ケイの読書日記

個人が書く書評

大阪圭吉「とむらい機関車」

2006-05-25 14:21:16 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 たかさんに教えて頂くまで、私は大阪圭吉の名前は知りませんでした。しかし、すっごく面白い!!


 昭和7年~昭和12年の推理小説やエッセイを集めた短篇集。推理小説は、すごく整った本格派。挿絵からしてシャーロック・ホームズを必要以上に意識しています。


 また、プロレタリア文学でもないのに舞台が労働者階級が多いのも異色だと思う。
 クリスティやカーなどの、いやほとんどのミステリ作家の作品って、金持ちか上流階級が舞台。確かに、お金や宝石が絡んでくる金持ち階級の方が魅力的な作品になりやすいとは思うが、労働者階級を舞台にしても、こんな立派な作品に仕上がると、証明できていると思う。



 エッセイは推理小説絡みが多いが、そうでないものもあり、その中で私が一番気に入っているのは「停車場狂い」。

……多くの旅する人々と一緒に、停車場(駅)で待合室のベンチにボンヤリ腰をおろしていたり、構内をブラブラしてみたりする。しかし、旅はしない。それでも心は、その時旅する誰にも劣らぬほどの、旅人になりきっている……

 ふうぅむ、石川啄木の短歌を思い出しますなぁ。確か、中学の国語の教科書に載っていた。

ふるさとの/なまりなつかし/停車場の/ひとごみの中に/そをききに行く


 大阪圭吉のプロフィールを見ますと、20歳でデビュー。活躍し、31歳で戦争に召集され、33歳でルソン島で病気で亡くなっています。
 終戦まで、あと1ヶ月半のところでした。

 さぞ、無念だったと思われます。生きていたら戦後どんどんいい作品を発表していたでしょうに。


 推理小説もエッセイも、両方お勧め。
 機会があったら皆さんぜひ読んでください。
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カーター・ディクスン(カー)「白い僧院の殺人」

2006-05-18 14:17:44 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 カーにしては珍しく、オカルト的要素が薄く、絵画的な美しい作品。


 ロンドン近郊の由緒ある建物<白い僧院>そこの別館でハリウッドの人気女優が殺された。
 建物の周囲30メートルに及ぶ地面は雪に覆われ、ついている足跡は死体の発見者のものだけ。
 犯人がこの建物から脱出した際につけたはずの足跡は影も形も無かった。いったいどうやって……?


 その殺されたハリウッド女優というのが、まぶたのふくれた大きな目、浅黒い肌、細い首筋、ぽってりとした唇、物憂げな態度、心の底にひめた情熱、といった昔の高級娼婦のような性的魅力の持ち主で、たえず色恋沙汰の渦中にあり、また、その殺された場所というのが、17世紀チャールズ二世が愛人と逢引したという大理石の別館で、雰囲気十分の舞台設定。


 トリックとしては、無理なこじつけはしておらず、いいトリックだと思う。

 ヘンリ・メルヴィルのオヤジは、相変わらず飲んだくれてはいるが、あっという間に事件を解決していまい、スコットランドヤードの影の薄いこと。何のためにいるんだろう。


 ヘンリ・メルビル卿とフェル博士の区別がつかない。
 ポアロとマープルみたいにタイプの違う探偵じゃないと、登場させる意味がないと思う。
 なにか、特別な意図があるだろうか?
コメント (2)
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リリアンJブラウン「猫はブラームスを演奏する」

2006-05-14 11:10:15 | Weblog
大好きな本・読んだ本

 前回読んだ「猫は泥棒を追いかける」よりも、かなり前に書かれたシリーズ初期の作品。


 新聞記者のクィラランは、亡き母親の友人が無料でキャビンを貸してくれるというので、ピカックスを訪れる。一見、平和そうに見える田舎町は怪しげな気配に満ちていた。クィラランの飼い猫ココは、カセットデッキのボタンを押して、しきりにブラームスをかけている。
 ある日、そのテープから犯罪を匂わせる会話が流れてきて……。


 主人公クィラランが大都会シカゴを後にして、ピカックスという田舎町に住むようになったいきさつや、倹約家のクィララン(なんせ彼は孫がいてもおかしくない年齢なのに、銀行にあるお金はわずか1245ドル14セント)が、どうして大金持ちになったかの経緯が書かれています。


 シリーズ物のお約束どおり、やはり後期の作品よりも初期の作品の方がいいです。
シャム猫ココが、イキイキしているし、クィラランも若くはないとはいえ、ハツラツとしています。

 彼のガールフレンドの名がローズマリーとあるので、あれ?ポリーじゃなかったのかしら?と怪訝に思いましたが、納得。この「猫はブラームスを演奏する」でローズマリーとは別れるようです。

 クィララン、お盛ん。少しも枯れていません。
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新堂冬樹「砂漠の薔薇」

2006-05-07 15:22:47 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 数年前、東京文京区で起こった「お受験殺人」を覚えている人は多いと思います。それを題材としたフィクション。

 以前、佐々隆三のノンフィクションを読んだことがあり、それから比べると、かなり脚色してあります。


 ごく普通のサラリーマンを夫に持つのぶ子は娘の名門幼稚園受験に向け、ハイソなお受験ママ達のグループに加わる。しかし、生活水準が大きく違うのぶ子は、周りからいじめの対象にされ、屈辱的な扱いを受ける。
 そんなある日、陰湿ないじめを繰り返すお受験ママの一人、芳江の万引き現場を目撃したのぶ子は……。


 のぶ子が、お受験ママ達のリーダー格で幼馴染の十和子の娘を殺害する動機が(このフィクションでは)のぶ子が子ども時代に母親から受けたトラウマが遠因になっています。
 今は、トラウマ大流行の世の中ですから、なるほど便利な動機だとは思いますが、そんな単純なものでしょうか。


 現実の事件の、山田みつ子被告は「お受験は関係ない。母親同士の心のぶつかり合いが原因」と述べたそうですが、いくら心がぶつかり合う相手でも、お受験というファクターがなかったら、3歳の幼女を殺害する所まではいかなかったでしょう。

 しかし、山田みつ子被告、独身時代は看護婦、結婚してからは住職見習い僧の妻として、よく働く良い人だったというのに。
 どうしてこんなことになったんでしょうか。
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