孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モルドバ  ロシアの介入もあるなかで、新欧米路線の現職大統領再選、RU加盟加盟支持か

2024-10-19 22:03:32 | 欧州情勢

(2024年10月10日、キシナウにて欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(左)とモルドバのマイア・サンドゥ大統領)

【モルドバの今後の方向を決める大統領選挙および国民投票】
ロシアとEU・欧米の間で揺れる旧ソ連の国のひとつがモルドバですが、そのモルドバの今後の方向をきめる大統領選挙およびEU加盟の是非を問う国民投票が20日に行われます。

その件については、下記のように10月4日ブログ“ジョージアそしてモルドバ  ロシアと欧米の間で揺れる ロシアの周辺に位置する国々”でも取り上げました。

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【ロシアの選挙介入を警戒するモルドバ】
“ロシアの周辺に位置する他の国々”のひとつがやはり旧ソ連のモルドバですが、モルドバもロシアと欧米の間で揺れています。

****ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
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モルドバはロシアのウクライナ侵攻後の2022年6月にEUの加盟候補国となりましたが、ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシアとも言われ、国内に抱える親ロシアの未承認国家「沿ドニエストル」にはロシア軍が駐留しています。

アメリカも、ロシアがウクライナ周辺などの諸外国で、親ロシア候補への間接的な資金提供やネット上の世論操作を通じ、選挙に介入しようとしてきたと分析しており、民主主義を弱体化させることを警戒しています。

サンドゥ大統領が危機感を深める背景には、強まるロシアの揺さぶりがあります。

ウクライナ侵攻後、ロシアはモルドバへの天然ガスの供給を大幅に削減。ガス料金は6倍、電気料金は3倍に上昇し、世論調査では、半数がサンドゥ政権で経済が悪化したと回答しています。

プロパガンダ対策でロシア語のニュース報道などを禁止した政権に対し、「強権主義」との批判も出ています。

サンドゥ大統領の支持率は30%台で圧倒的ですが、1回目の投票で過半数を獲得して当選を決めないと、決選投票で野党が連合すれば負ける可能性もあります。

また、国民の多くはEU加盟に賛成とみられていますが、政権への不満が高まれば、投票率が下がり国民投票が成立しない恐れもあります。
10月4日ブログから再録
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投票日を明日に控えた今も状況は変わっていません。

基本的には親EU路線のサンドゥ氏が優勢ですが、“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という状況、ロシア語を話す国民が少なくないなかで、ロシア語のニュースや公的な場面での使用が禁止・制限されているということへの不満、ロシアと敵対することでロシアの圧力を受けてガスなどの物価が高騰していること・・・といった状況から、必ずしも全国民が親EU・欧米という訳でもありません。

そしてロシアの介入も。

*****モルドバ、親欧米路線問う選挙 投票まで1週間、ロシアの介入も****
ウクライナに隣接する旧ソ連構成国モルドバで20日、欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票と大統領選が実施される。歴史的にロシアの影響を色濃く受けるモルドバが、EU加盟に向けた親欧米路線を決定付けられるかどうかが焦点となる。

世論調査では加盟支持が多数派で、親欧米の現職サンドゥ大統領が優勢。加盟阻止を狙うロシア側は、大規模な買収を行い選挙介入を図っているもようだ。
 
モルドバと加盟交渉を開始したEUはフォンデアライエン欧州委員長が10日に首都キシナウを訪れサンドゥ氏と会談。記者会見で「モルドバの居場所はEUにある」と連帯を示した。
 
サンドゥ氏は2020年の就任以降、親欧米路線を維持している。22年のロシアによるウクライナ侵攻後には多数の避難民がモルドバに滞在し、サンドゥ氏はプーチン政権批判を強めた。
 
大統領選には11人が乱立し、得票が誰も過半数に届かなければ、決選投票となる。世論調査ではサンドゥ氏が36%の支持率で独走しており、11月3日の決選投票にもつれ込むかは微妙な情勢だ。【10月13日 共同】
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【ロシアの選挙介入・情報工作】
ロシアの介入については、以下のようにも。

****モルドバ当局、ロシアで争乱訓練察知 大統領選など妨害目的か****
モルドバの警察当局は17日、ロシアでモルドバ人数百人に暴動や騒乱の訓練を受けさせる計画を察知したと発表した。

大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシアによる介入疑惑が相次ぎ浮上している。

警察は今月、ロシアが支援する犯罪集団が多数の有権者に賄賂を贈ったり、政府庁舎の占拠計画を進めたりするなど選挙妨害を企てていたと明らかにした。

ロシアは干渉を否定し、ウクライナ侵攻以後ロシアの勢力圏離脱の動きを加速させているモルドバ政権が「ロシア嫌い」をあおっていると非難した。

警察は記者会見で、亡命中の親ロ派実業家イラン・ショル氏と関係のある集団が騒乱を起こすため訓練を企画したとみていると説明。検察は「汚職対策担当が現在、犯罪組織の利益につながる大規模な騒乱準備に関連する複数の事件を捜査している」と述べた。【10月18日 ロイター】
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ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。

9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
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【事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を希望】
ロシアの情報工作、選挙介入がどこまで効果を発揮するのか・・・・最初にも述べたように、基本的には親欧米路線のサンドゥ大統領の再選、EU加盟支持の方向にあります。

****モルドバ大統領選まで1週間 親欧米路線が継続の見通し 露の介入が不安要素****
ウクライナに接する東欧の旧ソ連構成国、モルドバで20日、大統領選(任期4年)が行われる。同じ日には欧州連合(EU)加盟を国家目標として憲法に明記することの是非を問う国民投票も実施される。

モルドバでは親欧米派と親ロシア派の政治勢力による政権交代が相次いできたが、事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を望んでおり、選挙後も親欧米路線が続く公算が大きい。

親欧米派の現職がリード、EU加盟巡る国民投票も
「モルドバの未来は欧州にある。国が欧州に加わるために私は2期目を目指す」。選挙戦でサンドゥ氏はこう述べ、自身への投票を訴えてきた。

米ハーバード大大学院で公共政策を学び、モルドバ首相などを務めたサンドゥ氏は2020年の前回大統領選で親露派のドドン大統領(当時)に勝利。

エネルギー分野などでの対露依存からの脱却を図りつつ、欧州との統合政策を進めてきた。サンドゥ氏はロシアによるウクライナ侵略も強く非難。22年、モルドバの「EU加盟候補国」の地位獲得を実現させた。

国民の多くがサンドゥ氏の路線を支持しているもようだ。大統領選にはサンドゥ氏を含む計11人が候補者登録されているが、モルドバのシンクタンクが今月発表した世論調査によると、サンドゥ氏の支持率は36・1%でトップ。親露派政党の支援を受ける元モルドバ検事総長で、支持率10・1%で2位となったストイアノグロ氏に大差を付けた。

政府庁舎の占拠や大規模買収を計画か
EU加盟の是非を巡る世論調査でも、「賛成」(63・2%)が「反対」(32・4%)を上回っている。順当に行けば、サンドゥ氏の再選とEU加盟目標の憲法明記が支持される可能性が高い。

不安要素はロシアと親露派勢力の動きだ。サンドゥ氏によると、ロシアと親露派はこれまでも政権転覆を狙い、選挙干渉や反政権デモの扇動を行ってきたとされる。

モルドバ警察当局は今月、ロシアに支援された「犯罪集団」が政府庁舎の占拠を含む選挙妨害を計画していたと発表。サンドゥ氏と国民投票に反対票を投じさせるため、ロシアと親露派が1500万ドル(約22億3千億円)を投じ、13万人以上の有権者を買収しようとしたとも発表した。【10月13日 産経】
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ロシアの選挙介入・情報工作で動かせる部分はそんなに大きくはないと思いますが、親EU・欧米路線で取り残さる“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という人々の不満・不安がどの程度の数字になるのかといったあたりが注目されます。

この記事が読まれる頃には一定の結果が出ていると思いますが。

【親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押しするEU】
EUは親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押ししいています。

****モルドバが大統領選出の準備、EUは直ちに1,8億ユーロを支出****
モルドバの将来の方向性を決定する2つの重要な選挙が間もなく行われるとき、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は自らモルドバ国民に投票を呼び掛け、同時に1,8億ユーロ(1,97億3万ドル)の寄付を宣言した。(中略)

EUへの加盟を望むモルドバの願望への支持を示すため、EUの執行機関長官は10月10日にキシナウを訪問した。

サンドゥ氏との共同記者会見で、フォンデアライエン氏はモルドバ人に対し、「自由で情報に基づいた選択」を表明するために投票するよう奨励した。(中略)

「モルドバ国民は重要な節目に直面している…私はモルドバ国民が投票を活用し、自由な選択を表明することを奨励する」とフォンデアライエン氏は記者団に対し、国民投票について言及した。

モルドバは2022年6月にEU候補の地位を獲得し、今年初めにEUとの加盟交渉開始にゴーサインを与えられた。

フォンデアライエン氏は、「モルドバの立場は欧州連合内にある」とし、欧州連合への加盟は「今後10年間で国の経済を倍増させる」ことに貢献する可能性があると述べた。

EU長官によると、1,8億ユーロの資金調達パッケージは、バルティ市とカフル市での学校の修復や2つの新しい病院の建設、道路の建設などの「経済成長と公共サービスを生み出す分野」への投資に使用されるという。

フォンデアライエン氏は、モルドバ大統領の国の「欧州への道」に対するコミットメントとモルドバがEU加盟に向けて成し遂げてきた進歩についてサンドゥ氏を称賛した。

サンドゥ氏は、EUの金融支援策は「モルドバの発展可能性に対する自信の象徴」であると述べた。サンドゥ氏は、モルドバの輸出の65%がEU向けであり、「これは我が国の戦略的利益がどこにあるかを示している」と述べた。

ロシアとウクライナの紛争を強く非難するサンドゥ大統領は、モルドバのEU加盟推進を主導しており、2030年までにこの目標を達成したいと考えている。

調査によると、モルドバ大統領選挙ではサンドゥ氏が他の10人の候補者をリードしている。調査では、モルドバ人の大多数がEUへの加盟を支持していることも示されている。【10月13日 VIETNAM.VN】
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ロシアがEUと同じような資金提供を表明すれば、“ロシアの選挙介入”と言われそうですが・・・

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カナダとインド、シーク教指導者暗殺事件で激しい対立

2024-10-19 01:43:42 | 国際情勢

(ニューデリーにて2023年9月に撮影したトルドー首相とモディ首相【10月16日 ロイター】)

【シーク教指導者で対立が激しくなるインドとカナダの関係】
カナダで昨年6月、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が(カナダ側主張では)インドの工作員に暗殺される事件が起きて以来、カナダとインドの関係が互いに外交官を追放するなど、非常に悪化しています。

シーク教徒はインド国内では少数派ですが、カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがあります。

*****インドとカナダ、互いに外交トップを追放 シーク教指導者殺害めぐり対立悪化****
インドとカナダは14日、互いに外交トップらを国外追放した。カナダで昨年、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が暗殺される事件が起きて以来、両国の対立は激しく悪化している。

カナダ西部ブリティッシュコロンビア州サリーで昨年6月、シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏が、寺院の前で覆面をした2人に射殺された。同国の警察は、インドの工作員らが直接関与したとの信用度の高い疑いがあるとして、捜査を進めている。

警察は、インドの工作員らがカナダで「殺人、恐喝、暴力行為」に関わり、シーク教徒の独立国を求めるカリスタン運動の支持者らを襲撃しているとしている。

一方、インドはこの見方を「ばかげている」と全面否定。カナダのジャスティン・トルドー首相が政治的利益を目的に、同国の大規模なシーク教徒コミュニティーに迎合しているのだと非難している。また、カナダが主張を裏付ける証拠を、全く示していないと主張している。

カナダのトルドー首相は14日午後、テレビの生放送で、最新の捜査で証拠が浮上し、カナダ政府はこれを無視できず、行動を取る必要があると説明。インドについて、カナダ国内での「犯罪」行為を支援するという「根本的な誤り」を犯したと主張した。

そして、「カナダの治安を脅かし続ける犯罪行為を阻止する必要がある。だからこそ私たちは行動に出たのだ」と述べた。

カナダの連邦警察トップはこの日、捜査中の情報を公表するという異例の措置を取ると発表。「私たちの国の治安にとって重大な脅威」と理由を説明し、主にカリスタン運動の支持者らに対する「本物だと信頼できる、かつ切迫した、生命への脅迫が十数件」あるとした。また、脅迫は深刻なもので、「インド政府との対決が不可欠と感じる段階に達した」とした。

警察当局は、インドの工作員12人が犯罪行為に関与している疑いがあるとしたが、ニジャール氏殺害に直接関係したとみているのかは明らかにしなかった。

インドは怒りの声明を発表
インド外務省は同日、声明で激しい怒りを表明した。カナダの主張について、シーク教徒の分離主義者らの影響を受けているとした。

同省はその後、インド駐在のスチュワート・ロス・ウィーラー高等弁務官代理らカナダの外交官6人について、19日までにインドを出国するよう求めたと発表した。

ウィーラー氏はこの日、インド外務省に呼び出され、カナダの動きについて説明を求められた。この面会のあと、ウィーラー氏は記者団に、カナダはインドから要求されていた証拠を渡しており、インドは疑惑について調べる必要があると主張。「真相究明は、両国と両国民にとって有益なことだ」と述べた。

インド政府は、カナダ駐在のサンジャイ・クマール・ヴェルマ高等弁務官に関して、「カナダ政府からの中傷はとんでもないもので、軽蔑に値する」とした。

インド外務省は、トップの外交官を含む外交スタッフを「引き揚げる」と発表。「外国官らの安全確保に対するカナダ政府の取り組みは信頼できない。従って、インド政府は高等弁務官をはじめ、標的とされている外交官や職員らを引き揚げることを決めた」とした。

対立の経緯
インドとカナダの関係は、カナダ議会で昨年9月にトルドー首相が、ニジャール氏殺害とインドの工作員を結びつける信用度の高い証拠があると発言して以来、緊張が続いている。トルドー氏は、カナダの主権に対する侵害行為だと批判した。

