ケイの読書日記

個人が書く書評

山前譲「ねこ!ネコ!猫」

2013-06-27 18:46:46 | Weblog


 山前譲が選んだ猫にまつわるミステリーのアンソロジー。
 収録作品は、下記の通り。

 赤川次郎 「保健室の午後」
 小池真理子 「共犯関係」
 加納朋子 「猫の家のアリス」
 倉知淳 「猫と死の街」
 柴田よしき 「光る爪」
 黒崎緑 「見えない猫」
 仁木悦子 「一匹や二匹」


 最初の赤川次郎の「保健室の午後」が、あまりにも退屈だったので(失礼!)読む気が失せる。三毛猫ホームズ物だけど、駄作だと思う。三毛猫ホームズだったらたくさん作品があるのに、なぜこれを選んだのかな?
 倉知淳「猫と死の街」では、わーい!猫丸先輩が出てくるゾと楽しみにして読んでいたのに…女子大生とその後輩が探偵役でがっかり。

 どの作品も、猫は素晴らしく魅力的に描かれているが、肝心のミステリの方がイマイチ。
 この中で一番ミステリアスだったのは、黒崎緑「見えない猫」かな。ラストが印象的。ポーの「黒猫」を少し思い出す。

 一番出来のいい作品は、仁木悦子の「一匹や二匹」だと思う。
 仁木悦子という人は、日本初の本格派女流推理作家として有名な人らしく、私も名前だけは知っていた。作品を読むのは初めて。
 小学校6年生が主人公で、児童文学としても優れていると思う。学校の課題図書にしたいくらい。(殺人事件があるからダメだろうが)
 子どもたちの生態もいきいき描かれているし、拾われた子猫も、いい小道具になっている。

 仁木悦子の他の作品も読みたいな。
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木々高太郎「折芦」(おりあし)

2013-06-22 12:56:15 | Weblog
 先日読んだ「死の乳母」と同じ、木々高太郎全集②に入っている長編。
 一応、木々の代表作らしいので、読んでみる。

 妻と死別した男と結婚した若い女性が、「夫が最近不気味になってきて恐ろしい。特に母親に死なれた一人娘を見る目は、憎悪に近い」という相談を東儀という男にする所からこの物語は始まる。
 妻の死の事情というのが、舅を殺して死んだという驚くべきもので、当事者2人が死んでいるので、真相がどうであったかは判らない。
 東儀がその調査を引き受けると、数日後、その若い女性の親戚の家で、殺人事件が起こった。その事件にも、東儀は関わることになって…。


 確かに推理小説なのだが、推理以外の部分が多すぎて、戸惑ってしまう。
 そういえば、木々の直木賞受賞作「人生の阿呆」も、そうだったなぁ。
 推理以外の部分も面白いが、その割合が多すぎて、どうも焦点が合わないような。推理小説を読んでいるという気がしない。
 まぁ、木々は意識して、そう書いているんだろうね。

 それに、この探偵役の東儀という男もパッとしないなぁ。
 父親が(今は引退しているようだが)銀行界の大立者で、大変な金持ち。東儀は結婚し、娘が一人ありながら、すべて親がかりで、全面的に親に依存して暮らしている。
 その彼が、奥さんを助手として探偵事務所を開くのだが、この奥さん助手が、大変なやきもち焼き。
 女性の依頼人からの電話は取り次がないし、大事な情報を外部にペラペラしゃべって、夫婦げんかになる。
 もー、なんだよ、コレは!
 コメディタッチで書いてくれれば読みやすいが、私小説風に書くもんだから、どんより暗いんだよね。
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湊かなえ「夜行観覧車」

2013-06-17 11:27:49 | Weblog
 実は、この文庫が私にとって初・湊かなえ作品。「告白」など、すごく評判だったが、この人の作品は、面白いが後味が悪いと聞いていたので、今まで敬遠していたのだ。
 でも、読んでみて、もっと早く読めばよかったと後悔。宮部みゆきと並ぶストーリーテーラーだと思う。

 高級住宅地に住むエリート医師一家で起こった、センセーショナルな事件。
 母親が父親を殴殺し通報。つまり父親が被害者で、母親が加害者。
 仲が良さそうに見えた、実際仲が良かった夫婦に、一体何が起こったのか?
 その動機が、最後の最後に、ぼんやり浮かび上がってくる。

 部活を辞めさせて勉強させたって、成績なんか上がるワケないじゃん!

