ケイの読書日記

個人が書く書評

奥泉光「期末テストの怪」

2013-09-26 13:51:32 | Weblog
 「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」の続編。続編が出るなんて、この桑幸シリーズって、やっぱり人気あるんだ。面白いものね。

 定員割れが続き、あと数年で廃校になるだろうと噂される、たらちね国際大学(千葉県)。そこで、日本文学を教えるクワコーこと、桑潟幸一准教授。
 彼のダメダメぶりを、芥川賞作家・奥泉光が克明に描写する。
 クワコーの専門は太宰治らしいが、黒板に太宰の漢字が書けなかったこともあるほど、退化している。

 その彼が、試験の答案を紛失してしまい、困って、顧問をしている文芸部に2万円で答案の回収を依頼。文芸部は見事!回収に成功する。
 ここら辺は、首なし死体も、密室も、時刻表も出てこないが、立派な正統派推理小説。なんて言ったって、文芸部には、ジンジンこと、名探偵・神野仁美がいるのである。

 ただ、この神野仁美、影が薄い。前作ではそうでもなかったが、この続編では、他の文芸部の登場人物(ギャル早田、ナース山本、オッシー、ドラゴン藤井、木村部長、モンジ、その他大勢)に完全に食われてしまってる。
 彼女は、ホームレス女子大生で、大学の隣の森の中に、ブルーシートで家を作り住んでいるので、バイトに忙しく、あまり紙面に出てこないのだ。事件が起こると、事情を聴くだけでサッと解決! 一種の安楽椅子探偵ですね。


 ただ、この小説のミステリ比重はさほど高くなく、メインはクワコーのデタラメぶりや、文芸部員のキャラを愛でる事なので、ジンジンの名探偵ぶりにページ数をあまり使わないのは、仕方のない事だろう。


 しっかし、クワコーの担当する『日本文化の諸相(2)』の講義は、DVD『男はつらいよ』シリーズを見せる事らしい。確かに、フーテンの寅さんこそ、戦後昭和の日本文化を代表する人物だろうが、私大だもの、年間100万円の授業料を徴収しているんだから、もっとマジメにやれよ!!と言いたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奥田英朗「どちらとも言えません」

2013-09-21 14:36:55 | Weblog
 奥田英朗のエッセイは、以前にも読んだ事があるが、小説よりも面白い。このエッセイは、雑誌『Number』に連載されていたものらしい。
 だから、スポーツに特化されている。主に、野球・サッカー。

 この奥田英朗という人は1959年、岐阜市生まれ、中日ドラゴンズのファンらしいので、年代的にも、地理的にも、私と重なる部分がすごく多く、そうそう、そんな事あった!!と楽しく読めた。

 私は、野球もサッカーも詳しくないけど、一応、中日ドラゴンズは地元のチームなので、星野、高木守道、今中、立浪、落合+その奥さん、とかの名前は懐かしい。

 今、楽天で監督をやっている星野さんは、中日ドラゴンズでエースピッチャーだった人で、人気がすごくあった。男前だし、闘志を前面に出す人なのでスポーツ紙向きなのだろう。星野さんが中日スポーツの一面になると、売上部数が増えたと思うよ。 
 毎年Bクラスだった中日の監督に就任すると、すぐにAクラス入り、リーグ優勝へ。ナゴヤドームも、お客さんでいっぱいだった。
 その星野さんが、球団とケンカして他球団へ。(確か…阪神だったっけ)ショックだったなぁ。

 そのかわり、中日は落合監督を迎えることができたんだけどね。

 奥田英朗もそう思っているだろうけど、星野さんはすごく魅力的な人だが、アクが強すぎ。だから、自分とそりが合わない人は、どんどんトレードに出した。楽天から戻ってきて今年引退した山崎とか。

 それを考えると、落合さんは、いい監督だったなぁ。奥さんやお子さんが目立っていたにせよ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鮎川哲也「ペトロフ事件」

2013-09-16 10:44:36 | Weblog
 すっごく面白かった。
 昭和18年の満州を舞台とした、時刻表トリック小説。巻末に当時の満州鉄道の時刻表が、数ページにわたって載っているが、文字が小さすぎて、ルーペでもないと老眼の私には読めない。また、見る気もない。時刻表のトリックって嫌いなんだよね。

 でも、当時の満州の雰囲気がよく書き込まれていて、本当に読みごたえがあった。
 作者の鮎川哲也は、父親が満鉄の職員だったので、少年期~青年期を満州で過ごしたから書けたのだろう。

 満州と言っても、今の若い人にはピンと来ないだろうから、少し説明しておく。今の中国の東北部の事で19世紀の末頃には、弱体化していた清から、ロシアが租借地として分捕り開発、整備していった。
 そこを、日露戦争(1904-05)で勝った日本が、ロシアから分捕り進出していく。
 満州事変(1931)により、もと清の宣統帝であった溥儀を皇帝として建国。しかし日本の敗戦にともない、消滅した。

 この満州にいる金持ちの白系ロシア人が射殺され、3人の甥に容疑がかかるというストーリー。
 1917年にロシア革命が起こり、共産主義を嫌った大量のロシア人が、満州に逃げてきて住み着いた。ハルピンとか大連という大都市のロシア人街は、ロシア人であふれ、ロシア語・日本語・英語・中国語が飛び交い、真にエキゾチックな国際都市だったようだ。
 例えば、1938年の大連は、人口51万人余り、そのうち日本人は16万人弱だったらしい。


 もう一つ特筆すべきこと。
 この小説が書かれた昭和18年(1943)は、第二次世界大戦中で、南方では日本にとって戦局がどんどん不利になっていった時期だが、この満州では戦時色はほとんど出てこない。(大連が初めて空襲にあったのは、昭和19年7月らしい)
 抗日運動も全然出て来ず、中国人の裕福な農家が、とてもフレンドリーに、日本人の警部をもてなすし、職場では、日本人も中国人も仲良く一緒に働いている。(上司は日本人だろうが)
 これって実際そうだったんだろうか? それとも当時の支配者側の人間・鮎川哲也が、そう思いたかっただけなんだろうか? 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

角田光代「紙の月」

2013-09-10 13:36:49 | 角田光代
 大手銀行の契約社員・梨花が、お客のお金を横領して、うんと年下の若い男に貢ぐ話だが、この梨花という女性は、女子高時代「おろしたての石鹸のような美しさを持つ子」だったらしい。
 角田光代の書く女性は、いつも「ああ、いるなぁ、こういう人」とか「自分の中にも、そういう部分があるよね」と感じることが多かったので、感情移入しやすく読みやすかった。

 しかし、この「おろしたての石鹸のような美しさを持つ子」というのがイメージできなくて、この作品の最初の方は、読みづらかったね。
 だって、そんな女の子、私の周りにいなかったもの。異性から、そう思われていた女生徒はいただろうけど、同性から「おろしたての石鹸のような」と思われる人は…いないだろうなぁ。


 梨花に子どもはおらず、ダンナは上海に単身赴任中なので、横領したお金で、高級マンションを借り、高級車を買い、ホテルのスイートルームで連泊し、梨花は男とやりたい放題。
 でも、横領犯もラクではない。横領がバレないように1日の有給休暇も取らず、無遅刻・無欠勤で銀行に通う。
 預金通帳を偽造するため、カラーコピー機を買うが、たまに帰ってくるダンナに見つかると不審に思われるので、コピー機を置き偽造するためだけに、ワンルームマンションを借りる。 
 横領した金だけでは遊ぶ金が足らなくなり、サラ金にまで手を出すが、それを返済するため、また別のサラ金からお金を借りる。
 最後の方は、いくら客のお金を横領したのか、いくらサラ金から借りたのか、判らなくなる。というか、知ろうとしない。だって知っても返済できないんだもの。

 結局、梨花は一億円ほどのお金を横領し、発覚が避けられないと知ると、貢いだ男に「私の事は知らないと言いなさい」と伝え、海外に逃亡する。

 最大の被害者はダンナだよね。このダンナ、大人しくて無駄遣いしなくて、本当にいい人。でも、女房のおかげで、何もかも無くしちゃうよね。勤め先も、持ち家も、人間関係も。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有川浩「フリーター、家を買う」

2013-09-04 16:04:19 | Weblog
 TVドラマでやっていた事は知っていたが、見た事は無かった。内容は、タイトル通り(元)フリーター、家を買う。そのまま。

 一浪して、そこそこの私大へ行って、そこそこの会社へ就職した誠治。
 ところが、要領の悪いヤツというカテゴリーに分類された誠治は、3ヶ月でそこを辞めた。
 再就職しようとするが、うまくいかない。こづかいを稼ぐ必要があるためバイトをするが、そのバイト先すら転々としている。そのうち再就職の意欲も無くなり、自室でだらだら過ごすようになる。

 そうこうしていると、誠治の母が、とても困難な精神的な病気にかかっている事が発覚。
 結婚を機に家を出ている姉や、病気をなかなか認めようとしない父と一緒になって、母を守るため、定職に就くことを固く決心する。

 金を貯めようと、給料のいい夜間の土木工事のバイトに励む誠治。それを見ていた作業長が、誠治に正社員にならないかと声をかける。

 ここから誠治の状況は、とんとん拍子で上手くいく。ちょっとうまく行きすぎるんじゃない? と、読んでるこちらが気恥しくなるくらい。



 職場の人間関係が良好なのは大事だけど、ゼネコンの曾孫うけか…。なかなか難しいだろうね。親会社が、白を赤と言ったら、白は赤になっちゃうもの。曾孫請負会社にとっては。
 ピラミッドのようなガッチリした上下関係がある建設業界。
 でも、どの業界にも大変な事はある。天国なんてどこにも無い。
 規模の小さな会社だもの。現場や事務や経営や、色んな事をやらなければならない。若い誠治には、いい経験になるだろう。

フレー、フレー、誠治!!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする