ケイの読書日記

個人が書く書評

有栖川有栖 「ミステリ国の人々」 日本経済新聞出版社

2020-03-02 17:02:17 | 有栖川有栖
 日本経済新聞に毎週日曜日に連載したエッセイをまとめたもの。推理小説に登場するキャラクター(主役・脇役を問わず)から作品を紹介している。
 一番笑ったのは、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』の門外不出の弦楽四重奏団。
 この作品は、私も読んだことある。推理小説とかミステリというより、壮大なハッタリ小説。そのハッタリを好む人と嫌いな人がいて、私は好む人だね。通称・黒死館といわれる豪壮な屋敷のハッタリもすごいし、そこの住人達、例えば当主の血統をたどると、天正訪欧使節団の千々石ミゲルがメディチ家の血を引くといわれるフランチェスコ大公妃に生ませた私生児の娘に行きつくという。ね?!すごいでしょ?

 この黒死館で殺人事件が起き、そこに乗り込むのは名探偵・法水麟太郎。この法水が、ファイロ・ヴァンスを100倍くらい面倒くさくした男で、紋章学、神学、神秘思想、西洋史、物理学、犯罪学、心理学などなど蘊蓄をひけらかし、ウザイったらありゃしない!

 筆者の有栖川有栖は「しゃべるたびに謎を増殖させる彼は、迷宮を作るために降臨したかのようだ」と書いてるが、激しく同意。
 最後まで何が何だか分からない。黒死館の住人は、殺されなくてもペストで死んでいくだろうなと思うような読後感。でも、私こういう雰囲気、好きだな。

 『黒死館殺人事件』は日本3大奇書の一つらしいが、他の『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』も紹介されている。この2作品も理解しようとするより、雰囲気を味わうことしか出来ない。私の場合。

 他に私が書名を知っていて、読んでみたいと思っているが、なかなかその機会が得られない作品が多数紹介されている。
 例えばエリス・ピーターズ『修道士カドフェルシリーズ』 仁木悦子『猫は知っていた』 都筑道夫『なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ』 P・Gウッドハウス『ジーヴィスの事件簿』などなど。
 特に、仁木悦子の『猫は知っていた』は絶対読まなきゃ!今度予約しよう。でも、図書館は新型コロナウイルス防止のため、休館になっちゃったよ。残念。
コメント (2)
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有栖川有栖 「インド倶楽部の謎」 講談社

2019-09-04 14:36:09 | 有栖川有栖
 2018年に刊行された本書は、本当に久しぶりの国名シリーズで(2005年の『モロッコ水晶の謎』から中断している)楽しみに読んだが、ちょっと有栖川有栖らしくないような気もするなぁ。
 まあ、国名シリーズのほとんどは短編なので、スパッと火村の推理が冴えわたって事件は解決。しかし長編だと、それだけじゃない。いろんな要素が加わって話が膨らむので、推理部分がぼやけるのだ。でもいい。火村とアリスに会えるから。

 この作品には、輪廻転生を信じている7人のグループが登場する。この7人の前世は、150年ほど前インドで親しい間柄であった。グループの中心の坊津という中年女性は、当時の記憶を鮮明に持っていて、周囲の心に引っかかる人たちに「あなたの前世は、インドの商人」とか「あなたの前世は若くして戦死した武人」とか言って回り、周囲もそれに同調して、互いに浅からぬ縁を感じている。
 この人たちの集まり「インド倶楽部」で、「アガスティアの葉」をつかって、自分たちの過去・現在・未来を教えてもらおうという催し物があった。
 7人のうち3人が参加。1人5万円。日本人コーディネーターが、インドのナーディリーダーを呼んできて、前世から自分が死ぬ日まで、すべての運命が予言されているという「アガスティアの葉」を読ませるのだ。どこからどう見ても、インチキだと思うけど。
 そうそう、「アガスティアの葉」って、作者がでっちあげた架空の事柄だと思ったら、本当にあるんだ。ビックリ!!

 数日後、日本人コーディネーターが殺され、トランクに詰めこまれた状態で神戸港に浮かぶ。インド倶楽部の面々が驚きうろたえていると、今度は坊津までもが絞殺され…。

 輪廻とか前世とか、私はどうしてもオウム真理教を思い出してしまう。信者たちが「あなたは前世では私の姉でした」「だから懐かしい気がするんですね」とか、話し合ってたという記事を読み、どうにも拒否感がある。
 もちろん火村もアリスも、輪廻も転生も前世も全く信じてないので苦戦する。そういった世界観が動機だから。

 読後感はスッキリしないが、筆者があとがきに書いているように「シリーズ全体としては、火村とアリスがいつものように活躍する物語を描いていきたい」とあるので、私もそれを歓迎したいです。
 そもそも本家のエラリー・クイーンの国名シリーズも、シリーズを重ねるごとに本格味は薄れていったもの。
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有栖川有栖 「幻坂」(まぼろしざか)  メディアファクトリー

2019-02-14 10:12:56 | 有栖川有栖
 子供の頃、大阪の子と文通していて(文通!!!時代を感じるね)大阪には2回ほど行った事がある。駅からすぐ、その子の家に行って、その後、吉本新喜劇や宝塚を観に連れて行ってもらったなぁ。
 そうそう、大阪駅に大きな金色のひょうたんが飾ってあった。金のひょうたんって、秀吉の印なんだね。秀吉は大阪城をつくったから。その時は知らなくて、なんでこんな瓢箪がここにある?!って思ってたけど。

 近くの市場にも一緒に行って、お店のおじさんに「はい、そうです」なんて緊張して標準語で受け答えしていたら、そのおじさんに「あんた、東京の子?」って言われたことがあったなぁ。45年位前だけど。違いますよ。私はバリバリの名古屋弁の名古屋の子です。
 大阪の人って、大阪がすごく好き、という雰囲気があった。

 有栖川有栖も(大学は京都だけど)大阪で生まれ育った。奥さんもそうなんだろう。この小説も「大阪を愛する義父母に」献じられている。
 この本の舞台となった七つの坂(真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂)は、天王寺七坂と呼ばれているらしい。ここら辺は、古くからの神社仏閣が集まっていて、最も古い大阪の雰囲気を残しているようだ。
 本の巻末に簡単な地図があって、こういうのを見ると、ああ、行ってみたいなぁ、私もこの坂を散歩してみたい、としみじみ思う。

 そういえば、同じ筆者の『鍵のかかった男』でも、作品の舞台となった大阪・中之島あたりの地図が載っていて、著しく旅ごころを刺激されたなぁ。ああ、大阪に行って『鍵のかかった男』の舞台となったこの地を歩いてみたい。火村やアリスにどこかですれ違えるかも…と期待しちゃう。
 有栖川有栖は、こういった紀行文っぽいものも得意なんだろうか?


 この『幻坂』に、「枯野」という短編が収められている。これは天王寺七坂の事ではなく、松尾芭蕉の最晩年について書かれている。芭蕉って、大阪で亡くなったんだね。知らなかった。
 俳句で、わび・さびを追求した人だけど、実生活では高尚な事ばかりを言っておれず、弟子たちの仲たがいを仲裁したりして、気苦労が多かったらしい。なんといっても、芸事のお師匠さん。お金がある有力な弟子には、リップサービスしなければ生活が成り立たない。
 ある程度、世間ずれしなければ、やってられないだろう。
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有栖川有栖 「濱地健三郎の霊なる事件簿」 角川書店

2019-01-26 16:55:34 | 有栖川有栖
 驚きました!! 心霊探偵とあったけど、作者が有栖川有栖なので、パッと見は心霊現象でも実はバリバリの科学的犯罪で、それを名探偵が暴いて解決するんだと思って借りた。東野圭吾ガリレオシリーズの湯川先生みたいに。
 しかし、最初から最後まで、心霊探偵と心霊現象じゃないか、なんだこれ?!

 でも、実は有栖川有栖は、怪談もよく書いているそうで、これは3冊目の怪談集になるそうです。意外です。私が知らないだけか…。

 うーーん、どうなんだろうね。私としては、火村+アリスコンビが活躍する話や、江神二郎+推理小説研究会メンバーが登場する話の方を読みたかったというのが本音。でも、本格推理ってそんなに書けないんだろうね。アイデアが難しいから。だから、こういった変則的な作品も出てくるんだろう。

 厳しい事を書くが、だいたい、名探偵役の濱地健三郎、その助手でワトソン役の志摩ユリエの両方のキャラがつまらない。
 年のころは30歳~50歳の年齢不詳の紳士然とした濱地と、年齢が20歳代半ばで以前マンガ家志望だったので似顔絵の得意なユリエの間に、何も起こりそうもないし、2人の会話も本当につまらない。どうしてかな? 濱地のプライベートが全く明らかになっていないので、読者が妄想を膨らませる余地が少ないからだろうか?

 ユリエが自信を無くして「わたしに先生の助手が務まるでしょうか?」と言った時、「そうしてくれると助かるんだが、嫌になったらいつ辞めてもかまわない。きみには選択の自由がある。」なんて、濱地の答えは無味乾燥、ぱっさぱさ。
 こんな紳士じゃなくて、もっとオレ様キャラというか、サドっぽい人の方が、話は面白くなると思う。

 キャラに愛着を感じられないというのは、致命的なような気がする。それとも何作も読み続けていくと、愛着を感じるようになるんだろうか?
 火村+アリスコンビや、江神二郎+推理研メンバーの間には、精神的な同性愛のような固い結びつきがあるが、濱地とユリエの間には何もない。

 文句ばっかり書いてしまったが、普通に楽しく読めます。有栖川有栖だから期待していたので、ついつい辛口評になる。幽霊話が好きな人には、お勧めかも。
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有栖川有栖 「狩人の悪夢」  角川書店

2018-08-08 13:09:08 | 有栖川有栖
 人気ホラー作家・白布施と対談したミステリ作家の有栖川は、彼に誘われ、京都にある彼の家『夢守荘』を訪問する。その家には「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があり、その部屋にアリスが泊まった翌日、『夢守荘』のそばの『獏ハウス』で、右手首がない女性の変死体が発見される。
 『獏ハウス』というのは、以前、白布施のアシスタント・渡瀬が住んでいて、2年前、彼は心筋梗塞で亡くなったのだ。殺された女性は、渡瀬の親しい友人で、何か探し物をするために『獏ハウス』へ来たらしい。
 彼女は何を探していたのか? 果たしてそれが殺人の原因になっているのか? そもそも犯人はなぜ右手首を切り落とした?

 夜に落雷があって、大木が倒れ、通行止めになってしまったので、一種のクローズドサークル。もともと登場人物が少ない事もあり、犯人の見当はすぐつくが、どういった経緯でこうなるのか、それを推理するのが面白い。

 最初から、臨床犯罪学者・火村のフィールドワークの話でもちきりなので、ひょっとすると犯人は、犯罪を犯して火村を引っ張り出し、それを観察するのが目的なのかしら?とも思ったが、そうではないみたい。
 相変わらず火村は理屈っぽく、タバコが手放せない。ぼろぼろのベンツに乗っている。修理費用だってバカにならないだろうに。国産の新車に乗れ!!!


 小説内で、手首が切り取られ無くなっている事について、アリスが蘊蓄をたれている。ハンド・オブ・グローリー(栄光の手)。絞首刑になった罪人の手首を加工して燭台にする。家の前で、それに火を灯したら、その家の人は死んだように深い眠りに落ちるんだそうだ。

 小栗虫太郎『黒死館殺人事件』や『ハリー・ポッターと秘密の部屋』にも出てきたそうだ。私は両方とも読んだが、全く覚えていない。ホントに何を読んでも、すぐ忘れちゃうね。悲しいよ。

 でもまあ、ハンド・オブ・グローリー。死体愛好家がやりそうなことだね。ユダヤ人強制収容所でも、ガス室に送り込んだ若い女性の遺体から皮膚をはぎ取り、ランプシェードを作ったりしたらしい。人間ってのは、スゴイことやるね。
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