ケイの読書日記

個人が書く書評

絲山秋子「沖で待つ」

2009-03-30 11:34:54 | Weblog
 2006年第134回芥川賞作品。同期入社した同僚との男女間の友情を書いている。とても話題になった作品。

 女性で、ここまで会社に帰属意識を持っている人は珍しいんじゃないだろうか?いくら「転勤OK・男と対等に働く女性総合職」といっても…ね。
 まあ、この主人公の場合、午前様で帰宅するのは当たり前のべらぼうに忙しい職場なので、学生時代の友人や恋人とだんだん疎遠になっていくのは仕方がない。
 それに代わって同僚とのつきあいが大きなウエイトを占めるようになる。
 とくに彼女は結婚していないので、なおさらだ。
 子供でもいれば、プライベートと仕事をしっかり区別するようになるだろうけど。


 それにしても、この女性の同僚の『太っちゃん』と呼ばれる男性、驚くほど良い家庭人だね。結婚して子どもも生まれ何年もたつのに、自分の妻にラブレターめいた詩を残すオトコっているんだろうか? 
 少なくとも私の周りにはいない。


 しっかし、この作品って過労死推奨小説?ってイヤミを言いたくなるほど長時間労働を肯定的に書いているね。
 1日24時間のうち、20時間働いてどうするの?
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有栖川有栖「ジュリエットの悲鳴」

2009-03-25 10:23:35 | Weblog
 有栖川有栖、初期の短篇集。シリーズキャラクターが登場しない。タイトルに惹かれ借りてみた。
 で、さっそく表題作の『ジュリエットの悲鳴』から読んでみたが…かなり微妙。本格物を期待している人はがっかりするかも。

 私も、表題作からしてこれじゃ他の作品も期待できないな…なんて思っていたが他の作品も本格物ではないが、なかなか面白い。


 特にコメディタッチの『登竜門が多すぎる』には笑った。そうだよね。今の日本で推理小説の創作をしている人は何人ぐらいいるんだろう。実際に応募しなくても書いてみたいと思っている潜在人数はかなりの数かも。
 こういったソフトがあれば買って、推理作家の雰囲気を味わってみたい、という人は相当な人数だろう。

 なんせ、この『登竜門が多すぎる』は、あの宮部みゆきから「面白かった」というハガキが有栖川に届くほど秀作なのだ。あはは…。


 そうそう、有栖川の作品ってどうして不倫する人妻がたくさん登場するんだろう。不倫する亭主はあまり出てこないのに。8編のなかで3編もあった。
 奥さんに何かコンプレックスでもあるんだろうか?
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群ようこ「働く女」

2009-03-20 12:47:42 | Weblog
 さまざまな業種につく働く女・10人の物語だが、これはインタビュールポルタージュではない。10篇の短篇小説集。
 その中の7話『けっきょくマジメは損をする? エステティシャン・タマエの場合』が一番印象に残った。

 手抜きの出来ない損な性分でボロボロになっても働くタマエ。モデルがあるかどうかわからないが、こういう性分の人っている。
 一種のワーカーホリック、仕事依存症なんだよね。

 自分で開業しているわけじゃない。ドクターストップがかかったら、すぐ事情を会社に話し仕事をセーブすればいいのに、それをしない。
 評判の悪い人だったらクビになるかもしれないが、一番の売れっ子でマジメにやって腰を痛めたことが会社にも分かるだろうと思う。
 分からなかったらビシッと退社すればいいのだ。
 健康を犠牲にしてまでやらなければならない仕事などない。このままいったら取り返しがつかない事になりそう。
 架空の人間なのに、ついつい肩入れしてしまう。