これを受け、インドがカナダに対し、外交スタッフ数十人を帰国させるよう求め、カナダ人へのビザ(査証)発行を停止するなど、両国関係は悪化した。

昨年10月にインドがビザ発給を再開すると、凍りついた関係がわずかに改善したかに見えた。

しかし、カナダのメラニー・ジョリー外相は先週、インドとの関係を「緊迫している」、「非常に難しい」と表現。ニジャール氏殺害のような殺人事件がカナダで今後も起きる危険がなお存在するとした。

カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがある。シーク教徒のほとんどはインド・パンジャブ州に住み、宗教的にはインド国内で少数派となっている。【10月15日 BBC】
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【両国政権とも、国内的に苦境にあって、強硬姿勢をとることのメリットがあるという事情も】
両国首脳が双方とも強気の姿勢をとっている背景には、インドのモディ首相率いるインド人民党は先の総選挙で単独過半数を失い、カナダのトルドー首相の自由党は支持率低下に苦しんでいるというように、両国首脳とも国内的には苦しい状況にあり、今回の問題で強硬姿勢をとることで国内的には良い影響があるといった事情もあるようです。

****インドとカナダの関係悪化、両国首相には短期的に追い風か****
インドのモディ首相とカナダのトルドー首相にとって、両国の関係悪化は当面政治的なプラスに働く可能性があるとの見方を複数の専門家が示した。

カナダでインドのシーク教徒独立運動に関わった男性が昨年殺害された事件を巡り、カナダ政府は今月14日に捜査への協力を拒否したインド外交官6人の国外追放を決定。インド側も対抗措置として同国に駐在するカナダ大使代理ら6人に19日までに出国するよう要請し、外交関係がかつてないほど冷え込んだ。

カナダはインド国外で最もシーク教徒が多く、全人口の約2%を占める。近年インドでは分離独立を求めるシーク教徒のデモが相次ぎ、政府は神経をとがらせている。

こうした中で専門家の間では、インド政府による今回の対応を通じてモディ氏が国家安全保障面で毅然とした人物だとのイメージが高まるのではないかとみられている。

元インド外務次官のハーシュ・バルダン・シュリングラ氏は「国民はインド政府が先進国からの脅しや高圧的な措置に立ち向かっているとみなす。一般大衆はモディ首相と政府を強く支持するだろう」と述べた。

モディ氏が率いる与党インド人民党は今年6月の総選挙で過半数議席を失い、同氏の政治基盤は弱体化した。しかし、シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファウンデーションの外交政策責任者、ハーシュ・パント氏は、トルドー氏がインドに批判の矛先を向ければ向けるほどモディ氏にとって有利になると指摘。

インドの主権と領土の一体性を守るために立ち上がっている指導者とみなされ、モディ氏の人気維持につながると予想した。

一方、来年10月までに総選挙が行われるカナダで、与党自由党の支持率低迷に苦しんでいるトルドー氏にとっても、インドとのあつれきは党内の「トルドー降ろし」の動きから注目をそらす効果がある。

トルドー氏は今月13日、記者団に対して「党内の動きについてはまた改めて話す機会があるだろう。今は政府と全ての議員がカナダの主権のための行動や、内政干渉への反対、この難局における国民の支援に専念しなければならない」と訴えた。

自由党の少数派政権を維持する上で協力が不可欠となっている左派系野党も、インド外交官の退去措置を支持すると表明した。

ただ、トレント大のクリスティン・ド・クレルシー教授は、トルドー氏への追い風は長続きしそうにないとみている。遠くのインドとの関係という1つの事象に比べ、トルドー氏が対処すべき国内問題はずっと多く、より複雑だと指摘した。【10月16日 ロイター】
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上記のような事情もあって、トルドー首相のインド批判も激しくなっています。

****インドの主権干渉は「恐ろしい過ち」、カナダ首相が疑惑巡り批判****
カナダのトルドー首相は16日、インドのシーク教徒独立運動に関わった男性がカナダ国内で殺害された事件を巡りインド外交官の追放を決めたことを受け、カナダの主権に大胆な形で干渉できるとインドが考えたのは「恐ろしい過ち」だと述べた。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の追放を決定。国内のインド人反体制派を標的とする広範な動きがなお見られるとしている。

トルドー氏の発言は、1年にわたる論争で両国関係が最悪となる中、これまでで最も強い調子となった。

また、政府としてカナダ国民の安全確保に追加措置を講じる可能性があると述べたが、詳細は明らかにしなかった。

インドは干渉疑惑を否定し、報復としてカナダ外交官6人を追放した。【10月17日 ロイター】
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【アメリカでも未遂事件 インド・カナダのような激しい対立には至らず】
シーク教徒指導者暗殺についてはアメリカでも未遂事件があったとして、アメリカはインド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴するという対応を示しています。

****米、元インド情報当局幹部を起訴 シーク教徒独立指導者暗殺未遂で****
米司法省は17日、米国とカナダの二重国籍者であるシーク教徒独立運動指導者のグルパトワント・シン・パヌン氏を米ニューヨークで暗殺するように指示したとして、元インド情報当局幹部のビカシュ・ヤダブ被告をニューヨーク南部地区連邦地裁に起訴したと発表した。暗殺は未遂に終わった。

米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は「憲法で保証された権利を行使して米国に住んでいる人々に対する暴力行為や、他の報復行為をFBIは許さない」との声明を出した。

インドの関与を調査している同国政府の委員会関係者は15日、米首都ワシントンで米当局者らと会談した。米司法省はインド情報当局がパヌン氏の暗殺計画を指示したと主張しており、米国がインドに対して調査するよう促していた。(中略)

インドはシーク教徒独立主義者を「テロリスト」と決めつけ、治安を脅かす存在だとレッテルを貼っている。シーク教徒独立主義者はインドの一部を分離し、「カリスタン」という名の独立国を作ることを求めている。1980年代から90年代にかけての独立運動では数万人が死亡した。【10月18日 ロイター】
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ただ、インド・カナダのとげとげしい対立にくらべると、今のところインドとアメリカの関係は比較的穏やかです。

****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。

米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。

国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
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カナダとのようにインド批判が激しくならないのは、アメリカは中国包囲網のためにはインドの協力が不可欠ということで、インドに対しては宥和的ですし、大統領選挙を控えて、これ以上もめ事を抱えたくないといった思惑もあるのかも。

【カナダ 中国とも追加関税で対立】
なお、カナダは中国とも、中国製品に対する追加関税をめぐり対立しています。

****中国 カナダの追加関税に「差別的」として調査開始 さらなる対抗措置検討か****
中国商務省は、カナダが中国製品に対し追加関税を課したことについて調査を始めたことを明らかにしました。

カナダ政府は先月、中国製のEV=電気自動車に100%の関税を課す方針を発表していますが、中国商務省はきょう、カナダがEVに加え中国産の鉄鋼、アルミニウムに対し追加関税を課したことについて「差別的な措置だ」として調査を開始したと発表しました。

調査期間は3か月ですが、場合によっては延長される可能性もあるということです。

すでに中国政府は食用油の原料となるカナダ産の菜種について価格が不当に安く抑えられている疑いがあるとして「反ダンピング調査」を始めるなど対抗措置をとっていますが、今回さらに追加の措置をとることでカナダ側に圧力をかける狙いがあるものとみられます。【9月26日 TBS NEWS DIG】
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ネパールへ観光旅行 先月末の大雨の影響は? 観光できるの?

2024-10-16 23:39:39 | 南アジア(インド)

(ラリトプルで救助された人たち【9月30日 BBC】)

今日(17日)は1日かけてネパール・カトマンズに移動します。現地到着は深夜、日付も変わる頃。
深夜だろうが何だろうが、無事に着けばいいのですが・・・

ネパール関連のニュースとしては、先月の末の大雨被害が。

****豪雨災害の死者200人超に=ネパール****
ネパール内務省によると、27日から2日間続いた大雨に伴う洪水や土砂崩れによる死者が30日までに全土で206人に達した。いまだ30人弱の行方が分かっておらず、捜索活動が続いている。警察はこれまでに3500人以上を救助。

地元報道によれば、首都カトマンズ周辺の複数の観測所で観測開始以来最大の雨量を記録した。ネパールでは例年6〜9月のモンスーン期に水害が多発。気候変動による降雨パターンの変化や、川岸の無計画な開発が被害を拡大させたとの指摘もある。【9月30日 時事】 
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****ネパールで大規模洪水と地滑り、150人近く死亡 「屋根から屋根へ」避難****
ネパール各地で大雨による大規模な洪水と地滑りがあり、少なくとも148人が死亡、100人以上が負傷した。警察が発表した。

首都カトマンズ周辺の渓谷には、2日間にわたり大雨が降った。29日の時点でなお50人以上が行方不明となっている。これまでに約3600人が救助された。

数千軒の家屋が洪水被害に遭う中、被災地の住民は、増水から逃れるために「屋根から屋根へ飛び移った」と話した。また、救助隊はヘリコプターやゴムボートで救助を続けている。

雨は10月1日まで続くと予報されていたが、29日にはいくらか和らぐ兆しが見られた。

泥まみれの自宅に戻ることができた住民もいる一方で、町や村を結ぶ主要道路が封鎖され、いまだに孤立状態にある住民もいる。

こうした中で、鉄砲水や地滑りによって死者が増えている。
警察当局によると、カトマンズ近郊のプリトヴィ高速道路では、地滑りに埋まった車から少なくとも35人の遺体が収容された。

現在、カトマンズと国内の各地域を結ぶ主要な高速道路のほとんどが、地滑りのため複数の場所で通行できなくなっている。

国営メディアは28日、カトマンズ東部の都市バクタプルで地滑りが発生し、妊娠中の女性と4歳の女の子を含む5人が死亡したと報じた。

また、カトマンズの西に位置するダディングでは、土砂崩れで埋まったバスから2人の遺体が運び出された。運転手を含む12人が乗っていたという。

また、首都の南西マクワンプルにある、全ネパールサッカー協会が運営するトレーニングセンターでは、土砂崩れでサッカー選手6人が死亡した。

洪水に巻き込まれた人もいる。カトマンズ渓谷南部のナクー川では4人が流された。
目撃していたジテンドラ・バンダリさんはBBCに、「(被害者は)何時間も助けを求めていた」ものの、「私たちは何もできなかった」と話した。

運転手のハリ・オム・マラさんのトラックは、カトマンズで水没してしまったという。
マラさんはBBCに、27日の夜に雨が強まり、水が車内に「一気に流れ込んで」きたと語った。
「私たちは飛び降りて、泳いで、トラックから離れた。財布もバッグも携帯電話も川に流されてしまった。今は何も持っていない。一晩中、寒い中で過ごした」

ビシュヌ・マヤ・シュレタさんは、今季の洪水の規模は例年より極端だったと語った。
「前回も水から逃げたが、何も起こらなかった。でも今回は、すべての家が浸水した」
「水位が上がってきたので、屋根を切り開いて外に出なければならなかった。屋根から屋根へと飛び移り、やっとコンクリートの家にたどり着いた」

プリトヴィ・スッバ・グルング政府報道官は、ネパール国営テレビに対し、洪水の影響で水道管も破損し、電話線や送電線にも影響が出ていると語った。

国営メディアによると、捜索救助活動の一環として、警察官1万人に加え、ボランティアや兵士も動員されている。

ネパール政府は不要不急の旅行を避けるよう呼びかけ、カトマンズ渓谷での夜間の運転を禁止した。27日と28日には空の便も影響を受け、多くの国内便が遅延または欠航となった。

しかし科学者らは、気候変動により降雨がこれまでよりいっそう激しくなっていると指摘している。
大気が温暖化すると、大気内に保持する水分量が増える。そのほか、海水温が上昇すると暴風雨のシステムが活性化され、より不安定になるという。【9月30日 BBC】
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大雨被害から半月、今はどうなっているのでしょうか?
観光ができる状態でしょうか?

とにかく行ってみるしかありません。
観光ができないようだったらホテルで寝ています。それもいい休養になるかも。

ということでしばらく旅行中のため、ブログ更新も不定期になります。



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ロシア  兵士補充に苦慮 ウクライナとの戦線に北朝鮮兵士投入 集団脱走の情報も

2024-10-16 22:32:41 | 欧州情勢

(朝鮮人民軍特殊作戦部隊の基地で行われた訓練 2024年10月2日、朝鮮中央通信【10月16日 毎日】
凄い訓練 こんな兵士が3000人いたらウクライナ軍をすぐに圧倒するでしょうが・・・)

【激しい兵士の損耗 補充に苦慮】
ウクライナはもちろん崖っぷちですが、攻めるロシアも苦しい。これまでにロシア軍兵士11万人超が死亡とも。

****ロシア軍の死者 侵攻開始から11万5000人に 米紙報道 9月は最も損失が多い月に****
アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は、アメリカ政府がウクライナ侵攻によるロシア軍の死者数を11万5000人と推定していると報じました。

10日付のニューヨーク・タイムズはロシア軍の死傷者がこれまでに61万5000人に上り、そのうち11万5000人が死亡したとアメリカ政府が推計していることを当局者の話として報じました。

一方、ウクライナ軍の死傷者も30万人を超え、死者は5万7500人に上るとしています。

関係者によりますと、9月のロシア軍の一日あたりの死傷者は1200人に上ったとみられ、侵攻開始以来、最も損失が多い月になったということです。

ロシアの独立系メディア「重要な話」は、ロシア軍が9月に集中して多大な犠牲を払うことになったのは「ロシア側が優勢だ」と西側諸国に示すためだと指摘しています。

ロシアの攻勢をアピールすることで西側諸国がウクライナのゼレンスキー大統領に対して和平交渉への圧力を強めるように促すのがプーチン政権の狙いだとしています。【10月11日 テレ朝news】
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兵士の損耗を補充すべくプーチン大統領は18万人の兵力増強を指示しています。

****プーチン氏、ロシア軍に18万人増員を指示 150万人規模に****
ロシアのプーチン大統領は同国軍に18万人の兵力増強を指示した。ロシア大統領府が16日に発表した。ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始して以来、3度目の増員となる。

