ケイの読書日記

個人が書く書評

鮎川哲也「五つの時計」

2009-10-31 12:08:40 | Weblog
 これは久々の大ヒット。すごく面白い!!
 鮎川哲也は、代表作の『黒いトランク』を読んだが、複雑すぎて私の頭のキャパシティを超えてしまっていた。後期の軽い短篇も読んだがイマイチだったなぁ。
 そうそう、『りら荘殺人事件』は名作です。

 しかし、この『五つの時計』の中に収められている作品は皆、昭和33年から35年に(当時、探偵小説専門だった)「宝石」に掲載されたもので、まさに鮎川哲也の全盛期の作品だと思う。

 みな粒揃いだが、その中でも表題作の『五つの時計』『道化師の檻』『薔薇荘殺人事件』が特にいい。

 『五つの時計』は一つ一つはさほどでもない時計のトリックが5件も絡み合っていて、犯人の鉄壁のアリバイを崩せない。

 『道化師の檻』は、時間差のトリックが見事!出口入口に人目のあるトンネルの中で道化師は消失してしまうが、それは犯人が意図しなかった事。
 偶然に起こった交通事故さえ無かったら、完全犯罪だったよね。

 『薔薇荘殺人事件』は、本格推理小説のお手本みたいな作品。論理的な頭脳の持ち主だったら、必ず犯人は特定できるようになっている。(私はサッパリ判らなかったが)
 是非一度ご賞味あれ!
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「金田一耕助に捧ぐ九の狂想曲」

2009-10-26 10:37:29 | Weblog
 「横溝正史生誕百年記念」として出版されたらしい。

 京極夏彦     『無題』
 有栖川有栖    『キンダイチ先生の推理』
 小川勝己     『愛の遠近法的倒錯』
 北森鴻      『ナマ猫邸事件』
 栗本薫      『月光座ー金田一耕助へのオマージュ』
 柴田よしき    『烏辺野の午後』
 菅浩江      『雪花 散り花』
 服部まゆみ    『松竹梅』
 赤川次郎     『闇夜にカラスが散歩する』

 北森鴻の『ナマ猫邸事件』はパロディと言うかコメディタッチで面白かったね。あと、有栖川有栖の『キンダイチ先生の推理』は短篇だけど、さすがと思わせる作品。

 ミュージシャンがぶらぶら歩いていて、突然近くの電話ボックスに飛び込む。すぐにダイヤルして一方的に喋る。一分と続かないその電話を3回続けて、うっすら笑みを浮かべボックスを出る。
 彼は一体どこへ電話をかけ、何を喋っていたんだろう。この解答が知りたい人は、どうぞ本を読んでください。

 他の作品は、金田一耕助に捧げたにしては出来が…うーんイマイチ。

 それより、好きな横溝作品を皆が各々選んでいるのだが、有栖川と赤川次郎が『獄門島』を選んでいる。なるほど。私も読んだ事あるが30年以上前のことだからなぁ。忘れちゃった。
 『獄門島』は名作との誉れが高いので、もう一度読んでみよう。
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有栖川有栖ほか7人「大密室」

2009-10-21 09:32:30 | Weblog
 前回読んだ『気分は名探偵』というアンソロジーがとても面白かったので、二匹目のドジョウを狙って、密室をテーマにした8人の作家のこのアンソロジーを借りてくる。

 結論から言うと、二匹目のドジョウはいなかった。残念。

 一番良かったのが、有栖川の『壺中庵殺人事件』。法月綸太郎の『使用中』も正統派の密室物ではないが、変わった切り口で面白い。
 あとは…北森鴻の『不帰屋(かえらずのや)』が、まあまあかな。
 それ以外は、お奨めしません。

 特に、貫井徳郎『ミハスの落日』はヒドい。ヨーロッパテイストで誤魔化そうとしているが、誤魔化し切れないよ。自分でも不出来だと思ったんだろう、エッセイには「密室は遠きにありて思うもの」(つまり自分で書くものではない)といった意味の事を書いている。


