ケイの読書日記

個人が書く書評

群ようこ 「じじばばのるつぼ」 新潮社

2019-09-28 15:22:27 | 群ようこ
 このエッセイは、昭和29年生まれの筆者が60歳ちょっとすぎあたりで出した本。つまり、ご自分もプレばばの時に。
 だから、じじばばの応援歌になっているかと思いきや…ヒドイじじばば、どうかと思うじじばば、ああはなりたくないじじばば、つまりプレばばにとって反面教師のてんこ盛り。

 でもまあ、他人の不幸は蜜の味。楽しめる。トシ取っても膝上ミニスカートのばば、ノーブラで乳首が分かってしまう薄手のニットを着ているばば、それぞれ個室の女子トイレに入っていても会話するばば、地下鉄で皆が並んでいるのに横入りするじじばば、当て逃げするじじ(筆者が体験!)地下鉄の中で掴みあいのケンカをして地下鉄を止めてしまったばばたち、電車内で「シット」「ファックユー」「サンオブアビッチ」などの卑猥な英単語を繰り返し練習しているじじ、アパレル店内で若い女性店員をつかまえ会社のあるべき姿勢を説教しているじじ、などなど、群ようこさんが紙面で罵倒していると、胸のつかえが取れスカッとする。

 でも本当に色んな人がいるねぇ。感心する。キャベツを安売りしていたスーパーには、外側の厚くて大きく広がった葉を取って入れるための段ボールが置いてある。その箱の中から、捨てられた葉をせっせと拾い集め、持参した袋に入れているばばの話。確かに万引きではないだろうが、目撃したら強く印象に残るだろう。幸か不幸か、私は目撃した事はない。まあ、資源を無駄にしていないと褒める人もいるかもしれないが。

 群さんは体質的にお酒が飲めないらしいが、売れっ子作家なので、酒席で接待されることも多い。もっともこれは、担当者たちが飲んべえで、自分たちが飲みたいのにフトコロが寂しいから、群さんをだしにして会社経費で落とすらしい。
 まだ担当者なら分かるが、会社は同じでも部署が全く違う人が、酒席に勝手にやって来て飲み食いすることもあるという。だいたいこういうズルをするのはじじ。

 でも、この本はじじとばばをボロクソにこき下ろすだけの本ではない。4種類のじじばば柄(おでんに混ざるじじばば柄・じじばば波柄・じじばばドット柄・ダンゴにひそむネコ&じじばば柄)が、カバー、表紙、見返し、扉 に使われていて、それがもうカワイイ!!! これらでトートバックでも作ってくれたら大評判になるだろう。
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皆川博子 「夜のアポロン」 早川書房

2019-09-23 08:54:31 | 皆川博子
 皆川博子の単行本未収録短編集。この人は、デビューは遅いがキャリアは長い(1930年生まれ、つまり89歳?)ので雑誌に掲載されたが、単行本には収録されてない短編がどっさりあるのだ。
 だけど、編者の日下三蔵が解説に書いているように、驚異のクオリティ!! どの作品も驚くほど面白い!

 初期作品を中心に16編収められている。表題作『夜のアポロン』が一番、皆川博子の危険な香り濃厚だが、私は『死化粧』が一番好きだな。

 開国まもない明治初期の東京。立身出世を望み上京した信州高遠出身の若者・矢田真楯は、湯屋でみすぼらしいなりの父娘を見かけた。旅役者らしく真っ白に顔を塗っているので、湯屋の親父に湯が汚れるからと、追い返されている。とりなそうとする人もいるが、警官を見ると父娘はそそくさと立ち去る。

 数日後、真楯は湯屋で見た父親と牛鍋屋で偶然再会する。娘はいなかった。父親は客の入りがサッパリなので一座を解散し、昔の知り合いの嵐仙十郎一座に娘ともども入れてもらうが、ここも不景気でいい役がつかないと嘆いている。

