ケイの読書日記

個人が書く書評

恩田陸 「木漏れ日に泳ぐ魚」 中央公論新社

2019-01-10 10:02:29 | 恩田陸
 一組の男女が別れることになり、迎えた最後の夜。翌朝には、男は新しい女のもとに行き、女は友人の所で居候してから新しいスタートを始めるつもりだ。
 ただ2人には、どうしても解決しておかなければならない問題があった。
 1年前、旅行先で依頼したガイドの謎の転落死。男は女を疑い、女は男に不信の眼を向ける。男の死の真相は…?

 実は、男と女は3歳の頃、生き別れた二卵性双生児。お互いに相手の存在を知らされず成長したが、大学で出会い、強く惹かれあった。家族や親せきの話から、お互いが双子だという事が分かり、兄妹として失われた時間を取り戻そうと同居。恋愛感情を持ちながらも、一線を超えないよう努めている。
 こういう所が、すごく気持ち悪い。ごめんね。私、近親相姦の話って本当にイヤなんだ。たぶん、実際に兄がいたからだと思う。
 
 でも、小さい時ならともかく、大学生になって異性の兄妹・姉弟がアパートで同居を始めるなんて、クレージーだと思う。実家ならともかく。
 私など、中学生くらいから、兄が入ったあとの風呂に入るの、本当にイヤだったもの。それどころか廊下や階段ですれ違う時、肩なんか接触したらゲッとなり1日中気分が悪かった。私たちが特別仲が悪かったわけじゃない。兄や弟がいる友人からも、同じような話を聞いた。こういう人、多いと思う。

 それに子供の頃の記憶って、そんな残ってるものなのかな?作中では、男が3歳ころ、双子の女の子の履物のキュッキュという音を覚えていたり、母方の祖母の家にあった大きな古時計の彫刻を鮮明に覚えていたりするけど、記憶力が良い人はそうなのかなぁ。私など、小学校低学年の記憶もあまり無い。
 記憶って、後から作られることも多いと思う。古いアルバムなど見ていて、それを自分の記憶の中に刷り込ませるというか…。


 この小説では、その記憶を手繰り寄せて、自分たちの関係やガイドと自分たちの関係、ガイドの転落死の真相に迫っていく。
 真相?! 本当に真相だろうか? 特に最大の謎『なぜ、山に慣れているはずの山岳ガイドが、あの見晴らしのいい崖から落ちたのか?』 男女が辿り着いた真相は、単なる仮説にすぎない。すごく説得力あるけど。
 そう、ガイドの死は事故死として片づけられた。それ以上でもそれ以下でもない。不幸な事故だったのだ。

 
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恩田陸 「クレオパトラの夢」  双葉文庫

2018-11-15 15:25:44 | 恩田陸
 神原恵弥シリーズの第2作。やっぱり第1作より、ちと落ちますね。でも十分面白い。

 北海道のH市を訪れた神原恵弥。不倫相手を追いかけて行った妹を連れ戻すのが目的だが、実は、その裏に別の思惑もあった。このH市には、ずっと以前から『クレオパトラの夢』と呼ばれる、けっして存在してはいけないものが、密かに受け継がれていた形跡があるのだ。果たしてそれは…。

 主人公の神原恵弥は、外資系製薬会社に勤めていて、ウィルスハンターを仕事にしているので、その『存在自体が絶対の禁忌』というモノがどんなモノか、だいたい推測できる。

 核兵器って本当に恐ろしいけど、生物兵器の方が、もっともっと恐ろしいよね。通常兵器が使われると、人間もいっぱい死ぬが、建物も瓦礫の山になって、「ああ、これが戦争なんだ」と実感するだろうけど、生物兵器って、人間は細菌やウィルスでバタバタ死んでいくのに、建物はそのまま。ゴーストタウンになって不気味だと思う。

 だから、戦争を始める為政者は、戦争後の復興の経済的負担を考えると、通常兵器を使うよりも、生物兵器を使いたいだろうなって思う。(もちろん生物兵器は禁止されている)
 でも、ワクチンを作って、自分たちは接種済みで安全。だから、自分たちは生物兵器の被害を受けないと楽観していても、ウィルスってどんどん変化していくらしいから、感染が広がり、ウィルスがモンスター化し、どんなワクチンも効かなくなることだって考えられる。
 いやーーー、恐ろしい。

 そもそも、世界が終わってしまえ!と生物兵器の自爆テロを起こす人がいれば、防ぎようがないだろうね。

 山岸涼子の『日いづる処の天子』の中で、天然痘(日本では疱瘡と呼んだ)で、人がバタバタ死ぬ、もちろん帝や皇子たちも例外ではなく死んでいく場面があった。何年かの周期で大発生し、自然に収まるのを待つしかなかった。
 どうやって自然に収まるんだろう? だって、ものすごい感染力なんでしょう? 結局、隅々までウィルスがいきわたり、ほとんどの人が免疫を持つようになったら、自然に終息するんだろうか?