ロシア大統領府が公開した大統領令によれば、今回の増員によりロシア軍の総員は約240万人、このうち兵士の数は150万人となる。大統領令は12月に発効するという。

今回の増員の前には、ウクライナが先月、ロシア南西部のクルスク州に越境攻撃を仕掛けていた。ロシア領への外国による侵攻は第2次世界大戦以降、初めてだった。

ロシアは先週、クルスク州からウクライナ軍を排除する動きを強化したほか、ウクライナ・ドンバス地方東部の要衝ポクロウシクに向けて徐々に前進している。

プーチン氏は22年以降、予備役と徴集兵の動員に加え、兵士の増員を2度命じている。

22年8月には翌年初頭までに13万7000人の増員を命じ、ロシア軍は115万人の兵士を含む200万人強となった。

同年9月にウクライナ軍が奇襲に成功し、東部ハルキウ州の大半を奪還したことを受け、プーチン氏はロシア国民の即時の「部分的動員」を指示した。この動員では従軍の経験のある国民が徴兵の対象となり、予備役が招集される可能性があった。

この動員により、数十万人が国外に逃亡。その多くは隣国のジョージアやロシア国境近くの旧共産主義国に向かった。

23年11月には当局が目標とする30万人の兵員募集を達成したと発表。動員は一時停止されたが、プーチン氏は翌月、さらに17万人の増員を公式に命じ、ロシア兵の定員は132万人となっていた。【9月17日 CNN】
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しかし、長期化に伴い国民の間でのウクライナ侵攻に関する評価は芳しくありません。

*****ウクライナ侵略「より多くの損害をもたらした」ロシア人の47%、6ポイント増…独立系世論調査機関*****
ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が9日公表した調査結果で、ロシアによるウクライナへの侵略が「より多くの損害をもたらした」と答えたロシア人が全体の47%に達し、昨年5月に比べて6ポイント増加した。

「より多くの利益をもたらした」との回答は同比10ポイント減の28%にとどまり、侵略の長期化で批判的な意見が増えている。
 
侵略がもたらす損害としては「死、苦しみ、悲しみ」(52%)や「兵士の死亡」(21%)のほか、「経済の悪化」(18%)や「国際的孤立」(7%)が挙がった。

ただ、和平合意のためロシアが一定の譲歩をする必要があるかとの問いには「全くない」「どちらかといえばない」で計71%を占めた。大多数が譲歩に否定的な意見を持っている模様だ。
 
調査は9月26日から今月2日まで、18歳以上の1606人を対象に対面式で実施した。同センターは、プーチン政権から「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながら調査を行っている。【10月11日 読売】
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こうした状況では兵士の補充もままなりませんし、無理に動員を強化すれば国民の反発を招きます。

【兵士補充の“奥の手” 北朝鮮兵士派遣】
これまでも、国民に「戦争」を意識させたくないということで、モスクワなど大都市を避けて、地方や少数民族から兵士を集めていましたが、それでも足りずに奥の手でしょうか。

****ロシアへ派遣された北朝鮮兵、ウクライナが侵入のクルスク州に展開か…「18人逃亡」報道も****
英BBCロシア語版などは15日、複数のウクライナ情報機関関係者の話として、最大3000人の北朝鮮兵の部隊がロシア極東ブリヤート共和国ウランウデ付近の露軍基地で、訓練を受けていると報じた。
 
英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」も15日、北朝鮮兵1万人がロシアに派遣されたと伝えた。ウクライナ国営通信は、自国の情報機関が露西部ブリャンスク州と、クルスク州で約3000人の北朝鮮兵を確認しており、このうち18人が逃亡したと報じている。クルスク州ではウクライナが越境攻撃を続けている。
 
ロシアはウクライナ侵略に絡む北朝鮮との協力を否定しており、北朝鮮兵はモンゴル系のブリヤート人としてロシアの身分証を支給されているとの情報もある。
 
一方、ロシア通信によると、プーチン大統領は14日、露朝が6月に締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を下院に提出した。【10月16日 読売】
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兵士の数については1万人という報道も。

****北朝鮮が兵士1万人をロシア軍に派遣か、「頭を下げ支援を求めざるを得ず」…英国の元駐露武官が分析****
ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」は15日、西側諸国筋の情報として、ウクライナ侵略を続けるロシア軍に北朝鮮兵1万人が派遣されていると報じた。
 
報道では、「(侵略開始から)2年半が経過した露軍は北朝鮮に頭を下げ、支援を求めざるを得なくなったことを示している」とする英国の元駐露武官の分析に言及した。派遣された北朝鮮兵の役割は明らかになっていないという。(後略)【10月16日 読売】
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ひとつ前の記事にあるように、プーチン大統領は14日、露朝が6月に締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を下院に提出しています。

****プーチン露大統領、「露朝戦略条約」法案を国会提出 北朝鮮と事実上の同盟締結へ****
ロシアのプーチン大統領は14日、北朝鮮と安全保障協力の拡大などを定める「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を露下院に提出した。

条約は、どちらか一方の国が武力攻撃を受ける恐れが生じた場合に即座に協議を行うことや、実際に武力攻撃を受けた場合に相互が軍事支援を行うことなどを規定。一方が他方に不利益を与える協定などを第三国と結ばないことも定めている。

ロシアは北朝鮮と事実上の軍事同盟を結ぶ形。ウクライナ侵略で欧米諸国と決定的に対立したロシアは、核兵器開発や人権問題などを巡って同じく欧米と敵対する北朝鮮と関係を深め、欧米に対抗する思惑を改めて鮮明にした。露朝の関係強化は、両国の軍事的威圧と対峙(たいじ)する日本にとっても脅威となる。

法案は今後、露下院と上院で可決された後、プーチン氏の署名により成立する見通し。

米国やウクライナによると、ロシアは北朝鮮から調達した弾道ミサイルや砲弾をウクライナの戦場で使用。ロシアは見返りにロケットエンジン技術などを北朝鮮に提供していると観測されている。

露朝間の包括的戦略パートナーシップ条約は、6月に24年ぶりに訪朝したプーチン氏が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記とともに署名していた。【10月15日 産経】
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事実上の軍事同盟ですが、現実は先行して前述のような北朝鮮兵士派兵といったことになっているようです。

アメリカはこうしたロシアと北朝鮮の連携を懸念しています。

****“北朝鮮がロシアに人員派遣”の情報に米政府が懸念示す 「本当ならば両国の結びつきの進展示すもの」****
ウクライナでの戦闘を続けるロシアに対し、北朝鮮が人員の派遣を行っているとの情報について、アメリカ政府が懸念を示しました。

アメリカ国務省 ミラー報道官
「北朝鮮の兵士がロシアのために戦っているという情報を懸念している。もし本当ならば、両国の結びつきが著しく進んでいることを示すことになる」

アメリカ国務省のミラー報道官は15日の会見でこのように懸念を示すとともに、「戦場で大きな犠牲を出し続けているロシアが、さらにやけになっていることも示している」とも指摘しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、ロシアに対して北朝鮮が兵器の供与だけではなく人員の派遣も行っていると訴えていました。

また、ワシントン・ポストは11日、ウクライナ軍当局者の話として、現在、数千人の北朝鮮兵がロシアで訓練を受けていて、年末までに前線に配備される可能性があるとの見方を伝えています。【10月16日 TBS NEWS DIG】
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【北朝鮮兵士、早くも集団脱走の情報】
ロシア軍の戦術は兵士の犠牲をものともせず前進する人海戦術ですから、その最前線に送られたら死ぬ確率が非常に高い。プーチン大統領はそんな「使い捨て」用に使用するために北朝鮮から兵士を派遣してもらったのか?
金正恩朝鮮労働党総書記はそれを了解しているのか?

ただ、兵士でも一般市民でも、北朝鮮国民は自国から脱出したいっという強い願望がありますので、北朝鮮からロシアへ派遣された兵士にすれば、自国に関係ない戦争で死ぬのはまっぴらだし、この際脱走してウクライナ側へ・・・という話にもなります。

****ロシア国境付近で北朝鮮兵士18人集団脱走 派遣兵か 韓国紙報道*****
韓国紙の朝鮮日報は16日、ウクライナ軍高官の話として、ロシア西部ブリャンスク、クルスク両州のウクライナとの国境付近で、北朝鮮軍兵士18人が集団脱走したと報じた。ウクライナ軍は、脱走したのは北朝鮮が対露軍事協力の一環で派遣した兵士らで、まだ拘束されていないとみているという。(中略)
 
北朝鮮の派兵を巡っては、露政府は否定しているが、ウクライナ側からの情報発信が相次いでいる。
 
米紙ワシントン・ポストは11日、ウクライナ軍関係者の証言として「数千人規模の北朝鮮の歩兵部隊が露国内で訓練を受けている」と伝えた。年末までに前線に配置される可能性があるという。
 
また、ウクライナメディアは10月上旬、東部ドネツク州の露側占領地域で、北朝鮮軍の将校6人がウクライナのミサイル攻撃で死亡したと報じた。
 
米CNNは、北朝鮮がロシアに兵器を供給していることから、これらの兵器に関する工学的な支援や情報交換のために兵士が派遣されたとの情報を伝えている。【10月16日 毎日】
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集団脱走しないように監視しながら戦闘に参加させる・・・・なかなか難しいかも。

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フランス  年金改革は財政的には不可避 政治的には国民の反発を招き、大票田・年金受給者を失う

2024-10-15 22:38:25 | 欧州情勢

(2023年1月1、パリでの年金改革に反対するデモの様子【ウィキペディア】)

【2023年に年金受給開始年齢を引き上げたマクロン大統領 国民は反発】
日本でもそうですが、どこの国でも社会の高齢化が進むなかで年金制度を財政的に維持することが非常に困難になっており、年金制度の改革が避けて通れない課題となっています。例えば中国でも・・・

****中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和****
中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、法定退職年齢の引き上げに向けた草案を承認した。新華社通信が13日伝えた。

中国政府は7月、多くの省における年金財政の逼迫を緩和するため、退職年齢を段階的に引き上げる方針を示していた。

現在、法定退職年齢は、男性が60歳、女性はホワイトカラーが55歳、工場労働者は50歳と、世界的に見てかなり低い。

定年引き上げは来年1月1日から段階的に開始され、最終的に男性の定年は63歳に、ホワイトカラーの女性は58歳に、工場労働者の女性は55歳に、それぞれ引き上げられる。

王暁萍・人力資源社会保障相は13日、定年は15年かけて引き上げると発言。労働者が早期退職や最長3年の定年延長を選択できるなど、柔軟かつ任意に定年を引き上げていくという。

中国の平均寿命は1960年の約44歳から2021年には78歳に延び、50年には80歳を超えると予測されており、改革が急がれる。同時に、高齢者を支えるために必要な労働人口は減少している。【9月13日 ロイター】
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事情はフランスでも基本的には同じ。マクロン大統領は昨年3月に年金受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる改革を断行しましたが、国民の激しい抵抗にあいパリはゴミで溢れました。

だいたいフランス人は仕事よりバカンスを重視するお国柄ですから、もっと長く働け・・・とは、もってのほかということでしょう。

****34歳の新首相誕生で、加速するフランスのシニア市場****
国民は猛反対、強行採択された年金改革法案
2023年3月、マクロン政権は国民の強い反対にもかかわらず、年金制度改革を強行採択し、年金受給開始年齢は62歳から64歳に引き上げられた。

大規模な抗議活動が全国で数カ月も続いた。抗議行動はゴミ収集作業の職員にも広がり、首都パリの街は路上に山積みになったゴミで溢れた。この大規模な反発は後にボルヌ首相の辞任のきっかけとなった。

2023年から続く国民の政府への不信感の責任を取る形で、2024年1月にボルヌ首相が辞任した。これを受けて、マクロン大統領は、国民から人気の高かった34歳のアタル国民教育相を首相に任命した。

そもそもフランスには、早期退職が社会的に有益であるとみなされる傾向がある。これは長年にわたり、シニア層の雇用を優遇すると若者の雇用が奪われ、若年層の失業率をさらに悪化させるという懸念から取られた多くの政策の結果でもあるが、シニア側も早期退職を望む人は多く、生涯現役という概念は少ない。

また、リタイアを現役生活からの撤退とはみなさず、仕事に縛られることなく余暇を存分に楽しめる人生の新たなステップと捉える人が多く、仕事よりバカンスを重視するフランスらしい一面である。
 
フランスの社会保障は充実しており、強固な社会保護の枠組みを提供している。正式な定年前に退職することを選択した場合でも、許容可能な生活水準を維持するのに十分な退職年金の恩恵を受けることができるのも大きい。経済的に可能な限り、多くの人ができるだけ早く退職したいと思う理由となっている。これが年金改革における法定退職年齢引き上げ時の猛反発を引き起こした原因でもある。

極端に低いフランスのシニア就業率
アタル首相が就任後に取り組んだ課題は、シニアの雇用促進であった。これは、2030年までに完全雇用を実現するための法案の一部であり、55歳から64歳のシニア層の就業率を改善し、国の年金費用を軽減するだけでなく、シニア層の経験を労働市場で活用することを目指している。定年年齢が64歳に引き上げられたため、現在、シニア層を労働市場に統合するための対策が急務となっている。(後略)【5月8日 リクルートワークス研究所】
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どんなに国民の反発が強くても、やるべきことはやる・・・・と言えば、強いリーダー、ポピュリズムに堕すことのない健全な民主主義ということにもなりますが、別の角度からは、国民の声を聞かない、傲慢・・・・といった評価も。

【年金制度改革を撤廃を掲げる左派が総選挙で勝利 しかし、左派に任せると財政・経済は大混乱する懸念も】
6~7月に行われた総選挙では左派連合は、2週間以内に年金制度改革を撤廃し、法定退職年齢を64歳から60歳に引き下げる方針を公約にしました。

****フランス左派連合、年金改革の撤廃、最低賃金の大幅増を公約****
フランスで6月30日と7月7日に行われる国民議会(下院)選挙に向け、選挙協力で合意した左派の社会党、環境派、共産党、極左・不服従のフランス(LFI)の4党からなる左派連合「新民衆戦線」は6月14日、選挙公約となる政策プログラムを発表した。

経済政策ではまず、下院選の決選投票が実施される7月7日から2週間以内に年金制度改革を撤廃し、法定退職年齢を64歳から60歳に引き下げる方針を盛り込んだ。マクロン政権が実施した失業保険制度改正(2023年11月28日記事参照)も同時期に撤廃する。(後略)【6月20日 JETRO】
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財源的には、、富裕層に対する優遇廃止(所得税の累進課税強化、連帯富裕税の再導入など)、企業の超過利潤への課税強化、キャピタルゲインに対する一律課税制度(30%)の廃止、相続税などの増税によって確保するとしていますが、他の政策を含めて、それでまかなえるのか、そうした制度改革の結果、富裕層・企業などが国外に脱出するとか、意欲を削がれるとかの弊害はないのか・・・といった疑問も。

このあたりが、ルペン氏率いる極右・国民連合とも手を組めないが、左派、特にその中核たる急進左派「不服従のフランス(LFI)」を率いるメランション氏にも政権をまかせる訳にはいかない・・・とマクロン大統領と考え、三すくみ状態が続く所以でもあります。

ただ、やはり“年金制度改革を撤廃”といった公約は有権者には受けます。結果、左派は大勝利。

****仏下院選、左派が逆転勝利 与党の年金改革に国民反発****
フランスで7日、国民議会(下院、定数577)選挙の決選投票が実施され、野党で左派連合の新人民戦線(NFP)が最大勢力となった。マクロン大統領が率いる中道の与党連合は第2勢力となり議会の多数派から転落した。第1党になるとの予測もあった極右の国民連合(RN)は失速して第3勢力にとどまった。

マクロン氏が2023年春に強行した年金の受給年齢を引き上げる改革に対する国民の不満が強く、与党連合が支持を失う要因となった。NFPは年金改革の廃止を訴えており、政策が逆戻りする可能性がある。(後略)【7月8日 日経】
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【再度年金問題に挑むバルニエ政権 政治的には厳しい状況】
しかし、マクロン大統領が選挙で勝とうが負けようが、年金制度の改革は避けて通れません。再び年金問題にのぞむ構えですが・・・

一方で、政治的には、膨れ上がる大票田でもある年金受給者層を敵に回すような政策はできない・・・という“民主主義の欠陥”があります。“欠陥”とは言い過ぎでしょうか。

****膨れあがるベビーブーム世代への年金支給、仏政権の改革案は前途多難****
膨れあがる財政赤字の削減に取り組むフランス政府が、火中の栗とも言える年金問題に再び挑もうとしている。今回は、年金受給者に支出削減への取り組みへの貢献を求め、また高齢有権者におもねる傾向のある国民議会議員らにも支持を求めている。

エコノミストやアナリストは、フランスが歳出肥大化に真剣に対処するには、1946−1964年に生まれたいわゆる「ベビーブーマー世代」が受け取る年金の改革は避けて通れないと指摘する。フランス政府の歳出に占める年金の比率は4分の1を超えている。

バルニエ首相率いる現内閣は2025年度の予算編成で、インフレを反映した年金増額を2025年1月から同年半ばに先送りすることで40億ユーロ(6511億円)を削減する案を提示している。

だがこうした暫定的な措置でさえ、政界からの反発を呼んでいる。まじめに投票所に向かう年金受給者が、支給額に手を付けようとする政党に反旗を翻すことを恐れているからだ。

極右政党「国民連合(RN)」を率いるマリーヌ・ルペン氏はすかさず、先送りの動きは受け入れがたく、「我が国の高齢から数十億ユーロを盗むに等しい」と述べた。RNは国民議会でも最大勢力の1つで、その暗黙の支持はバルニエ首相にとっても生命線だ。

バルニエ陣営側であるはずのジェラルド・ダルマナン前内相でさえ、増額先送りは愚策になると発言している。

一方で、エコノミストやアナリストの間では、対GDP比57%と世界有数の高さとなっているフランスの公共支出全体のうち、明らかに支出削減の対象となり得るのは年金との見方が増えている。

「年金にまったく手をつけないまま歳出を減らそうとしても難しい」と、元会計検査官のフランソワ・エカル氏は指摘する。

マクロン大統領率いる仏政府は昨年、年金コスト削減のため、定年退職年齢を2年引き上げて64才とする改革を断行した。その一方で既存の年金受給者を標的にすることはほぼ控えてきた。

フランスの年金制度は勤労者の給与から大きく差し引かれる保険料により支えられており、労働人口に比べて年金受給者の数が膨れあがることで圧迫されつつある。

起業家のラフィク・スマティ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「フランスで触れてはならない問題が1つある。ベビーブーマー世代がその後の世代に残す、信じがたいレベルの負債だ。ブーマーは私たちに借りがある」と指摘した。

若い世代の納税者のあいだでは、痛みを共有しようとしない「ブーマー」への不満が高まっている。X上で「コスタ・ブーマー」と名乗るフランスの風刺系アカウントは、若い納税者があくせく働いているあいだに甘やかされた年金受給者はクルーズを楽しんでいる、と揶揄している。

<膨らむ年金負担>
仏国民議会は各党の勢力が拮抗するいわゆる「宙づり議会」状態で、バルニエ首相としては、倒閣に動く可能性のある有力議員らに配慮せざるをえない。

批判に直面したバルニエ首相は、年金以外で同じ規模の支出削減を実現できるのであれば、年金増額を予定どおり1月に実施することも国民議会の議題になり得ると述べた。

だが、これまでに示された代案は、年金への支出削減には金額の点でまったく及ばない。ルペン氏は移民を支援しているという非政府組織(NGO)への補助金削減を提案しているが、年間7億5000万ユーロ規模にとどまる。

ダルマナン氏は公共放送の予算削減や週35時間の労働時間規制の廃止を提案している。

一部のエコノミストは、前政権が今年1月にインフレ調整として年金支給額を5.3%引き上げたことで、年金支給額抑制のチャンスを逸したと指摘している。

欧州議会選挙の数カ月前に実施されたこの増額により、年間150億ユーロ近いコストが生じ、退職年齢を64才に引き上げたことで節約できた170億ユーロの大半が帳消しになった。

マクロン大統領の与党に属する国民議会議員はロイターに対し、マクロン氏は選挙間近に年金制度に手をつけることは政治的な自殺行為だと考えている、と語った。若者や労働者階級の有権者はすでに与党に見切りをつけており、マクロン支持者の中心は年金受給世代になっている。

アリアンツ所属のエコノミスト、ルドビック・スブラン氏は、「1月の年金増額は、この10─15年のあいだで最悪の経済的判断だった」と語る。「それだけで(前回の)年金改革による財政面での効果を台無しにしてしまった」

この増額によって年金受給者はインフレの影響から守られたが、勤労者の側では、必ずしもこれと同水準の昇給を確保できなかった。

フランス年金理事会によれば、フランスの年金受給者の生活水準は勤労世代の水準に迫るか、むしろ恵まれているほどだが、大半の国では勤労世代よりも低くなっているという。

またフランスの場合、他の経済開発協力機構(OECD)諸国の大半よりも定年退職年齢が低く、平均寿命は長くなっている。そのため年金支給額の対GDP比を見ると、OECD平均が8%であるのに対し、フランスは14%近くに達している。

同理事会は6月、何も手を打たなければ、2023年の改革もむなしく、年金制度は今年中に赤字となり、今後何年も字を解消できないという見通しを示した。

ペンシルベニア大学ウォートン校のエコノミスト、シルバン・キャサリン氏は、「もう1度退職年齢を引き上げる年金改革が必要になるだろう。どの国もそうしているのだから」と予測した。【10月13日 ロイター】
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「もう1度退職年齢を引き上げる年金改革が必要になるだろう」・・・・多分政権がもたない。その後に出来る政権は急進左派政権か? それとも極右政権か?
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アフガニスタン  タリバンによる女性への人権侵害について“包囲網は狭まっている”と言えるか?

2024-10-14 21:49:22 | アフガン・パキスタン

(【10月1日 BBC】 児童婚の離婚を認める裁判所判決をタリバンによって無効にされた女性 本文参照)

【アフガン女性よりも「リスの方が多くの権利を持っている」 過去の裁判所判決も無効】
女性の中等教育以上を禁止するなど女性の権利を大きく制約しているアフガニスタンのタリバン暫定政権が8月、女性に対して公の場で全身や顔を布で覆うことを義務づけ、大きな声で話したり歌ったりすることなども禁じる法律を施行したことは、9月15日ブログ“アフガニスタン  女性抑圧を法制化 女子教育にインターネットや衛星放送を利用する国外取組も”でも取り上げました。

こうしたタリバンの女性の人権に対する侵害については欧米社会からは批判があがっており、米俳優メリル・ストリープさんも。

****メリル・ストリープさん「アフガンでは少女よりもリスの方が権利ある」****
米俳優メリル・ストリープさんは23日、アフガニスタンでは少女よりも「リスの方が多くの権利を持っている」と述べた。イスラム主義組織タリバン政権による女性や少女の権利制限の撤廃を求める同国女性の声に賛同するもの。
 
タリバンは2021年8月に政権を掌握して以降、イスラム法の厳格な解釈を適用。女性や少女に対し、公園への立ち入りや大学への通学、公共の場での歌唱などを禁止しており、国連は「ジェンダー・アパルトヘイト」だと批判している。

ストリープさんは米ニューヨークで国連総会に合わせて行われた会合で「きょうのアフガンでは、少女よりもリスの方が多くの権利を持っている。タリバンが女性や少女の公園の利用を禁じているからだ」「(アフガンの首都)カブールで鳥は歌うことができるが、少女や女性は公共の場でそれができない」と主張。

「国際社会が一丸となれば、アフガンに変化をもたらし、同国人口の半分(を占める女性)の緩慢な窒息を阻止することができると感じている」と述べた。 【9月25日 AFP】
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タリバンは、すでに判決が出ている多くの案件について、イスラム法(シャリア)に沿っていないとして、それらを無効しています。

****児童婚の女性、裁判で離婚を勝ち取るもタリバンが無効に アフガニスタンの司法の今****
交通量の多い道路に挟まれた木の下に、書類の山を胸に抱えた若い女性がいる。
ビビ・ナズダナさんにとって、これらの書類は世界中の何よりも大切なものだ。2年間の法廷闘争の末、児童婚による結婚生活から自由になるために勝ち取った離婚の証明書だ。

しかし、現在アフガニスタンを実質統治している武装勢力「タリバン」の法廷は、この書類を無効化した。タリバンによるシャリア(イスラム法)の強硬な解釈によって、アフガニスタンの女性は事実上、司法システムで沈黙を強いられている。

ナズダナさんの離婚は、2021年9月にタリバンがアフガニスタンを支配して以来、取り消された何万件もの判決の一つだ。

ナズダナさんが7歳のときに結婚の約束をさせられた男性は、タリバンが首都カブールに押し寄せると、そのわずか10日後に裁判所に対し、ナズダナさんが懸命に争って手にした離婚判決を覆すよう求めたのだった。

現在20代で、農業を営むヘクマットゥラさんがナズダナさんとの結婚を要求してきたのは、彼女が15歳のときだった。ナズダナさんの父親が、一家の「敵」を 「味方」に変えるための、いわゆる「悪い結婚」に同意してから8年がたっていた。

ナズダナさんはすぐに裁判所に駆け込み、ヘクマットゥラさんとは結婚できないと何度も伝え、離縁を求めた。当時の裁判所は、アメリカが支援していたアフガニスタン政府が運営していた。裁判は2年かかったが、最終的にはナズダナさんに有利な判決が出た。「裁判所は私を祝福し、『これであなたは離別し、誰とでも自由に結婚できる』と言ってくれた」と、ナズダナさんは語った。

しかし、2021年にヘクマトゥッラさんが控訴。ナズダナさんは自分の裁判で直接陳述することは許されないと告げられた。

「法廷でタリバンは、シャリアに反するから法廷に戻るべきではないと言った。兄が私の代理を務めるべきだと」と、ナズダナさんは話した。

ナズダナさんの兄のシャムスさん(28)は、「もしこれに応じなければ、妹を力ずくで彼(ヘクマトゥッラさん)に引き渡すと言われた」と続けた。

この裁判では、元夫で、現在は新たにタリバンに入隊したヘクマトゥッラさんが勝訴した。シャムスさんは故郷のウルズガン州の裁判所に、ナズダナさんの命が危険にさらされていると説明しようとしたが、誰も耳を貸さなかったという。

その結果、シャムスさんとナズダナさんは逃げるしかないと決断した。

3年前に政権に復帰した際、タリバンは過去の腐敗をなくし、イスラム法の一種であるシャリアの下で「正義」を実現すると約束した。

それ以来、タリバンは約35万5000件の事件を精査したという。
そのほとんどは刑事事件で、うち40%は土地をめぐる紛争、さらに30%は、ナズダナさんのケースのような離婚を含む家族問題だと推定されている。(中略)

ナズダナさんの離婚判決は、BBCが首都カブールにある最高裁判所のバックオフィスに特別に立ち入りを許された際に発見された。
アフガニスタン最高裁のアブドゥルワヒド・ハカニ報道官は、ナズダナさんの離婚判決について、裁判にヘクマトゥッラさんが「出席していなかった」ため無効だと述べ、ヘクマトゥッラさんに有利な判決が出されたことを認めた。

「腐敗した前政権による、ヘクマトゥッラとナズダナの結婚を取り消した決定は、シャリアと結婚のルールに反するものだった」と、ハカニ報道官は説明した。

しかし、タリバンによる司法制度改革の約束は、単に解決済みの事件の見直しにとどまらない。
タリバンは、男女を問わずすべての裁判官を組織的に解任し、自分たちの強硬な視点を支持する人々と入れ替えた。
女性はさらに、司法制度に参加する資格がないとされた。

タリバンの最高裁判所の対外関係・コミュニケーション部のアブドゥルラヒム・ラシッド部長は、「女性には裁く資格も能力もない。我々のシャリアの原則では、司法の仕事には高い知性を持つ人が必要とされているからだ」と説明した。

司法の場で働いていた女性たちにとってこの喪失感は大きい。また、その影響は本人たちだけにとどまらない。
元最高裁判事のファウジア・アミニさんは、法廷に女性がいなければ、法の下で女性の保護が改善される望みはほとんどないと話す。アミニさんはタリバンの復権後、国外に逃亡している。(中略)

