ケイの読書日記

個人が書く書評

山本文緒 「自転しながら公転する」 新潮文庫

2023-03-27 10:13:23 | その他
 昨年、病気で亡くなった山本文緒さんの最後の小説だと思う。体調が悪い中、頑張った。
 彼女の小説はドラマ化されたものも多いので、知ってる人も多いと思う。私はドラマの方はほとんど見てないが、小説の方はよく読んだ。正直、登場人物の心情は理解できるが、違和感を感じてしまうことも多い。つまり共感できない。
 この小説の主人公・都も30歳過ぎてるアパレルショップの契約社員なのだが、20歳そこそこにしか見えずグラマーで、年下にもてるのだ。(この時点で共感できない)
 台風の夜、助けてくれた寿司職人の貫一と付き合うようになる。彼は2歳年下の元ヤンキー。彼が中卒だということで、都はいろいろ思い悩むが好きだという気持ちは変わらない。そうだよ、貫一君、昔は悪かったかもしれないが、今は頼りになる良い人なのだ。本当に良いこと悪いこと色んなことがいっぱい起こって、都の出した答えとは…。

 貫一と都の恋愛模様が小説のメインなのだが、私はどうも他の事の方が気になる。例えば、都が東京のハイブランドのアパレルショップを辞めて実家の茨城に戻ってきたのは、母親の更年期障害が重くて、その介護のためなのだ。
 実は私の母親も45歳くらいから更年期の症状を訴え始め、大変だった。死ぬような病気ではないと知っているので、家族はさほど真剣に取り合わず、それが不満だったんだろうね。不定愁訴をえんえんと話し出す。それに付き合うのが一仕事。ぐったりする。
 婦人科や心療内科の先生は、この不定愁訴をずっと聞かされてもニコニコしていなきゃならないから本当に大変。頭が下がります。自分の母親を見ていると、病気に逃げ込みたいのかな?とも思う。
 自律神経失調症なんて、薬で治るものでもないでしょ?なんて言うと「なんて思いやりのない娘なんだ!」と罵倒された。その母親もすでに91歳になる。まだ同じようにごちゃごちゃ言ってるから性格なんだろうか?

 それに、アパレルショップに勤める大変さもこの小説に詳しく書かれている。(話には聞いていたが)勤めているブランドの洋服をせっせと買って着て接客しなければならず、いくら社員割引があるとはいえ、かなりの経済的負担。だからアパレルに勤めようと思うと、実家から通うか他にバイトでもしない限り生活が成り立たないよ。人の入れ替わりが早い。仕事がきついからすぐ辞めるけど、人気がある華やかな業種なので、すぐ補充できる。
 バイトも契約社員も正社員も、ほとんどが女性だから人間関係が難しい。バイトさんたちの不満が爆発して仕事をボイコット、店を開けることができなくなり、泣き出す店長さんもいるらしい。
「この世に たやすい仕事はない」本当に身に沁みます。
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ブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」新潮文庫

2023-03-18 10:19:31 | その他
 すごく売れている本なので、内容は皆さん、ご存じだと思う。母親が日本人、父親がアイルランド人、英国で生まれ育った11歳の男の子の成長リアルストーリー。ハッとさせられる所も、ホロリとする所も多い素晴らしいノンフィクションだが、私が一番印象に残ったのは、本の内容というより、この著者ブレイディみかこさんの事。

 1965年福岡生まれ。ブリティッシュロックが大好きだったので、高校卒業後、アルバイトして渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち、英国で保育士の資格を取得。保育園で働きながら、ライター活動を開始する。著書多数。

 つまり帰国子女でもないのに、こんなつっこんだ政治的話を子どもや配偶者や近所の人やママ友たちとできるんだな、すごいなぁ!と思う。ほら、よく聞くでしょ。外国の人と結婚して、その地に移り住み、子どもを産んで現地になじんでも、日常会話は上手くなるけど、それ以上に上達することは難しい。子どもはどんどん言葉を吸収し上達していくけど、自分はそれについていけないから、疎外感を感じるって。
 しかし、ブレイディみかこさんは違う。近所の人たちや子どもの友達の親とも、堂々とやりあうのだ。やっぱり音楽好きだから耳が良いんだろうか?

 そうそう、一般的に移民が多い地区ほど貧しくて、その地の公立学校はレベルが低いと、私たち日本人は思うけど、そんな単純な話ではない。高い教育を求めてインドやパキスタン東欧から移民してくる人も多く、所得が高い移民が多い学校は、オックスフォードやケンブリッジにたくさん入学させている。
 考えてみれば、今の英国の首相はインド系だし、ロンドン市長もパキスタン系じゃないかな?時代はとっくに私の遅れた意識を超えているんだね。

 で、このブレイディみかこさんの息子さんが通っている元底辺中学校(元だよ、今は違う)が、ほとんど白人労働者階級の子弟なのだ。だから移民の子どもはあまりいない。英国って階級が昔から固定していて、労働者階級の子弟が上の学校に進学して階級的に上昇しようとは、あまり思わないんだね。
 まあ、学歴をつけて上昇しようと思いすぎると、中国や韓国や日本みたいに、教育に金がかかりすぎるから生まない→少子化の進行に拍車がかかるけど。
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ショコラ著「65歳から心せいかつゆたかに暮らすため大切なこと」マガジンハウス

2023-03-07 14:05:35 | その他
 帯に「月12万円の年金で、のびやかな暮らし」というサブタイトルがついている。少し前に、新聞の下段に広告が打ってあって、へぇシニアブロガーさんの本か。読んでみたいなぁと思っていたら、ブックオフで見つけた。
 こういった著名人ではない一般の人の年金暮らしの話って、すごくためになるね。

 ショコラさんは、すごく頑張り屋さん。1956年2月生まれだから、私より3学年上か。横浜で生まれ育ち、高校卒業後、就職。当時はキャリア志向は全くなく、お給料のうち3万円を親に渡し、あとは旅行に買い物にと遊び歩いていたそう。24歳で結婚し、年子の男の子2人の子育てに奮闘する毎日。
 
 高卒で就職することにアレっと思った若い人もいるだろうけど、当時の感覚としては下手に大学に進学するとかえって就職が難しくなるから、進学しない人も結構いたと思う。普通の、花のOL生活を満喫していたわけ。

 40歳過ぎて夫婦間がギクシャクし始め離婚。旦那さんも高圧的なところがあったかもしれないが、悪い人じゃないよ。当時2人の息子さんたちは高校生。母親と一緒に引っ越さず、もともとの家に残った。でも息子さんたちとの関係は当時も今も、とても良好。現在は2人とも30代後半のシングルだそうだが、プレゼントをやり取りしたり一緒に出掛けたりして、本当に仲がいい。うらやましい。後ろ姿だけど、一緒に並んで歩いている写真などもあって、素晴らしい!!!

 で、ショコラさんは家を出て働き始める。今までもパートで働いていたが、契約社員、正社員とキャリアアップ。46歳で小さなマンションを買うなんてアメージング!もともとこの人は能力のある人だったんだ。
 年金がもらえるようになると、健康を考えキャリアダウン。働く時間を減らす。そうだよね。シニアにとって健康維持が一番の仕事だもの。

 この本を読み終えて、すごいなぁ素晴らしいなあ、自分も見習わなければ、と思う反面、こういうリア充タイプの人間と私は違うからなぁ。オタク気質の自分が、同じようなことをやろうとしても、ストレスになるばかりだろう。私は私のささやかな年金で、のびやかな暮らしを目指そうと思う。まだ年金貰ってないけど。
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