孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  結婚・出産に関する価値観の変化 横行する代理出産の“闇ビジネス”も

2024-10-09 22:16:40 | 中国

(病院のベッドで眠る新生児=2月、中国甘粛省蘭州市【10月9日 共同】)

【結婚と出産の奨励に躍起になる当局】
中国では1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な人数を示す「合計特殊出生率」が2022年に1.09に下がったと報じられています。少子化・人口減少が大問題となっている日本の同数値が1.30(2021年)ですから、中国の深刻な状況がわかります。

出生数の基盤になる婚姻件数も減少傾向にあること、当局は離婚を難しくしようとしていることなどは、8月25日ブログ“中国  止まらない人口減少・婚姻数減少 当局は離婚申請厳格化も 背景に若者の就労環境の悪化”でも取り上げました。

中国当局は結婚と出産の奨励に躍起になっています。

****中国衛生当局、「適齢」での結婚・出産を奨励へ****
中国の国家衛生健康委員会(NHC)は、少子化が進み、人口減少に歯止めがかからない中、「適切な年齢」での結婚と出産を奨励することに注力する。中国共産党系メディアの環球時報が12日、NHCの高官の話として伝えた。

NHCは若者を「結婚、出産、家族に対する前向きな視点」に導くため、子育ての分担も呼びかける。NHC高官は、それが「結婚と出産を巡る新しい文化」を育むのに役立つとの見方を示した。

中国の法律では、男性は22歳以降、女性は20歳以降でなければ結婚できない。

中国では2023年に人口が2年連続で減少し、出生数が記録的な低水準に落ち込んだため、政府はより多くの女性に出産を奨励している。

多くの女性は、高い育児費用や、結婚したくない、キャリアを中断したくないなどの理由から、子どもを持たないことを選択している。伝統的な社会では、女性はいまだに育児や介護の主な担い手と見なされ、男女差別が蔓延している。

公式データによると、今年上半期の婚姻件数は13年以来の最低水準に落ち込んだ。

中国の人口減少の主な原因は1980年から2015年にかけて実施された一人っ子政策と高額な教育費だ。【9月13日 ロイター】
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【結婚・出産に関する価値観の変化】
こうした少子化の背景には、高額な教育費や高い失業率に見られる現在の若者の経済的苦境などももちろんありますが、そもそも結婚や出産に関する価値観が大きく変わってきていることも重要な要素です。

****「子どもをひとりで育てる経済的余裕があるなら、夫はなぜ必要?」婚姻数が1980年以降“最低”の中国 結婚しない道を選んだ女性たちの本音****
今年、建国75年を迎えた中国。もっとも変わったのは、女性の生き方かもしれません。
「結婚はしたくないけど子どもは欲しい」。
自ら進んでシングルマザーの道を選んだ女性たちを取材しました。

結婚しないのは「男性に対する失望感」
北京市内で暮らすナナさん(仮名)。デザイナーをしながら7歳の長女を育てています。父親にあたる男性とは、あえて結婚しませんでした。

ナナさん(仮名・30代)
「結婚しないのはまだ人生を一緒に過ごしたいと思う相手が見つかっていないからかもしれません。経済的に自立した女性が増え、男性に対する失望感もあり、結婚せずに子どもを育てる女性はこれから増えていくでしょう」
「男性に対する失望感」。

いったいどんなことなんでしょう? 
ナナさん(仮名・30代)  
「育児に関わらない父親は私の周りにもたくさんいます。もし、家事を手伝ったり、子どもの面倒を見てくれないのであれば、(夫の存在は)もう一人手のかかる子どもがいるようなもので、それならば結婚しても意味がないと思うのです。私は自分の子どもをひとりで育てる経済的余裕がある。ひとりでできるならなぜ夫が必要なのか、と思うのです」

長らく女性は早く結婚し、後継ぎの男の子を産むことや夫の両親の面倒を見ることなどが求められていました。しかし今、その家族観に変化が起きています。

中国メディアによりますと今年の婚姻数は1980年以降、最低となる見通しです。

なぜ中国の若者は結婚しないのか?子育てにかかる費用が高いことに加え女性の高学歴化とともに、経済的に自立し、自由な生き方を選ぶ女性が増えていることが背景にあるとみられます。

ナナさん(仮名・30代)
「以前は女性は子どもを育て、義理の両親に孝行しなくてはならないと考えられていました。25歳を過ぎて独身だと、親や近所の人から『あの子は結婚できないのかしら』という視線を浴び、プレッシャーをうけたでしょう。しかし今の若者は個人主義的で、自由を追求したいのです」

代理出産で双子の母に…37歳女性の選択
ユエさんは結婚せず、代理出産で子どもを持つ、という道を選びました。

ユエさん(仮名・37)     
「37歳の今になるまで、子どもが欲しいかどうかわからなかったんです。でも歳をとると(子育てが)難しくなるかもしれない。それと、妊娠している間、自分のできることが制限されてしまうかもしれない。そのストレスを考えたら代理出産の方が楽だと思ったのです。あと、子どもを持つこととパートナーを持つことは別だと考えているのもありますね」

代理出産にかかった費用はおよそ2000万円。しかし、キャリアを犠牲にすることもなく、支払った金額に見合う幸せを得たといいます。

ユエさん(仮名・37)
「昔は女性は経済的に自立していませんでしたから、男性に依存せざるを得ませんでした。しかし今は男性より稼ぐ女性もいますので男性に依存する必要もないし、結婚しないという選択肢も選べるようになったのです」

ある調査では、結婚の予定はないと答えた女性は44%に上るといいます(中国共青団調査・2021年)。

ユエさんの祖父母はお見合い結婚。両親は恋愛結婚。しかし今は女性が多様な生き方を選べる、新たな時代になったと考えています。

ユエさん(仮名・37)
「私たちの世代は結婚するのかしないのか、どんな人生を送りたいのかを自分で選ぶのであって「どうすべきか」ではない。これが一番大きな変化だと思います。私たちの時代は、より自己実現が追求できるようになったと思います」

今回取材に応じてくれた2人の女性。いずれも匿名での取材になりました。まだまだ自由な生き方を公言するのがはばかられるのもまた現実です。

女性たちの変化は、今後中国をどのように変えていくのでしょうか。【10月9日 TBS NEWS DIG】
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【代理出産の“闇ビジネス”】
価値観の変化はともかく、“代理出産にかかった費用はおよそ2000万円”・・・これだけのカネが動く、しかも規制が厳しいとなると、闇ビジネスも生まれます。

****中国、代理出産の業者調査 闇ビジネスが横行****
中国山東省青島市のバイオ企業が国内法令で禁じられている代理出産をひそかにビジネスとして展開し、不正に利益を上げていた疑惑を中国メディアが報じた。地元当局は9日までに調査に乗り出した。

子ども1人当たりの出産費用は75万元(約1500万円)で、20万元上乗せすれば性別を選べたという。

中国では少子高齢化が加速する一方で、不妊に悩む夫婦や富裕層を相手に代理出産の闇ビジネスが横行している。高額な収入を目当てに代理母になる若い女性も多いとされ、倫理上の問題に加え、女性の搾取につながるとの批判もある。

バイオ企業は青島市内の産婦人科医らと結託して代理出産ビジネスを展開。子どもの戸籍登録に必要な出生証明は約5万元で販売していたとされ、地元当局は8月下旬に調査チームの結成を発表した。

中国保健当局は2001年に「生殖技術の安全を守る」ことを目的とした管理規定を施行し、医療機関が代理出産を手がけることを禁じた。報道によると、違反した医療機関やその関係者は罰金などの処罰を受けるが、代理母や依頼者は刑事責任を問われない。【10月9日 共同】
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「管理規則」では「配偶子、受精卵、胎の売買は、いかなる形式であれ禁止する。 医療機関および医療従事者は、あらゆる形式での代理出産技術も実施してはならない」と規定されています。


しかし、需要があるところには・・・ということで“闇ビジネス”が生じますが、“闇”であるかぎり、安全性や契約面で様々な問題も生じます。

中国だけでなく日本も少子化の現実は同じであり、また、価値観の変化も同様です。
国内での“闇”が難しければ、規制が緩い海外での代理出産ということも。

「結婚も夫もいらない、でも子供は欲しい」といった価値観の変化、あるいは同性婚の増加といった現実の変化を踏まえて、従来の価値観に引きずられるのではなく、改めて、何が許されるのか、何が許されないのか、一から検討する必要があるように思えます。
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アメリカ  災害対策、支持率の男女差から見た大統領選挙

2024-10-08 22:11:23 | アメリカ

(被災地を視察するハリス副大統領とトランプ前大統領【10月4日 日テレNEWS】)

【接戦 虚偽情報など過激さに拍車をかけるトランプ氏】
11月5日の投票日まであとひと月を切ったアメリカ大統領選挙は、依然としてどちらに転ぶか分からない接戦となっています。

支持率の世論調査はいろいろありますが、今日目にしたものが↓。

****ハリス氏のリード、3ポイントに縮小 経済でトランプ氏優位=調査****
ロイター/イプソスが実施した11月の米大統領選に関する最新世論調査によると、民主党候補のハリス副大統領の支持率が46%で、共和党候補のトランプ前大統領の43%をわずかに3ポイント上回った。

調査は今月7日までの4日間に実施した。先月20─23日の調査ではハリス氏がトランプ氏を6ポイントリードしていた。

経済問題でトランプ氏を支持する声が多かったほか、不法移民が犯罪を犯しやすいとのトランプ氏の主張に一部の有権者が共鳴した可能性がある。多くの専門家は同氏の主張に根拠はないと指摘している。

調査の誤差は約3ポイント。

有権者が最大の課題として挙げたのは経済で、44%が「生活費」への取り組みでトランプ氏が優れていると答えた。ハリス氏が優れているとの回答は38%だった。

次期大統領が取り組むべき経済問題については、生活費が最重要との回答が全体の約70%を占め、「雇用」「税金」「暮らしの向上」との回答はごくわずかだった。いずれの課題でもハリス氏よりトランプ氏を支持する声が多かったが、富裕層と一般市民の格差解消については、42%対35%でハリス氏の支持がトランプ氏を上回った。

移民問題に対する懸念も、トランプ氏の支持拡大につながっているとみられる。有権者の53%は「不法入国した移民は公共の安全にとって危険だ」との意見に賛成。反対は41%だった。

一方、知性の鋭さについてはハリス氏を支持する有権者が多く、「ハリス氏は知的な鋭敏さがあり、課題に対処できる」との意見に同意するとの回答は55%、トランプ氏については46%だった。

激戦州での支持率は互角で、多くが誤差の範囲内だった。調査は登録有権者1076人を含む全米の成人1272人を対象にオンラインで実施した。【10月8日 ロイター】
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上記調査結果はひとつの事例であり、また、アメリカ大統領選挙においては全国支持率より激戦州の動向が結果を左右するということもあります。

その前提で見ても、互いに相手を引き離せない接戦が続いているのは間違いないでしょう。

“不法移民が犯罪を犯しやすいとのトランプ氏の主張”については、「ハイチ移民がペットの犬・猫を食べている」といった発言の他、最近では「移民が“悪い遺伝子”を持ち込んでいる」といった根拠のない発言も。

この種の発言は、根拠があろうがなかろうが、不法移民への嫌悪感・不安を抱える者には肯定的に受け入れやすく、そこがトランプ氏の狙い目でしょう。

バイデン政権の災害対応を不法移民問題と結びつけて、虚偽の情報を広める主張も。

****トランプ氏、接戦にいら立ち 中傷、虚偽情報など過激さに拍車****
11月5日の米大統領選まで1カ月を切る中、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)の過激な言動に拍車がかかっている。

「政策論争に集中してほしい」という共和党や陣営幹部の願い通りには動かず、対抗馬である民主党のカマラ・ハリス副大統領(59)を中傷。バイデン政権の災害対応を不法移民問題と結びつけて、虚偽の情報を広めている。世論調査で接戦が続く中、思うように運ばない選挙戦へのいら立ちも透けて見える。

「ハリスとバイデン(大統領)は、連邦緊急事態管理局(FEMA)のほとんど全ての予算を不法移民に与えた」。トランプ氏は7日に自身のソーシャルメディアへの投稿でこう主張した。9月下旬に米南部で200人以上の死者が出たハリケーン「へリーン」への政府の対応を批判する文脈だが、主張内容には根拠がない。

トランプ氏は10月上旬から「FEMAの災害対応の予算が、不法移民のための住宅整備に転用された」と虚偽の内容を主張している。FEMAは税関・国境警備局(CBP)に協力して移民向けのシェルターを運営しているが、事業にはCBPの予算があてられており、FEMAの災害対応の予算とは別枠だ。

FEMAは、この主張は「虚偽だ」と反論したが、トランプ氏は「10億ドル(約1480億円)がFEMAから盗まれ、不法移民に使われた」と言動を過激化させている。

トランプ氏には、災害対応への批判を不法移民の問題と結びつけることで、バイデン政権のナンバー2であるハリス氏へのダメージを増幅させたい思惑がある。

被害が大きかった南部ノースカロライナ、ジョージア両州は、大統領選の勝敗を左右する接戦州でもあり、有権者の不満をたきつける効果も狙っているとみられる。南部には別のハリケーン「ミルトン」が接近中で、トランプ氏がさらに批判を強める可能性がある。

しかし、虚偽や誇張を避けて「自然災害に対応すべきFEMAが、不法移民の支援に関わっていることを、国民は不満に思っている」(共和党のジョンソン連邦下院議長)などと正面から批判することも可能で、トランプ氏の言動の過激さは際立っている。

トランプ氏は9月下旬以降、ハリス氏への個人攻撃も強めている。自身の言動を棚に上げて、ハリス氏を「ウソつき」と批判し、「生来の精神障害がある」とまで中傷した。陣営や共和党内には「過激な言動は、まだ投票先を決めていない無党派層や穏健派に忌避される」との懸念があるが、トランプ氏本人はどこ吹く風だ。【10月8日 毎日】
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【大統領選挙に大きく影響する災害対応】
大統領選挙終盤でのハリケーン災害は、単に自然災害というだけでなく大統領選挙に大きな影響を与えます。

2005年の「カトリーナ」の際には、当時のブッシュ政権の対応が後手にまわり批判を浴びました。それが、2006年の中間選挙での共和党の惨敗に影響を与えた可能性があります。他方で、2012年の大統領選直前のハリケーン「サンディ」の場合には、オバマ大統領の対応が評価され、同年の再選の一因になったともいわれています。【10月4日 NRIより】

ハリケーン「ヘリーン」は9月26日夜、勢力が5段階で2番目に強い「カテゴリー4」のハリケーンとしてフロリダ州北西部に上陸、その後は熱帯低気圧に弱まったものの、洪水や建物の倒壊など甚大な被害を引き起こしました。

10月4日時点の報道では死者が200人を超え、行方不明者が数百人いる可能性が報じられており、2005年に米南部を襲った「カトリーナ」以来の犠牲者数になる模様です。被害の中心はノースカロライナ州です。

上記のような災害対策と大統領選挙の関係を踏まえて、トランプ氏はバイデン政権の対応を批判しています。

*****ハリケーン「ヘリーン」死者、118人に トランプ氏が対応批判****
米南東部を襲ったハリケーン「ヘリーン」による死者は、9月30日時点で118人に達した。ハリケーン被害をめぐってはドナルド・トランプ前大統領が政府の対応が遅いと批判しているのに対し、ホワイトハウスが反論するなど、大統領選を控え論点の一つとなっている。

