ケイの読書日記

個人が書く書評

原田マハ 「モネのあしあと  私の印象派鑑賞術」  幻冬舎新書

2018-12-30 20:55:59 | その他
 モネとマネって別の人なんだね、という事を、この本で知った。モネは印象派の巨匠という知識はあったのだが、マネも同じくらいの年代だしフランス人だし、外国の名前なので発音を日本語に表記する時、モネとかマネとか、色々あるんだろうと勝手に思っていたのだ。

 私の絵画に対する知識は、この程度の物です。でも展覧会を観に行くのは好きだな。チケットが高いとか歩いてみて回ると足が痛くなる、とか文句たらたらだけど。展覧会に来ている人の洋服をチェックするのも好き。(和服もちらほら)皆さん、だいたいオシャレして来てます。

 以前、益田ミリのコミックエッセイを読んでいたら、彼女がゴッホに影響を受けたという事が描いてあった。ミリさんは高校3年生の時、ふらりと入った美術館で、ゴッホの『ひまわり』を観て衝撃を受け、油絵を描きたいと美大を目指すようになったそうだ。
 すごいなぁ。私は、そんな衝撃を受けた絵はないなぁ。残念なことに。
 でも、ゴッホの『ひまわり』が、100年あとの異国の女の子の人生を変えるような力があったなら、どうしてその時代の人々の心を掴まなかったのか不思議。だってゴッホの絵って、ゴッホの生前、1枚しか売れなかったんでしょ?


 影響を受けたと言えば、この本の中でも触れられているが、日本の浮世絵が印象派にすごく影響を与えたのは、有名な話。私は中学の時、社会科の授業で聴いた。
 絵画や美術品としてヨーロッパに渡ったのではなく、陶磁器を輸出する時、割れないように包み紙や緩衝材として、浮世絵をクシャクシャにして使ったらしい。蕎麦1杯の値段で売られていた浮世絵だし、大名のお抱え絵師が金粉をつかって描いたわけじゃないから、日本の業者も価値があるとは思わなかったんだろう。
 モネやゴッホを驚嘆させた浮世絵を、江戸の人は300円ほどで買って楽しんでいたんだから、文化的水準が高いというか…すごいね。

 美人画の着物の柄の細やかな美しさなんて、本当にほれぼれしてしまう。当時のコマーシャルポスターの役目をしてたんだろう。見事だと思う。



P.S. 今年も、この地味で拙いブログを読んでくださって本当にありがとうございます。来年も、読みたい本を読んで好き勝手なことを書いていきますが、よろしくお願いいたします。
   皆さま、良いお年をお迎えください。
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三浦しをん 「むかしのはなし」 幻冬舎文庫

2018-12-23 11:33:32 | 三浦しをん
 日本の昔話を、三浦しをんが現代風にアレンジした短編集と思って読んだが、どうも日本昔話は関係ないような気がするなぁ。
 それより「3ヵ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れる」というSFでよくある、重苦しい状況が全編を流れている。どうする?!人類!

 先日読んだ、たもさんの『カルト宗教 信じてました』の中でも、小学生のたもさんが、世界の滅亡を心底恐れていたことが描かれている。彼女の小学校の頃、ノストラダムスの大予言が流行っていて、小学校の教室では、その話でもちきりだった。
 それが、「エホバの証人」の教義 ハルマゲドンで世界は滅亡し、エホバを信じる人たちだけが生き残る という教えに関心を向けさせる引き金になったのだ。

 でも、世界中のほとんどの人が死んで、エホバの証人だけが生き残った世界で「神さま、ありがとうございます。ほとんどの人は死んでしまったけど、私は生き残ることができました」なんて神さまに感謝する事ができるんだろうか?周囲には累々と死体が積み重なっているのに?
 自分たちだけが生き延びて、そんなに嬉しい?

