ケイの読書日記

個人が書く書評

大阪圭吉「三の字旅行会」

2012-02-26 17:41:47 | Weblog
 たかさんがブログに面白いと載せていたので読んでみる。
 「新青年」昭和14年1月号に発表された作品らしい。 
 ということは、日中戦争は泥沼化しつつあり、あと2年ちょっとで真珠湾攻撃となるから、とても大変な時代だろうが…大阪圭吉らしい、カラッとした明るい話。ホームズの「赤毛連盟」を思い出した。


 東京駅の赤帽・伝さんは、東海道線のプラットホームを職場にしていた。そのうち、奇妙な客がいる事に気がつく。
 毎日1人ずつ、違う女性が、東京駅に午後3時に着く急行列車の前から3輌めの3等車から降りてくるのだ。
 しかも、その女性客には、1人の人の良さそうな同じ男が出迎えに来ていて、その出迎え男に持たせる手荷物には、決まって赤インキで筆太に『三』の字を書いた荷札が付いている。

 理由を知りたい伝さんは、ある日、その出迎え男に話しかける。すると、その男はその理由としてハートウオーミングな話を語り始める。

 もちろん、その心温まる話は嘘っぱちなのだが、じゃあ、どういった解釈が成り立つかというと…。



 これは、問題編と解答編に分けて、解答編を一般公募すると面白かったかもしれない。 実に、色々な解答が出てくるだろうね。

 大阪圭吉の解答は、なかなか意表をついた面白い話です。
 なるほど!こういった解釈が成り立つんだ!!!
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今邑彩「ルームメイト」

2012-02-21 13:23:17 | Weblog
 サナダさんのブログに紹介されていて、面白そうだったので図書館で予約。
 しかし、どういう訳か、予約してから自分の番になるまで11ヶ月もかかった。いったいナゼ? 
 以前『ダ・ヴィンチ・コード』を予約した時もそのくらい待ったが、この『ルームメイト』って、そこまでの話題作だっけ?
 本の内容より、その方がよっぽどミステリアス!!


 とにかく11ヶ月待ったので期待に胸躍らせ読んだが…失礼ながら、期待通りとは言いにくい。

 地方から上京してきた女子大生が、不動産屋で知り合った女子大生とルームシェアするが、1ヶ月もしないうちに相手の女の子は別人のようになり…。

 最初の方は、それなりに面白かったが、早い段階で『24人のビリー・ミリガン』が会話の中に出てきて、あまりにも容易に多重人格という事が分かってしまう。

 多重人格って、ミステリ作家にとって禁じ手のような気がするなぁ。それじゃあ、何でも出来ちゃうね。あまりにもご都合主義。
 それより、1つの人格の表と裏を書いた方が怖い。


 幼い頃、とても悲惨な体験をして、そのトラウマを自分の中で処理するために別人格を作るって事はよく知られているが、この小説のように、多重な人格が次から次へと出て来ると、自己暗示が強い人なら、簡単に別の人格を作り出せちゃうような気がする。

 精神科医は、心の中では珍しい症例に出会いたいと思っているものだから、簡単に騙せちゃうよ。

 面白く読む人もいるだろうが、私にはスッキリしない本でした。
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天童荒太「孤独の歌声」

2012-02-16 10:52:35 | Weblog
 一人暮らしの女性達が次々誘拐され、無残な死体となって発見された。しかし、誘拐直後に殺害された形跡は無く、どうやらしばらくの間、連続殺人犯に『飼育』されていたらしい。

 主な登場人物は3人。深夜のコンビニでアルバイトしながら、歌への情熱を持ち続けている《おれ》
 子供の時、友達が変質者に殺された事があり、それを引きずりながら、この女性連続猟奇殺人事件を追っている婦人警官の《わたし》
 思い込みの激しい母親のゆがんだ愛情の影響で、いびつな結婚観・家族観を持つようになった犯人である《彼》

 ストーリーの面白さ、テンポの良さも素晴らしいが、一番印象に残ったのはコンビニという場。

 このシリアルキラーは、深夜のコンビニで自分の獲物を物色しているのだ。
 そうだ、買う物でだいたい一人暮らしかどうか分かる。その人の大体の行動パターンもね。
 狙った女性がレジをすませて出て行ったら、何食わぬ顔で尾行する…なんて簡単! 
ちょーーーー危険!!!