南東部の複数の州では依然、数百人の安否が確認されておらず、救急隊による懸命な捜索活動が続けられている。ジョー・バイデン大統領は、大きな被害を受けたノースカロライナ州を2日に訪れて救援活動を視察すると発表した。

トランプ氏は9月30日に激戦州のジョージアを訪問。大量の救援物資を届けると約束した。一方で、バイデン氏はハリケーン被害に対処せず、週末はデラウェア州の自宅で「寝ていた」と批判した。

バイデン氏は大統領執務室で記者会見し、週末は自宅で「ずっと働いていた」と反論した。またトランプ氏について、連邦政府がハリケーンによる被害を無視し、同氏の支持者を支援していないという根拠のない主張をしているとし、「彼はうそをついている」と非難。(後略) 【10月1日 AFP】
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一方、ハリス米副大統領は5日、ハリケーン「ヘリーン」の襲来で大規模な被害を受けたノースカロライナ州を訪問し、救援活動担当者やボランティアらと面会した。米大統領選挙の激戦州である同州でヘリーンの被災者を支援する姿勢をアピールしています。

共和党で大統領候補を争い、次期も期待されるフロリダ州デサンティス州知事とのバトルも。

****ハリス氏、電話拒否に「無責任」 災害対応で、フロリダ知事に不満****
米大統領選の民主党候補ハリス副大統領は7日、ハリケーン「ヘリーン」による被害を受けた南部フロリダ州の被災地対応を話し合おうと共和党のデサンティス州知事に電話したが、会話を拒否されたとして「全く無責任だ」と不満をあらわにした。記者団に語った。

これに先立ち、NBCテレビはデサンティス氏がハリス氏からの電話について「政治的だ」として拒否したと報じていた。党派対立が被災地支援にも影響を与えかねない状況になっている。

ハリス氏はデサンティス氏の対応について「危機的な状況にもかかわらず政治的な駆け引きをするのは自分勝手だ」と反発した。【10月8日 共同】
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こうした人間界の「政治ゲーム」を知ってか知らずか、そのフロリダに再び強力ハリケーン「ミルトン」が襲来します。

****アメリカ南部 “最強”ハリケーンが再び上陸の恐れ フロリダ半島を横断か****
ハリケーンで甚大な被害を受けたばかりのアメリカ南部では、最強レベルの勢力にまで発達した新たなハリケーンが再び上陸する恐れが出てきました。

アメリカの国立ハリケーンセンターは7日、メキシコ湾にあるハリケーン「ミルトン」が5段階で勢力が最も強い「カテゴリー5」になったと発表しました。「ミルトン」は9日にも上陸して、フロリダ半島を西から東へ横断するとみられ、大規模な高潮や強風へ警戒するよう呼びかけられています。

フロリダ州には9月、ハリケーン「へリーン」が上陸し甚大な被害が出たばかりで、バイデン大統領はフロリダ州に非常事態宣言を出しました。すでに高速道路では避難する住民の車で渋滞が発生しています。(中略)

ハリス副大統領も住民に対して、「避難命令が出た場合は必ず従ってほしい」と呼びかけました。【10月8日 ANNニュース)
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【「男性VS女性」の様相も】
両候補の支持率を左右する要素としは、経済対策、移民問題、中絶問題、外交政策等々いろいろありますが、興味深いのは男女の支持率の差が今回はこれまで以上に明瞭になっていることです。

****米大統領選はまさに「男性VS女性」、広がる男女間の支持率−女性支持伸ばすハリスと挽回へ奔走するトランプ****
男性優位のトランプ候補VS女性の支持広げるハリス候補――。投票日まで1カ月を切った米大統領選では、両候補をめぐる男女間の得票差が勝敗の決め手となる可能性が高まってきた。米メディアは「史上かつてない男女間の戦いの様相」とまで評している。

男性支持伸ばすトランプ、女性支持伸ばすハリス
米NBCテレビが去る9月22日発表した有権者動向調査結果によると、女性有権者層での支持率ではハリス候補が58%、トランプ候補が37%と、ハリス候補が21%の大差をつけている。

しかし逆に、男性支持率ではトランプ候補52%に対し、ハリス候補は40%にとどまり、トランプ氏が12%リードしている。

ABCテレビが去る9月4日、公表した調査結果では、女性支持率でハリス候補が13%、男性支持率でトランプ候補が5%それぞれ相手候補を上回っており、その後3週間でともにその差がさらに大きく開いた可能性がある。

男女間での両候補支持率は、各テレビ局調査によって多少のばらつきがあるものの、どの調査にも共通する傾向として、①ハリス、トランプ両候補ともに、民主、共和それぞれの党大会で候補指名獲得後、有権者全体の支持率に大きな変化はない、②しかし、ハリス候補はその後、女性支持率で大きく伸ばし、逆にトランプ候補の男性支持率も8%前後も高くなった――ことが指摘されるという。

男女間の支持率ギャップについて、2020年大統領選を振り返ると、バイデン氏は女性獲得票でトランプ氏を13%上回り、男性票では両者ほぼ互角だった。また、16年選挙では、トランプ氏が男性獲得票で12%の差をつけ勝利したものの、女性獲得票では、ヒラリー・クリントン候補に同じ12%のリードを許した。

しかし、今回は、ハリス候補が女性有権者間でトランプ候補を21%引き離す一方、男性間ではトランプ氏がハリス氏に12%の差をつける構図となっている。まさに「男性対女性の大統領選挙(boys versus girls election)」(ABCテレビ・ニュース解説者)といわれるゆえんだ。

とりわけ今回は、女性層のハリス傾斜が目立つ。女性候補だけに、ある程度、女性支持が高まるのは、16年大統領選でのクリントン候補の場合を見ても当然と言える。だが、今年の場合、ハリス氏に対する女性票がかつてなく集まりつつ背景として、以下のような点が指摘されている

〈黒人女性支持層のうねり〉
非営利研究機関「Highland Project」が最近、黒人女性有権者を対象に実施した調査結果によると、ハリス候補について65%が「絶対支持」、16%が「一定支持」、合わせて81%が好意的に受け止めていることが明らかになった。これに対し、トランプ候補についての支持はわずか3%にとどまった。

ハリス候補を支持する理由として、トランプ大統領になった場合、「米国民主主義が脅威にさらされる」「人種差別が拡大する」「生活が脅かされる」などの点を挙げている。(中略)

〈白人女性動向の変化〉
米有権者を男女、人種別にグループ化した場合、「白人女性」は全体の40%を占め、最大票田となっており、その投票動向はこれまでの大統領選においても特に重視されてきた。

16年大統領選では、クリントン候補が女性全体では54%得票したのに対し、トランプ候補は42%にとどまった。しかし、白人女性得票率では、逆にトランプ候補が52%、クリントン候補43%となり、トランプ候補が9%上回った。

米政治評論家たちの当時の解説によると、クリントン候補の最大の敗因が「白人女性の間での支持が広がらなかったため」とされた。(中略)

しかし、今回選挙では、そのカギとなる白人女性の投票動向に微妙な変化が見られる。その一例として、米メディアが大きく報じたのが、銃砲規制強化を求める全米組織「Moms Demand Action(ママたち、立ち上がれ!)」など、いくつかの白人女性グループによるハリス候補支持呼びかけの動きだ。

同組織は去る7月26日、米大統領選で急遽、ハリス氏がバイデン大統領に代わり民主党候補に躍り出た機会をとらえ、オンラインの「ズーム」で会員たちに「トランプ絶対阻止」「ハリス支持」を呼びかけたところ、1夜のうちに、全米各州から16万4000人が賛同、1日だけでハリス選挙組織向け政治献金も850万ドルの巨額に達した。

その後も、230人以上に上る退役エリート将校たちが、あいついで「民主主義ルール侵犯」などを理由に「トランプ不支持」「ハリス支持」声明を出したのに合わせ、夫人たちの間でも同様の動きが伝えられており、白人女性全体としてのトランプ支持率は16年選挙と比較しても、今後さらに低下の可能性が大きい。

〈ヤング女性層の圧倒的支持〉
今回、女性支持率でハリス候補がトランプ候補を大きく引き離し始めた最大要因は、ヤング世代の動向だ。
米ハーバード大学政治大学院は、18~29歳の有権者を対象に去る9月4~16日にかけて実施した支持率調査結果を発表した。それによると、男性ではハリス候補53%に対しトランプ候補36%と、ハリス候補が17%差をつけている。しかしそれ以上に、注目されるのが同じ年齢層の女性の動向だ。

ハリス支持は70%にも達する一方、トランプ支持は23%と低迷、その差は47%と、男性間ギャップの2倍以上となっている。(中略)

固い男性支持を見せるトランプ
他方、ジェンダー・ギャップのもう一方の男性支持では、今のところ、トランプ候補がハリス候補に一定の差を保っている。 その最大要因は、男性有権者間での「女性候補」に対する根強い抵抗感だ。

20年大統領選での男性得票率を見ると、トランプ候補(49%)、バイデン候補(48%)と、ほぼ互角だった。しかし、16年選挙の男性得票率では、トランプ候補(53%)が女性のクリントン候補(41%)に大差をつけ、結局、この差が勝利につながった。

今回も、トランプ候補が多くのスキャンダルを抱えながらも、男性支持率でハリス候補を上回っているのは、共和党男性支持者層の間で、“女性アレルギー”が根強く存在していることを物語っている。(中略)

女性支持率の大きなギャップをいかに埋めるかがトランプ陣営にとって、焦眉の急となってきた。 議会共和党幹部の間では、「このまま女性有権者の支持離れが続けば命取りになる」と危機感を強め、トランプ氏に対し、これまでの女性蔑視発言の自制などを求める動きが目立ち始めている。

トランプ候補は窮余の一策として、去る1日、女性有権者の最大関心事のひとつとなっている人工中絶問題に関連し、大統領に返り咲いた場合、全米での中絶禁止措置に対する「拒否権発動」の意向を表明した。

トランプ氏はこれまで、全米での中絶禁止措置についてはあいまいな態度をとり続け、去る8月下旬、J.D. バンス共和党副大統領候補が「トランプ氏は(大統領として)全米中絶禁止には拒否権を発動するだろう」と語った際にも、「そんな話はしていない」としてバンス氏を批判していた。

それが、投票日が迫りつつあることを念頭に、トランプ氏が中絶容認を求める女性層向けに一定の譲歩を示したと受け止められている。

支持基盤である超保守派とのジレンマ
ただその一方で、トランプ氏の重要な支持基盤である南部諸州の超保守派は、女性層に関心の高い中絶問題や銃砲所持規制などでの妥協には断固反対の態度をとり続けているため、トランプ陣営としてもここにきて、あからさま軌道修正に踏み切れない事情もある。(後略)【10月8日 WEDGE】
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男性票・保守票の離反のリスクをどこまでおかして、女性票獲得にどこまでウィングをのばすか・・・選対関係者を悩ます問題です。
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ハイチ  ギャングが跋扈する破綻国家ハイチ 国連は多国籍部隊を派遣し治安回復を目指す

2024-10-07 23:27:56 | ラテンアメリカ

(ギャングのリーダー、「バーベキュー」ことジミー・シュリジエ氏がメンバーを引き連れポルトープランスの路上をパトロールする=2月22日撮影 【3月20日 CNN】)

【ギャング暴動 評議会 アンリ首相辞任】
カリブ海の破綻国家ハイチの状況、これまでの経緯などについては、3月4日ブログ“ハイチ  破綻国家ハイチが破綻した背景・理由を歴史的にひも解く”で取り上げました。

当時、ハイチでは治安が悪化し、暴動を起こした武装ギャング集団がアンリ首相の退陣を求めていました。

ギャングが首相退陣を求める・・・・奇妙な話ですが、ハイチのギャングは単なる麻薬等にからむストリートギャングではなく、その発生から政府権力と密接に絡んでいます。

そしてギャングの中心人物は、“モイーズ大統領亡き後は、自らを、ハイチの政治のエリートと戦い国家による不平等な現状を変える革命家と称してポルトープランスや周辺都市を占領し、ハイチの都市の多くを支配している。”とのこと。

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正統性をもつ政府が不在の中、現在のハイチはギャングや自警団が実質的な権力を握っており、冒頭で述べたような有様となっている。ギャング達は首都ポルトープランスの大部分や周辺都市を占領し、各地で銃撃戦や暴力行為、誘拐を繰り返し、人々の社会生活を恐怖で支配している。実際、首都では約2万人もの人々が住む場所を追われ避難生活を余儀なくされている。

また、裁判所を占領したギャングもある。彼らは二度にわたって裁判所の建物を破壊し、国の司法制度を崩壊に追い込んで自分たちの悪事を裁かせないようにもしている。

そんな暴虐を尽くすギャング達の起源は、1959年にフランソワ・デュバリエ大統領が創設した軍事組織、国家治安義勇隊(VNS)であった。彼らはデュバリエ親子の政権時代に秘密警察として結成され、その間は街で横暴を働いていたが、1986年のデュバリエ政権の失脚と共に解散する。

その後1995年にアリスティド大統領がハイチの軍隊を解散させた際にギャングとして再結集し、それ以降も選挙や政治の利権獲得などを目的とする政治家たちと繋がりを持ち、勢力を強めていった。

こうしたギャング達の中で最も注目されている人物が、G9のリーダーであるジミー・「バーベキュー」・シェリジエ氏だ。彼は元警察官であり、2018年に71人を虐殺するラサリーヌ虐殺という大事件に関与したとして一気にその名が世界中に知られることとなった。

その後、2021年に彼が結成したのがG9だ。G9とは、首都ポルトープランスの9つのギャングをシェリジエ氏が統合した組織である。

また、モイーズ大統領の政権の時には、政府から資金や武器、車両などの援助を受けていたことが明らかになるなど、政府と密接につながっていた。そしてモイーズ大統領亡き後は、自らを、ハイチの政治のエリートと戦い国家による不平等な現状を変える革命家と称してポルトープランスや周辺都市を占領し、ハイチの都市の多くを支配している。(中略)

ただ、このような武装勢力がハイチに及ぼす影響は、ネガティブなものだけではない。例えば、ギャングと呼ばれているグループの中には、悪事を行うのではなく政府による統治がない中で自警団の役割を担って自分たちのコミュニティを守る者がいる。【2023年1月19日 セキグチユウダイ氏 GLOBAL NEWS VIEW】
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多くの権力エリートはギャングとの関係があり、ギャングを私的用心棒に雇っています。

統治能力を失い、海外から帰国できずにいるアンリ首相にアメリカも圧力をかけていました。

アンリ首相は、2021年にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、大統領に代わりに元首を務めてきました。

****米、ハイチ首相に政治的移行を要請 武装集団は「内戦」警告****
カリブ海の島国ハイチで治安が悪化し、暴動を起こした武装ギャング集団がアンリ首相の退陣を求めている問題で、米政府は6日、アンリ氏に政治的な移行を迅速に進めるよう求めていると発表した。