 その芝居を見た後、湯屋に寄ったら、仙十郎の女房もいて、挨拶される。そこに以前湯屋であった娘のお千代が駆け込んできた。彼女の手ぬぐいには血が付いていて…。

 話の急展開には驚かされるが、それ以上に江戸情緒が色濃く残った明治初期の雰囲気がすごく出ていて、素晴らしい。もちろん明治初期に皆川博子が生きている訳はないのだが、彼女の祖父母やお父さんお母さんに当時の事を色々聴いていたんだろうね。風俗の描写が生き生きしている。


 あとがきに皆川博子が書いている。「大人の小説をおぼつかなく書き始めた頃、単行本の担当編集者に、自分の中を掘り下げろ、と言われました。掘り下げたら、ろくなものは出てこなかったな」これには笑った。そう、彼女は私小説タイプの人じゃない。思いっきりストーリーテラー。
 早川書房で『死の泉』を上梓してから、楽しく書くことが出来たそうです。さっそく『死の泉』を読まなくては。
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倉知淳 「皇帝と拳銃と」 東京創元社

2019-09-18 09:30:41 | 倉知淳
 この前読んだ『なぎなた』の中の1編『運命の銀輪』が再掲載されている。あの時、あとがきで作者は、死神のような乙姫警部をシリーズ化したいと書いていた。それが実現。この『皇帝と拳銃と』では、死神警部が探偵役の倒叙ミステリ4話が収められている。

 表題作の『皇帝と拳銃と』も秀作だが、『恋人たちの汀』のほうが、もっと出来がいいと思うな。
 殺された男は、悪徳高利貸し。だらしない性格か、机やソファー、書棚の中にはぐちゃぐちゃに物や書類がつっこまれている。でも神経質な所もあって、強迫神経症的に、消臭スプレーを部屋中にまきちらす。それだけでは足りず、自分のお口のニオイも気になって、口臭スプレーも盛大にシュッシュ。
 読んでいると、このスプレーが犯人を追いつめるカギになるという事はうすうす分かってくる。でも、具体的にどうやれば犯人の特定に結び付く? そこが読ませどころ。 いろいろ考えさせられる。
 なんせ倒叙ミステリなんだから、最初から犯人は分かっているんだ。

 死神警部が注目したのは、ソファーの前のローテーブルの上にある血しぶき跡が残っていない部分。被害者は刺殺され、大量の血液がローテーブルやその上に載っていた新聞紙、ティッシュの箱、雑誌、はがき、リモコン、のど飴の缶などに降り注ぐが、その中の一か所、血が飛び散ってないA4サイズのスペースがある。
 どうも、そこに何かを置いていたようだ。それは部屋中探しても見つからなかったので、犯人が持ち去ったらしい。犯人にとっては重要なもの。犯人を特定できるものだろう。高利貸しからの借用書? そんな当たり前のものを置いてどうする!

 この『恋人たちの汀』、なかなかの力作だと思う。一読あれ。

 この作品の中に、小劇団の内情が色々出てくる。へぇ、詳しいんだな。興味あるのかしらん?と思っていたら、倉知淳って、日大の芸術学部演劇学科卒なんだ。へーーーーっ!!もともとは脚本を書きたかったんだろうか?
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岸本葉子 「人生後半、はじめまして」 中央公論新社

2019-09-11 16:07:25 | 岸本葉子
 岸本さんは、お父様を見送ったあたりで、人生後半を意識したとか。なるほどねぇ。人生の節目だものね。ただ、50歳半ばで両親とも亡くなるというのは、現代において珍しいのではないか?
 90歳代の老母を70歳代の老いた娘が、老々介護しているというのが、一般的になってしまってる今の日本。
 私の母も、あと15年は生きるだろうと思われる。なんせ人生100年時代だからさ。

 まあ、先の事を考えるとキリがない。明るく思考停止にしなければ、やってられないのも事実。岸本さんの前向きなエッセイを読んで、元気をもらおう。

 まず第1話「美容医療に通っている」。これには少なからず驚いた。あまり、そういう事をやりそうなタイプではないと思っていたから。肌の深部に熱を与え、真皮のコラーゲンを収縮させることで引き締め効果を得る治療のようだ。もちろん保険適応外。
 フェイスラインのたるみは、中高年の共通の悩みなんだ。私もなんとかしなきゃ!と思い、美容院でシャンプー、カット、ヘアマニキュアの他に、ヘッドスパを追加している。これも何かの雑誌に載っていた。頭皮に刺激を与えることによって、フェイスラインを引き上げるらしい。鏡を見ると何となく効果があるような…。そんなの気のせい?

