ケイの読書日記

個人が書く書評

佐野洋子「そうはいかない」

2014-09-27 13:21:07 | Weblog
 図書館の書架で、佐野洋子の本を見つけると、どうしても借りてしまう。この本はエッセイというより、雑文短編集だね。

 読んでいて、こんなお金大好き・男大好きの人が、よく絵本なんか描けるなぁと思うけど、『100万回生きた猫』『おじさんのかさ』『だってだってのおばあさん』なんて、絵本に興味のない私でも、好きです。
 絵本作家っていうと、赤毛のアンが大きくなったような、空想が大好きで「ごきげんよう」と挨拶して、霞を食べて生活しているような人を想像するが…それはこっちの思い込みだよね。
 絵本作家が、あまりに浮世の欲にまみれた文章などを書くと、こっちは混乱する。

 例えば、この短編集の中に『ポリバケツの男』という話がある。
 …そして、私は何もしないで、ちいさなバルコニーから海を見ています。エーゲ海だぞ。笑いが止まらない。誰にも言ってないけど、私の新しい絵本、あと10万部で『ノルウェイの森』に追いつくって。アッハハハ。桜ヶ丘の銀行に、毎日カタカタ、コンピュータが0を増やしているはずです。…(本文より抜粋)

 この話って、本当かなぁ?佐野洋子の絵本で一番売れたのは『100万回生きた猫』だろうけど、あと10万部で『ノルウェイの森』に追いつくなんて。いくらなんでも、そこまで絵本が売れるだろうか?
 確かに、絵本って単価が高いから、印税も多くなると思う。そりゃ、笑いが止まらないだろうよ。
 いいなぁ、才能のある人は!

 他にも、佐野洋子の武蔵野美大時代の話も出てくる。1934年生まれの佐野だから、学生時代といっても1952年~56年か…。日本全体が貧しい時代だったけど、美大というのはお金がすごくかかるから、金持ちの子弟子女が多い。宿題の作品を、大豪邸の友達の家の離れで制作して、食事は女中さんが鍋焼きうどんを運んできて…なんて記述があったなぁ。
 佐野洋子は、美大時代、たぶん突出して貧しかっただろうけど、突出して才能があった。すごいなぁ。
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角田光代「薄闇シルエット」

2014-09-22 14:49:23 | 角田光代
 友人と、古着屋を共同経営する37歳のハナは、恋人の「結婚してやる」みたいな言い方に腹を立て、別れる。
 次につきあった男とも上手くいかず、元恋人とヨリを戻そうとするが、「つきあっている女の子がいる」と断られ、激しく後悔する。

 古着屋の経営は順調だが、共同経営者のチサトは、もう一軒ブランド古着の店を出そうとし、そこは自分だけで経営するというので、ハナは内心面白くない。自分も何かやってみようと、古着を使った絵本が出来ないかと画策する。
 売れっ子デザイナーと組むことで、古着絵本は成功する。大喜びのハナ。だが、自分のアイデアだったはずなのに、いつのまにか古着絵本は、自分の手から離れ、売れっ子デザイナーのものに…。

 というストーリー。そこに、母の死、共同経営者の結婚、元カレの結婚などが、からんでくる。

 ストーリーはすごく面白い。(私、角田光代の小説で、つまらない本を読んだ事ない)ただ、読後感が、どうもスッキリしない。
 恋人とも別れ、共同経営者とも距離ができ、むなしい思いもするが、古着絵本が当たったので、これは女性のサクセスストーリーを書いてるのかと思ったが…。
 こういった、仕事上のつまずきって、よくある事で、それだけにリアリティがある。


 それにしても、このハナちゃんは、やりてのビジネスウーマンっていう訳じゃないのに(共同経営者のチサトが実権を握っている)生活が派手だなぁ。賃料が12万5千円のマンションに1人で住んでるし、元カレの結婚式に参加する時、服・バッグ・靴・アクセサリー一式で30万円以上つかった。
 それに外食が多いし、コンビニでビールやおつまみを、どんどんカゴに入れるし、食費がすごいことになっているんじゃないか?(彼女の母親でもないのに、私も細かい!)
 古着屋って、そんなに儲かるものなの?

 ロンドンの古着屋から仕入れるらしいが、同業者も多いし、なんといってもセンスがモノをいう世界。トシをとると、若い顧客の好みと、合わなくなるんじゃ…。
 若くして成功するより、成功し続けることの方が、うんと難しいんだろうね。
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藤井信行「ヨーロッパの古城と宮殿」

2014-09-16 14:29:46 | Weblog
 新人物往来社・ビジュアル選書ということで、ヨーロッパの76の古城や宮殿の外観・内装・立地風景・城主の写真などが載っていて、素晴らしく美しい。
 ルーヴル宮殿(今は世界屈指の美術館) ヴェルサイユ宮殿(マリー・アントワネットで有名) ノイシュヴァンシュタイン城(シンデレラ城のモデル) ユッセ城(眠れる森の美女の城のモデル)などなど、超有名な城ばかり。

 でも、一番印象的なのは…なんといっても、ロンドン塔。塔と言っても、がっちりした城塞。かっては多くの貴族・王族たちが、権力争いに負け、幽閉・拷問・処刑された。

 有名なのはリチャード3世によって殺されたとされる、正当な王位継承権を持つ甥2人。
 もっと有名なのは、ヘンリー8世の2度目の妻アン・ブーリンと、5度目の妻キャサリン・ハワードが、姦通罪で斬首された話。
 ほら、1番目の妻をなんとかお払い箱にして、アンを2番目の妻にしたかったヘンリー8世だが、ローマ教皇の許しが得られなかったので、カソリックを離脱し、イギリス国教会を作って離婚したでしょ?
 アンの娘(後のエリザベス1世)も、一時期、ロンドン塔に幽閉されていたんだってね。

