ケイの読書日記

個人が書く書評

絲山秋子 「御社のチャラ男」 講談社

2024-12-11 15:43:28 | その他
 「御社のチャラ男」というからには、A社のチャラ男、B社のチャラ男、C社のチャラ男…というように、各々の会社のチャラ男たちの品定めでもするのかしら?と思って買ったが、どうもチャラ男は、ジョルジュ食品の三芳部長一人のことらしい。
 しかし…うーーーん、この人、チャラいかなあ。

 縁故採用で40歳くらいで入社して、いきなり部長。前は何をやっていたかといっても、大した事はやってない。アメリカの西海岸で自分探しをしていたなんて言うと、人は感心したような顔をするが、実際いたのは半月にも満たない。もちろん英語もしゃべれない。
 日本に帰ってきてから、あちこちでバイトをしていた時に知り合った、資産家の一回り年上の女性と、意気投合して結婚。その奥さんの従兄弟がジョルジュ食品の社長だ。

 三芳部長は仕事ができない。でも、できなくたっていいんだ。部長だから。仕事は叩き上げの部下がやってくれる。三芳部長は、説教するだけ。そして、働き方改革と称して、さっさと帰り、休みもきちんと取る。ワークライフバランスを実践して、部下の手本となりたいみたいだ。

 こういう人って、どこの組織にもいる。チャラ男と特筆すべき人とも思わない。それよりも、筆者の絲山秋子さんは、男に対して辛すぎるような気がするな。例えば、総務のかなこさん(24歳)は、中途入社してきたイケメン社員に最初はときめいていたのに、彼が宴会で下ネタを連発したらしく、評価がダダ下がりだった。
 でもアルコールが入って「うんこ」「ちんこ」を連発するのは、女の人にも結構いるよね。異性にボディタッチが多くなるのも、男性だけではない。

 絲山さんは、早稲田の政経を出て一流企業(住宅設備機器メーカー)に入社し、総合職営業として各地を転勤してまわった。すごく優秀な人だから、男だから出世が早いとか、ポジションが自分より上、という例をたくさん経験してきたんだろうね。

 ああ、ごめんなさい。自分はそういった経験がないからか、あまり共感はできないな。たぶん私は、性別に関係なく無能に分類される人間だからだと思う。
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「アリスはふしぎの国で」ルイス・キャロル著 大久保ゆう訳 青空文庫

2024-10-12 16:19:29 | その他
 「不思議の国のアリス」(ALICE IN WANDERLAND)ってこういった話だったんだ。昔からある有名なお話にありがちな、断片的に有名なところは知っている。例えば、おかしな帽子屋がお茶会を開いている場面、白うさぎが懐中時計を見ながら大急ぎで走り去っていく場面、トランプのクイーンが誰彼なしに「首をちょん切れ!!」と命令する場面、チェシャ猫が笑って顔が幅広くなっている場面などなど。
 でも、きちんと読んでいなかったので、読み通すと新鮮な驚きでいっぱい。それにしてもチェシャ猫って人気あるね。ふてぶてしいのが良いのかな。でもこんな猫が、自分ちにいたら困るよね。

 この不思議な話は夢オチなんだ。まあ、そうだろう。そうじゃなかったら収拾がつかないよ。それから詩や歌がふんだんに出てくるんだ。英国のお話らしい。だから自分には分からないけど、言葉遊びがいっぱい散りばめられているんだろう。それを日本語に何とか訳すのが訳者のウデの見せ所。難しいよね。英語のダジャレを日本語のダジャレに訳すなんて至難の業。英語に自信がある人は、自分で原書に挑戦するのが良いかもしれない。

 そして最も驚いたのは、キャロルが友人の子どものアリスたちと一緒にピクニックに行った時にせがまれて、出まかせのヨタ話を話して聞かせたのが、この名作が誕生するきっかけだという事。そのヨタ話があまりにも面白かったので、アリスが読みたいと頼み、彼が手書きで本にしてプレゼントしたのが最初らしい。文筆家が、知り合いの子どもに肉筆の物語をプレゼントする事って、当時(19世紀)のヨーロッパでは、時々あったみたいね。

 ルイス・キャロルは、作家として有名だけど本業は数学者で、専門書も何冊も出しているみたい。ロリータコンプレックスで、13歳のアリスにプロポーズしたという話も残っているけど、どうかねぇ。アリスは別の人と結婚してますけど。
 青空文庫で使われている挿絵は、擬人化した動物たちはgoodだが、アリスがあまり可愛くない。色々調べたが、アーサー・ラッカムの挿絵が素敵です。
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石井光太「近親殺人 そばにいたから」新潮社

2023-10-14 11:55:04 | その他
 どうして私は、こういった本を好んで読むのかな? 前回読んだのも、娘が母を殺した事件を取り扱った『母という呪縛 娘という牢獄』だった。興味があるというか、身につまされるというか…。反対に繁華街で見知らぬ人たちを襲う通り魔殺人は、私にはピンとこない。全く知らない人に、そこまで強い殺意を持てるだろうか。その心理が、私には理解できない。

 実は、今の日本の殺人事件の半数が、家族といった親族間で起きるらしい。やっぱり、家族だからこそ身内だからこそ、許せないこともあるんだろう。

 娘たちが介護を放棄して、結果的に母親を死なせた事件、生活苦から母親と心中しようとしたが息子は助かった件、姉が精神疾患から狂暴化し家族に危害を加えるので、妹が思い余って殺してしまった事件等々、陰惨な事件が色々あるが、引きこもりの子どもを親が殺した事件って多いんだ。

 「はじめに」に取り上げてある「元農水事務次官長男殺害事件」は本当に衝撃的だった。こんなに経済的にも人的コネにも恵まれた元エリート官僚が、息子を殺さなきゃならないほど追い詰められていたなんて…。ただ、社会的な地位があるから逃げられず犯行に至った面もあると思う。
 これが失うものは何もない親だったら、どこかに逃げて行きそれっきりにすればいい。殺すことになるんだったら、捨てたほうがよほど良い。ただ、まともな親は子を捨てきれないんだよね。
 家族への暴力がひどくなると、アパートに移って別に生活する事もあるが、暴力をふるう子どもは何もできないので、お金を渡し、散らかった家を片づけるため時々戻る。その時にまた激しい暴力が。

 いつも思うけど、親って(特に母親)殴られていい存在なの?母親が激しい暴力を受けているのを知っている夫や行政の支援員は、なぜ警察に通報しないの?死んでから通報するの?たしかに心を病んでいる引きこもりの子どもが、一番辛いのかもしれないが、だからといって好きなだけ母親を殴っていい事にならないよ。病院も、本人が嫌がるからという理由で、家庭に戻すなよ!また、凄まじい暴力が始まるだろうよ。
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齊藤彩「母という呪縛 娘という牢獄」講談社

2023-10-02 16:10:25 | その他
 この事件は印象に残っていた。2018年滋賀県の河原で、女性の遺体が発見された。犯人は31歳の娘だった。ここまではさほど珍しくない。しかし、その娘は看護師として働きだしたばかりだったが、その前は医学部合格を目指して、9年間も浪人生活を送っていたのだ。9年間浪人?! いくら医学部でも3浪ぐらいで諦めると思うが…。狂気を感じるな。母親は娘を監視し、脅し、懇願し、コントロールして受験させている。

 こういった教育虐待は、今の自分に不満を持つ高学歴な母親が、我が子の尻を叩きまくって自分のできなかったポジションにつかせようと、勉強を強要することで知られる。身に覚えのある母親も多いだろう。私も含めて。(殺された母親は高卒だが、子どもを国公立の医学部に入れようという明確な意思があった)でも、ほとんどは小学校高学年から中学にかけて、子どもに拒絶されて諦めることになる。

 しかし、この母娘は違った。小さな衝突はあるものの、娘は母親の期待に応えようと必死で頑張るのだ。中高一貫の進学校に入学し、地元の国公立大の医学部に進学しようとするが、ハードルは高い。娘の成績は悪くないが、かといって医学部に入学できるほど良くもない。
 それがどうしても母親には分からない。娘は友人も少なく、反抗する術を知らないように思える。一方、母親は、娘が小さいころにパートを辞めて以来、家にいて娘の勉強を監視している。まさに、囚人と看守のような関係。でも母親には旅行や食事に行く友人はいて、娘より社交的なような気がする。

 父親はいるが、20年以上別居している。このお父さんがもう少ししっかりしていたら…いや、娘をかばおうと口を挟んだら1000倍くらいのお返しが跳ね返ってくるだろう。このお母さんの攻撃は本当に凄まじい。
 娘と母親のラインのやり取りがたくさん本書に載っているが、読んだら再起不能になりそうなほどの罵倒の連続。こんなのを読んだり聞いたりしていたら、とにかく「相手の要求をきいて大人しくさせよう」と思うよね。
 娘もその連続で、なんとかその場をやり過ごそうと「申し訳ないです」「反省してしっかり勉強します」「今度こそ合格します」なんて言っちゃうんだろうね。
 母親の方は、それを約束したと思い込み「なぜ勉強しない!なぜ合格しない!この嘘つきめ!!」とますます怒り狂うけど、最初から約束なんて成立してない。

 身体的な暴力もひどい。模試の結果が悪かったと鉄パイプで殴り、熱湯をかける。本当にモンスターだ。
 娘の陳述書に「いずれ、私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと、現在でも確信している」とある。悲しいことだが、本当にその通りだと思う。
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市川沙央 「ハンチバック」 文藝春秋

2023-09-26 15:36:30 | その他
 性的な描写が多く、ドギマギしてしまった。でも、それも障害のある女性は清らかに生きているはず、という私のゆがんだ思い込みのせいかもしれない。

 釈華の背骨は右肺を押しつぶすかたちで極度に曲がっていて、ヘルパーさんがいなければ日常生活が送れないが、頭脳は明晰。インターネットでエロ記事を書いて収入の全額を寄付している。(たいした金額ではないが)
 釈華は経済的には恵まれていて、働く必要はないのだ。亡くなった両親は資産家で、彼女の終の棲家としてグループホームの敷地と建物を遺した。その十畳ほどの部屋で、彼女は生活し、有名私大の通信課程で学び、小説を18禁TLサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。

 この「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という願望は、昔から多くの女の心を捉えている。ヨーロッパでは、高級娼婦が上流階級の貴婦人とはりあい、ファッションや美容の分野で大きな影響を与えたし、日本でも、吉原の高級遊女たちが浮世絵の題材となり、化粧法や衣装で一般女性のあこがれだった。
 一昔前でも、売れっ子芸者の写真が、現代の芸能人のブロマイドみたいに人気だったようだ。
 だから「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という願いは、かなりの割合の女の普遍的な願望なんだ。ただ、障害のある女性がそれを口にすると、すごく違和感がある。ごめんね。一種の差別だよね。それって。

 小説の最後の方に、若くて健康で、そこそこ容姿も頭もいい女の子が出てくる。しかし彼女は身内が不祥事を起こし、極貧生活に転落、風俗で働いている。障碍者のグループホームで働いていた兄が、お金を奪おうと入所者を殺したのだ。そういったワケありの女の子と、釈華のどちらが幸せかといえば…ほんとうに難しい。
 裕福で優れた頭脳を持つ釈華は、恵まれた存在だと思うよ。
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