☆おやすみなさいを言いたくて(2013年 ノルウェー、アイルランド、スウェーデン 118分)
原題 TUSEN GANGER GOD NATT
英題 A Thousand Times Good Night
監督 エーリク・ポッペ
☆誰が誰におやすみなさいを言いたいのか?
冒頭、ちょっと緊張した。女性が全身に爆弾をつけられて、やがて殉教に赴いていくのに同行してその自爆に巻き込まれながらも写真を撮り続けようとするジュリエット・ビノシュから始まるんだけれども、この物語はかなり手ごわいぞと確信させるには充分すぎる幕開けだった。
大学時代、紛争地域に行きたいとおもってた。
ちょっとだけ、往った。ビルマのシャン州の入り口、当時、ゴールデントライアングルといわれていたところだ。それと、カンボジア内戦から逃れてきた人々を収容するカウイダン難民キャンプ。日頃、国境というものに接していなかったぼくは、それが持っているいいしれない緊張感が好きだった。
でも、だったら紛争の真っ只中へ取材に行く勇気はあるのかと訊かれれば、関心は衰えないものの、やっぱり、あるとは断言できない。いや、当時のぼくだったら、あるいは「行く」と答えてしまったかもしれないが、もう、今となってはちょっときつい。体力も気力も大学時代のようにはいかないからね。
ところが、この映画のジュリエット・ビノシュはそうじゃない。あきらかに年を重ね、ふたりの娘を持つ母親になっても尚、報道写真家であろうとする。なんというか、答えのある映画じゃないし、紆余曲折あって、長女とケニアへ行き、そこで長女を見捨てるような形になってしまいつつも取材してしまう本能を自覚してしまった後、それでも家族の理解はなんとか得られたものの、しかし取材の場に立ったとき、自分の娘と同世代の少女が爆弾を大量につけられて殉教というか自爆へ向かわねばならない現実をつきつけられたとき、その娘にもその母親にもカメラを向けられずに泣き崩れてしまうわけだけれど、そのときの心情はどんなものだったんだろう?