ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「職場の作法」

2014-08-27 10:47:07 | 津村記久子
 前々前回、ブログにUPした「パリローチェのファン・カルロス・モリーナ」の、前篇に当たるようなお話。
 だから、鳥飼(語り手)、浄之内さん、田上さんも、登場。

 彼女たちのお勤めしている会社は、地理情報を顧客に提供する会社らしい。例えば、建築事務所が,A地点に建物を建るつもりで設計しようとすると、土壌に問題がないか調べるため、依頼するらしい。
 そういえば、津村記久子が芥川賞をとった時、朝刊の『この人』のコーナーで紹介されていて、土木計測会社で、アルバイト事務をしている、という記事があったような。
 実際に、こういった仕事をしていたんだろうね。だから、描写がすごく詳しい。


 話は飛ぶが、村田沙耶香って、今でもコンビニで週3回アルバイトしてるんだってね。先日、新聞のインタビュー記事で読んだ。
 でも、彼女は、有名な賞をいくつもとっているし、知名度もある人だから、本は売れてると思う。専業作家で十分やっていけると思うが。
 それとも、作品に生かすために、人間観察をしているんだろうか? コンビニには、色んな人が来るものね。


 前々前回のブログで、浄之内さんを「イマドキの東京で頑張って働いている、独身の高学歴女性」と書いたけど、本書を読んで、情報がいくつも入ってきた。
 大変な資産家で、名門の家のお嬢さんらしい。いとこが、『美人過ぎる県会議員』とか市会議員とかで、TVで引っ張りだこ。
 それを知っている、同郷の同じ会社の男が、ぺらぺらと社内でしゃべって、しかし反応はイマイチなので、なおさら力説するので、浄之内さんはすごく嫌がっている。
 こういう人っているよね。職場の作法に反します。止めてください。浄之内さんは、謙虚な人なのです。
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岡田斗司夫「オタクの息子に悩んでます~朝日新聞・悩みのるつぼ」

2014-08-22 13:49:16 | Weblog
 朝日新聞の土曜版に「悩みのるつぼ」という読者からの人生相談コーナーがあるそうだ。岡田氏は、回答者4人の中の1人で、4週間に一度、読者からの相談に回答しているらしい。
 それがとても評判がよく、まとめて本にしたのが本書。

 ただ、この本は、相談と回答の羅列ではなく、岡田氏がどのような思考経路を辿って、回答に行きついたのかが、メインとなっている。
 だから、思考ツールとして、分析・仕分け・潜行・アナロジー・メーター等々が説明されているが…正直な所、私は興味を持てなかったので、この箇所はナナメ読み。
 でも、中学2年生の女の子の「クラス内の位置が気になります」という相談が、すごく印象に残った。

 彼女の相談事をまとめると、次のようになる。
「クラスの女の子には階級がある。明るく派手なグループが一番地位が高く、その下が二軍。そして、一番下が暗くて地味な「陰キャラ」。
 相談者は陰キャラで、派手グループ女子には無視されるか「暗い」「キモい」と蔑まれ、先生にも男子にも話しかけられる事はない。
 楽しい中学生活を送るのには、どうすればいいか? クラス内でのポジションなんか気にするなと言わないで。女子中学生にとって一番大事な要素なんです。」

 わかる、わかるよ! 私だって40年以上前は、女子中学生だったものね。これって、女の子にとって死活問題だよね。
 でも、残念ながら(岡田氏も書いているが)今も昔も、解決策はない。

 陰キャラが、無理にテンション高くして、ファッションや芸能ネタに詳しくなり、派手グループにすり寄っていっても、自分が疲れるだけ。仕方ない事なんだ。
 ただ…女子中学生の皆さんは、この階級が大人になってもずーーーーっと続くと思い込んでるかもしれないけど、それは違うんだなぁ。派手グループが、明るく華やかな大人生活をエンジョイしてるかというと、なかなか難しい。

 『塞翁が馬』という、中国の故事を知ってる? 不幸だと思っていた事柄が、幸せにつながっていき、幸福だと思っていた事柄が、不幸の元になっていく。

 56年、生きていると、その通り!!と感じることが多々あります。

 今は不本意だと思える境遇でも、先の幸せのモトになるって事、よくあるんだよ。
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津村記久子「とにかくうちに帰ります」

2014-08-17 08:56:16 | 津村記久子
 またまた津村記久子。どうして私は、津村記久子の小説が好きなのかと、自分なりに分析してみると…。
 小説に恋愛要素があまり無いから、かもしれない。彼女のほとんどの小説で、女主人公が非モテ系、恋愛偏差値が極端に低いのだ。


