ケイの読書日記

個人が書く書評

高木彬光「わが一高時代の犯罪」

2007-02-25 21:23:49 | Weblog
 暗黒へ向かう時代昭和13年、神津恭介が旧制第一高等学校2年の時、彼の同級生が一高本館正面の時計台の中から、跡形もなく忽然と姿を消した。まるで煙のように…。


 木原敏江の少女マンガ「摩利と新吾」を思い出すなぁ。旧制高校を舞台としたマンガや小説は大好きなので、私としてはこの「わが一高時代の犯罪」はとても楽しめたが、推理小説としては平凡。
 トリックもたいしたものは無く、姿を消した理由も偽一高生らしい不気味な男の素性も分かりやすい。

 ただ推理小説としては凡作だが、軍国主義に日本全体が覆われていた時代、一高生が何を考え、何を思い、何に悩んだかが、かなりリアルに書かれている。
 高木彬光は自分の母校を愛していたんだね。

 作品中、カフェの女給に神津たちが罵られる場面がある。

「あんたたちぐらいの若い男はね。みんな兵隊へいってお国のために命をささげて働いてんのよ。それを何さ。役にもたたない学問をして筋も通らない理屈をこねて、あげくのはては歯の浮くようなきざっぽい愛の告白とやらをやらかして…。いまどきのような非常時には、そんな寝言は通用しないよ」

 高木彬光も、そういった申し訳なさを感じていたんだろうか?
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京極夏彦「姑獲鳥の夏」

2007-02-20 10:29:37 | Weblog
 この『姑獲鳥の夏』は評判が良いようなので、読むのが楽しみだったが正直な所がっかりです。(京極堂ファンの皆さん、ごめんなさい)

 東京・雑司ヶ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20ヶ月も身ごもったままで、その夫は密室から失踪したという。

  …ネタバレになるので未読の方はご注意下さい。…

 
 「見たくない」という心理的メカニズムが働いて、目の前の物が見えないという現象は理解できるが、それが長期間にわたって複数の人間に同時に起きるだろうか? これが"可"なら、どんな物でも"可"になってしまう。いくらなんでも反則じゃないの?

 ずいぶん前に、カーの推理小説の中で、時計が壊れていて結局時間が違っていたというトリックがあったが、この時も非常に憤慨した。
 そりゃ、現実には時計が壊れている事はあるだろう。でもその目撃時間が密室を構成する大きな要因なんだから、密室崩しが「時計が壊れていた」じゃ、あまりにも読者をバカにしているんじゃないだろうか?


 文句ばかり書いたが、昭和27年という時代のレトロな雰囲気は素晴らしいし、京極堂や文士・関口、探偵・榎木津たちが旧制高等学校の同窓生というのも私の好み。
 特に京極堂が芥川龍之介に似ているというのにはグッときた。
 関口は猿に似ているそうだが、榎木津は西洋の磁器人形に似ているらしい。すごいなぁ。映画では誰が榎木津の役をやったんだろうか。
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岸本葉子「女の分かれ目」

2007-02-15 16:52:43 | Weblog
 あまり聞いた事のないタイトルだと思ったら、これは「つかず離れず猫と私」を改題したものらしい。

 30代半ばの頃の岸本さんの日常をエッセイにしたものだが、この「つかず離れず猫と私」というタイトルを目にしたら、え?岸本さんって猫を飼っているの?と勘違いしそうだが、やっぱり彼女は飼っていない。
 近所の野良猫や飼い猫と距離をとりつつ、暮らしている。

 独身女性の象徴が、猫を飼う事になっている。私も猫は嫌いではないが(我が家にはみぃ太郎というオス猫がいる)人間の子どもを嫌う独身女性が、飼い猫をねこっかわいがりにするのは、あまり気分の良いものではない。

 岸本さんの言うようにケジメをつけるべきだ。猫は人間ではないのだから。

 こういう箇所を読んでも、岸本さんは強い人だと思う。擬似家族のまやかし部分を見破っている感すらある。
 岸本さんはきれいだし、人当たりが良い人なので、近づいてくる男もいるが、それらをバッタバッタとなぎ倒して、わが道を行く。結婚しないと決めたわけではない、結婚願望もあることをハッキリ表明しているのに、気がありそうな素振りの男にもたれかからない。
 結婚なんかしたくない、と看板を掲げてはいるが、私って弱い女なの、とよろよろ男に擦り寄っていく裏切り女もたくさんいるのに、なんて潔い女の人なんだろう。