国務省のミラー報道官は記者団に「アンリ氏に退陣を求めたり、退陣に向けて圧力をかけたりしているわけではなく、政治的な移行を迅速に進めるように促している」と説明。

米国が求めているのは強力で包括的な統治機構であり、こうした体制はハイチが緊急性を持って多国籍治安部隊に備え、自由な選挙に道を開く上で支えになると述べた。

ハイチは刑務所から数千人が脱獄するなどして治安が急速に悪化。外遊していたアンリ氏は5日以降、米自治領プエルトリコに滞在しており、帰国を控えているか帰国できずにいるとみられる。

武装ギャング集団のトップは多国籍治安部隊に対して団結して戦うと示唆。アンリ氏が退陣せず、国際社会がアンリ氏を支持し続ければ、ハイチは内戦状態に陥り、最終的に大量虐殺が起きると警告した。【3月7日 ロイター】
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こうした国際的圧力もあって、アンリ首相は3月11日、辞表を提出。

****ハイチ首相が辞任の意向を表明 ギャング武装集団が政府施設襲い非常事態宣言の中****
武装集団が政府施設などを襲い非常事態宣言が出されているカリブ海の島国、ハイチのアンリ首相が辞任する意向を明らかにしました。

ハイチでは先月末以降武装したギャング集団がアンリ首相の退陣を求めて刑務所などを襲い多数の死者が出るなど治安が急速に悪化、非常事態宣言が出されています。

アンリ首相は外遊先のケニアから帰国できずアメリカ自治領プエルトリコに滞在しているということですが11日、声明を発表し暫定の大統領評議会が設立されることを条件に辞任する意向を明らかにしました。

アメリカなどが事態を収拾するため政治的な解決を求めたことに応えたものとみられます。ただし暫定の政治態勢が樹立されるまでは首相の職にとどまる考えを示しているということです。

一方、ギャング集団は首相が辞任しない場合さらなる暴力に訴えるとしていて予断を許さない状況です。

この日、周辺諸国の地域共同体「カリブ共同体」はジャマイカで緊急会合を開いて対応を協議。アメリカのブリンケン国務長官はハイチの治安回復に向け派遣される国連主導の多国籍部隊に追加支援として1億ドル、日本円でおよそ147億円を拠出すると表明したほか3300万ドルの人道支援も発表しています。【3月12日 TBS NEWS DIG】
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【治安悪化は続く】
治安状況は急速に悪化していました。

****ハイチで急速に治安悪化 ギャングの襲撃などにより3か月間で1500人以上が犠牲に****
中米ハイチでは治安が急速に悪化していて、ギャングの襲撃などにより、今年に入ってから1500人以上が犠牲になっています。

国連人権高等弁務官事務所は28日、中米カリブ海の島国・ハイチにおける、ここ3か月間での死者が1500人以上に上ると発表しました。

ハイチでは、先月末以降、ギャング集団が刑務所を襲い4000人以上の受刑者が脱走するなど治安が急速に悪化し、暴力行為が頻発しています。

警察署や商店が襲われたり、性暴力被害や身代金狙いの誘拐が多発したりしていると報告されていて、国連は「壊滅的な状況に対処するため、即時かつ大胆な行動をとるよう」国際社会に求めています。

11日には、ギャング集団から退陣を求められていたアンリ首相が辞任の意向を表明するなど混乱が深まっていて、ハイチ政府は国連に治安部隊の派遣を要請していますが、事態収拾の見通しは立っていません。

ハイチ政府は、国民の半数にあたるおよそ500万人が食糧不足に不安を抱えており、うち160万人は急性栄養不良の可能性が高まっていると危機を訴えています。【3月29日 TBS NEWS DIG】
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4月2日、国連のターク人権高等弁務官は、人権理事会に向けたビデオメッセージでハイチ情勢に言及し、政府機能の欠如により「殺人と誘拐が急増して人権侵害が前例のない規模で起きている」と述べています。

その後、4月12日に政権移行に向けた評議会が設立されました。評議会はすぐに設置されるとの見通しもありましたが、ギャングによる候補者への脅迫、政党間の意見不一致などで人選が進まず設立がおくれました。

****ハイチ、暫定統治組織が始動=26年2月までに政権発足****
ギャングによる支配で政情不安が広がるカリブ海の島国ハイチで25日、新政権発足まで国を統治する「暫定大統領会議」のメンバー7人とオブザーバー2人が就任を宣誓した。早期に治安を安定化させ、2026年2月までに大統領選挙を経て政権発足を目指す。

これに先立ち、国の混乱収拾に向けて3月に辞意を表明していたアンリ首相が、滞在先の米国から辞表を提出。24日に、ボワベール経済・財務相が暫定首相に任命された。メディア報道によると、ボワベール氏は25日の式典で「国が直面する大きな危機の解決に向け視界が開かれた」と語った。

ハイチでは今年に入りギャングの暴力が激化。国連機関によれば、1〜3月に1500人以上が殺害された。【4月26日 時事】
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26年2月までに大統領選挙・・・随分時間を要するようです。
治安は劣悪な状態が続いています。

****ハイチで治安が急速に悪化、1月〜3月の死傷者は少なくとも2500人超える*****
中米カリブ海の島国ハイチでは、武装集団の抗争などにより治安が急速に悪化しています。今年1月から3月までの死傷者は少なくとも2500人を超え、被害が拡大しています。

ハイチでは2021年に大統領が武装集団に暗殺されて以降、政情不安が続いていましたが、今年に入って武装集団による攻撃や抗争がさらに激化し、治安が急速に悪化しています。

国連ハイチ統合事務所が19日に発表した報告書によりますと、今年1月から3月までの間に、少なくとも2505人が死亡またはケガをしていて、死傷者数は直前の3か月と比べて53%以上、増加したということです。

また、同じく1月から3月までの間に、少なくとも438人が身代金目的で誘拐されています。
対立する集団のいるエリアなどで武装集団が女性や少女に性的暴行を加える事案も報告されていて、複数の被害者が暴行後に殺害されています。

◇◇◇
武装集団は公共機関やインフラに対し、大規模で組織的な攻撃を行っていて、2月末の時点で少なくとも22の警察施設が略奪や放火の被害に遭っています。

また、首都ポルトープランスを発着する国内線・国際線は、空港周辺での銃撃が相次ぎ、3月初旬からすべて運航を停止しています。こうした状況に加え、武装集団が首都へ続く幹線道路を占拠しているため、医療品や食料などが輸送できない状況に陥っています。

国連人口基金はハイチで2月以降、およそ1万5000人が避難生活を余儀なくされ、さらに国内各地ですでに36万2000人が避難民となっていると指摘しています。(後略)【4月21日 日テレNEWS】
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【国連 ケニアなどの多国籍部隊】
こうした治安状況を改善すべく、6月には多国籍部隊が派遣されました。

****ハイチへの多国籍部隊、ケニアが400人派遣へ ギャングの暴力激化****
ギャングの暴力に苦しむカリブ海の島国ハイチを巡り、米国務省は24日、治安回復に向けてケニアが主導する多国籍部隊の第1陣が週内に現地に派遣されると明らかにした。AP通信によると、まずケニアの警官400人が参加する。

国連安全保障理事会は昨年10月、ハイチへ多国籍部隊を派遣する権限を加盟国に与える決議を採択した。だが、ケニアの裁判所が両国間で合意に達していないことを理由に派遣を遅らせる決定を下すなどしたため、手続きが遅れていた。

ケニアは警官1000人を派遣する予定で、残り600人も今後送られる。多国籍部隊にはカリブ海の島国ジャマイカやバハマなども参加し、派遣人数は2500人規模になる。(後略)【6月25日 毎日】
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バイデン大統領はアメリカがこの多国籍部隊に3億ドル、日本円でおよそ479億円の資金を供与することを明らかにしたうえで、各国にも支援を呼び掛けていく考えを示しました。

ただ、過去にもハイチに国連PKOが派遣されたことがありますが、PKOの隊員たちによる多数の性暴力が発覚したり、2010年には隊員たちによってコレラが持ち込まれたりしたことが明らかになり、1万人以上もの人々を死に至らしめた・・・といったことも。

そういう過去もあってPKOではなく多国籍部隊でしょうか。多国籍部隊だから何が変わるのかは知りませんが。

7月29日には、6月に就任したばかりのハイチのガリー・コニーユ暫定首相が、訪問先の病院近くで銃撃される事件も。幸い同氏は無事でした。

国連安保理は多国籍部隊の任期を1年延長してハイチの治安回復にのぞむ構えです。

****安保理、ハイチ治安回復へ多国籍部隊の任期を1年延長 2500人まで増員の見通し****
国連安全保障理事会は9月30日、政情不安でギャング犯罪が横行するカリブ海の島国ハイチの安定化に向け、加盟国が派遣する多国籍部隊の任期を10月2日から1年間延長する決議を全15理事国の賛成で採択した。

ギャングが首都ポルトープランスの大半を支配する中、多国籍部隊(410人)は警官400人を派遣するケニアが主導している。部隊の総数は今後、約2500人まで増員される見通しだ。

決議に先立ち、ハイチ暫定大統領評議会のエドガールブラン議長は9月26日の総会一般討論演説で、部隊の資金強化を訴えて「平和維持活動(PKO)への転換」を求めていたが、安保理の事前協議で見送られた。

2004〜17年のPKO派遣中、要員が性的暴行をしたり、部隊が汚水を川へ流しコレラが蔓延(まんえん)したりした経過がある。

トーマスグリーンフィールド米国連大使は30日の決議採択後、任期延長を「多国籍部隊のイメージを立て直す機会にしなければならない」と述べた。米政府は25日、ハイチ国家警察向けに1億6千万ドル(約230億円)の支援を発表した。

ハイチでは21年にモイーズ大統領(当時)が武装集団に暗殺された後、大地震が発生し、治安が急速に悪化した。今年2月、ギャングはアンリ首相のケニア訪問の隙を突き、警察署や空港、刑務所などを襲撃、受刑者約4千人が脱走する騒ぎとなった。【10月1日 産経】
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現状では、あまり改善はしていないようにも。混乱は地方にも拡大。

****ハイチで市民70人死亡 ギャングが銃撃、放火も 無法状態続く****
カリブ海の島国ハイチ中部アルティボニット県で3日未明、ギャングによる襲撃があり、少なくとも70人が死亡した。犠牲者のうち約10人が女性で、3人の幼児も含まれる。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、ギャングの構成員らは自動小銃で住民を襲い、住宅45戸と車34台に放火したという。

ハイチでは2021年7月にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、主に首都ポルトープランスで武装したギャングによる暴力が横行し、無法状態が続いている。国連は首都に多国籍部隊を派遣しているが、混乱が地方都市にも広がれば、さらなる対応を迫られる可能性がある。

現場はポルトープランスから北西約70キロのアルティボニット県ポンソンデ。国連のドゥジャリク事務総長報道官は4日の記者会見で、多数のけが人も出ており、少なくとも3000人が避難したと述べた。

国連の安全保障理事会は昨年10月、加盟国に多国籍部隊を派遣する権限を与える決議を採択。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今年6月にケニアやジャマイカなどから警察官ら計410人が派遣された。だが、アルティボニット県には拠点がないという。【10月5日 毎日】
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【隣国ドミニカ ハイチからの不法移民、強制送還強化】
こういう状況ですから、当然に多くの難民がはっせいしています。アメリカ大統領選挙でもトランプ前大統領が根拠もなく「ハイチ移民が(白人住民の)隣人の飼っているペットの犬や猫を殺して食べている」と主張して選挙戦への影響が注目されています。

ハイチはイスパニョーラ島の西側3分の1、残りの東側はドミニカ。ということでドミニカへの難民が多数発生していますが、ドミニカはハイチからの不法移民の強制送還を強化するとのことです。

****ドミニカ共和国、不法滞在のハイチ人毎週1万人を強制送還****
カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島の東3分の2を占めるドミニカ共和国は2日、同島の西3分の1を占める隣国ハイチからの移民取り締まりの一環として、毎週1万人の不法滞在のハイチ人を強制送還する計画を明らかにした。

オメロ・フィゲロア大統領報道官は、「この作戦の狙いは、ドミニカ社会で確認された過剰な移民人口を削減することにある」と説明。強制送還は「直ちに」開始され、「人権を尊重する厳格な手続き」に従って実施されると述べた。

ドミニカ政府は、国土の大部分をギャングに占拠されているハイチの安定を回復させる国際社会の試みが「遅れている」ためにこの決定を下したと述べた。

ルイス・アビナデル大統領は「わが国は国連で警告した。国連および(ハイチ支援を)約束したすべての国が、ハイチで責任ある行動を取るか、さもなければ、わが国が行動する」と述べた。

アビナデル氏は2020年の就任以来、貧困と暴力がまん延するハイチ出身の移民に対して強硬姿勢を取っている。国境には164キロのコンクリート壁を建設。今年5月に再選された際には壁を延長すると約束した。

アビナデル政権は、強制送還にも力を入れており、2023年だけでもハイチ出身の不法滞在者25万人を追放した。 【10月4日 AFP】
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なお、フランス語と西アフリカ系言語が混成した独特のクレオール語を話すハイチ人はスペイン語南米、ポルトガル語ブラジルでは現地に馴染めず差別を受けたりもするようで、結果アメリカを目指す難民が多いようです。ドミニカはスペイン語。

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ガザでの戦闘開始から明日で1年 拡大する戦火 イスラエルに対し国際社会の意思を行動で示すべき

2024-10-06 22:34:33 | パレスチナ

(イスラエルによる攻撃が激化し、ガザ地区ジャバリヤから避難する人たち=6日【10月6日 共同】)

【ガザでの戦闘開始から1年 拡大する戦火 増え続ける犠牲者】
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で1年になりますが、戦闘は止まず、レバノンへの地上侵攻及び大規模空爆、更にはイランへの報復をめぐる緊張と戦火は拡大の様相を呈しており、それにともなって犠牲者も増加の一途をたどっています。

****ガザ戦闘1年、死者4万人 レバノンも侵攻、戦火拡大****
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから7日で1年。ガザ保健当局によるとガザ側死者は1年間で4万1800人を超え、ガザ人口の9割に当たる190万人以上が避難生活を続ける。

停戦交渉が難航する中、イスラエルは9月30日、ハマスと共闘する親イラン民兵組織ヒズボラ掃討を掲げ隣国レバノンに地上侵攻。

イランはイスラエルをミサイル攻撃するなど戦火は中東各地に拡大し、出口は見えない状態だ。

ガザ戦闘は昨年10月7日、ハマスによる奇襲で始まった。イスラエル側死者は約1200人。ネタニヤフ政権は直ちにガザ空爆を開始。昨年10月下旬、イスラエル軍はガザ北部から地上侵攻して徐々に南下し、今夏までにほぼ全域を掌握した。

女性や子どもも含めた犠牲者はガザ人口の約2%に当たり、国際社会から非難の声が高まった。

ガザは境界封鎖によって食料不足が深刻化し、餓死者も出た。感染症も広がった。軍は「人道地区」を設定して住民に退避要求したが、人道地区への攻撃も相次ぐ。【10月6日 共同】
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*****ガザ建物59%損壊、農地も激減 「生き地獄」と国連総長*****
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は7日で1年。軍はガザ全域をほぼ掌握した。9月下旬時点での衛星画像のデータ分析では、建物の59%が損壊され、農地も68%が被害に遭った。