20歳になったばかりのナズダナさんは、離婚書類を握りしめ、誰かが助けてくれることを願いながら、1年間ここにいる。
「国連を含め、多くのドアを叩いて助けを求めたが、誰も私の声を聞いてくれなかった」
「どこに支援があるのか。私には女性としての自由を得る資格がないのか」(後略)【10月1日 BBC】
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女性を教育から排除しておきながら、「女性には裁く資格も能力もない」と女性を司法から排除、更には女性は法廷に出席して権利を主張することもできない・・・ため息の出る状況です。

【最高指導者が女性の教育に反対?】
タリバン内部にも女性の教育を認めるべきだと考える者もいるようですが、「最高指導者のハイバトラー・アクンザダ師が女性教育に強く反対しているようだ」との見方も。

****「ネコやリスは外で遊べるが女性はできない」 権利制限続くアフガン、じわり狭まる国際的包囲網****
イスラム原理主義勢力タリバン支配下のアフガニスタンで女性の教育が制限されるなど抑圧が続く中、国際社会で反発が広がりつつある。

米人気女優のメリル・ストリープさんは9月、国連関連会合に出席し、人権状況の改善を求めて異例の声を上げた。欧米4カ国も同月、アフガンでの女性政策が「女子差別撤廃条約(CEDAW)」に違反していると強く批判。実権を握っって3年以上が経過したタリバンだが、包囲網はじわり狭まっている。

法律で全身や顔を覆うことを義務化
「首都カブールでネコは外に出て、顔に注ぐ陽光を感じ取ることができる。リスはネコとじゃれ合って公園に入ることができる。鳥も歌を歌うことができる。しかし、女性たちは、そうはできない。これは常軌を逸している」
社会派女優として知られるストリープさんは9月23日、米ニューヨークで開催された国連総会関連の女性会合で、タリバン政権の女性政策を痛烈に批判した。

アフガンでは2021年8月にタリバンが政権を奪取。中学生以上の女子教育が停止され、女性の就労も制限された。今年8月には、女性が公の場で全身や顔を覆うことなどを義務付けた法律も発表された。「誘惑」を避けるのが目的といい、近親者の男性を伴わない女性の交通機関利用も禁止されている。

アフガンでは、人権状況担当のベネット国連特別報告者の入国も同月20日までに禁止されたと報じられるなど、国連との摩擦も強まっている。

在カブール日本大使館はこれを受け、X(旧ツイッター)でタリバン政権に「深い懸念」を表明。ドイツ、オーストラリア、カナダ、オランダの4カ国も9月25日、アフガン女性の人権状況がCEDAWに抵触すると非難した。

豪州のウォン外相は「アフガンの少女ら女性たちは公共での生活を制限されている。独加蘭3カ国との共同歩調は、前例のない行動だ」とタリバン政権に圧力をかけた。

タリバン内部で「女性教育必要」の声も…
アフガンを昨年末に訪問し、女性教育など諸問題を巡り、タリバン政権要人らと会談した山本忠通・元国連事務総長特別代表(事務次長)兼国連アフガン支援団(UNAMA)代表は産経新聞の取材に対し、「タリバンの中でも、国際関係に携わった人々や、実際に行政に携わっている人たちは女性教育が必要だとはっきり認めている。正確なところは不明ながら、最高指導者のハイバトラー・アクンザダ師が女性教育に強く反対しているようだ」と話す。

アフガンでは、最高権力者が発言する内容は絶対で、異論を唱えられないのが実情。山本氏は「(現状の改善は)統治の構造自体と同師に挑戦することになり、困難が生じていると思われる。同師を説得する必要があるようだ」と語る。

実はアフガンでは22年3月、女性に中等教育を始めるとの決定が一時的になされたことがあった。しかし、生徒が学校に登校すると突如、下校を命じられた。その伏線は前日、南部カンダハルで行われた指導者たちの会議だったともいわれる。

山本氏は「アクンザダ師がその場で反対せず中等教育が始まると誰もが思ったが、会議終了1時間半後に変更の指示があり、ダメとなった。政権側はあわてて方針を撤回しようと思ったが、時遅く、子女の登校前に間に合わなかった、と関係者から聞いた」と話す。

アクンザダ師の真意について、21年に崩壊したガニ政権で財務相を務めたザヒルワル氏は「(同師は)まだ自分の権力に確信を持てず、規律を隅々に行き渡らせる必要から、この問題への反対を守らせることで自分の権威(忠誠)を確認しているのではないか」と山本氏に語ったという。

「心の記憶に残る」五輪失格
タリバンの女性抑圧は、今夏に開催されたパリ五輪の舞台でも、大きな話題となった。

紛争や迫害によって故郷を追われたアスリートで構成される難民選手団の一員、マニジャ・タラシュさん(アフガン出身)は「アフガン女性を解放せよ」と書かれたマントを着用し、ブレイキン(ブレイクダンス)に出場した。政治的行為とみなされ、失格となったが、「人々の心の記憶に残るため」マントを着用したと強調。その上で、「どうか(政権に)屈しないで」とアフガン女性たちに涙ながらに訴えた。

また、タリバン政権から「アフガン代表」と正式認定されないまま、国際オリンピック委員会(IOC)の出場依頼に応じたキミア・ユソフィさんは陸上女子100メートル予選を終えた後、「教育」「スポーツ」「私たちの権利」と書いたゼッケンを報道陣にかざしてみせた。

彼女が口にした言葉は重みを持つ。「私は人間だ。自分が何をするかは、私が決める」。【10月14日 産経】
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【“包囲網はじわり狭まっている”とは言い難い現状】
“「国際社会が一丸となれば、アフガンに変化をもたらし・・・・」”(メリル・ストリープさん) “実権を握っって3年以上が経過したタリバンだが、包囲網はじわり狭まっている”(上記【産経】)・・・・そうだろうか?
私には現実は逆のように思えます。

昨年には中国がタリバン暫定政権の大使を受入れ、国家承認にも前向きと報じられていました。
その中国に対しては、国内女性には厳しい“シャリア遵守”も随分寛容にもなるみたい。

****外国人女性と銃構え物議 タリバン兵、女性抑圧下で―アフガン****

(アフガニスタンで撮影されたとみられるイスラム主義組織タリバンの兵士(左)と外国人女性とされる画像(SNSより・時事)

アフガニスタンで、イスラム主義組織タリバンの兵士が外国人女性と一緒に銃を構えたり、親密に寄り添ったりしているとされる画像がネット上で拡散され、物議を醸している。タリバン暫定政権はアフガン女性の行動を厳しく抑圧しているだけに、SNSでは「明白な矛盾」と非難する声が上がっている。

地元メディアによると、画像に写る複数の女性は中国人旅行者。詳しい撮影時期や場所は不明だが、今週に入って拡散された。屋外にいながら、頭部を覆うイスラム教徒のスカーフ「ヒジャブ」を着用していない女性も写っている。

暫定政権は極端なイスラム法解釈に基づき、教育や就労から女性排除を進めてきた。女性には近親男性の付き添いなしの遠出を許さず、8月には公共の場で歌ったり大声を出したりすることも禁じた。

SNS上では「アフガン女性は沈黙しているのに、中国女性は銃を構えて自由にポーズを取るなど偽善の極みだ」との投稿も。中国が最近、アフガン国内の開発を目的に暫定政権との関係強化に動いていることが撮影を許した背景にあるとの指摘もある。暫定政権は今回の件にコメントしていない。【10月10日 時事】
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そしてロシアも。

****ロシア タリバンの「テロ組織」指定を近く解除の見通し****
ロシアは、アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバンについて、テロ組織の指定を近く、解除する見通しです。

ロシアメディアによりますと、アフガニスタン問題を担当するカブロフ大統領特使は4日、タリバンのテロ組織としての指定解除について、「最高レベルですでに決定が下された」と明らかにしました。法的な手続きを経て、正式に指定が解除されるとし、「近く発表される」との見通しを示しています。

ロシアは2003年からタリバンをテロ組織に指定していますが、2021年にタリバンがアフガニスタンでの実権を掌握して以降、関係構築を進め、今年6月にサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに招待するなどしています。【10月5日 TBS NEWS DIG】
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タリバン暫定政権は今月下旬開催のBRICS首脳会議への参加を議長国ロシアに要請しています。

****BRICS会議参加に意欲=議長国ロシアに要請―タリバン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は26日までに、今年ロシアが議長国を務める新興国グループ「BRICS」関連会議への出席を同国に要請したと明らかにした。中国など加盟国の一部は近年、アフガンへの投資に積極的な姿勢を示しており、経済協力を強化したい考え。

BRICS首脳会議は10月下旬にロシア中部カザンで開かれる。(中略)出席要請に対するロシア側の反応は明らかになっていない。【9月26日 時事】
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【欧米・西側の考えだけで動いてはいない今の世界 イスラム世界に仲介を依頼するのは?】
現在の世界は欧米・西側の考えだけで動いてはいません。中国・ロシアは欧米・西側に反発し、グローバルサウスは独自の対応をしています。

タリバン暫定政権に影響力を発揮しようと思えば、単に欧米・西側だけで批判するのではなく、裾野を広げて行く必要がります。

個人的に思うのは、その点で一番有効なのはアラブ・イランやアジアのイスラム国などイスラム世界ではないでしょうか。タリバンはシャリアを前面に出していますが、同じイスラムを掲げる国でタリバンのような厳しい女性差別をしている国はありません。(もっと緩やかな女性差別なら多々ありますが)

タリバンへの働きかけを行うように日本や欧米がイスラム世界に働きかける・・・そんな動きがあっても良さそうですが・・・。

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緊迫する朝鮮半島情勢  平壌上空で独裁批判ビラが無人機で撒かれたと北朝鮮主張 韓国から飛来か?

2024-10-13 22:29:57 | 東アジア

(6月6日未明、金正恩政権の体制批判ビラを北朝鮮に向けて飛ばす「自由北韓運動連合」のメンバーら【6月6日 東京】)

【緊迫する南北関係】
韓国で北朝鮮に宥和的な文在寅政権から、北朝鮮に強硬な保守・尹錫悦政権に変わって、南北関係はゴミをぶら下げた風船に象徴されるような敵対的な緊張状態にあることは周知のところです。

北朝鮮は憲法上で韓国を統一の対象ではなく「第1の敵対国」と位置付けるとの金正恩総書記の指示もありました。

****北朝鮮 憲法改正議論へ 韓国を「第1の敵対国」と明記の方針****
北朝鮮は来月(10月)7日に最高人民会議を開催し、憲法の改正について議論すると発表しました。韓国を「第1の敵対国」と憲法に明記する方針について話し合うとみられます。

16日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、各地の代表を首都ピョンヤンに招集して、来月7日に最高人民会議を開催することが15日決定されたと伝えました。

このなかでは憲法の改正や外国との貿易などに関する法律について議論するとしています。

最高人民会議は国の予算や法律の改正、国家機関の人事などを決定するため、年に1、2回開かれていて、ことし1月以来の開催となります。

前回の会議で演説したキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、韓国を「第1の敵対国」と明記するよう憲法の改正を指示し、「平和統一」などの表現を削除すべきだとしていました。

北朝鮮はその後、国歌の歌詞から、朝鮮半島全体を指す「三千里」という単語を削除するなど、韓国を「敵対国」とみなす措置をとっていて、来月の最高人民会議では、キム総書記の方針に沿って憲法の改正について議論されるとみられます。【9月16日 NHK】
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最高人民会議は今月7日、8日に開催されましたが、韓国を「敵対国」と明記する改憲については、今のところ報道はないようです。

秘密主義の北朝鮮のことですので、敢えて公表していないのか、南北関係や国際情勢などを勘案して今回は改憲を見送ったのか・・・そのあたりはわかりません。

“朝鮮中央通信は9日、国会に当たる最高人民会議が7〜8日に平壌で開かれたとも報じたが、2国家論に基づく憲法改正への言及はなかった。金氏も出席しなかった。金氏は1月に韓国を敵国とみなし南北政策を放棄する方針を憲法に反映させるよう、領土に関する条項の追加や「平和統一」といった表現の削除を指示していた。改憲は先送りされた可能性がある。【10月9日 産経】

いずれにしても、極めて緊張した状況にあることは変わりありません。(もっとも、私などの年代は南北関係については朴正熙・韓国大統領時代のピリピリした関係のイメージがありますので、「緊張状態」というのは普通のことのようにも思えますが)

****南も北も互いに首脳を名指し批判、しかも呼び捨て。一触即発の朝鮮半島****
(中略)
韓国・北朝鮮の南北でそれぞれの首脳を名指しで批判し、より緊迫な状況になった。

まずは、北朝鮮からである。2024年10月4日の朝鮮中央通信は、金正恩朝鮮労働党総書記が、北朝鮮は核強国の絶対的力を確保したとし、韓米が北朝鮮の主権を侵害しようとするなら「核兵器を含むあらゆる攻撃力を動員する」と威嚇した。

また、韓国の「国軍の日」(10月1日)記念式典の演説で北朝鮮の核に対し強い警告を発した尹錫悦大統領を「尹錫悦傀儡(かいらい)」と呼び、「核を保有している国の前で軍事力による圧倒的な対応に言及したが、何かまともでない人ではないかという疑いをかけられざるを得ないありさま」と強く非難した。

金正恩氏が尹大統領を名指しで非難したのは2022年7月の「戦勝節」(朝鮮戦争休戦協定の締結日)の演説以来約2年ぶりのことである。当時の演説では、尹大統領を呼び捨てにして「就任前後のさまざまな機会に吐いた妄言と醜態を正確に記憶している」と罵倒していた。

今回のこの金正恩国務委員長の発言は、同月2日に西部地区にある朝鮮人民軍の特殊作戦部隊訓練基地を訪問した際にされたものである。

国軍の日の演説については、傀儡が抱えている安全保障への不安と焦りを表したものとし、「極度の愚鈍さと無謀さに陥った敵が、われわれの度重なる警告を無視して韓米同盟に対する過度な信心にあふれ、ひいては共和国の主権を侵害する武力使用を企めば、容赦なく核兵器を含むあらゆる攻撃力を使用する」と断言した。これまでにない強い警告メッセージである。

