ケイの読書日記

個人が書く書評

中村うさぎ「私という病」

2007-12-30 15:02:17 | Weblog
 中村うさぎは私と同い年である。ということは相当なオババだが、その彼女が「人妻デリヘル嬢」をやってみて、その体験をまとめたもの。
 これって、結構、週刊誌で話題になっていたよね。

 自分の女性性を突き詰めていって、上野千鶴子や小倉千加子よりももっと優れたフェミニズムの本になっているのだが、正直、疲れる。
 「私は…私は…」「我々は…我々は…」自分の内面を掘り下げるのも大切な事だが、そればかりで自分以外のものが見えていないような印象を受ける。


 この人も、季節の移り変わりや、飛んでいく雲や、夕焼けの美しさにふと心を奪われるという心境になってもいいような年齢だと思うけど。
 まあ、そうなっては中村うさぎとはいえないかもしれない。


 自分でも終わりの方に書いているが、中村さんは「女である事」を良くも悪くも過剰に意識しすぎなのだ。
 「男の欲望を刺激しない女は存在する価値が無い」という理屈を、中村さんは憎みながら肯定している。


 そして、いやいやお義理で亭主に相手してもらっている女房を、かわいそうとか人間扱いされていない、とか書いているが、世の中めんどうでやりたくない、という女もドッサリいると思うな。
 男の欲望を刺激する女ばかりだったら、男自身がさぞ困るでしょうね。


 私はそれよりも、中村さんが「女としての存在意義」ばかりに関心を持ち、「生物としての存在意義」にちっとも興味を持たないのは本当に不思議だと思う。
 「種の保存」という欲求は無いのだろうか?
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奥山貴宏「31歳、ガン漂流」

2007-12-25 11:27:34 | Weblog
 悲惨。体調が悪かったり、気分が落ち込んだ時は、読まないほうがいい本。
 
 文章中、感情的になったり、打ちひしがれた箇所はほとんどなく、すごく淡々と経過を書いてある。
 しかし、何といっても31歳の若さで、肺ガン・余命2年と宣告された、働き盛りのフリーライター。放射線治療も苦しいばかりで、さほど効果は出ていない。
 経済的な問題には、ほとんど触れてないが、相当高額な医療費だろう、大変だったと思うよ。

 ヘビースモーカーで不規則な生活を送っていたことは自分でも認めているが、いくらなんでもそれが原因で、31歳で肺ガンになることは無いそうで、遺伝的なものらしい。


 今まで、私が読んだガン闘病記は、岸本葉子さんの「がんから始まる」だけ。
 でも、これは治る確率(5年間再発しない確率)は半分と、希望はあったのだ。
 しかし、奥山さんの場合は…ああ…。


 それにしても,女医さんって本当に増えているんだね。産婦人科の女医さんが増えている話はよく聞くが、こういったガンを専門にあつかう所でもそうらしい。
 奥山さんは、最初の担当医の女医さんには信頼感を持っていたが、次に担当になった女医さんにはボロクソ! 「この女医にもいい点はあるんだろうけど、今の所見当たらない」と手厳しい。

 医者との信頼関係がすごく大事なのに。奥山さんの妹さんの嫁ぎ先が、薬剤師と言うから、そのつてで良いお医者さんを探せばよかったのに。
 今更遅いけど。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高山文彦「少年A・14歳の肖像」

2007-12-20 11:06:18 | Weblog
 1997年神戸の友が丘中学校周辺で起きた猟奇殺人。犯人がまだ14才の少年だったこのセンセーショナルな事件も、もう10年たつんだ。
 でも、全然風化していない。
 図書館の書架にあったのだが、手に取らずにはいられない。


 実は5年ほど前に、文春文庫「少年A・この子を生んで…父と母、悔恨の手記」という本を読んだ事がある。
 父母が書いたというより、語ったことをライターが文章化したんだろうが、どこにでもある普通の家庭という印象だった。

 ”猫を解体している最中、勃起して射精する。だから猫殺しが止められない”
といった行為は、育て方の問題だろうか?それとも先天的なもの? そして治るんだろうか?
 対象が猫から小さい子どもに変わっていくのは必然だろう。

 しかし、この家族は猫の解体も全く知らないし、被害者の淳君の首を自宅で切り落とした事も全然気が付かなかったという。
 11才のちょっと太目の男の子の首を切り落としたら、ハンパじゃない出血であろう。いくら水で流したり拭いたりしても、形跡は残るんじゃないだろうか? ましてはお母さんは専業主婦。フルタイムで働いているのではない。
 脱衣所に血をふき取った跡があれば「あら?誰か怪我したのかしら?」と不思議に感じないのだろうか?