食料不足で餓死者も出ており、国連のグテレス事務総長は「住民が生き地獄にいる」と警鐘を鳴らす。

米オレゴン州立大のジャモン・バンデンホーク氏らが地球観測衛星の画像データで建物被害を分析した。軍は昨年10月下旬に地上侵攻を始め、北部から徐々に南下。ガザ地区の約28万7千棟のうち59%が破壊され、北部ガザ市に限ると損壊された建物は74%に上る。最南部ラファも47%。【10月6日 共同】
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【攻撃の手を緩めないイスラエル・ネタニヤフ首相】
こうした状況でもイスラエルは攻撃の手を緩めていません。

****ベイルート、一晩に25回空爆 イスラエル軍、人口密集地を攻撃*****
イスラエル軍は5日深夜から6日にかけ、レバノンの首都ベイルート南部を約25回にわたり空爆した。レバノン国営通信が伝えた。空港近くの医療用倉庫やガソリンスタンドなどに大きな被害が出た。

軍は住宅の地下に親イラン民兵組織ヒズボラの武器製造施設や武器庫があるとして、人口密集地への攻撃を正当化した。

レバノン当局によると、5日は23人が死亡、90人以上が負傷した。1年間の死者は2千人以上になった。

イスラエル軍は5日、レバノン南部の病院に隣接したモスク内にあるヒズボラの拠点も空爆したと表明した。軍報道官はレバノンに地上侵攻した9月30日以降、ヒズボラ戦闘員ら約440人を殺害したと述べた。

イスラエルのネタニヤフ首相は5日の声明で、イランによる1日の弾道ミサイル攻撃に対し「イスラエルには自衛や反撃の義務と権利があり、われわれは実行する」と宣言した。軍は「深刻で重大」な対応を検討中と表明。

米中央軍のクリラ司令官が5日イスラエル入りし、軍幹部らと攻撃先を協議したもようだ。【10月6日 共同】
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****イスラエル首相がイランに“報復宣言” レバノンへの攻撃も続く 中東全域が緊迫化****
イスラエルのネタニヤフ首相がイランへの報復を改めて明言しました、イスラエルはレバノンへの攻撃も続けています。

ネタニヤフ首相は、5日、イランから受けた攻撃について、「史上最大の弾道ミサイル攻撃で、このような攻撃を容認できる国はない」とした上で「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利がある」と述べ、報復を明言しました。

地元メディアは、アメリカ軍の幹部がイスラエルを訪問し、イランへの報復攻撃について協議したと伝えています。(後略)【10月6日 TBS NEWS DIG】
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アメリカではトランプ前大統領がイラン核施設攻撃を主張してイスラエルの攻撃を煽っています。

****米トランプ前大統領、イランの核施設「攻撃すべき」 バイデン大統領はイラン石油施設の攻撃に否定的****
アメリカのバイデン大統領は、イスラエルがイランへの報復措置として石油施設を攻撃することについて否定的な考えを示しました。一方、トランプ前大統領は4日、イランの核施設への攻撃に反対したバイデン氏の考えを否定しました。

バイデン大統領「イスラエルはイランをどのように攻撃するか、まだ結論を出していない。議論中だ。私なら油田への攻撃よりも、他の選択肢を考えるだろう」

バイデン大統領は4日、イスラエルはイランからのミサイル攻撃に対する報復措置について、まだ結論は出していないとした上で、石油施設への攻撃に否定的な考えを示しました。バイデン氏は2日には、イランの核施設を攻撃することにも反対だと明言しています。

トランプ前大統領「彼(バイデン大統領)はイランについて聞かれたときに、まず核施設を攻撃し、その他のことは後で考えると答えるべきだった」

一方、トランプ前大統領は4日、選挙集会の中で「核兵器は最大のリスクだ」とした上で、「まず核施設を攻撃し、その他のことは後で考えると答えるべきだった」と述べ、核施設への攻撃に反対したバイデン氏の考えを否定しました。【10月5日 日テレNEWS】
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核施設はもちろん、国家収入の根幹の石油施設攻撃もイランとの全面戦争の引き金を引きかねないということでバイデン大統領はこれに反対はしていますが、イスラエル支持の立場は変えず、武器支援も続ける構えです。

【フランス・マクロン大統領 ガザで使用される武器についてイスラエルへの輸出を停止を提唱】
こうしたなかでフランス・マクロン大統領がガザで使用される武器についてイスラエルへの輸出を停止すべきとの考えを示しています。

****仏大統領、ガザで使用の武器禁輸呼びかけ イスラエル反発****
フランスのマクロン大統領は5日、パレスチナ自治区ガザで使用される武器について、紛争の政治的解決に向けた取り組みの一環として、イスラエルへの輸出を停止すべきとの考えを示した。

イスラエルのネタニヤフ首相は強く反発し、マクロン氏やイスラエルへの武器禁輸を求める他の西側首脳は「恥ずべきだ」と非難。「イスラエルは彼らの支援があろうとなかろうと勝利する」と述べた。

マクロン氏は仏ラジオで、優先事項は「政治的解決に戻り、ガザでの戦闘に使用される武器を停止することだ。フランスは出荷していない」と発言。

また「紛争拡大の回避がわれわれの優先事項だ。レバノンの人々が犠牲になってはならない。レバノンがもう一つのガザになってはならない」と述べた。【10月6日 ロイター】
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****ネタニヤフ首相、マクロン仏大統領を「恥知らず」と非難…軍事支援なくても戦闘継続を強調****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は5日の声明で、イスラエルへの武器供与停止を呼びかけたマクロン仏大統領を名指しして、「恥知らずめ」と非難した。

各国からの軍事支援がなくても、戦闘を続ける方針を強調した。

AFP通信によると、マクロン氏は5日、仏ラジオのインタビューで、「政治的解決に戻るため、パレスチナ自治区ガザで使われる武器の提供をやめるべきだ」と発言した。ネタニヤフ氏はこれを非難し、「支援がなくても我々は勝利する」と述べ、戦闘を継続する姿勢を鮮明にした。【10月6日 読売】
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ネタニヤフ首相は「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利がある」という立場で、ガザそしてレバノンを攻撃し、イランとも対峙していますが、「自国を防衛し、これらの攻撃に対応する義務と権利」があるとしても、そのために、逃げまどう住民を、避難先に身を寄せる避難民を、現状に何もかかわっていない子供たちを爆弾で吹き飛ばしていい権利はありません。

イスラエル国民の命が重いのと同じように、パレスチナ住民やレバノン住民の命も重いものです。

もしイスラエル国民を守るためなら、ハマスやヒズボラ攻撃のためには、パレスチナ住民やレバノン住民を吹き飛ばしてかまわないと考えるなら、それはパレスチナ住民やレバノン住民の命を軽視するものであり、かつてユダヤ人が経験したジェノサイドにも通じる考えです。

復讐の炎に焼かれるとき人の理性は失われます。

本来であれば同盟国アメリカのバイデン大統領がネタニヤフ首相の頬をひっぱたいても、その目をさまさせるべきところですが、大統領選挙におけるユダヤ社会からの支持を失いたくないという事情で、それはできない模様。

であれば、マクロン大統領が言うように、アメリカ抜きでも国際社会の意思をネタニヤフ首相とイスラエル国民に、厳しい具体的行動をもって、はっきりと伝えるべきでしょう。

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西アフリカ  武装集団襲撃で600人死亡 国際的にあまり注目されることもない虐殺の現実

2024-10-05 22:38:07 | アフリカ

(マリ 武装組織空港襲撃 大統領専用機燃やす【9月18日 ABEMA】)

【米仏が撤退し、ロシアが勢力拡大という話はよく聞くが・・・】
マリ、ブルキナファソ、ニジェールの西アフリカが国際的に国際関係の面で語られるのは、この地域では軍事クーデターが起き、軍事政権と対立するフランス・アメリカが撤退し、民間軍事会社ワグネルを先陣とするロシアが影響力を拡大しているという話。

****アフリカ・サヘルの政情不安****
アフリカ大陸の北部サハラ砂漠の南で、半乾燥地域のことをサヘルというが、そこにはセネガル、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、スーダン、南スーダン、エリトリアという国々がある。(中略)

今、このサヘルで旧宗主国のフランスやアメリカに代わって、ロシアがプレゼンスを高めている。

この地域では、国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた。

そのために治安が悪化し、国民の不満が高まったが、民主派政権は過激派テロ組織の鎮圧に失敗し、統治能力の欠如を示した。そこで、軍部がクーデターを起こしたのである。

マリでは2020年8月に軍部が反乱し、民主的に選ばれたケイタ大統領を追放し、ゴイタ大佐が2021年5月に大統領に就任した。ブルキナファソでは、2022年1月に軍事クーデターでカボレ大統領が失脚した。

ニジェールでは、2023年7月、軍部がクーデターを起こした。首謀者のアブドゥハーマン・チアニ大統領警護隊長は、親欧米派のモハメド・バズム大統領を追放し、憲法を停止し、自ら国のトップに就任した。

これらの軍事クーデターの背後には、ワグネルを軍事政権の傭兵として活動させるロシアの存在がある。ニジェールはウランの有数な産出国であり、EUのウラン輸入の約24%を占める最大の供給国である。また、マリもブルキナファッソも金を産出するなど、資源に恵まれている。ロシアは、その資源も自由に入手する。

これらの国々では、旧宗主国のフランスへの反感が強く、駐留フランス軍の安全が確保できなくなった。そこで、マクロン大統領は、ニジェールから約1500人の仏軍を昨年12月に撤退させた。今年の4月には、約1000人の米軍も全てニジェールから撤退した。米仏に代わってロシアが居座っているのである。(後略)
【8月15日 現代ビジネス 舛添要一“「ゼレンスキーは《最悪の選択》をした」ロシア越境攻撃を仕掛けたウクライナが、「アメリカ・フランスに見放される」運命にある理由】
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【国際的にあまり注目されることもない虐殺の現実】
“国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた”・・・その現実は“勢力を拡大”と簡単に片づけるにはあまりしも悲惨です。

住民を襲う虐殺・暴力はイスラム系過激派のテロだけでなく、少数民族をテロ組織と同一視する政府軍やロシア兵による攻撃もあります。

ウクライナやパレスチナでの犠牲には多くの目が向けられますが、西アフリカにおけるイスラム過激派のテロや政府軍・ロシア兵による攻撃の具体事例はあまり語られることはありません。

****「ウクライナやガザと同じことが…マリの実態知って、虐殺止めて」現地ジャーナリストが国際社会にSOS****
軍事政権下にある西アフリカのマリで、十数万人の少数民族らが隣国モーリタニアに逃れ、過酷な難民生活を送っている。背景にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」の進出に伴う紛争激化がある。長年、現地の少数民族トゥアレグを取材してきたジャーナリスト、デコート豊崎アリサさん(53)に現状を聞いた。(太田理英子)

◆国際機関の支援なし、気温50度近い砂漠で
フランス人と日本人の両親を持つデコートさんは、1997年に初めてアフリカ大陸北部のサハラ砂漠を訪れて以来、砂漠を拠点にするトゥアレグのキャラバンのドキュメンタリー撮影や取材活動をしてきた。「今、民族浄化の危機が迫っている」と訴える。

今年7月には国境近くに点在する難民キャンプを取材。木の棒と布で作ったテントの下に人々は身を寄せていた。昨年10月以降、北部から約12万人が逃げてきたといい、多くはトゥアレグを中心とした少数民族。8割は女性と子どもだ。

国境なき医師団を除き、国際機関の支援は見られない。砂漠地帯で気温は50度近い。「衛生環境が悪く感染病も広がっている」

◆ワグネルの進出で事態がさらに悪化
トゥアレグは、マリやニジェールをまたぐサハラ砂漠の遊牧民だったが、1950~60年代にマリや周辺国が独立。マリでは政府の弾圧に対し、トゥアレグの組織が自治を求め反乱を繰り返した。2012年に独立を宣言したが、混乱に乗じてイスラム過激派組織も勢力を広げ、紛争の様相は複雑化した。

事態がさらに悪化したのは、2021年の軍事政権樹立。駐留仏軍が撤退し、代わってマリ政府に接近したのがロシアだった。ワグネルが進出し、軍事支援や情報工作を展開。

2023年にはマリ軍とワグネルが「反テロ対策」としてトゥアレグの組織の拠点地域に侵攻。交戦が続き、トゥアレグや別の少数民族プルの人々も隣国に逃れたという。

◆ロシアがアフリカに近づく狙いは
ワグネルは2017年ごろからアフリカ諸国で現地政府への軍事協力、選挙介入や鉱物採掘などの活動を展開したが、2023年に実質解体された。

ロシアの準軍事組織「アフリカ部隊」などに吸収され、従来の活動はロシア政府主導で強化。現在マリ軍と活動しているのもアフリカ部隊とみられる。

ロシアがウクライナ侵攻で欧米と対立する中、アフリカに近づく狙いは何か。
日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ワグネルが築いた現地政府との関係や開発利権を生かして収益源にすると同時に、国連や欧米の影響力、存在感を低下させている」とみる。

◆かつてないほど残酷な虐殺が
政府軍とアフリカ部隊による攻撃に加え、過激派組織のテロなど、住民への脅威は増大している。

デコートさんは「かつてないほど残酷な手段で虐殺が起きている」と話す。キャンプにいた50代女性は、親族が切り刻まれたほか、生きた状態で井戸に投げ込まれた人もいたと証言。「マリ軍などは国境付近に集中し、逃げることさえ危険」と語ったという。

現地に入る報道機関はなく、デコートさんは国際社会に現状が伝わらないことに危機感を募らせる。「ウクライナやパレスチナ自治区ガザと同じことが起きている。マリの実態を知ってもらい、無差別な虐殺を許さない世論を広げたい」【8月25日 東京】
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そのマリでは9月、首都マリがイスラム過激派の攻撃を受けています。

*****西アフリカのマリ、首都攻撃され70人死亡 アルカイダ系武装組織 数百人死傷の情報も****
ロイター通信は19日、西アフリカ・マリで17日に国際テロ組織アルカイダ系武装組織が首都バマコの空港や警察学校を攻撃し、約70人を殺害したと報じた。外交筋の話としている。

イスラム系などの武装勢力に悩まされるマリの軍事政権はロシアと協力して対策を進めているが、首都を攻撃される異例の事態となった。

ロイターによると、軍政は被害の詳細を明らかにしていない。数百人が死傷したとの情報もある。ゴイタ暫定大統領は攻撃の数日前、ロシアの支援で武装勢力を弱体化させたと主張したばかりだった。

マリでは2020年以降に2度クーデターが起き、権力を掌握した軍政はテロ対策で駐留していたフランスの部隊を撤退に追い込んだ。ロシアとの連携に転換したが、7月下旬には北部でロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員多数が遊牧民トゥアレグの反政府勢力に殺害された。(共同)【9月20日 産経】
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“数百人が死傷したとの情報も”・・・・欧米はもちろん、ウクライナやパレスチナでも大事件ですが、マリの場合は“数百人が死傷したとの情報も”で片づけられてしまします。

ブルキナファソでは

****ブルキナファソの虐殺、死者600人に 仏当局の評価で当初推計から倍増****
西アフリカ・ブルキナファソにある町を国際テロ組織アルカイダとつながる武装グループが8月に襲撃した際、数時間で最大600人が射殺されていたことが分かった。フランス政府による安全保障関連の評価から明らかになった。

当初の報道で引用された死者数から2倍近く増加した。 更新された死者数は、当該の襲撃がこの数十年にアフリカで発生した単独の襲撃事件として最悪の部類に入ることを意味する。 

