ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司 「鳥居の密室」 新潮社

2019-02-09 10:06:41 | 島田荘司
 1964年のクリスマスイブ、スクリュー錠とクレセント錠でしっかり戸締りされた密室に、殺人者とサンタだけが出入りした。サンタは、当時8歳の楓ちゃんの枕もとにプレゼントを届けるため、そして殺人者は楓ちゃんのお母さんを絞殺するため。

 その密室の謎を11年たってから、京大医学部に在籍している御手洗が解く。
 このトリックは秀逸。偶然が重なれば、こういった事が起きるかも…と思う。荒唐無稽ではない。
 
 ただ、これを読んで何か引っかかる。スッキリしない。ここに書かれている家族観のせいだと思う。

 楓ちゃんは1964年に8歳だったというと、1956年生まれ。つまり私より2歳年上なのだ。その当時、クリスマスプレゼントをもらえないって、そんなに悲劇的な事なんだろうか? 私事で恐縮だが、私は親にクリスマスプレゼントをもらった事ないし、そもそもサンタクロースなんて信じちゃいなかった。それって、そんなに悲しい事? お前の家が貧しかっただけだろ!と言われそうだが、私の周囲も似たようなものだったんじゃないかな? もちろん、素晴らしいプレゼントを貰った子もたくさんいるだろうが。

 楓ちゃんのお父さんの工場で働いていて、楓ちゃんのお母さんに好意を持っている国丸という25歳の青年がいた。プレゼントを貰えない楓ちゃんを可哀そうに思い、高島屋のおままごとセットを買って渡そうとする。
 この国丸君は、優しい青年だが、今の基準で考えると、身内でもないのに、あまりにも8歳の楓ちゃんの面倒をみすぎて、周囲から女児を好む性癖があると思われるよ。ちょっと気持ち悪い。
 楓ちゃんのお母さんは、仕事が上手く行かず金欠の亭主に愛想を尽かしていて、自分に好意を持ってくれている国丸と、ゆくゆくは一緒になりたいと思っている。たいして悪気があるわけじゃない。男好きで尻軽なだけだ。
 楓ちゃんのお父さんは、親から受け継いだ鋳物工場の経営が上手く行かず、借金が膨らんで自暴自棄になっている。
 こんな時、支えてくれるはずの女房・子どもは、国丸の方ばかり見て自分に関心を示さない。いずれは離婚を切り出され、女房や子供は国丸のもとに行くだろう。甲斐性がない自分が情けない。大酒を飲んで暴れる自分が悪い事は分かっている。でも…。

 このお父さんの立場とか気持ち、よく分かるなぁ。この話の中で、お父さんが一方的に悪者にされて、すごく可哀そう。

 国丸青年も、自分が楓ちゃんのお父さんを追い込んでいる事に気が付かないんだろうか? 楓ちゃんにも、もう少しお父さんの大変さを分かってあげてほしかった。
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島田荘司 「新しい15匹のネズミのフライ」

2016-10-07 09:57:04 | 島田荘司
 去年、話題になっていたので、私も読んでみる。なんせ筆者が島田荘司、そしてサブタイトルに「ジョン・H・ワトソンの冒険」と書かれてあるので、評判になるのは当然だろう。
 
 結局、こういう事が書いてある。
 ホームズが解決したはずの「赤毛組合」の事件は、まだ終わっておらず、黒幕は悠々自適なリッチ生活をおくっていた。ホームズの働きで、捕まえられ刑務所に入ったはずの悪人たちは「新しい15匹のネズミのフライ」という言葉を残して脱獄。
 肝心のホームズといえば、コカイン中毒で暴れまわったので精神病院へ押し込められて、まったく使い物にならず、ワトソン一人が孤軍奮闘する。

 前半、ホームズの推理の間違いを、ワトソンが心の中で指摘する場面には、私もそうそう、そういう可能性だってあるよねと喜んでいたが、後半、ホームズが入院し、主役が完全にワトソンになると、とたんに面白くなくなる。ワトソンの恋愛話や、ワトソン大活躍のアクションシーンなど、読みたい人がいるんだろうか?
 最後にちょろっとホームズが登場し、「新しい15匹のネズミのフライ」の謎を解いて、ベイカー街に戻る。コカインの成分は、まだ完全には抜けきっていないようだ。

 しっかしねぇ、他人の創作した超有名キャラクターを、ここまで勝手にぶち壊してもいいんだろうか? もし、誰かが、御手洗を狂人にして、石岡君を勝手に活躍させたら、島田荘司は大いに腹を立てるだろうに。

 でも、皆さん、安心してください。本当のホームズは(コナン・ドイルの書いたホームズは)コカインで廃人になどなっていません。老後は田舎に引っ込み、ミツバチを飼って養蜂家として暮らしています。もちろん、事件には遭遇しますが。

 この小説で唯一読みどころがあるとすれば、それは売れっ子作家と担当編集者の攻防だろうか? 筆者の島田荘司も経験しているだろうが、アイデアに詰まって書けなくなった小説家から、あの手この手を使って原稿を吐き出させようとする戦いは、あっぱれ!!! ホームズ物で人気が出てきたが書けなくなったワトソンから、担当は自分の子供まで使って泣き落としを図る。立派です。
 
 そして島田荘司。どうして最近の作品は、こんなページ数が多いの? 原稿料がたくさん入るから? ページ数と中身が合っているものを書いて欲しい。
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