ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介「歯車」

2012-01-31 15:06:01 | Weblog
 私の読んでいる夕刊に「主人公たちのカルテー精神科医が読む文学」という連載があり、その中で、この「歯車」が紹介されていた。

 たしか高校生の時、この「歯車」を読んだ事がある。その時の印象は…あまり覚えてないなぁ。これが36歳で自死した芥川の遺稿らしい。


 僕は、自分の視野のうちに、絶えず回っている半透明な歯車を見る。歯車は次第に数が増え、半ば僕の視野を塞いでしまう。が、それも長い事ではない。
 しばらく後に消えるが、今度は頭痛が始まる。
 眼科医からは、タバコを止めるように言われるが、タバコをすわなかった若い時も、その歯車は時々現われ、僕を苦しめていた。

 こういった症状を抱えながらも、僕は日常生活をおくっている。誰かが、僕を眠っているうちにそっと絞め殺してくれないかと、願いながら。



 この“僕”は芥川のことだろうけど、読んでいて気の毒になる。すべての事象に悪意を見出す。例えば、公園のブランコが揺れているのを見て絞首台を思い出したり、スリッパが片方しかないと不安になったり…。
 これでは神経がすり減るのは当然だよ。
 こういった神経過敏なところが、芥川の作品の質を高めているんだろうが、本人は苦しいだろう。

 病院に通院し、薬もちゃんと飲んでる。町で友達に会えば世間話はするし、歩いていれば崇拝者に声を掛けられる。(芥川には迷惑だろうが)
 お子さんは可愛いし、奥様は優しい。女給さん芸者さんにはモテるし、有名だから出版社に前借りできる。

 でも事態は悪くなる一方。
 しかし、これで良かったのかも。大正デモクラシーの時代でも、ここまで不安なんだもの。これから一気に軍国主義に傾斜していく世の中で生きる事は、本当に辛いだろう。
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東野圭吾「さいえんす?」

2012-01-26 10:53:11 | Weblog
 東野圭吾とは同年生まれ。それがどうした、と言われそうだが、東野が大学卒業後、愛知県の自動車部品メーカーに勤めていたそうなので、ひょっとしたら、どこかの就職説明会で会った事があるかもしれない、と勝手に親近感を持っている。

 このエッセイを書いた時は、2004年、46才の時。その時、独身だと書いてあるが、現在でも独身なんだろうか? 
 スポーツ好きで、背も高く、お金もいっぱい持っているので、いくらでも女が寄って来るだろうが、いろいろ難しいのだろう。
 そういえば島田荘司も、未だに独身?だよね。

 さて、このエッセイの内容だが、「科学技術はミステリを変えたか?」とか「原発についてのスタンス」とか、理系の立場で書かれているが、その手のものは面白みに欠ける。
 
 やっぱり、スポーツ関係のエッセイは数も多く熱心。特に野球が好きみたい。大阪出身だからね。
 そういえば、大学生の時はアーチェリー部だったようだ。高校生までならともかく、大学生になっても運動部(サークルではない)に入部したという事は、かなりのスポーツ好きと感心した。

 その東野圭吾が「本は誰が作っているのか」という読者へのお願いを最後に書いている。
 ブックオフや図書館を利用していては、出版社や作者には1円も入らない。文化が廃れてしまう。
 だから、ブックオフや図書館を利用せず、新刊をどんどん買って欲しい。という明確なメッセージは、よーーーーく理解できる。

 でも…私は5日に1冊のペースで読むが、そうすると月に6冊、ということは新刊を買えば1ヶ月1万円以上の出費になる。私には無理!!!
 それに、ブックオフがあるから、読んだら売るつもりで新刊をどんどん買うという人が相当数いると思う。
 私もお金があったら、そのパターンでいきたいな。図書館だと時間がかかるし、売らないと本で家が傾くよ。立派な書斎がある人は別だろうけど。
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谷口桂子「一寸先は光」

2012-01-21 13:34:20 | Weblog
 派遣切りにあい、彼にも振られ、家賃が払えなくなってアパートを追い出されたミサキは、途方にくれたが、高校時代の友人に助けられ、彼女が経営する遺品整理屋でアルバイトする事になる。

 ある日、49才で孤独死した女性の部屋を片付けながら、彼女の人生に思いを巡らせる。 かつては、キャビンアテンダントとして、颯爽と大空を飛び回り華々しく働いた彼女。
 CAをやめ、アメリカに留学、資格を取って愛人と共同で青山に事務所をかまえ、マスコミにも取り上げられ輝いていた彼女。

 その彼女が死んだというのに、誰一人駆けつける訳でもなく、お葬式すらあげなかったようだ。実家にさえ遺骨の引取りを拒否されたらしい。
 いったい、なぜ?

 ミサキは、彼女のために泣いてくれる人を探し始める。


 この主人公・ミサキがカラッとした性格に書かれているせいか、じめついた話にはなっていないが…これは、今、問題になっている無縁社会や孤独死を取り扱っている深刻な話ですね。

 一人暮らしをしている場合、職を失うとなかなか人とつながるのは難しい。友人もいるだろうが、子供の頃のように連れ立って遊ぶ事も少なくなるし、無職になると引け目を感じて連絡しづらい。

 実家も、親が元気なうちは気軽に帰省できるだろうけど、親が亡くなり兄夫婦(弟夫婦)の代になると、迷惑がられたり。
 分かるよ。その気持ち。お嫁さんの立場になれば、私でもそう思うかもしれない。

 だから、それに代わる縁を見つけるしかないんだろう。自分から踏み出して。






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篠田節子「廃院のミカエル」

2012-01-16 09:46:17 | Weblog
 仕事上のトラブルで日本を逃れ、レバノンからギリシャにやってきた美貴。
 ギリシャ人と結婚してこの地に来たが、夫が事故死して未亡人になった綾子。
 文化財保護の仕事をしていて、教会や修道院の壁画を修復するのが専門の吉園。

 この女2人男1人の日本人が、ギリシャの地で出会い、レンタカーを借りてギリシャの山中に一緒に出かけるが、目当ての村は廃村になっていた。
 がっかりして次の目的地に向かう途中、深い森の中で修道院を見つけるが、異様な静けさ。どうも廃院になっているようだ。
 その朽ちかけた修道院に足を踏み入れて以降、3人の身に、いや彼らに関わった人たちに次々と不可解な出来事が降りかかる。

 ホラー、というかオカルトですな。特に前半は状況がよく掴めないからすごく怖い。
 日本でも、無人になって久しく崩れかけたお寺など、不気味だが、木造の寺はすぐ朽ち果てるのに比べ、こっちの教会や修道院は石造りなので長持ちし、人が住めるような状態なので、よけい怖ろしい。

 今どき修道士になろうなんていう奇特な人はほとんどおらず、修道士全員が死に絶えてしまって、廃院になった所も多いらしい。
 そうなると、色んな怪談話がささやかれる。神聖な場所なのに、悪霊スポットみたいな話も出てくるだろう。

 こういった場所で心霊現象などに出くわしたら、お経を唱えても効果は無いんだろうか?
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群ようこ「れんげ荘」

2012-01-10 13:34:27 | Weblog
 先回が重たい内容だったので、今回は軽くサクサク読める本を、という事で、群ようこをチョイス!

 キョウコは、有名広告代理店で働く45歳のキャリアウーマン…といえばカッコいいが、取引先へのおべんちゃら、お愛想笑い、接待漬けの毎日に嫌気が差し、会社を早期退職。
 サッパリと無職になって、都内の古い木造アパート『れんげ荘』に引越し、月10万円で貯金を取り崩しながら生活する事になった。

 うーん、月に10万円か…トイレ・シャワー室共同の木造アパートの家賃は月3万円。ということは月7万円で生活しなくてはならない。
 春や秋だったら、水道・ガス・電気は基本料金ですむだろうが、冬の電気ストーブの電気代がバカにならないと思う。
 古い木造アパートだから、灯油ストーブは使用禁止らしい。

 服はOL時代のものがあるから買わない事にして、食費はいくら自炊でも2万円ぐらいするのでは?
 7万円の生活費というのは、本当にキビシイ! これだと病気になれないよ。
 そもそも、国民年金・国民健康保険は払わないと決心しなければ、生活できない。

 このキョウコさんは45歳で会社を辞めたが、80歳になるまでの35年間、月10万円で生活できるだけの貯金をしたらしい。
 つまり、10万円X12ヶ月X35年間=4200万円!!!

 えぇぇぇ…こんなに貯まるの?大手広告代理店(つまり電通みたいな会社)に、大学卒業後すぐ勤めて23年経つと…。もちろん実家から通う条件で。


 れんげ荘の他の住人の事とか、家の中でも野宿と変わらないボロアパートの話とか、色々面白い話が盛りだくさんに書かれているが、とにかく最初から最後まで、お金の事を考えさせられる小説でした。
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