ザブーンと、パチパチ。
新年まであと数時間になり、
静かなケント州の浜辺に響くのは、
波の音と、焚火にくべられた枯れ枝がはぜる音、
そして……クマたちの唸り声です。
「ううむゥ! こういうゥ~ことかァ!」
浜辺に流れ着いた数多のガラスビン――
その中から回収された紙片がいま、
焚火の熱によって変貌してゆきます。
紙面に浮かび上がるのは、
薄い茶色の文様……いや、文字!
「あぶりだしィだッ!」
「なんと!」
炙り出し……!
パッと見に分からない通信方法としては
古典的ですけれど効果的ですね。
テディちゃムズは文字が浮き上がった紙を並べ、一考します。
「e…j…r…c…そうかッ、わかッたぞゥ!
おにいィちゃんッ、ちゃんねるゥしょとうゥだよッ!」
「「チャンネル諸島!」」
マイクマフト氏とユキノジョン・H・ワトソン博士は
揃ってグルルと呻きました。
チャンネル諸島とは
英仏海峡に浮かぶ島々のことですが、
距離の点からはブリテン島よりもフランスに近く、
独特の法律や税制を有する上に、
英国の王室属領となっています。
つまり、“王室の直轄地”ですね。
「くんくんッ! におうゥ! におうよッ!
あぶりだしのォもじからァにおうゥのはァ、
しんせんなァ、おれんじのォかおりィ!
これはァ~…」
「ジャージー島じゃな!」
マイクマフト氏は頷きます。
チャンネル諸島最大の島は、ジャージー島。
英国本土よりもはるか南にあるジャージー島は、
オレンジやレモンの樹木が茂る
リゾート地としても知られているんですね。
「こうしてはおれん!
沿岸警備隊に連絡を取れ!
高速艇を用意するのじゃ!」
やる気になったマイクマフト氏は
誰にも止められません。
浜辺を走り、港を走り、
埠頭で沿岸警備隊の高速艇に飛び乗るや、
ぴしり!
と南を指します。
「チャンネル諸島のジャージー島へ、急げ~!」
マイクマフト氏をここまで慌てさせるとは、
ジャージー島にいったい何が……?
⦅次回へ、続く!⦆