ。

自治政府によると、ペシュメルガは11日夜、約7500人規模の攻撃部隊を投入し、米軍主導の有志国連合による空爆の援護を受けながら、シンジャルの奪還作戦を開始。13日に中心街を制圧した。ISの戦闘員100人以上を「殺害した」としている。自治政府トップのバルザニ議長は戦果を誇るとともに、米軍に謝意を示した。

現地からの報道によると、ISは11日までに主力がモスルなどへ撤収し、ほとんど抵抗はなかったという。戦略的要衝を放棄した理由は不明だが、中東の衛星テレビ局アルジャジーラはIS関係者の話として「戦術的な判断だ」と報じた。

ISは昨年8月にシンジャルに侵攻した。同地に多い宗教的少数派のヤジディー教徒を多数虐殺。奴隷化されたヤジディー教徒も多いとされ、米軍が対IS空爆に踏み切る一因となった。

シンジャルはシリア国境からモスルにつながる高速道路(47号線)上にある。ISはイラクの本拠地であるモスルに戦闘員や武器、車両、生活物資などを移送する主要経路を断たれ、打撃を受けたとみられる。

また国境のシリア側でも13日、米軍と連携するクルド人主体の「シリア民主軍」が北東部ハウルを奪還。米軍とクルド人の連携による対IS作戦が一定の成果を上げた。

ただISは、シリアからイラクへ流れるユーフラテス川沿いの主要道路を押さえているほか、砂漠も往来しているとみられ、モスルへの補給路を完全に断つのは困難だ。

イラク軍は今春以降、ユーフラテス川沿いの要衝ラマディの奪還作戦を続けているが、ISの抵抗に手を焼いている。13日には首都バグダッドで、ISと戦うイスラム教シーア派民兵の葬儀中に爆発があり、少なくとも18人が死亡。ISが犯行への関与を主張する声明を出した。【11月14日 毎日】
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ISにとっては、こうしたシリア・イラク情勢に加え、トルコが国境管理を強化したことでトルコ経由での戦闘員確保が難しくなっていること、また、原油価格低迷で資金的にも難しくなっていることなどもあって、現状を維持することが次第に困難になりつつあるように見えます。

今回テロを受けて、欧米・ロシアなどのIS攻撃は更に強まるものと思われます。

そのことは、今回のパリ同時多発テロのようなテロ行為にISを向かわせる要因ともなります。

****国際テロに軸足か=シリア、イラク劣勢で―イスラム過激派****
13日にパリで起きた同時テロは、欧州では最大規模であることから、イスラム過激派が周到な準備を行ってきたことがうかがえる。過激派組織「イスラム国」がシリアやイラクで劣勢に立たされる中、過激派は2001年の米同時テロに代表される国際テロに軸足を置く動きを強めている。

14年に急速に勢力を拡大した同組織はこれまで、その名が示すように、国家権力が弱体化したシリアやイラクの権力空白地帯での「建国」を重視してきた。

しかし、シリアでは米軍主導の有志連合に加え、9月末にはロシアもイスラム過激派を標的とする空爆作戦を開始。イラクでも有志連合の支援を受けたクルド人部隊などが攻勢を強め、同組織は支配地域を縮小させた。

「イスラム国」を支えてきたのは、世界中から集結した数万人規模のイスラム過激派だ。しかし、シリアの同組織支配地域に隣接するトルコが国境警備を強化したことで、越境は困難になった。

「イスラム国」指導者のバグダディ容疑者は今年5月、音声メッセージを通じ、世界各地のイスラム教徒に「イスラム国」への移住を求める一方、移住できない人々には「どこであろうと、武器を手に取れ」と訴えた。移住が困難になった過激派が域外での国際テロに転換するのは、指導者の意向に沿う形でもある。

同組織は最近、10月31日にエジプト東部シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落(乗客乗員224人死亡)で犯行声明を出した。墜落は爆破テロであった可能性が濃厚との見方が強く、事実ならこれも国際テロ傾斜を強めている兆候と言える。【11月14日 時事】 
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ロシアにもテロ予告 シリア問題・IS対策で協調した対応が求められる関係国
ISによるテロ行為には、シリア空爆を強化し、エジプトでは旅客機が爆破されたロシアも警戒を強めています。
すでに、ISはロシアに対するテロ予告ととれる声明を出しています。

****プーチン政権に衝撃=テロ予告、シリア空爆に影響も―ロシア****
パリで起きた大規模なテロに、ロシアのプーチン政権は衝撃を受けている。フランスのシリア空爆が凶行の動機になったという見方がある中、ロシアも過激派組織「イスラム国」を空爆しているためだ。既に同組織のものとみられる「テロ予告」がロシアにも向けられている。

ロシアは中東・北アフリカからの移民はわずかだが、旧ソ連圏から数千人が「イスラム国」の戦闘員として参加。帰還してロシアを含む母国でテロを起こす恐れが指摘されている。テロの拡散防止はシリア空爆の「大義名分」の一つだが、報復テロを招けば、空爆への国民の支持が揺らぎかねない。

10月31日にエジプト東部シナイ半島で乗客乗員224人が死亡したロシア旅客機墜落は「爆破テロ」という見方が日に日に高まっている。プーチン政権はシリア空爆や世論への影響も考慮して「テロ」との断定を避けているが、全てのエジプト便の運航停止に踏み切るなど、対応を余儀なくされた。

「間もなく海のように血があふれかえる。ロシアの町は、『アラー(神)は偉大なり』と叫ぶ声に驚かされるだろう」。今月12日に「イスラム国」がテロを示唆する声明を出した。ペスコフ大統領報道官は「治安機関が対応することになるだろう」と述べ、テロの未然防止に全力を尽くす考えを示した。【11月14日 時事】 
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国内世論の動向を懸念するロシア・プーチン政権ですが、こうしたテロですぐにシリアへの介入から手をひくことはないでしょう。

ただ、シリア・イラク情勢、対IS対策について、欧米とも協調して出口を見出す方向での動きにこれまで以上の誘因が働くことも考えられます。

****シリア情勢巡り関係国の外相会合始まる****
内戦が続くシリア情勢を巡って欧米や中東など関係国の外相らが一堂に会する会合が14日、オーストリアで始まり、アサド政権やそれぞれの反政府勢力が内戦の終結に向けてどう関わっていくべきかが議論の焦点になります。

4年以上にわたって内戦が続くシリアでは、アサド政権や反政府勢力、それに過激派組織IS=イスラミックステートなどが入り交じって各地で戦闘が続き、欧米や中東諸国、ロシアなどが軍事作戦を展開するなど情勢が複雑化しています。

14日、オーストリアのウィーンで始まった会合には、欧米や中東諸国など関係国の外相らが出席し議論を交わしています。

2週間前に開かれた会合では、アサド政権を支援するロシアやイランと、反政府勢力を支援するアメリカや中東諸国などとの間でアサド政権の存続を認めるかどうかで立場の隔たりが埋まりませんでした。

今回の会合では、内戦の終結を目指すにあたって反政府勢力の中からどのグループを交渉に参加させるかについても、ロシアが作成したリストなどをもとに議論が交わされる見通しで、アサド政権やそれぞれの反政府勢力がどう関わっていくべきかが焦点になります。

フランスのパリで日本時間の14日朝早く起きた同時テロ事件で合わせて127人が犠牲になったことを受けて、会場に向かう外相らが報道陣の前で追悼の意を表し、会合では、テロ対策についても意見を交わすものとみられます。【11月14日 NHK】
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オバマ米大統領やプーチン大統領なども出席して15〜16日の日程でトルコで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議においても、IS対策を含めたシリア問題に関する協議が行われる予定です。

ロシアだけでなくすべての関係国は、今まで以上に協調して具体策を講じることを必要とされています。

欧州各国で流入する難民・移民への警戒感が更に強まることも
一方、今回テロ事件は、フランスや欧州各国の難民・移民対策にも影響することが考えられます。
すでにフランスは事件に関連して、第二次世界大戦以来初めての非常事態を宣言し、出入国管理を復活させています。

****パリ同時多発テロ】仏大統領「国境を閉鎖」言明 テロリスト入国防ぐ狙い**** 
ロイター通信などによると、オランド大統領は13日のテレビ声明で、今回のテロ事件の容疑者逃亡やテロリストの入国を防ぐために「国境を閉鎖する」と言明。欧州諸国間の自由移動を認めたシェンゲン協定に基づき、廃止していた出入国管理を復活させた。

またフランスと国境を接するベルギーも、フランスからの空港便や国境をまたぐ道路や鉄道に関して出入国管理を再開した。

一方で、仏外務省は「国内の空港は閉鎖せず、航空機や鉄道のサービスは継続される」との声明を発表。米国の航空会社によると、パリ行きの航空便は一部遅れが出ているものの、継続して運航するという。

ドーバー海峡の下の英仏トンネルでロンドンとパリを結ぶ「ユーロスター」は14日も列車を運行しているが、チケットの変更などに応じているという。【11月14日 産経】
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今回の事件がフランスで起きた背景として、フランスが多くの移民を抱え、かつ、そうした移民に関する歴然たる社会的格差が存在することが指摘されています。