 若い女性が1人でコンビニを出て行ったら、その後3分ほどは男が出て行くのを控えるという暗黙のルールが出来ないものだろうか?


PS. 《おれ》の所属している音楽事務所にジミヘンというニックネームの社員がいる。彼は、自分が伝説のギタリスト・ジミー・ヘンドリックスに似ているからだと喜んでいるが、実は地味で変な奴だから、というのが理由らしい。
 笑ったね。久々に。
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芥川龍之介「年末の1日」

2012-02-11 15:20:25 | Weblog
 この「年末の1日」も、ちくま文庫「芥川龍之介全集6」に入っている。
 これは、文学的価値があるとか、好みというのでなく、題材が面白い。

 
 大正14年の年末、芥川は頼まれていた作品を書き上げ、受け取りに来た新聞記者・K君に渡す。
 どこか外出したかった芥川は、K君を誘う。以前からK君は、夏目漱石のお墓にお参りしたいから場所を教えて欲しいと言っていたので、一緒に行く事になったのだ。

 K君は夏目漱石の熱心な愛読者。そして芥川は、夏目漱石が死ぬまで1年ほど師事していた。当然、お墓の場所は知っている。

 雑司ケ谷の墓地に着いたが、知っているはずの夏目先生のお墓が見つからない。あっちこっちへウロウロし、人に尋ねようにも歩いている人もいない。
 やっと墓地掃除の女の人に出会い、道を教えられ、夏目先生のお墓の前にK君を連れて行くことができた。
 K君はあこがれの夏目先生の墓の前でわざわざコートを脱ぎ、丁寧にお辞儀をした。しかし芥川は、今更、何もなかったようにK君と一緒にお辞儀をする事はできなかった…という話である。


 わかるなぁ。芥川の焦りが。失礼ながら滑稽。
 背中には、夏目先生の信奉者の「いったい何してんだヨ!もう何年も墓参りしてないって事がみえみえじゃん。ちぇ、情けねえなぁ」といった冷笑めいた視線が感じられ、自分自身も申し訳なさを感じる。

 この時代、文筆業といっても、徒弟制度は職人と変わらないものね。周りから見れば、命日には師匠の墓を参って掃除をするのが当たり前…という批判があるんだろうね。
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芥川龍之介「彼」

2012-02-06 12:53:13 | Weblog
 先回読んだ「歯車」は、ちくま文庫の芥川龍之介全集6に入っていた。芥川は基本的には短編作家だから、「歯車」以外にも多数入っている。

 「河童」とか「或阿呆の一生」とか、有名な作品もあるが…私は「彼」という小品が好きだな。

 これは、芥川の学校友達・平塚逸郎という人の事を書いた作品。
 芥川という人は、すごく取っ付き難い孤高の人、というイメージがあるが、彼の私小説っぽいものを読むと、そうでもない。
 案外、友達が多いのだ。

 この平塚君とは、旧制中学の頃からの友人で、旧制高校へ行ってからも、平塚君の下宿に度々遊びに行き、平塚君が岡山の六高へ入学してからも、文通していたようだ。
(芥川と文通!!! すごい人だね。その手紙は残っているんだろうか?)
 芥川も平塚君が身近にいないのを物足りなく思い、共通の友人Kと、どうしているんだろうかと噂をする。

 そうそう、友人Kによると、平塚君はホモエロティッシュな気を起こさせない美少年らしい。

 しかし、平塚君は1年もたたないうちに腎臓結核にかかり、東京に戻って来た。芥川はたびたび彼を見舞う。恋愛話で盛り上がったりして。
 でも、平塚君は病状が悪化して海辺に転地した。その彼を、芥川は冬休みを利用し、はるばる尋ねていく。

 この時代、伝染病の結核患者はすごく忌み嫌われた。だから、泊りがけで見舞いに行くという事は、仲の良い友人にしても大変だったと思うよ。

 その後、平塚君は大喀血して亡くなった。まだ若いのに気の毒な事だ。

 しかし、芥川はすごく不衛生な一高の寄宿舎にいても結核にならなかったんだから、見た目より丈夫だったのかもしれない。


 こういった、学生時代の幸せな思い出を芥川が持っていたと思うと、少しほっとしますね。
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