ケイの読書日記

個人が書く書評

藤木稟 「バチカン奇跡調査官⑤ 血と薔薇と十字架」

2016-11-24 11:02:03 | 藤木稟


 シリーズ第5弾! 英国での奇跡調査からの帰り、悪天候で交通事故にあい、ホールディングスという田舎町に滞在することになった平賀とロベルト。
 その町には、黒髪に赤い瞳のハンサムな吸血鬼が現れ、次々と人を襲っていた。教会が退治に乗り出すが、逆に牧師様がやられてしまう。警察は、吸血鬼は教会の管轄だと言って動こうとしない。宗派は違うが、バチカンの神父である平賀とロベルトがかかわることになる。
 不死身の吸血鬼は、現代でも本当に存在するのか?

 イギリスは、ほとんどの人が英国国教会の信者なので、ここではバチカンの威光は通用せず、冷たくあしらわれる。(イギリスではカトリックは1割にも満たないそうだ) それに、一応21世紀の話のはずだが、このホールディングスという町は、中世の城下町のようで、領主を筆頭に、その親せき・遠戚、聖職者、中間層、貧しい人々と身分が固定化していて、読んでいてグリム童話を読んでいるみたいな気になる。
 なんせ、領主の城で舞踏会がある時、招待された人々は、馬車で城の門まで行って、門の前でずらりと並び、お城の執事に名前を呼ばれると、粛々と中に入っていくのだ。シンデレラかよ!この話は!!
 領主様はとても裕福で、小作料を取らず、土地を領民に貸し与えている。

 でも、本当は、労働党政権下のイギリスでは、屋敷や土地にべらぼうな税金がかかり、貴族様はとっても大変だという。だから、観光客に城の一部を公開し、入館料を取っているんだろう。

 最後に、平賀やロベルトが、城や吸血鬼の秘密を科学的に解明しようとしているが、成功したとは言えない。ホラー小説としてもイマイチ。吸血鬼物としても、とにかく官能が足りない!! 大幅に。

 シリーズ物は進んでいくにつれ作品としての魅力は薄れるが、キャラに対しては、どんどん愛着が増す。しかし、このシリーズでは…。主人公は平賀だが、あまりにも淡白で愛着を持ちにくいね。作者も書きあぐねているんではないか?まだロベルトの方が、魅力を感じる。 
 そのせいなのか、この第5作では、ロベルトの方が活躍している。
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藤木稟 「バチカン奇跡調査官④ 千年王国のしらべ」

2016-11-08 14:11:57 | 藤木稟
 最初に、主人公の平賀神父が心肺停止状態になったところから始まるので、すごくスリリング! 一体どうしてこんなことに…? と興味津々。


 バルカン半島の小国・ルノア共和国にいるアントニウス司祭は、多くの重病人を奇跡の力で治し、聖人の生まれ変わりと噂される。それどころか、銃で撃たれ死亡した3日後に、蘇ったというのだ!!
 その真偽を調査するため、平賀とロベルトは、ルノア共和国に飛び、あれこれ調べるが、いくら調べても疑いの余地がない、完璧な奇跡。
 しかし、死者が蘇ったなど、キリスト以外であるはずはない。ということはアントニウス司祭は、キリストの生まれ変わり? そんな事を認めたら、カソリックの教義が成り立たない。信仰と目の前の事実の板挟みになって悩む平賀とロベルト。
 そんな中、悪魔崇拝グループによって拉致された平賀は、毒物により心肺停止状態に陥った。
 しかし、医者が見放した平賀を、アントニウス司祭は、胸に胸、腹に腹を押し当て、耳から命の息を三度吹き込んで、平賀の耳元で「イエス・キリストの御名によって命ずる。汝よ、甦れ」とささやき、蘇生させる。まさに奇跡!!


 この小説は推理小説ではないので、ネタバレになるが書いてしまおう。これらの奇跡は、米ソ冷戦下のソ連で、研究開発された科学技術によって起こしたことになっている。冷戦下では、ソ連だけでなくアメリカも、色んなことをやっていたらしい。テレパシーの研究などを大真面目に。
 しっかし、暗示や催眠術で何もかもできるんだったら、どうしてソ連は崩壊したのかな? 国営放送で、国民に「もっと働け! もっと生産性を上げろ!」と暗示すればいいのに。

 今回の平賀とロベルトは操られっぱなしで、あまり良い所はなかったので、残念。チベット仏教の転生したダライ・ラマを探し出す方法など、雑学知識は面白かったけどね。
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藤木稟 「バチカン奇跡調査官①黒の学院」 角川ホラー文庫

2016-10-18 09:59:59 | 藤木稟
 前前々回のブログにアップした「バチカン奇跡調査官」は、シリーズ第4作だったんじゃなかったっけ?
 なんとか記念すべき第1作を読みたいものだと書架をのぞいてみたら…あった! 早速借りる。

 天才科学者・平賀神父と、古文書暗号解読のエキスパート・ロベルト神父の美青年コンビの馴れ初めを読みたいと思ったのが理由だが、別に初対面の場面の記述はなく、少しがっかりした。(ホームズとワトソンの初対面の有名な場面「アフガニスタンに~」みたいな劇的な初対面を期待したのだが)
 それとも、シリーズが進んでいくにつれ、エピソードゼロみたいな形で書かれるんだろうか?