 「進取の気性に欠けている?」の話では、名刺交換の時にスマホで撮影して、現物の名刺を受け取らない相手の話が出てくる。もちろん岸本さんは受け取る派だが、出版業界でも名刺の画像をデータに変換して、紙で取っておくことをしない人が増えているそうだ。
 まぁ、確かに紙で取っておくと邪魔だもんね。

 「ハンガー改革」の話では、役に立つ情報がいっぱい!! ハンガーなんでどうして買うの?クリーニングに付いてるのを再利用すればタダじゃん?!という人がほとんどだと思うが、収納アドバイザーに高評価のハンガーがあるらしい。岸本さんはそれを買いたいと思うが、ドイツ製で安くない。ところが…ネットで探していくと、そっくりな品がニトリから、うんとお安く出ている。60本、即買い!
 開発者に敬意を払いたいだろうが、やっぱり安さの魅力には勝てない。

 まだまだ面白い話はいっぱい。3か月間もかかるリフォームをやった、靴が合わなくて四苦八苦している話、(靴で困っている話は、群ようこさんのエッセイにも多数ある)そして女の最大の関心事、セールはいつ頃が買い時か、とか。

 齢を重ねても好奇心が止まらない岸本さんに感謝します。
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有栖川有栖 「インド倶楽部の謎」 講談社

2019-09-04 14:36:09 | 有栖川有栖
 2018年に刊行された本書は、本当に久しぶりの国名シリーズで(2005年の『モロッコ水晶の謎』から中断している)楽しみに読んだが、ちょっと有栖川有栖らしくないような気もするなぁ。
 まあ、国名シリーズのほとんどは短編なので、スパッと火村の推理が冴えわたって事件は解決。しかし長編だと、それだけじゃない。いろんな要素が加わって話が膨らむので、推理部分がぼやけるのだ。でもいい。火村とアリスに会えるから。

 この作品には、輪廻転生を信じている7人のグループが登場する。この7人の前世は、150年ほど前インドで親しい間柄であった。グループの中心の坊津という中年女性は、当時の記憶を鮮明に持っていて、周囲の心に引っかかる人たちに「あなたの前世は、インドの商人」とか「あなたの前世は若くして戦死した武人」とか言って回り、周囲もそれに同調して、互いに浅からぬ縁を感じている。
 この人たちの集まり「インド倶楽部」で、「アガスティアの葉」をつかって、自分たちの過去・現在・未来を教えてもらおうという催し物があった。
 7人のうち3人が参加。1人5万円。日本人コーディネーターが、インドのナーディリーダーを呼んできて、前世から自分が死ぬ日まで、すべての運命が予言されているという「アガスティアの葉」を読ませるのだ。どこからどう見ても、インチキだと思うけど。
 そうそう、「アガスティアの葉」って、作者がでっちあげた架空の事柄だと思ったら、本当にあるんだ。ビックリ!!

 数日後、日本人コーディネーターが殺され、トランクに詰めこまれた状態で神戸港に浮かぶ。インド倶楽部の面々が驚きうろたえていると、今度は坊津までもが絞殺され…。

 輪廻とか前世とか、私はどうしてもオウム真理教を思い出してしまう。信者たちが「あなたは前世では私の姉でした」「だから懐かしい気がするんですね」とか、話し合ってたという記事を読み、どうにも拒否感がある。
 もちろん火村もアリスも、輪廻も転生も前世も全く信じてないので苦戦する。そういった世界観が動機だから。

 読後感はスッキリしないが、筆者があとがきに書いているように「シリーズ全体としては、火村とアリスがいつものように活躍する物語を描いていきたい」とあるので、私もそれを歓迎したいです。
 そもそも本家のエラリー・クイーンの国名シリーズも、シリーズを重ねるごとに本格味は薄れていったもの。
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