ケイの読書日記

個人が書く書評

山口正介 「江分利満家の崩壊」

2016-12-30 09:18:10 | その他
 筆者の山口正介氏は山口瞳のご長男。タイトルは、山口瞳の出世作「江分利満氏の優雅な生活」から取ったもの。
 山口瞳って、今の若い人は知らないかなぁ。もともとサントリーの宣伝部にいた人で「トリスを飲んでハワイへ行こう!」というキャッチコピーで有名になり、後に直木賞作家になった。私より少し年上の(たぶん、団塊の世代)おじさんたちがよく読んだと思う。昭和40年代~50年代に流行作家に。
 文壇とか文士とかいう言葉が、まだ実体を持っていた時代。売れっ子作家だったら、取り巻きを何人も連れて、銀座のバーをはしごするのが当たり前だった。


 この本は、その山口瞳の御子息・正介氏が、母親(つまり瞳の妻)のガンでなくなるまでのあれこれを綴った作品。著名作家が亡くなると、数年後、奥さんやお子さんが、いろいろ回顧録みたいなものを書くよね。それ。
 父親(山口瞳)は20年ほど前に亡くなり、その後、母一人子一人で暮らしていた。なにしろ、お金はたっぷりあるので、息子さんは物書きという事になっているが、あまり仕事に身が入らない。
 それに、お母さんが昔からパニック障害みたいな病気で、夫や子供がいないと、どこにも行けないような人だったらしい。
 だから、お父さんの死後、一人っ子である正介さんが、ずっと付き添っていた。

 このお母さんが、手間のかかる人なんだ。発作が起こると自分の事を「ハーコ、ハーコ」と呼んで(本名・治子)幼児化するし、夫が外国へ出張中には、眠れなくて、息子と実姉に手を握ってもらって、川の字に寝たらしい。
 憲法9条を堅持するという共産党を支持し、選挙では絶対に共産党に入れるが、自身の生活はすばらしく貴族的!!
 高級スーパー紀ノ国屋にタクシーで乗り付け、通常の食材(来客用ではない!)を買っている。すごいなぁ。そういう所は、自分で矛盾を感じないんだろうか?

 正介さんは、一度も結婚歴のない独身。そうだろうね。縁談があったとしても、片っ端から潰しちゃうだろうね。お母さん。すでに正介さん60歳。両親が共にガンで亡くなっているので、ご自分も心配だと思う。でも、正介さんはのんびりしているようだから、ガンとは無縁かもしれない。

 
 そうそう、一般的に、作家の葬式は、出版社が会計をし、受付などに人員配置してくれるらしい。本が売れなくなっている現在でもそうなんだろうか?
 正介さんは、お母さんの葬式も、馴染みの出版社にお願いしたみたいだ。
 でも、会計は出版社が持つとして、香典は遺族がもらうだろう。そうなると遺族丸儲け?! 下世話な話してすみません。



 明日は大晦日ですね。早いものです。皆さま、良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願いいたします。
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多和田葉子 「献灯使」「不死の島」「彼岸」

2016-12-26 10:18:23 | その他
 最近、こういったディストピア小説って流行しているんだろうか? ユートピアの反対ディストピア。2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故後の日本が、ディストピアになったという近未来小説。

 多和田葉子は、1960年東京生まれ。日本の大学を卒業後、ドイツに留学。定住し日本語・ドイツ語両方の言語で作品を書くようになる。
 だから、外から見た日本の危うさをテーマに、いろいろ書いてるみたいね。

 東日本大震災や福島原発事故後、もっともっと大きな地震や津波や原発事故が起こった。東京から京都の間は汚染がひどく、人間が住めなくなってしまう。東北や北海道、四国、九州、沖縄は、比較的安全なので、移り住みたいという人が多いが、北海道は移民(本当にそう書いてある!)は受け入れない方針だし、沖縄は農業従事者しか受け入れないという制約がある。
 それどころか、外国から「放射能汚染を拡散させるな!」と非難されたせいかは分からないが、日本は鎖国してしまう。

 「不死の島」という短編には、こういう場面がある。
 空港で日本のパスポートを出すと、相手の手が一瞬こわばり顔が引きつる。私は相手に抗議する。「これは、日本のパスポートですけど、私は30年前からドイツに住んでいて、あれ以来日本には行っていません。だからパスポートには放射能物質は付いていません」
 こうやってこの人は、差別される側から、差別する側に昇格する。この近未来小説の中では、「日本」というと差別されることになっている。