****<パリ同時多発テロ>多民族国家、脆弱さも内包****
フランス史上最悪規模の同時多発テロは、仏社会を恐怖の闇に包みこんだ。1789年の革命を経て「自由、平等、友愛」を国是に掲げるフランス。崇高な理念の裏で、多くの移民を抱える多民族国家は、脆弱(ぜいじゃく)さも内包している。

フランスの移民政策は、世界でも厳格な同化主義が基本だ。フランス語を話すなどフランス社会に溶け込もうとする者は受け入れ「平等な市民」として社会に組み込もうとする。こうした同化政策は、人口が激減した第一次世界大戦後の1920年代や第二次世界大戦後の経済成長期に機能した。

だが今は様相が異なる。フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、仏国内には530万人の外国生まれの移民と、650万人の移民2世が居住し、人口の19%を占める(2008年)と推定される。このうち約500万人がアフリカ出身とみられる。

今やアフリカ系移民と人口の大半を占めるキリスト教徒との社会的格差は歴然としている。

今年1月に起きた週刊紙シャルリーエブドの襲撃事件では、パリ出身のアルジェリア系の兄弟を含む3容疑者が、イスラム教の予言者ムハンマドの風刺画を掲載した同紙を標的とした。

仏国内育ちの容疑者による「ホームグロウンテロ」は、欧州各国で急増する移民の問題をクローズアップさせる契機となった。再び起きた凶行は、移民政策に影響を与える可能性がある。

一方、今回のテロを受け、オランド大統領はアルジェリア戦争(1954〜62年)以来の国家非常事態を宣言した。フランスは、アルジェリアとの関係では苦い過去がある。

仏からの独立を勝ち取ったアルジェリアでは90年の統一地方選でイスラム主義政党「イスラム救国戦線」(FIS)が圧勝した。しかし、急激なイスラム化を恐れた軍部が92年にクーデターで政権を握り、フランスも黙認。反発したFISの武装集団が、アルジェリアやフランスでテロを繰り返した。

フランスは今年9月、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆に参加した。今回のテロは、これに反発した可能性がある。【11月14日 毎日】
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国際移住機関(IOM)によれば、中東や北アフリカなどから地中海を渡って欧州入りを目指す難民や移民の総数が今年に入ってから計80万人を超えたとのことで、押し寄せる難民・移民への対応に苦慮する欧州各国は次第に国境管理や難民と認められなかった移民の送還業務を強化し、難民の流入を抑制する方向に向かっています。

***貧困対策・送還へ協力=難民問題で行動計画―欧州・アフリカ首脳****
マルタの首都バレッタで開かれていた難民問題を協議する欧州とアフリカ諸国の首脳会合は12日、貧困など根本的な原因への対応や、難民と認められなかった移民の送還業務での協力強化など5分野から成る行動計画を採択して閉幕した。(後略)【11月12日 時事】
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****<スロベニア>国境に越境防止柵の設置を始める****
中東などから欧州に難民が大量に押し寄せている問題で、スロベニアは11日、国境に越境防止柵の設置を始めた。難民の流れは止めないとしているが、1日7000人を超える流入を抑制する狙いがある。

また、ドイツ内務省は10日、欧州連合(EU)入りしても難民申請しないままドイツに入国したシリア難民を最初に到着した国に送り返す「原則」の適用を再開すると発表した。ギリシャなどでの登録を促し、難民を他の国に送り込む狙いがある。

スロベニアはギリシャからドイツに至る通称「バルカンルート」の途中にある。クロアチアとの国境検問所は管理が厳しいため難民は森や川などの国境を越えている。越境防止柵はこれを防ぎ、難民を正規ルートに戻し抑制する狙いがある。

一方、EUでは最初に入った国で難民申請する大原則があるが、ドイツは今年8月、人道的見地からシリア難民への適用を除外した。独内務省は今回、この例外適用をやめるとしている。ただ、実際にはギリシャにシリア難民を送り返すことは困難で、難民に欧州入りを断念させる「情報戦」の一環とみられる。

メルケル独首相の報道官も9日、難民が家族を呼び寄せることは「当面あり得ない」と述べた。多くの難民は定住した上で家族を呼び寄せる目的で来独しており、これも難民に厳しいメッセージを送ろうとの試みだ。【11月11日 毎日】
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****オーストリアも柵設置へ=欧州へ難民80万人超に****
オーストリア政府は13日、中東などから押し寄せる難民らの管理を強化するため、流入ルートに当たる対スロベニア国境の一部にフェンスを設置すると明らかにした。(中略)

DPA通信によると、オーストリア高官は「整然と入国させるのが狙いであり、封鎖しようというものではない」と強調した。【11月13日 時事】 
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今回テロ事件を受けて、欧州各国の難民・移民対策は、今まで以上に抑制的・消極的なものになることも想像されます。
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アフリカ中部ブルンジ  隣国ルワンダで起きた大虐殺を想起させる表現で反対派弾圧を示唆

2015-11-13 22:20:53 | アフリカ

【5月22日 AFP】

おさまらない混乱
アフリカ中部の小さな国ブルンジは、隣国ルワンダ同様にツチ・フツの対立から犠牲者数30万人とも言われる大量虐殺を経験した国です。

今年に入り、憲法規定を拡大解釈(あるいは曲解)したヌクルンジザ大統領三選を巡る大統領選挙の混乱から再び不穏な情勢になったことは、4月27日ブログ「アフリカ中部ブルンジ 大統領選挙を巡る混乱 蘇る虐殺・内戦の記憶」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150427で、また、その後のクーデター騒動については、5月14日ブログ「アフリカ中部ブルンジ 大統領選挙の混乱からクーデター 成否は未確認 懸念される混乱拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150514でも取り上げました。

結局クーデターは失敗し、かつてフツ系武装組織の指導者でもあったヌクルンジザ大統領が現在も政権を担っていますが、クーデター騒動後も混乱はおさまっていません。

****ブルンジ、反大統領派の学生ら一時米大使館に避難 副大統領は国外へ****
ブルンジの首都ブジュンブラで(6月)25日、3選を目指す同国のピエール・ヌクルンジザ大統領に抗議するデモに参加している学生約200人が、警察の暴力的な取り締まりを恐れ、米大使館の敷地に無許可で入る騒ぎが発生した。

また同日、第2副大統領は自ら国外に避難したことを明らかにした。同大統領が3選を目指し出馬表明を行って以降続いている同国の政情不安がますます強まっている。(後略)【6月26日 AFP】
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6月29日には、大統領三選に反対する野党がボイコットするなかで議会選挙が行われました。投票を前に首都ブジュンブラなど幾つかの投票所に手投げ弾が投げ込まれるなど緊迫した状況の中での投票でした。

****与党が大半の議席獲得=ブルンジ議会選****
AFP通信によると、6月29日に投票が行われたアフリカ中部ブルンジの国民議会選で選挙委員会は7日、ヌクルンジザ大統領の与党「民主防衛国民会議・民主防衛勢力」が公選議席100のうち77を得たと発表した。

同国では4月末以降、ヌクルンジザ氏が大統領選3選出馬を表明したことに抗議するデモが活発化して多数が死傷しており、野党勢力は選挙ができる環境にないとして議会選をボイコットした。【7月8日 時事】 
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7月には、批判の的となっていたヌクルンジザ大統領が三選を目指す大統領選挙が混乱の中で実施されました。
今回の大統領選は欧米などから現段階での実施に反対する声が上がり、2度延期されたものの、野党各党がボイコットする中での選挙となりました。

****ブルンジ大統領選、投票開始 銃撃や爆発で死者も****
アフリカ中部ブルンジの大統領選は21日、投票が始まったが、首都ブジュンブラでは投票開始前に銃撃や爆弾攻撃が相次いで発生した。

今回の大統領選では、国際社会の批判を受けながらも出馬した現職ピエール・ヌクルンジザ大統領(51)の3選が確実視されているが、暴力行為の引き金となる恐れも高まっており、数日間で数千人規模の人々が周辺国に逃れる事態となっている。

警察や目撃者によると、ブジュンブラでは21日の夜明け直後に投票所が開いたが、前夜から爆発や銃撃が相次ぎ、警察官と市民の少なくとも計2人が死亡した。

ブジュンブラは3か月におよび続く反政府行動の中心地。反ヌクルンジザ派の抗議運動は暴力的な締め付けを受けてきており、4月下旬以降で少なくとも100人が死亡。これまでに反大統領派の多くが国外逃亡している他、暴力の再燃を恐れる一般市民15万人以上が難民化している。

また国際医療援助NPO「国境なき医師団(MSF)」は20日、暴力行為の横行を恐れ1日当たり約1000人の人々が隣国タンザニアに逃れていると発表した。

ブルンジでは5月半ば、軍幹部らがヌクルンジザ大統領に対するクーデターを試みたが失敗。以降は北部で闘争を展開している。【7月21日 AFP】
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選挙結果は、ヌクルンジザ大統領が三選を実現するものとなりました。

