ケイの読書日記

個人が書く書評

深緑野分 「戦場のコックたち」 東京創元社

2019-08-12 14:16:34 | 深緑野分
 第二次世界大戦時のノルマンディ上陸作戦に参加した兵士たちのお話。
 主人公ティムはルイジアナ出身の食いしん坊。実家が、祖母の手作り総菜を販売していて評判の店だった。戦争が始まり、真珠湾攻撃でアメリカが参戦した後、ティムは17歳で軍隊に志願する。2年の軍訓練中ティムは、エドというコックに出会い、コックになる事を決める。

 戦場のコックって、コックだけをやる訳じゃなくて、ちゃんと兵士として戦闘に参加し、時間になるとコックをやるらしい。ティムもエドもパラシュート部隊だ。コックになると特技兵となり、少し給料も多くなるが、他の兵士からはバカにされることもある。戦場ではコックの地位は低い。

 とにかく彼らは1944年6月6日の真夜中、ドイツに征服されたヨーロッパを解放しようと、フランスのノルマンディ地方にパラシュートで降り立った。
 圧倒的な物量を誇るアメリカが参戦すれば、あっという間に戦争が終わると思われたが、ドイツもしぶとい。あちこちで激しい戦闘がおきる。そんな戦場でも、不可解な事件は起き、その謎をとく名探偵がいるのだ。この場合はエド。エドは味オンチだが、非常に冷静で頭が良く、謎を次々解決し、上層部からも一目置かれるようになった。

 しかし、この小説に、謎解きがそんなに必要だろうか?という気もする。戦場の緊迫感が薄れる気がする。事件は殺人事件ではない、日常の謎。そりゃそうだ、戦場では死体は謎でも何でもない。パラシュートを集める兵士の謎、一晩で忽然と消えた粉末卵の謎、などなど。東京創元社が出版しているから、絶対ナゾは必要なんだろう。

 この小説を読むと、アメリカの豊かさに圧倒される。もちろん戦闘が激しくなれば調理どころではないが、日本のように精神論で戦え!なんてバカな事を言わず、ちゃんと補給路を確保し物資を運んで、食料や弾が足りない事態にならないようにする。
 日本軍だったら現地調達だよね。つまり、現地住民から強奪する。嫌われるハズだよ。

 野戦調理器があり、コンビーフハッシュと豆煮、ジャガイモのスープ、食パン、なんていうメニューもある。製パン中隊なんていう部隊もあるんだ。ブラウンシュガーがたっぷりかかったソーセージと円盤リンゴのローストなんてレストランみたいだ。

 1945年の4月末にヒトラーは自殺する。その前からドイツの大都市や軍需工場のある町は空爆で瓦礫の山。ノルマンディから連合国が進軍してきて、北からはソ連が攻めてきて…多くのドイツ人はソ連ではなく連合国側に降伏したかっただろう。ドイツ軍がスターリングラードで何をやったか、知ってるだろうから。
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深緑野分 「ベルリンは晴れているか?」 筑摩書房

2019-07-25 15:45:05 | 深緑野分
 カバー絵は金髪のおさげ髪の少女。翻訳ものかなと思ってしまうが、れっきとした日本人作家の作品。私自身が、このナチスドイツ政権下のドイツにすごく興味があったので、興奮して読んだ。すごく読み応えのある作品。

 1945年7月。ヒトラーが自殺し焦土となったベルリンで、1人の老人が死んだ。青酸カリが入った歯磨き粉によって殺されたのだ。
 その当時のベルリンは、米ソ英仏の4カ国統治下におかれていて、殺されたのはソ連領域だった。翌日にポツダムで首脳会議があるため、ソ連NKVD(内務人民委員部)の大尉はテロを疑い、内情を調べるために、殺された老人の知り合いの少女アウグステに、老人の義理の甥エーリヒに会いに行くよう、命令する。地理に明るいからという理由で、陽気な泥棒カフカを道連れにするよう、押し付けられて。
 二人は、それぞれの思いを胸に、瓦礫の山となったベルリンを歩き始める。

 ポツダムって、あのポツダム宣言のポツダムなんだね。ベルリンの隣にあるんだ。7月だから、まだ日本は降伏してない。

 本編のあいだあいだに幕間として、アウグステが生まれた1928年から1945年の敗戦までの、ドイツ国内の様子が書かれてある。第1次大戦の敗北によって皇帝が退位し、飢えと暴力と秩序の崩壊で大混乱におちいったドイツ。
 世界で最も民主的な憲法を持つヴァイマール共和国になったが、暮らしはひどくなる一方で、誰もが現政権はクソで早く次のまともな政権になって欲しいと願っていた。
 そういう時に支持を伸ばしたのが、共産党とナチス。ああ、どっちに転んでも、ドイツに明るい未来はないね。ナチスが政権を取ると、共産党をはじめ他の政党を全て非合法化する。
 アウグステの両親は共産党員で、共産党に夢を持っていたが、ソ連のスターリンが、ヒトラーと手を組み、ポーランドを2分割したのに失望し、床下に隠してあったレーニンの肖像画を燃やす。
 結局、ファシズムも共産主義も、根は同じなんだ。

 ポーランドの分割やフランスの降伏で、破竹の勢いで領土を拡大し、被占領地からの物資がどんどんドイツ国内に入って来てうるおうと、ヒトラーの人気はさらに高まる。こういう所は日本も同じ。勝てば官軍なんだ。
 ただ、麗しい日々は長くは続かない。ナポレオンと同じで、ソ連侵攻でつまづく。アメリカも参戦し、イギリスも反撃に打って出て、戦局はどんどん悪くなる。大空襲を受けた都市部では、瓦礫の山の中で「総統はどうした!」という声も聞こえ始める。

 ヒトラーは4月の終わりに自殺するが、無責任にも後任を決めてないので、5月8日の無条件降伏まで、すごく多くの兵士が無駄死にした。
 自殺するなら、暗殺されそうになった時に死んでおけよ!!!
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