 「彼岸」という短編には、飛行機が原発に墜落するという大事故があり、日本は壊滅的な被害を受ける。大勢の日本人が難民となって海を渡り、中国やロシア、朝鮮半島(この短編では南北は統一されている)に渡るという設定になっている。
 中国やロシア、朝鮮半島の人々は、日本がかつて酷い事をしたのに、温かく迎えてくれたそうだ。
 とっても素敵な話だが、中国やロシア、朝鮮半島にも、どっさり原発はあり、飛行機はどこにでも飛んでいるのに…そこについては考えないんだろうか?この作者は?

 でも、この「彼岸」という短編には考えさせられた。そうか…自分が難民になったら…という想像をするのも価値あることかもしれない。
 しかし、自分の年齢的な制約もあるが、どこにいっても、厄介者扱いされるなら、自分が生まれ育った国で死にたいね。
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群ようこ 「かもめ食堂」

2016-12-20 10:42:19 | 群ようこ
 「かもめ食堂」っていうタイトルの、のんびりした映画があったなぁ私は見てないけど、などと思いつつ手に取ったら、びっくり! その映画の原作なんだ、この本は。

 サチエは、小さい頃から食堂を開きたいなぁと思っていた。宝くじで1億円当たり、東京ではなくフィンランドの首都ヘルシンキで店を開く。父親が合気道の道場を開いていて、そこにフィンランド青年が稽古に来たことがあり、フィンランドという国に好意を持っていたのだ。
 見知らぬ東洋人の女の子が(東洋人はうんと若く見える。サチエは38歳だが、15歳くらいに見えるらしい)店を開いても、地元の人は最初は遠巻きに眺めるだけで、誰も客として来ない。
 そこに、日本アニメが大好きというトンミ君が現れ、かもめ食堂お客の第1号となる。

 トンミ君は、良い所もあるし、役に立つこともあるが、ずーずーしいのだ! 無料のコーヒー1杯で何時間もねばり、時々そのコーヒーにお湯を足してもらって飲んでいる。すごい!! アンタ、店に客がいないの、分からない? 誰か友達連れて来いよ!

 そのかもめ食堂に、ひょんなことからミドリさんとマサコさんがお手伝いに来て、店は開店2か月で繁盛し始める。
 ミドリさんは、失業し親族にも冷たくされたので、頭にきて「国立ムーミンフィンランド専門学院へ留学する」と宣言し、日本を出国。(そんな名称の学校はありません) マサコさんは、お勤めせず両親の介護をしていたが、その両親が相次いで他界し、何をしていいか分からなくなる。そんな時、弟が事業に失敗し帰ってきたので、親と一緒に住んでいた家を追い出され、彼女も怒りに任せ出国。「エアーギター選手権」で印象に残っていたフィンランドにやって来た。

 このミドリさんやマサコさんの抱える問題は、現代日本の縮図みたいなもので、なかなか深刻な問題だが、そこは群ようこさん、くすっと笑える展開になっている。


 サチエが泥棒に襲われたりする場面もあるが、群ようこの小説のほとんどがそうなように、たいしたヤマ場もなく、まったりと話は終わる。明日はもっと良い日になるよねっていう期待を持たせて。

 それにしても、フィンランドって刺激が少なそう、そして寒そう!! 地球儀で見ると、北極の隣じゃん! いくら日本映画の舞台となった所でも、行ってみたいと思わないなぁ。申し訳ないけど。
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伊坂幸太郎 「死神の精度」

2016-12-15 09:58:19 | 伊坂幸太郎
 驚くべきことに、これが私の初・伊坂幸太郎作品。評判良いので、読みたいなぁとずっと思っていたが、どういう訳か未読だった。
 読み始めると…これがすごく面白い! 実家に行く地下鉄の中で読み始めたが、あまりに面白いので、行きについつい2駅、帰りに1駅乗り過ごした。本当の話です。

