ケイの読書日記

個人が書く書評

エラリー・クイン 越前敏弥訳 「災厄の町」

2015-12-26 16:22:50 | Weblog
 国名シリーズのエラリー・クインを期待して読むと、裏切られるので要注意!! 国名シリーズの時の、あの初々しい、リチャード・クイン警視の秘蔵っ子エラリーは、どこに行ってしまったんだろう。この『災厄の町』に登場するエラリーは、ちゃらっちゃらのチャラ男です。婚約直前の恋人がいる女の子に、ちょっかいを出しまくってます。

 1940年、アメリカの片田舎でのんびりと執筆しようと、エラリーは偽名でこじんまりした家を借りる。家主さんは、町一番の名家で銀行の頭取のライト氏。
 実は、エラリーが借りた小さな家は、ライト氏の次女夫婦が住むはずだったが、結婚直前に花婿が失踪したため、空き家になっていたという、いわくつきの家だったのだ。
 ところが、失踪した花婿が戻って来て、仲直りした二人は結婚し、そのいわくつきの家に住むことになる。エラリーは、ライト氏の好意により、ライト邸の一室に移る。
 ハネムーンから帰ってきた新婚夫婦は、最初は仲睦まじかったが、だんだんケンカが多くなり、夫の姉が同居するようになると、最悪の雰囲気に…。
 そんななか、新年のパーティで毒殺事件が起こる。

 推理小説としては、本当に単純で分かりやすい。ほとんどの人が、犯人を分かったんじゃないかな? この作品の読みどころは、推理部分ではなく事件の背景。
 日本でもアメリカでも、こういった閉鎖的な田舎町の人間関係って、難しいだろうね。特に、名家とか旧家といわれる所ほど、そう。田舎町ならではの見栄の持ち主、噂のタネになるなんて耐えられない。そういった人たちにとって、この地元そのものが『災厄の町』なんだ。


 最初に、軍需で儲かっている話が出てきたので、朝鮮戦争か?と思っていたら、なんと第2次世界大戦。毒殺事件が起こるのが、1941年の元旦だから、この年の12月に真珠湾攻撃があって、開戦するわけだ。
 でも、作品中、ヒトラーを罵倒する言葉は出てくるが、日本を罵倒する言葉は出てこない。極東の島国など、眼中にないみたいね。

 とにかく豊か。作品中に、感謝祭やクリスマスのディナー、新年パーティの様子が書かれているけど、素晴らしいご馳走に、ふんだんにあるアルコール類、贈り物。もう、圧倒的な物量。こんな国と、よく戦争したねぇ。無謀です。
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武良布枝 「ゲゲゲの女房」

2015-12-22 16:49:24 | Weblog
 水木しげる、死んじゃったね。大往生だった。その影響でもないんだが、今更ながら、奥様が書いた、この本を読んでみる。

 NHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』は、毎回かかさず見ていて、そのイメージが強すぎたのかもしれない。
 昭和36年(1961)に結婚してから、週刊少年マガジンでブレイクするまでの数年間の貧乏暮らしが、あまりにもさらっと書いてあったので驚いた。ドラマでは、これでもかこれでもか、というくらい長く貧乏が続いて、いろんなエピソードが演じられていたのに。
 見ているこっちも、水木しげるが最終的には大成功を収めると知っていたから、ずっと見続けることができたが、あれが、本当に先の読めないリアルタイムの話だったら、気分が暗くなるので、見るのを止めていたかもしれない。

 貸本マンガの原稿を書き終え、体調の悪い水木のかわりに、女房が出版社に出向き、原稿を渡し稿料をもらおうとする。3万円の約束だが、社長は何やかやと言って1万5千円しか払おうとしない。
 出版社といっても、ボロボロの建物の1室にあり陰気で不衛生。すすめられたソファーは、壊れていてスプリングと綿が飛び出ている。まさに貧乏神の住処。そこで社長1人でやっている、名ばかりの会社。
 半額でOKという訳にはいかず、もっと払ってもらおうとするが、貧乏神の化身のような社長から鼻先であしらわれ…屈辱感でいっぱいの女房。そうだ、水木は、家族のため、こんな扱いにも耐え仕事をしてくれているんだ、と思わず涙ぐむ女房。

 それでも払ってくれるだけまだマシで、倒産してまったく稿料がもらえなかった事もあったそうだ。もう時代は貸本マンガなど全くの時代遅れ、大きな出版社が発行する週刊少年誌の時代になっていた。

 水木しげるは、マンガ週刊誌で生き残ることができ、後には大成した。
 水木の努力を知っている奥さんは「来るべき時が来た」と喜んでいらしたが、努力しても報われるとは限らないのが、世の中の常。ほとんどの貸本マンガ家は自然淘汰されたろうね。

 そういえば、『子連れ狼』の小島剛夕って貸本マンガ家出身だと聞いたことがある。絵柄がそんな感じ。だとすると、この人もキャリア長いなぁ。


 水木しげるは以前、雑誌の編集者に「奥さんは、どういう人ですか?」と尋ねられ、「『生まれてきたから生きている』というような人間です」と答えたそうです。なかなかの名台詞!禅の教えにも通じるものがあるみたい。
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東川篤哉 「私の嫌いな探偵」

2015-12-17 13:15:58 | Weblog
 東川篤哉は、毒舌探偵が主人公の『謎解きはディナーの後で』シリーズが有名だけど、この烏賊川市シリーズも、結構人気あるみたい。私は初めて読みます。
 烏賊川市(いかがわし)って変わった名前の市町村だなと思っていたが、これって、いかがわしいの言葉遊びなんだ。なるほど! この本は、シリーズ第6弾に当たるためか、ちょっとパワー不足。初期の作品だったら、もっと面白いかも。

 それでも、本格推理とお笑いを、うまく組み合わせようと努力している姿勢には敬意を表したい。
 しかし…そのお笑いの部分が、吉本新喜劇っぽくって、私にはあまり笑えない。もちろん、こういったベタな笑いが大好きっていう人も多いから、人気があるんだろうね。
 それに、登場人物の魅力が不足していると、感じられる。
 鵜飼杜夫探偵事務所の所長・鵜飼と、その弟子の戸村流平。そして探偵事務所が入っているビルのオーナー、うら若き乙女・二宮朱美。この3人の元に、いろんな依頼が舞い込んだり、彼らが事件に首を突っ込んだりして、話が展開していくのだが、どうもパッとしない。
 なぜだろう? この3人、まったくミステリアスな部分が無いんだよね。そそられるものがない。

 本格推理のトリックの方は、さすが東川篤哉。しっかりしています。
 「死に至る全力疾走の謎」「204号室は燃えているか?」などは、タネあかしをすれば、こっけいなトリックだが、可能性がないわけではない。

 「探偵が撮ってしまった画」は、教科書のような雪密室。「死者はため息を漏らさない」は、死因よりも、死者の口から吐き出された、黄色っぽい怪しげな煙のように宙を漂う物体の正体が謎のメイン。「烏賊神家の一族の殺人」は、ちょっと落ちる(失礼!)

 どうしようかな…。このシリーズ、初期の作品を読んでみようかな。
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益田ミリ 「どうしても嫌いな人」

2015-12-12 10:38:19 | Weblog
 ベストセラーマンガ『すーちゃん』シリーズ第4弾。 これ、柴咲コウ主演で映画化もされている。人気あるんだ。私は、第1作と第2作を読んではいたが、30代独身女性の生態がよく描かれていて面白いなぁと思いつつ、ブログにはUPしていない。
 でも、この第4作は、ぜひとも紹介しなくては、と強く思います。



 すーちゃんは、チェーン店のカフェで店長として働いている。正社員・年収320万円。趣味が料理なので、仕事は気に入っている。一番大変なのは、アルバイトの女の子たちを動かすこと。進んでテキパキやってくれる子もいるけど、そういう子ばかりじゃない。褒めること、叱ることにすごく神経を使う。
 そんななか、新卒正社員で、A子さんが配属されてきた。社長の姪らしく、なかなか強気。「おじさんに頼んで…」「おじさんに言えば…」を連発するので、最初はバイトの子たちから煙たがられていた。
 でも、A子さんは、なにせ年が近いので、一緒にカラオケに行ったり食事に行ったりして、バイトさんたちを自分の味方にする事に成功。
 店長であるすーちゃんに連絡せずに、勝手に勤務シフトを決めたり、自分の気に入った子を正社員にしようとする。

 A子さんは、なんといっても社長の姪なので、我慢してきたすーちゃんだが、転勤願を却下され、このまま勤めていたら精神的におかしくなってしまうと、店を辞めることを決意。あらゆる嘘をついて有休を消化しつつ、いくつかの会社の面接を受けに行き、新しい仕事を決めた。

 人によっては「社会人としてどうなの?」とか「どこの職場にもムカつく人っているよ」と正論をおっしゃるでしょうが…私は、すーちゃんのとった行動は正しいと思う。
 鬱病になりそうなほどガマンして、この先、良いことあるだろうか?
 A子さんが社長の姪である事実は変わらないし、マトモな人だったら、他の店で修業してから、おじさんのカフェチェーンで働くよ。最初から縁故採用なんて、どんだけ甘えた人間なんだ!!!
 いきなり店長であるすーちゃんが辞めたら、そりゃ店は困るだろうが、そこはチェーン店。他から引っ張ってくればいいし、本部もある。株式会社だよ。個人の店じゃないんだから。

 すーちゃんが最後に言う。「立つ鳥、跡を濁さずって言うけど、あたしゃ鳥じゃないし」  アハハ、思わず笑ってしまいました。そうだよ、私たち、鳥じゃない。だから、跡がクシャクシャになっても、逃げていいんだ。そんな、有終の美なんか、飾れないよ。
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三津田信三 「遊女の如き怨むもの」

2015-12-07 11:01:44 | Weblog
 刀城言耶シリーズ第8弾。遊女ではありません。幽女です。念のため。

 戦前、戦中、戦後にわたる三軒の遊郭で起きた3人の花魁が絡む、不可解な連続身投げ事件。自殺なのか事故死なのか、それとも他殺なのか。
 第1章は花魁の日記、第2章は遊郭の女将の日記、第3章は遊郭内での怪異を記した作家の原稿、そして第4章に、名探偵・刀城言耶の解釈、という構成になっている。その解釈が…どうも、いただけない。いくら作為をほどこしても、人の目は誤魔化せない。特に同性の目は。

 一応、遊郭内で非業の死をとげた花魁が、その恨みのため成仏できず、遊郭内をさまよう…というミステリ仕立てになってはいるが、花魁の生態があまりにも過酷なので、幽女なんていうお化けなんかどうでもよくなってしまう。
 だいたい、ほとんどの遊女の死にざまは悲惨なものなんじゃないの?

 無事、年季が明けて(借金を返し終えて)故郷に帰れる人など、ほんの少数。ましてや、店のお客さんに身請けされて、お妾や奥様になった人などめったにいない。(皆無ではないが)

 特に、遊女が妊娠してしまうことは地獄腹といって忌み嫌われたが、仕事内容を考えれば当たり前のことで、堕胎するのに大変な思いをしたらしい。ほおずき(鬼灯火)ってこんな使われ方をしたんだ。恐ろしいね。
 もちろん、失敗して死ぬ遊女だってたくさんいた。彼女らは、生前、どんな売れっ子で店に利益をもたらしたとしても、死んだらロクにお弔いもしてもらえず、投げ込み寺に放り込まれた。
 自殺を図ったが死にきれず、身体が不自由になった遊女は、また別のもっと料金の安い客層が悪い、ひどい所に売られたらしい。


 そうそう、花魁というと、江戸・吉原の最高級の遊女の名称だが、だんだん時代が下って、しかも吉原じゃなく地方の遊郭になると、すべての遊女に花魁をいう名称を使ったらしい。名前だけでも華やかにしないと、やっていられない仕事なんだろう。

 戦中の従軍慰安婦も出てくる。従軍慰安婦に志願すると、借金がチャラになったらしい。でも、お金の事だけじゃなく遊女なりにお国のために役立とうとした人も、多かったんじゃないかなあ。

 ミステリとしてはイマイチだが、遊郭の簡単な風俗史として読めば、面白いと思う。

 
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