ケイの読書日記

個人が書く書評

「銀の仮面」 ヒュー・ウォルホール 倉阪鬼一郎訳

2015-07-28 13:42:31 | Weblog
 たかさんのブログで紹介されていて面白そうだったので、私も読んでみる。江戸川乱歩が、この作品の事を「奇妙な味」と評したことで有名らしいが、奇妙というより、背筋も凍る立派な犯罪小説。20ページくらいの短編だが、後半は怖ろしくて、きちんと読めなかった。ナナメ読み。
 最初の数ページで、このNOと言えない女性が、どういう悲惨な末路を辿るか、予想できる。
 どうしてこんなに拒否反応を起こしたかというと…数年前の角田美代子の尼崎事件を思い出したからだと思う。


 善意の人の親切心に付けこみ、悪意のある人間が、まず偵察がてら家庭に入る。好き勝手出来そうだと判断すると、悪意の人間の親戚やら友人知人が多数押し寄せ、数で善意の人を圧倒し、わがもの顔に振る舞い、財産を食いつぶす。
 善意の人は、迫害され虐待され、追放あるいは殺される。(この「銀の仮面」では、殺される所までいってないが軟禁状態)

 尼崎事件は、本当に恐ろしかったね。被害者は、多少、世間体を気にする所があったにせよ、キチンとした善意の人だったが、こういったプロの犯罪者集団にはなすすべなし。
 警察に相談しても「民事だから、自分たちで解決して」と取り合ってくれない。
 善意の人の家族の中には、犯罪者集団に取り込まれる者も出てきた。本当に絶望しかない。


 これから少子高齢化が、どんどん進んでいく日本。財産はあっても、身寄りのない人は大勢いる。そういう人たちに、最初はニコニコ優しく接して養子縁組させて、養子になったら豹変。勝手にふるまう なんて事が多くなるだろう。うわー!気が滅入ります。


 さて、話を本題に戻そう。この短編集には表題作『銀の仮面』以外にも意欲作がいっぱい。私は『中国の馬』が一番好きだな。
 これは、熱烈に自分の持ち家を愛する中年女性の妄想話なのだが、イギリス女性ならでは、と思う。家具やカーテンや置物や庭に対する彼女の恋心は、日本の女には理解できないね。
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辛酸なめ子 「妙齢美容修行」

2015-07-23 16:35:13 | Weblog
 ポスト酒井順子 を意識している訳じゃないでしょうが、辛酸なめ子さんは、酒井順子さんと、経歴や作風が似ている。二人とも東京生まれ、東京育ち。女子校出身。そして、大学在学中から作品を発表している。
 大きな違いは、酒井さんが文筆一本なのに対し、辛酸なめ子さんは、エッセイも書くけど本業はイラストレーターらしい。それとも、TVのコメンテーターの方が一般的か。この本も、コミックエッセイ風。
 それと、なめ子さんの方が毒が強い。むしろ、毒で売ってるから、好き嫌いが分かれると思う。


 「まえがき」の部分に    辞書で調べてみたら妙齢とは「女性の若くて美しい年ごろ」を表すと知り、厚顔無恥だったと、今さらながら恐縮しています    と書いてあったけど、私も間違えていた。
 私も、妙齢とは「若いかどうか微妙な年齢」だと、勝手に勘違いしていたのだ。それでも十分意味が通じたような…。


 さて、このコミックエッセイでは、美を追求してやまない辛酸なめ子さんが、厄落とししてスッキリする『引っ越し美容』、自然の気を取り込む『散歩美容』、危険な白砂糖から離れる『シュガーレス美容』などなど、さまざまな美容法をあみだしては、自ら実践している。
 なるほど! グッドアイデア!と拍手をおくりたいものもあれば、えーーーっ!これって、かえって逆効果じゃない?というものまで。

 その中に『献血美容』というものがあり、またまたビックリ! 献血した分、新しい血液を作るため、身体が脂肪を燃焼させるので、身体が引き締まるそうです。(うっそだぁ!)
 なぜビックリかというと、私は数日前、献血に行ってきたからです。
 実は、「献血に来てください。血液が足りなくて困っています」というハガキが来たのです。初めて。どうも、過去に献血した人の所に、送っているみたい。
 現在、医療現場で輸血することも多く、しかも若者の献血が減っているので、危機的状況とか。

 このブログを読んでくださっている皆様、もし、差支えなければ、献血してくださいね。
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益田ミリ 「銀座缶詰」

2015-07-18 21:56:24 | Weblog
 WEBマガジン幻冬舎の連載エッセイと、月1回の朝日新聞での連載エッセイ(2010~2012年)まとめたもの。

