ケイの読書日記

個人が書く書評

篠田真由美「玄い女神(くろいめがみ)」

2008-12-30 16:18:02 | Weblog
 実は、建築探偵・桜井京介の事は全く知らなかった。宮部みゆきが、有栖川有栖のミステリの解説を書いている中で、桜井京介を紹介していたので、どんなものかと早速読んでみる。

 10年前、旅先のインドで起こった不可解な密室殺人の謎を、その旅行に参加できなかった桜井京介が解くというストーリー。

 この名探偵役の桜井京介が超美形という、いかにも女性好みの設定。ガクトをイメージすればいいのかな? 顔はおっそろしいほどキレイだが、辛辣な毒舌家。
 それに、15歳の蒼というわけアリの男の子が助手として付いて来る。少女漫画っぽい。


 しかし、しかしですね。いったいナゼ、インドで密室殺人なんでしょうか? 世界で一番密室殺人が似合わない国ではないでしょうか?(たいした密室ではないけれど)
 それに、被害者も容疑者も嫌なヤツばっかり。特に、被害者は若い頃世界各地を放浪して有名だった一時期はあるにせよ、今では人生にくたびれ果てた中年男で、こんなのをカリスマ視して、シヴァ神の化身と神聖視するなんて恥ずかしい。

 だいたい、仏教も神道もほとんど知らないのに、異国の神にひれ伏すたぁ、一体どうゆう了見だよ、お前らは!!と喝を入れたくなるような、登場人物ばかりなのです。


 続けて他の桜井京介物を読んでみようとは…残念ながら思えない作品ですね。

 
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アガサ・クリスティ「三幕の殺人」

2008-12-25 11:15:35 | Weblog
 最初、登場人物の名前のところを見て、読んだ事があるかもと思ったが、どうも読んだ事はなかったみたい。しかし、映像で見た覚えはある。たぶん、テレビドラマだったと思う。

 つまり、それだけよく似た登場人物、よく似た舞台設定、よく似た物語展開だという事。クリスティお約束のミステリ。

 さまざまな難点があるにせよ、クリスティの作品は面白い。この小説の中にクリスティの男性観がレディ・メアリー・リットン・ゴアの言葉として述べられている。
 「女の直感について、色々書かれたり言われたりしていますけれどね、私はそのような物はないと思いますの。
 あの人は悪い人だ、などと言われると、より魅力を感じてしまうものなのですよ。自分の愛をもってすれば、男性を改心されられるなんて思ってしまいましてね。
 色々な事がわかるようになった時は遅すぎるのです。」

 本当に同感だ。それはクリスティ最初の夫アーチボルトとの結婚の失敗でつくづくわかるようになったんだろうか?
 こういったクリスティの男性観は作品中いたるところで出てくる。

 彼女はとても幸せな再婚をして、作家としても大成功を収めたのだが、それを先夫はどう見ていたんだろうか? なんせ多額のお金が手に入るはずだったのだ。アガサと離婚してもったいない事をしたな、と思わなかったんだろうか?
 なんせ女房の金を使う事に、これっぽっちも罪悪感を感じていないようだから。イギリスの男は。
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クリスティ原案「ブラックコーヒー小説版」

2008-12-20 18:30:05 | Weblog
 まだ読んでいないポアロ物がある、と飛びついたが、それもそのはず、これはアガサ・クリスティが戯曲として書いたものを、クリスティの研究家が小説化したらしい。
 だから、やっぱり少し違うなとは思うが、それでも十分クリスティらしさは出ている。
 これは推理がどうの、という小説ではなくて、ポアロ物を読みたい人にお勧め。

 有能な科学者、定職を持たずブラブラしていて親の財産を当てにしている息子、美しいがミステリアスなその妻、気はいいが外国人に対する偏見を持つ独身の妹、進歩的な事を口にするがお金が全くない姪、科学者の秘書、執事、外国人の客etc…クリスティの世界にいつも登場するキャラクターがずらり。

 ああ、これをお芝居で見たらさぞ楽しいだろう。そういえばいつから私は芝居を見なくなったんだろうか?

 (いつも思うんだが)世間体にこだわるあまり、毒殺されたとハッキリしている父親の死をうやむやにしようと思う子どもが、イギリスの推理小説に結構登場するような気がするが、それほど世間体が大事なんだろうか?
 犯人が特定されなければ、次に毒殺されるのは自分かもしれないのに。

 この小説版では、戯曲にない部分が加えられている。最初の章Ⅰの部分。ここでポアロはホワイトホール・マンションのこじんまりとした居心地の良い彼のフラットでブリオリッシュと熱いチョコレートの朝食をとっている。従僕のジョージに給仕してもらって。
 テーブルの上には郵便物。最近の日課は公園を散歩し、メイフェアをぶらぶら歩いてソーホーの行きつけのレストランに行って、一人でランチ…パテを少々、家庭料理風の舌平目にデザートといったメニュー。
 こういった事件に関係ないポワロの日常を読むのは本当に楽しい。
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法月綸太郎「雪密室」

2008-12-15 10:25:42 | Weblog
 内扉のサブタイトルー白い僧院はいかに改築されたか?-に惹かれて読む。カーター・ディクスンの『白い僧院の殺人』は有名だけど、たいした事なかったような印象かある。
 この法月綸太郎の『雪密室』の方が出来がいいんじゃないだろうか?

 恐喝が趣味のサディステックな女が、山荘に人を集めた。パーティがお開きになったその夜、女は殺される。
 建物の周囲は雪一色。そして彼女がいたはずの離れまで犯人らしい人物の足跡も無し。
 この雪密室の謎に、法月警視と息子倫太郎が挑戦する。

 トリックは単純だが優れている。有栖川有栖の「スウェーデン館の謎」でもそうだったが、変な器具を使うより、こういった心理的トリックのほうがよほど現実的。なるほど、これなら可能だ。


 この作品は名探偵・法月綸太郎の初登場作品らしい。そのせいか、推理部分と平行して法月家の家庭の事情がかなりつっこんで書かれてあって、読むのにちょっと心理的抵抗がある。
 
 しかし、クイーン親子と法月親子は似てますなぁ、というか似せてますなぁ。
 クイーン親子も異常に仲良しだが、法月親子もベタベタに仲が良い。成人した、しかもたっぷり収入がある男が、女手のない家の中で、オヤジと何つるんでるんだよ、と言いたくなる。(クイーン親子など、休暇を取って二人でドライブなんかに行っちゃってるんです!!)
 また、名探偵役は息子なのに、父親の方が魅力的なのも同じ。息子にガールフレンドが出来ても、父親の方に目移りしないか心配になるね。
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有栖川有栖「絶叫城殺人事件」

2008-12-10 11:13:09 | Weblog
 6編収められている。「月宮殿殺人事件」以外は、すべて傑作。どれが一番かといえば…「黒鳥亭殺人事件」も捨てがたいが、やはり表題作「絶叫城殺人事件」が一番だろうか。

 「絶叫城」は推理部分も面白いが、それ以上に、小説家・有栖川有栖の犯罪に対する考えがはっきり表現されていて興味深い。


 NIGHT PROWLER(夜うろつく者)と記された紙切れを口の中に押し込まれ次々殺害される若い女性。残酷な無差別殺人事件は、カルトなホラーゲームに影響された者の犯行か…?

 最後に火村が犯人を追いつめる。その時の犯人の言葉「ヴァーチャルな世界と…リアルな世界。その境目が判らなくなるっていうのが…どんな感じかと…」

 これに対して、キャラのアリスの口を借りて作家・有栖川有栖の感情が炸裂!!

…彼の答えは私が生涯で聞いた最高のジョークだった。あまりにも滑稽で笑い出さなかったのが不思議なくらいだ。「この事件はバーチャルな世界と現実の境界が見えなくなってしまった若者の犯行だ」とぬかしたのは誰だっけ?精神科医か、教育評論家か、社会学者か、小説家か? とにかく、そこのお前だよ、お前。
 ここに来て○○君のお話を謹聴しろ。お前の創った物語がこいつを生んだんだってよ。空っぽな心には、何でも入るらしいぞ…

 この部分だけでも一読の価値あり!
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