ケイの読書日記

個人が書く書評

宮西真冬 「首の鎖」 講談社

2018-08-30 15:29:12 | その他
 母の介護要員として扱われる女と、妻のDVに悩む男が、心療内科で出会い次第に惹かれあうが、予期せぬ事態に陥り犯罪に手を染めていく…。そういったストーリーの小説だが、本当の読みどころは、終わらない介護の絶望だと思う。

 勝村瞳子は、高校3年の時、祖母が倒れ、16年間その介護をしてきた。祖母が亡くなり、これでやっと自由になれると思ったら、次は実母が倒れる。
 実家は老舗のとんかつ屋。店は父と兄とバイトの男の子で回しているが、忙しい時は瞳子も手伝う。兄は結婚して兄嫁もいるのだが、自分の仕事を持っており、介護を手伝う気配はない。なにより実母が「自分の介護は、娘がやるのが当然だ」と思っており、ヘルパーさんを受け入れたり、ディサービスに行く気は全くない。「自分は家族に愛されている年寄り」のポジションを満喫している。
 実は祖母が倒れた時、瞳子の母が介護をするのが一般的だが、この家も嫁姑の仲が非常に悪く、店の手伝いもあり、孫娘の瞳子に介護を押し付けたのだ。

 「ヤングケアラー」って言葉、皆さん、ご存知? 先日、新聞を読んでいたら、その言葉に出くわした。年若い介護者っていう意味なんだろう。主に、孫世代が介護の重圧を一手に背負わされ、学業や就職に大きな支障がでるのだ。

 この小説のなかの瞳子も、祖母の介護16年、母の介護2年(この先何年生きることか)もう40歳も目前なのに、だれも瞳子の介護を当たり前に思って、彼女を介護要員から外すことを考えない。普通だったら、結婚し子供がいるのが当たり前の年齢なのに。

 唯一、アルバイトの男の子が「酷い親じゃないっすか。子どもの幸せを願えないなんて」「本当に瞳子さんって実子なんですか?」と憤るのが、ある意味、救い。

 本当に、この瞳子の親たちは、どういう親なんだろうか? 実母があと10年生きたら瞳子は50歳。それどころが実父まで倒れるかもしれない。祖母が倒れた時に、本人が嫌がっても介護施設に入れればよかったんだよね。 
 瞳子の所に来た縁談も、親が片っ端から断って、結婚で家を出て行かないようにした。どうしようもない親。でも、この少子高齢化の時代、そういう親がたくさんいるのかもね。
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「白痴 3」 ドストエフスキー著 亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫

2018-08-24 15:58:09 | Weblog

 訳者によると、この「白痴」は世界文学史上有数の恋愛小説らしいが、これを恋愛小説というのかなぁ。今の感覚で言うと恋愛というより執着。「ストーカー小説」だよ。

 ロゴージンのナスターシャに対する執着がすざましく、ナスターシャはロゴージンと結婚の約束をするが、直前になると逃げだしてしまう。そんな事を何回も繰り返す。しかし、じゃあ彼女はどうすれば幸せになれる?
 聖なる愚者ムイシキン公爵を愛しているのは確かだが、彼のもとに数週間いても、結局彼のもとを去る。アグラーヤという女性にムイシキン公爵と結婚するのはあなただという手紙を、何通も送り付ける。
 ナスターシャは①発狂する ②自殺する ③尼寺に入る の3つぐらいしか選択肢が無いと思う。

 あまりにごちゃごちゃドロドロの愛憎劇なので、ちょっとウンザリして読書にも飽きてきたが、この第3巻の終わりの方に、興味深い事件が発生!! がぜん読む気が出てきた。


 レーベジェフという、こすっからい小金持ちのフロックコートのポケットから400ルーブルが消えた。容疑者は2人。1人はさすらいの居候。もう1人は、女と酒とギャンブルにだらしない退役将軍。最初は、さすらいの居候の方の容疑が濃かったが、だんだんもう1人の容疑者が疑わしくなり…。
 この事件の犯人は第4巻ではっきりする。ああ、第4巻を読むのが楽しみだ。(でも第4巻はまだ出てない。9月の中旬らしい)でも、いくら酒と女とギャンブルで身を持ち崩したとはいえ元将軍。ちゃんとした家族もいる。この人が、いくら金に困っているからといえ、こんな事するだろうか?
 ひょっとするとドストエフスキーは、犯人をハッキリさせないかもしれない。なんせ「カラマゾフの兄妹」でも、父親殺人の犯人をハッキリさせなかった。どう考えても長男だし、長男が捕まったが、本人は最後まで否認していたし。


