孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本  人口減少・高齢化が進む中で、外国人を生活者として受け入れ共生を

2017-01-11 23:05:09 | 人口問題
本格的な人口減少時代に入った日本
経済予測、国際情勢に関する予測・・・いろんな不確かな“予測”があるなかで、人口に関する予測は現在生存している人がベースになりますので、戦争による大量死亡とか、ベビーブームによる出生数の急増とか、移民政策の変更でい移民に門戸を開くとかがない限り、ほぼ確実に現実となる“確かな予測”です。その動向に若干のペースアップ・ダウンはあるにしても。

その人口予測で見ると、今さら言うまでもないことですが、日本の人口はこれからどんどん減少します。
すでに“人口減少”は始まっています。

****日本の総人口、初減少 1億2709万4745人 15年国勢調査****
総務省は26日、2015年国勢調査の確定結果を発表した。15年10月1日現在で、外国人を含む総人口は1億2709万4745人。前回10年調査から96万2607人(0・8%)減り、1920年の調査開始以来初めて減少に転じた。(中略)

国内に住む日本人の人口は1億2428万3901人で、5年前より107万4953人(0・9%)減った。10年調査に続いて2回連続の減少となり、日本が本格的な人口減少時代に入ったことが鮮明になった。

総人口に占める15歳未満の人口は1588万7千人(12・6%)、65歳以上は3346万5千人(26・6%)。15歳未満の割合は過去最低で、65歳以上は過去最高を記録した。
 
外国人人口は5年前から10万4千人増え、過去最多の175万2千人。国籍別では中国が最も多い51万1千人で、韓国・朝鮮37万7千人、フィリピン17万2千人が続いた。(後略)【2016年10月27日 朝日】
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政府は少子化対策に取り組んでおり、その影響もあってか、2015年の合計特殊出生率は最終確定値で1.45になったとり、前年の1.42から0.03ポイント上昇してはいます。(合計特殊出生率増加の要因が何かは分析が必要かとは思いますが)

ただ、女性の母数が減少するなかにあっては、大勢を変えるものとはなっていません。

*****ことしの出生数 推計で初めての100万人割れ****
ことし1年間に国内で生まれる子どもの人数はおよそ98万人となって、初めて100万人を下回るという推計を、厚生労働省がまとめました。(中略)

それによりますと、ことし1年間に国内で生まれる子どもはおよそ98万1000人で、明治32年に統計を取り始めて以降、初めて100万人を下回る見通しになりました。(中略)

塩崎厚生労働大臣は閣議のあとの記者会見で「出生数の動向は、厳しい状況がずっと続いている。妊娠や出産、子育てなどそれぞれの段階に応じて、働き方改革と子育て支援を両輪で進めながら、少子化対策に取り組んでいく必要がある」と述べました。【2016年12月22日 NHK】
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もっとも、「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが大きな共感を得る状況では、政府の“働き方改革と子育て支援”もうまく機能していないようです。

なお、出生数減少、高齢化という流れは、日本だけでなく中国・台湾・韓国・シンガポール・タイなども共通した現象です。

****2030年、日本人の3人に1人が65歳以上、中国は2.3億人に****
2016年11月14日、環球網は、中国の高齢者人口(65歳以上)は2030年に2億3000万人を超えると報じた。

「アジアは世界で最も急速に高齢化が進んでいる」と報じた海外メディアの記事を引用したもので、同年に日本では3人に1人が65歳以上、韓国では5人に1人と予測されている。

総人口の多い中国ではこれほど高い割合にはならないが、2億3000万人という数はドイツの総人口の約3倍に当たる規模だ。

急速な高齢化のもとで労働力の減少が指摘されており、世界銀行は「遠くない将来、韓国は15%、日本、中国、タイは10%の労働力を失う」と予測。

また、高齢者介護の問題については、ある機関が「2030年に新たに必要とされる介護スタッフは中国だけで900万人」との報告を出している。【2016年11月15日 Record China】
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このままでは不可避な社会活力低下
このままでは若年層減少で、日本経済・社会の活力が急速に低下することが懸念されています。

****今後の日本の命運を握る若年層が急減する****
<戦後日本の高度経済成長を支えた若年層の増加「人口ボーナス」は今後反転し、日本社会は若年層が急減するかつてない大変化に直面する>

日本の近い将来についてはいろいろな予測があるが、人口が減っていくことは明らかだ。年齢層別にみると、減少のスピードが最も大きいのは若年層で、その結果として、人口の高齢化も進行することになる。

若年人口はバリバリ働いて社会を支えると同時に、消費性向が大きく景気を刺激してくれる存在だ。これまでの日本の発展も、若年層によってもたらされた面が大きい。

日本の若年人口の時系列カーブを描いてみると、大まかには景気動向と重なっている。将来予測も含む、20〜40代人口の長期カーブは<図1>のようになる。

青色が日本のカーブだが、1960年代までは増え続けていた。バリバリ働き、かつモノを大量に購入・消費してくれる若年層の増加。「奇跡の復興」と称される高度経済成長は、人口ボーナスという条件に支えられていたと言える。

70年代半ばになると増加は止まり、80年代まで高原状態が続いて、低成長の時期と重なっている。そして90年代以降は坂を転げ落ちるように減っていき、不況の深刻化の時期と見事に一致している。

労働意欲・消費意欲がともに旺盛な若者の存在は大きい、ということだ。その若者は今後も減少の一途をたどると見込まれ、2020年にはベトナムに追い越される。躍進の可能性を秘めた市場の選手交代というところだろうか。

若年人口の国際順位は、時代とともに変化する。日本の20〜40代人口は、高度経済成長のさなかの1960年では3943万人で、世界で5位だった。最近はどうで、さらに将来はどうなるか。40年のスパンで、上位20位の顔ぶれの変化をまとめると<表1>のようになる。

人口大国の中国とインドが圧倒的に多い。インドは今後も勢いが続き、2040年には中国を抜いて首位になる。2040年では、この2国だけで世界の若年人口の3分の1が占められる。巨大なマーケットとなるので、両国の言語や文化を学ぼうという機運も高まるだろう。

日本は時代とともに順位が下がり、2040年には19位まで落ちると予測される。その一方で、アジアやアフリカの新興国の躍進が目立つ。上記の表は、経済勢力地図の変化と言えるかもしれない。

日本では今後、人口減少と高齢化により、国内市場ではモノが売れなくなる。お隣の韓国では、一流企業に入るには英語力や海外留学経験が必須というが、日本も近いうちにそうなるのではないか。いやおうなしに企業は国外への進出を迫られるのだから。

欧米並みに社会を多国籍化することで、消費意欲旺盛な若年人口をキープするのか。あるいは空洞化が進む一方なのか。これからの日本には、かつて経験したことのない大変化が待ち受けている。【1月11日 Newsweek】
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【「日本はすばらしい」とタコツボ的社会に閉じこもるのも、ひとつの選択ではあるが・・・
人口統計を見ていつも思うのは、日本や欧州など先進国が人口減少・高齢化に向かう中で、アメリカが“若い社会”を維持し続けることです。黒人・ヒスパニックなど複合民族社会の強みでしょう。もちろん、深刻な人種問題等はあるにしても。

人口減少・高齢化・社会活力低下に対するひとつの対応策は、移民を受け入れて社会を多国籍化することですが、この件に関しては“単一民族国家”日本には根強い抵抗感があり、欧米での移民急増やテロなどの影響もあって、その傾向は近年むしろ強まっているようにも見えます。

グローバリズムに疲れた人々の間で『人を外から入れない』という国家の役割が改めて期待されている・・・・という話は、1月6日ブログ「“反グローバリズム”的な動きの中で前面に出てきた“国家の役割” 行先は国家社会主義の時代?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170106でも取り上げました。

そうした傾向を増長するようなポピュリズム的な動きも。

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かつての村落共同体が産業化で破壊された後、企業がアイデンティティーのよりどころとなっていた面がありますが、日本式雇用も壊され、どこにも居場所を見つけられない。国民的なアイデンティティーだけがせり出しています。

日本はすごいと吹聴するテレビ番組を見て悦に入ったり、ネット上に差別的な書き込みをして留飲を下げたりしている。少数派を差別することで多数派の側につくという競争が行われている。
それしか自らを支えるものがないからです。

そういう状況に付け込む形で、我こそは真の国民の代表であると幻想をばらまくポピュリズム(大衆迎合)も出てくるのでは。【1月6日 朝日 「(考論 長谷部×杉田)混迷の世界、行く先は」より】
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「日本はすばらしい」とタコツボ的社会に自らを閉じ込め、移民を拒み続ける・・・というのは、(個人的には全く賛同しませんが)ひとつの選択でしょう。ただ、その場合、その“すばらしい日本”は次第に輝きを失い、国際社会と言う世界の片隅でひっそり暮らす老人のような姿になっていくことは覚悟する必要があります。

移民受け入れのためいは、共生の発想が必要
もうひとつの選択肢として、移民を受け入れる方向に転じる場合は、単に労働力として受け入れるのではなく、社会の一員として共生していくことが必要であり、これもこれまでにない“覚悟”を要します。

そうしないと、疎外された移民が犯罪・テロなどに走る、移民社会の弊害が前面に出てきます。

****ニッポンの宿題)「移民」の受け入れ方 上林千恵子さん、田村太郎さん****
日本で働いて暮らす外国人が増えています。政府は移民を認めていませんが、国際的にみれば、移民同様の存在です。建前と本音を使いわける政策が続くなか、弊害も出ています。受け入れの是非を正面から議論するときが、すぐそこに来ているのかもしれません。
 
■《なぜ》欠かせぬ労働力、欠く定住策 上林千恵子さん(法政大学教授)
日本にはいま、約230万人の外国人が暮らしています。3年前から約25万人増え、人口の約1・8%に上ります。経済協力開発機構(OECD)の統計上の定義では、国内に1年以上滞在する人は「移民」です。呼び方の問題は別としても、すでに外国人は日本に不可欠な労働力になっています。
 
それなのに、働き手として平等に扱われなかったり、本人や家族が十分な日本語教育を受けられず社会からドロップアウトしてしまったりする問題が指摘されています。

「単純労働の外国人は受け入れない」という建前を国が守っているため、定住政策の必要性が正面から議論されることがほとんどなく受け入れが広がる、というグレーな状態が続いてきました。
     *
(中略)課題は山積みです。住み込みやサービス残業には人権や違法労働の問題が指摘され、他社に不法就労させるケースも珍しくありません。転職する自由はなく、日本に来るために母国で借金をしているから、嫌でもやめられない。
 
そんな状態のまま、大手企業も実習生の活用を広げており、さらなる対象業種の拡大が見込まれています。最近の高度外国人材や留学生の受け入れ拡大も、労働力確保の面が否めないと思います。
     *
日本で暮らす外国人は、10年以上の在留などで永住権を持つ人、日系人など更新できる5年以下の定住権を持つ人、一部の仕事が対象の就労ビザを持つ人などがいます。さらに、その家族、留学生、実習生など在留資格は色々です。
 
ここ十数年は、外国人が多く住む自治体などが「もっと受け入れ制度や定住政策を整えるべきだ」と国に提言をし続けてきました。でも国の政治家は、票になりにくく財政も厳しいなか、簡単には動きません。

もともと自国民ではない人に、年金などの社会保障の権利をどこまで認めるかは解がない問題で、社会の合意が必要です。私たち自身が、外国人に頼らないと社会が回らない現実をもっと知り、認める必要があるでしょう。
 
定住政策は急ぐべきですが、受け入れ制度は今後も少しずつ変えていくしかないかもしれません。正面から「移民を受け入れよう」などと取り組むと、かえって反発が大きくなるジレンマがあるからです。

まずは昨秋に成立した技能実習適正化法で、受け入れ先の監督強化と受け入れ拡大がどう進むか、見極めたいと思います。 (聞き手・吉川啓一郎)
     ◇
■《解く》人材、アジアで融通し合おう 田村太郎さん(ダイバーシティ研究所代表理事)
格安航空会社の登場やインターネットの普及で、国境を越えるハードルがこの10年で下がりました。高い賃金より自分らしい生き方を求め、国を転々とする人もいます。移民という言葉ではくくれない、新たな人の移動が起きているいまこそ、アジア全体を視野に入れた議論を始めるときです。
 
国際的な人の移動の要因には、送り出す側の「プッシュ」と呼び込む側の「プル」があります。少子高齢化が加速する日本では「プル」は強まっていますが、アジア各国では経済成長で「プッシュ」が弱まっています。一方、欧州に移民が押し寄せているのは、中東情勢の不安定化により「プッシュ」が増大しているためです。
 
日本はもはやアジアで唯一の経済大国ではなく、外国人からみれば自国の何倍もの賃金をもらえる国でもない。門戸を開けば、人がわっと押し寄せると心配されたのは、もう20年以上前の話です。生活支援政策を充実させなければ、だれも日本には来なくなります。
 
少子高齢化は中国や韓国でも進んでいます。日本人の介護福祉士が国外へ働きに行くかもしれません。すでにフィリピンにはカナダなどの国々が、専門学校を作ってケア人材の確保に動いています。国際的に人材の奪い合いが起きているなか、アジア全体の少子高齢化を見据えた議論を、日本が呼びかけるべきです。
 
具体的には、ケアにかかわる資格をアジアで共通化し、先行して高齢化が進む日中韓と、まだプッシュの余力のある東南アジアとをつなぐようなしくみを作っていくことが考えられます。アジア全体でケア人材の育成に取り組み、融通しあう発想です。
     *
地域に魅力を感じて根を下ろす外国人を増やしていく必要があります。様々な在留資格で来日し、永住資格を持つ外国人はすでに70万人以上いるわけですから、国には日本語教育の充実と、通訳や翻訳者の養成に本気で取り組んでほしい。
 
異なる人たちと接することに不安を抱くのは当然です。不安を減らすには、出会っていくしかありません。外国人に偏見があった人でも、○○さんと固有名詞でつながると意識が変わる例を、私は数多く見てきました。治安の悪化を懸念する声もありますが、外国人の犯罪検挙者数は減っています。(中略)
 
     *
改めるべきは、外国人を単に安い労働力としてみなす発想です。外国人技能実習制度は、違法行為が後を絶たず、職業選択の自由もありません。国連や米国から長年、「人身売買」と批判されており、早くやめた方がいい。
 
子どものときに教室で外国人と机を並べた経験のある人が、社会で仕事を始めています。家庭科共修世代の男性は家事や育児の分担意識が高いと言われるように、外国人とともに育った世代では、日本社会の一員として外国人を迎え入れることに抵抗感のない人が増えていくでしょう。
 
漠然とした不安を理由に議論を避けるのではなく、アジア全体の変化を認識したうえで、受け入れの是非を冷静に話し合っていくべきです。 (聞き手・北郷美由紀)【1月8日 朝日】
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****社説)外国人との共生 生活者として受け入れを****
いわゆる移民政策は考えない。これが政府の方針だ。
「いわゆる移民」とは何か、政府は語らない。ただ、欧州を中心に移民・難民がさまざまな摩擦を生んでいる現状を見て、「移民」に神経をとがらせる。
 
その一方で、外国人の受け入れは広げている。代表例が技能実習制度だ。期間を3年から5年に延ばし、対象職種は70を超える。約20万人が実習として各地の企業や農漁村で働く。

 ■本音と建前使い分け
途上国への技能伝達が目的で単純な労働者受け入れではない、というのが政府の見解だ。だが、人手不足を埋める手段になっているのは公然の事実だ。(中略)

 ■自治体からの訴え
「外国人労働者の受け入れや外国人住民との共生は、いまや国全体で共有すべき課題だ」。外国人が多く住み、不可欠の存在になっている浜松市など約30の自治体でつくる「外国人集住都市会議」は繰り返し訴える。

外国人を受け入れていくために、何が必要なのか。
 
過疎化が進む秋田県能代市では二十数年前から、花嫁として来日し、定住する女性がいる。当時から日本語教室を開く北川裕子さん(66)が強調するのは「互いの壁をつくらず、お隣さんとして付き合う」という、ごく当たり前のことだ。

季節ごとの行事を通じて地元の風習や伝統を伝える。夏の盆踊りでは、外国人を敬遠しがちだったお年寄りらが交流の輪に加わるようになった。

 ■未来への投資として
(中略)日本で働く外国人は、在日韓国・朝鮮人らの特別永住者のほか、国への届け出によると90万人余(15年秋時点)。

内訳は、日系人や日本人の配偶者らが36万人余、留学生のアルバイトらは19万人余、技能実習生と専門技術・知識を持つ「高度人材」がそれぞれ17万人弱だ。技能実習生はすでに20万人を超えており、総数は近く100万人を突破しそうだ。
 
「未来への投資として、定住外国人を積極的に受け入れていくことが求められている」
政策提言をする財団法人「未来を創る財団」は、自治体や企業関係者を交えたシンポジウムを重ね、昨年末に提言をまとめた。財団のメンバーで日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「外国人の受け入れは、地域社会を活性化させるテコになる」と指摘する。
 
まずは現実を直視し、議論を始めたい。政府と国民がともに考えるべき課題である。【1月10日 朝日】
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「共生」と言うと、必ず「欧米社会の混乱を見ろ!共生なんかできるか!」と言う人がいますが、共生が難しいのは、そういうことを言い立てる人が存在するからだ・・・・と考えています。
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欧州難民問題  受け入れが進まないなかで寒波による死者も 重要な受け入れ後の社会統合対策

2017-01-10 22:42:49 | 難民・移民

(ジーンズを縫う、シリア難民のマフムード・オマル。「できるだけ早く独り立ちしたい。そうすれば自分を受け入れてくれたこの国にお返しすることができる」【1月6日 東洋経済online】)

昨年、地中海で死亡した難民らは5000人超
一昨年、昨年、欧州を揺るがしている難民問題。
流入する難民数は減少しているものの、未だ止んでおらず、今年も難民への対応が大きな政治課題となっています。

****地中海経由の難民36万人=16年、前年の3分の1―欧州****
欧州対外国境管理機関(FRONTEX)は6日、2016年に地中海を渡って欧州に到達した難民や移民の数が推計で36万4000人となり、15年の約3分の1に減少したと発表した。
 
トルコからギリシャに入った難民らの数は18万2500人で、15年から約8割減少。欧州連合(EU)が16年3月にトルコと合意した難民流入抑制策が「大きな要因」となった。
 