 例えば、この『とにかくうちへ帰ります』では、2組のコンビが暴風雨の中、死にそうになりながら、大きな橋を渡って、バス停にたどり着こうとする道程を書いている。
 一組は、塾帰りの小学生と30代のサラリーマン。もう一組は、OLと、その一年後輩のサラリーマン。二人は一緒に会社を出たのではなく、偶然、橋のふもとのコンビニで出会ったのだ。
 雨と風はすざましく、コンビニは店じまいするところだった。(24時間営業のコンビニでも、天候次第で、こういう事もあるんだね)
 ここで、ビニールのレインコートや、温かい飲み物を買って、暴風雨の中、歩き出す。本来ならバスが通っているが、それに乗り遅れ、しかも、いつも通っている道路は、交通事故があって通行止めになってしまった。
 仕方ないので、大回りして遠くの橋を渡らなければ、帰れない。

 荒れ狂う雨と風の中、永遠に続くかと思われるほど長い橋を渡りきって、やっとバス停にたどり着くのだが…。


 こういった状況下で、ほとんどの女流小説家が、二人の間に恋愛感情を芽生えさせるが、この小説では何も起こらない。

 もちろん、津村記久子の小説内でも、恋愛体質の女性は登場する。この『とにかく~』の中にも、「人は一生恋をする生き物よ」とのたまう30歳代後半の女性が出てくる。お前はフランス人か!!!
 でも、そういった女の人はワキ役なんだよね。津村記久子の小説では。主役になりえない。サッパリしていて好感が持てる。
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津村記久子「パリローチェのファン・カルロス・モリーナ」

2014-08-12 13:48:58 | 津村記久子
 カタカナだらけの、よく分からないタイトルだが、パリローチェというのは、アルゼンチンの地名。ファン・カルロス・モリーナというのはアルゼンチンの顔の濃い男性フィギュアスケート選手の名前。
 アルゼンチンでフィギュアスケート!?と意外に思う人もいるだろうが、サッカーの1000分の1ほどの注目度でも、頑張っている人はいるらしい。
 そのサイトを偶然見つけた日本人女性・鳥飼が、心の中で、眉毛太すぎとかダメ出ししながらも、応援していくお話です。

 この鳥飼が、お昼の時間、同僚の浄之内さんに、このマイナーな選手の事を話したら、なんと!!!浄之内さんも、カルロスの事を知っていて、以後情報交換するようになる。

 この浄之内さんという女性が…東京で頑張って働いている、イマドキの独身高学歴女性なんだなぁ。
 月1回の割合でお見合いパーティに参加し、両親の勧めで男の人と食事をしたりしている。大変な才媛で、英語どころかスペイン語も(絶対、ドイツ語、フランス語もOKだろう)フィンランド語ですら、できるみたい。

 それだからか、インターネットのスポーツニュースにすごく詳しく、世界のあちこちに、贔屓チームや贔屓選手がいるらしい。ただ、浄之内さんが応援すると、必ずそのチームや選手はコケる。まったく疫病神のような人である。


 津村記久子の小説は退屈、という人もいるが、私はそうは思わない。本人が意識しているかどうか分からないが、ほのかなユーモアがある。そういう所が、岸本葉子のエッセイに似ているね。
 書架にあったら、思わず手に取ってしまう、そういう作家さんです。
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梶原季之「水無月シーサンヤオチュー」

2014-08-07 10:41:08 | Weblog
 梶原季之は、松本清張ほどじゃないけど、40年ほど前の有名小説家。懐かしい名前だなぁ。そういえば、こういう名前の人、いたっけ。すごく売れっ子だったが、今じゃ、全く読まれてないようだ。純文学系の人じゃないから、すたれるのも早いだろうね。
 でも、売れていただけあって、古臭い所はあるけど、面白いです。


 この短編は、常軌を逸した装丁家の話。お金持ちで、すごく本好きの人が、愛読書を自分好みに装丁することがあるのは知っています。素晴らしい趣味だと思います。(お金があっても、私は絶対やらないけどね。)

 で、このクレージーな装丁家は、人間の皮膚で本を装丁するのです。死んだ人間じゃない、生きている若い女性の皮膚で。誘拐して…という訳ではなく、若い女性にお金を払って、腕のいい外科医に皮膚を剥いでもらうんです。
 うわーーーー。
 
 ずいぶん前、ナチスが、ユダヤ人をガス室で殺した後、その皮膚を剥いで、ランプシェードにしたという話を読んで、気分が悪くなったことがあった。死体の脂肪で、石鹸も作っていたらしい。

 この短編の中にも、他に、フランス革命のとき、ギロチンで処刑された貴族たちの皮膚が、高値で売買されていた事も書いてある。貴族たちたったら、栄養状態も良かっただろうし、美容にも気を配っていただろうから、キメの整った皮膚をしていたのかな、それで高値で売買された?!

 しかし…いったい何に使うんだろね。死んだ恋人とか愛人の皮膚を使って、何か思い出の品を作るなら、まだ理解できるが、全く誰のものか分からない皮膚を使って工芸品をつくっても、気味が悪いだけだと思うが…。幽霊がでてきたり、祟られそうだ。
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