 80歳になっても90歳になっても、私は岸本さんの読者でありたいです。


 「何歳に見える?」という章には笑った。
 仕事上で初対面の男性が、突然「ボク、何歳に見える?」と尋ねてきて「ボク、たいてい24,25歳に見られるんだけど」とのたまう。
 若づくりしているが、肌年齢は少なくとも40歳はいっている、と岸本さんは心の中で思うんだが、正直に言うと相手からうらまれるだろうから適当な事を言っていたら「実はボク42歳なんです。」
 岸本さんは妥当な所だと思ったが「へー、そうですか」と驚いたフリをした、という章。

 これも「人の振り見て我が振りなおせ」の教訓を示してくれる。
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坂口安吾「明治開化 安吾捕物帖」

2007-02-10 14:14:09 | Weblog
 この「安吾捕物帖」には昭和25年から27年までに発表された9話の短篇が収められている。先日読んだ「不連続-」と比べると、これはこれで別の味わいがあるのだが、残念ながら少々落ちます。

 名探偵も出てくるし、殺人事件も起こるし、最後にはキチンと解決するが、推理仕立てのお伽噺というカンジですね。

 舞台は明治になってまもない江戸…じゃない東京。名探偵役の結城新十郎は旗本の末孫、幕末の徳川家重臣の一人を父にもったハイカラ男。
 勝海舟や鹿鳴館、小間物問屋、戯作者、丁稚、番頭、江戸城空け渡し、上野寛永寺の戦い、旗本、幕府瓦解、男爵、公爵etc…。幕末と明治がごっちゃになって、リアリティというものがあまり感じられず、メルヘンチックになっている。

 でも、物証と言うものが何もないけど、論理的には説明がついており、寝る前に1話ずつ脳トレとして読むのは楽しいかも。
 私は、この中では「覆面屋敷」が一番気に入っている。


 いつも思うが、この世代の作家は自分の親や祖父母が幕末から明治維新の動乱期を生きていて、江戸の話を子守唄かわりに聞いたのだろう、江戸の風俗が違和感なくイキイキと描かれている。
 今の作家じゃこういう訳にはいかないだろう。素晴らしい。
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坂口安吾「不連続殺人事件」

2007-02-05 17:05:21 | Weblog
 坂口安吾の推理小説ではない小説は、出来不出来の差が激しくて、いいものは凄くいいのだが、悪いのは箸にも棒にもかからない、と感じているので、この小説もさほど期待せずに読んだ。
 でも結構面白い。もっと早く読めばよかった。


 戦後間もない昭和22年夏、関東の片田舎。土地の豪農の屋敷にいわくありげな人々が集まってくる。そしてお互いに反目している間に次々と殺されていく。
 なんと、1ヶ月の間に、8人!!  鳥インフルエンザより怖い!

 パニックになりそうなものなのに、皆さん逃げ出さず人の作った食事をムシャムシャ食べている。度胸あるなぁ。

 登場人物が多いので、少々死んでもまったく犯人候補には事欠かない。たいしたトリックは無いが、いろんな組み合わせを考え、可能性を吟味する。

 最後は、うーん、なるほどね。確かにここら辺が不自然だと思った。こうすれば犯行は可能だ。中々良くできていると思う。(現実の事件だったら、犯行が多ければ多いほど、遺留品が残ったり目撃者がいたりして、犯人には不利だろうが…)

 登場人物のいがみ合う原因は普通は金だが、この「不連続ー」の場合、男女間のもつれで、まるで群婚状態のように関係がからみあっている。未婚も既婚も関係ない。
 だいたい、村一番の長者の娘が20人近くいる客の前でパンツ一枚になり、情人と手をつなぎ寝室に消えていく、なんてことあるんだろうか?(横溝正史の「本陣ー」も同じ年代の地方の名家が舞台だったが、こっちは堅いもんだった)


 一ヶ月に8人も殺されて、警察や探偵は何をやってるんだ!! と憤る人も多いだろうが、何もやってない。特にこの巨勢探偵は金田一に勝るとも劣らない無能ぶり。誰一人救えなかったばかりか、最後には犯人に自殺されてしまう。
 小梅太夫ではないが、チクショー!!!!!!!
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