 密室って書くのは難しいだろう。密室の大御所のカーだって秀作は少ない。
 だから、なおさら有栖川有栖は光ります。彼の作品って駄作はあまりない。『ペルシャ猫の謎』はヒドかったけど。
 皆、それなりの水準を保っています。

 実は今ひとつ、密室のアイデアが頭の中にある。完全オリジナルではなくて、以前に法月綸太郎の作品を読んでいて、そのトリックの変形が頭に浮かんだ。
 でも、自分では新しいトリックのつもりでも、もうすでに誰かが書いているかもね。
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唯川恵「永遠の途中」

2009-10-16 14:28:00 | Weblog
 広告代理店に勤務する薫と乃梨子は同期入社。仲は良いが、どちらも同僚の郁夫に惹かれていた。
 しかし、ささやかな駆け引きの後に、薫が郁夫と結婚して主婦に。乃梨子は独身でキャリアを積み続ける。

 唯川恵、お得意の「対照的な人生を歩みつつも、相手の生き方を羨んでしまう女達」がテーマ。
 彼女はこのテーマでよく書くが、どれも揺れる女の心をリアルに書けていてとても面白い。以前このブログで紹介した『病む月』という短篇集の中の『過去が届く午後』というホラーチックな作品も、このテーマだったしね。

 作者の唯川恵自身が、直木賞作家として成功しても、(あの地方銀行のOLだった時代に、あの人と結婚していたら…)といった気持ちになる事が時々あるんじゃないだろうか?
 唯川恵は小説家になる事を熱望していたわけではない。金沢という保守的な土地で、フツーの女の幸せを求め、懸命にもがいていたら、いつの間にか小説家として大きな賞を貰っていた、という所ではないだろうか?

 だからこそ、彼女の書く女性はリアル。心の揺れは読者の心を掴む。
 結局、読者は気付く。
  
 自分以外の人生は生きられない。

 この小説の最後で、60歳になった乃梨子と薫が小料理屋で冷酒を酌みかわす場面が出てくる。
 いいなぁ。60歳になってもサシで飲める同性の友達がいれば、それこそ生きていた価値はあると思うね。
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香山リカ「しがみつかない生き方」

2009-10-11 10:33:24 | Weblog
 私にしては珍しく、図書館で借りたのではなく本屋さんで買った。お財布の中に図書カードがあったし、タイトルにも惹かれて。
 「普通の幸せ」を手に入れる10のルール。特に第10章「勝間和代を目指さない」が気に入りました。

 香山リカは、すごく多数の著書があって皆読んだわけではないが、毒にも薬にもならない本や、専門的過ぎて理解できない本が多かったが、この『しがみつかない生き方』は具体的でためになると思う。

 第9章「生まれた意味を問わない」は中々考えさせられる。
 一般的に「生まれてきた意味を考える」ことはとても価値があることで、生まれてきた意味がある人間は素晴らしい人間だ、と見なされがちだが、香山リカはそれに疑問を呈する。
 これまで彼女が会った中で「このために生まれた」という確信が揺らがなかった人は2種類いたそうだ。

 ひとつは新興宗教や悪徳ビジネスなどで洗脳された人たち。「私はグルにお仕えするためだけに生まれてきたのです」「この商品を世界に広めるのが生きる目的だと気が付きました」

 もうひとつは、ある種の精神病で強烈な妄想を持った人たち。「私は世界を救う救世主なのです。昨日、宇宙の声が聞こえました。今日から街頭で演説して人々を救います」

 こういうのを読むと、人間は悩みながら行きつ戻りつするのが本来の姿だと思うね。

 それにしても、精神科の診療室って空気吸うだけで疲れそう。精神科の医師が他の精神科を受診したりするのは、多いんだろうか?
 
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