ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司「占星術殺人事件」

2006-09-26 14:45:32 | Weblog
 本格派の秀作。いままで読まなくて損した気分。昭和56年にもう発表されていたのか。読まなくてもったいなかったなぁ。


 昭和11年日本。密室で異様な死体となって発見された画家が残した奇怪な遺言状。『肉体を支配する星座に従って、6人の若い女性から必要な部分を切り取り、新しい不滅の肉体を合成する』
 そして1ヵ月後6人の女性が行方不明になり、遺言どおり次々にバラバラ死体となって発見された…。


 このトリックは、確か『金田一少年の事件簿』でも使われていなかった? (つまり金田一少年の方がまねっこしたことになる)
 現代の法医学で考えればバカバカしいが、昭和11年だったら、なるほど、そういう事も可能かも、と思わせる。

 猟奇的な犯罪だが、文章はちっとも怖くない。(なにせ私は『屍鬼』の文章が怖すぎて、読むのを中断しているほどの怖がりなのだ。)
 それどころか、御手洗潔と石岡の会話は芸人2人組のように面白い。

 いくら推理小説でも、キャラクターの魅力って大きいと思う。トリックより大きいかもしれない。

 例えば、私は火村と有栖川のコンビはあまり好きでない。火村が嫌いなのだ。(ふん!孤高を気取ってんじゃねぇ)
 それに比べ、御手洗と石岡のコンビはいいなぁ。私好み。
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エラリー・クイン「アメリカ銃の秘密」

2006-09-20 10:04:29 | Weblog
 「エジプト十字架」以降の国名シリーズはあまり出来が良くない、と聞いていたのでさほど期待せずに読んだが、どうしてどうしてなかなか面白い。


 ニューヨークのスポーツスタジアムでロディオが行なわれた。荒馬に乗ったカウボーイたちが拳銃を撃ち鳴らしながらトラックを駆けていたとき、先頭を行く俳優が何者かに撃たれ殺されたのだ。
 捜査は即刻開始されたが、凶器の銃はどこからも発見されなかった。
 2万人の大観衆が見守る中、犯人はいかに犯行を成し遂げ、凶器を隠しおおせたのか?


 私はこの「アメリカ銃の秘密」を読み始めてすぐ、ゴルゴ13の1作品を思い出した。はるか昔に読んだので、うろ覚えだが、ストーリーはこうだったと思う。


 アメリカンフットボールファンで満員のスタジアムで、大観衆の目前、1人の男が射殺される。当然すべての出入り口が封鎖され、徹底的な捜査が行なわれるが、凶器は発見されない。 
 ゴルゴが、あるトリックを使って凶器の銃をスタジアムから消し去ってしまったのだ。


 本当に似てるなぁ。さいとうたかを(というか原案者)は、クイーンの「アメリカ銃の秘密」を読んでいたに違いない。凶器の消し方のトリックは違うけど。
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ポール・アルテ「第四の扉」

2006-09-15 11:21:30 | Weblog
 たかさん、お勧めの作品。フランス人作家のミステリだから、あまり期待しなかったけれど、予想を大幅に裏切りとても面白い。


 オックスフォード近郊の村に建つダーンリー家の屋敷には、奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、むごたらしく死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。
 その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が引っ越してくると、さらに不思議な事件が続発し、殺人事件までもが起こる…。


 作者のポール・アルテは『密室殺人+怪奇趣味=フランスのディクスン・カー』という振れ込み。
 怪奇趣味の方は本家のカーにはるかに及ばないとしても、密室殺人トリックの方はカーを超えてるんじゃないかと思う。(ちょっとホメすぎ?)

 色んな仮説がトルー警部の口から語られているが、くどくなくスッキリと論理的にまとまっている。無駄な部分がない。


 名探偵役はアラン・ツイスト博士。フィル博士をイメージしたらしいが、大食漢で大酒のみ、肥満、女好き、毒舌家のフィル博士とは、全く似てないと思うけど…。
 それとも、ツイスト博士はこれからどんどんフィル博士化していくんだろうか?
コメント (3)
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エラリー・クイン「エジプト十字架の秘密」

2006-09-10 22:49:20 | Weblog
 国名シリーズでは珍しく、エラリーが金田一耕介化している。(ファイロ・ヴァンス化しているとも言える)
 何しろ被害者が4人になるまで、彼には全く犯人の見当もつかなかったのだから。

 いままでのエラリーだったら、最初の殺人がおきた時点で父親とこういう会話が交わされる。

 父親リチャード・クイン警視「どうだね、エル。おまえにはもう何もかも分かっているだろうね」
 息子エラリー「もちろんです、お父さん。あと2つ3つの論理的考察をつけくわえるだけです」

 なーんて、すましこんでいただろう。しかし今回はまったくダメ。

 
 大学時代の恩師の教授にもボロクソにこき下ろされている。
 「…そういっては悪いが私は少し失望したね。クイーン君、きみは一体いつになったら始めるつもりなのだ?つまりシャーロック先生が蹶起一番して、例の卑劣な犯人の手首に鉄の手錠をはめるのはいつのことかね」


 いやぁ、本当に面目丸つぶれのエラリィだが、こういった彼も新鮮で好ましいなぁ。エジプト十字架型(T字型)に頭を切り落とされ、磔にされた被害者4人には申訳ないが…。

 
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井上荒野「もう切るわ」

2006-09-05 10:07:50 | Weblog
 私はずーっと、井上荒野は井上靖の娘だと思っていて、得意げに他の人に教えたりして大恥をかいたことがある。
 本当は、井上光晴の娘だったのだ。


 この井上光晴という小説家は、井上靖と金子光晴の名前が融合しているから、なんとなく知っている、作品を読んだことがある、と思いがちだが、どうもそんなにメジャーな人では無かったみたい。
 少なくとも、私には作品が思い浮かばない。


 どうしてこんなことを書くかというと、先日、江國香織のエッセイを読んだばかりだからだ。
 いうまでもなく、江國香織は江國滋のお嬢さん。経済的にも文化的にも恵まれた環境で育ち、お母さんも妹さんも本当に浮世離れした人たち。


 それから比べると、井上荒野は結構、大変な境遇だったかもしれない。

 この「もう切るわ」の中に出てくる、嘘が人格の一部になってしまっている女にだらしない中年男は、彼女の父親がモデルだったかも、と勝手に想像してしまう。

 1人の男をめぐる妻と愛人と、その周辺の人々の人間模様が描かれているが、登場人物誰一人として好感の持てる人はいない。

 これが、井上荒野の持ち味なんだろうか?
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