ケイの読書日記

個人が書く書評

内館牧子「老害の人」講談社

2024-05-31 14:13:13 | 内館牧子
 あまり面白いとは思えない小説。いや、いろいろ気づかされる事は多いよ。だから、ハッとする文章に出会うとメモする。でも、私はこういう本を読みたくないな。

 いつも思うけど、内館牧子は家族や家庭を善意に捉えすぎだと思う。この小説では、零細企業の社長職を婿養子に譲り、悠々自適な生活を送る福太郎は、経営戦略室長として週に2度ほど出社して老害をまき散らしている。
 その老害が取引先にも及び、優良な顧客を一つ失ったので、反省せざるを得なくなった福太郎は、近所の同じ老害高齢者たちと一緒に、若鮎サロンという高齢者の居場所を作ろうと計画する。

 この福太郎の家庭が、すごく良い家庭なのだ。奥さんには先立たれているが、娘とその婿、そして出来のいい孫2人。福太郎の友人たちの家庭も夫婦仲は良いし、子どもや孫は良い子ばかり。え?!どこの国の話? 内館先生の周囲には、「引きこもり」とか「家庭内暴力」とか「高校をドロップアウトして無職でぶらぶら」とか、そういうケースってないんだろうか?
 前回読んだのが林真理子「小説8050」だからか、余計にそう思う。というか、内館先生が8050問題を書くなら、どう書くんだろう。興味あるなぁ。それほどまでに、この小説に出てくる若者の素行は良いのだ。年長者に敬意を払い、あいさつはきちんと、もちろんみんな仕事熱心。
 内館先生の中には、子どもや孫がいれば、素晴らしい老後が送れると信じていらっしゃるフシがある。孫に殴り殺される年寄りだっているのにね。そこを読みたいのに。

 悪口ばっかり書いて申し訳ない。心に刺さるフレーズも多々ある。「人は評価されないと、どんどん老ける」「役目が人を生かす」「仕事というものは抗うつ剤なのだ(中略)今、あなたの力が必要なんだ、という仕事は老人性うつを正面から叩き潰す。」

 さすが1948年生まれ。人生の先達のお言葉です。
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林真理子 「小説8050」 新潮社

2024-05-26 09:50:33 | 林真理子
 社会現象にもなっている「8050問題」を他人事だと考えている人は少ないと思う。それほどまでに、この中年引きこもり問題は世の中に広まっている。自分の家族、親せき、友人、近所の人の中に、当事者が必ずいる。

 「あのひと、そういえば弟さんがいらっしゃるはずだけど全く話題に出てこないわ。ご両親がこの前亡くなっているから、喪主は弟さんがやっただろうけど、お元気にしていらっしゃるかしら?」なんて思っていたら、その相手から「実は長年、弟がひきこもっていて親が元気な時はまだよかったんだけど、亡くなったら弟に関するすべての面倒ごとが自分に降りかかってきちゃって…」などと相談される。

 この小説の主人公一家も、父親は2代続いた歯医者、母親は専業主婦、姉は早稲田を出て一流企業に勤め、今度その同僚との結婚話が進んでいる。弟の翔太は20歳。中高一貫の進学校に入学したが、中2の時から引きこもり、いまだに暗闇の中にいる。
 親はイジメにあったのではないかと学校に相談するが、けんもほろろ、イジメはないの一点張り。親は、同じ小学校から進学した男子生徒に食い下がり、イジメの事実を把握。裁判で息子とともに闘おうとする。

 この、同じ小学校から進学し、今は別のクラスだが、翔太に対してひどいイジメが行われていた事を知っている男子生徒の発言が一般的な世間の考えなのかもしれない。
「14歳とか15歳とかだと、善悪の境目がぼやけているんです。彼らはおそらく、そんな悪いことをしていたなんて、これっっぽっちも思っていないはずです。」「自殺する子がいますよね。いじめられて。(中略)死んだ子は、自分をイジメた子たちはこのことで一生世間から責められ、罪人として一生過ごすに違いないって考えるはずです。でも違うんですよ。(中略)すぐ忘れます。そして学校を出て大人になって、イジメた子のことなんか、どっか遠くにいくんですよ。そして、のうのうと普通に生きていくんです」
 確かにその通りだ。彼の母親は、彼が翔太に対して行われているイジメを告発しようかと悩んだ時、高校進学に不利になるかもしれないから言うな!知らぬ存ぜぬで過ごせ!と諭した。とっても普通の感覚の人だ。だけど、自分の子どもや孫がイジメにあったら、同じ感覚でいられるだろうか。

 なんにせよ、人間が人間である限り、イジメは無くならない。いじめっ子に対する最大の復讐は、自分が幸せになる事だろう。

 
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桐野夏生「燕は戻ってこない」集英社

2024-05-11 17:27:54 | 桐野夏生
 NHKでドラマの予告編を見て興味を持った。東京で暮らす29歳の独身女性で地方出身の非正規労働者。彼女が困窮し、東京で「代理母」をやることになった経緯を書いてある。

 うーーーーん、後味の悪い話だなぁ。ほとんどの登場人物に良い感情を持てない。代理出産を頼む側の夫と妻、夫の母親、妻の友人、そして1000万円貰って引き受けることになったリキ。皆、勝手なことばかり考えていると思う。
 唯一、リキの友人テルには、少し親近感を感じている。テルは名古屋近郊の市に生まれ、貧しい家庭だったが奨学金を借りて地元の四大に進学している。しかし新卒で就職した会社で上司と上手くいかず、退職。心機一転、東京に出てきて頑張ろうとしたが、契約社員にしかなれず、生活はカツカツ。それどころか奨学金の返済があるので、風俗の仕事もしてダブルワークで働いているが、全く余裕はない。
 そのテルが、こんなに生活が厳しいのは、奨学金で大学に進学したせいだと愚痴る。テルの親が奨学金を借りる時、親の生活費も上乗せして600万円借り、その返済をテルはしているのだ。金利が安いから借りたんだろうが、この親も酷いよね。
 「大卒ったって地方の名もない大学じゃ、全然意味ないよ」とテルは言うが、本当にその通りだと思う。
 で、テルの選択は、東京での生活に見切りをつけ、地元に帰り、元カレと同棲を始める。私もそれが良いと思うよ。地元の名古屋は製造業が強いので、仕事はいっぱいある。東京に比べ家賃は安いし、実家が近ければなにかと助けてくれるだろう。

 一方、リキは東京で「代理母」になる事を決意する。リキの故郷は、北海道の北東部の過疎の町で、短大を出て実家近くの介護施設へ就職するも、仕事になじめず、なんとか200万円貯めて、それを持って上京した。素晴らしい出会いがあるような気がして。
 しかし29歳になった今、貯金はとっくに無くなり、仕事は続かず、出会った男はクズだ。金のない女には金のない男しか近づいてこないよ。
 でもねぇ、介護職だったら正社員になれるだろうし、昇給やボーナスがあるだろう。目標の仕事があるならともかく、無いなら、東京近郊で介護の仕事を探してみたら?

 リキの家は金持ちではないが、子どもに借金を背負わせるほどひどい親でもない。貯金はないが借金もない、それなら前は開けていると思うけどなぁ。
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