ケイの読書日記

個人が書く書評

北条かや「整形した女は幸せになっているか」 星海社新書

2018-07-31 13:20:27 | その他
 ほとんどの女は「整形した女は幸せになっているか?」の答えを知りたがっている。いや、もう一段進んで「美しい女、かわいい女は幸せになっているか?」の答えも知りたがっている。

 著者の北条かや氏は、お名前をあちこちでお見掛けする、気鋭の社会学者。ただ、この著書のサンプルがあまりに少ない。3人の美容整形経験者にインタビューしているだけ。あと、中村うさぎ氏との対談が大部分を占め、美容整形に社会学的にアプローチした著作にはなっていない。

 インタビューに応じてくれた3人も中村うさぎも、美容整形は素晴らしいという礼賛者なんだから、比較も考察も出来ないじゃん。もう少し、美容整形に否定的な人の意見も入れてほしいな。そして、美容整形してから10年20年と時間がたった人の考えも、載せてほしい。
 まあ、否定的な考えを持つ人は、取材には応じない事が多いだろうし、1度美容整形すると、何度も繰り返す人が多いようなので、取材相手を見つけるのが難しいかもしれないが。

 でも、読んでいて、北条かやや中村うさぎの主張する「客観的な美しさなんて、そんな確固たるものだろうか?」と疑問に思う事がたびたびだった。
 例えば、編集者の深澤真紀さん(TVでコメンテーターをやってるので知ってる人、多いよね)。彼女を容姿が劣っていて「男に露骨に相手にされないとか、合コンや飲み会で無視されるとか、痛い目にあっていると思う」とボロクソに言ってるけど、私、深澤さんの旦那さんが彼女に魅力を感じるの、分かるなぁ。ああいった地頭が良くて、歯切れのいい発言をする人って、魅力的だよね。容姿も素敵に感じると思う。

 他にも???な箇所がいっぱい。中村うさぎが、美容整形して自分の望む顔を手に入れたら、若いイケメンのホスト達がチヤホヤしてくれたって書いてあるけど、別に美人とか関係ない、知名度があって金払いの良さそうな客だから、チヤホヤしてくれたんじゃない?

 だいたい、この本の著者の北条かやは、中村うさぎの信者みたいなひとだから、美容整形のハンドブックみたいになっちゃってるよ。

 作家の群ようこさんは、若い頃自分の顔が大嫌いで、お金をためて絶対整形してやる!!と決意していたそうだ。でも、忙しさにかまけ先延ばししているうちに、自分の顔が好きになってきた。満足ではないけど、ま、こんなもんか、と納得している。それが一番理想的な在り方なんじゃないかな?
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「白痴」 ドフトエフスキー 亀山郁夫訳  光文社古典新訳文庫

2018-07-26 14:24:27 | 翻訳もの
 この「白痴」という作品は、ドフトエフスキーの5大長編の1つらしく、べらぼうに長いのだ。全4篇からなり、私の読んだ亀山郁夫訳の「白痴1」は第1篇で、順を追って第2篇、第3篇、第4篇が刊行される。現在は第3篇まで出ているようだ。わーーー、光文社古典新訳文庫シリーズじゃなくて、他のにすればよかったな。でも、やっぱり亀山郁夫で読みたいし。まぁ、気長に待つことにしよう。
 
 スイスからロシアのペテルブルグに帰ってきたばかりのムイシキン侯爵は、世間ずれしておらず、おバカさんなのだが、どういう訳か他人に好かれる。無一文で生活に困窮すると思いきや、周囲の人に色々世話を焼いてもらえる。
 偶然見かけた、絶世の美女ナスターシャの写真を見て感銘を受け、彼女が婚約発表をするかもしれないという誕生パーティに、招待されていないのに出かける。
 実は、ナスターシャは、トーツキーという大金持ちの愛人で、彼が商売に有利な他の女性と結婚したいので、ナスターシャに7万5千ルーブルの持参金を付けて、別の男と結婚させようともくろんでいたのだ。
 そのパーティ会場に、ナスターシャにのぼせ上り追い掛け回しているロゴージンが、10万ルーブルの大金とゴロツキ達を連れて乗り込んでくる。

 
 ストーリーはすごく面白くて話に引き込まれるが、登場人物には魅力をあまり感じない。
 主人公のムイシキン侯爵は、イエス・キリストをモデルとした「本当に美しい人間」として書かれているらしいが…愛すべき人間なのは確かだけども、邪魔な人と言えなくもない。
 また、絶世の美女ナスターシャは、不幸な生い立ちを差し引いても、あまりにも傲慢。だいたい、そんなに不幸な境遇だろうか? 彼女は幼い頃、両親が相次いで亡くなったので、トーツキーが代わりに養育してくれた。非常に美しく成長したので、彼女の意志とは関係なくトーツキーの愛人になったが、彼は彼女に高い教育を受けさせ、住居や衣服・貴金属・使用人たちに惜しみなくお金を使った。そんなに不幸? あのまま孤児の方が良かった?

 ナスターシャは、7万5千ルーブルの持参金ほしさに彼女と結婚しようとしたガヴリーラを憎んで、ロゴージンの10万ルーブルを暖炉に放り込み、燃えているお金を素手で取り出せと命じたけど、本当にクレージーでエキセントリック。どうかしてるよ!
 愛人のトーツキーが、なんとか手を切りたいと願うのもわかります。

 そのナスターシャにムイシキン侯爵はプロポーズする。無一文なのにどうやって生活するの?と問われ、侯爵は遺産を相続するかもしれないという手紙を見せる。一度も会ったことのない伯母さんが死んで、彼女の遺産が転がり込むのだ! なんというご都合主義の展開!


 この作品は、1868年に発表されたので、ロシア革命の50年ほど前だけど、物語の中では、高利貸しや退役軍人、遺産を受け継いで贅沢してる人ばかりで、まともな職業の人がいないよ。それに、職業軍人のだらしない事!!! こんなんで、戦場で役に立つのだろうか? 日露戦争で日本に負けるのも無理ないような気がするなぁ。
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群ようこ 「かるい生活」 朝日新聞出版

2018-07-19 15:29:24 | 群ようこ
 この「〇〇生活」シリーズは、大したこと書いてあるわけじゃないのに(失礼!)人気あるみたい。分かるような気がするなぁ。これから高齢者の仲間入りするけど、はて、どうしたもんかなぁという人たちに、群さんはこのエッセイ集で「漢方で身体を軽くし、余計なものやしがらみも捨てる」という、お手本を見せてくれている。

 漢方について一番多くのページをさいているが、これについては向き不向きがあるので、何とも言えない。私はいくら漢方といっても薬なので飲みたくないが、群さんの身体には合ったようで、この漢方薬局に行って薬を調合してもらってからは、とっても体調が良いようだ。

 美容についてのページも面白い。やっぱり「ほっぺたがたるんでくる」のを群さんも問題視している。そうだよね。老化もいろいろパターンがあるが、代表的な「シミ・シワが増える」よりも、「ほっぺたがたるむ・顔の輪郭が下がる」ことの方が、ああ、この人、老けたなぁと人に強く印象付けると思う。
 このたるみが難敵なんだ。いろんな化粧品会社から、小顔クリームが販売されてるけど、ね、クリームを塗って、どうして小顔になるわけ?いい加減な効能を書かないでほしい。
 私が一番、顔のたるみに効果があると思うのは、ヘッドスパ。美容院でカットする時に、プラスしてみる。2,3日は、顔の輪郭がスッキリしているような気がするな。気のせい?

 そして最後の章は、家族の問題。群さんは20歳ごろ、ご両親が離婚なさって、それ以降、お父様には会っていないそうだ。群さんは、お母様と弟さんと一緒に暮らし、社会人になってしばらくしたら独立してアパートを借りた。その後、OLから作家に転身し、本が売れ、流行作家の仲間入りした。今とは違う、まだ出版業界が元気だったころの話。高額納税者番付に載るほど、もうかったらしい。
 それから、お母様や弟さんのおねだりが始まった。税金に持って行かれるくらいなら、オレらに何か買ってくれ!という事だろう。
 お母さまは、伊勢丹の呉服売り場で、30分間に500万つかったこともあったそうだ。

 弟さんは、国立大学を卒業して一部上場企業に勤務していて高給取りなのに、姉に自分の趣味の物をねだる。イギリスの老舗ギター職人が作ったギターを買うために200万円、群さんが振り込んだ事もあったそうだ。
 その他にも、車やら家やら…。
 支払う群さんも、家族の稼ぎ頭として、お母様や弟さんから頼られたかったのかもしれない。

 そう、家族の稼ぎ頭。群さんも弟さんも結婚してないし、お母様も再婚なさっていない。だから、別々に暮らしていても、1つの家族という意識があったんだろう。

 そこで思い出されるのが、群さんのお父様。妻子を養う意識が低い人だったので、ケンカが絶えず離婚して家を出て行った。でも、売れっ子作家となった娘を頼らず、一切連絡を絶っている事など立派だと思う。
 いるんだよね。稼ぐようになった子の名を出して「支払いは子供に請求してくれ」っていう親が。
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米澤穂信 「満願」 新潮文庫

2018-07-13 10:43:13 | 米澤穂信
 この作品は「このミステリーがすごい」「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」の国内部門ランキングで1位に輝き、史上初の3冠を達成したと聞いているので、とっても期待して読んだが…期待通りだった。
 全部で6短編収録されているが、すべてが傑作。特に、表題作の『満願』は本当に素晴らしい。

 夫が遊興費として借りたお金の返済に苦しみ、高利貸しを殺した女が、量刑を不服として控訴する。その遊び人の夫が病死し、いくばくかの死亡保険金が入って、金融会社に借金を完済するめどが立った所で、女は控訴を取り下げ刑に服す。

 高利貸しを殺したところで、借金が棒引きになる訳でもない。なぜ、女は殺人を犯したのか、その真の動機が最後に明らかになる。見事。ただ、私には『夜警』の方が印象に残った。

 この『夜警』を読んだとき、今年の4月に滋賀県で起きたある事件を思い出した。交番で新人警官が、上司である警官を背後から射殺して逃走した事件。思い出した人、多いんじゃないかな?
 新人警官はすぐに捕まった。容疑を認めたし、未成年という事もあり、報道もすぐ沈静化したが、「パワハラをうけた」「両親を悪く言われた」という動機には、納得がいかなかった。
 だって、交番勤務に就いたの、2週間前なんでしょ? それに、どうして射殺なの? カッとした時、拳で殴る、あるいは手近にあった物で殴るなら理解できるけど、カッとしたからと言って、背後から拳銃で2発うつだろうか?日本人が? これが日常生活に銃があるアメリカならいざ知らず。
 この人は本当は「拳銃で人を殺してみたかった」人なんじゃないだろうか?

 小説の『夜警』でも、新人警官が登場する。大学卒業して警官になったのだから20歳以上だが、教育係である上司は、彼を一瞬でモノにならないと見抜く。スナックでのケンカの仲裁で、拳銃に手を伸ばしたのだ。小心者だが、虚勢を張りたがるタイプ。
 彼らの管内で、男が刃物を振り回して暴れる事件があり、上司と新人警察官は現場にかけつける。新人は発砲し、暴力男は射殺されるが、新人も切り付けられ殉職する。新人は勇敢な警察官という美談になるが、発砲には歪んだ動機があった。それは…。

 銃が大好き。合法的に人を撃ってみたい。そういう若い人って、結構いるんじゃないの?
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津村記久子 「枕元の本棚」 実業之日本社

2018-07-06 15:26:51 | 津村記久子
 私は、自分の好きな作家さんが、どんな本を読んでいるのかすごく興味があるし、未読だったらその本を読んでみたいと思っているので、こういった読書エッセイを楽しみにしている。

 しかし、その点でいうなら、この本はちょっと予想がハズレたみたい。確かに読んだ本の紹介ではあるのだが…津村さんって辞典や事典、それに図鑑が好きな人なんだ。
 確かにそういう人いるよね。私の友達にも、ヒマだと事典や辞書を適当に開いて、そのページを読むのが好きっていう人がいた。津村さんは、まさしくそういう人。でも、私はあまりやらなかったなぁ。自分の育った家庭に百科事典が無かったせいかもしれない。
 だから、あ、津村さんがこの事典を見てる。私も見よっと!とはならない。残念。

 それと、スポーツの本を好きでたくさん読んでいるのに驚かされる。それも大相撲とか野球とか(ベースボールではない)日本のサッカーではなく、欧州サッカーやツール・ド・フランスといった自転車競技。
 津村さんは出身が大阪なので、野球は身近だったはずだが、出てこないね。そういえば以前読んだ『ウエストウィング』(だったと思う)に、少年野球チームのコーチをやっているいけ好かないオッサンが出てきたが、何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。

 サッカー好きな女性は、今では珍しくもなんともないが、ツール・ド・フランス好きという女性は少ないと思う。自転車競技はヨーロッパではすごく人気があるらしいが、日本ではあまり馴染みがない。私の印象では、すごくドーピングと親和性が高い(失礼!!)スポーツだと思う。
 そうそう、フィギアスケートも好きなんだ。津村さん。なんてったってキレイだから、大好きな人は多いが、津村さんは、羽生選手とかプルシェンコとか浅田真央ちゃんといったメジャーな人だけじゃなく、全く無名の外国人選手にも熱を上げるので、すごいと思う。この熱量はいったいどこから来るんだろう。

 津村さんには『パリローチェのファン・カルロス・モリーナ』という小説があって、これにはアルゼンチンの顔の濃い男性フィギアスケート選手がでてくる。どうなんだろう。メジャー選手ではなくマイナー選手好きというのは、ダイアモンドの原石好きって事なんだろうか?
 でも、このファン・カルロス・モリーナは、最後まで輝かなかったけど。
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