8月には、大統領三選に反対するデモ参加者の取り締まりを指揮し、5月のクーデターを失敗させた立役者とみられていた大統領側近が暗殺される事件も。

****<ブルンジ>政権ナンバー2暗殺****
アフリカ中部ブルンジからの報道によると、ヌクルンジザ大統領側近で現政権ナンバー2の実力者と目されるヌシミリマナ将軍が2日、首都ブジュンブラの路上で武装グループに襲撃され殺害された。

ブルンジでは先月24日に3選を果たした大統領に対する野党や反対派市民の反発が強い。5月にクーデターを企てた軍の一部は引き続き政権転覆を目指しているとされており、大統領側近の暗殺は同国内の緊張をさらに高めそうだ。(後略)【8月3日 毎日】
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その後、ブルンジに関する報道は目にしていなかったので、混乱も下火になったのか・・・とも考えていましたが、そうでもないようで、オバマ米大統領が「深い懸念」を示し、安保理では国連による現地展開も検討されています。

****ブルンジ情勢に「深い懸念」=米大統領****
オバマ米大統領は11日、南アフリカのズマ大統領と電話し、アフリカ中部ブルンジで大統領派と反大統領派の対立が激化し、治安情勢が悪化していることに「深い懸念」を抱いていると伝えた。

オバマ大統領はその上で、南アフリカが周辺国などと協力し、沈静化と対話を働き掛けるよう要請した。【11月12日 時事】
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****国連展開の可能性=ブルンジ治安悪化で安保理決議****
国連安全保障理事会は12日、アフリカ中部ブルンジで大統領派と反大統領派の対立から治安が悪化しているのを受け、国連による現地展開の選択肢を含めた対応策を15日以内に安保理に報告するよう、事務総長に求める決議を全会一致で採択した。

同国のヌクルンジザ大統領が今月、反対派に武装解除を最後通告したのに加え、大統領派の議会議長は1994年に隣国ルワンダで起きた大虐殺を想起させる表現で反対派弾圧を示唆した。

多数派フツと少数派ツチによる暴力抗争の恐れも指摘される中、決議には有事の対応計画を策定する狙いがある。【11月13日 時事】 
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“隣国ルワンダで起きた大虐殺を想起させる表現で反対派弾圧を示唆”・・・・どういうものかは知りません。
ルワンダのジェノサイド当時は、フツ系ラジオが連日「奴ら(ツチ)は薄汚れた汚らしいゴキブリだ。さあ、ゴキブリを駆除しよう!潰せ!殺せ!ゴキブリどもを皆殺しにしろ!」と民衆を煽っていました。

紛争の傷に加え、飢餓や貧困の中で政府への不満が高まるも、それを口外できない状況が約10年続いてきた
大統領三選に反対する動きとツチ・フツの対立がどのようにリンクするのかはよくわかりませんが、大統領批判の背景には苦しい経済情勢があるようです。

また、警察当局や民兵組織による鎮圧行動は熾烈なものがあるようです。

ブルンジ男性と結婚された日本人女性のブログ「ブルンジ人旦那とブホロブホロ ライフ」には、そうした混乱の状況について詳しく記載されています。

****まだ紛争は続いているということ****
・・・・(大量虐殺を招いた)紛争中の経済はマイナス成長を記録したが、近年は年約4%の成長を続けている。しかし、実感としては人々は紛争前より貧しくなったという。

UNDPによると、1人あたりGNI(購買力平価)は790ドルと、サブサハラアフリカの平均の5分の1ほどしかなく、また、1日1.25ドル以下で暮らす貧困層は81%にのぼる。IFPRI(国際食糧政策研究所)が定義する飢餓指数においては、エリトリアと並んでExtremely Alarmingに位置付けられている。

人口の約9割が、自給を基本とする農業に従事しているが、土地の矮小化等が原因となり、自足を達成している農家はごく稀である。

よって、現金収入のある家族・親戚に扶養の負担が集中する傾向にあるが、一方で、就職は非常に困難であり、大卒者でも無職状態にある人も多い。(中略)

紛争の傷に加え、飢餓や貧困の中で政府への不満が高まるも、それを口外できない状況が約10年続いてきた。

このような苦労を踏みにじるかのように、大統領は、和平合意や憲法に違反して立候補を宣言した。

すぐさま、我慢の限界に達した多くの市民たちが、主に首都の一部地域にてデモを開始した。多くは平和的なデモであったが、一部は、道路封鎖や警察への投石等に発展した。

このような行為に対し、警察やImbonerakure(かつての紛争時のゲリラ組織が姿を変えた与党党員の青年組織)が市民への暴力や人権侵害行為を激化させてきた。

Human Rights Watchによると、警察が実弾でデモ隊の頭や胸を狙う、逃げる人を背後から撃つ、デモに参加していない人に発砲する、平和的なデモに発砲する、怪我人を運搬中の人に発砲する、発砲後に殴る・蹴るなどの暴行を加える、人権活動家に暴力を加える等、数多くの暴力行為が確認されているという。

現地メディアが撮影した映像の中で「警察が市民を殺している。どれだけ殺そうと私たちは抵抗をやめない」とある男性が語っていた。再び暴力の連鎖が始まってしまったのだ。

そして、軍によるクーデターが起きた。クーデター直後は、歌い踊る市民が街に溢れた。恐怖政治を自らで追いやった、民主主義の花が咲いたと確信したそうだ。しかし、大統領派の軍が応戦し、主要機関を抑えるための砲撃戦に発展した。その結果、大統領が戻り、クーデターは失敗に終わった。友人たちからは、もう希望がないというメッセージが届いた。

もともと異なる武装勢力であった野党が結束を始めたが、警察によって野党党首1名が殺害されたのを機に、他の党首も亡命せざるを得なくなった。政府への糾弾と対話の開始を主張しており、また、国連が調停人を送るも、与党は交渉を拒否し続けている。

与党の暴力はメディアへも及び、警察やImbonerakureによって主要メディア局が焼かれ、ラジオに関しては全て放送が停止している。また、複数のジャーナリストに対して殺害の脅迫を行っている。

大統領の違憲行為に反対する与党員への脅迫も激しく、亡命者も発生した。隣国へ亡命した与党の国会議員Aime Nkurunziza氏の内部告発によると、反対するのであれば国を出ること、さもなくば命はないという脅迫があったそうだ。Imbonerakureが国境を厳しく監視しているため、亡命時に逮捕された人も多い。

常時でさえ学校側のストライキ等で授業が遅れる傾向にあるにも関わらず、首都の多くの学校は数か月間閉鎖され、若者たちが不満を募らせた。

貧しい庶民たちは、物価高騰や日用品の品薄により生活が更に困窮している。例として、塩の価格は、大統領の立候補前は約60円/kgであったが、9月初旬には約76円/kgとなった。

複数の反政府ゲリラが活動を再び活発化させており、特に農村部において、紛争の生々しい記憶を持っている多くの人たちが国外に逃げている。また、武装闘争に向けた資金集めとみられる強盗事件も増加している。

4月25日以降、少なくとも100名の市民が死亡し、数百人が投獄され、20万人近くが国外に避難した。結局、7月21日に大統領選挙が強行され、違憲のまま大統領が再選された。

選挙後、少しずつ日常生活が再開される中、秘密(私服)警察の前トップが暗殺された。彼は大統領の右脳とも言われ、多くの市民の虐殺に関与している。容疑者は反政府派のいずれかとも、大統領によるとも言われ、はっきりしていない。

しかし、警察が周辺地域へ弾圧を加え、再び無実の市民の血が流れ始めたことは事実である。更に、一命は取り留めたものの、最も著名な人権活動家であるPierre Claver Mbonimpaが銃弾を受けた。また、軍の前トップは殺害され、現トップの暗殺未遂も起きた。

与党と複数の反政府派との複雑な対立は、再び激化していることが明らかである。更に、中国等がニッケルと引き換えに急速に政府に近付いており、対立は複雑化する一方である。「これから何が起こるかわからない」。私の家族や友人が口をそろえる。

独立以来殺戮が絶えなかったブルンジは、アルーシャ和平合意を以って先の紛争を終結させた。恐怖や失望から立ち上がり、極度の飢餓と貧困に日々立ち向かいながら決死の思いで這い上がってきた人々は、今日の政府や警察、Imbonerakureを赦すことはできず、これからも暴力の連鎖とそれに伴う治安や経済の悪化は続くであろう。

この絶望の中で、ある友人は私にこう言った。「民主主義の果実を味わうその日まで、諦めない」
【9月27日 ドゥサベ友香氏 「ブルンジ人旦那とブホロブホロ ライフ」http://ameblo.jp/burundihusband/entry-12077923937.html
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「これから何が起こるかわからない」・・・・特段の資源もないアフリカの小国ですから、大国間の利害対立もさほど大きくないようです。国連の速やかな対応で新たな混乱・悲劇を未然に防ぐことができることを期待します。
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アフガニスタン  タリバン内紛の中で斬首処刑されたハザラ人

2015-11-12 23:18:17 | アフガン・パキスタン

【11月11日 AFP】

タリバン内紛
アフガニスタンのイスラム過激派タリバンは、最高指導者オマル師の死後、ナンバー2だったマンスール師が後継となっていますが、これに反発する勢力もあることはこれまでもたびたび触れてきたところです。