 一歩離れて子どもを見れば、すぐ分かることなのに、母親にだけは分からない。机の前に子どもを座らせ教科書を開かせれば、勉強すると思っている。

 ううう、自分にも思い当たること、ありますね。

 

 この殺人事件が起きた家族の、向かいに住む一家も、大きな問題を抱えている。

 高級住宅地の一戸建ての家に住むという願いがかなった主婦。有名私立女子中学を受験し、失敗した一人娘。この女の子が家の中で癇癪を爆発させる。週に一回ほど爆発し、この高級住宅地一帯に、わめき声が響き渡るが、本人たちは外には聞こえていないと思っている。
 いるよね。内弁慶というか、外面が良いというか、学校では大人しいのに、家の中では威張りまくる子。
 妻から「娘に意見してほしい」と頼まれているのに、あいまいな態度を取り続ける父親。父親が注意しても収まる訳ないけど。

 ああ、この小説を読んで、我が家とは関係ないわ!なんて思える人は、いないんじゃないかな? どこの家でも、多かれ少なかれ問題を抱えているよ。
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木々高太郎「死の乳母」

2013-06-11 13:45:53 | Weblog
 朝日新聞社刊「木々高太郎全集2」の中に入っている短編。この「死の乳母」が、日本で最初のホームズ贋作という、日本推理小説史上、記念すべき作品のようだ。

 名のある旧家に仕えていた実直な使用人が、呼び戻されて坊ちゃまの看病をするが、坊ちゃまはみるみる悪くなり亡くなるという事件が、2回続けて起こる。3番目の坊ちゃまの看病に行く前に、当の乳母がホームズに相談に来る所から、物語は始まる。

 お約束のお家騒動で、予期した結末に、可もなく不可もなく、という出来だが変にひねってないところが良い。
 忠実に、自分が解釈したホームズ像を描いていて、好感が持てる。
 コナン・ドイルとシャーロック・ホームズに対する敬意が感じられる。
 
 現在のホームズ贋作って、斬新すぎる。革新的なホームズ解釈は、私には必要ないです。


 実はこの「死の乳母」は、エキゾチックな8短篇の中の一つ。
 木々高太郎は、ヨーロッパやソ連に、昭和7年前後に留学しており、その時の経験がベースになっている。第1次大戦から第2次大戦の間の、つかの間の平和な時代。私が一番行ってみたい時代。
 木原敏江の名作マンガ『摩利と新吾』を思い出すなぁ。

 木々高太郎としても人生最良の時期だったろう。日本人の、ヨーロッパ人に対する憧れは大きかったが、ヨーロッパ人の黄色人種に対する差別は、とても激しかったに違いない。

 小説の中に出てくる「矮小な黄色い顔」「まるで黄疸にかかっている病人のよう」「白人が黄色い矮小な自分を、温かい眼、同種族を遇する眼で見たことがない」「自分のような醜い人種」などなど、嫌になちゃうなぁ。

 ここまでコンプレックスを持ってるわけ?!

 でも、夏目漱石もロンドン留学中、自分の小柄な体格が嫌で、精神を病んだみたいだ。女の人に見下されるように感じるのかなぁ。
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奥田英朗「家日和」(いえびより)

2013-06-06 11:26:10 | Weblog
 奥田英朗らしい、ちょっと捻りのきいたユーモア小説。全部で6編。みな面白いが、特に最後の『妻と玄米御飯』がよかった。笑えます。


 自身をモデルとしているのだろう、中年太りが気になってきた作家と、その妻のロハス攻防。

 以前は貧乏暮らしをしていたが、N賞を受賞した途端、一躍流行作家の仲間入りした大塚の家では、毎日の食事が玄米ご飯になった。妻がロハスに、はまったせいだ。
 
 もちろん玄米ご飯は健康にいい。妻や妻の友人たちから参加しないかと誘われるヨガも、健康にいい。体調が良くなったのは認める。だけど、どうも受け付けないのだ。ロハスを。ムカムカしてきて。
 同じくロハスブームを嫌いな担当編集者と、大塚は盛り上がる。

「ああいうのって、善意のファシズムじゃないですか。自分だけピュア、みたいな顔をして、実の所は単なる自分好きでしょう。偽善ですよ、偽善。なぁにが“地球にやさしい”ですか。だったら、てめえの家だけ汲み取り式便所に戻せって言うんですよ」

 なるほど、善意のファシズムか。そうかもしれない。

 もちろん地球環境を考えるのは、良いに決まってる。でも、結局はいいとこどりなのだ。本気でロハス生活をしようとするなら、電気やガスは自給しなくちゃね。ごく少数だが、そうして生活している人もいるのだ。

 だいたい、ロハスロハスと言いながら、子どもを私立中学に行かせるのは、おかしいんじゃない? ロハスなら、歩いて行ける公立中学だろう。矛盾してない?
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