 ほどほどにやればいい、というのは決して悪いことではない。ある意味、真実。
自分を守り、そして周囲を守る。


 以前読んだノンフィクション作家のルポに、会社に泊まり込む百合子さんという女性の話が載っていた。
 27歳で結婚し寿退社したが、子どもが出来なかったので再び人材教育コンサルタント会社に入社。サービス残業も喜んでこなしていたが、それがもとで離婚。ますます仕事にのめりこみ、ついに会社に寝泊りし24時間勤務状態になる。
 どうみても社長に利用されているだけと思うが、本人は「会社に私が必要なのと同じように、私にも会社が必要。仕事が生きがい」と確信している。
 本当に立派な会社依存症。

 でも、その会社が倒産したら、自分より有能な人が入社してきたら、病気になって出社できなくなったら…会社以外にもう1本精神的柱を作っておかないと、とても危険ではないか…と他人事ながら思う。
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町沢静夫 「なぜ『いい人』は心を病むのか」

2009-03-15 17:53:57 | Weblog
 この町沢先生も、とても有名な精神科医。以前あった西鉄バスハイジャック事件の母親が相談していた先も、この町沢先生じゃなかった?

 こういった本を読むと、症例の所は興味があるのでしっかり読むが、学術的な所になると読み飛ばしてしまうことがよくある。(香山リカの本などそう)しかしこれは比較的きちんと読んだ。
 特に岸本葉子さんが自分の本の中で紹介していた『森田療法』これはなかなか共感できる。「日常の持つ重み」…いい言葉です。

 この本の中で印象に残った箇所を抜き書いてみる。


 衝突やケガのない人生というのは、人間のスケールを小さくしてしまいます。いつも相手の言葉や顔色をうかがいながら行動したり発言したりするわけですから、周りから見れば邪魔にならない「いい人」かもしれませんが、本人は小さくこじんまりとまとまらざるを得ない、ということになってしまいます。

 しかし、それは本人が外に向かった時の話です。逆にカメラをその人の心の内側に向けたとき、実はその幻想の世界では「本当の自分はすごいんだ」という自己愛が渦巻いているのです。

 現実の中では自分はちっぽけな存在でしかない、ということは十分自覚しているのですが、幼い時から母親によって与えられた自己幻想「おまえはすごい能力を持っているんだよ。特別な子なんだよ」というメッセージが心の中にしっかり残っています。


 とっても耳の痛いお言葉だが、この「自分は特別な子」という自己愛がなければ、どんな物語も成立しないよね。
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山田風太郎「戦中派復興日記(昭和26年~27年)

2009-03-10 13:44:29 | Weblog
 高木彬光は女の敵である。もちろん風太郎がそんなことを書いている訳ではない。私が勝手に憤慨しているだけ。

 彬光が親戚の女性といい仲になりながら、自分は既婚者なので責任は持てず、ささっと逃げ出して病院の中でほとぼりの醒めるのを待つという姑息な行動が風太郎の26年の日記の中に書かれてある。

 考えてみるに、この当時の若い女性は結婚の対象となるはずの30歳前後の男(おもに大正生まれ)が数多く戦死していて未婚者が多いのだ。
 かといって女性が正社員となって一生働く事が出来る職業も少なかった。

 だから高木彬光のようなブ男でもモテたんだ。一種の青髭状態。

 しっかし彼女のその後の人生を考えると気の毒。良家のお嬢さんだろうに。
 彬光はお金はたくさん持ってるはずだから、彼女にきちんと金銭的な償いをしたんだろう。


 それにしても、この当時の小説家や編集者は毎日飲み歩いていますなぁ。週に何回酔いつぶれ前後不覚になっているんだろう。これでよく小説が量産できるなぁ。感心してしまう。
 酒が強いのが男の美徳という時代だったんだね。


 そうそう、もう一つ驚くべきことが!!
 昭和26年8月9日の日記に「終戦後最高の暑さは昭和22年8月8日の36度」と書かれてあって、驚愕しました。
 36度ぽっちで最高気温とはシンジラレナイ!昔は涼しかったんだ。クーラーが無いからヒートアイランド現象が起こらないんだ。
 
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