ケイの読書日記

個人が書く書評

三津田信三 「犯罪乱歩幻想」 角川書店

2019-06-24 15:28:16 | 三津田信三
 「屋根裏の同居者」「赤すぎる部屋」「G坂の殺人事件」「夢遊病者の手」「魔境と旅する男」の5編は、タイトルからも分かる通り、乱歩のオリジナル作品の上に、三津田信三の作品が上書きされていて、なかなか刺激的な出来栄え。
 5編ともすべて面白かったが、私が一番好きだったのは「G坂の殺人事件」 この作品の中で殺害される推理作家の名前が津田信六なのだ!!笑ってしまう。こういう事もあるだろうと思って、三津田信三というペンネームにしたんだろうか? なんて思わず考えちゃう。
 それに、これは変格を得意とする乱歩や三津田信三には珍しく、本格推理小説だ。

 G坂に住むミステリ作家志望の私は、ある殺人現場に遭遇する。G坂の途中にある喫茶店の窓際の席で、私が、めっぽう博識で怪談奇譚が大好きな老人とコーヒーを飲みながらミステリ談議に花を咲かせていると、通りの向かい屋敷の庭の椅子に座っている津田信六が倒れているのが見えた。慌てて駆け寄り助け起こすが、彼は鉄製のダンベルで撲殺されていた。でも、いったい誰がどうやって? なぜなら、津田信六に近づいているような人影は見えなかったのだ。

 最終的に謎は、このミステリ好き老人によって解かれるが、この老人の正体って…?
 老人は、若い頃から旅から旅の生活で、各地に伝わる怪奇譚の収集をやっていたらしい。昭和30年ごろだったら、たぶん20代後半くらいか、そうだとすればそうそうあの人、刀城言耶? なんて勝手に想像して楽しんでる。

 あと三津田信三オリジナルの2編「骸骨坊主の話」「影が来る」はあまりいい出来ではない。特に「影が来る」はヒドイと思う。(失礼!)
 「骸骨坊主の話」は「リング」に登場する貞子へのトリビュート作品として書かれたらしい。たしかに「リング」では、呪いのビデオを見た者はそのビデオを他の人に見せなければ自分が1週間後に無残な死に方をするという話だった。(私はこの「リング」観てない。ホラーは無理なんだ。怖くて夜中にトイレに行けなくなるから)
 三津田信三バージョンだと、この骸骨坊主の話を聞いたものは、誰かにしゃべらなければ1週間後に行方不明になるとの事。怖いねぇ。

 でも、もしこういう事が可能なら…核兵器など使わなくても、呪いの話を伝えるだけで、敵対勢力を弱めることができるかもしれない。
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群ようこ 「咳をしても一人と一匹」 角川書店

2019-06-20 11:33:11 | 群ようこ
 群さん、飼い猫のしいちゃんを甘やかしすぎ! しいちゃんは2018年で19歳。室内飼いの猫の寿命は15歳~16歳といわれているので、長生きねこちゃん。
 仔猫の時に、群さんの自宅のベランダに迷い込んできて保護された。若い頃は、ご近所最強のメス猫だったが、最近はおばあちゃんになったせいか、だいぶ大人しくなって家の中をゴロゴロすることが多くなった。
 そのしいちゃんを、群さんはねこっ可愛がりする。しいちゃんがいるので泊りがけの仕事は受けないし、毎日のブラッシングやマッサージは欠かさない。それも3種類のブラシや櫛をつかって!
 冷暖房も猫中心。もともと群さんは冷え性なので冷房は嫌いだが、しいちゃんが暑そうだと、すぐクーラーのスイッチをON! それどころか、しいちゃんは群さんに団扇で扇がせるのだ。ほら、後宮にいるスルタンが、女奴隷に団扇で扇がせるみたいに。

 一番、驚きあきれるのは、しいちゃんの食事。もともと小柄な猫なので食も細く、なかなか食べてくれないので困っていたのだ。だから、カリカリもネコ缶も一度に何種類も開けて、気に入ったものを食べるようにするのだが、しいちゃんが気に入るのは、群さんの友人が海外旅行のお土産で買ってきたオーガニックのべらぼうに高いネコ缶。
 それも1/4食べれば良い方で、残りは捨ててしまうのだという。 
 で、しいちゃんの食費を計算すると、1日1000円ちょっと、かかるらしい。つまり1か月3万円以上。アンビリーバボー!!!

 そして、しいちゃんはウナギも召し上がる。群さんがタレの部分をお湯で洗い流し、ほぐしてネコ皿に入れてやると喜んでパクつくそうだ。夏場うなぎを食べると格段にお元気になるそうだ。なんという贅沢な猫。

 このエッセイの中にも書いているが「女王様と下僕」「女王様と乳母」である。しいちゃんの年齢が年齢だけに、1日でも長生きしてね、と心から願っているんだろう。
 
 私だったら…乳母桜猫はさっさと天寿をまっとうし、自分はみゃあみゃあ可愛い仔猫ちゃんをまた飼いたいなと思うね。

 他にも、しいちゃんは雷が大嫌い! 音に敏感というのはよく分かる。我が家のみい太郎もそうだから。それに、突如、1匹大運動会が始まるのもよく分かる。みぃ太郎も、お前は前世が馬だったの?と尋ねたいくらいパッカパッカとあちこち走り回る事がある。なんでだろう? テツ&トモさんに聞いてみたい。
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「あやかしの裏通り」 ポール・アルテ著 平岡敦訳 ㈱行舟文化

2019-06-12 14:47:43 | 翻訳もの
 ポール・アルテのツイスト博士シリーズは読んでいたが、このオーウェン・バーンズシリーズは初めて。これが初の邦訳だそうだ。私がこの作品をたかさんから教えてもらって、図書館に予約してからずいぶん経つ。
 それもそのはず、私の住んでいる市は、図書館数が20近くもあるのに、この「あやかしの裏通り」をたった1冊しか購入してないのだ。全市で!信じられない!その1冊を希望者に回しているんだ。そりゃ、なかなか来ない訳だ。 図書館の予算を握ってる皆さん! もっとポール・アルテの本を買ってください。


 舞台は1902年秋、霧のロンドン。わーーーー!もろにホームズと被ってしまう。ただ、探偵役のオーウェン・バーンズは、キャラとしてはファイロ・ヴァンスみたい。美術評論家でアマチュア探偵。でもファイロ・ヴァンスほど蘊蓄は垂れないので、読みやすい。ホームズと決定的に違うのは女好きな事。こういう所が、著者はフランス人だなぁと思う。女好きな名探偵なんて、魅力が半減しちゃうじゃないか!

 バーンズの旧友が凶悪犯に間違われて、ロンドンの裏町を逃げ回っている途中、迷い込んだ路地・クラーケンストリート。そこで、いかれ頭や赤いケープの女、盲目のブドウ売りといった特徴的な人たちに話しかけられ、入った建物の2階で、奇妙で恐ろしい光景を目撃する。
 慌てて逃げ出した旧友が、路地を振り返ると、そこにあったはずの路地やボロ屋や怪しげな人たちが、きれいさっぱり消えていた。
 その話に興味を持ったバーンズが調べてみると…なんと、このクラーケンストリートの怪異は過去にも何度も起きているというのだ。そんな事が、本当に起こりうるのか?

 なかなか見事なトリック。もっとも霧のロンドンじゃなきゃ、無理なトリックとも思う。このホームズの時代のロンドンの霧って、すごかったらしいね。隣を歩いている人の顔も分からなかったとか。
 だからこそ、切り裂きジャックが、現実に何人もの娼婦を殺しても逃げおおせることができたんだ。

 ポール・アルテがフェアなのは、ちゃんと地図というか図が書いてある事。読解力の低い私としては、こういう所が嬉しいです。
コメント (2)
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「マザリング・サンデー」 グレアム・スウィフト著 真野泰訳  新潮社

2019-06-07 10:33:34 | 翻訳もの
 美しい話。私は英国を旅行したことはないが、それでも、季節外れに暖かい3月の終わり、英国南部の田園風景のまぶしい光の中を、さっそうと自転車をこぐ若い女性の姿が目に浮かぶ。

 マザリング・サンデーとは、もう現代では廃れてしまった風習だが、お屋敷の使用人たちが半日休みを貰い、実家の母親を訪ねる習慣だそうだ。
 1924年3月30日の月曜日が、その日に当たっていた。
 しかし、ピーチウッド邸のニヴン家でメイドとして働くジェーンには、母親がいない。彼女は孤児だったから。だからジェーンは、ご主人様から許可をもらいお屋敷の図書館の本を借りて、庭でのんびり読書をしようとしていた。
 お屋敷の図書館ですよ! 書斎ではなく。いくら、ここのところ財政が厳しく家政を切り詰めていたと言っても、やはり地主階級はすごい。

 そこに電話がかかってくる。お隣の屋敷の(といっても1マイルほど離れている)ポール坊ちゃまからだ。彼と秘密に付き合って7年になる。彼は、2週間後に、お金持ちのお嬢さんと結婚式を控えている。
 その彼が、今日は両親も使用人も留守なので、屋敷に来ないかと誘ってくる。大喜びで出かけるジェーン。もちろん、ご主人様にはどこに行くかはナイショだ。ご主人夫妻は、ポール坊ちゃまのご両親と、ポール坊ちゃまの婚約者ご両親と、3組の夫婦で食事会なのだ。

 隣のお屋敷についたジェーンは、坊ちゃまの指示で、初めて正面玄関から入り、初めて坊ちゃまの部屋で親密な時を過ごす。もちろん坊ちゃまの部屋以外の場所、納屋とか小道わきの崩れかかった小屋では、幾度となく親密な関係になってはいたが。

 こう書くと、ジェーンが坊ちゃまにいいように利用されているだけと思うだろうが、もちろんそういった面もあるが、それだけじゃない。坊ちゃまはジェーンに一目置いている。なにしろ彼女は頭がいい。ただのメイドにしては驚くほど読み書き計算が達者なジェーンだが、そこは階級社会の英国。ちゃんと自分の立場をわきまえている。

 この情事の数時間後に悲劇が起こり、1924年3月30日は、ジェーンにとって忘れられない1日になった。

 実は、この小説は、後に小説家になったジェーンがインタビューに答えて過去を振り返っているという形式になっている。1924年英国。2つの大戦に挟まれたつかの間の平和な時代。第1次世界大戦で、ジェーンのご主人様の2人の息子は戦死し、お隣のポール坊ちゃまの2人の兄も戦死している。なんという喪失。 
 コナン・ドイルを思い出すなぁ。彼も、息子の1人をドイツ戦で亡くしている。恨みは相当なものだと思うよ。
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群ようこ 「妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子」 文藝春秋

2019-06-02 16:42:40 | 群ようこ
 群ようこと同じく、私も林芙美子の『放浪記』が大好きなので、平林たい子の名前は知っていた。芙美子もたい子も、戦前戦中の売れなかった時代、カフェで女給をして生活費を稼ぎ、ろくに働かない内縁の夫を養っていた。その頃から二人には交流があった。

 平林たい子は、一般的にはプロレタリア文学者という括りになっている。戦後、流行作家として、一躍時の人となったが、今ではすっかり作品を読む人も少なくなり、忘れられつつあるのではないか? 私も読んでいない。
 そういえば、平林たい子賞という文学賞があったような気がするが、今では聞かない。どうなったんだろう?

 一方、林芙美子は、たい子と同じように戦後流行作家となり、裕福な暮らしをしていたが、若くして亡くなった。でも、彼女には『放浪記』がある。何度も映画化され、舞台化された。才能の有無って本当に残酷だ。同じように小説が売れ、売れっ子作家となり、マスコミにも数多く露出していたのに、時の流れとともに一方は忘れ去られ、片方の代表作は不滅だ。

 平林たい子という人は、プロレタリア文学者というより、女性解放論者という方がピッタリくるかもしれない。ただ、この2つの看板、両方ともメッキです。
 戦前戦中は貧しかったし、政治的弾圧を受けて、反政府的な作品を書いてはいたが、少し原稿料が入ると、すぐ着物を買ったりする。戦後、売れ出し、お金がどんどん入ってくると、豪邸に住み貴族的な生活をする。貧しい人達を見下す。 あれ? 言ってる事・書いてる事とやってる事が違うよね。
 男女同権・女性解放を叫びながら、家では亭主に殴られても糾弾しない。マスコミ向けには、仲の良い理想の夫婦を演じている。
 つまり、普通の人なんだ。

 タイトルの『妖精と妖怪のあいだ』の妖精がどこから来たのか分からない。平林たい子とは真逆なイメージ。妖怪は分かる。元亭主が離婚後、『小説・妖怪を見た』という暴露本を出版しているのだ。
 元亭主も、色々尽くしてきて言い分はあるだろうが、流行作家となったたい子から、お金をどんどん引き出して、自分の趣味に近い政治活動に遣っている。(挙句の果てに、家政婦さんと親密になり子供まで出来てサヨナラ)
 それにしても当時の流行作家って、本当に儲かったんだね。湯水のようにお金を遣っている。今では考えられないよ。東野圭吾クラスだったら、そうかもしれないが。新聞社や出版社も、特派員として作家を海外に送っている。1ドル360円の時代に。財政が豊かだったんだ。みんな、本や雑誌や新聞を読んでたんだ。インターネットが無かった時代だものね。
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