ケイの読書日記

個人が書く書評

湊かなえ 「罪深き女」 光文社

2021-06-25 14:03:07 | 湊かなえ
 こういう女っているんだよね。全く罪深い女じゃないのに、罪深き女になりたがる女が。通行人Aなのに、物語の主人公になりたがる女が。

 この小説の語り手・幸奈は、死傷者15名を出した通り魔事件の犯人、黒田正幸(20歳)を知っていた。子どもの頃、同じアパートに住んでいたのだ。幸奈も正幸くんも母子家庭で、決して裕福ではなかったが、それでも母親たちは懸命に我が子を育てようとしていた。
 しかし、しばらくして異変が起こる。正幸くんが、夕方から夜にかけ、たびたび一人でポツンと階段下にいるのだ。最初は気にも留めなかったが、どうやらお母さんが部屋で男の人と一緒にいるらしい。
 お母さんは、正幸くんにろくに食事もさせてないようで、小学校低学年なのに目が落ちくぼみガリガリにやせ細っている。でも、幸奈が出来ることと言ったらメロンパンを渡したり、おにぎりを持たせたり、宿題を見てやったり(正幸くんは幸奈の5歳下)するだけ。根本的な解決にならない。当たり前か。そんな時に事件は起こって…

 幸奈のお母さんも正幸くんのお母さんも、今風に言えば毒親なんだろうが、人間の業を背負っているっていうのか…。

 幸奈の母親はシングルマザーで娘を生んで、なんとか男で失敗しない人生を娘に歩ませたいと強く願ったので、娘の交友関係に神経質になってるんだろう。
 一方、正幸くんの母親も、どういう経緯で母子家庭になったのか、そのいきさつは書かれていないがキレイな人なんだろう。(正幸くんも可愛らしい子で、運動会でダンスを踊っている時、幸奈のクラスメートから、あの子可愛いねと言われたほど)再婚して幸せをつかみたいと願うのは当たり前だと思う。でも、それが周りの女の嫉妬心を煽って、不幸な事件を引き起こしたのだ。

 この小説を読み進めていくうち、読者は、幸奈の行為は幸薄い正幸くんの人生に、子どもの頃わずかに灯った明るい光と感じ、胸がいっぱいになる人もいると思うが、ラストはそんな光を叩き潰す正幸くんの証言。まあ、そんなもんだよ。
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湊かなえ 「ベストフレンド」 光文社

2021-06-18 14:20:09 | 湊かなえ
 脚本家が主人公という作品は、林真理子の小説や内館牧子のエッセイ、東村アキコのマンガで読んだことあるけど、やはりメジャーではないからピンとこない。私、脚本家の名前もほとんど知らないしね。
 今、TVドラマが低調なので、ゲームのシナリオライターを目指した方がいいんじゃないの?なんて心配しちゃう。でも、この小説の主人公・涼香は大人の恋愛話が得意だから、やっぱりTVドラマ向きか…。
 でも、TVドラマの脚本家ってそんなにたくさん需要があるんだろうか? なんて、ウツウツ考えながら読んだ。

 涼香は、宅配事務のアルバイトをしながら脚本を書いて応募している30歳女性。毎朝テレビ脚本新人賞を受賞した。その時の最優秀新人賞を受賞した薫子に、猛烈なライバル意識を持つ。
なぜなら、本当は涼香こそ最優秀新人賞に輝いていたはずだから。多数決では涼香の作品が一番だったのに、選考委員長の大御所が、薫子の作品を気に入って推したので、ひっくり返ってしまったのだ。
 薫子は島根在住のパッとしない女で、その点でもそんな女に負けたという事が、都会の女である涼香には許せなかった。
 涼香は、どんどん担当プロデューサーにプロットを送り指示を仰ぎ、仲良くなっていく。脚本家の世界にも枕営業という言葉があるんだ。タレントや女優さんではよく聞くけど。もちろん涼香はそんなことしてないが、仲良くするにこしたことはない。仕事をもらえることになったが、低視聴率に終わり、担当プロデューサーは左遷される。
 一方、薫子の方は初めの方こそもがいていたが、良い理解者に巡り合い、力作を書き始める。そして…

 脚本家の収入ってどれくらいなんだろうね。もちろんドラマ1本いくらって勘定なんだろうけど、その値段の交渉って自分でやるの? それに連続ドラマだと、低視聴率で途中で打ち切りになったりすると経済的に大打撃。一時的に人気があったとしても、それが続くことは少ないし、とすると需要がなくなったら何をやるんだろう? シナリオ教室の講師とか。うまく小説家に進路変更できる人は良いだろうけど。

 シナリオライター、ああ、厳しい世界です。「この世に容易い仕事はない!!!」(津村記久子の小説のタイトルから)
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湊かなえ 「マイディアレスト」 光文社

2021-06-11 10:40:33 | 湊かなえ
 湊かなえって人は、本当にこういった家族間(この場合は姉と妹)の軋轢というか緊張を書くのが上手だなって、つくづく思う。

 淑子はアラフォー女性。親に厳しく育てられたせいか、人との付き合いが下手で、勤めても1~2年で退職・転職を繰り返す。ここ数年は仕事が見つからず、無職のまま実家でぶらぶらしていた。実家は経済的に困っておらず、淑子が働いてなくても文句を言わないので、のんびり過ごしていた。
 ところが、淑子の6歳年下の妹・有紗が妊娠し、赤ちゃんを産むために帰ってくる。実家は初孫が生まれるウェルカムモードに入ってしまい、淑子が少し居づらくなる。6歳年下の有紗とは実のところ、あまり仲良くない。
 小さい頃から、母親は姉の淑子には厳しかった。(例えば、男の子からの電話を取り次いでくれない)しかし妹には甘々で、お小遣いを与えてデートに送り出す。よくある話だと思う。
 その不満を親にぶつけてみても、うまく言いくるめられる。しかし、両親との関係は悪くなかった。妹が里帰り出産で実家に帰ってくるまでは。

 妹の有紗はイマドキの女の子で、実家にボーイフレンドを連れて泊りがけで帰ってくる。家族は、結婚の挨拶だろうと思ってもてなすが、遊びに来ただけで、男はそのまま帰っていく。そんな事が何度もあった。
 つまり、姉とは全く違って、姉の事をバカにしていた。姉の部屋に勝手に入って来て、本棚のロマンス本を勝手に取り出し読んで「バッカじゃないの!40過ぎの女が大会社の御曹司に見初められハッピーエンドなんて、あるわけないじゃん!!」と毒づいている。

 ああもう、事件の前兆がはっきり現れてるよ。

 そもそも、どうして里帰り出産なんかするの? 実家には未婚の姉がいるのに。母親に手伝いに来てもらえばいいだけなのに。
 だいたい、昔話や民話では、姉より妹が幸せになる話ばかりだ。WHY? 年が少ない方がカワイイという世界共通認識があるんだろうか?
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林芙美子 「水仙」

2021-06-04 14:26:14 | 林芙美子
 水仙という題名だから、ギリシャ神話を彷彿とさせる美少年が登場するのかな?と期待していたが、全く違った。

 これも戦後まもなくの話。(なにせ林芙美子は戦後間もなくの昭和26年1951年に亡くなったのだ) たまえという女と、彼女の22歳になる息子の話。たまえが女学校を卒業してすぐ男と駆け落ちして生まれた息子なので、たまえは40歳くらいだろうか?
 その男とは別れたが、次々と別の男ができたし、それに彼女は生活力がある人なので、戦中戦後なんとか母子家庭でやってきた。ところが、息子はサッパリなのだ。
 今、8050問題とか7040問題とか騒いでいるが、成人した子どもが働かなくて、親が困っている問題って、昔からあったんだ。

 20歳になる作男は、母親のたまえから、何とかして勤めを持って自立してくれと要求されている。母親は顔の広い女なので、彼女のツテで色んな会社に面接に行くが、どこも不採用。そりゃそうだ、就職を頼みに来てふんぞり返って煙草をふかしているんじゃ、採用されるわけない。(話はそれるが、この時代、喫煙率がすごく高い。特に林芙美子の作品の登場人物は、大人だとほぼ全員)

 作男は集団生活するには気が弱く、勉強も好きではないし、身体も弱いので、戦争中も勤労動員には出なくて、母親と暮らしていた。戦後になり、母親の方は上手く立ち回り、闇屋のようなことをやって小金を貯めていたが、それを作男が持ち出して散財してしまう。絵にかいたような放蕩息子。
 母親のハンドバックの中を、お金がないかとゴソゴソしたり、亭主もちの女と仲良くなって食べさせてもらおうとするが、手切れ金をもらって放り出される。

 結局、作男は友人のツテで北海道・美幌の炭鉱の事務所で働くことになる。「美幌に行けば死にに行くようなものだ」と作男はこぼすが、実際、肺の悪い人間が寒い季節に行けば、死ぬんじゃないかと思う。肺が悪いって、たぶん結核なんだろうね。

 母子といっても、お互い重荷にすぎないんだ。
 
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