一方、北アフリカから主にイタリアに向けて地中海中部を渡った人の数は過去最多の18万1000人に上った。(後略)【1月7日 時事】 
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欧州へ渡る地中海で命を落とした難民らは昨年は5000人を超え、過去最高となっています。

****地中海で死亡・不明の難民ら急増 昨年、5079人に****
国際移住機関(IOM)は6日、2016年に欧州を目指して地中海を渡航中に死亡したり、行方不明になったりした難民・移民らが5079人に上ったと発表した。

14年(3279人)、15年(3777人)から大幅に増えた。地中海経由で16年に欧州入りした難民・移民は36万3348人だった。(後略)【1月7日 朝日】
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野宿・キャンプ暮らしの難民らを襲う寒波
ギリシャに代って難民らの玄関口ともなっているイタリアは、EU各国の受入が進まない状況を批判しています。

****イタリアへの移民が今年過去最高に、3年で50万人超が流入****
イタリア内務省は30日、今年海を渡ってイタリアに到着した移民が昨年より2割増えて、過去最高となったことを明らかにした。過去3年間では計50万人超が流入したという。

内務省の報道官は、移民数の急増による危機に対処する上で、欧州連合(EU)加盟国の協力が欠けていると、あらためて指摘した。(中略)

欧州連合(EU)加盟国は、2015年に4万人の亡命希望者をイタリアから受け入れると約束したが、今のところイタリア以外の国に移住したのは2654人にとどまっている。いくつかの国は受け入れを一切認めなかった。(後略)【12月31日 ロイター】
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そして今、受け入れを拒まれてキャンプでの生活を余儀なくされている難民らに厳しい寒波が襲い掛かっています。

****寒波が欧州襲う 各地で難民に被害、死者も****
欧州各地が強い寒波と積雪に覆われ、防寒設備のほとんどない場所で暮らす大勢の難民や移民が窮状に陥っている。AFP通信によれば、ブルガリアにいた難民など数十人が寒さのために死亡した。

ドイツ連邦警察は、子ども5人を含む難民19人が8日、マイナス20度の気温の中でバイエルン州の幹線道路沿いに停めたトラックの社内に放置されて低体温状態で見つかったと発表した。運転手がトラックを乗り捨てたため、暖房もない車内に何時間も取り残されていたという。

ブルガリアでは、イラクから来た男性2人とソマリア人の女性1人がトルコとの国境に近い山間部で見つかり、寒さのために死亡した。

セルビアの首都ベオグラードでは使われなくなった倉庫1棟に身を寄せる数百人が極端な寒さにさらされている。援助団体の職員によると、難民たちは倉庫内で火をたいて暖を取っているといい、病人も増えている。

人権団体アムネスティ・インターナショナルの担当者は「こんな環境で生きていられることに驚く」と絶句した。【1月10日 CNN】
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温暖な気候のエーゲ海の島でも所々で雪に見舞われています。

****ギリシャ難民キャンプに降雪 テント倒壊、低体温症も****
欧州各地が強い寒波と積雪に覆われ大勢の難民や移民が窮状に陥っている。

4000人以上が身を寄せるギリシャ・レスボス島のモリア難民キャンプは6日に雪が積もり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日、テント暮らしをしていた男女や子どもなど120人あまりをホテルに移動させたことを明らかにした。

しかしボランティアによれば、同キャンプではまだ数千人が屋外のテント暮らしを続けている。
一方、ギリシャ移民相は5日の記者会見で「寒さの中で暮らしている難民や移民はもういない」と説明。セサロニキ近郊や首都アテネに一握りのテントが残っているにすぎないと述べたという。

モリア難民キャンプでボランティアをしている住民がCNNに提供したビデオには、雪の重みで倒壊したと思われるテントが映っている。レスボス島はこの冬、15年ぶりの寒波に見舞われているといい、「まだ死者が出ていないのが不思議なくらい」と住民は言う。

人道支援団体の代表は、難民の中には冬の装備を持たない人も多く、数人が低体温症にかかっていると話し、「悪天候がかなり長い間続いている。ギリシャは常夏のビーチの国と思われているが、現実は程遠い」と指摘した。
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欧州政治を揺るがす難民問題 メルケル首相は基本姿勢維持 一方で、現実対応も
押し寄せる難民らの波は、排外主義・局勢力の台頭、反EU感情の高まりといった形で、欧州各国の政治・社会を大きく揺さぶっています。

****テロや移民流入が排外主義・EU批判を後押し 右派は支持拡大へ危機感あおる****
ベルリンで先月19日に起きたトラック突入テロで、重要な選挙を控えるオランダ、フランス、ドイツの大衆迎合主義(ポピュリズム)的な右派政党は攻勢を強めている。

欧州の治安情勢への不安の声が消えないなか、移民・難民の受け入れに反対する排外的な主張や、欧州連合(EU)への批判にテロを利用している格好だ。
 
「臆病な政治指導者らが、国境開放策でイスラム過激派テロリストと難民を呼び入れた」。オランダ自由党のウィルダース党首は突入テロ発生後、ツイッター上でこう主張した。
 
突入テロの実行犯はチュニジア人の男で、2015年夏にドイツに入国。難民申請を却下され、当局は危険人物だとマークしながら犯行を防げなかった。警官に射殺されたイタリア北部まではオランダとフランスをへて逃走していた。ウィルダース氏は男が「オランダでもテロを起こせた」と警告する。
 
欧州では15年、中東や北アフリカから大量の難民・移民が流入。同年11月のパリ同時多発テロでは実行犯の一部が難民を装って欧州に侵入していたことから、「シェンゲン協定」で国境検問を廃し、自由往来を認めた欧州諸国の治安上の課題も浮き彫りした。突入テロはその危険性を思い起こさせた面がある。
 
事件後、FNのルペン党首は「シェンゲンによる治安の崩壊」だと批判し、AfDのペトリ党首も「難民政策の見直しが必要」と主張。治安問題と、イスラム教徒やEUへの敵対的な主張にテロを絡めて訴える「重要な機会」(専門家)だとしている。
 
一連の選挙でこうした課題が争点になるのは必至。仏大統領選の中道右派候補、フィヨン元首相は「欧州全体で追っていたテロリスト」がフランスに入国していたことを問題視。寛容な難民対応が批判にさらされているドイツのメルケル首相も、「必要な対処を迅速にとる」と危機感を隠さない。【1月2日 産経】
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受入国を代表するドイツ・メルケル首相は、基本的には難民受け入れ政策を変更するつもりがないことを強調しています。

****メルケル氏「難民受け入れ正しい」 新年あいさつで訴え****
ドイツのメルケル首相は12月31日、新年を迎えるにあたって国民向けにメッセージを出し「最大の試練は疑いなく、イスラム過激派によるテロだ」と語った。

年末に起きたベルリンでのテロ事件や、昨夏のバイエルン州での難民申請者らによる襲撃事件について触れ、「我が国に助けを求めにきた人々によってテロがなされるのは、とりわけつらいことだ」と述べた。
 
一方で、難民受け入れ政策について、「シリアのアレッポの破壊された光景を目にするにつけ、保護を必要とする人々を助け、統合していくことがいかに重要で正しいのかということを再度申し上げたいと思う」とも語り、政策を変更するつもりがないことを強調した。【1月1日 朝日】
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ただ、政府・当局の対応はかなり変わってきているとも指摘されています。

****政府の変わり身****
・・・・さて、そんな状況で迎えた2016年の大晦日。前年修羅場となったケルンでは、醜聞を繰り返すまじの決意とともに、中央駅前広場を柵で囲み、防弾チョッキと武器で身を固めた1700人の警官が立ちはだかった。

普段なら大晦日に皆が打ち上げる花火も持ち込み禁止。また、最新の監視カメラも大量に設置され、広場の一角には、何かあったときに駆け込める避難施設も作られた。

そして当日、この厳戒態勢のところにまさか難民は来るまいと思ったら、それが大間違いだった。彼らは続々とやって来た。

数ヵ所の入り口で厳重な検査が行われた結果、去年の犯人像と合致する人物、約900人が退去を命じられたという。同時刻に、ちょうどケルンの中央駅に向かっていた列車にも、同様の人間が約300人乗っていることが判明したため、列車は一つ前の駅で止められ、男たちは降ろされた。

肝心の野外パーティーの方は、市民が最初から敬遠したのか、映像を見る限りガラガラだった。(中略)そして翌日、当局が、すべてが平穏無事に終わったことを報告した。

ところが、ここでまた、ちょっとした騒ぎが持ち上がった。何にでも必ず文句をつける緑の党の代表が、警察が広場に入れる人間を風貌でセレクトしたことを人種差別的であると批判したのだ。確固とした容疑もなく、個人の自由行動を制限するのはけしからんと。

それに対する警察の反論は「風貌で抽出したのではなく、徒党を組んでいる者、大量に酒を飲んでいたと思われる者、暴力的な態度の者などを取り締まった結果、それが一年前の容疑者の風貌と一致しただけ」。

さて、このあとの国民の反応が興味深かった。警察の行動を高く評価する声が炸裂したのだ。ソーシャルメディアには警察への感謝を伝える声が溢れ、ケルンの地方紙には、「緑の党の代表は警察に謝罪すべき」という意見まで載った。

これまでドイツ政府は、「難民は弱き者で、それを助けるドイツ人は善」という線を崩さず、そこに疑問を差し挟む国民を押さえつけてきた。しかし、今、国民はそれを振り切り始めたようだ。

慌てた政府は、あっという間に意見を変えた。いや、そのチャンスを待っていたに違いない。180度意見を変えるチャンスは今をおいて他にはない。秋には総選挙がある。

それにしても、彼らの変わり身のなんと早いこと! 【1月6日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス “ついに「難民批判」を解禁したドイツ政府の驚くべき変わり身 きっかけはベルリン・クリスマステロ”より】
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そうした“変わり身”(あるいは“現実対応”)もあってか、度重なる難民関連のテロにもかかわらず、メルケル首相の支持率はあまり落ちていないようです。

****メルケル首相、支持率56% テロ事件の影響受けず****
ドイツ公共放送ARDの1月の世論調査によると、メルケル首相の支持率は前月比1ポイント減の56%だった。12月19日にベルリンで起きた難民申請者によるトラック突入テロ事件の影響が注目されていたが、支持率に大きな影響はなかった。
 
昨夏に南部バイエルン州でテロが相次いだ後の9月発表の世論調査では、寛容な難民政策を続けてきた首相への逆風が強く、支持率は45%と5年ぶりの低さを記録。同月の州議会選挙で与党は苦戦を強いられた。
調査は今月2日から4日にかけて実施された。
 
調査では回答者の約7割が「ドイツは安全だと感じる」と答えた。政党の支持率でも与党キリスト教民主・社会同盟は37%と前月比で2ポイント上昇。難民排斥を訴える新興右派政党ドイツのための選択肢(AfD)は同2ポイント増の15%だった。一方、社会民主党、緑の党は支持を減らした。(後略)【1月6日 朝日】
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重要な受け入れ後の対策 「自分の才能が役に立ち、必要とされていることが分かれば、前に向かって進んでいけると実感できる」】
EUにあっては、難民受け入れ数に上限を設けるかどうかが議論となりそうです。これまでメルケル首相は上限設定に反対しています。

****難民受け入れ数上限、提案へ=EU全体で―オーストリア****
オーストリアのドスコツィル国防・スポーツ相は、欧州連合(EU)加盟国全体として難民受け入れ数に上限を設ける案をEUに提示する方針を明らかにした。ドイツ紙ビルト(電子版)が5日、報じた。
 
ドスコツィル氏の案によると、各国が設定する上限数を基にEUの受け入れ総数を決める。また、EU域外に難民申請の審査施設を置き、違法な流入を抑える。
 
オーストリアは既に難民受け入れ数の上限を設けている。ドスコツィル氏は同紙に「欧州の誤った難民政策に終止符を打つことが大事だ」と語った。

ただ、ドイツのメルケル首相は上限設定に反対しており、EU加盟各国の賛同を得られるかは微妙だ。【1月6日 時事】
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受け入れるにあたっては、受入後の難民らの社会への統合をいかに確保していくかが重要になります。
そうでないと、疎外された難民らのなかには犯罪・テロに走る者も出てきます。

****欧州に渡った難民の知られざる過酷な生活****
戦火を逃れても厳しい生活が続く

ここはオランダの首都アムステルダムにある、かつての刑務所の建物を利用した難民の居住施設だ。地下の作業場では、マフムード・オマル(28)がミシンに向かい、人気ファッションブランドのジーンズを縫っている。

シリアで仕立て職人として15年以上働いた経験をもつオマルは、手早く1本縫い終えると次を縫い始めた。

この仕事は、難民の職探しに協力しているオランダの団体「リフジー・カンパニー」がお膳立てしたものだが期限付きだ。だが内戦のさなかの故郷アレッポから脱出して2年、毎日通うところがあることだけでも救われた気分だと彼は言う。

「(オランダ社会に)早くなじむには働くことが欠かせない」とオマルは言う。まだオランダ語はうまく話せず、それがフルタイムの仕事を見つける障害となっている。「できるだけ早く独り立ちしたい。そうすれば自分を受け入れてくれたこの国にお返しすることができる」

100万人以上の移民が欧州へ
2015年に中東・アフリカ地域から紛争や貧困から逃れて欧州に流れ込んできた人々の数は100万人を超える。彼らを同化させる最も早い手段として各国政府が目を付けたのが労働市場だった。仕事に就くことができれば、政府の援助から抜け出せるし、経済にも貢献してもらえるというわけだ。

だが、難民が安定した仕事を見つけるのはなかなか難しい。言葉の壁もあるし、技能面でのミスマッチも大きな問題だ。きちんとした就業経験のない難民もいれば、プロとしての技能や資格、学位があるのに認めてもらえない例も多い。

そこで欧州各地で民間団体が支援に立ち上がった。これらの団体ではプロとしての技術をもつ難民に仕事を斡旋したり、雇用に必要な技能を伸ばすための支援を行ったりしている。冒頭のリフジー・カンパニーもそのひとつだ。

(中略)「難民の立場から言うと、自分の才能が役に立ち、必要とされていることが分かれば、前に向かって進んでいけると実感できる」とアサドは言う。(中略)だが就労支援は一筋縄ではいかなかった。

オランダやドイツといった国々は、難民の就労が容易になるよう法律を改正し、何カ月も何年も待たずとも、早い時期に仕事を始められるようにした。欧州企業も何万人もの優秀な難民を受け入れ始めた。

正規雇用にこぎ着けたのはごく1部
だが難民たちが手にした職はインターンシップや職業訓練プログラムといったものが多く、長期的な雇用にはつながっていない。

ドイツでは就業している難民が3万人ほどいるが、そのほとんどが有期雇用か、政府が斡旋した簡単な仕事(時給1ユーロ程度)に就いている。そうした仕事は難民がドイツ社会と接触する機会にはなっているものの、正規雇用につながるものではない。(中略)

だが雇用側から見れば、オランダ語や英語が流暢に話せない彼は採用しにくい相手だ。

シリアをはじめとする教育制度の異なる国々で取得した学位や資格が欧州の企業では認められず、不利な立場に立たされるケースも少なくない。採用に必要な技能や厳しい訓練を受けた経験がないまま、欧州に来た人もいる。

リフジー・カンパニーのフルー・バッカー常務理事がこの団体を立ち上げたのは、すぐに仕事が見つかれば同化も早く進むだろうという考えからだった。書類手続きに追われたり、きちんとした職が見つかるまでに何カ月もかかるよりずっといいというわけだ。(中略)

「職場にいてオランダの人々と交流するだけで、社会の一員になれた気がする」とオマルは言う。(後略)【1月6日 東洋経済online】
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キプロス  南北再統合に向けて交渉再開 「キプロス史のページをめくる」年になるか?

2017-01-09 23:52:01 | 欧州情勢

これまでもときどき取り上げてきた、分断状態にあるキプロスにおける南北再統合の話が再び動く気配があるようです。

****スイスで再統合交渉再開=合意へ機運も予断許さず―キプロス****
40年以上分断が続く地中海のキプロス島の再統合をめぐり、南部のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北部の北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)のアクンジュ大統領が9日、スイスのジュネーブで交渉を再開した。

包括合意に向けた機運が高まっているが、再統合後の連邦制下でそれぞれが管轄する地域の線引きや安全保障問題などの難題を残しており、予断を許さない状況だ。
 
現在の交渉は2015年5月、国連の仲介の下で再開された。アイデ国連特使は、17年が「キプロス史のページをめくる歴史的機会」の年になると期待を示す。

しかしAFP通信によると、アクンジュ大統領は8日、「厳しい一週間になる」と慎重姿勢を表明し、アナスタシアディス大統領も「重要問題で大きな(意見の)相違がある」ことを認めた。
 
9日からの首脳会談で合意できれば、12日に双方の後ろ盾となっているギリシャとトルコ、旧宗主国である英国の3カ国が加わり、再統合後の安全保障問題について協議する。

トルコ政府は、北側に駐留しているトルコ軍部隊を一定数残すなどして「保証国」として影響力を保持したい考えだ。【1月9日 時事】 
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キプロスが分断された経緯を超簡単に触れると以下のとおりです。

****分断されたキプロス*****
エーゲ海の小さな島国“キプロス”は鹿児島県ほどの大きさ。1960年イギリスから独立しましたが、ギリシャ系住民とトルコ系住民の反目があり、1974年にギリシャの軍事政権の介入でギリシヤ併合賛成派がクーデターを企てたため、トルコがトルコ系住民の保護を理由に軍事介入。3日間で島の北部3分の1を占領しました。

以来、北キプロスはトルコ軍が支配する土地になり、15万人のギリシヤ系住民が追放されました

現在は島の北側3分の1がトルコ系の北キプロス・トルコ共和国(承認はトルコのみ)、南側の残り3分の2がギリシャ系のキプロス共和国(EU加盟)と、分断された状態が続いています。【2014年3月12日ブログ“キプロス 再統合交渉、天然ガス開発で再浮上”より再録】
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膨大な犠牲者を出しながら世界各地で続く紛争、大国間のパワーゲーム、相次ぐテロ・・・・そうした目まぐるしく変化する国際情勢にあって、エーゲ海の小さな島国“キプロス南北再統合”というのはあまり注目されることもないマイナーな話題ではあります。

ただ、“分離・独立”の動き、キリスト教徒とイスラム教徒の対立といった話は掃いて捨てるほどあるなかで、キリスト教(正教会)のギリシャ系住民と、イスラム教のトルコ系住民の和解・再統合が実現するかも・・・・というキプロスの動向には個人的には興味を惹かれます。

“和解”とは言っても、もちろん“実利”が優先するはなしでしょう。

“北”側には、経済的に遅れた状況を、EU加盟国でもある“南”との再統合で改善した思惑があります。
“南”側の思惑は何でしょうか? 北に残してきた土地などの資産回復でしょうか?(“北”にも、分断によって土地などを“南”に残してきたという問題があります。)後ろ盾ギリシャの経済が最悪な今、北に市場を広げたい考えもあるでしょう。

これまでも再統合への機運が高まったことはありますが、なかなか進展しません。
“北”には経済的にも優位で、人口も多い“南”に呑み込まれるのではないか・・・との不安があります。
“南”には経済水準が格段に落ちる北側とは今更一緒になりたくないという考えもあります。

“北”には3万人以上のトルコ軍が駐留し、分断後にトルコから来た入植者が多数住んでいる問題もあります。

何より、内戦で家族・肉親を殺された双方の遺恨もありますし、キリスト教とイスラム教という相容れ難い文化の違いが両者間にはあります。

再統合が実現するかどうかには、それぞれの後ろ盾であるギリシャとトルコの考えも強く影響します。

財政事情が悪化しているギリシャは、正直なところキプロスどころではないのでは?
トルコにとっては、キプロス問題を解決することが懸案であるEU加盟の条件のひとつです。ただ、EU加盟への関心を失ったように見えるエルドアン大統領は、その意味での関心はあまりなくなったかも。

今回の2015年5月、国連の仲介の下で再開された交渉は、アメリカ・オバマ政権も後押ししてきたようです。

****キプロス再統合、年内合意へ期待=北部に新大統領、米長官も前向き****
南北分断が41年続く地中海の島国キプロスで、今年は再統合への道筋が開けるのではないかと期待が高まっている。再統合交渉を支援してきた米国のケリー国務長官も4月「永続的な進展を今年は果たせる」と明るい見通しを口にした。南北協議が17日、再び行われ、一層の「進展」が待たれる。
 
4月の北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)の大統領選で南北和解に前向きな新大統領が誕生した。これを受け、5月15日、国連管理下にある「分断の象徴」、首都ニコシアの緩衝地帯で、南部のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北キプロスのアクンジュ大統領が再統合交渉を再開。2014年10月に交渉が中断されて以来、7カ月ぶりだった。
 
「いいスタート」(アクンジュ大統領)を切った協議は、往来増進につながる南北境界での検問所の増設、電力網の統合、携帯電話ネットワークの相互接続で合意。これまでとは違う良好な雰囲気が維持され、交渉は17日で3回目だ。
 
再統合により、北キプロスはトルコへの財政・軍事的依存を軽減したい考え。トルコにとっては、かつての熱意は衰えたとはいえ、キプロス問題の解決は欧州連合(EU)加盟への布石となる。
 
一方、ギリシャ危機のあおりで南側も金融を中心に経済が苦しい。再統合で経済環境を一新し、景気の浮揚を狙いたいところだ。
 
しかし、再統合への道のりは険しい。交渉の行方は、北キプロスでの権益を守ろうとする「トルコが鍵を握る」と言われる。トルコでは7日の総選挙以降、新政権発足に向けた連立協議が進行中で、政権の構成次第ではキプロスの交渉の進展を左右する可能性もある。
 
また、再統合には南北双方でその是非を問う住民投票を行う必要もある。南側がEUに加盟した04年にも住民投票は行われたが、南側の反対多数で再統合案は無効となった。【2015年6月17日 時事】
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2015年末にはケリー長官が“南”“北”双方を訪問し、「和解は手の届くところにある」との発言もありました。

交渉は2016年も続き、昨年11月7日の交鈔では「年内合意を目指し」とも言われ、交渉に立ち会った国連・潘基文事務総長は問題の解決は「手の届くところにある」とも発言していまし。しかし、合意できませんでした。

****キプロス再統合交渉、合意達せず****
南北分断が続く地中海キプロス島の再統合交渉を巡り、仲介役の国連は22日、スイス西部モンペルランで行われていた集中協議が合意に達せず終了したと発表した。最大の焦点である再統合後の管轄地域の区分について双方の溝が埋まらなかった。
 
モンペルランで7~11日と20~21日に実施された集中協議には南のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)のアクンジュ大統領が出席した。国連によると両氏は帰国を決めた。(後略)【2016年11月22日】
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上記のような経緯を受けての、冒頭記事にある“再統合交渉再開”です。

“難題を残しており、予断を許さない状況”としか言いようのない状況ではありますが、前進を期待しています。
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男性優位社会で女性に強いられる身体的犠牲「胸アイロン」 男性の性的暴力に関し、女性への責任転嫁も

2017-01-08 22:02:12 | 女性問題

(2011年アフリカにおける“女性器切除(FGM)”分布図 【ウィキペディア】
「胸アイロン」が広く行われるカメルーンは、上図ではFGM実施地域に接してはいますが、北部以外は地域側にあるようです。FGMに加え「胸アイロン」も・・・となると悲惨です。)

男性優位権力に問われる“やる気”】
なんだかんだ言っても、今の世の中が圧倒的に男性優位社会であることは改めて言うまでもないことです。

世界の多くの国々で女性の権利・社会参加は大きく制約されていますが、より直接的・身体的に女性に過度の負担を強いる伝統的慣習も少なくありません。

****生理中で隔離された少女、小屋の中で窒息死 ネパール*****
ネパールの警察当局は19日、ヒンズー教の古い慣習に従って、生理中に小屋に閉じ込められた15歳の少女が死亡したと発表した。
 
一部のヒンズー教徒は生理中の女性を不浄な存在とみなしており、今もネパールのいくつかの地域では、10年以上前から法律で禁止されているにもかかわらず、そうした女性を小屋や牛舎に閉じ込める慣習「チャウパディ(chhaupadi)」が行われている。
 
現地当局の捜査官はAFPの取材に対し、少女は「体を温めようとして付けた火の煙で窒息死した」と話した。
 
チャウパディの慣習では、生理中や出産後の女性は日常の家庭生活から隔離され、家族の男性との接触が遮断される。
 
ネパール政府は2005年にチャウパディを禁止したが、ネパールの国家人権委員会のモハナ・アンサリ氏は、地域の指導者たちが禁止令の実施を強化しなければならないと述べた。【2016年12月21日 AFP】
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生理中の女性を不浄な存在とみなす考え方は、日本を含めて世界共通とも言えるほど広く存在します。まったく理不尽な話です。

“地域の指導者たちが禁止令の実施を強化しなければならない”というのは当然のことですが、要は実際にどれだけ実効ある運用ができるか・・・という話です。

法律的“建前”と地域的・伝統的慣習が乖離していることは、女性問題や児童問題などではしばしば見受けられることです。各国の男性優位の権力がどこまで“やる気”を示すのか・・・。

未だに蔓延する“女性器切除(FGM)”】
女性の身体に対する直接的“暴力”として、アフリカを中心に極めて広範囲で行われている痛ましい習慣が“女性器切除(FGM)”です。日本的な感覚からは想像し難いものがありますが、未だに世界の現実です。

***女性器切除、世界で2億人が被害 ユニセフ報告****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は、女性器切除(FGM、女子割礼)を受けた少女や女性が世界全体で少なくとも2億人に上るとする報告書を発表した。うち半数は、エジプト、エチオピア、インドネシアの3か国の女性らだという。
 
報告書は6日の「女性器切除の根絶のための国際デー」を前にまとめられた。ユニセフはFGMを子どもに対する明らかな人権侵害とみなしている。
 
報告書によると、FGMの実施率はソマリアやギニア、ジブチが依然として世界最高の水準にある。ただ、FGMが広く行われている約30か国全体でみると低下している。
 
国連(UN)は昨年9月に加盟国の全会一致で採択した持続可能な開発目標に基づき、2030年までのFGM根絶に取り組んでいる。
 
世界のFGM被害者2億人のうち、4400万人は14歳以下の少女だ。ユニセフによると、FGMの実施率が高い30か国では多くの少女が5歳の誕生日を迎える前にFGMを受けている。【2016年2月5日 AFP】
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FGM実施国数が減少しているというのは、実に喜ばしいことではありますが、未だ多くの女性がFGMを強いられてという現実の方に重いものがあります。

“女性器切除(FGM)”については、各国での根絶に向けた取り組みとか、非衛生的なFGMの結果死亡した事例などに関する記事をときおり目にします。

男性の性的暴力から娘を守るために・・・
一方、初めて目にした言葉が“胸アイロン”というものです。
こちらも、悲惨さ、おぞましさではFGMと同じです。

アフリカ諸国だけでなく、移民が多く流入しているイギリスなど欧州諸国においても、FGM同様に行われているようです。

****少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルーン出身の被害者語る****
<女性の性にまつわる忌まわしい慣習は性器切除だけではない。被害者が本誌に語った「胸アイロン」という残忍なレイプ回避法>

日曜の教会の帰り、叔母に「お前の胸をどうにかしなくては」と言われたとき、ビクトリン(ビッキー)・ンガムシャは12歳だった。43歳になった今でも、ビッキーは叔母の次の言葉を覚えている。「大きくなりすぎたんだよ。こっちにきなさい」

帰宅すると、叔母はビッキーのシャツを脱がせて座らせた。「あの時は家にいるのは女ばかりだったから、裸になるのは大して気にならなかった」と、西アフリカのカメルーン北西の町、キアン出身のビッキーは振り返る。「叔母は大きなコーヒーの葉っぱを数枚、焼石の上に置いた。そして熱々になった葉っぱを私の胸に押し当てた」

イギリスのバーミンガムに移住して12年になるビッキーは、人生初となったあの日の経験が「ブレスト・アイロン(胸アイロン)」と呼ばれる処置だったことを、今でこそ知っている。熱した石やハンマーなどを、少女の胸に押し当てたりマッサージに使ったりして、胸の成長を止めるのだ。

忌まわしい慣習
カメルーンの女性人権団体RENATAの2006年度の報告書やドイツ国際協力公社(GIZ)の調査によると、カメルーンで胸アイロンの犠牲者になる少女は4人に1人に上る。

米タフツ大学のファインスタイン国際センターは2012年、同様の慣習は、ベニン、チャド、コートジボワール、ギニアビサウ、ギニア、ケニヤ、トーゴ、ジンバブエを含む西アフリカや中央アフリカ諸国の広い範囲で行われているとする調査報告書を発表した。その中でもカメルーンは断トツに被害が多い。

英下院議員のジェイク・ベリーは、胸アイロンは移民を通じてイギリス国内でも広がっているが、公式な記録やデータがないために問題の実態が覆い隠されていると指摘する。

3月8日の国際女性デーを記念して下院で演説をしたベリーは、バーミンガムやロンドンなどイギリスの都市圏に広がる西アフリカ出身者のコミュニティーでは、何千人もの少女が胸アイロンという「忌まわしい」慣習の犠牲になっていると訴えた。

ベリーが全国のあらゆる警察署や行政機関に文書を送り、この問題にどのような対策を講じているか問い合わせた結果、警察署の72%が「胸アイロンの件については未回答、もしくはその言葉自体を聞いたことがない」と回答した。

ビッキーは、イギリスの警察が胸アイロンについて知らなくても驚かない。カメルーンでは、「女性に関する問題」に当局が口出ししないのは当たり前だ。彼女は10歳の時、近所の男にレイプされた。犯人は逮捕されず、何のお咎めも受けなかった。

「コーヒー畑で遊んでいたら、身なりの良い男が近づいてきて、もし言うことをきかなければ妹のように死ぬぞと脅した」。実際、ビッキーは兄弟姉妹のうち6人を栄養失調で失くしていた。「当時は10歳だったから、何も知らなかった。男は私を地面に倒してレイプした」

「その後、脚の間から血を流しながら母のところへ行くと、母は『おてんば娘ね、オレンジの木に登って怪我をしたのだろう』と言った。何が起きたか母に打ち明けると、母の目に涙が溢れた」

ビッキーが子どもの頃に性的暴行の犠牲になったのは、この時だけではない。だがこの時初めて、女性でいる限り安全ではないのだと悟った。そして少女から大人の女性へと体が成長するにつれ、不安に苛まれるようになった。

思春期の少女に対して胸アイロンが行われるのは、多くの場合、男たちの性的対象から遠ざけるためだ。目的は、結婚前の望まない妊娠やレイプ、性的被害に遭わないようにすること。思春期の少女が性的虐待の標的になりつつあるという恐れが生じた段階で、母親か祖母や叔母など女性の親類が処置をする。

性器切除は知られているのに
叔母が教会からビッキーを家に連れて帰り、初めて胸アイロンを押し当てたのは、ビッキーが12歳でちょうど思春期に差し掛かった頃だった。泣いた記憶はないが、熱した葉っぱが素肌に当たり、焼けるように痛かったのを覚えている。「すごく熱かった。でも叔母はこうすれば美しくなれると言った」

ビッキーは自分のレイプ被害が胸アイロンの直接の引き金になったとは言わないが、少なくともその慣習を自己防衛の一種として認めていた。処置は繰り返され、何回だったかは記憶にないという。

「苦労が多くみすぼらしかった」という子ども時代を過ごしたベッキーは、その後結婚し、夫の仕事の都合で12年前にイギリスへ移住した。

だがイギリスでは胸アイロンはいまだ認知されておらず、政府や行政機関による見解はないに等しい。女性器切除(FGM)については昨年7月、初の年次統計が発表され、イングランドで年間5700件のFGM被害が報告されたのとは大きな違いだ。

そうした行為を、単に宗教や文化的な動機に基づく女性への暴力行為として記録する警察当局のやり方は生ぬるいと、ベリーは主張する。イギリスでは1985年以降、FGMには特定の刑事罰を科し、2015年に厳罰化もした。

「下院で演説してからは、主要都市の警察と緊密に連携し問題に取り組んでいる」とベリーは言う。「警察側はその慣習がイギリス国内で行われていることに、手探りながら気づいている」

英内務省は本誌の取材に対し、胸アイロンは児童虐待に該当するため「違法」だと回答した。同省のサラ・ニュートン政務次官は、政治的もしくは文化的な配慮が、この慣習を未然に防ぎ実情を暴くうえでの「妨げになってはいけない」と言った。

女性と少女のための英チャリティ組織で胸アイロンの被害者を支援するCAMEの共同創設者マーガレット・ニューディワラは、主にロンドンやバーミンガムといった都市部で西アフリカ出身者のコミュニティーが拡大していることから、イギリスにおける被害件数が今後も増えそうだとみている。内務省のデータによると、2001〜2015年の間に6972人のカメルーン出身者が、亡命もしくは市民権を得てイギリスへ移住した。

光を当てよ
「痛みとトラウマの両方を一度にもたらす手順は残忍で、大人になっても被害者の人生に悪影響を及ぼす」とニューディワラは言う。「当事者は娘を守るつもりで、良かれと思ってやっている。だがその行為は有害だ。子どもは数カ月にわたり日々の虐待を耐え忍び、英当局は見知らぬ文化に介入するのに及び腰だ。CAMEは英国内で胸アイロンの被害に遭っている少女が1000人規模に上ると推計している」

処置の方法は様々だ。ビッキーが経験したように熱した葉っぱを胸に押し当てたりマッサージに使ったりする場合もあれば、焼いた砥石を使って発育期にある乳腺を潰すケースもある。少女の心理的な傷痕は深く、長い時間を経ても消えない。性に関するコンサルタントでカメルーン人のアワ・マグダレンによると、そうした慣習は「少女がその後の人生で、社会で自己主張するのに必要な自信を奪い去ってしまう」

胸アイロンを失くすための第一歩は、FGMの場合と同様、できるだけ広くその存在を世に知らしめ、理解を広めることだと、ベリーは言う。声に出して話し合わなければ、胸アイロンはまた元の闇に葬られてしまうだろう。【1月5日 Newsweek】
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被害者女性側に責任転化する傾向も
“胸アイロン”という残忍な行為が母親など肉親によって行われるのは、結婚前の望まない妊娠やレイプ、性的被害に遭わないようにすること、要は男性側の性的暴力から娘を守るためとされています。

男性側の性的暴力については、日本など先進国を含め、あらゆる社会において“ごくありふれた”現象ですが、“女性側のふしだらな服装などが、そうした暴力を誘発している”と、被害者側へ批判の矛先が向けられることも珍しくありません。

その“ふしだらな服装”は具体的には“西洋風の服装”という形で、欧米文化に対する民族主義的抵抗感とも結びつくことがしばしばあります。

****性的被害は「西洋風の服装のせい」、州内相の発言に批判殺到 インド****
インド南部のカルナタカ州バンガロールで大みそかに行われた祝賀イベントで、複数の女性に対し集団が性的暴行をはたらいたとみられる事件について、治安を担当する州内相が「西洋人のような」服装をしていた女性たちに非があると発言し、批判が殺到している。(中略)

こうした中、カルナタカ州のジー・パラメシュワラ内相はこの事件について、女性らが西洋風の服装をしていた結果起こった「不幸」な暴行事件だったと発言した。
 
パラメシュワラ内相は現地ニュース専門局タイムズ・ナウに対し、「まるで西洋人のような若者たちが大勢集まっていた」と述べ、「彼らは考え方だけでなく、服装まで西洋人を真似ようとしている。すると騒ぎが起きたり、一部の女性が襲われたりもする。こういうことは起こるものだ」と語った。
 
内相は後に自らの発言が誤って引用されたと釈明したが、大きな批判を浴び、中央政府のキラン・リジジュ内務担当閣外相は一連の発言を「無責任」だと断じた。またインド国家女性委員会(NCW)のラリサ・クマラマンガラム会長は、同内相は引責辞任すべきだと非難した。【1月4日 AFP】
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“地元警察は5日、容疑者4人を拘束したが、警備の甘さや捜査の遅れも指摘された”【1月6日 毎日】とも。

