ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」光文社

2024-08-08 16:37:24 | 東野圭吾
 すごく久しぶりだなと思っていたが、およそ1か月ぶりなんだ!! 驚いた。7月下旬べらぼうに忙しくて、おまけにべらぼうに暑くて、読書どころの騒ぎじゃなかった。8月の後半からは、落ち着いて読書ができるようになってほしいです。

 神尾武士は恵比寿にあるバーのオーナーバーテンダー、真世は大手不動産会社リフォーム部に所属している一級建築士。顧客は都心に近い分譲マンションをリフォームしたいというお金持ちばかりだ。
 私は首都圏に住んだことないから分からないけど、マンションでも何億という資産価値があり、リフォームといっても2千万3千万かかるみたいね。そういう世界で生活している人たちの話。どこをみても貧乏人はでてこない。やっぱり、これ出版社が光文社だからかなぁ。

 私はこのところ「財布は踊る」とか「燕は戻ってこない」といった、東京で非正規で働く20代女性の貧困を書いた小説をよく読んでいたから、不思議な感覚。断絶してるんだ。お金持ちと貧乏人は。まぁ、今に限った話じゃないけど。

 筆者の東野圭吾が超売れっ子作家で、まわりに裕福な家庭出身で高学歴の美女ばかりなんだろうな。
 最終話の「査定する女」。文字通り、玉の輿を狙って婚活している女性が、真世のリフォーム上客であるハンサムでお金持ちの男性と知り合い、良い雰囲気になっていく話。身長180㎝前後、年齢は40歳くらい、役員車両でイタリアの高級家具ショールームに自宅で使うソファを選ぶため訪れている。
 そもそも、こんな男が独身だというのがおかしい。話は二転三転し…興味のある人は読んでみてね。

 私が東野圭吾をナナメに見てしまってるのは自分のやっかみで、エンタメ小説としてとても面白いですよ。
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東野圭吾 「沈黙のパレード」 文藝春秋

2022-09-29 16:28:18 | 東野圭吾
 この「沈黙のパレード」が映画化され劇場公開されたという事で、私も読んでみた。久しぶりのガリレオシリーズ。女性刑事の内海薫ってTVドラマオリジナルと思っていたら、人気があるせいか小説の方にも登場することになったんだ!!
 確かに恋愛要素が皆無だと、女性読者や女性視聴者の関心が低くなるからなぁ。TVドラマで、湯川と内海刑事のやり取りがコメディチックというか掛け合い漫才みたいで、すごく楽しかったのを覚えている。
 しかし、この小説内では恋愛要素やコメディ部分は無いなぁ。残念。映画の方だとあるんだろうか? 湯川と内海薫というキャラではなく、福山雅治と柴咲コウという俳優・女優の持ち味なんだろうか?

 それに、ガリレオシリーズでは小説の登場人物もちゃんとトシをとるんだよね。火村・有栖川コンビのように、ずっと30歳代半ばという設定を変えず、トシを取らない探偵役・ワトソン役が多い中で、湯川たちは律儀に年齢を重ねる。湯川や草薙は40歳代半ばから後半、内海薫は30歳代半ばから後半になっている。ちょっと悲しい。
 湯川にいたっては、若い研究者に道を譲る形で、管理職みたいなことをやっているもの。ああ、Too Bad!

 ストーリーはこうだ。シンガーデビューを直前にひかえた若くて美しい娘が失踪する。手を尽くして探したが見つからない。3年たって皆が諦めかけた頃、遠く離れた土地で遺体が発見される。容疑者はいる。しかもこの男・蓮沼は20年ほど前、小学生の女の子を殺した事件で逮捕されたが、完全黙秘で無罪になっていた。今回は起訴すらされず、事件があった地元に戻ってくる。おさまらないのは親や恋人や娘を小さい頃から可愛がっていた地元の商店街の人たちだ。不穏な空気が流れるそんな中、蓮沼が死んだというニュースが流れ…