***タリバーン内紛で戦闘、100人死亡 アフガン南部****
アフガニスタン南部のザブール州で、反政府勢力タリバーン内部の権力闘争が戦闘に発展し、地元メディアによると、10日までに双方合わせて少なくとも100人が死亡した。

タリバーン内部では今年7月、最高指導者オマール幹部が2年前に死亡していたことが明らかになり、後継者となったマンスール幹部と、同幹部の就任を拒否する有力者らの対立が表面化。

今月初めには、反マンスール派が元ニムローズ州知事のムハマド・ラスール幹部をトップとする独自の指導部樹立を宣言した。

タリバーン筋によると、反マンスール派の実力者で、ラスール幹部に次ぐナンバー2のダドゥラ幹部のザブール州内の支配地域に対し、マンスール派が5日、総攻撃を開始した。

反マンスール派に身を寄せていた中央アジア系のウズベク人武装勢力を巻き込み、衝突が拡大した。

ウズベク人勢力は中東の過激派「イスラム国」(IS)に恭順を示したことがあり、数カ月前に拉致した少数派シーア派の住民7人を戦闘途中に殺害した。タリバーンは捕まえたウズベク人を報復として処刑したと伝えられている。【11月10日 朝日】
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首を切られ処刑されたハザラ人7名
タリバンの内紛は今後のアフガニスタン情勢にとって重要なポイントではありますが、今日の話は上記記事の最後に触れられている戦闘途中に処刑された“少数派シーア派の住民7人”(ハザラ人)の話です。

“殺された7人は、男性2人、女性2人、少年2人、少女1人。南部のザブール州で先週末、首を切られた状態で遺体が発見された。CNNによると、7人は10月にザブールで反政府勢力タリバンとISIS関連組織の抗争が起きた時期に誘拐されたらしい。”【11月12日 Newsweek】

上記【朝日】ではウズベク人勢力が殺害したように記述されていますが、そのあたりはあまり明確ではないようにも報じられています。

****ハザラ人7人の斬首遺体見つかる、アフガン首都で大規模デモ****
アフガニスタンで前週末にイスラム教シーア派の少数民族ハザラ人7人の斬首遺体が見つかった事件を受け、首都カブールで11日、犠牲者のひつぎとともに数千人がデモ行進し、犯人に対する裁きを求めた。

女性2人、少女1人を含む7人の遺体は7日、南部ザブール州で発見された。何者による犯行かわかっていないが、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンもしくはイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の関連組織による犯行だとして非難の声が上がっている。

カブール西部に集まったデモの参加者は雨の中、犠牲者の写真を掲げ市内の中心部に向かって行進し、タリバンとISを非難するスローガンを叫び、政府による保護と裁きを求めた。

事件の状況はこれまでのところ明らかになっていないが、7人は数か月間にわたって武装集団に人質に取られていたと考えられている。遺体が見つかったザブール州では最近、タリバンの内部抗争が起きていた。

一部の地元当局者はISの同調者による犯行としているが、政府は事件のあった地域を掌握しておらず、事実確認ができていない。

また、アフガニスタンの情報当局は10日、タリバンの内部抗争が起きていたことを指摘し、IS関連組織の関与を否定した。【11月11日 AFP】
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人々の怒りは、ISやタリバンを抑えられないアフガニスタン政府にも向けられているようです。

****子供を斬首したISへの報復を求め、カブールで大規模デモ****
アフガニスタンの首都カブールで11日、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に斬首処刑されたとみられるハザラ人7人の棺を担ぎ、遺影を掲げた数千人の市民がISISへの報復を叫んで通りを埋め尽くし、大統領官邸に向けて約10キロのデモ行進を行った。(中略)

デモ隊はアフガニスタン政府のISIS対策の手ぬるさを糾弾、タリバンとアフガニスタンのアシュラフ・ガーニ大統領双方に怒りをぶつけた。ガーニが官邸にいたかどうかは不明だ。

 一部のデモ参加者が塀をよじ登って敷地内に入ろうとしたため、官邸の警備兵が群衆に向けて発砲。7人が負傷したと、アフガニスタンの公衆衛生省が発表した。(中略)

ハザラ人はイラン人と同じペルシャ語を話すイスラム教シーア派教徒で、人口は280万人。アフガニスタンでは3番目に大きい民族だ。アフガニスタンでは、タリバンやアルカイダなどイスラム教スンニ派の武装集団やテロ組織の標的になっている。

「(殺害は)アフガニスタンの人々と政府、同盟国に対する極めて危険なメッセージだ」と、アフガニスタン下院のアブドゥル・ラウフ・イブアヒミ議長はロイターに語った。「これは家族や部族、民族ではなく、アフガニスタン人すべての問題だ」【11月12日 Newsweek】
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「これは家族や部族、民族ではなく、アフガニスタン人すべての問題だ」とのことですが、今回のデモは、被害にあったハザラ人によるもののようです。
“アフガニスタンの首都カブールで11日、少数民族ハザラ人数千人が治安改善を求める抗議デモを行った。”【11月12日 毎日】

アフガニスタン混乱の根底にある民族対立
かなり古い数字ですが、アフガニスタンの民族構成は以下のとおり。

****主要民族 (2003年推計****
パシュトゥーン人45%、言語:パシュトー語(イラン語群)、宗教:ハナフィー派スンニー
タジク人32%、言語:ダリー語、タジク語(イラン語群)、宗教:ハナフィー派スンニー、イスマイール派シーア(北部の若干)
ハザーラ人12%、言語:ハザラギ語(イラン語群、ダリー方言)、宗教:イマーム派シーア、イスマイール派シーア、スンニー(極少数)
ウズベク人9%、言語:ウズベク語(テュルク諸語)、宗教:ハナフィー派スンニー【ウィキペディア】
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アフガニスタンの混乱がいつまでもおさまらない理由のひとつが、この民族対立です。

“アフガニスタンは,パシュトゥン人(アーリア系),タジク人(ペルシャ系),ウズベク人(トルコ系),ハザラ人(モンゴル系)などによる多民族国家であり,各地の有力部族が,住民生活から文化や政治に至るまで大きな影響力を有していたことなどから,長期的・安定的な統一国家が形成されず,歴史的にも混迷した情勢が続いてきた。”
【公安調査庁HP】

内戦時には各民族間で血で血を洗う凄惨な内戦が繰り広げられ、旧タリバン政権はそうした混乱を一定におさめたことで民衆の支持を拡大した歴史もあります。

そのタリバンは最大民族パシュトゥン人が基盤となっています。

旧タリバン政権崩壊後も民族間の対立は解けておらず、先の大統領選挙もパシュトゥン人のガニ候補とタジク人のアブドラ候補の争いとなり、選挙後の混乱で民族間の衝突も懸念される状況になったことは記憶に新しいところです。

ハザラ人の虐待と差別の歴史 近年の境遇変化
そうした民族対立の中にあって、ハザラ人はほとんど唯一のシーア派で、かつ、モンゴロイドで顔つきも異なることなどから、長く差別的な劣後した地位におかれ、虐殺も経験してきました。

近年は熱心な教育や政界への進出によって、その境遇は改善しつつあるようですが、そのことが他民族の不快感を呼び起こすところともなっているようです。
(2013年10月15日ブログ「アフガニスタン 女性、少数派ハザラ人の社会進出 変化と抵抗」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131015

****被差別の民、民主化の光 アフガン、奴隷の歴史背負うハザラ人****
アフガニスタンには日本人と似た顔立ちをしたハザラ人と呼ばれる少数派の民族がいる。
長く抑圧されてきたが、混乱の時代を経て12年前に登場したカルザイ政権の民主化により、大学や政治の舞台で急速に力を増している。誰もが平等にチャンスを持つ社会の誕生が、追い風になった。

■機会平等の社会生かす 高等教育、進学に熱意
・・・・アフガニスタンは人口約3300万人。ハザラ人が占める割合は1割程度とみられる。1973年に倒れた王制の時代から現在まで支配民族として君臨してきたパシュトゥン人(約4割)、北部に多いタジク人(約3割)に及ばない。

それが近年、大学進学では民族比率の逆転が起きている。最高学府のカブール大学では、ハザラ人学生がすでに3割以上に達している。ハザラ人で社会学科4年のイシュハク・アリ・ラセクさん(23)によると、学科の同級生88人のうち69人がハザラ人だ。

今春の国立大学統一入試では、住民のほとんどがパシュトゥン人で反政府勢力タリバーンの活動が活発なカンダハル州(人口約110万)の合格者は918人。一方、ハザラ人がほとんどのダイクンディ州(人口約40万)からは3304人。首都があり人口で10倍近いカブール州の半分に迫る躍進ぶりだった。
ラセクさんは「長く抑圧され、貧しいハザラ人にとって、開かれた唯一の道は学問の道だから」と話す。

他民族からの警戒感を反映した動きも出ている。高等教育省は最近、国立大学進学枠を全国一律の選抜方式から、民族比率が反映されやすい州ごとに割り当てる方式に変える方針を出した。
この方針は結局、閣議で否決されたが、海外留学枠については全国一律の成績順から今年、州ごとの割り当てに変更された。

■政界でも勢力拡大
ハザラ人の進出は、議会の勢力分布にも表れている。州ごとの中選挙区制で行われた2010年の下院選の結果、現在はハザラ人が定数249のうち2割強の51議席を占める。