襲撃に関与したのは、サハラ砂漠南部のサヘル地域を拠点とするアルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)。

ソーシャルメディア上にあるJNIM支持のアカウントに投稿された複数の動画によると、8月24日に発生した襲撃では、JNIM所属の戦闘員らがオートバイに乗って同国のバルサロゴ郊外に進入。住民に対し組織的な銃撃を始めた。 

死者の多くは女性と子どもで、動画からは自動小銃の銃声と犠牲者らの叫び声が聞こえる。犠牲者らは、死体のふりをしているところを撃たれているようだ。 

サヘル地域では米軍とフランス軍が主導して治安の確保に取り組んでいるものの、イスラム武装勢力の進入にはなかなか歯止めがかからない。マリ、ブルキナファソ、ニジェールではクーデターが相次ぎ、フランスと米国の軍隊は撤退を余儀なくされた。 

各国の軍事政権はロシアの傭兵(ようへい)を集め支配力強化を図るが、逆に権力の空白地帯が生まれ、イスラム武装勢力の台頭につながっている。

CNNがフランスの安全保障当局者から入手した前出の評価で明らかになった。 国連は当初、バルサロゴでの襲撃の死者数を200人と推計。JNIMは300人近くを殺害したと発表していた。

ロイター通信が引用した米SITEインテリジェンス・グループの翻訳によると、JNIMは軍とつながる民兵組織の構成員を標的とした襲撃であり、市民を狙ったわけではないと主張した。 

フランスの当局者はCNNの取材に答え、ブルキナファソの治安が著しく悪化していると指摘。治安部隊が対処できないため、武装したテロリスト集団がますます自由に振る舞う状況になっているとした。 

今回の報告によれば、バルサロゴでの襲撃の15日前にはタウォリという村で軍の車列が襲われ、兵士150人がイスラム武装勢力に殺害された。 9月17日には隣国マリの首都バマコでも、JNIMの襲撃が発生。空港やその他の重要な建物が狙われ、70人以上が死亡した。【10月4日 CNN】
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映画などのドラマでは、オートバイに乗った武装勢力が村を襲撃して住民を虐殺・・・という場面を見ますが、それはドラマ上の話ではなく、西アフリカの現実です。

アルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)は“市民を狙ったわけではないと主張した”とのことですが、死者600人・・・・皆殺しの意図を持ってやらなければあり得ない数字です。

“軍が集落を防衛しようと住民に塹壕を掘らせていた際に襲撃を受けたが、住民を守る措置を取っていなかったため被害が拡大したとの見方がある。報告書は「軍政にテロ対策を担う力はない」と結論付けたという。”【10月5日 産経】

政府軍に加担する村や町はこうなるぞ・・・という見せしめなのでしょう。
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ジョージアそしてモルドバ  ロシアと欧米の間で揺れる ロシアの周辺に位置する国々

2024-10-04 22:55:33 | 欧州情勢

2024年9月17日/ジョージア、首都トビリシ、政府与党の反LGBT法案に抗議するデモ(AP通信) 【10月3日 KWP News】)

【「反スパイ法」に続いて反LGBT法 反リベラル姿勢をつよめる現政権】
8月19日ブログ“ジョージア  「反スパイ法」にLGBT規制 反ロシア感情の一方で深いロシアとの関係”で取り上げたように、旧ソ連構成国の一つグルジアは、ロシアと微妙な関係にあります。

ロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアを抱え、2008年にはロシアと戦火を交えたこともあり、国民に反ロシア感情が強く、多数がEU加盟を望んでいる一方で、ロシアとも政治・経済・文化的な強いつながりがあり、 現在の与党「ジョージアの夢」は、表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政策をとっており、反リベラルの姿勢を強めています。

そのジョージアでは、「反スパイ法」あるいは「ロシア法」とも呼ばれて いる資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められる法律が成立しました。

ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれています。 そのため、ジョージアでも・・・と懸念されています。

「反スパイ法」(「ロシア法」)に続いて、反LGBT法も議会で可決しました。

****ジョージア、反LGBT法案を可決 進む反リベラル化 EU入りに暗雲****
欧州連合(EU)加盟を目指す南カフカス地方の旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)の議会は17日、性的少数者(LGBTなど)の権利を制限する反LGBT法案を可決した。現地メディアが伝えた。

EUは昨年12月に「加盟候補国」の地位を与えたジョージアの反リベラル化を懸念し、法案を廃案にするよう求めていた。ジョージアとEUの関係悪化は確実で、同国のEU入りの先行きには不透明感が増す見通しだ。

現地メディアによると、法案は伝統的家族観と未成年者の保護を名目とし、同性婚の禁止▽性的少数者による養子受け入れの禁止▽性別適合手術の禁止▽メディアなどでのLGBTの宣伝の禁止−などを定め、違反すれば罰則を科すとする内容。同国のコバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が議会に提出していた。

法案は今後、署名のためズラビシビリ大統領に送付される。同氏が署名を拒否した場合でも、議会が拒否権発動を無効だと議決すれば、法案は成立する。

政権側が法案を可決した狙いは、今年10月に行われる議会選を見据えて保守層の支持を拡大することだとする観測が強い。

実際、政権側は6月、大規模な抗議デモが相次いだにもかかわらず、外国から資金提供を受けて活動する団体を規制する「反スパイ法」を成立させた。

これも議会選に先立って政権側に批判的なNGO(非政府組織)などの弱体化を狙ったものだとみられている。

反LGBT法と反スパイ法を巡っては、類似の法律が施行されているロシアで言論統制の手段として使われてきたことから、ジョージア国内では言論の自由が悪化しかねないとの不満が強い。

EUが批判してきた両法の制定により、ジョージア国民はEU加盟が遠のく事態も懸念している。このため、両法の制定で政権支持率がかえって低下する可能性も指摘されている。

反スパイ法に続く反LGBT法の可決で、ジョージアとEUとのさらなる関係悪化は不可避だ。反スパイ法の制定に際し、EUはジョージアの加盟手続きの一時停止を発表し、同国への3千万ユーロ(約47億円)の財政支援も凍結した。

米国もジョージアの反リベラル化を批判し、同国政府高官や与党議員ら数十人にビザ(査証)発給を制限する制裁を科したほか、9500万ドル(約135億円)超の財政支援を停止した。【9月18日 産経】
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法案に反対するズラビシビリ大統領が署名を拒否し、法案を議会に差し戻していましたが、議会のパプアシビリ議長は3日、法案に署名し、法案は成立しました。

【地政学的に重要なカフカス地方 10月26日の選挙がジョージアの行方を決める】
****西側と中ロの狭間で迷えるジョージア...10月議会選は「戦争か平和か」を選ぶ、「最後のチャンス」に?*****
<世論はEUとNATO加盟を望んでいるが、与党「ジョージアの夢」は中国・ロシアの強権体制に親和性。この国の行方を決める議会選が近づいているが──>

旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)。この国を訪れた人が真っ先に気付くのは青地に金色の星が輝く旗、そうEU旗だ。ジョージアの首都トビリシの官庁街に立ち並ぶビルから地方の小さな警察署まで、この旗が国中にはためいている。白地に赤い聖ゲオルギウス十字をあしらった国旗と並んで......。

その光景は西側に向けた熱いラブコールのようにも見える。実際、国民の圧倒的多数はEUとNATO加盟を支持している。それなのに、この国の現政権は西側に背を向けようとしている。代わって大きな影響力を持ち始めたのがウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアだ。

プーチンの思惑とは裏腹に、ロシアのウクライナ侵攻は民主主義陣営の結束固めに役立ったと、西側は主張する。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟がその証拠だ、と。

だが、かつては西側入りを切望していたジョージアはそれとは逆の方向に進みつつあるようだ。

ジョージアの人口は約370万人。アメリカのジョージア州の人口の3分の1にすぎない。今の米外交の焦点はウクライナと中東で、ジョージアをはじめカフカス地方の国々の優先度は低い。

だがカフカスの戦略的な重要性は看過できない。北はロシア南部、南はイラン北部と境を接し、カスピ海産の石油や天然ガスを西側諸国に運ぶ通り道にもなっている。

冷戦終結後に、アメリカは唯一の覇権国となった。その状況が崩れた今、世界の多くの国々はどの陣営に付くべきか様子見を続けている。西側とジョージアの今後の関係は、これらの国々にとって重要な判断材料になる。

西側寄りのジョージアの野党によると、ロシアはこの国を支配下に入れようと盛んに情報戦を仕掛けている。今月26日実施の議会選挙はそれに抵抗する最後のチャンスかもしれない──野党はそうにらんでいる。

「私たちは旧ソ連の一部だったから、(ロシアの支配下に置かれたら)どうなるか身をもって知っている」と、野党政治家のグリゴル・ワシュゼは本誌に語った。「今度の選挙はジョージアの命運を決める地政学的な選挙になる」

西側はこの国の政権与党「ジョージアの夢」が強権支配に傾きつつあることに警戒感を募らせている。ジョージアの夢は今年5月、野党の反対を押し切って外国の影響下にある個人や団体を規制するロシア式の法案を可決させた。

政府と与党は「ジョージアの主権を守るための法律だ」と強弁するが、活動家やメディアの弾圧に利用されかねないと、多くの市民が抗議の声を上げている。

困難な戦いを強いられる野党
もっとも、ジョージアは何十年も西側との関係深化に努めてきたのに、EU加盟で経済が飛躍的に成長することもなければ、NATO加盟でロシアの脅威に対抗できる集団防衛体制を保証されることもなかった。

しかも、ロシアのウクライナ侵攻で「いざというとき、西側は頼りになるのか」という疑念も生まれた。

ロシアはウクライナ戦争の前哨戦として、2008年にジョージアの分離独立派にテコ入れするため一部地域に軍を差し向けた。以後、ジョージアの国土の5分の1近くを占める地域にロシア軍が居座り続けている。

「(カフカス地方における)西側の戦略的な競争力は低下している」と、ジョージア政治研究所のコールネリー・カカヒアは指摘する。「この地域ではロシアに加え、中国、トルコ、イランが(覇権を争って)いる」

カフカス地方が中ロなどの陣営に取り込まれたら、その影響ははるかに広い範囲に及ぶと、政治アナリストらは警告する。

「ジョージアがロシアの影響下に入れば、戦略的にも象徴的な意味合いでも、アメリカとNATO、西側にとって大きな地政学的痛手となる」と、大西洋協議会ユーラシアセンターのローラ・リンダーマン上級研究員は言う。

「ジョージアはユーラシアの内陸国とヨーロッパを結ぶ国で、カスピ海のエネルギー資源をヨーロッパに運ぶ経由地点に位置し、エネルギー資源の調達先の多角化を目指す西側の計画にも重要性を持つ」

ジョージアを失うことは「プーチンの勝利であり、NATOと西側の恥となる」と言うのだ。

ジョージアの現政権は建前上は今もEUとNATO加盟を掲げているが、西側との関係はここ数カ月で急速に悪化している。

「外国からの影響に対する透明性(外国の影響)」法案をめぐりジョージア国内で大規模な抗議デモが起こったが、治安警察が武力で抑え付け、法案は成立。

こうした成り行きを重大視し、EUは7月、ジョージアの加盟手続きを停止し、ジョージア軍強化のための3000万ユーロの支援も凍結した。

米国防総省がこの夏、ジョージアと毎年実施している合同軍事演習「ノーブル・パートナー」を延期したことも、米政府の不快感の表れだろう。米政府はまた「民主主義の弱体化に責任があるか加担した」ジョージアの政治家へのビザ発給を制限した。

西側からの批判にジョージアの夢は強硬姿勢を強めている。先日は、10月の選挙で勝ったら野党の統一国民運動を違憲とすると述べた。彼らが言うには、統一国民運動は外国が組織した「グローバル戦争党」なるものを支持している。

この組織はウクライナの戦争を長引かせ、ジョージアからロシアに新たな戦線を仕掛けようとしており、LGBTQ+(性的少数者)の権利など「えせリベラル」なイデオロギーを擁護している張本人だという。

また、ジョージアの夢は物議を醸したパリ夏季五輪の開会式を、ジョージアの伝統的な家族観と未成年者を守るために新たな法律が必要な理由だと有権者に訴えている。

「10月の議会選挙は一種の国民投票であり、戦争か平和か、道徳の低下か伝統的な価値観か、外部勢力への従属か独立主権国家か、ジョージア国民は最後の選択を迫られる」

そして、自分たちが再び与党として選ばれることによってのみ、EUおよびアメリカとの関係を再構築できると、ジョージアの夢は主張する。

これに対し野党陣営は、公正な選挙で自分たちが勝利できると主張する。彼らが強調するのは、ジョージアのEU加盟が国民に支持されていることだ。昨年末にトビリシの非営利団体、国家民主主義研究所が行った世論調査では、加盟支持は80%近くに達している。

多くのジョージア国民は、ヨーロッパのよりリベラルな社会政策に必ずしも賛同しないかもしれないが、EU加盟がもたらす移動、貿易、雇用、投資の自由を望む声は高まっている。

「問題は、ジョージアで機能している大規模な偽情報のメカニズムだ。彼らはメディアやチャットのチャンネルを持ち、インターネットを利用して、人々を洗脳するために大金を投じている」とワシュゼは語る。

ほかにも野党勢力が分裂状態であることなどジョージアの夢の優位を専門家は指摘する。同党の創設者でオリガルヒのビジナ・イワニシビリ元首相は国内で最も裕福な実業家で、首都を見下ろす鋼鉄とガラスの宮殿はジェームズ・ボンドの悪役の隠れ家にも例えられる。

「この国で選挙に勝つことは非常に難しい。約30万人の公務員が政府の影響下にあるため彼らを行政資源として悪用できる」と、カカヒアは言う。「さらにジョージア企業の80%が与党を支持している」

野党側は現政権に対する西側の措置を歓迎しているが、効果は疑問視している。「今やロシアとジョージアの夢のプロパガンダが社会に深く浸透しており、支持者にとって(西側からの)制裁は勇気の証しのようになっている」と、野党政治家のアレキサンドル・クレボーアサティアニは言う。「制裁はあまりに軽く、あまりに遅く感じられる」

反対派はジョージアの夢を親ロシアと呼ぶが、状況はもっと微妙だ。トビリシ市内で見られる反ロシアや親ウクライナの落書きは、ロシアに対する強い憎悪の証しでもある。

1801年にジョージアはロシア帝国に併合された。1917年のロシア革命後につかの間の独立を果たすも、ソビエト連邦の侵攻により数年で鎮圧された。独立を取り戻したのは91年のソ連崩壊後のことだ。

旧ソ連衛星国の多方向外交
2008年にロシアがジョージアに侵攻したのは、NATOがジョージアとウクライナがいずれ加盟するだろうと語った数カ月後だった。

ロシア軍は5日間の戦闘で、親ロシア派の飛び地である南オセチアでジョージア軍を撃退。その後、ロシアは南オセチアと、ジョージア北部の黒海沿岸のアブハジアを独立国家として承認した。これは、ウクライナではるかに大規模に展開されることになる事態の兆候だった。