 この「白痴」は、第1巻の最初から、ほとんど会話(というか演説)で成り立っている。ロシア人の演説好きは恐ろしいほどで、この本の中に書かれてある演説を本当にしゃべるなら、何本もペットボトルがいるだろう。でも誰もお茶や水は飲んでない。お酒は飲んでるけど。これって国民性なのかな?
 ソ連の政治指導者たちの演説も、5時間6時間なんて、当たり前だったようだ。これは共産国だから長いのかな? 死んじゃったけど、キューバのカストロ議長の演説はすごく長く7時間15分なんてのもあるそうだ。独裁者が演説してるのに、聴衆がトイレに行ける訳ないから、困っただろうね。
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益田ミリ 「お茶の時間」 講談社

2018-08-19 14:06:41 | 益田ミリ
 益田ミリさんのコミックエッセイ。ミリさんは、もともとCafeが好きな上に、仕事柄、編集者とカフェで打ち合わせすることが多いので、すごく頻繁に利用している。話題のカフェが開店すると聞けば、すっ飛んでいくし、女性誌で取り上げられたカフェはすかさずチェック!
 高級ホテルのカフェなどお金がかかるし、一人では敷居が高いが、担当編集者と一緒なら、大手を振って入っていける。支払いは出版社持ちだしね。

 先日、ミリさんは仕事の打ち合わせでホテルニューオータニへ。編集長に叱られないかなぁとしおらしいセリフを口にしながら、1ピース3000円の『エクストラスーパーあまおうショートケーキ』を注文する。どんな豪華なケーキだろうか。これに紅茶orコーヒーと税金が付き、担当編集者も同じものを頼むだろうから、トータル1万円くらいか。
 キャバクラに連れて行けと言われるより、うんと安くすむから、出版社にすれば有難いかもしれない。もちろんミリさんは売れっ子だから何でも許される。
 しかし、コーヒー1杯注文するのも、担当さんの顔色をうかがいながら…という売れない作家さんが、いっぱいいるんだろう。
 それに、以前売れていた作家が売れなくなると、そのもてなしの落差に落ち込むのではないか? 売れてる時はホテルのCafeでケーキセット、さほど売れなくなるとファミレスのコーヒー、さっぱり売れなくなると、担当さんに電話しても出てもらえなくなったりして…。


 ちょっと前のTVで、芸人のヒロシが取材を受けていて、スタッフの対応の激変ぶりに嫌気がさしたと言っていた。月収4000万円の絶頂期にはもちろん広い個室の控室で、だんだん売れなくなると物置のような控室。一度パチンコ屋へひげ男爵やヒグチ君と営業に出掛けた時、3人で1つの控室、その部屋のテーブルには1本のミネラルウオーターだけ置いてあった。コップも何にもなし。どうしろって言うんじゃ!? 本当に惨めだったという。
 んんん、人間というのは、大切に扱われたいのよね。当たり前の話。「取るに足らない人間」という扱われ方をされたくないのだ。


 話は大きく変わるけど、教育評論家や精神科医が「最近の若者は驚くほど自己評価が低い。だから犯罪に走るんじゃないか」と発言するよね。本当? 自己評価が高すぎて自己愛が強すぎて、犯罪を犯すんじゃないの? だって自分を取るに足らない人間だと思っているなら、どんな扱い受けたって腹は立たないよ。自分は優れた人間だ。こんなヒドイ扱いは許せない、と怒りに燃えるからこそ、銃を乱射したり人の頭を金属バットで殴ったりするんでしょ?

 ああ、ケーキの話からとんでもなく遠のいた。皆さま、ごゆっくりお茶をどうぞ。
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「白痴 2」 ドストエフスキー著 亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫

2018-08-14 16:18:31 | 翻訳もの

 ドフトエフスキーの小説は登場人物が多いうえ、名前が長くて難しいし、しかも愛称で書かれている箇所も多く、読むのに大変。それに、この光文社古典新訳文庫では登場人物紹介のページがないので、仕方なく自分で名前のリストを作り、それを見ながら読んでいる。
 そうそう、地名も覚えにくい。ロシアの固有名詞に馴染みが薄いんだよね。
 そのかわり、といっては何だが、巻末に訳者の読書ガイドが付いていて、それが、読む手助けをしてくれる。

 この第2巻では、相続の手続きを終え、金持ちになったムイシキン公爵が、ペテルブルグに帰ってくる。恋敵のロゴージンやエパンチン将軍一家たちと再会し、旧交を温める。しかし、第1部でムイシキン公爵の求婚を断ったナスターシャは、とっくにロゴージン夫人となっているはず、と思いきや行方不明。
 こういった女性は、べらぼうに金がかかるんだから、ロゴージンと結婚すればいいのに、何を迷ってるんだ!!! いくら絶世の美女といっても、時とともに容色は衰えていくんだから、今が潮時だよ!とナスターシャに諭したい。