象徴的なのが、ハザラ人とパシュトゥン人が混住する中部ガズニ州だ。人口の45%程度とされるハザラ人が11議席中9議席を占めた。
治安が悪いパシュトゥン人居住地の投票率は低く、特に女性は、タリバーンや宗教保守派の圧力でほとんど投票に行かなかったという。一方、ハザラ人の地域では女性も含めた投票率が非常に高かった。

ハザラ人当選者の一人、ムハマド・アリフ・ラフマニ議員は「ハザラ人にとって、選挙は権利回復の手段そのもの。民主主義への期待や信頼が高い。来年の大統領選では、どの候補者もハザラ人の票を無視できないだろう」と指摘する。

高まる政治力を背景に、カブール南方のワルダック州では、王制時代の優遇政策で地主化していたパシュトゥン人遊牧民から、ハザラ人の農民が土地を取り戻すなど、権利回復の動きも起きている。

■国外に逃れ、近代思想持ち帰る 歴史家アスカル・ムサビ氏
もともと中部の山岳地帯を中心に住んでいたハザラ人の苦難は19世紀末のパシュトゥン人首長アブドルラフマンの時代に始まった。アフガン統一の過程でハザラ人が起こした反乱をきっかけに、ハザラ人の6割以上を殺害または国外追放し、奪った土地をパシュトゥン人に与えた。

アフガンの2大民族、パシュトゥン人とタジク人はイスラム教スンニ派が主体でコーカソイド(白色人種)なのに対し、ハザラ人はシーア派が多く、モンゴロイド(アジア系)で顔つきが異なる。

パシュトゥン至上主義を掲げたアブドルラフマンは「もしハザラ人というロバがいなかったら、人はもっと働かなければならない」と、使役用のロバになぞらえてさげすんだ。1920年代に奴隷制度が廃止されるまで使用人として売買され、それが現在まで続く差別の原因となった。

その後、70年代にできた社会主義政権時代に差別は緩和されたが、90年代後半にタリバーンが政権の座につくと、状況が悪化した。スンニ派への改宗を拒むハザラ人の虐殺が横行し、山間部に逃れたハザラ人は大量に餓死した。

カルザイ政権下でハザラ人は初めて、第2副大統領を出す国内第3勢力として認められるようになった。苦難の時代に同じシーア派のイランや世界各国に移り住んだ世代が帰国し、近代的な考えを持ち帰ったことも、民主化の時代で繁栄につながっている。【2013年10月11日 朝日】
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今回のハザラ人7人の処刑は、ハザラ人にとっては虐待と差別の歴史の記憶を呼び覚ますものでしょう。

ガニ大統領はテレビ演説で「テロリストは戦闘で敗北しているため、部族間の対立の種をまいている」と語り、民族融和を保つよう呼びかけています。【11月12日 毎日より】

アフガニスタンが本当に生まれ変わるためには、単にタリバンとの戦闘をおさめて和平を実現するだけでなく、これまでの民族対立感情を克服して和解を進めることが必要ですが、それは戦闘をおさめることより遥かに困難なことであることは言うまでもありません。

アフガニスタンに限らず、世界の不幸のかなりの部分は民族間の対立から起きています。

自らの民族に誇りを持つことと、多民族に対して攻撃的になることは別物です。・・・・別物ではありますが、民族を強調する立場は往々にして他民族への攻撃姿勢の温床ともなるのも事実であり、そうしたことから、個人的には、日本にあってもことさらに民族を強調する考え方には生理的嫌悪感を感じます。

誰しも自分の生まれ育った国の風土・文化そして同胞に対しては強い愛着を有しているものです。そうした漠然とした愛着で十分であり、敢えて民族的なものを強調したり、日の丸を振り回したりする必要もないと思っています。
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既存政治への拒否感 欧州におけるポピュリズム アメリカでは暴言を弄する「変わり種候補」への支持

2015-11-11 23:24:11 | 国際情勢

(欧州の主な反EU「ポピュリズム」政党 2014年欧州議会選挙より 【1月6日 産経ニュース】)

【「欧州を1匹の妖怪がさまよっている。ポピュリズムという名の妖怪が」】
「フランス革命」は一般的には、「自由・平等・博愛」の精神を広め、その後の市民社会や民主主義の基礎を形づくったと言われていますが、世界における民主主義確立の重要な舞台となったそのフランスでも、民主主義への価値観に揺らぎが見えているようです。

****フランス国民は独裁政権も歓迎****
フランスの民主主義は、終焉を迎えつつあるようだ。
世論調査によると、国が陥る深刻な問題を解決するためには独裁政権という選択肢もあり得ると回答した国民が40%に上った。

世論調査会社IFOPが成人1000人を対象に聞き取りを実施。以下の状況にどの程度賛同できるか答えてもらい、回答は支持政党ごとに集計した。

例えば質問の1つは、「選挙で選ばれた政治家がフランスを衰退の危機から救うために必要な改革を実行できない場合、独裁者に政権を託せるか」というもの。全体では40%がイエスと回答し、極右政党・国民戦線支持層では賛成は60%に上った。

また、「必要だが不人気な改革を行うため、選挙を経ないテクノクラート(実務家)が統治するのは許せるか」との質問には67%が賛成。最大野党の国民運動連合(UMP)支持層は80%もの支持を表明し、与党・社会党支持者も54%が賛成した。

フランス革命も真っ青の民主主義軽視は、財政再建や構造改革を一向に断行できないオランド政権への反発かもしれない。【11月17日号 Newsweek日本版】
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フランスに限らず欧州全体において、経済危機や反移民感情を背景に、これまでの「民主主義」を担ってきたエリート政治への不信感を前面に出したポピュリズムが台頭しています。

熱狂的なポピュリズムの嵐は、往々にして少数派に不寛容で、独裁的な政治権力を生む土壌ともなります。

****欧州で広がるポピュリズム EU不信集め各国で台頭 左・右派の政党「大衆利益」叫ぶ****
「欧州を1匹の妖怪がさまよっている。ポピュリズムという名の妖怪が」。マルクスが19世紀に記した「共産党宣言」の書き出しをもじった、そんな表現が欧州のメディアで使われるようになった。念頭にあるのは、欧州連合(EU)各国の議会選などで近年、相次ぎ躍進するポピュリスト政党だ。

ただ、ここで注目すべきなのは、選挙結果や世論調査の数字だけではない。ポピュリズムが台頭する背景には、グローバル化する経済の恩恵を実感できない多くの人々の不満がある。ポピュリスト政党はそうした民意をくみ取り、刺激することで、欧州統合に対する異議申し立ての源になっている点こそが重要だ。

こうした政党は、保守、革新という既存の政治思想の垣根を越えて存在する。

例えば、ギリシャのアレクシス・チプラス首相が率いる急進左翼進歩連合(シリザ)と、フランスのマリーヌ・ルペン党首の右翼政党・国民戦線(FN)は、移民対策などについては正反対の政策を掲げている。だが、一方で明確な共通点がある。エリート層がEUのかじを握り、国家の権限を縮小するような欧州統合のあり方こそが「大衆」の利益に反しているとどちらも主張しているのだ。

人々の不信感は、すでにEUを揺るがし始めた。ギリシャを発信源とした財政危機と、シリアなどから国境を越えて到来する難民・移民をめぐる危機。今年、欧州を相次いで襲った二つの危機は、ポピュリズムと深く関係している。

ギリシャ危機に際し、シリザが掲げた看板は「反緊縮」だった。共通通貨ユーロの信用を保つため、EU側から財政赤字の削減を要求されたギリシャは、福祉カットなどの緊縮策を受け入れ、国民の暮らしは困窮した。チプラス氏らは「EUが押しつける緊縮策はギリシャ人からの富の収奪だ」と訴えることで共感を得て、政権を獲得した。

後にチプラス氏は、新たな支援と引き換えに緊縮継続は受け入れた。ユーロやEUからの脱退までは国民も望んでいないと判断し、譲歩した。だが、再度の総選挙で勝ち、政権継続を決めた今も、エリート層やドイツなど債権国の横暴に対し、国民の利益を代表できるのは自分たちだ、という立場は変えていない。

一方、「右」のポピュリスト政党は「反移民」を掲げることが多い。EUでは、域内でヒトとモノの自由な動きを保障するのが大原則だ。それを「国境の外から移民を押しつけ、国民から職を奪っている」と非難することで、グローバル化の恩恵を感じられない人々を引きつけている。

ルペン党首率いるFNは長年、移民排斥の主張を唱えてきたポピュリスト政党の典型だ。だが今年、紛争下のシリアなどを逃れた人々が欧州に押し寄せ、EUの移民難民対策が後手に回る事態に陥ると、これらの政党は人々の不安感の受け皿となり、勢いづいた。

政権の求心力を強めるため、ポピュリズムを採り入れる動きも目立つようになった。難民危機に際して国境をフェンスで封鎖、「キリスト教中心の欧州の価値を守る」と主張するハンガリーのオルバン首相はその代表格だろう。

英国でも、反移民や反EUを掲げる「英国独立党」(UKIP)だけでなく、キャメロン首相を支える政権与党、保守党内にも強硬な反EUを唱える一派がいる。英国のEU残留の是非を問う国民投票が2017年末までに実施される予定だが、結果次第では、英国離脱という激震がEUを襲う可能性がある。

民意が政治の決定に反映されにくい「民主主義の赤字」が、ポピュリズムを勢いづかせる。EUがその赤字解消に真剣に取り組んで改革をはからないと、欧州統合は挫折しかねない。

 ■ポピュリズムとは――エリート政治に対抗
ポピュリズム(populism)とは一般的に、「エリート」と対立する集団として「大衆」を位置づけ、大衆の権利こそが尊重されるべきだとする政治思想をいう。ラテン語のポプルス(populus)=「民」が語源で、日本語では大衆主義、人民主義と訳されることもある。

このような考えを掲げる政治家は、ポピュリストと呼ばれる。既存の政治システムへの不信感を原動力としており、保守(右派)、革新(左派)いずれの政治潮流にも存在するとされる。

ポピュリズムはしばしば、「大衆迎合」「大衆扇動」といった意味でも使われる。だが、有権者の関心に応じて主張を変えたり、大衆の危機感をあおったりする政治手法は、ポピュリストとみなされない政治家も用いるものだ。

欧州などで台頭しているポピュリズムの最大の特徴は、「大衆」を善良な集団とし、腐敗した悪いエリートから受ける不利益に立ち向かう集団として強調する点だ。複数の集団による、互いに絡み合う利害の調整は「汚い」と排除する。

また、「大衆」を一枚岩ととらえるため、その中の少数派の意見は尊重されなくなる傾向が強い。【11月10日 朝日】
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左右両極に分裂した社会の反エリート狂騒劇
既成の政治システムへの不信感は、アメリカにあっても保守草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」によって前面に押し出せれてきましたが、次期大統領選挙においても、共和党では政治的“素人”のトランプ氏やカーソン氏がトップを走り、民主党では米議会でただ一人「民主社会主義者」を名乗る急進左派サンダース氏に一定の支持が集まると言った、「アウトサイダー」がもてはやされる異様な展開となっています。

****分断大国 2016米大統領選)アウトサイダー候補、台頭****
次期米大統領選で異変が起きている。政治家でない「アウトサイダー」がもてはやされ、既存政治への嫌悪が渦巻く。

保守派の一部では排他的・差別的発言がむしろ歓迎され、リベラル派では「政治革命」を唱える左派候補に一定の支持が集まる。人種の壁や所得格差が深刻になり、寛容が失われつつある。

 ■共和 差別的発言を許容
「大統領になれば国境の安全を守るというが、就任までどうするのか」
10月23日の米アイオワ州カウンシルブラフス。共和党から名乗りをあげるテッド・クルーズ上院議員(44)の集会で真っ先に質問をぶつけたのは、ラリー・ストーラーさん(72)だ。

ストーラーさんは「米国は移民の国だが、我々の文化を学び、同化することが前提。今ではスカーフをしたままのイスラム教徒の女性もいる」と違和感を持ち、既存の政治家が行動しないと反発する。

「ワシントンの政治家は我々の願いから完全に離れている」。保守草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」から支持を受け、共和党の上院議員でありながら公然と党執行部を批判するクルーズ氏に期待する。

クルーズ氏も、自らを「アウトサイダー」だと強調する。ドナルド・トランプ氏と支持率でトップを競う元神経外科医のベン・カーソン氏(64)も政治経験ゼロだ。

既存の政治への不信感は、日本の比ではない。米世論調査会社ギャラップによる10月の調査では、オバマ大統領への支持率こそ5割近くあるものの、米議会への支持は13%にとどまる。父と兄が大統領という名門政治一家のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が苦戦しているのも、そうした空気を反映している。

カーソン氏は信仰を熱く語り、熱心なキリスト教徒に特に人気だ。「イスラム教徒にこの国を委ねることには賛成できない」などと発言。

米国では個人や団体を中傷、軽蔑しないよう政治的に配慮した発言を「政治的公正さ」と呼び、尊重してきたが、カーソン氏は「この国は『政治的公正さ』を気にしすぎている」とも公言する。差別的とも映る発言を繰り返し、むしろ支持は上向いている。

政治、宗教、人種、貧富など、米国の分断は長年かけて徐々に進んできた。そんな中、オバマ氏は「一つのアメリカ」を掲げて7年前に大統領に当選したが、当時よりむしろ社会の分断は深刻の度を増している。

政治とメディアの関係に詳しい米ペンシルベニア大のキャスリン・ジェイミソン教授は指摘する。「従来は、行き過ぎた発言には党内からも制裁があったが、暴言が当たり前になっている。そうした人物が選ばれれば、米政治で前例のない事態だ」

 ■民主 急進左派にも支持
「工場という工場が閉鎖された街」「炭鉱は全て掘り起こされ、労働組合員もこそこそ去って行った」
1980年代に発表されたビリー・ジョエルの「アレンタウン」という曲で歌われた街が、米東部のペンシルベニア州にある。

アレンタウンにある老舗レストラン。10月13日にあった民主党候補のテレビ討論会を見ようと、バーニー・サンダース上院議員(74)のサポーター200人超が詰めかけた。

「あなたや米議会はウォール街を規制できずにおり、ウォール街に議会が支配されている」。サンダース氏が、ウォール街との関係が深いとされるヒラリー・クリントン氏(68)を批判すると、ノーマン・サラチェックさん(76)は、飲んでいたマティーニを置き、「そうだ!」と叫んで仲間とハイタッチした。

サラチェックさんの父親はアレンタウンで繊維工場の副社長を務め、サラチェックさんもこの街で生まれ育った。1850年代に「ベスレヘム鉄鋼会社」が巨大な工場をつくり、全米2位の鉄鋼生産量を誇った。第1次、第2次世界大戦での戦艦、ニューヨークのロックフェラーセンターに使われた鉄鋼もここで製造。米国の力の象徴とされた。

街は潤い、サラチェックさんも豊かな家庭環境で医者を目指し、心臓外科医として開業した。だが、第2次大戦後のアレンタウンでは日本など海外からの安価な鉄鋼に押され、工場が次々と閉鎖した。

貧困率は全米平均の倍近い約28%。高騰する医療費で治療に来られなくなる患者、うなぎ登りの薬代。「社会のゆがみ」を医師として体感してきた。

2008年にはオバマ氏に期待し、戸別訪問で「チェンジを実現しよう」と訴えた。だが、金融危機後の銀行救済に踏み切ったオバマ氏に失望。そんなサラチェックさんの心に、富裕層への減税措置の廃止や、公立大授業料無償化など「所得再配分」を唱えるサンダース氏の訴えが響いた。

サンダース氏は、米議会でただ一人「民主社会主義者」を名乗る急進左派。無所属を通す「米議会のアウトサイダー」だ。共産主義や社会主義という言葉への拒否反応が非常に強い米国で、サンダース氏を支援することに抵抗がないのか聞くと、「市民の生活を踏みにじる企業資本主義の方が問題だ」と言い切った。

かつて繁栄した「ベスレヘム鉄鋼会社」跡地。いまはカジノが進出するなか、14年前に破産・閉鎖された工場の一部が保存され、さびついた巨大な鉄くずの前にパネルがあった。欧州やメキシコなどから来た移民も、新しい職と安定した生活を得て、「社会の一員となっていった」と書かれていた。いまや、そんなアメリカンドリームはかすみつつある。【11月7日 朝日】
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既成政治に不満を抱く人々をひきつけるのは、既成政治に「ノー」と声高に叫ぶ「変わり種候補」です。
そこにあるのは理性というよりは感情です。

*****フィーリング」第一の大統領選****
アメリカでは世論の両極化か進み現状にノーと言える指導者を求める空気が生まれている
選挙を決するのは理性か感情か

・・・・民主党支持者も共和党支持者も現状に不安や不満を抱き、変化を望んでいるようだ。
アメリカ国民はかつてないほど極端な党派対立に陥っている。各地で行われる討論会は、相手政党に対する罵倒合戦と化すことがよくある。(中略)

「変わり種候補」に託す希望
左右両極に分裂した社会の反エリート狂騒劇、2016年大統領選へようこそ。

有権者は二大政党に不満を抱くあまり、「ノーと言う党」を立ち上げたに等しい。そして現状に「ノー」を叫ぶだけのお騒がせ候補者たちが、今の政治プロセスと既存政治家に幻滅した有権者の受け皿となっている。(中略)

今のアメリカでは理屈よりも「感じ」がものをいう。エリートは信用できない、「あっちの党」は邪悪だ、一部の人間が国民の運命を支配している。そんな「感じ」だ。

来年の大統領選は、こうした「感じ」に支配されたまま民主・共和両党の陣取り合戦に突入するだろう。今のところ、民主党が制しそうな州には選挙人の数が多いところが目立つ。つまり民主党が優勢だ。