 やはり、母親というものは私を含め、見たいものだけを見て、見たくないものは見えていても見ない、という事だろうか。


 この本の後半に、少年Aと深く関わり今後の彼を見守ろうとする人物が出てくる。そこを読んで本当に腹が立った。
 確かに少年Aと信頼関係を結ぼうと色々な働きかけをして成功しているようだ。でも、これじゃまるで少年Aの下僕である。

 殺された淳君、彩花ちゃん、そして瀕死の重傷を負った女の子は、放られっぱなしである。少年Aにだけ、大勢の優秀な医療スタッフがつき、彼を更生させようと大金がつぎ込まれる。

 本当に不公平。結局は大罪を犯しても、生きているものが勝ちなのだ。ああ、不公平。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

二階堂黎人「地獄の奇術師」

2007-12-15 12:39:07 | Weblog
 タイトルからしてなんて江戸川乱歩チックなんだろう、と思う人も多いのでは?中味も本当に乱歩的なんである。
 私は「少年探偵団」とか「怪人20面相」とかは、子どもの頃あまり好きではなかったので、最初は読みにくかったが、この虚構の世界に飛び込んでしまえば、すごく面白い。
 こういった探偵小説にリアリティを追求しても意味が無い。


 昭和42年晩秋、東京・国立市の裕福な一家に、恐ろしい惨劇がふりかかる。
 当主の次女が、逆さづりされた上、皮膚を剥ぎ取られて殺され、次に当主の妻と長男も毒殺、当主もまたノドをかき切られ惨殺される。
 これらは皆、地獄の奇術師の仕業なのか…?


 犯人はすごく分かりやすい。ホテルでの殺害トリックも、比較的しっかりしている。ただ、人間の心理が、あまりよく書けていないと感じる。

 当主である暮林の血を引かないのに冷遇されておらず、同等の扱いを受けるとはかえって不自然。
 当主一家が敬虔なカトリック教徒であるという設定で《十の大罪》を全部犯したので皆殺しする、というのはあまりにも取ってつけたという印象がする。

 大体、生粋の日本人でありながら、敬虔で狂信的なカトリック教徒というのは、ちょっとイメージできないね。
 だいたい暮林の一家は、戦前戦中、日本の軍部と関係が深く、戦犯で処刑されそうになったという経歴の一家ではないか。
 あまりにも、作り物めいている。


 二階堂黎人の探偵小説では、登場人物のおしゃべり中に古今東西の推理小説の感想が含まれている事が多く、それがすごくためになる。
 二階堂先生はとても親切。
 これで、私の「これから読みたいミステリ」のリストがどんどん増えていくじゃないか。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

角田喜久雄「高木家の惨劇」

2007-12-10 10:59:10 | Weblog
 敗戦後、没落していく名家でおこった当主殺害事件。いわゆる『旧家物』だが、横溝正史のような耽美・退廃的な雰囲気はない。
 戦争に負けて疲弊しきった日本人の生活をむき出しで書いてある。
 トリックやストーリーよりも、そちらの方がよっぽど面白い。

 昭和20年11月の事件という設定で、8月15日の敗戦から3ヶ月後に起こった事件を、加賀美という優秀な刑事が、何度も壁にぶつかりながら解決していく。

 しかし、敗戦から3ヶ月しかたっていないのに、警察ってこんなにキチンと機能していたんだろうか? 監察医や鑑識はとても有能で機材もそろっているなんて。
 だいたい、大多数の警察官はまだ復員していないんじゃないか。


 それ以上に足りないのはタバコである。
 食べるものにさえ事欠く時代に、どうしてそんなにタバコが吸いたいのか理解に苦しむが、加賀美はたえずタバコが無い無いとイライラしている。

 容疑者の一人が自分のタバコを持っているのにもかかわらず、加賀美にタバコをねだり、その上、取調室の灰皿に溜まっているシケモクさえ、袋に入れて持ち帰ってしまうというすごいケチンボなのだ。

 この高木家という家は、江戸時代には大名で明治に入って子爵に列せられたほどの名家だが、よどんだ血がなせる業が、最近は狂人が続き、子爵の位を剥奪されていた。
 殺された当主も、妻や子、弟や妹、使用人を虐待し、殺されても仕方がない男だったが、その実弟がシケモク窃盗犯なのである。
 
 ああ、世が世なればお殿様だったのにねぇ。本人の資質なのか、困窮する時代がそうさせたのかが、よく分からない。


 しかし、旧華族というのに『高木』という名字は合わない様な…。どこから引っ張ってきたのだろう。それが最大のミステリ。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする