ケイの読書日記

個人が書く書評

恩田陸「きのうの世界」

2011-11-26 13:39:58 | Weblog
 水無月橋という風流な名前の小さな橋で、一人の男が刺殺される。ところが、その男は1年も前に東京の会社から失踪して行方不明になっていた男だった。

 この話を妹から聞いた女性は、興味を持ち、現場近くに滞在し事件を調べていく。そうするうちに、この「塔と水路の町」の不可解な現象が、なんらかの意味を持っているように思われ…。

 うーん「塔と水路の町」の謎は、すばらしくミステリアスで魅力的。しかし、この秘密を守るため人の生命を脅かすというのは、説得力が無いね。そこまでの秘密だろうか?

 それよりも、この死んだ市川吾郎の持っていた特殊能力(見たものをカメラのように映像で記憶できる能力)がスゴイ!!!

 でも、こういう人ってごく少数だけど居るらしいね。マンガの中でも『探偵学園Q』に出てくる女の子がこの能力を持っていた。
 将棋や囲碁のプロ棋士って、この能力を持っている人が多いとも聞いた。そうじゃなきゃ勝てないよ。

 それに、地図を見ているだけで実際の地形が頭に浮かんでくる人も、本当に居るらしい。
 『大菩薩峠』を書いた中里介山は、現地には行かず、地図を見ただけで地形や風景を小説に書いたと、私は中学校の社会科の先生から聞いた事がある。(40年前)

 いやー、スゴイ人はいるもんですなぁ。
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奥泉光「モダールな事象」

2011-11-21 15:08:08 | Weblog
 先回読んだ「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」が、コミカルでとても面白かったので、桑潟幸一(クワコー)初登場のこの作品を読んでみようと、図書館に予約。
 しかし、届いた本はレンガのような分厚さで、京極夏彦みたい。ちょっと予想外。

 
 東大阪の女子短大で助教授(この時はまだ准教授という名称は無かった!)をしているクワコーの元に、小さな出版社の編集者が訪ねて来る。
 太宰治と親交のあった無名作家の未発表原稿が見つかったので、その紹介文を書いて欲しいとの依頼だった。
 その時、編集者は不可解な頼みごとをクワコーに持ちかける。それが原因でクワコーの悪夢は始まるのだが、それをクワコーは知らない。

 そんな無名作家の作品など誰が読むか!と内心毒づくクワコーだが、謝礼欲しさに引き受ける。
 ところが、このベタな童話集が予想に反して売れ始め、それと時を同じくしてクワコーの周囲にも、怪しい事件が連続して起こる。


 最初は社会派推理小説のようで、架空の新聞や週刊誌の記事も多用してあり、話にぐいぐい引き込まれるが、中頃になると、アトランティスとかロンギヌス物質とか錬金道士とかが出てきて、私にはついていけない。

 クワコーも自分の担当編集者が二人も殺されたなら、あわてて警察に駆け込んで、いままでの不可思議ないきさつを喋りそうなものだが、だんまりを決め込んで不自然。

 作品が長すぎ、その中で著者が色んな作風を試しているようなので、まとまりが悪い印象がある。
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酒井順子「女流阿房列車」

2011-11-16 10:42:26 | Weblog
 いつも出掛けている図書館で、旅行記フェアみたいなことをやっていて、この「女流阿房列車」が麗々しく飾られていた。
 表紙絵がすごくいい。キレイな女の人が夜汽車に乗って、ぼんやり窓の外を眺めている…。
 あまりにも素敵なので、借りて家で読んでみたが…激しく後悔!!!
 だって、私、鉄ちゃんでもないし鉄子でもないもの。

 だいたい、一番最初の旅が「東京の地下鉄全線完乗16時間22分」というのだから、全く興味がもてない。

 でも、せっかく借りたんだし、なんといっても酒井順子だし…という事で、読み進める。

  「24時間でどこまで遠くにいけるか」「東海道線53回乗りつぎ」「四国巡礼お線路さん(お遍路ではない)の旅」などなど、新潮社側がマニアックな旅を次々企画し、酒井さんが黙々とこなしていく。