 「容疑者Xの献身」から、こういうパターンって多いよね。殺した側に何らかの事情があって感情移入してしまう。「真夏の方程式」もそうだった。

 完全黙秘って、なかなかできる事じゃないみたい。そうだよね。人間っていうのは誰かに話したい動物なんだよ。特に上手くいった犯罪なんかは。
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東野圭吾 「虚ろな十字架」 光文社文庫

2019-08-07 15:10:37 | 東野圭吾
 被告の弁護人は言う。「死刑制度は無意味だ」と。そんなこと誰でも分かっている。死刑が犯罪を抑止することはないだろう。でも、理不尽な理由で何人もの命を奪っても、犯人の命は保証しますというのなら、あまりにも人命を軽視している事になるんじゃないかな?

 光市で、未成年の男が若い母親と赤ちゃんを殺した事件にしても、通常のケースだと7年くらいで出所できるらしい。でも被害者の夫が、あまりにも妻子が可哀想だと強く死刑を望んで運動したので、最終的に、犯行当時未成年だった被告に死刑判決が出た。
 これなども、死刑判決が出て初めて、被告は命の重さを考えることができるようになったんじゃないかな。それまでは、弁護士も親も宗教家も、誰も彼の心を改心させることはできなかった。死刑が目の前にぶら下がって初めて、自分のやった事の罪深さを自覚するようになった。


 この『虚ろな十字架』では、犯罪被害者遺族が、死刑廃止反対を訴える場面が出てくる。
 中原道正・小夜子夫妻のひとり娘が殺された。捕まった男には殺人の前科があった。服役し刑務所から出所したが、仕事が長続きせず金に困って空き巣に入った先で、女の子と鉢合わせし殺してしまう。
 犯行を認めているので、問題は量刑。男は殺すつもりはなかったと訴える。裁判は何年も続き、結局、死刑判決が出た。夫婦はその後、離婚している。死刑判決が出るまでは一致団結して頑張っていたが、判決が出た後は抜け殻のようになってしまい、お互いを見るのが辛くなったのだ。
 数年後、今度は小夜子が刺殺される。すぐに犯人は出頭してきて事件は解決するが、どうも犯人の動機がハッキリしない。
 中原は、離婚後の小夜子の仕事を調べていくと、30代半ばの美しいがどこか投げやりな雰囲気の、窃盗壁のある女性と出会う。小夜子はライターとして、万引き依存症の女性たちを取材していたのだ。
 その女性は、小夜子を殺した犯人の娘婿と同郷だった。単なる偶然か?それとも…。

 どうするのが一番いい方法なのか、分からないね。たぶん誰にも。
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東野圭吾 「たぶん最後の御挨拶」 文藝春秋社

2019-07-05 16:24:01 | 東野圭吾
 東野圭吾のエッセイ集。この人、1958年生まれなので私と同い年だとは知っていたが、2月生まれなので、学年は1つ上なのだ。
 大学卒業してから、地元大阪を離れ、愛知県刈谷市にある日本電装にお勤めしていたので、名古屋市在住の私にとってはすごく親近感がある。(地元・大阪にいる時の話は『あの頃ぼくらはアホでした』に書いてある。これも、すごーーく面白い)

 このエッセイ集には、系統だったテーマはない。散文的というか…。それだけに東野圭吾の知らなかった面を、いろいろ垣間見ることが出来て楽しい。
 この人、奥さんの話が全然出てこないから、独身なのかしらん?と思っていたが、会社員時代に結婚している。そりゃそうだよ。日本電装に勤めている技術者で、背が高くなかなかのハンサム、しかもスポーツも得意!女がほかっておくはずはない。
 でも、30歳代終わりころには離婚している。その後からだね。どんどん売れ出したのは! 奥さん、離婚して残念がってるんじゃないの? あははは。(失礼!)
 すごく多作の作家さんだから、昔からいっぱい売れてたかと思えば、江戸川乱歩賞をとった『放課後』以来、まったく増刷にならなかったそうだ。でも注文は途切れずあったようなので、出版社からは注目されてたんだろう。

 東野がデビューしてからしばらくして、綾辻行人をはじめとする新本格の作家さんたちが続々とデビューして、一大ブームになった。彼らは、元々圭吾の地元の大阪や京都の出身で、デビューしてすぐに大勢の読者を獲得し、華やかな存在だった。こういう所も、圭吾の心中穏やかではなかったと思われる。 
 でも今は、新本格派のブームも落ち着き、東野圭吾が一番売れてる作家ではないか? 世の中は分からない。

 ただ、東野圭吾ですら「本が本当に売れない時代」と嘆いている。読者には、本を買ってくれと訴えている。図書館で無料で本を借りられるのは結構なことだが、皆がそうやって本を買わなくなると、本を作る事が出来なくなる、と。
 分かる。その通りだと思う。私も以前は月に5000円くらい書籍代に充てていたが、今は経済的にきついので図書館オンリーになってしまった。でも、あと2~3年したら、少し余裕ができると思うので、その時から買うようにします。待っててね。
 ただ私は、本屋さんには悪いけど、電子図書を買おうと思っている。トシを取ってくると、本の重さがつらくなるだろうから。

 そうそう、意外な事に東野は猫好き。このエッセイ本のカバーに圭吾の描いた猫の絵が載っている。それが結構、上手なのだ。ビックリ!!
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東野圭吾 「あの頃のだれか」 光文社文庫

2017-10-01 08:17:35 | 東野圭吾
 この短編集は…はっきりいって駄作集ですね。これについては、東野圭吾自身が「あとがき」の中で、どれもこれも「ワケアリ物件」と書いているので、自覚はあるんでしょう。売れっ子作家になる前、あちこちで発表した作品を、売れっ子になった後、何を出しても東野圭吾の名前があれば売れるだろうと、出版社が出したんでしょう。

 8つの短編が入っています。一番ヒドいと思ったのは、別冊小説宝石89年12月号が初出の『20年目の約束』。ページ数がそこそこあるので、よけいガッカリしました。


 「子どもは作らない」と宣言している男と結婚した女性が、夫の言葉に疑問を持たず夫の赴任先のカナダに行ったが、そこで体調を崩す。日本に一時帰国して実家で静養していると、なぜ夫がかたくなに子供はいらないと突っぱねるのか、その理由が知りたくなってくる。
 そして、故郷の山梨に帰省するという夫の後を尾行すると…。

 一応ミステリ仕立てにはなっていて、あれこれ読者も考えるけど…あまりにもありきたりな結末でがっかり。別冊小説宝石が、よくこのクオリティの作品を載せたなと、そこら辺がかえってミステリです。

 文句ばかりではいけない。一番出来の良い作品は…というと、ううう難しい。『再生魔術の女』かなぁ。
 子どもが生まれない金持ち夫婦が養子をもらう事になり、赤ちゃんと対面する。妻の方は大喜びで、すぐに赤ちゃんを連れ帰る。まだ少し手続きが残っているというので、夫の方は、養子縁組を世話してくれた中年女性の話を聞くため残る。
 そこで中年女性は語り始める。赤ちゃんの出生の秘密を…。

 現代の生殖医療の技術は、すごい事になっているから、こういう事も可能でしょうが、胸が悪くなります。

 
 『名探偵退場』は、ミステリとはちょっと違います。雪の中の三重密室殺人がでてきて、本格でこのテーマだったら、さぞ読み応えあるだろうと思えますが、この作品では、それは小さな小道具。その謎を解くわけではありません。
 名探偵のわがままさ、尊大さ、子どもっぽさに対するツッコミ満載の作品。『名探偵の掟』天下一シリーズの原型みたい。


 あとがきに書かれているのですが、東野圭吾はデビュー当時、雨の会という若手作家グループに入っていたそうです。井沢元彦や大沢在昌がリーダー格で、宮部みゆきも入っていたそうです。すごいなぁ。東野圭吾も宮部みゆきも、今では、井沢や大沢など完全に凌駕しているからね。
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