 季節は夏で、ムイシキン公爵も周りの人たちも、皆、郊外の別荘に出掛けて行く。大金持でなくても別荘は持てるようで、色んな人が別荘地で気持ちのいい季節を過ごす。

 この小説を読んでいると、当時のロシアの中流以上の人々の仕事って、社交と恋愛で、まともに働いている人って何処にいるの?と思う。主人公のムイシキン公爵にしても、遺産が転がり込んだだけで、継続的に収入が見込める領地や職業を持ってるわけじゃないんだ。資産はどんどん減っていくのに、この先、どうするんだろう。
 職業軍人も退役軍人も、どっさり登場するが、ギャンブルや酒、女に夢中で、彼らが戦えるとは到底思えない。
 彼らに支払われた給与は国費で、全くもって無駄!!! クリミヤ戦争(1853~1856)で負けたのがよく分かる。
 農奴解放令は1861年に公布された。これですぐ近代化が進むわけではないだろうが、世の中は少しずつ動き出す。資本主義が発達し、貧富の差が絶望的なほど大きくなる。 
 この「白痴」は、そんな時代の話のはずなのに、この平和さ・のどかさは何? と思って読んでいたら、途中から登場しました。「ニヒリスト」が。いや「ニヒリスト」の先を行く人々が。

 ムイシキン公爵の恩人である故人の遺児を名乗る人物と、その取り巻きが現れ、ムイシキン公爵が受け取った遺産の分け前を要求。もちろん法的に何の根拠もない要求だが、ムイシキン公爵が「恩義を重んじる高潔な人物」だと聞きつけ、要求してきたのだ。
 彼らの演説がすごい! しゃべるしゃべる。「法的に権利がないにしろ、道義的な権利、自然の権利、常識と良心の声が求める権利がある。」素晴らしい!!! 今のプーチン政権にはない(と思われる)思想信条の自由が、この19世紀後半のロシアにあったんだ!!

 ドストエフスキーの小説を読むと、本当に色んな事がわかります。
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有栖川有栖 「狩人の悪夢」  角川書店

2018-08-08 13:09:08 | 有栖川有栖
 人気ホラー作家・白布施と対談したミステリ作家の有栖川は、彼に誘われ、京都にある彼の家『夢守荘』を訪問する。その家には「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があり、その部屋にアリスが泊まった翌日、『夢守荘』のそばの『獏ハウス』で、右手首がない女性の変死体が発見される。
 『獏ハウス』というのは、以前、白布施のアシスタント・渡瀬が住んでいて、2年前、彼は心筋梗塞で亡くなったのだ。殺された女性は、渡瀬の親しい友人で、何か探し物をするために『獏ハウス』へ来たらしい。
 彼女は何を探していたのか? 果たしてそれが殺人の原因になっているのか? そもそも犯人はなぜ右手首を切り落とした?

 夜に落雷があって、大木が倒れ、通行止めになってしまったので、一種のクローズドサークル。もともと登場人物が少ない事もあり、犯人の見当はすぐつくが、どういった経緯でこうなるのか、それを推理するのが面白い。

 最初から、臨床犯罪学者・火村のフィールドワークの話でもちきりなので、ひょっとすると犯人は、犯罪を犯して火村を引っ張り出し、それを観察するのが目的なのかしら?とも思ったが、そうではないみたい。
 相変わらず火村は理屈っぽく、タバコが手放せない。ぼろぼろのベンツに乗っている。修理費用だってバカにならないだろうに。国産の新車に乗れ!!!


 小説内で、手首が切り取られ無くなっている事について、アリスが蘊蓄をたれている。ハンド・オブ・グローリー(栄光の手)。絞首刑になった罪人の手首を加工して燭台にする。家の前で、それに火を灯したら、その家の人は死んだように深い眠りに落ちるんだそうだ。

 小栗虫太郎『黒死館殺人事件』や『ハリー・ポッターと秘密の部屋』にも出てきたそうだ。私は両方とも読んだが、全く覚えていない。ホントに何を読んでも、すぐ忘れちゃうね。悲しいよ。

 でもまあ、ハンド・オブ・グローリー。死体愛好家がやりそうなことだね。ユダヤ人強制収容所でも、ガス室に送り込んだ若い女性の遺体から皮膚をはぎ取り、ランプシェードを作ったりしたらしい。人間ってのは、スゴイことやるね。
コメント (2)
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