一方、この発言を受けて韓国軍合同参謀本部は同日の4日深夜、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が尹錫悦大統領を名指し非難したことに反発し、記者団に「われわれの戦略的、軍事的目標は北の同胞でなく、ただ金正恩一人に全てが合わされている」とするコメントを表明した。

軍事作戦を遂行する合同参謀本部が北朝鮮の最高指導者を呼び捨てにし、攻撃目標だと明言するのは異例のことである。

北朝鮮は米韓が金氏の排除を狙う「斬首作戦」を準備していると神経をとがらせてきた経緯があり、南北間の緊張が一層高まってきている。一触即発な状況である。【10月8日 宮塚寿美子氏 MAG2NEWS】
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北朝鮮は、韓国とつながる道路と鉄道を遮断し、防御用の構造物を建設して「要塞)化する」と表明しています。

****北朝鮮、韓国との軍事境界線付近を「要塞化」 道路・鉄道を遮断****
北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は9日、韓国とつながる道路と鉄道を同日から遮断し、防御用の構造物を建設して「要塞(ようさい)化する」と表明した。朝鮮中央通信が伝えた。

北朝鮮は長年にわたる「朝鮮半島統一」の方針を完全に放棄し、北朝鮮と韓国の「2国家」論を主張している。今回の発表でも韓国との「国境を永久に遮断する」としており、壁を建設する動きとみられる。
 
総参謀部は「わが共和国の主権行使の領域と大韓民国の領土を徹底的に分離させるための実質的な軍事的措置を取る」と表明。「第一の敵対国、不変の主敵である大韓民国とつながる南側国境を永久に遮断、封鎖するのは、戦争抑止と(北朝鮮の)安全を守るための自衛的措置だ」と正当化した。「偶発的衝突を避けるため」として9日、米軍に要塞化工事について通知したという。

韓国と北朝鮮を結ぶ鉄道路線や道路は現在、寸断されている。韓国軍合同参謀本部は6月、北朝鮮側でレールの撤去や地雷の埋設などの動きがあると指摘。北朝鮮と韓国の軍事境界線から北に約2キロの4カ所では、防壁とみられるコンクリート製の構造物を確認したと説明していた。【10月9日 毎日】
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【北朝鮮首都に独裁批判ビラが無人機で撒かれる 神経を尖らせる北朝鮮】
こうした緊迫した状況下で、首都平壌ピョンヤン上空に無人機が飛来し、北朝鮮の独裁体制を批判するビラがまかれたと北朝鮮側は主張し、激怒しています。

****北朝鮮首都に独裁批判ビラ、無人機でまかれる…金与正氏「必ず恐ろしい惨事が起きる」と報復示唆****
北朝鮮の首都平壌ピョンヤン上空に3、9、10日に飛来した無人機から北朝鮮の独裁体制を批判するビラがまかれたと北朝鮮が主張する事件を巡り、金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長は12日、「再び発見されたら必ず恐ろしい惨事が起きる」と韓国への報復を示唆する談話を出した。

誰が無人機を飛ばしたのか不明な中、南北の摩擦が深まっている。

北朝鮮外務省が無人機の飛来を非難した11日、韓国軍合同参謀本部関係者は「無人機を送ったことはない」としたが、その日のうちに「事実かどうか確認できない」と説明を変えた。

与正氏は12日の声明で韓国の民間団体が無人機を飛ばした可能性にも触れ「(韓国)軍が傍観したのならそれは故意的な黙認、共謀だ」と非難した。

韓国大統領府の申源湜シンウォンシク国家安保室長は13日に出演したKBSテレビの番組で「北朝鮮の話について事実をいちいち話す必要はない」と語った。

この対応ぶりを巡っては「北朝鮮の探りに応じない」(中央日報電子版)、「曖昧にすることで北朝鮮側に混乱をもたらす」(聯合ニュース)との見方がある。北朝鮮もゴミをぶら下げた風船を韓国に飛ばしており、非難する立場にないとの考えもある。

保守、尹錫悦ユンソンニョル政権が民間団体のビラまきを「表現の自由」として容認していることもあり、活動に参加する民間団体は多様化し、使用する機材も高度化している。

韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」や「北韓同胞直接支援運動」は、読売新聞や韓国メディアに対し、今回の無人機に関与していないと語ったが、尹政権が全ての活動を把握しているかどうかは不明だ。

金正恩 キムジョンウン 党総書記や与正氏が、ビラまきや韓国軍による軍事境界線での拡声機放送に神経をとがらせているのは間違いない。韓国に憧れを抱く若い世代の体制離反を招きかねないためだ。特に、権力中枢に近い幹部が集まる平壌が今後も狙われれば何らかの実力行使に出るシナリオも否定できない。【10月13日 読売】
********************

従来から韓国の脱北者団体は北朝鮮に向けて風船を使ったビラまきをしていますが、最高指導者・国内体制・韓国関する情報などに関して徹底した秘密主義を貫き、強権的な国内統治を行っている北朝鮮権力にすると、金一族に関する情報に関する情報などを含むこうしたビラは極めて厄介で神経を逆撫でするもので、これまでも神経を尖らせてきました。

逆に言えば、脱北者団体や北朝鮮に敵対しようする勢力にとっては、この紙爆弾は極めて有効な手段となります。

****北朝鮮向けビラ****
(中略)
ビラの内容は朝鮮戦争は北朝鮮の南侵だったことなどの真実や金一家の私生活など北朝鮮体制批判、韓国の発展した状況やいわゆるアラブの春で独裁政権が倒れたことなどを文・絵で暴露するものなどが多く、2008年4月からはアメリカドルや人民元や朝鮮民主主義人民共和国ウォン(5000ウォン紙幣)などの現金や、韓国ドラマやK-POPなどの音楽が収録されているUSBメモリやDVDなどを同封している。

団体によってはGPS・ラジオ・靴下・手袋・ボールペンといった生活必需品や、アスピリン・バンドエイドなどの医薬品、やマスクにラーメン、ストッキング、コンドーム、聖書、チョコパイ]を送ることもあるという。

風船を利用する場合、一般的にはタイマー付きのビラを入れた袋を飛ばして設定時間になると袋が破れて一気に放出する装置を使用している。

しかし脱北者などで構成される朝鮮改革解放委員会では幅広い地域にビラをまくため、2023年からコピー機の紙の排出装置と同様の装置を利用し、飛行しながら数分から数時間ごとに約20枚ずつ排出する装置を使用している。

別の団体では風船ではなく米、聖書、紙幣、USBメモリをペットボトル入れ北朝鮮に向けて流すこともある。脱北者団体「社団法人クンセム」によれば2024年に江華島から北朝鮮の黄海道へ向けて500個流したと主張した。

音声メッセージを発信する装置を飛ばしている団体もある。

また、将来的には風の流れで浮遊する従来型の風船に代わりGPSトラッカーや労働党を批判などができる小さな拡声器を搭載した「スマート」風船の開発が進められている。

これにより特定の地域向けにビラをまくことができるほか、飛行距離が数百キロに及び、試験飛行した際には中国まで飛ばすことに成功したと主張している。【ウィキペディア】
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今回の北朝鮮側の主張が正しければ、従来の「風船」が無人機に進化したことになり、そうなると、狙った都市・地域にビラを撒くことができるようになり、北朝鮮にとっては看過できない問題です。

韓国側から無人機を飛ばしたとすると、その無人機が首都平壌上空に到達できたというのは、北朝鮮の防空体制にとっても問題かも。

本当に無人機でのビラ撒きがあったのか? 誰が飛ばしたのか? ・・・そのあたりは分かりませんが、もし韓国側から飛ばしたものであれば、前述のような南北間の緊張状態を考えると、極めてハイリスクな行為でもあります。

なお、韓国にあっては、北朝鮮に対するビラ撒きは表現の自由と北朝鮮刺激の兼ね合いで問題となっており、文在寅政権法律で禁止されていましたが、昨年、最高裁は禁止法を違憲と判断しています。

****北朝鮮への宣伝ビラ散布禁止法は違憲、韓国憲法裁が判断****
 韓国憲法裁判所は26日、北朝鮮への宣伝ビラ散布禁止は違憲とする判断を示し、同国との関係改善に前向きだった文在寅政権時の2020年に可決された法律を無効化した。

同法は言論の自由を侵害しているとして、保守派議員などから激しい批判を浴びていた。

7対2で下された今回の判断は、「南北関係発展法」のビラ散布禁止条項が言論の自由を過度に制限していると認めた。【2023年9月26日 ロイター】
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ドイツ  2年連続のマイナス成長 EU内での影響力も低下 基幹産業・自動車の中国市場も苦戦の様相

2024-10-12 22:57:28 | 欧州情勢

(ドイツ政府は9日公表した秋の経済見通しで、2024年の実質成長率をマイナス0.2%と4月時点のプラス0.3%から下方修正した。マイナス成長は2年連続になる。個人消費の戻りが鈍く、設備投資や生産も冷え込む。ロシアの安価なエネルギーと中国市場の拡大に頼った成長が限界を迎え、構造的な経済不振の様相が強まってきた。【10月10日 日経】)

【「脱ロシア依存」でエネルギー価格高騰 ドイツ経済の悪化】
失われた20年だか30年だかと言われている日本が他国の経済状況を云々できる立場にはありませんが、それはさておき、私の若い頃(1978年のボンサミットの頃ですから大分昔ですが)は“日独機関車論”などと日本とともに世界経済の牽引車とも目されていたドイツ経済の不振が目立ちます。

****ドイツ経済予測、今年もマイナス成長へ-統一後で2度目の連続縮小か****
ドイツ政府は9日、最新経済予測を発表し、今年の国内総生産(GDP)を0.2%減へ下方修正した。欧州最大の経済大国であるドイツは、長引く低迷から抜け出せずにいることがあらためて示された。

昨年のドイツ経済は0.3%縮小。今年もマイナス成長となれば、1990年のドイツ統一後で2度目のGDP連続縮小となる。4月末の予測では今年は0.3%の拡大が見込まれていた。2025年の経済成長率は1.1%、26年は1.6%と、プラス成長が予測されている。【10月9日 Bloomberg】
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経済に浮き沈みはつきもので、ドイツ経済も上記の“日独機関車論”のあと、20002~03年は高い失業率や慢性的な財政赤字などから「欧州の病人」と呼ばれた時期もありました。

その後、ロシアからの安価なエネルギーを活用することで経済は回復しましたが、ロシアのウクライナ侵攻で「脱ロシア依存」を進めた結果、エネルギー価格が高騰して経済も再び悪化して今の状況に至っています。(ドイツ経済の「日本化」とも)

24年は物価高を受けた賃上げの動きが出る中で持ち直しが期待された個人消費の回復ペースが鈍いとか・・・日本とも似通っています。

【独経済の低迷、国内連立の不統一で独のEUへ影響力も低下、EUの統一的対応も困難に】
国内需要が低迷するなかで、輸出にドライブがかかりますが、輸出先として大きな影響力がある中国も経済悪化で中国向け輸出も低迷する状況に。

中国経済が悪化しているとは言え、ドイツ基幹産業である自動車産業にとっては死活的に重要な輸出先ですから中国市場は大事にしたいところですが、周知のように欧州と中国は中国産EVへの追加関税で揉めています。

ドイツとしては、中国に追加関税を課すと中国からの報復が予想されますので、そうした中国と事を構えるようなことは避けたいところ。

かつて欧州政治を牽引したメルケル前首相の頃なら、そうしたドイツの事情をふまえてEUのかじ取りをしたところでしょうが、前述のように経済も低迷、国内政治も連立与党間で不協和音が目立つような状況では、シュルツ首相にかつてのメルケル前首相のような力を期待することはできません。

ドイツ(そしてフランスも)がEU内で十分な指導力を発揮できず、国内の連立与党間の意見の不一致にふりまわされている結果、EUも中国に統一的な対応ができない状況にもなっています。

****EUでドイツの影響力低下、中国EV関税問題で鮮明に*****
ドイツのショルツ首相は、中国から輸入する電気自動車(EV)に追加関税を課す欧州連合(EU)欧州委員会の提案に反対した。しかし、加盟国に追加関税案賛成の輪が広がるのを止めることができず、ドイツが国内政治分断によってEUの政策のかじ取り役を担うのが困難になっている構図があぶり出された。

ドイツの自動車メーカーは売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでおり、追加関税による中国側の対抗措置を懸念。こうした声に押されてドイツ政府は今月4日のEU加盟国の採決で反対票を投じたが、同調したのは4カ国にとどまった。

これは10年前とは極めて対照的だ。2013年7月のある週末、当時の中国政府とドイツのメルケル首相、欧州委のバローゾ委員長の間で何度も電話のやり取りが交わされた結果、EUの太陽光パネルに対する関税案は撤回され、代わりに最低価格を設定する合意が成立した。

メルケル政権の16年はドイツの産業界が活況を呈すると同時に、メルケル氏の政治力がEUの結束を可能にしていた。ところが、現在のショルツ政権は社会民主党、自由民主党、緑の党の連立でなかなか内部の足並みがそろわない中で景気後退2年目に突入し、来年には連邦議会選挙を控えていることから、まずはEUの政策よりも国内問題を優先せざるを得ない。

こうしたショルツ政権の内部がばらばらな状態を巡っては、EUの外交官から憤まんが聞こえてくる。欧州におけるドイツの影響力を弱め、EUの団結を損なっているというのがその理由だ。

EUはEV問題で引き続き中国と妥協できる線を模索すると約束しているが、ドイツの意見が異なることはEUの交渉力を低下させている。

市場調査会社ユーロインテリジェンスのアナリストチームは「ドイツと残りの(EU諸国)の溝は、個別の加盟国への外国による圧力に一枚岩の態度を示していくという欧州委にとって大事な取り組みの1つを台無しにしている」と記した。

緑の党出身のベーアボック氏がトップに立つドイツ外務省のある高官は、EUは中国の不公正で市場にダメージを与える措置を阻止するべきで、関税を選択肢から外してはならないと発言している。ショルツ政権内部の亀裂も露呈した形だ。 前途多難

政治的にまとまれないドイツが他の加盟国と同一歩調を取れなかったのは今回が初めてではない。3月には、企業寄りのドイツ自由民主党が強く反対したにもかかわらず、EU各国は企業に自社サプライチェーン(供給網)の監査を義務化する法案を支持。ドイツは採決で棄権した。(中略)