ジョージアの夢は平和的な方法で領土保全を回復すると語っているが、ロシアが、占領している飛び地について友好的な政府のために手綱を緩めるそぶりを見せることはない。

そして、ジョージアはロシアだけを見ているわけではない。西側との意見の相違が深まるにつれて、中国とも関係を強めているのだ。

中国の「一帯一路」構想の一環として、中国の業者がジョージア周辺でインフラを建設していることは明白だ。黒海沿岸のアナクリアでは、アメリカが投資を引き揚げた後に中国の企業コンソーシアムが巨大な港の建設を受注した。

政治的な接近も見受けられる。中国外務省は、アメリカによる国外での政治干渉に関する最近の報告書の中で、ジョージアを一例として挙げている。ジョージアの夢の政治家たちはすかさず支持を表明した。

ジョージアはロシアの周辺に位置する他の国々にとって、ある面では親西側だが、別の面では親ロシアまたは親中国という手本になりつつあると、ワシントンのシンクタンク、米国平和研究所のドナルド・N・ジェンセンは言う。

「ジョージアは、ロシアに完全に服従するわけではないが、同時にいくつかのベクトルを見据える多方向の外交政策というグレーゾーンに落ち着く可能性がある。(旧ソ連圏の)多くの国がその方向を目指そうとしているかもしれない」【10月3日 Newsweek】
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【ロシアの選挙介入を警戒するモルドバ】
“ロシアの周辺に位置する他の国々”のひとつがやはり旧ソ連のモルドバですが、モルドバもロシアと欧米の間で揺れています。

****ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
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モルドバはロシアのウクライナ侵攻後の2022年6月にEUの加盟候補国となりましたが、ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシアとも言われ、国内に抱える親ロシアの未承認国家「沿ドニエストル」にはロシア軍が駐留しています。

アメリカも、ロシアがウクライナ周辺などの諸外国で、親ロシア候補への間接的な資金提供やネット上の世論操作を通じ、選挙に介入しようとしてきたと分析しており、民主主義を弱体化させることを警戒しています。

サンドゥ大統領が危機感を深める背景には、強まるロシアの揺さぶりがあります。

ウクライナ侵攻後、ロシアはモルドバへの天然ガスの供給を大幅に削減。ガス料金は6倍、電気料金は3倍に上昇し、世論調査では、半数がサンドゥ政権で経済が悪化したと回答しています。

プロパガンダ対策でロシア語のニュース報道などを禁止した政権に対し、「強権主義」との批判も出ています。

サンドゥ大統領の支持率は30%台で圧倒的ですが、1回目の投票で過半数を獲得して当選を決めないと、決選投票で野党が連合すれば負ける可能性もあります。

また、国民の多くはEU加盟に賛成とみられていますが、政権への不満が高まれば、投票率が下がり国民投票が成立しない恐れもあります。


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フランス  海外県マヨットで不法移民の強制送還 問題の本質は欧州・米の移民問題に共通

2024-10-03 23:16:18 | 難民・移民

(仏海外県マヨットのスラム(2023年5月23日撮影)【2023年8月15日 AFP】 スラムには多くの移民がくらしています。)

【極右政党の意向を忖度せざるを得ない新内閣 内相に移民問題で強硬派のルタイヨー氏】
フランスでは、左派・大統領与党の中道・ルペン氏率いる極右政党の三すくみの中で、マクロン与党と中道右派・共和党の連携でようやく発足した新内閣バルニエ政権は、極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首が「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と言い放つように、極右勢力の意向を考慮せざるを得ない政権運営を強いられています。

もし不信任案に左派と極右が同調すれば政権は崩壊します。

**************
議会の過半数を握っていないバルニエ政権は難しい議会運営を迫られる。与党が提出する法案の多くに、左派連合や極右勢力が反対票を投じることが予想され、通常の立法手続きで法案を成立させるのは困難を極める。

2022年の国民議会選挙で議会の過半数を失った大統領支持会派と同様に、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って法案を通そうとするだろう。

議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。

つまり、今後の法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされることになる。【9月25日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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こうした政治状況で発足した新政権は内相に移民問題で強硬派の共和党ブリュノ・ルタイヨー氏が就任しています。

****フランス新内閣発足 移民強硬派を内相に マクロン大統領、少数内閣で不安な再出発****
フランスで21日、バルニエ首相(73)が率いる新内閣が発足した。マクロン大統領を支える中道与党連合に、これまで野党だった中道右派「共和党」が加わる「相乗り内閣」になった。内相には、移民受け入れ削減を求める共和党強硬派が起用され、右派色の強い陣容となった。

フランスは6〜7月の下院選で与党連合が第2勢力に転落し、政治空白が続いていた。マクロン氏は、共和党のバルニエ元外相を今月5日に首相に任命。21日に閣僚名簿を発表した。(中略)

内相となったブリュノ・ルタイヨー氏(63)は共和党の上院議員団長。欧州連合(EU)のルールに縛られず、フランスが独自に移民対策を強化するよう主張してきた。(中略)

新内閣は来年の予算編成が喫緊の課題。バルニエ氏は10月1日、下院で施政方針演説を行う。下院第一勢力の左派連合は、不信任案提出の構えを見せる。新内閣は極右野党「国民連合」の動向に配慮せざるを得ず、マクロン氏は政策実行の手足を大きく縛られた。(後略)【9月22日 産経】
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【移民問題で厳しい対応をとるルタイヨー内相】
移民に対し厳しい対応を求める極右・国民連合への配慮に加え、移民強硬派の内相自身の姿勢もあって、フランスは移民問題で強硬姿勢に舵を切っています。

****フランス首相、国境管理強化の必要性強調 移民対策を優先****
フランスのバルニエ首相は1日の議会演説で国境管理を強化すべきと述べ、移民問題を優先事項の一つに据えた。

移民問題は欧州全域で主要な課題となっており、極右政党の台頭が加速している。

バルニエ氏は「われわれはもはや満足な形で移民政策を管理できていない。移民問題が一部の人々により思想上の行き詰まりに追い込まれた状態から早急に脱却しなければならない」と述べた。

その上で、フランスは欧州連合(EU)の規則を引き続き順守しつつ、域内における国境管理に関してドイツと同様の対応を模索すると説明した。

ドイツは不法移民や国境を越えた犯罪への対策の一環として、9月30日にフランス、ベルギー、オランダとの国境などで検問を再開した。【10月2日 ロイター】
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【海外県マヨットで不法移民の強制送還を命令】
こうしたなか、ルタイヨー内相はフランスの海外県でマヨットについて、不法移民の強制送還を命じています。

マヨットというのは、私を含めて多くの方が初耳だと思いますが、アフリカ本土モザンビークとマダガスカルの中間に位置する島(面積375km2、人口約35万人)で、コモロ連合に近接します。



****フランス、不法移民を強制送還 海外県マヨットからアフリカへ****
不法移民の取り締まりを進めるフランスのブルーノ・ルタイヨー内相は2日、海外県マヨット(マホレ)の当局に対し、アフリカ出身の不法移民を制送還するための航空機を手配するよう命じたと明らかにした。
 
インド洋に浮かぶマヨットは、フランスで最も貧しい県。アフリカ本土の貧困や腐敗を逃れて何千人もの移民が流入し、社会不安や深刻な移民危機に長年苦しんでいる。

「秩序の回復」を優先課題に掲げるルタイヨー氏は議会で、「10月から、マヨット県知事は不法移民をコンゴ(旧ザイール)に送還する航空機を手配する」と述べた。

ルタイヨー氏のチームの一人はAFPに対し、マヨットの移民収容施設の空きを確保するため、同様の航空機は2月以降4回手配されており、10月には少なくとも3便が予定されていると語った。

この問題に関して、コンゴ当局とは「素晴らしい」協力関係が築けているという。

マヨットには、近くの島国コモロ連合やアフリカ本土から「クワッサクワッサ」と呼ばれる小舟などに乗って毎年数千人が上陸を試みている。現在ではマヨットの人口約32万人の半数近くを移民が占めていると推定される。

移民の流入を受けて大きな対立が生じ、抗議デモも発生。多くの住民は犯罪や貧困について不満を訴えている。

ルタイヨー氏はまた、移民の「流入を阻止する」ため、ブルンジやルワンダなどの大湖地域の国々と二国間安全保障協定を締結するとも発表した。

保守強硬派であるルタイヨー氏の内相任命は、フランス政界の右傾化を反映している。同氏は、移民はフランスに「チャンス」をもたらさないと強調。移民の流入をコントロールするために「あらゆる手段」を講じると明言している。

ルタイヨー氏は2日付の日刊紙フィガロに掲載されたインタビューで、「私の頭にあるのはフランスの役に立つということだけだ」「私にとって重要なのはそれだけだ」と語った。 【10月3日 AFP】
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【政治的には“訳あり”のマヨット 移民問題の本質は欧州・アメリカの問題と同じ】
“マヨットはフランスで最も貧しい県”とは言っても、フランス海外県ですので、ある程度の福祉や教育が保障されているとも言え、極度の貧困や人権侵害が深刻なコモロ連合やアフリカ本土からの移民流入が絶えません。

不法移民をコンゴ(旧ザイール)に送還・・・・コンゴは多くの反政府武装勢力が跋扈し、住民殺害・人権侵害で世界でも最悪の国であり、強制送還先としては疑問が多いところです。

そもそも、移民の多くが隣接するコモロ連合から来るのであれば、コモロ連合に送還すればよさそうですが、そうはいかない“訳あり”の政治的事情があります。

コモロ連合が独立する際に、マヨットも含めた形でしたが、マヨットは住民投票でフランスに残ることを選択し、フランスもこれを認めたという経緯があります。

コモロ連合からすれば、マヨットは本来自国の一部であり、中国からする台湾みたいな存在。

“本来自国の一部”という立場からすれば、コモロ連合とマヨットの間の移動は国内移動であり、強制送還云々は受け入れられないということで、過去にもフランスによる強制送還を拒否したこともあります。

なお、マヨットにおける移民の問題は以前からのものであり、フランスはこれまでも移民のスラム解体や送還を行ってきていますので、今回のルタイヨー内相による対応は突出したものではありません。

****海外県マヨット島でスラム解体と移民排除作戦が始まる*****
マダガスカルの北にある仏海外県マヨットで(2023年)4月24日、警察によるスラムの解体と不法移民を強制送還するための「ウアンブッシュ」作戦が正式に始まった。

この作戦は何週間か続く見込みだが、コモロが送還移民受け入れを拒否するなど、作戦遂行は難航する様相を見せている。

一方で、29日には作戦を支持するマヨット住民のデモがあり、ダルマナン内相は5月2日、同島の犯罪集団の中心人物60人のうち22人を逮捕したと成果を自賛。しかし、5月13日現在も若者の暴動は続いている。

マヨット島(面積375km2、人口約35万人)は1974年、76年の住民投票でコモロ諸島のなかで唯一フランス残留を選び、2011年に海外領土から海外県になった。

出産増と主にコモロ連合からの移民(移民の95%)増加により、1985年から2017年に人口は4倍になり、住民の48%は外国人だ。

それとともに貧民や移民の住むスラムが増え、若者ギャングの抗争や犯罪が増加。21年時点で島の失業率は30%で、貧困線以下の人は住民の77%。

こうした状況から、16年にも本土並みの社会インフラを求めるゼネストやデモが続いた経緯があり、ギャング抗争が続いた一時期は「内戦状態」と形容された。

ダルマナン内相は、同県の知事(国の代表者)や県議会からの要請を受けて、「違法住宅1000軒の解体および、武器の不法取引、犯罪組織を撲滅する」ために、警官や憲兵を派遣し、作戦開始時で1800人を動員。

過去に住民が民兵組織を作ってスラムからの外国人追い出しを図ったこともあるように、作戦に賛同する住民と、作戦によってスラムの家を失うことを恐れて反対する住民に分裂する。

マヨットの裁判所は25日、島北東部のクング市のスラムの強制退去を違法として差し止めた。人権連盟(LDH)は、不安定な境遇にある多くの未成年を危険にさらす、と作戦に反対。仏人権諮問委員会(CNCDH)も「マヨットの社会の緊迫した状態と分裂を促し」、外国人の基本的人権を侵すものと作戦停止を内相に求めた。

マヨット島はコモロ諸島のなかでフランスが最初に植民地にした(1841年)島だ。1974年の住民投票でマヨット以外の3島では独立賛成が多数を占め、75年、コモロは4島全部の独立を宣言。

これを不満とするマヨット島は76年に再度住民投票を実施して99%で仏残留を求め、仏政府もインド洋での影響力を維持したいために認めた。

だが、コモロ諸島4島は同じ民族・言語で、同じ親族が複数の島に散らばっているケースも多いという。コモロは独立時からマヨットを自国領と主張し、国連に提訴。国連は76年、94年と、コモロの主張を認める決議をしたが、仏はコモロとの交渉を拒否している。こうした経緯もあって、コモロは自国民がマヨットに行くことは国内移住とみなし、移民送還船の着岸を拒否した。

マヨットはフランスの県とはいえ、移民政策や福祉政策などが本土とは異なる。滞在許可証はマヨット島内のみで有効でほかの仏国内に行くにはビザが必要。島生まれの子は本土同様に18歳で仏国籍を申請できるが、出生の3ヵ月以上前から親のうち一人が滞在許可証を保持しているという条件が加わる(内相はこの期間を1年にしたい意向。移民妊婦が島で産む子の仏国籍取得を妨げる)。

強制送還の決定が下ると本来は行政裁判所への提訴中は送還されないが、マヨットではすぐに送還できる。そのほか警察による身分証明書チェックの常態化など、移民を取り締まる例外措置が多い。法定最低賃金や生活保護額、年金額も本土より低く、マヨットはフランスで最も貧しい県とされる。

クーデター続きで貧しく不安定なコモロから、仏海外県であるためにある程度の福祉や教育が保障されているマヨットに移民が流れるのは自然な成り行きだ。果たしてスラム解体や送還に意味があるだろうか? 送還してもまたボートに乗ってくるだろうし、解体してもスラムはまたできるだろう。

抑圧と取り締まりで移民流入を阻止できないのはヨーロッパへの移民が減らないのと同じだ。コモロ、マダガスカルなど周辺地域との共同開発推進を仏メディアが提言しているように、地域全体が豊かにならなければ根本的解決策にはならないだろう。【2023年5月13日 Ovni navi】
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記事後段にあるように、マヨットの移民問題は、単にインド洋の小島のローカルな問題ではなく、欧州を揺るがし、アメリカの分断を深める移民問題と本質的に同じ問題でもあります。
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レバノン南部への侵攻 イランのミサイル攻撃への報復 中東全面戦争のカギを握るネタニヤフ首相

2024-10-02 23:26:50 | 中東情勢

(イランのミサイル発射を受け起動した迎撃システム=1日、イスラエル中部アシュケロン(ロイター=共同)【10月2日 産経】)

【イスラエル レバノン南部で「限定的な地上作戦」 「限定的」にとどまるかは疑問】
レバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、9月27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害したイスラエル軍は、更にレバノン南部への「限定的かつ局地的」な地上作戦を開始しています。

****イスラエル軍がレバノン南部に地上侵攻を開始 2006年以来 イスラエル軍発表****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラと交戦を続けるイスラエル軍は、レバノン南部への地上侵攻を開始しました。

イスラエル軍はさきほど、レバノン南部で「限定的な地上作戦を開始した」と発表し、レバノンへの地上侵攻を始めたことを明らかにしました。イスラエル軍は、レバノン南部のヒズボラの拠点を標的に、「限定的かつ局所的に地上襲撃を開始した」としています。