 
 3ヵ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡する…案外、地球と運命を共にしたいと思う人が多いんじゃないかな? そう考えるのは、私が年を取ったから?
 1000万人しかロケットに乗れないとしたら、若い人に乗ってもらいたい。特に出産可能な若い女性。そして、子どもたち。高度な技術や能力を持った若者。年寄りは、船長みたいに船と運命を共にするのよ。今までお世話になった地球とともに。

 そうそう、この中の第5編「たどりつくまで」に興味深い箇所があった。
 地球が滅亡するまで、あと2か月という中で、1人のタクシードライバーが淡々と働く。客はうんと少なくなったが、それでもいるので車を走らせる。仕事を終え部屋に戻ってもすることは特にない。パソコンで営業日誌を付けるが、翌日にそれを観葉植物に読み聞かせるのだ。
 地球が滅亡することを植物は知らない。植物を不安にさせたくない。毎日、声という名の空気の振動を植物に与える。

 いいなぁ、この習慣!! あまりにも静的だけど。自分の老後を考える。我が家のみい太郎が死んだ後の事を考える。猫でも20年近く長生きすることがあるから、次の猫は気楽に飼えないよ。植物にシフトするか…。だっこして、ふわふわの毛に触る事はできないけど。
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高野史緒 「翼竜館の宝石商人」 講談社

2018-12-17 08:43:36 | その他
 ファンタジー仕立てのミステリというのかな。画家レンブラントが最後に登場して、謎をスパッと解き明かしてくれる。つじつまがあわない細かい部分はあるが、それでも十分面白い。

 1662年晩夏のアムステルダム。宝石商のホーヘフェーンがペストと思われる症状で死んだ。実はその直前、画家レンブラントの息子ティトゥスがホーヘフェーンと会っていたのだ。ホーヘフェーンは取り乱していて、医者が来たところでティトゥスは屋敷を追い出される。
 城外の墓にホーヘフェーンの遺体が埋葬された翌日、彼の館の金庫のような部屋から、ホーヘフェーンとうり二つの男が意識不明の状態で発見される。
 いったい彼は誰なのか? ひょっとしたら、レンブラントの描いた肖像画から抜け出してきたのか…?

 物語は最初のうち、ナンドという男の目を通して語られる。ところがこのナンド、記憶がないのだ。気づいた時に持っていた書類から、自分がフェルナンド・ルッソという名前だろうと推測したに過ぎない。
 そして、それをたいして不思議がりもせず、自分の過去を思い出そうとも努めない。そもそも、小説の中でも彼の容姿に関する記述がほとんどない。だから、彼が何歳くらいなのか、太ってるのか痩せてるのか、長身なのか中背なのか小柄なのか、黒髪なのかブロンドなのか茶髪なのか、イメージできない。作者はわざと書かなかった。でも、読者としては不安定な読み心地。

 
 作中では、夏だからか天気が安定せず、雨が降り続く。もともと土地が低いネーデルランドは、ポンプで水を汲み上げ海に排水しながら生活している。そして、どぶ川のような水をたたえた水路が縦横に走っている。ひとたびペストが侵入すれば、あっという間に水路を伝って感染するだろう。不安で押しつぶされそうな住民。

 それに、アフリカ航路の船乗りたちの奇病も気味悪い。寄生虫が人間の脇腹などに入り込み、1年から1年半で死に至るという話。熱帯のハエの一種が、人間の傷口に卵を産み付ける話は知っているが、それとは違うようだ。気持ち悪いよね。でも、この寄生虫には裏があって…。

 現代美術と違って、このカメラもない時代、画家の観察眼や記憶力は素晴らしいものだったんだろう。ラファエロの指紋が付いてるから本物って…。すごいなぁ。でも昔は、そういう事もあったんだろう。
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椰月美智子 「伶也と」 文藝春秋社

2018-12-12 13:08:59 | その他
 これを何と形容したらいいか…。純愛小説? それとも執着小説?

 直子はロックバンドなど全く興味のない地味な女性。高学歴で理系の大学院を出て専門職に就くが、体調不良で転職。その転職先の同僚に連れられて、まだ無名だったロックバンド「ゴライアス」のライブに行き、そこでボーカルの伶也に魅せられる。
 (小さなライブハウスでの、追っかけファンたちの熱狂というのが、よく理解できない。そういえば私、コンサートには行ったことあるけど、ライブって行った事ないよな、と今更ながら自分で驚く)
 直子も、そんな私と同じようなタイプだったが、ステージの伶也と目が合った瞬間、世界は変わる。「細胞のひとつひとつが一斉に開き、つぼみの開花を早送りするように、直子の身体が一気に外に向かって拓けていった」(本文より引用)

