ケイの読書日記

個人が書く書評

益田ミリ 「スナック キズツキ」 マガジンハウス

2022-06-26 09:58:57 | 益田ミリ
 このコミックが夜11時台のTVドラマ化されたって事は知っていた。へぇ、益田ミリ原作か、どんな話だろう…と思っていたのだ。先日、ブックオフをぶらぶらのぞいていたら、この「スナックキズツキ」を見つけ早速購入!

   傷ついた者しか たどりつけないスナックが 都会の路地裏にあるらしい

 そうなんだ。傷ついた人たちがこのスナックに吸い寄せられる。でも、ものすごーーーく傷ついたわけではない。アニメ会社や病院を放火した男たちみたいに、社会に復讐してやろうと攻撃的になっている訳でもない。ほんのちょっとした事、私って大切にされてない?私って少し損してる?私って都合のいいだけの人間?といった小さな不平不満が心の中に積もってしまって息苦しくなっている人たち。

 アダチさん、という女性が登場する。この人はデパ地下でお惣菜を売るお店に勤めている。色々細かい注文をつける客がいる。パックに詰めたサバの竜田揚げの身が欠けているからもっとキレイなのに入れ替えろと要求されて笑顔で対応。
 パート仲間の主婦は「子どもの塾の面談がある」「うちの子、バレエ教室に通い始めて」とか言って、シフトをかわってと要求してくるが笑顔でOK。
 売れ残ったお惣菜3パックを店長から2人で分けて持って帰っていいよと言われるが、そのパート仲間の主婦は子どもが好きだからとか言って全部自分で持ち帰ってしまう。その時もアダチさんは笑顔で「どうぞ」
 そのアダチさんが「スナックキズツキ」に吹き寄せられる。アダチさんは高校までピアノをやっていた。比較的いいとこのお嬢さん。だからか自己主張をするのが苦手。今まですっごく損をしてきた、小さい損が積み重なってすごく大きな損失になってると思う。それを取り戻したいのかな?コールセンターの苦情電話で不平不満を抑えられない。溢れ出すアダチさんの怒り。
 アダチさんは歌う。「こんな私じゃなかった。ちがうんだ。ちがうんだよ。本当は」ああ、アダチさん、切ないです。

 私、ブックオフで買った本は、次に行く時、売ること多いけど、この「スナックキズツキ」は手元に置いておきたいです。
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林真理子 「中島ハルコはまだ懲りていない!」 文藝春秋社

2022-06-22 14:54:46 | 林真理子
 「中島ハルコ」シリーズ第2弾。第1弾がとても面白かったので第2弾も読んでみる。中島ハルコは名古屋出身の53歳会社経営者。このシリーズの語り手のフードライター菊池いづみに「日本一厚かましい女社長」と呼ばれている。
 第1弾ではハルコの出身地・名古屋のお話も少しはあったが、今回は全く無し。ちょっと寂しいね。上流階級の縁談の話が多い。

 お見合いって絶滅したと思っていたけど、お金持ちや家柄がすごい家では、まだまだ多いらしい。そりゃそうだ。配偶者の実家に資産があったり、社会的地位が高かったりすれば、今後の自分の仕事に大きなプラスになるものね。
 ただ、男の方は、いくら良家のボンボンでも、大学のサークルで知り合ったり職場結婚したりと、良さそうな物件はどんどん売れていくのに、お金持ちの家に育った女の子は、自分より貧乏な人と結婚したがらず(当たり前か!)どうしても上流社会では女の子が余ってしまう傾向がある。

 でも庶民の間でも、年頃の娘や息子を持つ親の体感では、実数では男の方が多いけど、結婚したいと思っている人数でいけば、女の方が多いような気がするなぁ。
 ひと昔前まで、男は結婚しないと社会的に認められなくて出世しにくい傾向があった。そういった意識が薄くなり、結婚から自由になった気がする。もちろん経済的な問題で結婚を最初からあきらめている人もいるけど。
 それに対し、女の方は結婚で豊かになろうと考えているような。本人がというより親が。

 ああ、話が大幅に脱線してしまった。とにかく日本一あつかましいハルコがズバズバ言いたい事を言うので、結構面白いです。

 
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今村昌弘 「屍人荘の殺人」 東京創元社

2022-06-12 14:13:46 | その他
 数年前にすごく話題になっていたミステリ。2018年国内版「このミステリがすごい!」第1位受賞。なるほどね。
 クローズドサークルってのは一般的には、台風が来てペンションに通じる一本道が土砂崩れにより通行止めとか、海に浮かぶ小さな島にバカンスに来たが、船が流されてしまいorエンジンが故障して、小島に取り残される…といった状況を意味するが…。この「屍人荘の殺人」では、大勢のゾンビによってペンションが取り囲まれ、しかも電話や携帯がつながらないといった新しいタイプのクローズドサークルなのだ。
 えーーー!!なんて荒唐無稽な設定! さぞかしトリックもバカバカしいんだろうと思われたそこのアナタ! トリックはすごく緻密なんです。感心しました。

 ゾンビがなぜ大量発生したかというと、人為的なウイルステロ。自分の研究を人間で実験してみたいという研究者と、世の中をひっくり返したいというテロリストたちが合流し、ゾンビになるウイルスを人が密集しているロックフェスティバルでまき散らす。それどころか、自分自身にもウイルスを注射して自らゾンビとなり、他の人間を襲っている。

 色んなゾンビ映画で様々なゾンビが登場するが、ここに出てくるゾンビは吸血鬼タイプで、嚙まれるとアウト。体液で感染するらしい。空気感染はしない。もともと死んでいるので、1週間もすれば腐敗して動けなくなる。(夏場だと2、3日?)
 通報を受けた政府は、周辺を封鎖し、混乱がおきないよう情報統制する。だからペンションから外部へ電話が繋がらなかったり、スマホが圏外になっているのだ。
 中世ヨーロッパで、ペストが大流行している町を封鎖し、町に通じる道路に軍隊を配置し、町から人間が逃げ出さないようにして町を焼き払ったらしいが…それに近いんだろう。

 それにしても、ものすごい悪臭だろうね。でも嗅覚は慣れるのが早いというから、どうってことないかも。感染力が100%なんてウイルスあるんだろうか?ここのゾンビは、食料として人間を喰らう訳ではなく仲間を増やそうとして襲っているからタチが悪い。
 でもそうすると、世界中の人が全部ゾンビになってしまったら、結局ゾンビも絶えるしかないね。

 ゾンビが強烈すぎて、肝心のトリックの方に頭が回らない。でも、本当に精巧にできたトリックなのだ。ぜひご一読あれ!
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塩田武士 「罪の声」 講談社文庫

2022-06-04 16:11:15 | その他
 このブログを読んでくださってる皆様は「グリコ森永事件」を覚えていらっしゃるだろうか。この小説「罪の声」はその事件を下敷きにしている。1984年の事件だから、まだ生まれていない人も多いだろう。昭和の有名な未解決事件だ。

 私は当時20代半ばで、個人的にすごく忙しい時期だったし、お菓子を買うような年齢でもなかったので、ニュースで騒いでるなという印象だけで、しっかり新聞や週刊誌を読んだという記憶がない。
 ただ、大企業の社長が誘拐され、身代金が要求されたのが発端だったので驚いた。誘拐というのは、小さな子どもを標的にするものであって、成人男性を誘拐すると様々な事を記憶されて犯人にとって都合が悪いのだ。子どもを誘拐しても、後からぺらぺらと話されると自分たちが捕まってしまうので、誘拐した子どもを殺すケースがほとんど。
 でも、この事件では、社長は無事、解放された。

 その後、商品のお菓子に毒を入れると企業を脅して、企業からお金を脅し取ろうとした。実際、コンビニなどで毒入り菓子が見つかり、グリコ製品は店頭から撤去され、グリコは大打撃を受けた。犯人たちは、その他、数社を脅迫したことが分かっている。
 犯人たちは、表向きはお金を脅し取ることに失敗して、何も得ていない。でも、こういった計画的犯罪をやろうと思うと、準備のお金がものすごくいるんだ。犯人たちが何も得ず、あきらめるわけがない。この小説の中では、仕手筋がグリコの株を上げ下げして儲けたんじゃないかと書いている。

 それから、この「グリコ森永事件」で一番心に引っかかってるのが、場所の指定に子どもの声を使っているんだ。合成した音声でなく生の声。幼い男の子の声と若い女の子の声。なぜ? その声からアシがつくんじゃないの? もちろん犯人たちの身内だろうし、録音時には脅迫に使うなんて知らなかっただろうけど、ニュースで何度も自分の声が流れて、肝が冷えただろうね。人生終わったと絶望したんじゃないか。
 海外にいるのかな? 脅されてる? それとも殺されちゃったのかな?

 その子たちにも親がいるだろうに、よく我が子にやらせたよ。ボイスチェンジャーとか合成音を使ってやれよ。児童虐待だ!!!と当時は強く思ったね。
 生きていれば、今40歳過ぎ。50歳近いかもしれない。元気にしているだろうか?
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