ヒズボラは、去年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、ハマスに連帯を示してイスラエル北部を中心にロケット弾を発射するなど攻撃を続け、イスラエル軍と交戦していました。

イスラエル軍は9月23日からレバノン各地を空爆するなど攻撃を激化させ、27日にはヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害しました。

イスラエル軍がレバノンに地上侵攻するのは2006年の大規模戦闘時以来初めてのことで、この時はレバノンで民間人を含む1100人以上が犠牲になるなど甚大な被害を及ぼしました。【10月1日 TBS NEWS DIG】
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アメリカとの協議で「限定的」なもの留めたとも。ただ、いったん戦闘が始まってしまうと互いの攻撃の応酬のなかで戦闘が拡大する危険があります。

****イスラエル、レバノンに「限定的」侵攻 米政府の危惧に一定の配慮か****
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘を巡り、イスラエル軍は1日、「限定的かつ局地的」とするレバノン地上侵攻の開始を発表した。バイデン米政権は地上侵攻による紛争のさらなる拡大を危惧する。

米国の支援を受けるイスラエル側が一定の配慮を示した可能性もあるが、ヒズボラ側の反撃などによっては、戦火が広がる懸念もある。

米紙ワシントン・ポストは9月30日、イスラエルが米政府に対し、レバノンでの限定的な地上作戦の実施計画を伝えたと報じていた。米政府関係者の話としている。

また、米ニュースサイト「アクシオス」によると、大規模な地上侵攻を懸念する米政府がイスラエルと協議した結果、イスラエル側は国境沿いの軍事インフラの掃討に焦点を絞り、完了後の部隊撤収を約束したという。

ワシントン・ポストの報道によると、米政府に伝えられた計画では、イスラエルとの国境沿いにあるヒズボラの軍事インフラを標的にする。2006年にイスラエル軍がレバノンに地上侵攻した際より小規模の作戦を見込むという。

06年の両者の戦闘は約1カ月続き、レバノン側で約1200人、イスラエル側で約160人が死亡した。

米国務省のミラー報道官は30日の記者会見で、イスラエル側から「国境沿いのヒズボラのインフラに対する限定的な作戦について説明を受けた」と話した。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は30日、イスラエルの自衛権を支持すると強調した上で、「我々は緊張緩和を望む。イスラエル側と話し合っている」とも述べ、外交的な解決の重要性を強調した。【10月1日 毎日】
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戦力的に優勢なイスラエル軍に対し、ヒズボラはゲリラ戦で応戦しているようです。

****急峻な地形知り尽くすヒズボラ、地の利を生かし反転攻勢の構え…ナンバー2「戦いは長い」****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、地上侵攻を始めたイスラエル軍に徹底抗戦する構えだ。ここ2週間ほどの大規模空爆などで大打撃を受け、劣勢を強いられるが、地の利を生かして反転攻勢を目指す。

組織ナンバー2のナイム・カセム師は9月30日のテレビ演説で「あらゆる幹部の代わりがいる」と述べ、空爆で多数の幹部が殺害された影響はないと主張した。その上で、「我々の作戦は続く。戦いは長い」と消耗戦もいとわない姿勢を強調した。

イスラエル軍の猛攻で多くの司令官を失ったヒズボラは、保有しているミサイルとロケット弾の20〜25%を破壊されたとの見方もある。

だが、シリア内戦への参戦経験があり、レバノン南部の急峻きゅうしゅんな地形を知り尽くした熟練民兵は多数が健在とみられる。地下に築いたトンネル網も生かし、イスラエル軍に大きな打撃を与えたい考えだ。

イランの支援でレバノン国軍をしのぐとされる強大な組織となり、中東で影響力を拡大してきたヒズボラは、指導者ハッサン・ナスララ師を殺害され、築き上げた威光を失いかねない危機に直面している

。様々な宗教と宗派が混在するモザイク国家レバノンでは、キリスト教徒やイスラム教スンニ派の間でヒズボラの減退を歓迎する声もささやかれるといい、これ以上の権威失墜は避けたい状況だ。

ヒズボラは、全面紛争による壊滅的な被害を避けるため、これまでイスラエルの市街地などには抑制的な攻撃にとどめてきた。今後もこうした姿勢を維持するかどうかは不透明だ。【10月1日 読売】
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侵攻したイスラエル軍には増強の動きがあります。

****イスラエル、限定侵攻の規模拡大 レバノン南部、1個師団が参加****
イスラエル軍は2日、親イラン民兵組織ヒズボラ掃討を狙い「限定作戦」として進めるレバノン南部での地上侵攻に、三つの旅団や追加部隊を含む1個師団が参加したと発表した。

連日部隊の招集や派遣をしており、規模が大きくなっている。(後略)【10月2日  共同】
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【増加する難民・避難民 レバノンからシリアへ逆流も】
すでに空爆の時点で、レバノンから隣国シリアへの難民は10万人に及んでいます。地上戦が始まった現在は更に増加しているとも思われます。

もともとレバノンにはシリアからの難民が150万人規模で暮らしていましたが、今回の戦闘で今度はレバノンからシリアに逆流している形です。

ただ、シリア難民はシリアに戻れない事情もあり、レバノンでもレバノン人に劣後し、シリアにも戻れずと困難な状況にあります。

****避難者あふれるレバノン 内戦下のシリアに難民が「逆流」****
イスラエル軍が地上侵攻したレバノンで、多くの住民が避難民となっている。だが、首都ベイルートなどでは避難所に入りきれず、屋外で夜を明かす人も相次いでいる。内戦が続く隣国シリアへ逃れる人も後を絶たず、人道危機の懸念が強まっている。

「家を出るときもミサイル攻撃があった。40〜50発は飛んでいた」。レバノン東部で電話取材に応じた運転手、バクリー・アフメドさん(27)はこう語った。

イスラエル軍の空爆が激しさを増した9月下旬、家族とともにレバノン南部の自宅を逃れた。10月1日には地上侵攻も始まり、帰れる見通しは立たなくなった。「早く戦闘が終わってほしい。望むのはそれだけだ」

イスラエル軍は地上戦について「限定的」と説明している。だが、対抗するイスラム教シーア派組織ヒズボラは徹底抗戦の構えを崩しておらず、戦闘が長期化する恐れもある。

東部バールベックに住むアリ・ヤヒさん(26)はネット交流サービス(SNS)による取材に「国際社会は助けてくれないだろう。我々は(パレスチナ自治区)ガザ地区のように見捨てられている」と嘆いた。

ロイター通信などによると、ベイルートでは学校などが避難所として開放されたが、収容人数が限られており、ビーチや路上で寝泊まりする人も少なくない。混乱が続く中、人道支援を行き渡らせるのも難しい状況だ。

国外で難民となった人たちもいる。国連難民高等弁務官事務所などによると、数十万人の避難民のうち、すでに10万人以上が隣国シリアに逃れた。

シリアでは2011年以来、親イランのアサド政権と反体制派の内戦で600万人以上の難民を出した。レバノンにも政府の推計で約150万人のシリア難民が暮らしていたが、イスラエル軍の地上侵攻を機に難民が「逆流」した形だ。

ただ、内戦を機にシリアを追われた難民は、帰国すれば危険が及ぶ可能性もある。南部からベイルートに避難したシリア難民の主婦、サラ・ナハスさん(32)は電話取材に「ベイルートではレバノン人が優先され、アパートも借りられなかった。シリアに行くこともできない。レバノン人の方が簡単にシリアに行ける」と語った。【10月2日 毎日】
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【イランのミサイル攻撃 イランは「ここで打ち止め」にしたい思惑 ネタニヤフ首相は報復実施を示唆】
レバノン情勢と並んで全面戦争の危機が懸念されているのがイランとイスラエル。
イランは1日、複数の親イラン武装組織指導者殺害への報復として、イスラエルに向けて約180発のミサイルを発射しました。

イランはこれまで抑制的な対応をしてきましたが、ここにきてミサイル攻撃に踏み切った背景には、抑制的対応が効果をあげず、イスラエルが攻撃を拡大するなかで、国内に不満が高まっていることがあると推測されます。

今回の攻撃は4月の同様のイスラエル攻撃に比べると、内容的に強化されている面もありますが、基本的にはイスラエル側の被害が大きくならないように制御されたものとなっています。

イランとしても、これ以上、攻撃の応酬で戦闘が拡大するのは避けたい思惑があると思われます。

****増長するイスラエルにくぎを刺す、イランの報復攻撃 背景に国内事情****
イスラム教シーア派国家のイランが1日、敵対するイスラエルに対して180発以上の弾道ミサイルを発射した。中東全域を巻き込む紛争に拡大するリスクがありながら、なぜ攻撃に踏み切ったのか。中東情勢に詳しい慶応大の田中浩一郎教授に聞いた。

イランが4月にイスラエル本土をミサイルで攻撃して以降、イスラム組織ハマスやイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らが相次いで殺害された。この間、イランは抑制的な対応を取ってきたが、イスラエルの行動は止まらなかった。イランはイスラエルを抑止できておらず、今回の攻撃には増長するイスラエルにくぎを刺す意図があったと言える。

イランが報復攻撃にかじを切った背景の一つには、国内事情もあったと考える。7月末にテヘランでハマスの最高指導者ハニヤ氏が殺害された後、イランの最高指導者ハメネイ師は厳しい言葉でイスラエルへの報復を宣言した。

一方で、米欧から抑制的な対応を求められる中、イラン指導部としてはガザ停戦を実現して外交で成果を上げようと、報復から流れを変えた経緯がある。

ただ交渉は実を結ばず、放置されている状況だ。国内では「抑制を働きかけたことがあだとなった」と指導部への不満の声も出ている。

今回のイランの攻撃は、市民の被害を出さないように市街地を標的から外すなどしている。事態がエスカレートするのを避けたい狙いがあるのは明白だ。

一方で、4月に在シリアのイラン大使館が空爆されたことに対する報復攻撃を行った時とは異なり、イスラエル本土に到達するまでに時間のかかる無人機(ドローン)は使用せず、十数分で到達する弾道ミサイルを使って攻撃能力を示した。相当数がイスラエルに着弾しており、防空網をかいくぐった可能性が高い。

イスラエルは米国の後ろ盾を得て紛争を拡大させ、歯止めがかからなくなっている状況だ。今回のイランの攻撃に対するイスラエルの出方が注目される。【10月2日 毎日】
*********************

イランのアラグチ外相は、10月2日、イスラエルに対し「自衛」措置を講じたとし、イスラエル側がさらなる報復を招く決定をしない限り、イランの措置は終了したとⅩに投稿しいます。

イラン側はミサイルを撃ち込んで、「これで終了」と言ってはいますが、撃ち込まれたイスラエル・ネタニヤフ首相がこのまま矛を収めるとも思われません。

何らかの報復をすると思われますが、問題はそれがどの程度のものになるかです。

****報復の連鎖で全面戦争の恐れは?イランがイスラエルに大規模攻撃****
(中略)
■全面戦争になる?外報部デスク解説
報復の連鎖で全面戦争の恐れはあるのでしょうか。その答えは「イランが攻撃に踏み切った理由にある」と中東取材を続ける外報部・荒木デスクはそう指摘します。

テレビ朝日外報部 元カイロ支局長 荒木基デスク
「イランは直接攻撃を受けた訳ではありません。ただ、イランが直接支援するガザ地区のハマスやレバノンのヒズボラの指導者が相次いで殺害されました。

これは、イスラム教シーア派世界のリーダーを自認するイランとしては、主権が侵されたという意識を持っています。こうした国内の世論に対して、イランの指導部が何もしない訳にはいかなかった、それが報復として今回の攻撃につながったわけです」

そのイラン、イスラエルの反撃があれば「より破壊的で破滅的になる」と警告していますが、本音はそうでもないようです。

荒木基デスク
「本音ではイランも全面戦争など望んでいません。今回のイランの攻撃の程度を見ると、イスラエル側がある程度防ぐことができるくらいにとどめているようにも見えます。

つまりイスラエルの被害は最小限にとどめつつ、イランの側のメンツも立つ、ここで一度打ち止めにしたいとの思惑が感じられます。

この後。イスラエルの反撃が限定的なものにとどまれば、全面戦争という事態にまでは至らないと考えられます。しかし、イスラエルでは『イランの核施設に報復攻撃する計画』も伝えられ始めていて、攻撃の規模によっては事態がさらに悪化する可能性も捨てきれません」【10月2日 テレ朝news】
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戦争が終わるとハマスの奇襲を許した責任を問われ、政治生命が終わりかねないネタニヤフ首相は大統領選挙中のアメリカがイスラエル支援を続けざるを得ない事情も利用して、戦争の継続を狙っていると言われています。

そんなネタニヤフ首相には「ここで一度打ち止めにしたい」というイランの思いは通じないかも。これを機に、一気にイランに致命的な打撃を加えたいという方向に走るかも。

****イスラエル首相「イランは代償払う」 数日以内に石油関連施設攻撃か****
イランの精鋭軍事組織・革命防衛隊は1日夜(日本時間2日未明)、イスラエルに対して180発以上とみられる多数の弾道ミサイルでの攻撃を実施した。大半はイスラエル軍が迎撃した模様だが、一部はイスラエル領内に着弾した。現地の報道によると、1人が死亡、2人が軽傷を負った。

イランによるイスラエルへの直接攻撃は、今年4月に300発以上の巡航ミサイルなどを発射して以来。イスラエル軍による1日のレバノン南部への地上侵攻に続く事態で、中東の緊張はさらに高まっている。今回の事態を受け、国連安全保障理事会は2日に緊急会合を開く。

(中略)イスラエルのネタニヤフ首相は1日、「イランは大きな過ちを犯した。代償を払うことになる」と述べ、報復実施を示唆した。数日以内にイランの石油関連施設などを攻撃することを検討中との報道もある。

イスラエルでは1日夜、各地で警報が発令され、軍は国民に避難を呼びかけた。地元メディアは、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でガザ出身の男性が死亡し、商都テルアビブでも2人が破片で軽傷を負ったと報じた。

軍などによると、発射されたミサイルは180発以上で、うち「少数」がイスラエル中・南部に着弾。中部では学校が損壊した。迎撃には米海軍の駆逐艦も参加した。

一方、イランメディアは、国産の極超音速ミサイル「ファタ」が初使用され、イスラエルの迎撃ミサイルシステムを破壊したと報じた。革命防衛隊は声明で、敵軍のレーダー施設などを標的にしたと説明し、「90%が目標に命中した」と主張した。ただ、テルアビブ近郊などでは多くのミサイルが迎撃される様子が確認されている。

イランのペゼシュキアン大統領は1日、X(ツイッター)への投稿で「国益と市民を守るため」に攻撃したと説明し、「戦争は望んでいないが、いかなる脅威にも断固たる対応を取る」とけん制した。

ロイター通信によると、イラン政府高官は「(イスラエルを支援する)米国には攻撃の直前に外交チャンネルを通じて警告した」と主張。

一方、米国防総省などは事前通知を否定している。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は1日の記者会見で「この攻撃の効果はなかったように見える」と述べつつ、「事態の重大な激化だ」との認識を示した。

