ゴォーンゴォーンが、ザブーンザブーンに。
いつものロンドンの鐘の音ではなく、
ケント州の波の音がBGMとなった年越しの夜――
名探偵テディちゃムズ一行がロンドンからケント州へ、
遠征してきた理由はここにある!
と、テディちゃムズの兄・マイクマフト氏は力説します。
「見たまえ!
ガラスのビンが運んできたものを!」
マイクマフト氏によれば、
それは“ここ一週間の異変”なのでした。
手紙が封じ入れられたガラスビンが次々と
ケント州の浜辺に流れ着き、
最初の1個2個の頃は、まあ珍しくないさ、
と笑っていた浜の管理人たちも、
5個、6個、7個……とビンの数が増えてゆけば、
ちょっぴり不安を覚え始めますよね。
「そこで! わしの出番じゃい!」
相談を受けたマイクマフト氏は
ただちに弟の名探偵テディちゃムズたちを伴い、
現地に出向いて調査を開始しました。
なるほど……これは怪しい!
「おりょうりのォ、れしぴィ?」
「何かの冗談かな?」
ビンの中の手紙に記されていたのは、
見知らぬクマへのロマンあふれる挨拶でも、
恋文でも、文学作品でもなく、
『ビートンクマ夫人の家政読本 《ハチミツおやつ》の章』
を書き写したものでした。
「疑問は尽きん!
なぜ、全クマが知る人気レシピを
わざわざガラスビンに入れて流す?
そも、どこからビンを投じた?
こういう謎を、わしは放っておけんの……
ハックション!」
クション、ハクション、と
冬の海風に当てられて
立て続けにくしゃみをするマイクマフト氏を気遣い、
名探偵テディちゃムズは
浜辺に小さな焚火をおこします。
「おにいィちゃんッ!
ここらでェ、ひとやすみィしようッ!
たきびのォそばでェあたたまろうよゥ!」
「おおう、ありがたや!」
焚火の熱を慕い、
新たな手紙入りガラスビンは埋まっていないか、と
波打ち際を捜索していた虎くん、
ユキノジョン・H・ワトソン博士も
集まって来ました。
ああ、揺れる炎は温かい。
かじかむ指先、凍える尻尾もホカホカしてきましたよ。
「ふぅ、これでハチミツワインの一杯もあれば……
やっ! ややっ!!」
不意に素っ頓狂な声を上げたのは
ユキノジョン・H・ワトソン博士でした。
「テディちゃムズ! こ、これは……!」
⦅次回へ、続く!⦆