欧州改革センター(CER)のアシスタントディレクター、ザック・マイヤーズ氏は、追加関税を巡る論争は、ドイツがもうEUの通商政策を主導できない上、フランスの影響力もより限定されていることを物語ると分析。後者については、フォンデアライエン欧州委員長がフランス出身のブレトン委員を交代させ、後任者の権限を縮小したことが原因だとの見方を示した。

フォンデアライエン氏にしても、米国により接近して中国リスクの低減を図ろうとしているものの、ドイツとフランスの先導がなければ、せいぜい産業セクターごとの政策遂行と国際貿易ルールの尊重を通じて加盟国の支持を得るしかないだろう。

ロジウム・グループのシニアアドバイザー、ノア・バーキン氏は、欧州委は中国製EV向け追加関税で加盟国の賛成多数による支持を得たが、今後はドイツの後押しがなければ、中国に対して一貫したより懐疑的な政策を行っていくのは難しくなると警告した。

ドイツ国内で目先の視野の狭い問題が優先されている限り、欧州委は新たな対外経済政策の課題を推進するのに苦労を強いられるだろうと指摘している。【10月8日 ロイター】
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【ドイツ自動車の中国市場での苦戦】
“ドイツの自動車メーカーは売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでいる”ということですが、上記関税問題を抜きにしても、ドイツ自動車産業にとって中国市場の動向は厳しそうです。

ドイツ国内では、中国産自動車は好評のようです。かつてのように低価格が注目されるのではなく、中国産EVの技術力が評価されています。時代は変わっています。

****ドイツ人の約6割、中国ブランド車の購入を検討 独ADAC調査****
ドイツ最大の自動車関係団体、ドイツ自動車連盟(ADAC)がこのほど発表した調査結果によると、ドイツ人回答者の59%が中国製自動車の購入意向を示した。特に若年層の購入意欲が高く、30〜39才では74%、18〜29才では72%に上った。純電気自動車(BEV)に限れば、8割が中国製を選びたいと答えた。

中国のハイエンドモデルもドイツの消費者から評価されており、高級車ユーザーの約60%が中国ブランド車を購入する可能性を排除しないと回答した。 

中国ブランドを選ぶ理由については、ドイツ人回答者の83%がコストパフォーマンスを最大の理由とした。55%が革新的な技術、37%がデザインを挙げた。 

ADACが4月に発表した中国ブランド13車種を対象とする評価報告によると、中国車の多くの車種がユーロNCAP(欧州新車アセスメントプログラム)で最高評価を獲得し、中国のバッテリー技術が成熟し、ものづくりの質が良好であることが示された。【10月2日 新華社】
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その一方で、中国市場におけるドイツ車は・・・苦戦しているようです。

****BMWとベンツ、中国市場で販売台数が大幅減―独メディア****
2024年10月10日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ドイツの大手自動車メーカーBMWとメルセデス・ベンツがそれぞれ中国市場での販売台数が大幅に減少したと報じた。

記事は、BMWの今年7〜9月の中国市場における納車台数は前年同期比約30%減の14万8000台、ベンツも同13%減の約17万台になったと紹介。世界の他地域の市場に比べて顕著に業績が悪化しており、両ブランドにとって最も重要である中国市場の販売が疲弊していると評した。

そして、ベンツの関係者が中国市場について「全体的な需要が減少している。特に高級ブランドの需要低下が目立つ。また、電気自動車(EV)の価格下落が続いていることも中国での販売に影響した」と分析していることを紹介するとともに、中国での業績悪化に伴ってベンツが今年に入ってすでに2度にわたり利益が大幅に減少する可能性があるとの情報を発信していることを伝えた。

記事は、中国の自動車市場全体がここ数か月縮小を続けている一方で、中国政府による購入奨励措置によってEVに関しては逆に活況を呈していると紹介。ドイツブランドはこの状況から利益を得ることができていないとし、その原因が「中国のライバルによってより低価格で燃費が良く、経済的なモデルが提供されているからだ」と指摘した。

その上で、世界のEV大手BYD(中国)の9月におけるEVとハイブリッド車の合計販売台数が前年同期比45%増で41万8000台に達したほか、テスラ(米国)も9月の中国での販売台数が同66%増の7万2000台となったことを発表したと紹介。

一方で、化石燃料車メーカーの上海汽車は9月の販売台数が前年同時期から30%以上減少したと伝えている。【10月12日 レコードチャイナ】
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ドイツ自動車産業、ひいてはドイツ経済の苦境ぶりが窺えます。
では、日本経済は? と言えば、ドイツ同様かも。と言うか、冒頭【日経】にあるように、ドイツ経済が日本のような構造的経済不振に近づいている・・・ということでしょう。
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欧州  オーストリア総選挙で極右・自由党勝利 極右台頭は民主主義の危機か

2024-10-11 23:32:21 | 欧州情勢

(オーストリア総選挙で勝利を確実にし、演説する極右・自由党のキクル党首(中央)=ウィーンで2024年9月29日【10月1日 毎日】)

【オーストリア 極右政党・自由党が第1党に】
フランスでの国民連合の堅調ぶり、ドイツにおけるAfD(ドイツのための選択肢)の勢力拡大、イタリアのメローニ政権など、反移民などの右傾化、極右勢力の台頭が続く欧州にあって、9月29日に行われたオーストリア国民議会(下院、183議席)の総選挙で、極右政党の自由党が“暫定結果によると、自由党が前回2019年選挙から13ポイント増の得票率29.2%でトップ。ネハンマー首相率いる中道右派、国民党が11ポイント減の26.5%、野党の社会民主党が0.1ポイント減の21.0%で続いた。”【9月30日 共同】と勝利しました。

****極右が初の第1党=与党敗北も政権維持の公算―オーストリア総選挙****
オーストリアで29日、国民議会(下院、定数183)議員選挙が実施され、反移民を掲げる極右・自由党が3割弱の票を獲得して初めて第1党となった。ただ、他党は協力に否定的で、自由党主導の政権が誕生する可能性は低い。

キックル党首は「われわれは歴史の一部を記した」と支持者に語った。自由党は1956年に元ナチス親衛隊将校が創設。選挙戦では移民の送還強化や減税を訴えた。欧州連合(EU)に批判的で、ウクライナに侵攻するロシアに対する制裁に反対している。

与党の中道右派・国民党は敗北し、第2党に転落。しかし、連立交渉では主導権を握る見通しで、引き続き政権を率いる公算が大きい。【9月30日 時事】 
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他党が自由党との連立を嫌っていますので、連立交渉は難航しそうです。
“(自由党の)キクル氏はファン・デア・ベレン氏(大統領)に、従来の慣行に従って第1党に政権を樹立させるよう求めているが、ファン・デア・ベレン氏はそのような義務はないと反論。憲法の専門家も同氏の主張を支持している。”【10月1日 ロイター】とも。

ただ、“(国民党の現首相)ネハンマー氏は自由党のキクル党首が首相など中枢ポストに就くのであれば組まないとの考えを示している。両党は17年に国民党主導で連立政権を構築した。”【9月30日 共同】とのことですから、逆に言えば、“自由党のキクル党首が首相など中枢ポストに就かない”のであれば中道右派・国民党との連立もあり得るかも・・・・ということでしょうか。

自由党は1956年に元ナチス親衛隊将校が創設した政党で、極右色を薄めるフランスのルペン氏や、EUとも協調路線をとるイタリアのメローニ首相などと異なり、オーストリアの自由党キクル党首は自らをナチスの表現である「人民宰相」と呼ぶような“極右の中の極右”【10月10日 Newsweek】とも言われています。

【危機に瀕しているのは民主主義ではなく中間層の怒りに正面から向き合わないリベラリズム・・・との指摘】
極右勢力の台頭について、既存の政治エリートが地方で生活する労働者など有権者の声に共鳴していないことを理由にあげる指摘があります。

****欧州「極右」の勝利は“民主主義の危機”ではない…「リベラル政治家」は中間層の怒りと向き合うべき****
(中略)
極右勢力の台頭で政治が機能不全に陥りつつある欧州だが、根本の原因は何だろうか。

オランダ、フランス、ドイツなどと同じくオーストリアでも「表面化する移民問題に後押しされた」と見られているが、今回の選挙で自由党は、移民がほとんど居住していない農村部で特に票を伸ばしている。

オーストリアの専門家はこの現象について「自由党のメッセージの中核は移民ではなく、『エリートは有権者に共感していない』ということだ」と分析している。

高学歴のエリート層が牛耳る欧州連合(EU)は新自由主義的な政策を進める。対して地方で生活する労働者たちの間では、自分たちの政治的な意思が反映されていないという認識が広がっている。極右政党は彼らの被害者意識に寄り添ったことで勢力を拡大することができたというわけだ。

この分析が正しいとすれば、既存政党が移民政策を厳格化しても、極右政党から票を奪い返すことは困難だと言わざるを得ない。欧州でも米国と同様、政治の構図は左派と右派ではなく、上と下の対立に転じた感がある。

「政治エリート」に対する反発
(中略)
極右の台頭で民主主義の危機が叫ばれているが、筆者は危機に瀕しているのは民主主義ではなく、これまで政治を主導してきたリベラリズムだと考えている。

リベラリズムを信奉する政治家(リベラル政治家)は、移民などの積極的な受け入れや経済のグローバル化を重視するが、中間層の不満にあまり関心を示してこなかったからだ。

リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向き合わない限り、ドイツをはじめ欧州で民主主義の危機が発生するのは時間の問題なのではないだろうか。【10月10日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ただ、単純に有権者の声に寄り添う・・・ということでは、中道右派の国民党が移民に関する極右・自由党の姿勢を受け入れて強硬な姿勢を打ち出し、移民問題に関する国民党の政策は「自由党とほぼ区別がつかない」(保守系日刊紙プレッセ)といった状況にもなってきます。

【自由党勝利は単に既成政治への抗議ではなく、欧州で極右が普通の存在として受け入れられるようになった結果・・・との指摘も】
一方で、オーストリア有権者は単に従来の既成政党への批判票ということではなく、自由党・キクル党首の極右体質を理解したうえで自由党に投票している、そのように有権者が右傾化している・・・との指摘も。

****オーストリア総選挙で「ナチス礼賛」の自由党が第1党、背景にコロナ禍で政府の規制より「個人の自由」を擁護****
<欧州を席巻する極右勢力は今や「体制側」の存在だ。最近もドイツ東部やオランダで極右が躍進しており、オーストリアもその流れに加わった形。欧州の右傾化が新たな次元に>

欧州を席巻する右傾化の波が9月29日、さらに加速した。オーストリアの総選挙で極右政党「自由党」が初めて第1党に躍り出たのだ。

イタリアやスロバキア、クロアチア、ハンガリーなど多くのEU加盟国で反自由主義かつ権威主義的な主張を掲げる極右政党が既存の政治体制を揺さぶっている。最近もドイツ東部やオランダで極右が躍進しており、オーストリアもその流れに加わった形だ。(中略)

自由党は今や同国政界の中心的な存在だ。キクルは選挙期間中に「オーストリアの要塞化」を約束。移民の流入を阻止し、外国ルーツの市民の「再移住」(つまり国外追放)を推進し、教育制度を一新し、公共メディアを中立化させると訴えた。

自由党の躍進はコロナ禍のおかげでもある。自由党は当時、政府の規制より個人の自由を擁護する唯一の存在だった。コロナ関連の陰謀論も、非合理的な主張を展開する自由党の追い風となった。さらに政府自身も、4度の全土ロックダウンや違反者への厳罰を強行して不興を買った。

自由党は欧州極右の歴史の中でも特異な立場にある。2000年に国民党との連立政権に加わると、冷戦時代から続く保守と社会民主主義の二大政党制が崩壊。欧州で極右が普通の存在として受け入れられる契機となった。

当時、同党のカリスマ党首イェルク・ハイダーが首相に就任する可能性もあった。この前代未聞の事態を受け、EU諸国は同国に制裁を科した。民主主義を脅かす政党を容認すれば、各国で類似勢力が台頭すると懸念したのだ。

平均的な人が極右に投票
実際、その懸念は現実のものとなった。自由党が17年に再び政権に返り咲いたときには、もはやEUからの反発は起きなかった。(中略)

過激さを増した自由党が政権を担う可能性が欧州で容認されている現状は、新たな時代の兆候だ。大規模な抗議運動も制裁を求める声もない。(中略)

オーストリアの右傾化と欧州全体への影響は表層的ではない。この選挙結果を「抗議票」や漠然とした政治批判と見なすべきではない。

キクルは極右の中の極右であり、人々の醜悪な本能を刺激する。彼の勝利は、欧州の極右勢力が1990年代から描き続けてきたシナリオに新たな1ページを書き加えた。

ウィーンの研究機関、オーストリア・レジスタンス資料センターのアンドレアス・クラネビッター所長は、「この数十年で、今ほど国民の間で人種差別主義や反ユダヤ主義が高まり、外国人を嫌悪し、移民に敵意を抱く人が増えている時はない」と述べる。

クラネビッターによれば、自由党はこの傾向に拍車をかけ、「人民宰相」や「民族共同体」といったナチス的な用語を党綱領に再び採用している。「これらは右派の過激派の間で通じている隠語で、新しい支持者にも容認する人や無関心な人が増えている。そこには女性や専門職、大卒者、若者も含まれる」

ドイツのレーゲンスブルク大学のオーストリア歴史学者であるウルフ・ブルンバウアーも、自由党支持者は抗議票を投じたわけではないと考えている。

「今日、自由党はエスタブリッシュメントの政党だ。オーストリア国民は、自由党が人種差別主義的で権威主義的であり、キクルが憎悪に満ちた親ロシアで反移民であることを十分理解している。彼らに投票する人の大半はイデオロギー的な信念からだ。オーストリア社会の平均的な人をほぼ反映している」

自由党の台頭は、オーストリアの伝統的な保守政党である国民党を変貌させた。社会世論の変化の結果にせよ、自由党がそれを利用することに成功した結果にせよ、国民党は自由党に対抗していないどころか、移民に関する同党の姿勢を受け入れている。