 この『クレオパトラの夢』の中に、新大陸アメリカに上陸したヨーロッパ人が、敵対する原住民のインディアンに、天然痘患者の毛布を送り付ける話がある。これは史実として本当らしい。
 いやぁ、スゴイことやるね。もともとアメリカには天然痘ウィルスはなかったらしく、全く免疫を持たないインディアン達は次々死に、数万人いた村人が数百人になったというケースもあったとか。

 あくどい!!!! 本当に誰がこんなあくどい事を考えたんだろうか! ああ、でも日本人も731部隊の話とかあるし、人の事いえないんだよね。

 
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恩田陸 「MAZE」(メイズ)  双葉文庫

2018-11-11 17:30:57 | 恩田陸
 神原恵弥シリーズの第1作。以前読んだ「ブラックベルベット」が第3作ながら良かったので、このシリーズを読んでみたくなった。映画でもTVドラマでも、第1作が一番面白いから期待して読んだが、期待を裏切らない秀作。

 アジアの西の果て(イラクと国境を接していて米国とも良好な関係というから、トルコかヨルダン?)地元の人でもめったに訪れない荒野の果てに、ポツンと白い直方体の建物が建っている。遺跡のようにも見えるが、何の文献も残っていない。ただ、不気味な言い伝えだけが、地元で囁かれている。

 一度その建物の中に入ると、出てこれない人間が多数いるらしい。内部は細い通路になっていて、迷路のような構造で、2人並んで進むことはできない。1人ずつ数珠つながりのように入るしかない。しかも出入り口はひとつだけ。
 昔、地元の軍の偵察部隊が30人、この建物に入り、そっくり消失してしまったらしい。
 ただ、一緒に入っても、出て来れる人と出てこれない人がいる。3人で入っても、真ん中の1人が、いつのまにかいなくなる、といったような。動物も同じ。

 その「人間消失のルール」を解明すべくやってきた4人の男。1人は本シリーズの主人公・神原恵弥で、他は彼の友人でコック兼雑用係の満(彼は「ブラックベルベット」にも登場)あとの2人は米軍関係者と地元の有力者。

 ね?! 本当にそそられる設定でしょ? 
 あそこら辺は、地面からニョキニョキ岩の塔が生えているみたいな、どう考えてもこんな物、自然に作れる訳がないと思うような奇観が、あちこちにあるんだもの。吹きさらしの荒野の少し小高くなっている場所に、直方体の白い建物があって、その周りには、サボテンが進化した鉄条網のような灰色の植物が生い茂っている、そんな景色がいかにもありそう。
 「世界ふしぎ発見!」で、ミステリーハンターが、丘の上の建物らしきものを指さして、「皆さん、あれはなんでしょうね?」と叫んでいる姿を想像しちゃうなぁ。

 コック兼雑用係の満が、持ち前の推理力を働かせて、いろんな仮説を立てていく。特に「この建物は一種の食虫植物説」は怖かったなぁ。食虫植物の口の中に、匂いに誘われやってきたハエがポトッと落ち込んで、どんどん溶けていく。うわーーー! もしこの説が本当だったら、オカルト小説じゃないか! 私、オカルトは嫌いなんだ。恩田陸はオカルトを書かないから絶対違う!大丈夫! と自分を励ましながら、読み進んだ。

 最後は、あっと驚くというか、そりゃそうだ、米軍関係者がいるんだもの、という結末。満が真相に肉薄する。

P.S. そうそう、「MAZE」って迷路という意味です。
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恩田陸 「ブラック・ベルベット」 双葉社

2018-10-24 13:45:56 | 恩田陸
 主人公・神原恵弥(かんばらめぐみ)は、アメリカの製薬会社日本法人に勤め、1年の半分を海外出張している。ウィルスハンターというのだろうか、薬の原材料になりそうなものを世界各地で探しているのだ。
 その彼が知人から「T共和国に行くなら、この女性アキコ・スタンバーグを探してほしい」と頼まれた。T共和国では、薬や健康食品の見本市が開かれ、それの視察に行くのだが、もちろんそれは表向き。水面下では、怪しげな人物との接触を図ろうとしている。
 T共和国の見本市に到着した恵弥が、指示されたカフェに行くと、窓からアキコ・スタンバーグが歩いているのが見えた。驚き慌てて、彼女を追いかけると、彼女は通り魔に刺されて…。

 恩田陸の作品だから、ツマラナイわけないが竜頭蛇尾というか尻すぼみというか…。謎は一応解けたが、すごいアクションシーンを期待していたのに、ちょっと残念。
 これは、シリーズ第3作という事なので人気があるんだろう。キャラが立ってる。青年マンガ誌に連載されてもおかしくないぐらい。

 主人公・神原恵弥は、とっても個性的。中肉中背、引き締まった筋肉、短く刈り上げた漆黒の髪に浅黒い肌、端正な顔立ち、年齢は30代半ば。でも、最初の独白のセリフが「わざとなの?」だったので、えっ?! 女の人だっけ? と、前のページを読み返したのだ。ゲイに近いバイという設定。
 彼の双子の妹も、腹黒く口と根性が悪い弁護士だし、彼の友人たちも放浪癖があったり、エリートだけどエキセントリックな所があったり。脇役陣も魅力的。

 そうそう、恵弥には特殊な能力があり、見た物を写真のように記憶することができる。地図を記憶するのは得意で、等高線を見れば3D画像を写し出すがごとく、頭の中に実際の風景を思い描くことが可能。
 人物でも、正面、右側、背後、左側、上から、下からの写真が複数あれば、頭の中でその人物が立ち上がってくる。スゴイ能力!
 こういう登場人物は、恩田陸作品によく出てくる。

 シリーズ第1作『MAZE(メイズ)』 第2作『クレオパトラの夢』両方とも双葉文庫で出てるらしい。絶対読もう!

P.S. 私、一番最初に「恵弥」を「えみや」と読んでしまったので、どうしても「めぐみ」とは読みづらい。一度頭に入っちゃうと、面倒くさいよね。
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