ケイの読書日記

個人が書く書評

益田ミリ 「ふつうな私のゆるゆる作家生活」

2017-04-28 12:39:29 | 益田ミリ
 益田ミリさんのマンガもエッセイも好きでよく読むけど、この作品にはちょっとホロリときました。
 益田さんがどういう生い立ちで、どういう道筋を通って、人気コミックエッセイストとして成功したかが、書いてあるからです。

 1969年大阪に生まれた益田さんは、これといった特技のない子どもでした。お父さん・お母さん・妹さんの4人家族で、のんびり育ちました。高校3年生の時にゴッホの絵を見て感動し、画家を夢見て短大の油絵学科に進学。
 その短大生の時、読んでいた雑誌に、洋服のブランドの『キャッチコピーコンテスト』という企画があり、応募したら次々入賞し、ぞくぞくと賞品のTシャツが送られてきました。コピーライターに憧れるようになった益田さん。
 いろんなコンテストを探していたら、カップ麺のテレビコマーシャルを考える学生向けの企画があり、そこでグランプリを獲ったそうです。賞金20万円。賞品は約10万円分のカップ麺。東京の立派なホテルで表彰式。すごいなーーーー!!!

 就職は1か月遅れで、企業の宣伝部に入ったものの、広告の仕事は外注が多く、あまり忙しくなかったそうです。
 週末にイラスト教室に通うようになり、再び絵を描くように。200万円の貯金と100万円の退職金を持って、6年間勤めた会社を辞め、自分の才能を試すために上京。
 上京したことに舞い上がり、半年間、何もせず、アパートでゴロゴロ。本当に肝が据わってるなぁ。貯金が乏しくなってから、バイトしつつイラストの売り込みをして、徐々に仕事が増えていったようです。

 (話が大幅に変わりますが、6年間勤めて退職金100万円って、多くないですか? 別のエッセイでは、生理休暇も堂々と取れるって書いてあったので、良い勤め先だなぁと思います。)

 以前読んだ、たかぎなおこさんの『浮草ディズ』というマンガを思い出しました。たかぎさんは三重県出身で美術短大を出て、名古屋の広告代理店に入社。会社員時代に、あちこちのコンペに送った自分の作品が入賞したので自信を付け、思い切って会社を辞め上京。
 ただ、たかぎさんの場合、出版社に作品を売り込みに行っても、なかなか採用されず、大変だったみたいです。

 そうだよね。益田さん、本当に順調に仕事をゲットしてるなぁ。こういう人って珍しいだろうね。
 だいたい、出版社に電話して、すぐに担当者と会う事って出来るんだろうか?絵を仕事にしたい人ってドッサリいるから、門前払いってことにはならないの?
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群ようこ 「世間のドクダミ」

2017-04-23 17:27:44 | 群ようこ
 2006年に筑摩書房より刊行された本なので、今から10年前、群ようこ、50歳の時のエッセイ。

 友人たち3人で老後をくらそうと計画しているが、なかなか話が進まない事とか、最近の若いもんはなってない!と若い頃の群さんも言われたであろう小言を、エッセイ集の中で書きまくっている事とか、母親や弟の住む家のローンを早く払い終わりたい事とか、いつもの話題をいつもの調子で書き連ねている。
 その中で、いつもでない話題が一つ。『新聞はとらない』という章がある。
 群さんは、図書館をあまり利用しない。本は買うべき、という信念の持ち主なので、新聞をとらないのは意外だった。その理由だが、まず新聞を作っている人が好きではないそうだ。新聞社の体質は、出版社とは明らかに違うどす黒いものがあるそうだ。あくまで群さんの意見。

 一般的には、新聞社の方が公明正大・清く正しくのイメージがあり、週刊誌を発行する出版社の方が、ダーティなイメージがあると思う。まぁ、群さんが付き合ってるのは、文芸書部門の編集者だろうから、クリーンな人が多いんだろう。
 ただ、私の高校時代の社会科の先生は「新聞記者はヤクザと同じ」とたえず言ってたので、どす黒い面もあるだろうなと思う。

 群さんが、M新聞から依頼されエッセイを連載したら、一月ほどたってから、担当者から電話があり「読者から手紙が来て、エッセイを載せると不買運動を起こすと言われたので、書く内容を変えてほしい」と言われたそうだ。
 いやーーー、群ようこの毒にも薬にもならないエッセイのどこが気に障ったんだろう? その方が気になる。不買運動って、新聞社がそんな圧力に負けていいの? 読者からって本当? ひょっとしたら新聞社の上層部からじゃない?
 大学の教授とか、評論家とか、硬派と思われてる人にはへこへこして、柔らかい文章を書く人にはキビシイ人って、新聞社の管理職に多いんじゃないの?

 エッセイ内にも、こういう箇所がある。「だいたい新聞社の人間は傲慢である。自分が社会を動かしているような気になっているのではないか」
 これには深く同意する人も多いんじゃないだろうか?

 群さんは、新聞に投稿するようなおばちゃんも、勧誘員も嫌い、とにかく新聞には関わりたくないそうだ。立派な心掛けだと思う。
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島田裕巳 「もう親を捨てるしかない」 幻冬舎新書

2017-04-18 10:17:07 | その他
 あまりにも衝撃的なタイトルなので、おもわず借りてしまう。
 著者が言いたいことはタイトルどおり、日本の家はかつて永続的なもので、子孫を絶やさないように、先祖を粗末にしないようにしていた。しかし、現代の日本の家は脆くなっている。その家に住む親子・兄弟・親戚の関係も脆い。
 子どもに介護を期待すること自体、ありえない。子供はそんな義務を果たす必要はないし、親はそれを期待できない。
 まあ、当たり前のことだね、ふんふんと読み進めていくうちに、ハタと気づく。

 そういえば、この本の著者・島田裕巳さんって、あの島田裕巳さん? 1995年のオウム真理教地下鉄サリン事件が起こった時、TVのワイドショーにいっぱい出演し、「オウム真理教は素晴らしい教団」「オウム真理教の第7サティアンは、ただの宗教施設」とせっせと発言していた、どっかの有名大学の宗教学者が、たしか島田ナントカと言ったっけ?
 でも、筆者のプロフィールにも、まったくオウム真理教の事は書かれてないし(当たり前か)本書にも一切触れられていない。

 気になったので調べてみたら…やっぱり、あの島田先生だった。そういえば、お昼のTV番組バイキングでも、彼を見かけたような…。
 もう20年も経つんだもの、復活するのは当たり前か。
 別に、島田先生が人を殺したわけではない。オウム真理教にコロリと騙され、利用され広告塔になり、オウム真理教の実態が分かった後は、激しいバッシングにあい、職を失ったわけだから、一種の被害者と言えるかもしれないが…。
 でも、宗教を研究してる一流の研究者が、そんなにやすやす騙されていいの?とも思う。
 被害にあった人たちは、TVのコメンテーターをニコニコ勤めている島田先生を見て、穏やかじゃないだろうね。


 で、話は最初に戻るけど、捨てられた親は誰が面倒みるわけ? 姨捨山を作れって話なの?
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又吉直樹 「火花」

2017-04-13 15:10:57 | その他
 お笑い芸人は、売れるか売れないかがすべて。だから、徳永が師匠と崇め心酔している神谷は、才能が無かったんだと思う。こう書くとミもフタもないが、それ以外の尺度って、お笑いに必要なんだろうか?

 ゴッホは生前、1枚しか絵が売れなかったそうだが、死後、評価された。でも、お笑い芸人はDVDやビデオが残っているからと言って、再評価されるだろうか? その場でウケるかウケないかが全てではないの? だから、お笑いは尊い。
 だって、その時代の空気とか習慣とか雰囲気とか、その場の勢いとか、それらの条件にピタッとハマった旬の物だけが、爆発的な笑いを生むわけでしょ?(古典落語のような例外もあるけど)

 私は、お笑い番組を積極的に見ている訳じゃない。子どもが見ているのを、チラチラ横目で見るくらいだが、それでもお笑いコンビの真剣さは伝わってくる。お笑いって二世タレントが最も進出しにくい、そして生き残りにくい分野だと思う。親が売れたって、子どもが売れる保証はまったくない。むしろその逆。


 
 神谷は相変わらずサッパリだが、徳永たちコンビは徐々に売れ出し、TVやラジオにも出演。徳永は、安いぼろアパートから家賃11万円のマンションに引っ越す。しかしブームは去り、仕事が少しづつ減っていく中で、徳永の相方の同棲相手が妊娠し、相方は定職に就くため、芸人を辞める決断をする。それは、徳永にとっても、芸人を辞めることを意味した。


 この『火花』の最後の方で、自分たちの漫才に否定的な人たちに対して、徳永が、こう独白する部分がある。

 (舞台に上がってみて)世界の景色が一変することを体感して欲しいのだ。自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。(中略)一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。(中略)臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが、漫才師になれるのだ」

 めずらしく感動して、少し涙ぐんでしまいました。
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村田沙耶香 「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」

2017-04-08 08:37:38 | 村田沙耶香
 村田沙耶香のエッセイなんて珍しいなぁと思って借りたら、やっぱり初エッセイだった。
 『コンビニ人間』で、一躍、時の人になった村田沙耶香だけど、このエッセイ集は芥川賞をとる前の物。『アンアン』に連載されていたものに加筆・修正したらしい。『アンアン』かぁ。驚くなぁ。だって、全くイメージに合わないもの。
 私には、村田沙耶香はかたくなな文学少女という勝手な思い込みがあって、子供の頃や大学時代、教室内でポツンと一人で文庫本を読んでいる、という想像をしていたのだ。でも、この人、結構キャピキャピとした女子大生時代があったんだね。斬新なデザインの洋服を好み、彼の家に毎日通って、白いエプロンを身に着け、朝食と夕食を作って、彼が寝ている間そばにいて、優しくぽっぺたにキスして起こすなんて事、やってたんだ! すごいなーーー! 新婚さんでも、今時やらない。忙しいから。

 それに、お酒が好きで強いから、一人でバーにも行くし、アダルトショップにも一人で行っちゃう。海外旅行も好き。
 友人が少ないと書いてあるが、そんな事ない。「さやかちゃん、さやかちゃん」と呼び掛けてくれる友達がいっぱい。30代後半女性が〇〇ちゃんと呼ばれるのは、けっこう恥ずかしいと思うけど、OKの人もいる。

 世代的には、津村記久子と同じ、就職氷河期世代だけど、違うのは仕事観かなぁ。
 もちろん村田さんだって、ちゃんと仕事をしている。文章を書きながらコンビニでアルバイトを何年も続けている。ただ、津村記久子のような「どうしても正社員になりたい」「会社に入って、契約社員でもいいから、フルタイムで働くんだ」といった強迫観念みたいな強い意志は感じられない。
 ちょっと会社員を見下しているような…そんな雰囲気がある。(ご本人は否定するだろうけど)

 私が、村田沙耶香って本当にすごいなぁと感じたのは『しろいろの街の、その骨の体温の』を読んでから。その女子間のイジメのあまりのリアルさに驚いた。ちょっといないよね。こんなに書ける人って。
 この人も、女の子同士の修羅場をくぐりぬけてきた人なんだ。
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