“インドでは2012年、ニューデリーで起きた女子大生の集団強姦殺人事件を機に「女性の安全」を求める抗議デモが広まった。政府は厳罰化などの対応を取ったが、その後も性犯罪が多発。昨年11月には南部ケララ州で日本人女性旅行者が強姦される事件も起きている。”【同上】

“首都ニューデリーの女性権利団体で働くパドマさんは「インドでは、女性に対し『夜間に外出すべきでない』『男性の目を引かない服装をすべきだ』といった考えが根強くあるが、女性にも人権がある。内相は発言を謝罪すべきだ」と批判する”【同上】

男性側の性的暴力に対し、女性の側が負担を強いられたり、責任を転嫁されたりするのはまったく理不尽です。

「胸アイロン」の話にしても、背景に男性側の性的暴力があり、男女間のトラブルを防ぐために何らかの対応が必要だというのであれば、アイロンで潰すべきは少女の胸ではなく、男性の性器でしょう。
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トルコ  政府批判を許さないエルドアン政権 “テロ地獄”更に悪化の懸念も

2017-01-07 22:59:39 | 中東情勢

(昨年のクーデター未遂の際に反乱勢力に空爆された国会議事堂の破片が入ったトルコ政府の新年のカード。仏パリで(2017年1月6日撮影)。【1月7日 AFP】)

欧米の批判に不満を募らせるエルドアン大統領
昨年7月のクーデター未遂後、首謀したとされるギュレン派だけでなく、政権に批判的なメディア・野党勢力、クルド系勢力などを対象に大規模な“粛清”を続けるトルコ・エルドアン大統領ですが、欧米諸国が民主的政権に対するクーデター未遂そのものより、その後のエルドアン大統領の強権的手法に批判的なことに、非常に不満を募らせているようです。

****トルコ、クーデター未遂時の議事堂破片入り新年カード 各国へ送付****
トルコ政府は、「民主主義の年」を願う新年のメッセージカードとともに、昨年のクーデター未遂の際に反乱勢力に空爆された国会議事堂の破片を、世界各国の外交官やジャーナリストらに送った。

トルコの首都アンカラの国会議事堂は昨年7月のクーデター未遂の際、反乱勢力によって空爆され、一部が破壊された。
 
フランス・パリのAFPが受け取ったトルコ政府の新年のカードには「民主主義に対するトルコの貢献の象徴として、トルコ大国民議会の壁からはがれ落ちた大理石のかけらを送ります」とあり、さらに「真の意味で民主主義を享受できる新年となるように」と書かれていた。
メッセージの名義は、ビナリ・ユルドゥルム首相の報道官、メフメット・アカルカ氏となっている。
 
レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は昨年、クーデター未遂によって自らの政権が脅かされた際、欧米諸国がほとんど連帯を示さなかったことに激怒した。

エルドアン政権は批判勢力からは、強権的な性格を強めているとみなされている。欧州連合(EU)と米国は、トルコのクーデター未遂の後の弾圧で兵士や裁判官、ジャーナリスト、教師など数万人が拘束されている事態について懸念を強めている。
 
トルコ首相府によれば「テロリズムは人道に対する罪だ」などと書かれたカードと国会議事堂の破片は、世界中の外交官やジャーナリスト、大学の学長、自治体の長など4000人に送られた。AFPに届いたベロア製の黒いケースの中には、灰色の角張った破片が入っていた。【1月7日 AFP】
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おそらくエルドアン大統領の発案でしょう。

【「すべてを独裁的に決められる国家」目指し、悪化するメディア統制
エルドアン大統領はご不満ですが、トルコの言論統制は悪化しており、批判を受けるのもやむを得ないところがあります。

****<トルコ銃乱射>強まるメディア規制*****
トルコでは、大きなテロ事件などが起きると報道規制がかけられる。地元メディアによると、2010〜14年だけでも150回以上にのぼる。トルコ政府は批判的な報道機関の幹部を「テロ扇動容疑」などで摘発し、閉鎖に追い込んできた経緯もある。
 
今回の事件でも、一夜明けた2日朝には現場の店付近に国内外メディア数十社の記者らが並んだが、警官隊は接近を禁じた。一時的に規制を解除して撮影を許したのは、政府の支援で最近作られたとされる市民団体「トルコ・デモクラシー・プラットフォーム」が献花のために訪れた際だ。
 
この団体の代表者は「いかなるテロにも抗議する。(テロを助長するような)報道の責任も大きい」とメディアをけん制するような発言もした。
 
一方、店の経営者は地元メディアに「10日ほど前から在トルコ米大使館がテロの注意喚起を出していたのに」と涙ながらに語っていた。当局側の警備の不備を指摘したとも取れる発言だが、大きくは報じられていない。

国内の新聞やテレビなどは、犠牲者を悼む内容や、エルドアン大統領の「対テロへの決意」などを中心に伝えている。
 
地元報道機関で20年以上働く40代の男性記者は取材に対し、報道規制について「具体的な禁止事項が細かく決められているわけではない。ただ『テロを助長するような報道』をしていると政府に判断されると注意を受け、無視すると閉鎖に追い込まれることもある」と説明した。
 
この男性記者によると、トルコでは最近、大規模テロが相次いだことで「国民の不安は確実に高まっているが、政府の対策が悪いと批判が出るのは、最近ではソーシャルメディアぐらい」だという。【1月2日 毎日】
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いまやトルコは、拘束されたジャーナリストが世界で最も多い国となっています。
拘束される前に暗殺される国や、そもそも政権批判的メディアが存在しない国もありますので、これを持って世界最悪とは言えませんが、大きな問題であることは間違いないでしょう。

****<トルコ>「メディア支配」やまず 記者150人超逮捕****
トルコで、政府による「構造的なメディア支配」が進んでいる。昨年7月のクーデター失敗事件を機に発出された非常事態宣言を受け、事件後に裁判もないまま超法規的措置で逮捕された記者は150人以上にのぼる。

さらに政府は記者800人から取材許可証を剥奪。政府に疑義をはさまない報道機関の経営母体には「便宜」を与えるなどして、国内メディアの8割以上を事実上の支配下に収めている。非常事態宣言は4日、議会が再延長を承認した。
 
「これが昨日の新聞。みんなのためにも頑張る、と書いています」。2日、イスタンブールの左派系紙「ジュムフリエト」(トルコ語で「共和国」)で、幹部のアイクト・クチュクカヤ氏(44)が元日紙面を広げて見せた。
 
昨年10月31日、「テロ支援」などを理由に、具体的な容疑の開示もなく編集局長らが一斉に逮捕された。元日付の1面には、拘束中の12人の顔写真と名前を書いた紙を持って並ぶ編集局メンバーの写真を掲載した。
 
同紙は、建国の父で世俗派のムスタファ・ケマル(アタチュルク)初代大統領らによって1924年に創刊されたトルコ最古の新聞社。過去にはイスラム過激派らの襲撃を受け、記者ら6人が殺害されている。

2015年には、トルコ国家情報機構(MIT)のトラックが南部で軍の検問を受けた際に大量の武器が見つかった映像を独占入手し、トルコ政府によるシリア反体制派への「支援」の疑いを特報、世界に転電された。記者2人が「スパイ容疑」などで逮捕され、エルドアン大統領は当時、同紙を提訴し「記者は重い代償を払うだろう」と述べた。
 
「それでも当時はまだ裁判があった。だが今は非常事態宣言の超法規的措置で、何が容疑かも示されないまま逮捕されている」。クチュクカヤ氏によると、12人逮捕の事件は広告減に拍車をかけている。「政府を敵に回す新聞社に広告を出すのは勇気がいるから」。

同紙の発行部数は約4万部で、トルコ紙全体で20位程度。広告や販売収入で経営する同紙のような新聞は全体の2割以下で、8割以上は建設やエネルギー関連の大企業に買収されているという。
 
「政府から許認可などを受けて利益を得ている大企業が、政府の要請を受けてメディアを買収し片手間に経営しているから、政府批判などしない」。元大手メディア記者で野党・共和人民党(CHP)のバリシュ・ヤアルカダシュ議員はそう述べて、報道の自由の危機を訴えた。

「(エルドアン氏が)目指すのは自分を批判するジャーナリズム、議会、裁判を無力化し、すべてを独裁的に決められる国家だ」。エルドアン氏は自らの権力を強化する実権型大統領制の導入を目指し、今春にも国民投票にはかる見通しだ。【1月4日 毎日】
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クーデター未遂事件を受けて全土に出された非常事態宣言が、1月3日、昨年10月に続いて再び延長されたことについて、「人権軽視」との批判もあります。

後述のようなテロ頻発の状況からすると一定にやむを得ない措置にも思われますが、どのように運用するかは別問題です。

国際人権団体は逮捕者が「虐待や拷問を受けている証拠がある」と指摘しています。また、前出のように、政権に批判的な報道機関が法律と同効力の政令で閉鎖されています。

頻発するテロ 更に悪化の懸念も
テロ頻発については、12月17日ブログ“トルコ シリア介入で存在感を強めるものの、国内で相次ぐ爆弾テロ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161217でも取り上げたところで、「当分の間はトルコの“テロ地獄”が続くのではないでしょうか」とも書いたのですが、イスラム過激派ISとクルド系反政府勢力PKKの二つを相手にして、まさにテロが続発しています。

****トルコのナイトクラブ襲撃、ISが犯行声明****
トルコの最大都市イスタンブールで、新年を祝うイベントを開催中だったナイトクラブで何者かが銃を乱射し、多数の外国人を含む39人が死亡した事件について、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が2日、犯行を認める声明を出した。

ソーシャルメディア上に投稿された声明でISは、高級ナイトクラブ「レイナ(Reina)」での攻撃は、「イスラム国の兵士」の一人が実行したと主張。実行犯は手りゅう弾と銃を用いて攻撃を行ったとしている。
 
また声明は、イスラム教が多数を占めるトルコがキリスト教徒に仕えていると非難しており、近隣のシリアやイラクでISとの戦闘を繰り広げる国々と提携していることを指しているとみられる。【1月2日 AFP】
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****トルコ裁判所前で車爆弾攻撃、2人死亡 銃撃戦も****
トルコ西部イズミルの裁判所前で5日午後、自動車爆弾が爆発し、少なくとも2人が死亡した。現場では直後に銃撃戦も発生。当局は、非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」による犯行とみて捜査を進めている。

 
ベイシ・カイナック副首相は記者団に対し、死亡したのは警察官1人と裁判所職員1人だったと発表。さらにその後、警察と「テロリスト」との間で銃撃戦が起き、武装集団側の2人が殺害されたが、3人目の容疑者が逃走したため現在追跡中だと述べた。(後略)【1月6日 AFP】
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“ISは昨年末に本格的な闘争を宣言。トルコで同様の事件が続く恐れは強い”ということで、今後更に状況は悪化しそうです。

****イスラム国とトルコの対立は新段階に 「闘争宣言」の直後、続発の恐れも****
トルコの最大都市イスタンブールのナイトクラブ襲撃で2日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が事実上の犯行声明を出したことは、ISとトルコの対立がさらに激しい段階に入ったことを示している。

トルコで起きたテロの場合、関与したとみられるケースでもISが犯行を認めることは少なかったが、ISは昨年末に本格的な闘争を宣言。トルコで同様の事件が続く恐れは強い。
 
「(トルコによる)爆撃での流血は、お前らの土地で火に転じる」。ISは声明文で、ナイトクラブ襲撃はトルコによるIS攻撃の報復だと示唆した。
 
ISは、中東や米欧で過激派によるとみられるテロが発生すると、実行犯はISの「戦士」だなどとする声明を出してきた。この種の犯行声明は、ジハード(聖戦)の“総元締め”としての求心力を維持する重要な宣伝材料だからだ。
 
一方、ISは台頭して以来、2015年夏にトルコ南部スルチでの大規模テロに関与したとみられるまで、トルコとの直接対立は避けてきた経緯がある。
 
スルチでのテロを契機にトルコがISとの対決路線に踏み出し、ISによるとみられるテロが相次ぐようになったが、ISは関与を明確にしないのが通例だった。拠点のシリア北部に隣接するトルコとの衝突を極力避ける思惑だったとみられる。
 
しかし、昨年暮れにシリア北部に展開するトルコ軍がISへの攻撃を強めたことを受け、ISはトルコ兵2人の「処刑映像」を公開し報復を宣言。

ナイトクラブ襲撃は、新年に世界の注目を集めることを狙っただけでなく、ISとトルコの関係が新たな段階に入った象徴とも位置付けられる。
 
トルコは現在、ISのほか、少数民族クルド人系武装勢力とも対立。シリア北部のクルド勢力の押さえ込みに向け、シリア情勢では対立関係にあったロシアとも接近しつつある。

こうした動きがロシアを敵視するISなどジハード勢力を刺激していることも確実で、トルコの治安情勢はさらに不安定化する公算が大きい。【1月2日 産経】
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宗教保守的な政権支持層と反政権的な世俗派の国民分裂の懸念も
イスタンブールのナイトクラブで起きた銃乱射事件はIS犯行とされますが、宗教保守的なエルドアン政権支持者ではなく、エルドアン政権に批判的な世俗派が攻撃対象となったことで、微妙な影響も指摘されています。

****イスラム政権、国民分裂を懸念=銃乱射事件から1週間―トルコ****
トルコ最大の都市イスタンブールのナイトクラブで起きた銃乱射事件から8日で1週間。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を認めたが、実行犯の男は依然逃走中で、当局は男の捜索と関係者の拘束を続けている。

トルコ社会のイスラム化を推し進めてきたエルドアン政権は、世俗派が攻撃対象となった今回のテロで国民の分裂が進むことを懸念している。
 
「テロ組織は私たち国民同士を対立させることはできない」。エルドアン大統領は5日、事件はトルコ社会の分裂が目的だとの認識を示し、国民に団結を訴えた。(中略)
 
ISは事件後、「キリスト教徒が背信的な祝日を祝っていたナイトクラブを英雄的な戦士が攻撃した」との犯行声明を発表。隣国シリアでトルコ軍が続けている軍事作戦への報復だと主張している。
 
トルコは建国以来、政教分離を国是としてきたが、イスラム色を強めるエルドアン政権の下、世俗主義を堅持しようとする人々とイスラム教的価値観を重んじる人々の間で対立が生じている。

今回のテロは、対IS戦で有志連合の一角をなすエルドアン政権に対する打撃を目的としながらも、攻撃対象は同政権に反発してきた世俗派の人々だった。
 
このため、ソーシャルメディアでは犯行を支持する一部の人々の投稿が広がり、当局は取り締まりに乗り出した。

トルコの著名ジャーナリスト、ムスタファ・アキョル氏は中東のニュースサイト「アル・モニター」で、事件について「エルドアン政権が先導したイスラム主義的な不寛容さの『極致』だ」と指摘した。【1月7日 時事】 
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宗教保守的なエルドアン政権支持者とエルドアン政権に批判的な世俗派の分断まで考慮しての犯行だったのであれば、効果的な一撃となったようです。

悪化するアメリカとの関係 ただし、トランプ政権への期待も
一方、外交面ではシリア停戦においてロシアとともに主導的な役割を演じていますが、シリア北部のクルド人勢力をめぐっては、これを敵視するトルコと、対IS戦略のパートナーとするアメリカの間がこじれています。

****空軍基地、使用停止も=対IS戦で米に不満―トルコ****
トルコの大統領報道官は5日、米軍主導の有志連合が過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の拠点として使用しているトルコ南部インジルリク空軍基地について、「トルコは閉鎖する権利を持っている」と述べた。

米国に対し、トルコと敵対するシリアのクルド人勢力との協力を中止しなければ、同基地の使用を停止する可能性があると警告したものだ。
 
米国は、シリアのクルド人勢力を対IS戦でのパートナーと見なし、これにトルコは反発してきた。
 
報道官は、トルコ軍が現在進めているIS支配下のシリア北部バーブの制圧戦で、米国から十分な支援を受けていないと不満を表明。トランプ政権になれば、クルド問題がトルコにとっていかに敏感な問題か、米国はもっと考慮するだろうと語った。【1月5日 時事】
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冒頭のクーデター未遂事件をめぐる欧米との不協和音もあります。

ただ、アメリカとの関係は、人権などには関心のないトランプ政権になれば様変わりするのかも。
“トルコ副首相は4日、トルコとしてはトランプ政権との関係については、楽観していると語った”【1月5日 「中東の窓」】とも。
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“反グローバリズム”的な動きの中で前面に出てきた“国家の役割” 行先は国家社会主義の時代?

