ケイの読書日記

個人が書く書評

井上荒野「ひどい感じ 父・井上光晴」

2014-04-29 16:56:34 | Weblog
 井上光晴の名前は知っているが、残念ながら読んだ事はない。でも、現代文学史に出てくる人だから、それなりに有名な小説家なんだろう。
 娘さんの井上荒野の作品は数冊だが読んだ。江國香織とか吉本ばななといった、二世作家は何人もいるが、その中でも素晴らしい才能を持った人だと思う。その荒野さんの、父親について書いた作品。

 この井上光晴氏は、とってもモテた人で、瀬戸内晴美が出家して瀬戸内寂聴になったきっかけも、井上光晴との恋愛を清算したかったから、らしい。だいたい、小説家という職業はモテるだろうし、その上、光晴氏は大嘘つきで不誠実な男だったから、なおさらモテたんだろう。


 この光晴氏がどれほど大嘘つきだったかというと、子どもの頃、周囲から『嘘つきみっちゃん』と呼ばれていたらしい。
 極めつきが、出生地の虚偽。自筆の年表では、大正15年、満州・旅順で生まれた事になっているが、実は九州・福岡の生まれだった! その事を、妻も子どもも誰も知らず、知っている実妹も、兄がそう言うならと知らん顔をしていたらしい。

 死後、編集者が、あらためて年譜を作成したら、嘘が発覚。光晴氏の父が、陶工で各地を放浪し、光晴氏たちをほったらかしていた事は事実らしいが、会社勤めをして定住していた事もあったらしい。その部分は無視。あくまでも、自分の父親はさすらいの人で、中国でぷつっと消息を絶った…事にした。

 つまり、自分の人生がドラマチックでないことに耐えられないんだろう。だから、他人に対して、というより、自分自身に嘘をつき続けていた。


 荒野(あれの)は本名。父親の光晴が付けたらしい。『嵐が丘』をイメージしているんだろうか。「平凡ではない、ドラマチックな人生を送ってほしい」という父親の願いが込められているんだろう。
 そういえば、私が高校生の時の1年先輩の女の人を思い出す。彼女は「魔里子」という名前だった。(ひょっとしたら里は理or利かもしれない)  親の、彼女にかける意気込みが感じられるね。「あなたは他の人とは違う、特別な存在なんだ」という親からのメッセージ。かえってプレッシャーになるんじゃないかな? あの人は今、どうしているんだろう。
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東野圭吾「ガリレオの苦悩」

2014-04-24 13:47:41 | Weblog
 ガリレオシリーズ第4弾。この中の第1章「落下る(おちる)」で、TVドラマから逆輸入された内海刑事が、初登場!
 内海刑事って、小説ではすごく優秀なんだ。いっさい無駄口叩かず、冷静沈着。そして努力家。
 TVドラマの方では、コメディアンヌっぽかったけど、これは、湯川の助手の栗林先生とのからみからそうなったのであって、栗林先生が登場しない小説では、すごくシリアス。かえって湯川の方がお茶目です。


 大学時代の恩師に「味にうるさいのが1人いるが、本当に分かって言ってるんじゃない。理屈をこねまわしているだけだ」「あいつは、野菜の切り方にも理屈をつけるやつだからなぁ」ってウザがられる。
 大学時代の友人に「ワインが足りない。あいつは、なかなかの酒豪なんだ」「高級である必要はない。蘊蓄はたれるが、じつは味音痴だ」って、さんざんな言われよう。

 そういえば、TVドラマにも、研究室で料理を作っているシーンがたくさんあった。どっかの景品でもらった汚いカップにインスタントコーヒーを入れて、客に振る舞うシーンも。
 そうそう、湯川は大学生の時、インスタントコーヒーを自分で作ってみて「やっぱり買った方が合理的だ」と気付き、止めたとか。

 かっての旧友や恩師が登場すると、湯川の昔の思い出話が出てくるから、それが楽しみ。大学以前の、高校時代、中学時代の湯川はどんな子だったんだろうね。生意気な子だっただろうな。
 でも、その旧友や恩師が事件にかかわっているから、悩むんだよね。「ガリレオの苦悩」って良いタイトルだと思うよ。


 第4章「指標す(しめす)」は、雑誌に連載されたものではなくて、書き下ろしなんだ。TVドラマでは、川口春奈が、ダウジングする女の子を演じていた。あんまり面白くないなぁと感じていたが、原作の方も出来はイマイチ。

 第5章「攪乱す(みだす)」は、原作もTVドラマも秀作。そうだよなぁ。天才物理学者って、天才でない物理学者にとっては、すごく邪魔な存在だろう。これに近い事、現実にあるだろうね。
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東野圭吾「予知夢」

2014-04-18 13:52:49 | Weblog


 これがシリーズ第2弾。先日読んだ『容疑者Xの献身』の前の作品集。
 ここまでくると、湯川・草薙コンビもだいぶこなれて来て、二人の会話も掛け合い漫才風になる。特に、第5章「予知る(しる)」にその傾向が顕著。くすくす笑いながら読んだ。

 「君から科学とか真理とかいう言葉を聞くと、21世紀に期待を持てそうな気がするから不思議だ」
 湯川が、オカルト事件専従になりつつある草薙に投げかけた皮肉。
 草薙は、オカルトめいた事を科学的に解き明かそうとすると、意外な真理が見えてくる事に気づいたのだ。殊勝な心がけではないか!!


 東野の小説を読んでいると、筆者が女性に対して、かなりシビアな見方をしている事に気づく。
 一人の男をめぐる二人の女の争い。それも、その二人は、かつての親友だった、なんて設定はよくある。これなんか、筆者の実体験が、かなり影響しているんじゃないかな。
 その他、男を追いかける女が、最初は結婚など全く興味なし!と宣言していたのにもかかわらず、次第に男に結婚を迫る、という設定もよく出てくる。
 これも、東野が実際に経験したんだろう。なにせ出版業界は、高学歴の独身女性だらけで、東野はイケメンの売れっ子作家だしね。

 東野はお姉さんがいるようだが、女に夢を持たないというか、女の裏側を知っているというか…。


 そういえば、草薙刑事にもお姉さんがいて、あれやこれや指示されてムカムカしている割には、お姉さんに従順だなぁ。いろいろ相談にのってあげている。

 湯川って兄弟姉妹いるのかな?ホームズにはお兄さんがいたけど。 いたら面白いだろうね。
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東野圭吾「容疑者Xの献身」

2014-04-14 10:45:49 | Weblog
 今更ながら『容疑者Xの献身』を読む。映画の方は、映画館で見て、おいおい泣いたなぁ。容疑者Xが、あまりにも可哀想で。


 天才数学者でありながら不遇の日々を送っていた高校教師・石神は、隣に引っ越してきたシングルマザーに、密かに思いを寄せていた。
 彼女たちが、別れた前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うために、完全犯罪を企てる。

 この石神が湯川と同窓で同期。映画では、事件の背景とか、容疑者たちの心理にばかり気を取られ、トリックをイマイチよく理解できなかったが、小説を読んでよく分かった。そういう事か。「アリバイくずしに見えて実は…」
 そこが、この作品の一番のポイントなんだろうが、それよりも私には、ずーっと湯川が作品中に登場してくれて、大満足!!
 特に、学生時代の湯川の事が書かれてあって、楽しめた。

 …髪を肩まで伸ばし、シャツの胸元をはだけた男が、頬杖をついていた。首には金色のネックレスを付けていた…
 石神が大学在学中、湯川と初めて話した時の、湯川の容姿の記述。うげっ! これが18歳or19歳の湯川? イメージとかけ離れているような…。それに、もう少し目鼻立ちの記述がほしかったなぁ。涼しげな目元とか整った鼻筋とか…。
 でも、湯川って自分の身なりに無頓着な人じゃないよね。アルマーニのスーツを着たり、靴もキレイにしていたり。独身だから、お金をかけることができるんだろうけど。


 ずいぶん前に読んだ、東野圭吾のエッセイに、真性理系という言葉があったと思う。東野も電気工学科だから、自分で理系人間だと思っていたが、大学に入学して難解な講義を受けると、いかに自分がエセ理系か、が分かった。自分以外にも理学部や工学部の大学生の大半はエセ理系だが、ごく少数ながら真性理系も存在するのだ、という意味の事を書いていた。
 湯川や、その同期の石神は、真性理系なんだろう。こういう人の邪魔をしちゃダメだ。研究に邁進してもらいたい。

 小保方晴子さんも、低次元の誹謗・中傷に負けず、研究を続けていってもらいたいです。
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酒井順子「女も不況?」

2014-04-09 13:32:13 | Weblog
 酒井順子さんのエッセイは好きで、よく読むが、読書感想を書くとなると…なかなか難しい。

 エッセイというのは、時事ネタが多いので、どうしても時間がたつと間延びした印象になってしまう。(ちなみに、このエッセイ集の初出は『週刊現代2007年12月~2009年1月』)
 
 そういえば、リーマンショックの話も書いてあったね。懐かしい。いっつも外国人で混んでいて入店するのに待たされた六本木のレストランが、リーマンショック後、がらがらで、お客は自分たちの他、もう一組だけ。あの羽振りが良かった外資系金融機関にお勤めの方たちは、一体どこに行ったんだろう?っていうお話。

 しかし考えてみれば、出版業界はもうずーーーーっと右肩下がりなんだよね。ずっと不況。好転する見込みなし。年々、出版業界のパイは縮小。
 それでも、酒井順子さんは、こうやってお仕事をキープできてるんだから、本当に才能ある人なんだと思うよ。

 私が苦手なのは、彼女の同窓会ネタ。特に女子高時代の。酒井さんは小学校から大学までエスカレーター式の有名私立だから、その同窓会ネタもセレブ感満載で、ちょっと感覚が分かりづらい。
 こういう育ち方をした人って、普通の公立小中高校に対して、どういう感覚を持っているんだろうか? 興味あります。
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