しかしクリントンが晴れて大統領になったとしても、国民の間に潜む不信の「感じ」は消えそうにない。

誰が勝とうとも、既成の政党や政治家に反旗を翻した国民の反エリート感情は残る。両極化した国を率いていくのは困難な仕事だ。外交政策もさらに両極化するだろう。

世界は米大統領選に注目すべきだ。そして世界一の経済大国で最も重要な民主国家であるアメリカがどこへ向かうかを、慎重に見極めてほしい。【11月17日号 Newsweek日本版】
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その先にあるものは・・・・
日本にあっても、欧州のポピュリズムの台頭やアメリカにおける「アウトサーダー」「変わり種候補」への支持と同じような状況でしょう。
ネット上にあふれる、従来は当然のものとも思われていた価値観への批判。そこでは極端であることは歓迎され、攻撃的であればあるほど多くの支持が集まります。かつての「維新」に対する期待も。

第2次大戦におけるファシズム、冷戦下の共産主義との戦いは過去のものとなり、既成の政治ステムの正当性を示す「敵」がいなくなったこと

社会で深まる格差。政治やメディアに自分たちの声が反映していないという不満

各個人がインターネットを通じて情報発信が可能となった社会

そうした政治・社会情勢の変化をうけた流れでしょう。
既成の政治システムが現状に対応し切れていないのは事実であるにしても、声高に「ノー」を叫ぶその先に何があるのか・・・不安を感じます。
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ミャンマー総選挙  スー・チー氏率いる野党圧勝の勢い 結果発表は遅れており不確実な要素も

2015-11-10 23:42:27 | ミャンマー

【11月9日 AFP】

野党の独自集計では単独過半数確保の情勢
注目されていた8日に行われたミャンマーの総選挙。

2010年に行われた前回総選挙では、アウン・サン・スー・チー氏はまだ自宅軟禁下にあり、最大野党「国民民主連盟(NLD)」は選挙戦をボイコットしましたので、軍系の与党「連邦団結発展党(USDP)」が大勝しました。
今回がスー・チー氏率いるNLDが参加する民政移管後の初の総選挙となります。

“ミャンマーでは半世紀以上にわたって軍の影響力が強い政権が続き、4年前に民政移管したあとに成立した現政権も大統領や閣僚の多くが軍の出身者で占められています。
現地のメディアなどによりますと「変化」をスローガンに掲げる野党NLDが、長年続いた軍事政権に対する国民の反発を背景に、優位に選挙戦を進めてきたとみられ、野党が政権交代に必要な過半数の議席を獲得するかが焦点です。”【11月8日 NHK】

選挙管理委員会の開票結果発表は遅れており(あるいは、故意に遅らせているのか・・・)、すべての議席が確定するには、2週間から3週間かかるとしています。

現時点では、野党NLDの独自集計などをもとに推測しかありませんが、スー・チー氏の人気はやはり圧倒的なものがあったようです。

「“強い”とは言われてたけど・・・やっぱ、さすがやね・・・・」といったところでしょうか。
選挙戦終盤では、スー・チー氏が反イスラムを明らかにしないことに対して、仏教ナショナリズム的な僧侶などが反スー・チーの動きを見せてもいましたが、大勢に影響はなかったようです。

選挙前からNLDが勝利するのはほぼ確実と見られており、焦点は軍人に割り当てられた4分の1の議席を含めて、単独過半数に達する選挙議席の3分の2を確保できるか・・・という点でしたが、NLD集計によれば、都市部では9割ほど、少数民族政党と競合する地域でも7~8割を得て、「3分の2」ラインを越える「圧勝」の情勢にあるようです。

ただ、この点は正式な選挙管理委員会の最終発表を待つ必要があり、選挙の延期を画策するなど現政権寄りと見られている選挙管理委員会のことですから、何が起こるか・・・・未だ不透明です。

****<ミャンマー総選挙>野党「議席3分の2」・・・政権交代濃厚****
ミャンマー総選挙で、アウンサンスーチー氏(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」は10日、独自集計の結果、NLDが政権交代に必要な議席を超えて「圧勝」していると公表した。

スーチー氏らNLD幹部はこの日、政権構想に向けた会合を早くも開いた。だが、連邦選挙管理委員会の最終発表までは時間がかかるとみられ、公式結果の行方を注視している。

 ◇選管発表遅れる
NLDが今回、国会(上下両院)の改選498議席のうち3分の2超(333議席以上)を獲得し、その後政局が順調に動けば、来年2〜3月の国会で予定される大統領選で独自候補が当選するのは確実となる。

NLD開票集計責任者のテインウー氏は毎日新聞に対し、10日午後2時(日本時間同4時半)現在で、NLDは上下両院で406議席を獲得、政権奪取に必要な333議席を大きく超えたと公表した。

選管の中間集計では、NLDの確定議席は下院88議席中、78議席。テインセイン大統領(71)率いる与党「連邦団結発展党(USDP)」は5議席にとどまり、現職閣僚の落選の報が相次ぐなど惨敗の様相だ。

選管は当初、最終結果の公表を今月15日までと予定していたが、その後「2週間以内」と修正した。

NLDは10日、最大都市ヤンゴンのスーチー氏の自宅で中央執行委員会の会合を開いた。ニャンウィン報道官によると、会合では「圧勝」を踏まえ、スムーズな政権移行、新政権の陣容などを議論したという。

来年の国会で実施される大統領選では、上下両院の軍人議員が1人、両院の民選議員が各1人ずつ計3人の副大統領を選出。この中から全議員の投票で大統領を決める。NLDの集計では、NLDが上下両院とも副大統領を選出できるだけの議席を獲得している。

ミャンマーは半世紀に及んだ軍支配、さらに2011年の民政移管に伴う移行政権を経て、本格的な「民主政権」の時代を迎える可能性が出ている。

スーチー氏は英国籍の息子がいるため憲法上、大統領資格がない。今月5日に「大統領の上に立つ」と宣言して波紋を広げたが、10日、英BBCの取材に「バラはどんな名前で呼んでも香りはよい」というシェークスピアの「ロミオとジュリエット」の中の有名なセリフを引き合いに「大統領」の肩書には関係なく、自分が国家を率いるのだと改めて決意を示した。

NLDの会合後、別の報道官ウィンティン氏は、記者団に「選管は(開票結果の公表を)意図的に遅らせている。細工か何かしたいのかもしれない」と語り、選管の作為の可能性に警戒感を示した。

テインセイン大統領もミンアウンフライン国軍最高司令官も「選挙結果を受け入れる」と表明しているが、選管がどんな最終結果を発表するか国民は固唾(かたず)をのんで注視している。【11月10日 毎日】
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与党側は大物候補落選が続いています。

****閣僚や政商 相次ぎ敗れる****
今回のミャンマーの総選挙では与党USDPのテイ・ウー党首代行やシュエ・マン下院議長が敗れたほか、少なくとも7人の現職の閣僚と、3人の州知事が敗れ、その数はさらに増える可能性があります。

閣僚のなかには軍とのつながりを生かしてビジネスを拡大してきた政商も2人含まれています。

このうちミャンマー南部のエーヤワディ地方から立候補していたスポーツ大臣のティン・サン氏は、ミャンマーの議会などを建設した大手建設会社のオーナーでしたが、NLDから立候補した31歳の医師の新人候補に敗れ、NLDの独自集計によると1万票以上の差がついているということです。

このほか、USDPの下院議員でありながら、スー・チー氏への投票を呼びかける発言で波紋を呼んだミャンマーの不動産王とも言われるキン・シュエ氏も敗れましたが、キン・シュエ氏は10日、NHKの取材に対して、「スー・チー氏の政府になれば、外国からの投資がもっと増えるだろう。今後はビジネスに専念したい」と述べ、政治とはしばらく距離を置く考えを示しました。【11月10日 NHK】
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“与党関係者も朝日新聞に「大敗だ。ここまで負けるのは予想外だった」と話した”【11月9日 朝日】とのことですが、公正な選挙をやればNLDが大勝、与党が惨敗するというのは大方の見方であり、“予想外”とする時点で、軍政及びそれに連なる現政権に対する国民の強い不満を認識できていない、敗れるのも仕方ないとも思われます。

政権・軍部は結果受け入れを表明しているものの・・・・
こうした状況で選挙管理委員会による確定にどうして2週間も要するのか・・・「細工か何かしたいのかもしれない」と勘ぐりたくもなりますが、ここまで国際的に注目されていますので、そうそう無茶なこともできないでしょう。

1990年の軍政下で行われた総選挙では、NLDが圧勝しましたが、軍が結果を無視して政権に居座り続けたということもありますが、あの当時とはミャンマーも随分変わりました。

自宅軟禁を余儀なくされたスー・チー氏も政治の表舞台に復帰し、新聞などでの自由な報道も一定に認められるようになっています。(もちろん、完全に制約がなくなった訳でもありませんが)

こうした変化は、現政権を牽引してきたテイン・セイン大統領の大きな成果といえます。

そうした“昔とは違う”ミャンマーにあって、政権・軍部も選挙結果を受け入れることを表明しています。

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テインセイン氏は8日、首都ネピドーで記者団に「(与党が敗北すれば)私は有権者の意思を受け入れる。誰がこの国を率いようと、最も重要なのは国家を安定させ、発展させることだ」と述べた。