 西暦2000年、修道院と併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿舎でおきた『奇跡』を調査するため、現地のアメリカ南部に飛んだ平賀とロベルト。その学校というのが…萩尾望都『トーマの心臓』や竹宮恵子『風と木の詩』そのままの世界なのだ。
 グレーグリーンの神秘的な瞳と長い巻き毛のプラチナブロンドの上級生。寮長をしている彼は、ホワイトプリンスと呼ばれている。彼の取り巻きたち。選ばれたものしか入会できないクラブやお茶会。どこかにユーリやオスカー、ジルベールがいるだろうと思っちゃうよね。
 
 この学校で残虐な殺人が次々と起こり、しかも学校の上層部は「生徒たちが動揺する」といって警察に届けないのだ!!
 バチカンから来た平賀とロベルトは、奇跡の調査だけでなく、この殺人事件にも首を突っ込み、やがてこの学校のとんでもない裏の顔が発覚する。荒唐無稽とも感じるがとても面白い!!

 ストーリーとは関係ないが、気になってしょうがない事が。
 現場は、メキシコとの国境沿いのアメリカ南部にある修道院だが、そこの神父たちはラテン語で話し合っているのだ。世界のどこでも、神父であればラテン語がしゃべれるんだろうか? ラテン語の書物ってどっさり残っているだろうが、ラテン語を話せる人は極端に少ないんじゃ…?  サンピエトロ大聖堂内では話されるだろうが、バチカン市民はイタリア語をしゃべっているんじゃないの?
 だいたい、録音再生できるようになったのは最近の事なんだから、昔の人がどうやって発音していたのか正確には分からないよね。自分ではラテン語を話しているつもりでも、ラテン語じゃない事だってありうる。それとも、他のヨーロッパ言語とさほど変わらず、一種の方言みたいな感覚なのかな?
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藤木稟 「バチカン奇跡調査官」 角川ホラー文庫

2016-10-02 19:46:25 | 藤木稟
 このシリーズ、前から気になっていた。バチカンに奇跡を調査する部署があることは知っていたし、いかにもライトノベルっていうカバーイラストも気に入っていた。舞台は中世ではありません。現代です。念のため。

 2010年、イタリアの小さい村の教会で、ミサの最中に角笛が鳴り響き、虹色の光に包まれる不思議な現象が起こった。村の教会から申請された奇跡の調査に赴いた2人のバチカン調査官。
 1人は天才科学者の平賀・ヨゼフ・庚神父、もう1人は古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト神父。この美青年コンビが、難解な謎をさらさらと解き、巨悪に立ち向かい、敵をバッタバッタとなぎ倒す痛快なお話で、深読みしなくていいのが嬉しい。
 どんでん返しが続いて、読むのに疲れるなんて事はない。
 だいたい、このシリーズでは、どんな奇跡も、どんな巨悪も、どんなストーリーも、お話の魅力には関係ないのだ。この二人さえ登場すれば、読者はそれでOK!だと思う。

 それに、こういう本を読むと、雑学の知識が増えるのが嬉しい。
 例えば『ハーメルンの笛吹男』。この話って、グリム童話で有名だけど、1284年に実際おきた事件を基にしているんだってね。

 ネズミの害で困り果てていたハーメルンに『ネズミ捕り』と名乗る男がやってくる。金と引き換えにネズミを退治しようと村人に持ち掛け、村人たちはそれを了承する。男は笛を吹きならし、ネズミの群れをひきつけ、川におびきだして、残さず溺れ死にさせた。
 しかし、村人たちは約束を破り、お金を払わなかった。
 怒った笛吹男は、笛を吹きならし、ハーメルンの子どもたちを皆、町から連れ去り、洞窟の中に誘い入れた。その数、およそ130人。そして、笛吹男も子供たちも二度と戻って来なかった。

 こういう話は、ドイツだけでなく、ヨーロッパ各地にあるそうなのだ。そして一番有力な仮説は、東ヨーロッパの植民地に連れていかれたという説。
 自分で一旗揚げようと思って行ったか、親たちに売られて行ったか、業者に誘拐されたか…。親としては、さすがに売ったとは言えないので「笛吹男に連れ去られた」事にしたんだろう。

 そういえば『ヘンゼルとグレーテル』の童話も、2人が道に迷って帰れなくなった事になっているが、本当は、大飢饉のとき、家に食べ物がないので、親によって森に置き去りにされたらしい。子捨て・子殺しというのは、世の東西を問わず、民話の重要なテーマだったんだ。

 これから、この平賀とロベルトコンビのシリーズをせっせと読むだろうが、こういったトリビアが読めるのは、すごく嬉しいです。
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