 6話の連作短編集。当然ながら、すべてに死神が出てくる。意外だが、死神は自殺や病死は管轄外らしい。事故死とか犯罪で死ぬのを担当しているようだ。これにはビックリ! 自殺は死神のせいだと思っていたのに。
 死神は、死神の上部組織から調査を依頼され、一週間前にターゲットに接触。2,3度話を聞き「可」もしくは「見送り」の報告をする。
 ターゲットがどういう経過で選ばれるのか、全くわからない。そもそも、何を基準に「可」or「見送り」を決めるのかも分からない。ほとんど「可」らしい。たまに、ターゲットの歌声を聴きたいという理由で、今回は「見送り」とする事もある。

 また、死神たちは皆、無類の音楽好きで、よくCDショップの視聴コーナーに入り浸っている。本作の主人公の死神など「人間の作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは、渋滞だ」という。音楽のジャンルは何でもいいらしい。

 このちょっとズレてる死神のキャラの魅力だけでなく、物語構成も本当に見事。一編一編のプロットに仕掛けがあって、ターゲットの謎にひきこまれる。それぞれの謎は最後に解き明かされてスッキリするが、第5作品「旅路で死神」では、その謎が解けてない。だからフラストレーション。作者の提示した色々な解答は、すべて違っているような気がするな。

 そうそう、作中に出てくる若い女の子(ターゲットではない)のセリフ「人間の作ったもので最悪なのは、戦争と除外品だ」には、思わず同意した!! 素敵だなぁと思っている服屋があって、バーゲンのはがきが来たので、いそいそと出掛け、30~50%オフか、これなら買えそうだと、あれこれ選び、これに決めた!とレジに持って行くと「これはセール除外品ですが、よろしいですか?」と店員さんが無情の宣告。がーーーーん! 早く言ってよ!
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群ようこ 「寄る年波には平泳ぎ」

2016-12-09 15:04:19 | Weblog
 2013年出版の比較的最近のエッセイ。
 群ようこのエッセイや小説が昔から好きだった。無印シリーズなど、読んではケタケタ笑っていたが、エッセイの方が断然面白かったな。エッセイには、群さんのお母さんや弟さんがよく登場し、私はまるで親戚みたいに、家庭の内情を把握していた。
 お母さんのキャラが強烈で、群さんが売れっ子小説家になって、ドンと印税が入るようになると、パッパと買い物して、その請求書をすべて群さんにまわした。このエッセイの中に「必需品ではなく、贅沢のために、彼女が家を含めて2億円近い金を遣ったのは間違いない」と書いてある。
 ちなみに、その豪邸には、お母さんと弟さんが暮らし、群さんは家の合鍵ももらってないそうだ。

 なんて親だ!! いくら今、売れっ子作家だったとしても、この先、何の保証もない仕事。結婚してないので、夫や子供に頼る訳にはいかない。だからせめて、お金だけは貯めておきなさいね、と娘に諭すのが母親だろうに。憤慨する。

 でもね、昔のエッセイの中では、収入の不安定な画家の夫と離婚し、群さんと弟さんの二人の子どもを育て、仕事は定年まで勤めあげた。洋裁や編み物が大好きで、器用に子供たちの服を作って着せ、動物も大好きで、小鳥や猫を何匹も飼い、植物の世話をするのも好きだった。立派な日本の母だったのだ。
 それがどうして、買い物依存症みたいになるのかなあ?
 お母さんは脳梗塞で倒れ、認知症の症状も出てきたので、お金は弟さんが管理し、お母さんは施設でお世話になっているそうだが「私がいない間に、私のお金を探し出して使い込んでいるに違いない」と疑っているそうだ。
 ああ、いやだいやだ。

 弟さんも弟さんなんだよなぁ。子供の頃は群さんとすごく仲が良く「おねえちゃん、おねえちゃん」と群さんの後をついてきた。一流大学を出て一流企業に勤め、収入は多いはずなのに、お姉さんの稼ぎをあてにする。弟さんも独身なので、給料まるっと自分で使えるのにね。

 結局、家族の中に一人、突出して収入が多い人がいると、そうなっちゃうのかなぁ。お母さんはデパートで、30分間に500万円つかったことがあるそうだ。
 デパートの店員さんに「まあ、奥様、お似合いです」「もちろん、一生モノでございますよ」「やはり、このぐらいの物をお召しにならないと」なんてセールストークに乗せられ、湯水のように娘のお金を遣っちゃうんだろうね。楽しいと思う。消費するって本当に楽しい。
コメント (2)
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