 唯一、私が興味を持てたのは「日傘片手に北陸本線旧線を歩く」という企画。
 有栖川有栖も鉄道マニアらしく、たまに廃線跡や廃線駅を題材にミステリを書いているから、私にもちょっとした憧れがあるんだろう。

 ただ、この北陸本線旧線は、赤字ローカル線が借金に耐えられなくなって廃止されたというケースではなく、安全上の問題で、海側から山側に線路を移した結果、廃線区間が生まれたらしい。
 そこをサイクリングロードにしたようで、ぺんぺん草が生い茂るうらぶれた雰囲気は無いのが残念。

 酒井さんご一行は、有間川駅から浦本駅まで、7時間半かかったそうです。万歩計は35,583歩 24.5kmを指していたそうです。ご苦労様です。

 でも、海沿いの道をてくてくてくてく無心に歩く。いいなぁ。私も体力のあるうちにやってみたいです。


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林望「天網恢々」

2011-11-11 11:27:16 | Weblog
 新聞の書評欄で紹介されていて、面白そうだったので読んでみたが…うーん、残念な作品。
 林望のエッセイは好きで、ちょこちょこ読むが小説は初めて。失礼だけど、ツマラナイ。

 道具立てはいい。
 
 面白い噺が大好きで、拾い集めてくる者を自分の屋敷で歓待する、江戸南町奉行・根岸肥前守鎮衛(やすもり)
 この男のもとに、人相見の浪人、薬売り、元すりの名手達が町で聞き込んだ悪事や奇妙な出来事を持ち込むと、鎮衛は快刀乱麻に解決していく。
 善人はあくまで善人、悪人も鎮衛の徳の前に改心する。
 ハラハラもドキドキもイライラも、ひねりも何もない。あまりにもぱっぱと裁いていくので、えっ!? もう解決?! とガッカリする。

 そう、遠山の金さんのスケールの小さい版。テレビドラマの1時間物にもならないなぁ。30分がせいぜい。
 遠山の金さんは「この桜吹雪が目に入らぬか」という決めゼリフと共に自分の見事な刺青を見せるシーンがあるが、この鎮衛には、見せ場がない。

 もうちょっと、何とかならないものだろうか?
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角田光代「くまちゃん」

2011-11-06 09:39:56 | Weblog
 「くまちゃん」というのは、くまの絵柄のトレーナーを着ている自称芸術家の男の愛称。苑子はそのくまちゃんにふられ、第2話では、そのくまちゃんがゆりえにふられ、第3話では、ゆりえはマキトにふられ…。

 というように、ふった人が次にふられて…という具合に、この連作集は進む。
 もちろん同時ではなく、半年から1年ぐらいの間隔があり、1990年代から2000年を過ぎるあたりの時間の中で、恋をし、ふられ、年齢を重ねていく、究極のふられ小説。

 いろんな男女がいるなぁ。女では、ぼうっとしているように見えて、ちゃっかり狙った男のマンションに潜り込み、わざと時計を忘れて再度、会う約束を作る、緻密な計画派。
 でも、印象に残るのは、そういった男女の駆け引きではなくて、かつて華やかな世界にいた人間が、売れなくなってどうしているかという事。

 この連作集の中では、かつて一世を風靡したロックミュージシャンと、マスコミの寵児としてもてはやされたレストランオーナーシェフが出てくる。

 そうだよね。チヤホヤされる時間はあまりにも短い。だって次から次に新しいスターが出てくるんだもの。賞味期限切れの人間はさっさと退場しなければ。
 自分から退場しなければ、押し出されるだけだ。

 元ロックミュージシャンは、デザイン事務所を手伝い、元レストランオーナーシェフは女子寮のまかないをするため、熱海に行く。

 でも、この二人、ふてくされている訳じゃない。「自分で目の前の1個1個の仕事をやっつけてかなきゃならない」という事がよく分かっている。
 第6話なんて、中島敦の「山月記」にも劣らないほど、教訓を含んだいい話だと思うよ。
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