 このロンドン塔は、イギリスの推理小説によく出てくる。霧のロンドンと、陰気ないわくつきのロンドン塔は、絶好の組み合わせかも。



 他にも『お城豆知識』みたいなコーナーがあって、城攻め用の投石器の写真も載っていた。確かに、大砲が登場するまで投石器が一番の兵器だったろう。
 投げるのは石だけでなく、昼の戦闘で打ち取った敵兵の首を、夜に投げ込む事もあったらしい。もっと気色悪いのは、場内で疫病が流行することを目的として、腐乱した動物の死体などを、投げ込んでもいたらしい。
 一種の細菌兵器ですね。人間の考える事は、今も昔も、さほど変わらないようです。
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貴志祐介「黒い家」

2014-09-11 10:38:13 | Weblog
 怖い。本当に怖い。3/4ほど読んだところで、あまりに怖いのでストップ。それ以上、先を読めない。読んでいる最中も、「早く警察に電話して、現行犯逮捕してもらうんだ!」「なぜ、防犯カメラを自宅に付けない?」「今だ!自転車を隠して、帰れないようにするんだ!」などと、力が入りすぎ、肩がこる。

 映画化もされているし、日本ホラー小説大賞をとった本なので、ストーリーはだいたい知っていた。それでも、先に進めない。仕方ないので、ラストを読んで、悪者が成敗されるのを確認してから、再び読み始めた。それほど怖い。


 保険金目当てに親族を殺していく鬼畜の話。高額の保険金をかけて、女房が亭主を殺す話は(亭主が女房を殺す話も)割とあるが、実子を殺す話は…あまり聞かない。ある事はあると思うよ。
 クモやカマキリの中には、交尾の最中にメスがオスを食べるという種がある事は知っているが、腹が減ると、自分の卵や子どもをバリバリと食べる種もあるんだろうか?

 だいたい、幼児や小学生に、どうしてそんな高額な死亡保険を掛けるの? 掛け金だって大変なのに。医療保険なら、まだ分かるけど。その時点で、保険会社も、おかしいと思わなければ。


 実際、こういう事件が起こったら、どうなるんだろうか? 小学生の男の子が首つり自殺したらニュースになる。そのニュースを見た人が、そういえばこの人、前の結婚でも、お子さん、死んだんじゃあ…? という話が出てくるのではないか?
 なにせ、本名で生活しているんだもの。そうだよね。保険金もらおうとしてるんだ。偽名は使えないでしょ?


 話は変わるが、日本って交通事故死の6倍の人が、自殺で死んでいるんだってね。びっくりした。自殺って、すごく一般的な死因なんだ。
 でも、先日読んだ、佐野洋子のエッセイの中にも、「うつ病で本当に苦しくて自殺したかったけど、息子の事を考え、踏みとどまった。彼を、自殺した親の子どもにしたくなかった」という意味の事を書いてあった。
 交通事故死だったら同情されるが、自殺だと偏見の目で見られるかもね。 なんとか、生きる道を探ってほしいです。
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岸本葉子「カートに入れる?」

2014-09-06 10:05:24 | Weblog
 『小説推理』に連載中の、お買いものエッセイ第3弾。岸本さんが実際に買って、使ってみての感想で、なかなか有意義な内容。自分が購入する時、大いに参考にしたい。
 特に、衣料品とか美容に関する記述は、同世代だからか(岸本さん1961年生まれ)すごく興味あります。


 例えば、『アウトレット』の話が面白い。「そこは、お金を落とさないでは人を帰さぬ迷宮」と書いてある。
 締まり屋の岸本さんは、3つの店だけに狙いを定めて、JRとバスを乗り継ぎ、昼食代を節約するため、おにぎり持参で出陣するが…到着から30分かそこいらで5万円使ってしまう。
 長居しては、どれだけむしりとられるか分からないと、1時間で帰途につく。
 基本的には、デパートのセールで用は足りるというのが、彼女の結論。


 私は、アウトレットモールに行った事はないけど、買い物に行くというより、一種のテーマパークに行くつもりなら楽しいんじゃないかな?
 デパートのセールでも、アウトレットでも、そんなに安くはないよ。私が安価で気に入ってるのは、リサイクルショップの中古衣料。
 ブックオフなども、古本の他に中古衣料を取り扱っているけど、名古屋近辺では、米兵(コメヒョー)というリサイクルショップ店の中古衣料が、質・量とも充実している。もともとは、ブランドバッグや時計・貴金属のリサイクルショップだった。

 値段の安さももちろんだが、一番気に入ってるのは、店員さんが寄ってこないこと。
 ほら、デパートやモールで、マネキンさんが着ている服を見てると、店員さんが寄って来て「これはとっても人気のある商品で、もうこれ1枚だけなんですよ」なんて、セールストークをしてくるじゃない? あれが一切ナシ!
 商品に、万引き防止用のタグがついているから…かもね。

 とにかく、何時間でも、買おうかどうか迷う事が出来る。

 中古衣料なんて、他人が来た服を着るのは気持ち悪い、という人は無理でしょうが、気にならない人にはオススメです。時々、全く袖を通してないブランド服もあります。もともとの値札が付いてます。セールストークに負けて買ったはいいが、結局着なかったのでしょう。
コメント (2)
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