2017-01-06 22:41:48 | 国際情勢

(21世紀に蘇るヒトラー、はたまたスターリン・・・なんてことがないように)

グローバリズム 対 グローバル化に疲れた国民
****グローバリズム****
地球上を一つの共同体とみなし、世界の一体化(グローバリゼーション)を進める思想である。
現代では、多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表す。訳して地球主義とも言われる。【ウィキペディア】
****************

一般には、上記のように多国籍企業の活動や自由貿易の観点から使用されますが、本来の趣旨からすれば、国境を越えて移動する難民・移民というヒトの流れを許容する考えも“グローバリズム”のひとつでしょう。

その意味において、昨年来の世界の動きは、「ヒトが、モノが、カネが、情報が、地球上において国境を越えて自由に動き回れるようにしよう」というグローバリズムの流れと、それによって自分たちの生活が脅かされていると感じる人々の間の対立が先鋭化し、多くの局面で“反グローバリズム”的な選択がなされているというようにとらえることができます。

三橋貴明氏の下記主張は、そうした流れを指摘したものです。
ただ、別にグロ―バリズムやTPPに賛同する者が、国家も法律もない弱肉強食の完全自由社会を主張している訳でもありませんので、もし“グロ―バリズム=完全自由社会”と決めつてしまうと“「頭が悪い人」の誹りを免れません”。

****三橋貴明】想像してごらん 国なんて無いんだと****
イギリスのブレグジット、アメリカ大統領選挙におけるトランプの当選、オーストリア大統領選挙における自由党の健闘、イタリアのレンツィ首相の国民投票における敗北など、現在の世界は「グローバリズム 対 グローバル化に疲れた国民」の対立によって動かされています。

右翼 対 左翼。保守 対 リベラル。といった、旧来の対立構造で世界を理解しようとすると、普通に間違えます。

そもそも、三橋に言わせれば、現在の日本は右翼も左翼も、保守もリベラルも「グローバリズム」です。
グローバリズムを左翼、リベラル風に言い換えると「地球市民」となります。

国家を否定し、国家の役割を否定し、国境を嫌悪し、「ヒトが、モノが、カネが、情報が、地球上において国境を越えて自由に動き回れるようにしよう」というグローバリズムの教義には、別に朝日新聞であっても反対しないでしょう。 実際、朝日新聞はTPPを礼賛し続けました。

ジョン・レノンの名曲「イマジン」に、「Imagine there’s no countries(想像してごらん 国なんて無いんだと)」
という歌詞があります。

うん。実際に国がなくなったら、人々はあらゆる法律、規制、ルールから「自由」になり、強者が弱者を虐げる、
北斗の拳の「ヒャッハーッ!」な社会が誕生することになるでしょう。何しろ、法律を制定する「国」がないのです。

誰にも縛られず、誰の束縛も受けず、やりたいことがやれる自由な社会。
つまりは、強者が敗者を踏みにじっても、誰からも批判されないどころか、それが「普通」の世界。
ルールなき世界において、誰もが「フェア」に競争し、勝ち組と負け組に分かれていく。負けた者は、もちろん自己責任。

その種の弱肉強食の時代が訪れたとして、それは果たして「人類の進化」なのでしょうか。 三橋は普通に「退化」だと思います。 人類は、獣の時代に戻るのです。

人間が健康で文化的、かつ豊かで安全な生活を送るためには、 健全な共同体としての「国家」が必要なのです。国家が法律を制定し、「獣の時代」の到来を防ぐ。我々国民は、 有権者として投票し、国家の法律制定に関与する。

少なくとも「方向」としては、国民が主権を行使し、 国家の法律制定に影響力を発揮することが、「進化である」と表現しても構わないのではないでしょうか。(そういう意味で、中華人民共和国は相対的に退化した国家です)

無論、話はオールオアナッシングではないため、「ならば、国家が全てを規制すればいいというのか!?」などと、極論で反論するのは「頭が悪い人」の誹りを免れません。

完全自由社会と、完全統制国家との間には、 無限のバリエーションがあります。

現在の世界は、国民が置き去りにされ、「完全自由社会」の方向に天秤が傾いてしまっている。
だからこそ、民主主義による反乱が起きていると解釈するべきです。

2017年も各国で選挙が続き、グローバル化に疲れた人々の「票」がますます力を持ち始めることになるでしょう。やはりイギリスのブレグジットは、「例により」大転換の始まりであったことが確定するのではないかと予想しています。【2016年12月 三橋貴明氏 http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/12/12/
****************

個人的な好き嫌いを言えば、私は国家の役割が“過度に”強調され、個人の権利・生活が国家によって“過度に”制約される社会は好みません。

国境についても、たまたま飢餓や紛争の絶え間ない国に生まれた人々が、そこから国境を越えて逃れようとすると追い返されるという現実は、“悲しく理不尽な現実”だと思っています。(今すぐに国境を取り払えなんて言いませんが、少なくとも“悲しさ”“理不尽さ”を認識してしかるべきだとは考えています)

従って、“民主主義による反乱”が目指す方向には違和感を感じます。もちろん、“無限のバリエーション”のどこに立つか・・・という話ですが。

前面に出てきた『人を外から入れない』という国家の役割
個人的な嗜好は別にして、上記のような“反グローバリズム”的な動きの中で、国家の役割が改めて期待されている・・・という話があるようです。

昨年2月に話題となった「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログを発端とする動きも、国家の否定と言うより、逆に、国家に何とかして欲しいという叫びと捉えることができるとか。

****我々はどこから来て、どこへ向かうのか:4)グローバル化の先は****
・・・・(批評家の)東氏は、日本でこの10~20年の間に人々の考え方が変わってきた、と語った。
 
グローバル化を背景にした収入減少で共働き家庭が増え、「妻は家で育児」のモデルは行き詰まった。教育費がかさむ時期に手厚い給与をくれた“年功賃金の会社”や労働組合もやせ細った。

そうした中で「せいぜい国家ぐらいしか頼るものがない」という認識が広がったと見る。だから怒りも国家へ向かうのだ、と。
    *
国境に囲まれた領域のなかで排他的に国民を統治し、外に向けて独立する存在。「主権国家」が定着し始めたのは、17世紀ごろの西欧だったとされる。
 
それから数百年。20世紀終盤にグローバル化が加速した。人や資本が国をまたいで行き来し、国境は溶けていく、との見方も出た。
 
国家の存在感は低下しているのだろうか。
国際政治学者の藤原帰一・東京大学教授は「いや、むしろ『人を外から入れない』という国家の役割が前面に出てきた」と話す。
 
ドナルド・トランプ氏は、移民や外国資本が職場を奪う、難民はテロリストかもしれないと訴え、国境に壁を築こうと語った。
 
人を入れない大国は国民を保護できるか。自分の首を絞める可能性が高い、と藤原氏は否定的だった。
「豊かな国が自己利益だけに走ると、世界で取り組まねばならない問題に誰も取り組まなくなる。世界は不安定になり、国家同士が衝突するリスクも高まる」
 
国家に期待や失望をするのは、国家が私の生活を支えてくれるはずだという意識があるからだろう。
 
福祉や社会保障を整え、広く国民生活を支える国家は、福祉国家と呼ばれる。一般には19世紀以降、解雇や病気で生活が不安定になる賃金労働者が増えたため広がったとされる。1970年代の石油危機で経済に陰りが見えると、福祉国家の退潮が語られ始めた。
    *
「総動員型の戦争」という観点からその歴史に別の光を当てるのは、憲法学者の長谷部恭男・早稲田大学教授だ。19世紀後半、福祉国家が現れる起点にドイツ帝国宰相・ビスマルクの強兵策があったと見る。
 
訓練された兵士を大量に動員することが当時、戦争に勝つカギだった。「戦争体制への動員を国民に納得させるため、ビスマルクは社会福祉制度を設けた」。日本でも、戦時体制のもとで社会福祉が拡大した。
 
そんな総動員戦争の時代は冷戦終結で終わった、と長谷部氏は見る。国家にとって福祉国家という役割を担うことは「必然」ではなくなり、すでに「選択肢の一つ」へ後退したという。
 
「とはいえ、生活が底辺に向かうのを放置すれば国民は国家に愛着を持たなくなる。多くの国が連携してグローバル化による賃金低下や税金逃れに歯止めをかけられるかどうか。ダメなら国民は根無し草になる」
 
昨年10月、ドイツの最高裁にあたる連邦通常裁判所が出した判決が、日本でも注目された。
保育所がなく仕事に復帰できなかった親が所得の賠償を求めた。ドイツは法律で、保育機会を子に与えるよう自治体に義務づける。判決は、財政難という理由では保育所設置の義務を免れないとした。
 
憲法学者の木村草太・首都大学東京教授はこう語る。「国家が市場経済の体制を採る以上、国民は働かねば生きていけない。国家の繁栄ではなく『個人の尊重』という観点から、誰もが労働できる環境を整備する義務が国家にはある、と考えることは可能だ」
 
近代社会を支える社会契約説によれば、人々が国家を作るのは自らの生命や財産を守るためだ。
東氏は言う。「今、人々の作り出す財産を2次、3次利用して巨大な富を得るグローバル資本が政府に保護される。他方で貧しい労働者は、自力で何とかせよと言われる。保護する対象が違う、との怒りには一理がある」
 
グローバル化の先にも支えとなる国家。私たちはデザインできるだろうか。【1月5日 朝日】
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欧州極右・トランプがもたらす国家社会主義の時代 連携するロシア・プーチン大統領
国家と言うか、政府への公的支援の国民要求は、今も昔も山ほどあり、「保育園落ちた」現象が「せいぜい国家ぐらいしか頼るものがない」という国家への期待の高まりを表すもの・・・と言えるのかどうかには疑問があります。

ただ、「『人を外から入れない』という国家の役割が前面に出てきた」という藤原氏の考えには賛同します。
欧州における極右勢力の台頭、アメリカのトランプ現象などは、そうした「国家の役割」を求める動きでしょう。

ロシア・プーチン大統領は、そうした動きとの連携を強めています。

****崩壊から25年、「ソ連」が今よみがえる****
<資本主義が勝利した世界で続く格差対立。トランプがもたらす国家社会主義の時代>

ソ連という世界2位の超大国が崩壊して25年。筆者はソ連時代のロシアに5年住んだ。自由でいようとする者にとってソ連は過酷な社会だったが、大衆はぬくぬくと暮らしていた。

ソ連......あれは何だったのか? アメリカとの冷戦で、世界は核戦争寸前といつも言われていたが、実際には米ソ双方とも核戦争を避けるため自重し、世界はかえって安定していた。

ソ連......それは近代の産業革命、工業化が生み出した格差に対する抗議の声をまとめたものでもあった。それにはマルクス主義という名が付けられて、世界の世論を二分した。

91年にソ連が崩壊。米ソ対立に隠れていた別の対立軸が前面に躍り出て、世界を引き裂く。工業化に成功した先進国と、工業化のあおりを食うだけの途上国や旧社会主義諸国との間の格差がもたらす対立だ。イスラムテロもこの活断層から生まれた。

ソ連消滅後、アメリカは他国を独裁国と決め付けては民主化をあおり、政権を倒す動きを展開。旧社会主義諸国や途上国を収拾のつかない混乱に投げ込み始めた。自分たちは特別な使命を持つ国だというアメリカのおごり(「例外主義」)に歯止めが利かない。

マルクス主義は権威を失ったが、格差に対する抗議の声は現在、右翼・国粋主義、反移民運動として表れている。

面白いことにロシアのプーチン政権はかつてソ連が国際共産主義運動の旗を振ったのに似て、先進諸国の右翼勢力との提携を強めた。アメリカが展開する国際民主化運動にこうやって対抗するさまを、英エコノミスト誌は「プーチン主義運動」と揶揄する。

右翼・国粋主義、反移民運動は、政治家にあおられてポピュリズムの大波となった。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領候補の当選の流れは、先進諸国の政治体制を覆しつつある。

国家が再び舞台の中央に
ソ連......それは日本にも爪痕を残した。ソ連は第二次大戦直後、日本の占領統治に参加させてもらえなかったが、「革新」勢力を支持して日本の権力を掌握しようとした。

イデオロギー対立からソ連と手を切った後も、ソ連が崩壊した後も、日本の革新勢力は投資より分配に過度に傾斜した経済政策や反米幻想を捨てない。革新勢力は戦前の国粋主義を奉ずる一部保守勢力と好一対で、今でも権力奪取の見果てぬ夢を追う。

ソ連と同様に化石的存在である日本での「保守・革新」対立を尻目に、世界はこれから弱肉強食の時代に突入しようとしている。

ソ連崩壊後のアメリカ一極化はイラク戦争で頂点に達した。だがその戦費の垂れ流しは国債の乱発をもたらし、財政・金融両面でアメリカをむしばむ。08年の世界金融危機を機に、アメリカは地位を後退させた。

オバマ政権は国外への派兵を避けたのはいいが、明確な見通しもなしに他国を「民主化」する動きをやめず、そのため、ウクライナやシリアでは先の見えない紛争を生み出した。

こうした「無極化世界」の混乱のなか、トランプはそれに背を向け、自国の利益だけに集中しようとしている。それによってこれから起こる「製造業の奪い合い」は、近世に行われた英蘭仏、重商主義諸国のゼロサム・ゲームの再現となるだろう。

グローバル化の中では、製造業に頼らずとも富と雇用を生むのは可能であるにもかかわらず、トランプが展開する製造業の奪い合いは、「国家」という時代遅れのマシンを再び舞台の中央に引き出す。
国家が企業に命令して、外国への工場流出を止めるようになるからだ。

国家が経済の主人面をし始めると、「ノマド」(遊牧民族、実力で世界を渡り歩く人間)など、ひと頃はやった強い個人はしばし休息となる。これからの数年は、「国家」の意味が増すだろう。国家が公平な分配を保証する「国家社会主義」......。

何のことはない。ソ連的なもの――ドイツではナチズムと呼ばれた――は、世界中でよみがえったのだ。【1月3日/10日号 河東哲夫氏 Newsweek日本語版】
********************

先述のような個人的な国家感からすると、どうも息苦しい時代がやってきそうです。

なお。欧州極右運動とプーチン大統領の連携を示すものが、フランスの「国民戦線」マリーヌ・ルペン党首へのロシアの資金援助ですが、ルペン氏としてもあまりロシア依存が強まると世論の批判を受けるということで、困った立場にもあるようです。

****ルペンは禁断のロシアマネーに手を出すか****
移民排斥を掲げて支持を伸ばすフランスの極右政党・国民戦線のルペン党首。17年の大統領選レースで支持率2位につけているが、本格的な選挙戦を前に「金欠病」に悩まされていることが明らかになった。
 
国民戦線は大統領選と議会選に向けて2000万ユーロの資金調達を目指している。14年にはモスクワに本拠を置くファースト・チェコ・ロシア銀行から900万ユーロ以上の融資を受けたが、同行は16年7月にロシア当局に免許を停止された。

その後、国民戦線はフランスの銀行に資金提供を拒まれ、ある米銀との交渉も頓挫。今も新たな資金源を見つけられていないという。
 
ロシア系の別の金融機関から融資を引き出すこと自体はさほど難しくないだろうが、ルペンは慎重にならざるを得ない。

米大統領選にロシアが不正介入した疑惑が強まるなか、仏メディアはルペンとロシアの関係に目を光らせている。
 
目先のカネと長期的なイメージのどちらを優先するべきなのか、ルペンは難しい判断を迫られそうだ。【1月3日/10日号 Newsweek日本語版】
********************

ロシア・プーチン大統領の“サイバー攻撃”によるトランプ支援については、今後アメリカで関連した動きもあると思われますので、またその時に。

“ウソと謀略に満ちたヒトラーとナチ党の手口は、いまや世界各国で政治の常套手段になり、極右や強権的なリーダ−たちが大手を振るっている。格差とテロ、宗教対立、金融資本の跋扈(ばっこ)、経済危機、大量難民、極右台頭。世界に波乱をもたらす様々な不安がその「復権」を後押ししている。”【2016年12月19日 Record China】
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イスラエル オバマ政権に“マジ切れ” トランプ新政権に関係改善を託す ネタニヤフ首相に汚職疑惑も

2017-01-05 21:36:42 | 中東情勢

(ネタニヤフ首相の汚職疑惑に関する事情聴取のため、エルサレムにあるイスラエル首相公邸の入り口に止められた警察のパトカー(2017年1月2日撮影)【1月3日 AFP】)

【「中東唯一の民主主義国」の司法制度を揺るがしかねない大論争
昨年3月、イスラエル軍兵士が負傷して路上に倒れていたパレスチナ人男性の頭部に銃弾を撃ち込んで「処刑」する場面を映した動画が公開され注目を集めました。

この事件は、一昨年10月以降、エルサレムやヨルダン川西岸などでパレスチナ人がイスラエル人を襲撃したり、イスラエル当局と衝突したりする事件が相次ぎ、死者は双方で200人を超えるという険悪な状況で起きたものでした。

****イスラエル軍兵士、負傷し倒れたパレスチナ人に銃撃で拘束****
イスラエル国防軍は26日までに、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロン市で、刃物による襲撃事件に関連して負傷し、路上に倒れていたパレスチナ人男性の頭部に銃弾を撃ち込んでいたイスラエル軍兵士を拘束したと発表した。

拘束は、イスラエルの人権擁護団体「ベツェレム」が現場で撮影した銃撃場面のビデオ映像の公表がきっかけとなった。映像は、少人数の軍兵士と医療担当兵士が倒れているパレスチナ人男性(21)の周辺に集まっている様子などをとらえていた。

ベツェレムは映像と合わせた声明で、負傷し倒れているパレスチナ人への銃撃は周辺にいた多くの兵士らが気付いていない状況の中で起きたとみられると述べた。

イスラエル軍によると、撃たれた男性は同じ現場で直前の時間帯に発生していた軍兵士1人の刺傷事件の容疑者2人のうちの1人。残る容疑者も21歳のパレスチナ人で刺傷事件が起きた際に発砲を受け、死亡していた。

イスラエルのヤアロン国防相は、拘束された兵士の行動はイスラエル軍の価値基準に反するとし、最も厳しい方法で対処すると述べた。憲兵隊が調査を開始した。イスラエル軍は、ベツェレムの映像が公表される前に現場の司令官が今回の不祥事を報告していたとも主張した。

パレスチナ自治政府のジャワド・アウワド保健相は「戦争犯罪」の行為と指弾し、イスラエル軍がパレスチナの民間人に対して行う現場での処刑を物語る非常に明白な証拠と主張した。【2016年3月26日 CNN】
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事件を起こした兵士に対する軍事裁判では、4日、故殺罪で有罪判決が出されました。

****パレスチナ人射殺の兵士に有罪=負傷後、頭部銃撃―イスラエル****
イスラエルのメディアによると、同国の軍事裁判所は4日、負傷したパレスチナ人容疑者の頭を撃って死なせたとして、軍の兵士に対し、故殺(計画性のない殺人)罪で有罪判決を言い渡した。量刑は後日言い渡されるが、最高20年の禁錮刑を科される可能性がある。
 
ヨルダン川西岸ヘブロンで昨年3月、別の兵士を襲撃したパレスチナ人容疑者が負傷して地面に倒れていたところ、有罪判決を受けた兵士に頭を撃たれて死亡した。兵士はパレスチナ人が自爆ベルトを装着していた可能性があったなどと主張していた。
 
裁判官は「差し迫った脅威はなかった」として兵士の行為の正当性を否定、軍の交戦規定に違反したと述べた。【1月4日 時事】 
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まっとうな判決だと思いますが、軍のパレスチナ人への強硬姿勢を支持するイスラエル国内保守派はおそらくこの判決を批判して騒ぐのでは・・・・とも感じました。
案の定、イスラエル国内で議論を呼んでいるようです。

****パレスチナ人銃撃のイスラエル兵に有罪 必要性巡り論争****
・・・・国民皆兵のイスラエルでは、軍幹部らが問題を認める一方、右派系の政治家らが擁護してきた。

右派連立政権を率いるネタニヤフ首相は4日、「(兵士に)恩赦を与えることを支持する」とフェイスブック上で発言した。

「中東唯一の民主主義国」を掲げてきた同国の司法制度を揺るがしかねない大論争になっている。【1月5日 朝日】
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こうした“戦争犯罪”とも批判されるような行為を不問に付すことがあっては「中東唯一の民主主義国」が泣きます。
敵愾心・憎悪が冷静な判断に優先するようでは、パレスチナ和平は絶対に実現しません。