 Kポップのアイドルがステージで「皆さんを愛しています」と言う時、その言葉にズキッとしたりクラクラする女の子(もちろんオバハンも)を否定はしないが、こんなホール一杯の女の子に愛を捧げたら、1人1人が受け取る愛情は無きに等しい分量だろうなぁ、とは思わないんだろうか? 私だったら心の中で「愛してくれなくて結構です」と応えるね。私がコンサート会場に行くことはないけど。

 どんなに熱狂しても、ほとんどの人は、ある程度時間がたちアイドルが結婚したり人気が落ちてくると、自分の周囲の人に目を向け、つきあったり結婚したりするんだろうが、この直子は違う。
 ゴライアスがスターダムを駆け上がり、伶也が人気絶頂になり、やがて結婚、離婚、そしてスキャンダルにまみれ、事務所から見放されても、直子だけは見放さない。母親のように。
 覚醒剤で捕まった時の保釈金も、直子が用立てるのだ。なんだか怖い。


 角田光代に『くまちゃん』という短編小説集がある。その中の1篇に、全国区レベルまでは行かなかったが、そこそこ人気のあるバンドが解散した話がある。どこでもボーカルが一番人気で、バンドやってた時はモテてモテてしょうがなかった。言い寄ってくる女の子の1人と付き合っていたが、解散とともに女の子たちはキレイに離れていく。付き合っていた女の子からも別れを切り出される。
 でも元ボーカルは、さほどショックを受けない。そんなもんだと思っている。この男の強さを、伶也に分けてやりたいね。
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三浦しをん 「桃色トワイライト」 新潮文庫

2018-12-06 09:31:08 | 三浦しをん
 面白い!!! 1976年生まれのしをんさんの20代終わりころの日常を綴ったエッセイ。先回呼んだ『乙女なげやり』より少し後。私の中学・高校時代に、しをんさんのような同級生がいたら、仲良くなれたのに…なんて妄想している。私の方が18才も年上だけど。

 エッセイを読んで驚かされるのは、仕事関係では無い同年代の友人が本当に多く、頻繁に会っていること。彼女は私立の中高一貫の女子校を卒業していて、結束が強いんだろうか? さぞ楽しい学校生活がおくれたんじゃないかと思う。うらやましい。

 女性の20代終わり頃って、同級生が次々結婚したり出産したりと忙しくなり、今まで仲良しでも徐々に疎遠になることが多いのだ。
 しかし、しをんさんと彼女の周りの人たちは、オタク道をバク進。よくもまあ、こんなに真性オタクが集まってるな、と思うほど。脳内で十分楽しんでいるから、現世での喜びはさほど追求しない。

 ずいぶん前に、しをんさんと中村うさぎさんとの対談を読んだことあるけど、誰が企画したのかな? 彼女は中村うさぎとは真逆のタイプであり、正反対の道を追求している。
 例えば、映画の試写会で、大ファンのオダギリジョーと引き合わせてもらえるチャンスがあった。しをんさんは、仮面ライダークウガを観て、オダギリジョーの大ファンになり、このエッセイでもオダジョーの事ばかり書いてあるのだ。
 でも、しをんさんは会うのを断る! ビックリでしょ? でも、その気持ち、わからなくもない。同じオタク気質の私としては。
 しをんさん本人は「断食明けに、いきなり満漢全席を食ったら、腹下しちゃうだろ」と答えているけど、ビミョーに違うと思う。生身のオダジョーに会いたくないんだよ。脳内のオダジョーが壊れてしまうから。

 また、他の章では友人と『物陰カフェ』を考案する。女性客を狙ったコスプレ喫茶。かっこいい男の子たちを集めたカフェだと、ホストクラブと同じになってしまう。あくまでもオタク女性たちのための『物陰カフェ』
 具体的には、店員さんである素敵な殿方とおしゃべりして親しくなろうとするんじゃなく、かっこいい男性たちの仲良く働く様子を物陰から見守るカフェ。従業員と客との会話は禁止。

 なるほどなるほど。ただ、いくら容姿は優れていても生身の人間。嫌な部分だっていっぱいある。自分の脳内で考えているように都合よく行動してはくれないよ。

 という事は、演技を要求されるわけだから、テーブルにコーヒーを置いて小芝居を観劇という事じゃない?
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