ミャンマーは62年の軍事クーデター以降、事実上の軍政が半世紀に及んだ。今も国軍の政治的影響力は極めて大きい。

だが国軍のミンアウンフライン最高司令官は8日、記者団に「NLDの勝利が国民の意思なら、私はそれを受け入れる」と語り、大統領と同様、NLD政権を容認する姿勢を改めて示した。【11月8日 毎日】
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アウンフライン最高司令官は「どの政党が勝っても、私はその結果を受け入れる」と繰り返しており、軍事クーデターの可能性についても、英BBCに「個人的にクーデターは嫌いだ。(NLD政権に移行するとしても)そのつもりはない」と明言しています。【11月7日 毎日より】

選挙戦についても、有権者リストに名前の記載漏れが大量に見つかるなど、選挙管理委員会の中立性や事務能力にも疑義が向けられることもありましたが、投票事自体については懸念された「大きな混乱」はなかったようです。

与党USDPのテイ・ウー党首代行も選挙結果について、「われわれは敗れた。最終結果はまだはっきりとはわからないが、選挙結果は受け入れる」と述べて、与党がNLDに敗北したことを認めています。

****ミャンマー総選挙、与党党首代行が事実上の敗北宣言****
8日総選挙が行われたミャンマーで、政権与党、連邦団結発展党(USDP)のテイ・ウー党首代行は9日午後、首都ネピドーで記者団に対して、「我々は敗北を受け止めなければならない」と述べた。アウン・サン・スー・チー党首率いる国民民主連盟(NLD)が勝利を収め、政権参画する可能性が高まった。

総選挙は2011年春の民政移管後初の総選挙。国会の全664議席の内、軍人議員の議席などを除く491議席を争う。投票日に全国で実施された出口調査でも、NLDは8~9割の支持を集め、NLDの独自集計でも改選議席の8割程度を押さえている。

テイ・ウー氏は記者団に「敗北した選挙区が、勝利した選挙区より多い」との独自集計の結果を明かした。そのうえで「選挙結果は国民の決断であり、受け止めなければならない。勝敗にかかわらずミャンマーに貢献したい」とも語り、NLDとの連携にも前向きな姿勢を示した。【11月9日 日経】
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こうした状況にありますので、あからさまな選挙結果の無視とか、クーデターといった事態はおそらくないと思われます。

ただ、「3分の2」が微妙な情勢となれば、野党候補が選挙違反で狙い撃ちにされるということもあり得ます。

スー・チー氏、NLD側も、恣意的に選挙違反に問われることを警戒し、6日まで認められていた選挙運動を5日で終了し、6日には立て看板などの撤去まで行っています。

選挙後初めて支持者を前に演説したスー・チー氏は、「選挙結果は正式に確認されていないが、結果はみんな分かっていると思う」と述べ、勝利に自信を示しつつも、あからさまな勝利宣言などは行っていません。

また、勝利パレードなど敗者を刺激するような行動もとらないように抑制しています。

【「変革」を求めた国民 半世紀に及んだ国軍支配に対する抜きがたい嫌悪感
いずれにしても、まだ結果が判明していませんので、選挙の総括や今後の課題等に触れるのは早すぎる段階ではあります。

その点は承知のうえで、民主化を進めてきた政権・与党の敗北に関する簡単な総括と今後の話について。

****<ミャンマー総選挙>変革求めた国民・・・・野党「勝利****
ミャンマーで8日行われた総選挙は、アウンサンスーチー氏(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」の勝利が確実視される。2011年に軍政から民政に移管して約4年半。

国民の心を捉えたのは、与党「連邦団結発展党(USDP)」を率いるテインセイン大統領(71)が訴えた「着実な民主化改革の継続」ではなく、スーチー氏が掲げた「チェンジ(変革)」だった。

今の焦点は、NLDが政権を奪取できる議席を獲得するかに集約される。

 ◇根強い国軍への嫌悪感
「正直、国民はNLD候補者の大半が嫌いです。NLDという組織も魅力的だとは思っていない。にもかかわらずNLDに投票したのは、変革を求めたから。その一点です」。地元紙ミャンマー・タイムズの政治部キャップ、イイトールイン記者(33)は、NLD躍進の背景をこう分析した。

スーチー氏は選挙遊説で「候補者個人ではなく、党の名前(NLDかどうか)で投票してほしい」と繰り返した。候補者について「玉石混交。当然教育する」との本音を吐露したことがある。

候補者に対して「メディアの個別取材に応じてはならない」とかん口令も出した。全体の15%と女性が比較的多くを占める候補者は、いわば「駒」だ。あえて有能な人材を登用しなかった面もあり、有権者には不評だった。

ある選挙区から下院選に出馬した女性(27)は法律を学ぶ現役の学生で、政治囚として2年間服役した経験がある。公募で選ばれた彼女はかん口令について「余計なことを話して問題になる可能性があり、微妙な時期なので仕方がない」と漏らした。

これに対し、テインセイン氏が率いる与党USDPの候補者は、軍出身者だけでなく、法律家、ビジネスマンなど年齢層も高く、NLDに比べ地元の「名士」と呼ばれる人物が多いのが特徴だ。

だが、国民の多くは「変革」を求めてNLDに投票した。その背景には、半世紀に及んだ国軍支配に対する国民の抜きがたい嫌悪感があるからだ。

将軍出身のテインセイン氏は、3日の国民向け演説で「旧軍政の統治は非民主的だった」と認めた。その上で「(民主化改革を進めた)1期(5年)だけで(軍政期の負の遺産を解消する)挑戦的な仕事を全うするのは困難だ」と発言。引き続きUSDPへの支持を求めたが、国民の胸には十分に響かなかった。

ミャンマーを30年間取材してきたスウェーデン人ジャーナリスト、バーティル・リントナー氏(62)は「(いまだに)国民の誰も政府を信じていない。たとえ政府が正しいことをしても、背後にたくらみがあると疑心暗鬼に陥る」と指摘。この国が軍政という長く重い病の後遺症を引きずる中で、スーチー氏待望論は必然だとの見方を示した。

 ◇過半数割れなら連立模索
ミャンマー総選挙は、最大野党NLDの勝利が確実となったが、NLDが単独で政権交代を実現できる議席に達するか不透明だ。

連邦選挙管理委員会の最終発表はまだ先とみられ、集計のごまかしなど依然として不測の事態を懸念する声もある。国民の多くは「この先何が起きるか分からない」と、政権や国軍に対し不信感を隠さない。過半数に達しなかった場合は、少数民族政党などとの連立を模索することになる。

テインセイン大統領の任期は来年3月末に切れる。新大統領は来年招集される国会で選出されるが、2〜3月の予定で、NLDが過半数を得られなければ、多数派工作が繰り広げられる可能性がある。

連邦選管のティンエー委員長は9日午後の記者会見で「全国4万の投票所のうち、48カ所で不正行為があった」と述べ、懸念された「大きな混乱」はなかったと発表した。

「自由で公正な選挙が行われるなら、NLDが勝つ」。最大都市ヤンゴンに駐在する各国外交官や内外メディアはそう事前予測しており、今のところ選挙結果は想定の範囲内のようだ。

過半数を得られなかった場合、「国会議員の6割は自分を支持している」というUSDPのシュエマン国会議長(68)と手を組むこともあり得た。

シュエマン氏はスーチー氏との関係が深く、今年8月にテインセイン大統領派による「党内クーデター」で党指導部から排除されたのもそれが要因の一つだった。

選挙戦でもシュエマン氏は「NLDが過半数に達しなかったら、スーチー氏が政権を握るのを手助けする」と明言していた。

だが、下院選に出馬したシュエマン氏は9日、NLDの対立候補に祝意を送り、「敗北」を宣言。スーチー氏にとって格好の連携相手は、早々と姿を消してしまった。

 ◇与党は予想範囲内…中西嘉宏・京都大東南アジア研究所准教授(ミャンマー政治)の話
与党USDPはこの結果をある程度予想していただろう。2012年の補選でNLDが大勝したことを考えると、今回の選挙結果は不思議ではないからだ。

国軍の影響力は08年制定の憲法で保障されているが、与党が勝ち続ける仕組みを制度の中に埋め込めなかった。シンガポールやマレーシアのように与党が勝ち続けるには、たとえ非民主的だと批判されても勝てる仕組みが欠かせないが(前回選挙からの)5年では作れなかった。今回の選挙で与党の弱さがはっきりした。

一方、国軍と与党は一体と見られがちだが、退役将校中心の与党と現役軍人では利益も世代も違う。与党が負けてもすぐに国軍が選挙結果を否定するような動きをするとは考えにくい。

今後、憲法改正の圧力が議会内で強まるだろうが、与党の盾がなくなり、国軍はNLDと正面から民主化の方向性について話し合わなければならなくなるだろう。

今後のポイントは、NLDの獲得議席とともに少数民族政党がどこまで票を伸ばすかだ。NLDが過半数を取れるかどうかによって連立の組み方に影響し、新政権の構成や議会の運営が大きく変わってくる。【11月10日 毎日】
*****************

スー・チー氏についても批判的な指摘も多々あります。

自分の存在を脅かすような人材を登用しない、唯我独尊で他人の意見を受け入れない、経済政策に疎い・・・・等々。
それでなくとも、軍部が強い力を持つ中で、どのように現実政策を遂行できるのか?
何より、国民の“過大”で“性急”な期待にどのように応えるのか?

そうした話は、もう少し結果が明らかになった時点であらためて。
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