【「二重基準」からの脱却を図ったオバマ政権 次期政権誕生を目前に控え、その効果は不透明
その「中東唯一の民主主義国」イスラエルが違法に進める占領地への入植活動に対する国連安保理の非難決議案採決において、これまで一貫して拒否権を行使してきたアメリカが“棄権”という形で成立に手を貸したこと、それにイスラエル・ネタニヤフ首相が“マジ切れ”とも言われる猛反発していることは周知のところです。

イスラエルをアメリカが支える形で両国は強固な同盟関係にありますが、アメリカ・オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相の“犬猿の仲”も以前から周知のところです。

(歴代アメリカ政権同様に)イスラエルのユダヤ人入植活動を批判してきたオバマ大統領は任期切れの最後の最後で、イスラエルに対する強い不快感を意思表示した形ですが、背景にはイスラエル側の加速する対応もあるようです。

****<イスラエル入植地問題>米、二重基準の脱却図る****
イスラエルのユダヤ人入植活動を批判しながら、安保理ではその非難決議案に拒否権を行使し続けてきた米国の「二重基準」。オバマ米大統領は政権末期に従来路線からの脱却を図った形だが、「親イスラエル」を鮮明にするトランプ次期政権誕生を目前に控え、その効果は見通せない。
 
「イスラエルの政策に大きな打撃となる。国際社会全体の入植地非難であり、(パレスチナ国家建設を目指す)2国家共存への強い支持だ」。パレスチナ自治政府のアッバス議長の広報官は声明を出し、歓迎した。

イスラエル首相府は「この恥ずべき反イスラエル決議を拒否する。イスラエルは決議案の文言には縛られない」と反発。事実上、無視する構えを見せている。
 
オバマ氏が方針転換を図った背景には、拡大するイスラエルの入植活動や、違法な入植地建設を容認する新法制定の動きがある。
 
イスラエルが占領するヨルダン川西岸パレスチナ自治区アモナ地区では、裁判所が下した入植地からの退去命令に入植者が抵抗。強制排除による宗教右派の反発を恐れたイスラエル政府は、家屋の破壊代などとして実質的に約2400万ドル(約28億円)の公費を拠出する見通しで、新たな違法入植地建設に使われるとみられている。

また現在、新たな入植地の建設を独自に国内法で合法化する法整備を検討中で、来月20日のトランプ新政権の発足を待って、手続きを本格化する可能性もあるとされる。
 
パレスチナ問題を巡っては、米国の政権交代間際にその後の和平交渉につなげようとする動きがみられることがある。オバマ氏もイスラエルに対し「厳しい決断」をする可能性が指摘されていた。【2016年12月24日 毎日】
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なお、“入植者を支援するユダヤ系米国人も多く、西岸入植者の約15%はユダヤ系米国人だという報道もある。
”【12月29日 産経】とも。

“マジ切れ”のイスラエルは非難決議に賛同した各国大使を呼んで強く抗議、ネタニヤフ首相は報復措置として、国連への資金拠出拒否を決定し、決議に賛同したウクライナ首相らのイスラエル訪問をキャンセルしたほか、決議の共同提案国であるニュージーランドなどからイスラエル大使を本国に引き揚げています。

アメリカ・オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相の“犬猿の仲”もさることながら、両国の間での交渉にあたっていたケリー国務長官も相当にイスラエルに対する“怒り・不満”がたまっていたようです。異例の“怒りの演説”となっています。

****米、イスラエル入植に異例の非難 国務長官、怒りの演説****
米国の仲介が2014年に頓挫したイスラエルとパレスチナの中東和平に関連し、ケリー米国務長官は28日に演説し、イスラエルによる入植活動の拡大を激しく批判した。

事実上の同盟国で歴史的に強く結びつくイスラエルに対し、公然と非難するのは異例だ。完全なイスラエル寄り姿勢を示すトランプ次期大統領を牽制(けんせい)する意味もあるとみられる。
 
「残念なことに、友好関係が、米国がどんな政策でも受け入れることを意味すると考える者がいるようだ。友人なら困難な事実を言う必要がある」
 
ケリー氏は、入植活動に批判的な米国に反発するイスラエル側をこう非難した。演説は1時間以上にわたり、時折、声を荒らげて怒りをあらわにした。
 
中東和平をめぐっては、国連安全保障理事会が23日、イスラエルの入植活動の即時停止を求める決議案を採択。国際舞台でイスラエルの立場を擁護し続けてきた米国は、拒否権を行使せずに棄権し、黙認した。イスラエルは猛反発した。
 
ケリー氏は、米国の棄権は、再三求めてきた入植拡大の停止をイスラエルが守らなかったことが理由だと強調。イスラエルによる入植は「平和への深刻な脅威だ」と批判した。米国はパレスチナ自治区を独立国家としてイスラエルと共存する形の和平実現をめざすが、その「2国家共存による解決」が「今、深刻な危機にある」と訴えた。
 
「2国家共存」は「イスラエル人とパレスチナ人との持続的な平和の唯一の道なのだ」とし、さもなければ「本当の意味での平和は訪れない」と断じた。
 
ケリー氏は「次期政権が違う道をとろうとしているのは私もオバマ大統領も知っている」と言及。「だが、良心に照らしても、平和への希望が消え入りそうな時、何もせず、何も言わずにいることはできない」と強い口調で訴えた。
 
一方のトランプ氏は、国連の採決の前日、米国が拒否権を行使するべきだと主張する異例の「介入」をした。採択後は、国連自体への批判も強めている。
 
28日には、ツイッターで「イスラエルが見下され、無礼な扱いを受けることを続けさせるわけにはいかない」とつづった。「イスラエル、強いままでいてくれ。1月20日(の大統領就任)は速やかに近づいている」と次期政権での政策転換を示唆した。【12月30日 朝日】
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****<米国務長官>イスラエルを酷評 入植「背景に過激派****
・・・・ケリー氏は2013年夏に再開された和平協議を積極的に仲介したが、イスラエルが入植活動を停止せず、14年春、交渉は頓挫した。

23日の決議採択について、ネタニヤフ首相は「友達なら、(イスラエルを批判する)安保理に連れて行ったりしない」と猛反発。

これに対しケリー氏は演説で「米国の友情」とは、やみくもに支持することではなく「厳しい真実を語り合う」ことだと反論。現在のネタニヤフ政権は「イスラエル史上最右翼で、(入植活動推進を求める)過激派に突き動かされている」と酷評した。
 
イスラエルの現閣僚には、入植者も含まれている。最近では、既存の大規模な入植地とは別に、パレスチナ自治政府の統治エリアに深く入り込んだ飛び地での新たな入植活動を合法化する法整備を検討し、過激化している。
 
ケリー氏は、オバマ政権発足後の09年以降、こうした飛び地で入植者が建設した住宅などが2万戸増加し、既存の大規模入植地を連結させ、将来のパレスチナ国家の領土を分断する役割を担い、イスラエル領土拡大の既成事実化を促すものだと指摘。

パレスチナ国家樹立による「2国家(共存による)解決」ではなく、イスラエルが占領地を併合する「1国家解決」に傾いている、との強い危機感を示した。【12月29日 毎日】
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ケリー国務長官の抱く不満・懸念は、パレスチナ和平の早期実現を願う国際世論にも合致するものではありますが、こんな“最後っ屁”と揶揄されるような形ではなく、もっと早い段階で表明し、オバマ大統領のもとで前進を実現してほしかった・・・というのが正直な感想です。(クリントン氏に引き継ぐつもりでいたので、ことを荒立てずにきた・・・というところでしょうが)

“米国の政権交代間際にその後の和平交渉につなげようとする動きがみられることがある”という点については、オバマ大統領が次期トランプ新大統領のイスラエルへのアプローチを意識して今回の“棄権”判断をしたのかどうか・・・そこは知りません。

トランプ氏はツイッターで「イスラエルに対するこうした軽蔑的で無礼な扱いを継続させることはできない」「イスラエルは(私が就任する)1月20日まであと少し、気丈でいてほしい」などと述べており、イスラエル側もトランプ氏に期待しています。

まあ、その意味では、意識したものかどうかは別にして“オバマ大統領の橋渡し”で、トランプ新大統領になればアメリカとイスラエルの協議が一気に深まりそうですが、問題はその中身です。あまり期待できませんが。

今後は“馬が合う”トランプ・ネタニヤフ両氏のもとで進められることになりますが、“トランプ氏は駐イスラエル大使に、入植推進派で、ヨルダン川西岸のイスラエル併合を支持するフリードマン氏を起用した。トランプ氏の長女イバンカさんの夫のクシュナー氏は、ユダヤ系で、イバンカさんもユダヤ教に改宗している。こうしたことも手伝い、過去の政権以上にイスラエル寄りの政策を進めそうだ。”【12月29日 産経】とも。

トランプ氏だけでなく、議会で多数派の共和党も国連への財政拠出拒否の対抗措置を検討しているとも報じられていますが、トランプ氏は国連新事務総長と電話会談して「会談は非常にうまくいった」と評しています。

***国連批判のトランプ氏、総長と会談「うまく…」***
国連のグテレス事務総長とトランプ米次期大統領が4日、電話で会談した。
 
トランプ氏は「人々が集まって話し、楽しむだけのクラブだ」などと国連を批判しているが、事務総長の副報道官は「会談は非常にうまくいった。米国と国連の関与や協力に向けた多くの分野について議論した」と述べた。会談内容については言及を避けた。
 
一方、ロイター通信によると、トランプ氏の報道担当者は4日、国連に「改革と変化を求めていく」との考えを改めて示した。親イスラエルのトランプ氏は、国連安全保障理事会が昨年12月、イスラエルによるパレスチナ占領地での入植活動を非難する決議を採択した後、国連とは一線を画す姿勢を示している。【1月5日 読売】
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ネタニヤフ首相「何もしていないのだから何か出てくるわけがない」】
一方のイスラエル側がネタニヤフ首相なのか・・・“汚職疑惑”という若干の不透明さも出ているようです。

****イスラエル首相が事情聴取 贈り物不正に受け取ったか****
イスラエルのネタニヤフ首相が、民間人から高額な贈り物を不正に受け取った疑いで、捜査当局の事情聴取を受け、捜査の進展によっては首相の進退問題に発展することも予想されます。

イスラエルの警察は2日、汚職捜査の一環として、エルサレムにあるイスラエルの首相公邸で、ネタニヤフ首相の事情聴取を3時間にわたって行いました。

捜査の詳しい内容は明らかになっていませんが、イスラエルのメディアの報道によりますと、ネタニヤフ首相は複数の民間人から、高額な贈り物を不正に受け取った疑いが持たれていて、贈り物をネタニヤフ首相に渡したとされる人物の聴取も、すでに行われたということです。

イスラエルの検事総長は2日、声明を発表し、ネタニヤフ首相をめぐる数々の疑惑について、去年6月から捜査を続けていて、首相本人の事情聴取を正当化できるだけの証拠が得られたとしています。

一方、ネタニヤフ首相は事情聴取に先立ち、「テレビ局のスタジオや、野党はお祝いムードに包まれているようだが、早まるな。何もしていないのだから何か出てくるわけがない」と潔白を主張しました。

捜査当局は首相への再度の聴取も含め、今後も調べを続ける方針で、捜査の進展によってはネタニヤフ首相の進退問題に発展し、政治の混乱につながることも予想されます。【1月3日 NHK】
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イスラエルでは、2006~2009年まで首相を務めたエフード・オルメルト元首相も汚職容疑で有罪となり収監されました。

オルメルト元首相を巡る汚職事件とは、彼が副首相についていた2004年に、エルサレムのホーリーランド地区に建てた私邸の購入費用の一部について、企業経営者から便宜を受けたというものでした。

ネタニヤフ首相の“疑惑”内容については知りませんが、日本の政界汚職からすれば小規模でも命取りになるようです。
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アマゾンの「孤立部族」は“絶滅危惧種”として隔離・保護されべき存在か? 彼らの人権は?

2017-01-04 22:40:31 | 人権 児童

(ブラジル国立先住民保護財団(FUNAI)が公開したペルー国境近くのアマゾンの熱帯雨林に住む先住民(2008年5月29日提供)。全身を赤く塗り、カメラマンの乗った航空機に弓矢を向けている。【2008年05月31日 AFP】)

南米アマゾンの先住民の話。

*****ボリビアの先住民パカワラ、絶滅の危機*****
ボリビア領アマゾンの先住民パカワラの人々が、絶滅の危機に瀕している。パカワラを研究している人類学者によると、生存者として知られていた5人のうちの1人が、12月31日に死亡した。
 
同国のサン・アンドレス大学教授のウィグベルト・リベロ氏は「ボリビア領アマゾンの最後のパカワラ女性の1人、バヒさん(57)が北東部の地元の村トゥフレで死去した」と述べた。「彼女の部族は絶滅の危険がある」と同教授はツイッター(Twitter)に投稿した。
 
パカワラは、ボリビアで確認されている36の先住民の一つ。狩猟、漁業、農業を営んで暮らしてきた。しかし、パカワラの人口は、別の先住民チャコボと結婚する人や、祖先の地を離れる人が増えた中で次第に減少していった。【1月4日 AFP】
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アマゾンの先住民に限らず、地域文化とか伝統文化といった“少数派”は、何らかの対策を講じない限り、周囲の“多数派”に飲み込まれて、やがては消えていく・・・という流れになりやすいものです。

上記記事を見て思い出したのが、年末に見た、同じ南米アマゾンのジャングルに暮らす「孤立部族」の件です。

こちらに関しては、大袈裟な言い様にもなりますが“こうした「孤立部族」に我々文明社会はどのように接するべきか”、やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないものを感じました。

****アマゾンの「孤立部族」を偶然撮影、部族名も不明****
ブラジルの熱帯雨林地帯に住む「孤立部族」の新たな写真が空から撮影された。今や地球上からほとんど姿を消した新石器時代のような生活の様子が写真に収められ、驚きをもって受け止められている。

およそ4年ごとに移動繰り返す
ブラジル人写真家リカルド・スタッカート氏がヘリコプターから撮影した高解像写真には、アマゾンのジャングル奥深くで他との接触を完全に断って生活している部族の姿がとらえられている。(中略)

スタッカート氏の高倍率の写真は、ブラジルとペルーの国境近くで撮影された。一連の写真から、今まで専門家たちが見逃していたこと、たとえば精巧なボディペイントやヘアスタイルなどが明らかになっている。(中略)

この部族は、2008年に国際的な注目を浴びたことがある。赤いボディペイントを施した先住民たちが低空飛行する飛行機に向けて弓矢を構えている写真をFUNAI(ブラジルの国立先住民保護財団)が公開したからだ。
 
(長年FUNAIに務め、40年以上にわたってブラジルの先住民部族を研究している)この地域の先住民グループに詳しいメイレレス氏によると、部族はそのときから何度も移動している。(中略)

今回、メイレレス氏は、自宅の電話でナショナル ジオグラフィックの取材に答えてくれた。「先住民たちは、約4年ごとに移動しています。動き回ってはいますが、同じ部族であることに変わりはありません」

雷雨を迂回したときに偶然発見
(中略)メイレレス氏は、この部族がよい状態で暮らしていることを見て安心した。食料も十分で、健康的な生活を送っているようだ。

マロカとよばれる共同住居のまわりには、トウモロコシ、キャッサバ、バナナ畑などがあり、80人から100人ほどの集落は十分養えているようだ。近くにある同じ部族の別のマロカと合わせれば、合計300人ほどの人数になるとメイレレス氏は考えている。
 
もうひとつ衝撃的だったのは、ヘリコプターに向かって放たれたたくさんの矢だった。メイレレス氏は、これを健全な抵抗のサインだと考えている。「これはメッセージなのです。『邪魔をせず、そっとしておいてほしい』という」

ペルーでは脅威にさらされている
ブラジル領内のアマゾンの他の地区とは異なり、アクレ州は森や先住民を保護するために厳しい警備をおこなっている。今のところ、アクレ州の先住民たちは安全に暮らせているようだ。

しかし、国境を越えたペルーのジャングルでは、違法な伐採、金の試掘、麻薬取引などが横行している。この脅威は甚大で、過去、いくつかの部族が完全に姿を消したほどだ。

「伐採者や試掘者が入りこんでくれば、先住民たちは暮らしていけなくなります」とメイレレス氏は話す。「彼らがこの地球から消えてしまうかもしれません。それも、私たちが知らない間にです」
 
(中略)この部族は外部との平和的な接触を続けることがないため、名前すら知られていない。ブラジルの政府は、彼らを単に「ウマイタ上流の孤立先住民」と呼んでいる。

この体験を伝えるために
(中略)スタッカート氏は近く『ブラジルの先住民』という本を出版する予定だ。ヘリコプターから村を見たときのぞくぞくするような衝撃を後に続く世代にも追体験してもらうことで、先住民たちに対する興味や良心を呼び起こしたいと願っている。

「驚くほど強烈で、感情的でした」とスタッカート氏はそのときのことを振り返る。「他ではできない体験で、心に深く刻まれています。私たちは人が月に行く時代に生きています。それでも、ここブラジルには、何万年も昔と同じ生活を続けている人々がいるのです」【2016年12月26日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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“2008年に国際的な注目を浴びた”ときの記事が以下ののものです。

****アマゾン奥地に新たな先住民、写真公開 違法伐採で生存の危機****
公表された写真には、先住民はカメラマンが乗った飛行機に向かって弓矢を向けている姿が写っている。

この写真を管轄するFUNAIの環境保護部門のJose Carlos dos Reis Mereilles氏はエスタド・ジ・サンパウロ紙に対し、この先住民の存在は数年前から知られていたが、「完全に孤立した先住民が暮らしていることを立証し、ペルーからの違法伐採により彼らが深刻な危機にあるということに注意を呼び掛けるためにこの資料を公開することを決めた」と述べた。(中略)

英国の先住民支援団体サバイバル・インターナショナルはウェブサイトで、ペルーで進む違法伐採によって居住区を失ったペルーの先住民がブラジルの先住民に接触し、先住民の生存が危ぶまれていると訴えている。同団体によるとブラジル領内には推定500人が暮らしている。

スティーブン・コリー代表は「国際社会は目を覚まし、国際法にのっとって彼らの居住区を保護しなければならない。さもなければ彼らは絶滅してしまうだろう」と述べた。

サバイバル・インターナショナルによると地球上には外界との接触を持たない部族が100以上暮らしている。【2008年05月31日 AFP】
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なお、“この先住民の存在は数年前から知られていたが”とありますが、実際には、その存在は1910年以来記録されているとのことです。【2008年6月22日 “Secret of the 'lost' tribe that wasn't”http://mg.co.za/article/2008-06-22-secret-of-the-lost-tribe-that-wasnt

「国際社会は目を覚まし、国際法にのっとって彼らの居住区を保護しなければならない。さもなければ彼らは絶滅してしまうだろう」・・・現在は、上記部族が暮らす地域の位置等は秘密にされているようです。

“何万年も昔と同じ生活を続けている人々がいる”というのは、間違いなく驚異的なことですし、非常に興味深いことです。

ただ、その保護のために場所も秘密にし、接触を避け、将来的には保護区を設定して絶滅を避ける・・・・という話には、“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”も感じます。

もし、対象が動物・植物であれば、絶滅危惧種の保存ということで、そのような措置で何ら問題でしょう。
しかし、驚異的な生活様式を持つ「孤立部族」とは言っても、我々と同じ人間です。

“メイレレス氏は、この部族がよい状態で暮らしていることを見て安心した。食料も十分で、健康的な生活を送っているようだ。”・・・・そうでしょうか?単なるメイレレス氏の“印象”ではないでしょうか?

上空から少しばかり眺めただけで、彼らの長期的な食糧事情、ましてや健康状態までわかるでしょうか?

まあ、食料に関しては遭遇時にあっては問題なかったかもしれません。しかし食料事情は気象条件などで長期的には大きく変動します。「孤立部族」のような低生産性社会にあっては“飢餓”の危険がつきまといます。

熱帯ジャングルということで食料事情については比較的恵まれているにしても、“健康”については非常に厳しい状況が容易に想像できます。

上空から目視された人々が“健康的な生活を送っているよう”に見えたのは、そうでない人々はみな死んでしまうからに他ならないでしょう。

乳児死亡率はどうでしょうか?怪我・病気の生存率はどうでしょうか?
おそらく、現代文明社会なら助かる命が、あっけなく失われている社会が「孤立部族」社会でしょう。

もし我々の社会の中に、宗教的、あるいは何らかの事情によって文明を完全に拒否し、助かる命も失われるにかませる、教育といったことも全く行わない、原始生活を送る人々が存在したら、我々は彼らを好意的に遇するでしょうか?(アーミッシュのような自給自足生活を送る人々は現実に存在しますが、もっと完全な孤立・原始生活を行う集団を今想定しています)

恐らく人権保護団体は、少なくとも子供たちはそういう集団から救い出すべきだと、当局に対応を求めるでしょう。

しかし、そういう完全な孤立・原始生活を行う集団が「孤立部族」という絶滅が危惧される人々の場合には、逆に接触が禁じられて“孤立状態”が保護される・・・・結果的に健康・衛生も教育も何ら問題にされない。

「孤立部族」は人間ではないのでしょうか?絶滅危惧種の鳥や獣と同じ扱いでいいのでしょうか?・・・・と言うと棘がありますが、“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”というのは、そういう話です。

前出“Secret of the 'lost' tribe that wasn't”において、メイレレス氏は「たとえ拷問を受けても、彼ら部族の居場所は教えない。いつ外界との接触を望むかは、私でもほかの誰でもなく、彼らが決めることだ」と語っています。

しかし、外界に関する詳しい情報を持たない彼らがどのようにして判断できるのでしょうか?
単に、外界を本能的に“敵”として避けているだけではないでしょうか?

そうやって外界を避け続ける間にも、助かる命が失われていくのは、彼らの判断・選択の結果でやむを得ないことでしょうか?

外界と接触すれば、おそらく現在の生活様式は失われるでしょう。
例え、朝になったら伝統的な衣服に着替えて“村に出勤”し、観光客相手に槍や弓矢を見せ、素朴な昼食を作り、夕方になったら帰宅して、着替えて電子レンジで料理する・・・・そういうことになったとしても、それはそれで彼らの選択です。メイレレス氏の言い様を借りれば、「私でもほかの誰でもなく、彼らが決めることだ」ということです。

快適な生活を送りたい、安全な生活を送りたい、うまいものも食べたい、酒を飲みたい・・・それらは我々と同じ人間である以上、等しく保護されるべき権利ではないでしょうか?

そうした権利を与えることなく、珍奇な“絶滅危惧種”として保護したいというのは、彼らを同じ人間として見ていないことになるのではないか?・・・というのが“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”です。

彼らが安心して暮らせる環境を保護したいという、メイレレス氏ら関係者の「孤立部族」を支援する心情・熱意を疑う考えは毛頭ありませんが・・・。
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イギリスEU離脱 深まる国民分断 定まらない方向 注目される今月予定の最高裁判断

2017-01-03 22:54:33 | 欧州情勢

(首相就任が決定し、夫のフィリップ氏にキスされるテリーザ・メイ氏(2016年7月11日撮影)。【2016年7月12日 AFP】 これほど困難が予想される時期に敢えて“火中の栗を拾おうとする”のですから、よほど志の高い方なのでしょう。凡人には想像できません。)

現在も英国内ではEU離脱支持派が優勢 ただ、経済的困難への認識も広まる
今年の世界政治・経済のアジェンダで重要なものにイギリスのEU離脱(ブレグジット)手続き開始があります。
今年3月末までにEUへの正式な通告が行われ、離脱交渉が始まるとされています。

昨年6月野国民投票で示された“EU離脱支持”という結果については、イギリスは自らにとって厳しい道を選択したのでは・・・という見方が多くあり、投票後には、離脱支持派による“甘い期待”も明らかになってはいますが、少なくとも現時点では、国民世論は当時と大きくは変化していないとの調査結果もあるようです。

****英国民、現時点でもEU離脱支持が多数派 世論調査****
国民投票から半年後の現在も、英国内ではEU離脱支持派が優勢
ロンドン(CNN) 英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票から6カ月がたった今でも、離脱を支持する人が残留派を上回っていることが、CNNと英調査会社コムレスによる共同世論調査で明らかになった。

19日に発表された調査結果によると、現時点で国民投票が実施された場合、離脱に投票すると答えた人は47%に上り、残留派の45%を上回った。

6月の国民投票では52%対48%で離脱派が多数を占めていた。離脱決定を受けて通貨ポンドが急落し、明確な道筋を打ち出せない政府に批判が集中するなかでも、国民の意見は変わっていないことが分かった。

調査結果からは、英国の有権者が個人的な経済状況とは無関係に離脱を選択していることがうかがえる。EUから離脱した結果、家計が改善すると予想している人は24%にとどまったのに対し、44%は悪化するだろうと答えた。

ただ、英経済の長期的な見通しについては、離脱したほうが良くなると答えた人が47%を占め、悪くなるとみる36%を上回った。

長年の懸案となっている移民の流入については、離脱すれば減るだろうと答えた人が55%。離脱しても変わらないとの回答は32%だった。

高齢者と若者の回答にははっきりとした差があり、若者は離脱による経済的な影響を不安視する傾向が強かった。離脱を支持する人の割合は18~24歳で16%にとどまったのに対し、65歳以上では62%を占めた。

残留派が主張する国民投票のやり直しについては、反対意見が53%と半数を超え、実施するべきだという意見は35%だった。

調査は今月15~18日、イングランド、ウェールズ、スコットランドで18歳以上の英国の成人2048人を対象にオンラインで実施された。
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国民投票のやり直しについても、その必要はないとの考えが多数のようです。

もっとも、世論調査の信頼性については、アメリカの大統領選挙を受けてかなり揺らいでいるところがありますので、“2048人を対象にオンラインで実施された”という上記調査がどれほど信頼に値するのかは知りません。

国民世論は依然として離脱支持にあるとしても、どういう条件で離脱して、その結果どういう影響が出るのか誰もわからない、各自が都合のいいように“夢想”している現段階での話ですので、今後離脱手続きが動き出し、そのあたりが見えてくると、また異なる話も出てくるのかも。

上記調査でも“家計が改善すると予想している人は24%にとどまったのに対し、44%は悪化するだろうと答えた”ともあるように、現時点においても、経済的にはかなり苦しくなるのでは・・・という見方が増えているとも言われています。

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・・・しかし、今はマスコミなどでもEUから離脱した時に及ぼすマイナス影響が十分に報道されて、多くの国民は英国のプライドよりも経済を優先するようになっていると言われている。

実際に、イプソス・モリ世論調査では<経済優先支持者が49%、一方で移民の入国に反対しBrexitを支持者が39%>という結果が出ているのである。

そして、<EUから離脱した方が生活レベルは良くなると答えた者は24%で、逆に悪くなると答えた者は49%>という結果が出ている。【2016年12月1日 白石和幸氏 libedoor’ NEWS】
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【“甘い期待”を否定するEU 英国内で深まる分断
現在議論の焦点となっているのは、離脱するしても、EUからの移民の制限を優先する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」と、移民制限を諦め単一市場を優先する「ソフト・ブレグジット(柔軟な離脱)」のどちらを選ぶのかという問題です。

少なくとも、EU側は「EU単一市場に参加するためには、(人、モノ、資本、サービスの移動という)四つの自由の受け入れが必要だ」という姿勢は崩しておらず、単一市場にアクセスしながらも移民は制限するという“甘い期待”が受け入れられる余地はないとされています。

一般国民だけでなく、離脱反対派から支持派に転じたメイ首相自身にも“甘い期待”があったようです。

****英首相を悩ませるブレグジットの袋小路****
イギリスのメイ首相は16年11月末にドイツのメルケル首相と会談したが、その後は「気持ちを整理するのにしばらく時間が必要だった」と報じられた。
 
メイはイギリスのEU離脱(ブレグジット)交渉を正式に始める前の「事前交渉」を持ち掛けた。
ブレグジット後もイギリス国内で暮らすEU市民の残留と就労を認める代わりに、EU加盟国内で現在暮らしているイギリス国民にも同等の権利を認めてほしいと打診した。

だがメルケルはそれをきっぱり断ったという。

国民投票を終えた直後のイギリスには、傲慢さや高揚感があった。だがその後、ブレグジットに対するEUの反応を政府が「完全に読み違えていた」ことが露呈しつつある。(後略)【1月3日号 Newsweek日本語版】
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一時は「ハード・ブレグジット」に傾いたとも言われていたメイ首相ですが、国論が分断された状態にあって、なかなか簡単には決められない問題です。

****離脱の方向性で国論分裂=EU側は準備着々―英国民投票から半年****
英国が6月23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めて、半年が過ぎた。来年3月末までにEUへの正式な通告が行われ、離脱交渉が始まる。

だが、離脱に伴う移民制限などに関する政府の方針は依然不透明で、その方向性をめぐり国論や議会も分裂。かじ取りを担うメイ首相は、難しい立場に置かれている。
 
7月の就任以来、慎重な対応に終始してきたメイ首相は、いまだ基本的な方向性を示していない。焦点は、EU単一市場参加の経済メリットを捨ててでも国民の反発が大きいEUからの移民の制限を優先する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」と、移民制限を諦め単一市場を優先する「ソフト・ブレグジット(柔軟な離脱)」のどちらに向かうかだ。
 
世論調査分析の第一人者、ストラスクライド大のジョン・カーティス教授は、各種調査を総合して45%が「ソフト」、41%が「ハード」をそれぞれ支持していると推定。

その上で「国民投票前と同程度に国が分裂している中で、過半数の有権者に歓迎される離脱協定を確保するのは容易ではない」と、交渉の難しさを指摘する。メイ政権は「ハード」路線とみられたが、最近になって妥協姿勢も見せ始めている。
 
メイ氏にとって誤算だったのは、11月に高等法院が出した「離脱通告には議会の承認が必要」との判断。これを来年1月に予定される最高裁判決が支持した場合、政府は独自の権限で離脱を通告することができなくなり、「ソフト」派が優勢の議会から交渉方針に干渉されたり、議会での審理が長期化して交渉開始が遅れたりする恐れが強まる。
 
一方、EU側は離脱通告に向けた準備を着々と整え、圧力を強めている。欧州委員会の英離脱交渉責任者を務めるバルニエ氏は今月6日、交渉を実質1年半で完了させたいとの意向を示し、英国による「いいとこ取りは選択肢にない」と強調した。
 
また、英国を除くEU27カ国首脳は15日の夕食会で、首脳会議が交渉の指針を定め、欧州委が交渉を主導するという役割を明確にした。

ただ、夕食会でまとめられた声明で、交渉への積極的関与を求めていた欧州議会に関し「定期的に情報提供する」との言及にとどまったことで議会側が反発するなど、EUとしての一枚岩の対応に課題を残している。【2016年12月23日 時事】
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国論の分断という点では、単にEU離脱にとどまらず、残留派と離脱派の間には多くの対立が生じているようです。
“離脱派と残留派の有権者は、死刑制度から環境保護までほぼすべての問題について対立している。ネット上で
のやりとりを見ると、双方が互いを心から嫌悪しているのは明らかだ。”【1月3日号 Newsweek日本語版】

民意を問うという“民主的な”国民投票は、国民の間で深刻な亀裂が深まるという結果にもなっています。

最高裁判断次第ではスケジュールに大きな変更も 結果、次回総選挙で再度民意を問う機会も
こうした分断状態にあって、メイ首相は新年に向けたビデオメッセージで「国民の団結」を呼びかけています。

****残留派に離脱支持求める=対EU交渉向け、国民の団結促す―英首相****
メイ英首相は12月31日、新年に向けたビデオメッセージを発表した。首相は欧州連合(EU)離脱が決まった昨年6月の国民投票について「わが国に幾分大きな分断をもたらした。新年は、普通の働く人々にとってより良い交渉結果を得るため、その壁を取り払う必要がある」と述べ、残留派は投票結果を前向きに捉え、離脱派と心を一つにして政府の対EU交渉を支えるよう訴えた。
 
首相は投票から半年が過ぎた今も結果に納得できない人々が多いことを認めた上で、「目の前にある(離脱という)好機に対し、利害や志を共有することでわれわれは一体になれるはずだ」と強調。

「離脱に投票した人々のためだけでなく、この国の全ての人のために良い成果を勝ち取るのだという思いを頭に入れ、交渉に臨む」と述べ、残留派に理解を求めた。【1月1日 時事】 
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ただ現実問題としては、“団結実現”というのも難しい話です。
特にメイ首相を悩ましているのが、上記記事にもあるように“11月に高等法院が出した「離脱通告には議会の承認が必要」との判断”です。

流れによっては“優勢の議会から交渉方針に干渉されたり、議会での審理が長期化して交渉開始が遅れたりする恐れ”が出てきますが、とりわけ上院がメイ首相の意向に反する可能性があるようで、“団結”とは言いつつも、閣僚からはそうした上院に対する“恫喝”まがいの発言も出ています。

****メイ英首相、Brexit妨害の場合、貴族院を廃止か****
英国の閣僚がメイ首相に、貴族院が英国のEU離脱(Brexit)を妨害した場合、断固たる措置を取るように提言した。英タブロイド紙The Daily Mailが報じた。

内閣は、貴族院の大多数を占める離脱反対派による厳しい反対に対して、政府は準備ができていなければならないと考えている。

同紙は「上院は、英国のEU離脱の途上に立ち邪魔をした場合に彼らを待つものは、実存的危機だと、認識する必要がある」と匿名の英国の大臣の発言を引用した。

そのような「危機」としては、上院の廃止ないし上院議員の数と上院の権限の大幅な削減という改革がありえる。

このプランが検討されているのは、最高裁判所でBrexitの件が検討されていることを受けてのことだと、同紙は付け加える。加盟国のEU離脱についてのリスボン条約50条は、英国議会両院の同意を得てのみ有効になりうるとの判決がなされると見られている。

先に英国のエリザベス女王はテレサ・メイ首相との会談で首相がEU離脱の計画を教えてくれなかったことに「失望した」といった。【1月2日 SPUTNIK】
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いくらなんでも世界に冠たるイギリス議会政治を揺るがす“上院廃止”はないでしょう。ただ、そうした発言・記事が出るほどにメイ首相が追い込まれている・・・という風には見えます。

なお、エリザベス女王云々の真偽はわかりませんが、“計画を教えてくれなかった”とは言われても、そもそもメイ首相自身の“計画”が定まっていないのが実情でしょう。

なお、国民投票やり直しはない、総選挙前倒しもイギリス議会制度では難しなかにあって、議会、特に上院の抵抗で離脱通告が遅れれば、通告を受けた離脱協定が成立する前に次回総選挙(2020年5月)で民意を改めて問うという可能性も出てくるようです。

****英国のEU離脱、まだ実現しない「本当の理由****
メイ首相が国民投票を覆す可能性も残る

(中略)英国はこのままEU離脱に突き進むのだろうか。それとも、国民投票の決定を覆し、EU離脱を回避する可能性はあるのだろうか。そのヒントは冒頭で述べた、国民投票の問いかけにある。

国民はEU残留か離脱かのみを単純に選択するもので、どのような条件で離脱するのかは何も示していなかった。その点を突き、下院の解散か、再度の国民投票が行われたら、離脱回避の民意が示されるかもしれない。

しかしメイ政権は、再国民投票の可能性を否定している。
また現行の選挙法では、次の総選挙は2020年5月。内閣不信任決議案が可決するか(議員の過半数で成立)、あるいは全議員の3分の2以上の多数決で決定する場合を除き、早期解散はできない。

もしもメイ首相が今年3月末に離脱通告を行うと、2年間の交渉期限は2019年3月中までとなり、離脱協定が成立しなくても英国のEU離脱が決まってしまう。

離脱通告を遅らせれば、総選挙で民意を問える
しかし、である。少なくとも2018年5月まで離脱通告を遅らせるならば、次期総選挙で離脱条件の民意を問うことができる。

そこで重要な意味を持つのが、昨年11月の英高等法院がミラー判決において、離脱通告には「議会の承認が必要」とされるとしたこと。

この判断が最高裁判所でも維持されれば、メイ首相がEUに離脱通告するには、上下両院の承認を待たなければならない。上下両院の意思が食い違う場合、下院の意思が優越するものの、上院(貴族院)は1年間だけ、法案の通過を遅らせることができる。

上院の多数派はEU残留派とも言われている。つまり、仮に議会の承認が当初の予定より大幅に遅れるならば、次の総選挙で今度こそ”離脱条件”が争点となり、民意がEU残留にシフトする可能性もまだ残されているのだ。

いずれにせよ英国は、未知の領域に踏み出すことになる。2017年3月末までにメイ首相が実際にEUに対し離脱通告するのかどうか。英国でもう一度「まさか」が起こるかもしれない。【1月3日 庄司 克宏氏 東洋経済online】
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ただ、離脱通告を行った後で、離脱協定(交渉期間は原則2年 ただ、双方の議会批准に半年程度かかるため実質的な交渉期間は1年半)が成立する前に“(次回総選挙の民意を受けて)離脱を撤回する”というのは可能なのでしょうか?