国民党党首のカール・ネーハマー首相は今年に入り、難民申請者に対して国内居住の最初の5年間は社会給付の支給を拒否するなど、保守派の有権者に向けたポピュリスト的政策を相次ぎ打ち出した。
「われわれが望むのは、働けない人のための社会福祉制度であり、働きたくない人のための制度ではない」とネーハマーは移民を批判して述べた。

同国の保守系日刊紙プレッセは、移民問題に関する国民党の政策は「自由党とほぼ区別がつかない」とし、「そうした政策の支持者は皆、以前から自由党に投票している」と指摘した。国民党が今回失った得票率の11ポイントは、大部分が自由党に流れた。

パンデミックが自由党の再浮上に重要な役割を果たしたとの指摘もある。オーストリアが21年後半にワクチン接種を義務化すると、キクルは「今日からオーストリアは独裁国家だ」とぶち上げた。自由党の支持率は30%前後に上昇し、同党はスキャンダルによる低迷から脱した。(中略)

2000年と同様、自由党はいま再びヨーロッパの極右の主唱者の仲間入りをし、かつて信頼を失った極右政党が政治文化全体を覆し、傷つけることが可能であることを証明した。この教えは、中欧の他の親ロシア派のポピュリストに刻まれるだろう。【10月10日 Newsweek】
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上記指摘によれば、有権者は極右勢力の“極右体質”を容認しつつあるということになり、まさに“民主主義の危機”が進行しているのかも。

そうした有権者が極右勢力の“極右体質”を容認する背景には、「リベラル政治家」が有権者の声に正面から向き合っていないということもあるでしょうから、二つの指摘はまったく別物ではないでしょうが、有権者が極右勢力の“極右体質”をどこまで容認しているのかについては差があります。
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台湾  中国の圧力・脅威が強まるなかでの変化 中国の台湾侵攻を題材にしたドラマも

2024-10-10 23:15:03 | 東アジア

(【7月27日 阿猴新聞網】 中国の台湾侵攻を題材にした映画「零日攻擊 ZERO DAY」)

【頼清徳総統 敢えて踏み込む「中華民国」の歴史】
台湾と中国の間の緊張関係は相変わらずですが、台湾の建国記念日に相当する「双十節」を前に行われた関連行事での「中華民国」の歴史に言及した頼清徳総統のあいさつが注目されています。

*****「中国は台湾の祖国になり得ない」、記念日行事で頼総統*****
台湾の頼清徳総統は5日、中華人民共和国よりも台湾の方が歴史が長いため、中華人民共和国は台湾の人々の祖国にはなり得ないと述べた。

10月10日の台湾の建国記念日に相当する「双十節」を前に行われた関連行事で頼氏はあいさつし、中華人民共和国が10月1日に建国75周年を迎え、数日後には中華民国(台湾)が建国113周年を迎えることに言及した。

「年数という観点で言えば、中華人民共和国が中華民国の人々の『祖国』になることは絶対に不可能だ」とした上で、「中華人民共和国の75歳以上の人々にとっては、むしろ中華民国が祖国になるかもしれない」と述べた。【10月7日 ロイター】
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上記記事にあるような単なる「年数」の問題にとどまらず、そもそも「中華民国」は大陸における国民党・蒋介石が主導してきたもので、そうした歴史とは距離を置き台湾の独自性を主張する民進党にとってはやや馴染めない概念でもありました。

頼清徳総統が敢えて「中華民国」の歴史に言及したのは、「台湾独立論」にとってのタブーに踏み込んだ、世論統合に向けた現実的な対応とも見られています。

また、野党・国民党の歴史観に敢えて踏み込んだ「変化球」とも評されています。

****台湾の頼総統、あえて「中華民国」前面に 中国の統一圧力に対抗、注目集める「祖国論」****
台湾の頼清徳総統が「中華人民共和国(中国)は、中華民国(台湾)の人々の祖国には絶対になり得ない」と発言し注目を集めている。

与党、民主進歩党の支持層が距離を置く「中華民国」という概念をあえて前面に出し、中国による台湾統一の主張に反論しているのが特徴だ。「台湾独立」論に否定的な中間層を取り込み、世論を団結させて習近平政権の統一圧力に対抗する狙いがあるとみられる。

頼氏は5日の「双十節」(建国記念日に相当)の祝賀イベントで演説。1911年に始まった辛亥革命で誕生した中華民国は、49年に成立した中国共産党の中華人民共和国よりも歴史が長いと指摘し、同国発足以前に生まれた75歳以上の中国人は「中華民国が祖国になり得る」とも述べた。

頼氏の主張は「台湾は祖国の懐にかえるべきだ」と訴える中国側の論理破綻を突いたものだ。一方、中国側が「頑固な台湾独立派」と敵視する頼氏が自ら、旧来の「台湾独立」論を否定した側面もある。

中国共産党と台湾の最大野党、中国国民党に共通する「国共内戦が完全には終結していない」という歴史観は、一つの中国という理念の根拠になっている。

これに対して「台湾独立」派は従来、49年に台湾に逃れてきた外来政権の中華民国を消滅させて台湾共和国を建国し、「一つの中国」という枠組みから明確に離脱する理想を掲げていた。

しかし現実的には、「台湾独立」に向けた憲法改正に必要な有権者の過半数の支持を得るのは困難だ。

台湾の清華大栄誉講座教授、小笠原欣幸氏は「頼氏の現状認識は中国との統一か独立かではなく、台湾の現状を守り切れるか、圧力を強める中国に統一されてしまうかだ」と指摘。

「台湾の世論が割れたままでは中国に隙をつかれるので、国民党の看板である中華民国を利用して統一反対という多数派の世論をまとめ、中国からの圧力をかわすというのが頼政権の狙いではないか」と分析する。

国民党からは批判の声も出ている。同党の馬英九元政権下で対外政策の立案に関わった政治大教授の黄奎博氏は、「中華人民共和国が中華民国の人々の祖国にはなり得ない」という頼氏の主張は「歴史的事実」と認める一方、頼氏が「中華民国と中国大陸との民族、法理、歴史的関係」を切り捨てていると批判した。

国民党は頼氏の発言を全面否定するわけにもいかず、対応に苦慮しているもようだ。小笠原氏は「頼氏の『変化球』が狙い通りに中間層の有権者の支持を広げることにつながるのか注目したい」と指摘する。【10月9日 産経】
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10日の双十節の式典では、頼清徳総統は「中華人民共和国(中国)には台湾を代表する権利がない」と表明、蔡英文前総統の「現状維持」路線継続を明言する一方で、蔡氏より強い表現で中台は対等だと主張しています。

****頼総統「中国は台湾代表せず」=併合反対と強調―双十節で演説****
台湾の頼清徳総統は10日、辛亥革命を記念する「双十節」(建国記念日)の式典で演説し、中台関係について「中華人民共和国(中国)には台湾を代表する権利がない」と表明した。また「国家主権を堅持し、侵犯と併合を許さない」と強調した。

「祖国統一」を掲げる中国は頼氏を「台湾独立派」と敵視しており、演説に反発し軍事的威嚇を強める可能性がある。

今年5月に就任した頼氏が双十節で演説するのは初めて。頼氏は、台湾と中国は「互いに隷属しない」と重ねて強調した。

台湾国防部(国防省)によると、中国は10日にロケットを発射し、台湾の防空識別圏(ADIZ)上空を通過する見通し。台湾メディアによれば、頼政権は、演説を受けて中国が台湾周辺で大規模軍事演習を実施することを警戒している。

頼氏は中台関係に関し、蔡英文前総統の「現状維持」路線継続を明言する一方で、蔡氏より強い表現で中台は対等だと主張している。今月5日には「中国は絶対に台湾の祖国になり得ない」と強調。これに対し、中国政府は「対立を激化させようとする邪悪な意図を再び露呈させた」と強く反発した。

式典への出席を予定していた野党・国民党の馬英九元総統は10日朝、「頼総統は台湾独立を追求している」として突如欠席を表明した。【10月10日 時事】
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これに対し、中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は10日の記者会見で、「頑固で無知な『台湾独立』の立場を再びさらけ出した」と反発、「台湾は中国の領土の不可分の一部だ」と主張して「独立を画策して挑発するのは破滅への道だ」と威圧しています。

【中国の台湾侵攻の話題に踏み込む台湾エンターテインメント】
「タブー」に踏み込んだ現実対応ということでは、台湾のエンターテインメントにもそうした兆しが。
これまで台湾エンターテインメントは中国の台湾侵攻の話題を意図的に避けていた感がありますが、最近、そこに踏み込んだ作品が登場するようになっているようです。

****台湾ではドラマなどでの「タブー破り」が次々に、武力統一への恐怖を反映―香港メディア****
香港メディアの香港01は5日、2025年に放送予定のテレビドラマ「零日攻擊 ZERO DAY」を紹介する記事を発表した。同ドラマは台湾で初めて放送される、中国人民解放軍の台湾侵攻を想定して創作されたフィクションで、米国メディアは「悪夢が業界を刺激してタブーが打破された」と評したという。

「零日攻擊 ZERO DAY」は11月に撮影が終了し、25年に放送される予定だ。出演は高橋一生、連俞涵、杜汶沢など。中国人民解放軍が台湾を軍事攻撃して戦争状態になった場合に、台湾社会が直面する可能性のある事態を描く。

総統選を経て新たな総統の就任日が近づく時期に、中国軍が台湾南東の海域で対潜哨戒機が撃墜されたとして、捜索および救助が必要だという名目で台湾を海上封鎖し、さらに上陸作戦を開始する。台湾の対外航運は完全に途絶し、株価暴落と銀行の取り付け騒ぎが発生する。

ネット配信された「零日攻擊 ZERO DAY」の予告編の再生回数は、すでに100万回を突破した。

香港01記事は、長期にわたり、台湾を訪れる観光客は台湾について、大陸側の脅威に直面していても驚くほど楽観的という印象を持ち続けてきたとする見方を紹介。

さらに、中国政府は台湾に対する主権を主張し、武力行使の可能性を放棄していないにもかかわらず、台湾の娯楽業界は大陸側の台湾侵攻の話題を意図的に避けてきたと主張した。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは同作品を、「中国大陸の台湾武力統一の悪夢が、台湾の娯楽産業にタブーを破る作品を作らせた」と評した。

「零日攻擊 ZERO DAY」は制作にあたり、総統府内での撮影を許可され、台湾政府・文化部の資金援助も受けた。そのため、政権党である民進党の支持を獲得するための政治宣伝の作品との批判が出た。しかし李遠文化部長は、政治宣伝映画はこのような恐ろしい光景を描くことはできないと述べて否定した。

李部長はさらに、「自らの最大の恐怖に立ち向かうことができる社会こそ、健全な社会だ」と述べて、台湾の文化産業が論争のあるテーマに触れ始めたことを歓迎する考えを示した。

台湾ではドラマの「零日攻擊 ZERO DAY」以外に、大陸側の台湾侵攻を扱う劇画やゲームも注目されるようになった。例えば劇画「燃える西太平洋」は、在任中のトランプ米大統領が、米軍を派遣して台湾に侵攻した中国軍の撃退を支援する物語だ。

同作品作者の梁紹先氏によると、18年にネット上で連載を開始した際には、反応はあまりなかった。しかし、22年に当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問したことを受けて中国軍が台湾を包囲するような方式で軍事演習を行ったことで、状況は一転した。販売数はそれ以前の7倍に達したという。

また、作家の朱悠勲氏は、最近になり自分が審査員を務める一部の作文コンテストでは、応募者である若者が戦争に関する作品を提出することが増えていると説明し、「かつては見たことがなかった」と表現した。朱氏によると、台湾で発表される文学作品でも同様な傾向があり、今後も続くと考えられるという。

「零日攻擊 ZERO DAY」の脚本家兼統括プロデューサーの鄭心媚氏は、大陸による侵攻に関連する新たな創作ブームは台湾の民衆の心理の変化が関係していると述べた。

鄭氏は、台湾の人々は表面上は脅威を感じていないように見えるが、実際には恐怖が存在しているとの見方を示した。

鄭氏はさらに、台湾がますます米国寄りになるにつれて、中国大陸側の北京の台湾に対する態度は一層強硬になっていると指摘。大陸側と台湾の経済の絆はすでに断裂しており、かつては多くの台湾人が中国大陸側との経済の提携に期待を寄せていたが、すでにそのような気持ちはそれほど強くないという。【10月6日 レコードチャイナ】
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頼清徳総統が敢えて「中華民国」の歴史に言及したのも、エンターテインメントが中国の台湾侵攻の話題を正面から取り上げるようになったのも、中国の圧力・脅威が強まるなかでの現実直視の姿勢のあらわれかも。

【今後5年間に中国が台湾を侵攻する可能性は「低い・非常に低い」と回答した人が6割】
なお、最新の世論調査によれば、今後5年間に中国が台湾を侵攻する可能性は「低い・非常に低い」と回答した人が6割に上っています。

この数字が“驚くほど楽観的”なものかどうか、その裏で実際には恐怖が存在しているのかどうか・・・・

****台湾人の6割、今後5年で中国侵攻受ける可能性低いと回答=調査****
台湾国防部傘下のシンクタンク、国防安全研究院(INDSR)が9日公表した世論調査で、今後5年間に中国が台湾を侵攻する可能性は「低い・非常に低い」と回答した人が6割に上った。 調査は先月、約1200人を対象に実施。

INDSRのクリスティーナ・チェン研究員は大半の台湾人が中国の領土的野心を深刻な脅威と見なしているが、これが台湾侵攻につながるとは考えていないと指摘した。

INDSRは、台湾人が脅威を認識しながらも冷静で理性的であり続けていると分析した。

回答者の67%以上は中国が攻めてきたら反撃すると回答。台湾軍に自衛能力があるかにどうかについては意見が二分された。

INDSRの李冠成研究員は、台湾軍が世論の信頼を高めるために防衛能力を強化し続けるべきだと指摘。

世論調査では、米国が台湾の防衛に協力するかどうかについても意見が分かれた。

回答者の約74%が米政府が食料や医療品、兵器を提供することで「間接的に」台湾を助けるだろうとし、米軍が部隊を派遣して介入するとの回答は52%にとどまった。【10月9日 ロイター】
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