ケイの読書日記

個人が書く書評

カーター・ディクスン「プレーグ・コートの殺人」

2006-03-29 22:19:08 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 カーター・ディクスン名義のカーの作品。

 幽霊屋敷のお払いをしようと、石室にこもったイカサマ心霊術家が、メッタ刺しにされて殺された。
 しかし、石室の四方のぬかるんだ地面には何の足跡も残されていなかった。
 いったい、誰がどうやって…!


 カーお得意の密室物。カーにしてはきちんと筋道が立っている作品だと思う。(といっても、そんなにたくさん読んでいるわけじゃないんだけど)

 もちろん現実的には、1割も成功確率はないだろうが、いろんな幸運にめぐまれれば、こういうことも不可能ではないだろう、と思わせる作品。


 いつも感じるが、カーの作品って、本筋のお話より、雰囲気作りのために挿入されている怪奇な伝説の方が、うんと面白い。

 例えばこの小説で言えば、17世紀の疫病大流行時代の記述。

 疫病(天然痘のことだろうか)が大流行して、町から多くの人々が逃げ出し、病人の出た家の前には、赤い警杖をもった監視人が立ち、扉には「神よ、恵みを垂れ給え」という言葉と十字架がかかれた札が貼られている。

 疫病車の中には、かさぶただらけの死体があふれんばかりに詰まっている。疫病除けの護符や薬が飛ぶように売れたが、効果はまったくなく、人々は疫病除けの護符を首に付けたまま、死体となって疫病車の中に放り込まれている。


 「黒死館殺人事件」の中で、ペストが大流行している町を軍隊が取り囲み、逃げ出してくる人々を追い返し、ペストが他の町に伝染していくのを防ぐ、という記事があったが、それを思い出します。恐ろしいです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エラリィ・クイン「スペイン岬の秘密」

2006-03-23 17:13:37 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 日本の新本格派にとっては神様、エラリィ・クインの国名シリーズ最終作。


 悪名高いジゴロの死体は、海に向かってテラスの椅子に腰掛けていた。黒い帽子をかぶり、黒いマントを肩から掛け、ステッキを手にし、あとは全くの裸で!!
 なぜ犯人は、被害者の服を脱がせなければならなかったのか?


 論理的であろう、読者に対してフェアであろうという意欲はすごく強く伝わってきますが、実際、論理的かどうかは……ちょっとギモン。

 これは、国名シリーズ最終作だからでしょうか?初期の作品だったら、もっとデキが良い?

 それに、名探偵エラリィ・クインってこんなキャラだったっけ?すごーく昔「エジプト十字架の謎」を読んだことがあるけど、イメージが違っているような…。

 
 ただ、この作品の中でティラーという欧亜混血の召使がでてきますが、そのキャラが秀逸。なんか、古畑任三郎の西園寺君を思い出してしまった。
 作者のエラリィ・クインも、書いているうちに気に入ったんでしょう。ただの脇役からしゃしゃり出てきて、名探偵のエラリィ・クインを喰ってしまっているような感さえします。

 この作品の陰の主役はティラーですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

唯川恵「肩ごしの恋人」

2006-03-17 17:50:22 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 大人の女が心に想い描くメルヘン。

 12歳も年下の男の子から姉のように慕われ、それがいつしか恋に変わり…
明日サヨナラするという前の夜に結ばれ、たった1度のことだが女は身ごもる。
 しかしそれを、旅立っていく男の子には知らせず、幼馴染の女友達と2人で赤ちゃんを育てることを決心する。


 唯川恵は、この作品で直木賞を受賞したわけですが、他の作品の方が、出来がいいような気がします。
 この作品は、若くない女の願望があまりにも現われているようで、読んでいると気恥ずかしい。


 しかし、こんなに簡単に結婚、離婚ができるんだろうか?

 主人公の萌はずーっとシングルだが、その幼馴染のるり子は27歳でバツ3。
 最初の結婚は2年で終わり、2回目は半年、3回目は3ヶ月。
 みな、だんなの浮気が原因で別れたらしい。弁護士に依頼して、慰謝料をどっさり取ったと書かれてあるが、いくら相手に責任があるとはいえ、2年、半年、3ヶ月の短い結婚生活で、そんなにたくさん慰謝料が取れるだろうか?

 弁護士費用って高いんですよ。かえって赤字になるような気がします。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

森博嗣「黒猫の三角」

2006-03-11 18:16:35 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 サナダさんが、大変褒めていた1冊。

 森博嗣は初めて読むのですが、とても人気のある人なので、ちょっと構えてしまいます。


 被害者は室内で絞殺された。その部屋のただ一つのドアには、内側から鍵がかけられ、被害者以外の人間がそのドアを出入りする所を目撃したものはいない。

 また、その部屋には大きな窓が一つだけあったが、そこも内側から鍵がかかっていた。窓を出入りした人間はいないと、断言する証人が2人。

 つまり、完全な密室殺人。


 読後の感想は……うーーん、ちょっとアンフェアなような気がする。
 確かに殺害現場はてんやわんやだから、こういったトリックは可能でしょう。

 犯人が分かった後、該当箇所を読み直してみて、確かにそうとも受け取れるとは思いましたが、ちょっと読後スッキリしませんねぇ。


 もう一つスッキリしないのが、この瀬在丸紅子のキャラ。
 初めて読むので、最初は違和感があっても、一冊読み終えるうちに性格も容姿もそれなりのイメージが自分の中にできてくるのが普通だけど、この瀬在丸さんはちょっと無理。
 それでも、シリーズを読み続けていけば、掴めるようになるんでしょうか。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カー「皇帝のかぎ煙草入れ」

2006-03-05 13:49:53 | Weblog
%u5927%u597D%u304D%u306A%u672C%u30FB%u8AAD%u3093%u3060%u672C


 私の今までのカー観をぶち壊す、優れた作品。
 この作品は、クリスティが絶賛していたというので、大変楽しみに読んだのですが、予想以上でした。

 カーのファンの方には申し訳ないけど、私は今までカーのことを『一流のホラー小説に三流のトリックを挿入し二流の推理小説に仕上げる』と思っていました。


 オカルティックな雰囲気は素晴らしいが、冗長すぎ無駄が多く、不可能では無いにしても現実的でないトリックを強引に使う。


 でも、この作品では、オカルティックな雰囲気はおさえられ、読者に推理に必要な証拠がキチンと提示され、とてもフェアな展開になっています。


 ストーリーはこうです。

 北フランスの避暑地で、イギリスのローズ卿が深夜、秘蔵の煙草入れもろとも頭を打ち砕かれて殺される、という事件が起きる。
 いくつかの状況証拠から、殺人容疑は、ローズ家の向かいの家に住み、ローズ卿の息子のフィアンセのイブにかかった。

 ところが、事件当夜、彼女は前の夫のネッドと、窓越しに惨殺現場を見ていた。しかし、フィアンセの手前、前の夫と会っていたと言うことができないイブは、どんどん追い詰められて……


 おもしろいです。最後に「あっ!!」と驚くことまちがいなしです。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする