◎アメリカン・スナイパー(2014年 アメリカ 132分)
原題 American Sniper
監督 クリント・イーストウッド
◎アメリカの悲劇
クリス・カイルとは何者だったんだろう。自由を守ってくれる戦士だったんだろうか。
そんな自問はさておき、18キロも太ってコンマ1トンを超えたブラッドリー・クーパーの真摯な取り組みようはたしかに評価できるんだけど、昔だったらイーストウッド自身がクリス・カイルを演じてたんじゃないかしらとおもいながら観てた。
とはいえ、さすがにイーストウッドの演出はあいかわらずそつがなくて、幼い頃から死去にいたるまでのあらましが実に滑らかに綴られている。へたくそな監督や脚本家だと箇条書きみたいな映画になっちゃんだけど、そんな匂いすら立てずにさらさらと流れていく。たいしたもんだ。
けど、クリス・カイルはアメリカでは英雄扱いだったみたいで、その伝記となった本作もイーストウッド作品では最高の動員数だったみたいだけど、これって、日本軍の狙撃手を扱った邦画だったらどうだったんだろね。過去には狙撃手を主人公にした戦争映画がいくつかあるけど、日本人の狙撃手の映画はあったんだろうか。もしもそういう映画ができたら、日本人は喝采するんだろうか。
たとえ「胸いっぱいの愛国心から出征して、敵の兵士だけでなく昔の言葉でいう便衣隊の女性や子供を狙撃していく内にPTSD心的外傷後ストレス障害に陥ってしまう狙撃手とその家族を通じて、戦争経験で壊れていく人間の哀しさを描いたのだ」としても、日本人の中に日本軍の狙撃手について描くことを支持する人間はどれだけいるんだろう?