そういう話もなく、離脱の方向で進んだ場合も、離脱協定が成立した後の通商枠組み決定には相当の年月を要するという問題があります。EUとカナダの自由貿易協定の交渉には7年を要しています。

“交渉は、あらゆるEU法規から英国が離脱し、英EU間で通商分野など新たな関係を構築するという2段階で進められる。しかし、通商関係の構築は英国だけでなく、EU27カ国の思惑が絡み合うため、難航が予想されている。EU外交筋によると、加盟国の間ではEU市場に依拠する企業に与える影響を緩和するための経過措置が必要との認識が広がっている。”【2016年12月22日 毎日】

まあ、前例のない未知の領域ですから、何が今後起こるのかわかりません。
とりあえずは、今月中にも出される予定の「離脱通告には議会の承認が必要」かどうかに関する最高裁判断が注目されます。



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ナイジェリア  注意を要する情報「プラスチック米」「ボコ・ハラム敗走」 確かなテロ頻発と飢餓

2017-01-02 22:35:58 | アフリカ

(ナイジェリアとの国境付近にあるチャド・バガソラの難民キャンプで米を炊くナイジェリアの難民 【2016年12月22日 AFP】)

不確かな情報 「プラスチック米」の真相は
インターネット上の虚偽ニュース「フェイク」が実際の出来事に影響を与えたとされる事例がここ数カ月で相次ぎ、アメリカ大統領選挙でもトランプ氏に有利に働いたとも言われています。

年末にも、イスラエルが核攻撃を仕掛けるという偽のニュースを信じたパキスタンの国防相が、ツイッターに報復攻撃を示唆するメッセージを投稿するという、笑えない物騒な出来事も起こりました。

もとより、ネット上だけでなく、すべての情報は“真偽のほどが定かでない”危険性を有しており、例えば、シリア内戦の悲惨さを伝える情報・画像などにも、意図的に捏造されたものも少なくないとされています。

そうした意図的な「フェイク」ではないものの、曖昧さ・不確かさがつきまとうというのはすべての情報に言えることであり、情報の信頼性には注意が必要です。

昨年末に、西アフリカ・ナイジェリアに関して、中国からプラスチック製の偽米が密輸されたとのニュースがありました。

****中国から密輸の「プラスチック米」102袋押収、ナイジェリア****
クリスマスから新年にかけての大型連休を前に主食のコメの価格が急騰しているナイジェリアの当局は21日、中国から密輸されたプラスチック製の偽米、計102袋を押収し、容疑者1人を逮捕したと発表した。問題の「プラスチック米」を食べるのは人体に有害だと警鐘を鳴らしている。
 
匿名でAFPの取材に応じた同国最大都市ラゴスの税関幹部によると、この「プラスチック米」は19日にラゴス州イケジャで押収された。中国から海路でラゴスに密輸されたとみられるという。
 
プラスチック米が50キロ入った袋には「ベスト・トマト・ライス」との商品名が記載されていたが、製造年月日は明記されていなかった。
 
イケジャ地区の税関責任者モハメド・ハルナ氏は、押収したプラスチック米を分析した結果について「炊くと、のり状になった。人が食べたらどうなるのかは、神のみぞ知ることだ」と話したという。
 
ナイジェリアは主食であるコメの生産増をかかげ、外国産米の輸入を禁じている。しかし、国内では急速に進むインフレの影響でコメ価格が急騰。コメ50キロの店頭価格は約2万ナイラ(約7500円)と、1年前の2倍以上に跳ね上がった。11月のインフレ率は、高騰する食料価格に押し上げられて18.5%に達し、13か月連続で上昇している。【2016年12月22日 AFP】
*******************

とかく品質・安全性が問題となる中国からの密輸品ということで、「やる、やるとは聞いていたけど、実際やるもんだね・・・」とあきれてしまったのですが、どうもこれも誤報だったようです。

****ナイジェリアの「プラスチック米」、実は「食用不適の汚染米****
ナイジェリアのラゴス州で押収され、プラスチック製の偽米とされていた102袋の中身は本物のコメだったことが分かった。しかし微生物に汚染されており人の食用には適さないという。ナイジェリア当局が30日、明らかにした。
 
ナイジェリアの食品医薬品管理局(NAFDAC)によると、分析の結果、押収されたコメはプラスチック製ではないと判明したが、微生物による汚染が人の食用にできる許容限度を超えていた。
 
当局によると、この他にもナイジェリア市場向けの「消費期限切れの危険な米」が数トン、近隣諸国の倉庫に存在しているという。食用に適さないコメがナイジェリアの食卓に上ることが絶対にないよう、税関は「監視を強化する」意向だ。(後略)【2016年12月31日 AFP】
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許容限度を超えた“汚染米”が、どうして“プラスチック米”として報じられたのか・・・わかりません。

「消費期限切れの危険な米」のナイジェリア国内流通という話は、安全管理が十分とは思えないナイジェリアにあっては、おそらくごく普通に見られる事象なのでは・・・とも思えます。それはそれで、重大な問題です。

また、そうしたことの背景にある食料価格上昇も。

政府側、ボコ・ハラム どちらがプロパガンダ?】
一方、「フェイク」とか「誤報」ではないものの、戦果を過大に報じることもある「政府発表」などには充分に注意する必要があります。

****ナイジェリア軍、過激派ボコ・ハラムの「最後の拠点」制圧****
アフリカ西部ナイジェリアのブハリ大統領は24日、同国北東部ボルノ州の軍事作戦でイスラム過激派「ボコ・ハラム」がサンビサ森林地帯に築いていた主要拠点の野営地を制圧したと発表した。

軍部隊の掃討作戦は23日未明に実施。同大統領はフェイスブックで、攻略した「キャンプ・ゼロ」はボコ・ハラムの最後の拠点と強調し、同組織戦闘員が隠れ潜む場所はもはやないと述べた。

キャンプ・ゼロの攻略はボコ・ハラム掃討作戦の最終段階での成果であるとも強調した。ナイジェリア軍当局者はCNNに、サンビサ森林地帯や周辺地域での掃討作戦は今後も続くと述べた。

ボコ・ハラムは2014年4月、ボルノ州チボックの全寮制の学校を襲い、推定で276人の女子生徒を拉致していたが、依然解放されていない生徒の一部は同森林地帯近辺で拘束されているともみられる。

拉致された生徒のうち最多で57人が14年に脱走に成功。別の1人は今年5月に発見されていた。ボコ・ハラムは同10月、女子生徒21人を当局に引き渡してもいた。同組織が拉致した少女や女性を大量に解放するのは初めてだった。ただ、女子生徒ら200人以下の消息は依然わかっていない。

欧米流の教育を否定するボコ・ハラムは、イスラム教預言者ムハンマドの代理人を意味するカリフを頂点とする国家樹立を目指し、ナイジェリアなどでテロ活動を長年続けている。

国連は今月、この紛争の影響で同国北東部の住民850万人が緊急な人道支援が必要な状況に追い込まれているとする報告書を公表していた。【2016年12月25日 CNN】
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女子生徒拉致など、残虐行為を繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」が軍事的に、北東部ボルノ州森林地帯に追い詰められている・・・というのは、かねてより報じられているところです。

そして、ついに“「最後の拠点」制圧”ということであれば、非常に喜ばしいことです。
ブハリ大統領は「ボコ・ハラムが最後の拠点とされるサンビサ森林地帯から敗走した」とも主張しているようです。

ただ、ボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウ容疑者は、「敗走」を否定しています。

****ボコ・ハラム指導者が動画、ナイジェリア大統領の「敗走」主張を否定****
ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムの指導者で今も潜伏を続けているアブバカル・シェカウ容疑者が29日、動画でメッセージを発表し、同組織が、最後の拠点とされるサンビサ森林地帯から敗走したという同国のムハマドゥ・ブハリ大統領の主張を否定した。
 
25分間の動画の中で、覆面姿の戦闘員らを従えたシェカウ容疑者は「われわれは無事だ。われわれはどこからも追い出されてはいない。アラーのおぼしめしのない限り、どんな戦術や戦略でもわれわれの居場所はつかめない」と豪語している。
 
シェカウ容疑者は、ボコ・ハラムがサンビサ森林地帯から敗走したとクリスマスイブの24日に述べたブハリ大統領に対し「国民にうそをつくな」と言って非難し、「われわれを本当に鎮圧したというなら、この動画の私をどう捉える? でっち上げの発表で私たちを何度殺した?」と問い掛けた。
 
一方、ナイジェリア軍はこの動画はプロパガンダにすぎないとの簡潔な声明を発表した。
 
動画の撮影地は今のところ不明だが、シェカウ容疑者はハウサ語とアラビア語で撮影日はクリスマスの25日だと述べた。【2016年12月30日 AFP】
*********************

おそらく、政府軍による掃討作戦で相当なダメージをボコ・ハラムに与えているのは事実でしょう。ただし、まだ“一掃する”ところまでは至っていない・・・というところでしょうか。

政府発表とボコ・ハラム発表のどちらが“プロパガンダ”なのか・・・よくわかりません。

なお、今回の政府軍による掃討作戦の成果として、“市民1880人を救出”したとも報じられています。

****ナイジェリア軍、ボコ・ハラムの拠点から市民1880人を救出****
ナイジェリア軍は、同国北東部にあるイスラム過激派組織ボコ・ハラムの拠点から過去1週間で市民1880人を救出し、同組織の構成員数百人を拘束した。軍の司令官が21日、明らかにした。
 
救出作戦が行われたのは約1300平方キロに及ぶサンビサ森林地帯。
 
軍司令官は声明で、今月14~21日に実施した作戦で一般市民1880人を救出したと発表。「ボコ・ハラムのテロリスト564人が拘束され、19人が投稿した。さらに拉致容疑者7人と外国人37人も拘束された」と明らかにした。
 
今回の作戦はボコ・ハラムの拠点を一掃するべく昨年開始した軍事作戦の一環。司令官によると、同組織の戦闘員数人を殺害した他、武器や弾薬の貯蔵所も発見した。
 
さらに隣国のカメルーンでも女性や子どもを含む数百人が解放されたという。その中からイスラム過激派の容疑者8人が特定され、身柄を拘束された。
 
ボコ・ハラムは2009年以来、少なくとも2万人の死亡に関与。2014年には女子生徒200人以上を拉致した。また約260万人が家を追われ、人道危機が生じている。【2016年12月22日 AFP】
****************

救出された1880人もの大量の住民がどのような状態にあったのか・・・そこらあたりはわかりません。

拉致少女を自爆犯に・・・相次ぐ悲惨なテロ
ボコ・ハラムによるテロは相変わらず続いているようです。

****10歳前後の少女が大みそかに自爆攻撃、1人重傷 ナイジェリア****
ナイジェリア北東部の町マイドゥグリで、大みそかに10歳前後の少女1人が自爆する事件が発生し、1人が重傷を負った。複数の目撃者や救急隊員が1日、AFPに語った。
 
12月31日午前9時30分(日本時間同日午後5時30分)ごろ、同市税関地区で屋台の麺類を買おうとしていた人混みに少女が近づき、爆発物を起爆させた。
 
犯行声明は出ていないが、イスラム過激派組織ボコ・ハラムの特徴として知られる、女性や少女を用いた自爆攻撃で民間人を標的にする手口だという。
 
現場近くに住む目撃者は「少女は人混みに向かって歩いていたが、標的にたどり着く前に自爆した」と述べ、「少女は即死し、破片が当たった男性1人が重傷を負った」と説明した。また遺体を見たところ、自爆したのは10歳前後の少女だったという。
 
ボルノ州警察の報道官は、同じく自爆しようとしていた別の少女が捕らえられ、怒った群衆にリンチされたと述べている。この少女が携行していた爆発物は、治安部隊によって安全に爆破処理されたという。【1月2日 AFP】
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テロはすべて忌まわしいものではありますが、特にボコ・ハラムによるテロは、拉致した少女を自爆犯として利用することが多いという点で、忌まわしさも格別です。

ナイジェリアでは、12月9日に北東部の町マダガリで女性の自爆により45人が死亡、33人が負傷する事件があり、更に11日には同様の自爆テロが北東部の町マイドゥグリでも起きています。

マイドゥグリでの自爆犯は“7、8歳とみられる少女2人”だったそうです。

****ナイジェリアで「7、8歳」の少女2人が自爆、17人負傷****
ナイジェリア北東部の町マイドゥグリの市場で11日、7、8歳とみられる少女2人が自爆し、17人が負傷した。複数の目撃者が語った。
 
地元の兵士がAFPに語ったところによると、少女たちは「7、8歳に見えた」という。この兵士はさらに「2人は三輪自動車から降りて、まったく感情のない表情で私の目の前を歩いていった。英語とハウサ語で1人に話しかけたが、返事はなかった。少女は鶏肉を売る店に向かいそこで自爆した」と話した。
 
現場に到着した救急隊によると、爆発で重傷を含め17人が負傷したという。
 
マイドゥグリはイスラム過激派組織ボコ・ハラム(Boko Haram)による反乱の中心地となっている。事件に関する犯行声明はこれまでのところ出されていないが、女性や少女を利用した自爆攻撃を頻繁に行うボコ・ハラムの特徴を示している。
 
9日には同じ北東部の町マダガリの混雑した市場で、女2人が自爆して45人が死亡、33人が負傷している。【2016年12月11日 AFP】
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“まったく感情のない表情で私の目の前を歩いていった”・・・・どういう形で自爆犯に仕立てられたのか・・・痛ましい限りです。

あまりに自爆テロが頻発しており、どの事件のことだか定かではありませんが、“自爆しようとしていた別の少女が捕らえられ、怒った群衆にリンチされた”【1月2日 AFP】というのは、上記11日の自爆テロのことではないでしょうか。

爆弾として利用された少女が群衆のリンチにあって死亡する・・・なんとも言いようのない後味の悪い出来事です。

“ナイジェリア北東部の中心都市マイドゥグリで月曜、女性2人が家畜市場で自爆テロを計画した。うち1人は爆発装置を作動させることができたが、もう1人の爆発装置は作動しなかった。これを見た群衆が女性テロリストを打ちのめし、テロリストは死亡した。”【2016年12月27日 SPUTNIK】

12月11日は日曜日ですが・・・もう、そのあたりはよくわかりません。

【“「数か月以内に」7万5000人の子どもが死亡する”との国連警告からひと月半が経過
ナイジェリアについては、下記の「幽霊公務員」に関するニュースも。
ナイジェリアにとって非常に結構な話ではありますが、5万人もの「幽霊職員」が存在したこと自体にナイジェリア社会の“杜撰さ”が窺われ、そこから発信される諸々の情報についても注意が必要なことも認識されます。

****ナイジェリア、「幽霊公務員」5万人削減 775億円を節約****
ナイジェリアの大統領府は27日、公務員の給与支払名簿から5万人の「幽霊職員」を今年削除し、約6億3000万ユーロ(約775億円)の経費を削減したと発表した。
 
大統領府によると、今回の件に関して11人が取り調べを受け、その一部は裁判にかけられたという。昨年就任したナイジェリアのムハマドゥ・ブハリ大統領は、同国でまん延する汚職の撲滅を公約に掲げていた。
 
大統領府の報道官は「連邦政府は、幽霊職員5万人が給与支払名簿から削除され、2000億ナイラという巨額の支出が削減された」とし、「不正なシステムを取り除き、好ましいガバナンスを根付かせるという、ムハマドゥ・ブハリ政権の看板政策は順調に進んでいる」と述べた。
 
ナイジェリア政府は先週、汚職に関する情報提供者には、政府が回収した資金の2.5%~5%を得る資格を与えると発表している。【2016年12月28日 AFP】
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ブハリ大統領のもとで、「ボコ・ハラム」掃討作戦が一定に進み、腐敗・汚職是正の試みも行われているようですが、「ボコ・ハラム」との戦いのなかで生じた飢餓は依然として深刻な事態にあります。

****ナイジェリアの子ども7万5000人、数か月内に死亡の危機 国連****
国連は15日、イスラム過激派組織ボコ・ハラムの反乱の影響で飢餓が広がっているナイジェリア北東部で、7万5000人の子どもが数か月以内に死亡する危機にさらされていると警告した。

ボコ・ハラムは2009年に政府に対する武装闘争を開始して以来、貧困にあえぐ北東部を荒廃させ、何百万もの人が家を追われ、農業や商業も破壊された。
 
ナイジェリアのムハマドゥ・ブハリ大統領は、ボコ・ハラムの支配地域を奪還したが、同組織の反乱によってこれまでに2万人以上が命を落とし、260万人が住居を失い、飢餓が深刻化している。
 
国連のピーター・ランドバーグ人道支援調整官は同国首都アブジャで記者団に対し、危機が「急速に」広がっていると述べ、2017年までに「1400万人が人道支援を必要とするとみられる」と語った。
 
さらに、そのうち40万人の子どもが緊急支援を必要としており、「数か月以内に」7万5000人の子どもが死亡する危険があると、ルンドバーグ氏は指摘した。【2016年11月16日 AFP】
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“7万5000人”という数字はともかく、深刻な事態にあるのは、残念ながら「フェイク」でも「誤報」でもない事実でしょう。
“数か月以内に死亡する”とのことですが、上記の国連警告からすでにひと月半が経過しています。
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