バイデン大統領は記者団に「米国は完全にイスラエルを支持している」と表明。ハリス副大統領も「イランは中東を不安定化させる危険な存在だ。イスラエルは我々の支援を受けて攻撃を撃退できた」と強調した。(後略)【10月2日 毎日】
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イスラエルの報復で、核施設が攻撃されたり、石油関連施設が大きな被害を被るということになれば、イランとしても「ここで打ち止め」とはならないでしょう。

イスラエルのレバノンへの地上侵攻がどこまで拡大するのか、イスラエルのイランへの反撃がどのようなものになるのか・・・・中東における全面戦争が起きるのかどうかにつながりますが、全てはいまネタニヤフ首相の決断にかかっています。

ただ、「危険」な人物に委ねられているようにも思われて怖いですが。ネタニヤフ首相にとっては絶好の機会かも。

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ミャンマー 軍事政権、選挙実施に向けて国政調査 批判する民主派 冷ややかな国民

2024-10-01 23:04:44 | ミャンマー

(【10月1日 NNAアジア経済ニュース】)

【国内安定を求める中国が支援 現実には民主派排除で進む】
内戦状態が続くミャンマーの軍事政権は民主派を排除した形での来年の選挙実施に向けて、その準備としての国政調査を実施しています。

国内の安定を求める点では利害が一致する中国がこの軍事政権の選挙・国政調査を後押ししています。

****中国、ミャンマーの選挙を支援 王外相、軍政トップに表明****
中国の王毅外相は(8月)14日、ミャンマーの首都ネピドーで軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。15日付のミャンマー国営英字紙によると、王氏率いる中国側代表団は、軍事政権が早ければ来年にも実施する意向の選挙に向け「必要不可欠な支援を提供する」と表明した。

中国側は、選挙の準備として軍政が今年10月に開始予定の国勢調査にも技術支援を提供すると述べた。

ミャンマーでは内戦状態が続き、民主派政党は既に解散。選挙も国勢調査も、全土での公正な実施は不可能なのが実情だ。軍政には、中国の支援を得ることで、選挙プロセスの正当性を得る狙いがあるとみられる。【8月15日 共同】
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****ミャンマー国軍トップと中国外相が会談 内戦状態が懸案、安定化に向け*****
ミャンマーで実権を握る国軍のミンアウンフライン最高司令官は14日、首都ネピドーで中国の王毅外相と会談した。内戦状態のミャンマー情勢は国境を接する中国にとっても懸案で、両国は安定化に向けた協力を名目に距離を縮めている。

中国外務省などによると、会談で王氏は「民主化プロセスを再開し、長期的な平和と安定を実現する道を見いだすことを支持する」と述べ、早期の民政移管に向けて取り組むよう呼びかけた。ミンアウンフライン氏も「継続的な支援を期待する」と応じたという。

軍事政権は国勢調査を経て、2025年中の総選挙実施を目指す。ただ、民主派指導者のアウンサンスーチー氏が率いた「国民民主連盟(NLD)」などは排除されたままだ。ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。

新華社通信によると、王氏は訪問中、かつて旧軍政トップとして独裁体制を敷き、引退後も国軍への影響力を維持するタンシュエ氏とも面会した。6月にも国軍出身のテインセイン元大統領と北京で会い、総選挙の確実な実施をミンアウンフライン氏に促すよう求めたと伝えられる。

中国にとってミャンマーは、陸路でインド洋に抜ける要衝だ。中国内陸部雲南省からミャンマー西部のチャウピュー経済特区につながる「経済回廊」は習近平国家主席が打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」の主要ルートの一つで、道路や鉄道の建設プロジェクトが進む。

インド洋から原油や天然ガスを運ぶパイプラインも整備されており、米国との対立が長期化する中国にとってはエネルギー戦略の上でも重要なルートだ。中国としては、ミャンマー国内の混乱を早期に解消し、自国への影響を最小限にとどめたいとの思惑がある。

雲南省に隣接する北東部シャン州で少数民族武装勢力との戦闘で劣勢に立つ国軍も中国を頼りにする。歴史的なつながりなどから少数民族側に影響力があり、今年1月にも一時的な停戦を仲介した。今月上旬に同州にある国軍の拠点が陥落して事態が切迫する中、調停への期待は大きい。

国内の安定を求める点では一致する両者だが、思惑にはずれもある。米シンクタンク・米国平和研究所のジェイソン・タワー氏は、「中国の調停は投資を拡大するために国境地帯で軍の影響力を弱めることを重視している」と指摘。「危機に乗じて安全保障上の影響力を強める可能性が高い」と分析した。【バンコク武内彩、北京・岡崎英遠】
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“ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。”とのことですが、実際どのように中国が軍事政権に働きかけているのかは知りません。

現実には民主派を排除した形で進行しています。

****ミャンマー軍政、10月1日から国勢調査 25年の総選挙に向け****
ミャンマーの国営メディアは2日、全国規模の国勢調査が10月1─15日に行われ、収集したデータは来年の総選挙に使用されると報じた。

軍政トップのミンアウンフライン国軍総司令官は2日のテレビ演説で、「国勢調査は正確で精密な有権者名簿の作成に活用できる。これは自由で公正な複数政党制による民主的な総選挙を成功させるための基本的な要件だ」と述べた。

軍政が提案する選挙は見せかけに過ぎないと広く非難されている。民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)など多くの政党は登録しなかったため解散させられており、選挙結果が西側諸国に認められる可能性は低い。

民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と述べ、国際社会や近隣諸国は選挙と国勢調査を非難すべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
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【国政調査開始 民主派は「国民から情報を収集し、脅すために使う」との批判も】
そして今日10月1日、予定通り国政調査が始まっています。

****ミャンマー軍政、25年総選挙実施へ国勢調査 戦闘激化で非難も****
ミャンマーの軍事政権は1日、総選挙実施の前提となる国勢調査を始めた。有権者名簿の作成が目的で、2025年中の選挙実施を目指している。ただ、21年のクーデターで全権を握った国軍と、抵抗する民主派や少数民族の武装勢力との戦闘は激化しており、調査を全国的に実施するのは難しい情勢だ。

調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。

国軍はアウンサンスーチー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」が圧勝した20年の総選挙に不正があったと訴え、自らの統治を正当化してきた。このためクーデター以来、有権者名簿に基づく選挙を約束してきた。

しかし、軍政は治安悪化を理由に非常事態宣言を繰り返し、実施を先送りしてきた。この間に武力衝突は激化し、避難民は300万人を超えた。

国境を接する周辺国への影響も大きく、軍政が関係を重視する中国も情勢の安定化と早期の選挙実施を求めているとされる。

国勢調査やその後の選挙を確実に行いたい国軍は9月末、抵抗勢力側に選挙への参加や政治的解決に応じるよう呼びかけた。背景には戦闘で劣勢に追い込まれていることや、自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫(ひっぱく)している状況があるとみられる。

一方、抵抗勢力側は呼びかけに批判的だ。独立系メディアによると、少数民族武装勢力の幹部らは「日々爆撃により市民を虐げている国軍こそ武装解除すべきだ」「国際社会を欺くための策略だ」と非難。民主派の「国民統一政府(NUG)」も選挙の正当性を否定する。【バンコク武内彩】
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“自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫”というのは、先の大雨被害です。軍事政権が国際支援を求めるというこれまでにない“異例”の対応を行ったことも注目されました。

****ミャンマー「壊滅的な状態」大雨で384人犠牲 88万7000人が被災か****
ミャンマーの軍事政権は、今月(9月)上旬の大雨で384人が犠牲になったと発表しました。国連機関は推定で88万7000人が被災したとし、被害が深刻な地域では「壊滅的な状態」が続いていると報告しています。

ミャンマーでは今月上旬、台風11号から変わった低気圧の影響で大雨が降り、首都ネピドーや第2の都市マンダレーなど各地で洪水や地滑りが発生しました。

ミャンマーの軍事政権は21日、この大雨による死者は384人となり、依然として89人が行方不明になっていると発表しました。

ミャンマーでは3年前のクーデター以降、軍と民主派勢力の内戦状態が続いていて、300万人以上が国内避難民となっています。

OCHA=国連人道問題調整事務所は、今回の大雨で避難民を含む推定88万7000人が被災したとし、最も深刻な被害を受けた地域では家屋や水源、電力インフラなどが広範囲にわたって破壊され、「壊滅的な状況」が続いていると報告しています。【9月23日 日テレNEWS】
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“調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。”・・・他には、家の間取り、海外に住む家族の有無なども

民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と批難していますが、内戦状態というなかで国軍側に個人情報を提供することには確かに不安もあるかも。

調査は15日までですが、戦闘が激しい地域は12月まで延長するようです。
ただ、調査には軍事政権を支える民兵組織が同行するということで、不審なことがないか取り調べみたいな雰囲気も。

****10月1日から国勢調査開始、各地で緊張高まる****
軍評議会(SAC)は、10月1日からミャンマー全土で国勢調査を開始する。各地でミャンマー軍や警察による警備が強化されているほか、首都ネピドーやヤンゴン、マンダレーなどの都市部では軍用車両が巡回するなど緊張が高まっている。

国勢調査は15日まで実施される予定で、調査には民兵隊やミャンマー軍系暴力集団「ピューソーティー」隊員などが帯同する。調査が完了した住宅には、識別用のシールが貼り付けられるという。

SAC統制下の連邦選挙管理委員会は2025年11月に総選挙を実施するとしているが、導入が予定される拘束名簿式の比例代表制については、これまでのところ具体的な発表はない。【10月1日 MYANMAR JAPON】
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【軍事政権による形式的選挙に冷ややかな国民】
軍事政権が強行する選挙で、現在の危機状態を脱出できるかについては、ミャンマー国内では否定的な声が大きいようです。

****国勢調査開始、多難の選挙へ[政治] 危機脱出「できない」が8割****
ミャンマー軍事政権は10月1日、国勢調査を開始する。来年実施予定の総選挙の有権者リストを作成するためのものだが、選挙は国軍に有利な展開になる見通しで、抵抗勢力の強い反発が予想される。

シンガポールのシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」によると、7~8月の現地調査では回答者の8割近くが、選挙による危機脱出は「できない」と答えており、情勢打開につなげることは困難な状況だ。

国勢調査は15日までの予定で実施される。選挙について軍政は、民主派指導者アウンサンスーチー氏の率いた「国民民主連盟(NLD)」が大勝した2020年総選挙に不正があったとの立場を崩していない。

やり直し選挙を「自由で公正」なものにすると主張しているが、NLDを排除しつつ国軍が権力を維持するためのものというのが実態だ。

選挙には、特に昨年10月から支配地域を拡大する少数民族武装勢力の動向も大きく影響する。軍政の作成する有権者リストは限定的なものになりそうだ。国民の国軍への反感はより根深くなる可能性もある。

調査員の安全確保も難しい。最大都市ヤンゴンの市民はNNAに、「すでに一部で国勢調査が始まっているが、大々的に行うと抵抗勢力を刺激してしまう」と話した。国勢調査を拒むつもりはないが、軍政に協力的と見なされて抵抗勢力からの攻撃の対象となることが怖いという。

■NUG無視の政治参加要求
軍政は9月26日、少数民族武装勢力と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」に対して停戦と政治的な手段による問題解決を呼びかける声明を出した。ただ、軍政に対抗する民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」への言及はない。互いを「テロリスト」と非難し合う両勢力の譲歩姿勢は見られない状況だ。

軍政のゾーミントゥン報道官は声明に関する翌27日の説明で、「市民が自由に投票する権利を守るため、安全保障と平和、安定が不可欠だ」と語った。「民主主義に反して武力による抵抗を望む勢力」がNUGやPDFを発足させたとの見方を示し、PDFによる市民の殺害などを非難した。

大国間の対立にミャンマーが巻き込まれる懸念や、国際的な団体や少数民族武装勢力などの意向が同国を不安定にさせている状況があり、国内の結束が重要だとも訴えた。

軍政はクーデター後、少数民族武装勢力に和平を持ちかけつつ、民主派を弾圧してきた。数百存在するとされるPDFは総称で、少数民族武装勢力あるいはNUGが影響力を有する部隊、独立系の部隊など多岐にわたる。

国軍は民主派勢力の弱体化を狙い、これまでも各PDFに停戦を呼びかけてきた。国勢調査を意識して妨害を避けるために政治参加を求めているが、呼びかけは事実上の降伏勧告となっている。

■複雑な市民感情、選挙に悲観的
軍政は国勢調査の結果速報を12月中に、各地域・州の詳細を来年中に公表するとしている。これに基づき有権者情報を整理し、来年にも選挙に踏み切りたい方針だ。

ただ、ISEASユソフ・イシャク研究所が発行する「フルクラム」は9月24日に掲載した「選挙がミャンマーの政治的危機の脱出口となるか?」という記事で、市民が選挙に複雑な感情を持ちつつ悲観的に捉えていると指摘した。

同研究所によると、「現地調査チーム」(安全のため詳細は非公表)は21年12月~22年1月、24年7~8月にそれぞれ数百人を対象に意識調査を実施。「選挙で危機を脱出できるか」という質問に対し、「できない」と答えた人の割合はそれぞれ67%、76%。「できる」との回答は2割を下回った。

21~22年の調査時はNLDの参加に期待を示す人も一定数いたが、同党は23年3月下旬に期限を迎えた政党としての再登録を見送り、次期選挙への参加資格を失った。NLDの中央作業委員会は、設立36周年を迎えた9月27日の声明に、軍政による選挙を認めない方針を盛り込んだ。

「選挙が実施されれば投票するか」という質問に対しては、24年調査で「投票しない」が76%と大勢を占めた。選挙は、市民が冷ややかな目線を送る、形だけのものになる可能性が高そうだ。

一方、政治的解決に向けた他の選択肢もない。20年選挙でNLDを支援していた男性はNNAに、「誰も未来を示せない。このまま紛争が続けば国が崩壊するだけだ」と話した。

軍政はこれまで、現行体制を正当化する非常事態宣言の延長を繰り返してきた。選挙準備を進める背景には中国からの圧力もあるとされる。選挙が実現するかどうかも不透明だ。各勢力が武力に依存する状況が今後も続く恐れがある。【10月1日 NNAアジア経済ニュース】
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【日本、対ミャンマー外交を格下げ】
なお、これまで軍事政権とも関係を維持してきた日本は“対ミャンマー外交の格下げ”(軍事政権との関係をこれまでより薄める対応)を行っています。

****日本、対ミャンマー外交を格下げ 駐在大使の後任は臨時代理****
丸山市郎・駐ミャンマー日本大使が週内にも離任し、後任の大使は赴任せず吉武将吾公使が臨時代理大使を務めることが26日分かった。対ミャンマー外交の格下げとなる。複数の外交筋が明らかにした。

後任大使を派遣すれば、2021年2月のクーデターで実権を握った軍事政権への信任状提出が必要。日本が軍政を承認したと受け止められる恐れがあり、派遣を回避した。

クーデター後も国軍との「独自のパイプ」を維持し、欧米と一線を画していた日本の外交的存在感は、低下する可能性が高まった。日本外交筋は「ミャンマーの重要性は変わらない。丁寧に説明し理解を得たい」と話した。【9月26日 共同】
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“クーデター後も国軍との「独自のパイプ」”と言いつつも、軍事政権への便宜供与はあっても、ミャンマー民主化にはほとんど何も実績を残していないようにも見えますので、軍事政権と距離を置き、軸足を軍事政権への民主化要請に重点を置く形に変更するのはよいことと思われます。
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