 10年以上前、私が読んでいる新聞に、益田ミリさんの川柳コミックエッセイが連載されていて、楽しみに読んでいた。でも、こんなに売れっ子になるとは思わなかったなぁ。映画化された『すーちゃん』が代表作だけど、作者と同世代の女性の心をキチンと表現していて、人気が出るのもうなずける。

 益田ミリさんが、このエッセイを書いたのは、42歳~44歳くらいの頃。本当に毎日がすごく楽しそう。CAFEで仕事の打ち合わせの後、ぶらぶらウインドウショッピングを楽しんだり、友人と会食の後、ボーリングや卓球やカラオケで明け方まで遊んだり、人生を楽しんでいる。
(人生を楽しむというと、デフォルトしたギリシャの人たちを思い出すね。「人生を楽しむ」のは借金返してからにしてください)

 考えてみれば、こういった経済力のある女性の場合、40歳代が一番楽しめる年代なのかもしれない。 
 自分自身は、まだ健康に自信があり、親もまだまだ介護が必要なほどではない。20代や30代の時は、結婚は?出産は?と人に言われたり、自分で考えたこともあったが、40代に突入すると、もう気にならなくなる。 
 仕事が順調なら、お金もある。だいたい子どもがいないなら教育費がかからないので、経済的にも余裕がある。
 友人、知人も同じような立場の人なので、旅行に行く時もすぐに集まる、などなどメリット一杯。


 本の題名にもなった『銀座缶詰』とは、銀座の空気の缶詰ではありません。(高原の空気の缶詰って本当にあるみたいよ)
 やりかけの仕事を一気に片付けようと、銀座のホテルでカンヅメになって来たらしい。自費で! 自費の場合、カンヅメというのかどうか、ちょっと疑問。
 昭和的感覚で言うと、出版社がホテルを用意し、人気作家に他の社の仕事をさせず、締め切り間際の自社の原稿を書いてもらう事を指すのだと思う。
 そういえば、群ようこの昔のエッセイに、そんなのがあったなぁ。
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岸本葉子 「ちょっと早めの老い支度」

2015-07-13 09:40:37 | Weblog
 順番は前後するが、先回読んだ『続・ちょっと早めの老い支度」が面白かったので、これも読んでみる。
 電子書籍を探したが無かったので、図書館で予約して借りる。およそ1週間かかる。それを考えると、電子図書は便利だよね。1クリックで本がすぐ読める。

 どこかで本の情報をつかんで、あーーー、これ読みたい!!って本があるとする。本を手に入れるまで、少し時間がかかると、その間に、読みたいっていう情熱が薄らぎ、結局買わなかったりする。
 それを考えると、電子書籍にした方が、かえって本が売れるんじゃないかな? 作家も出版社も儲かるよ。でも…本屋さんが困るよね。私も、本屋さんの雰囲気は好きです。本屋さんが閉店したら悲しい。うーーーん、困ったなぁ。


 
 話を、このエッセイ集の感想にもどします。岸本さんが、このエッセイを書き始めたのが、50歳になろうとする時。いくらなんでも『老い支度』とは、早すぎると思うが、何事につけても早めでキチンと準備する人なんだ。

 対談が2本、載っている。一つは、産婦人科の女医さんと、女性の生涯健康についての対談。
 岸本さんは、40歳の頃、がんを患ったので、健康には人一倍気をつかっている。女は、男より6~7歳寿命が長い。それは、女性ホルモンに守られているからと、女医さんは言う。身体の事だけじゃない、認知症も。女性ホルモンが脳を守っているらしい。ホルモン補充療法をしていると、認知症になりにくいという。本当?
 岸本さんは、ホルモン補充療法をやる気満々だが、副作用がねえ…。本当に大丈夫か?

 もう一つの対談は、ファイナンシャルプランナーと『住まいとお金』について話し合っている。
 岸本さんは、70歳から、年間170万円でやっていく事になりそう、と書いてある。60~70歳には、個人年金が入ることになっているらしい。
 ただ、岸本さんの場合、持ち家だし、自営業者だから、心配する事ないと思う。
 でも、持ち家の場合、かえって家の補修費がかかるかもしれないね。
 なんにせよ、岸本さん、大丈夫。70歳過ぎても、エッセイの仕事あるって。
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津村記久子 「君は永遠にそいつらより若い」

2015-07-08 13:10:27 | 津村記久子
 津村記久子のデビュー作にして出世作。デビュー作には、その筆者のエッセンスが詰まっているとは、よく言われるが、本当にそう。彼女の特徴が、あちこちに散らばっている。
 ゆるーいユーモア、仕事に対する誠実さ、ぐだぐだ無駄話できる友人、固有名詞にカタカナ使用…etc

 ミステリだと、後半に起る出来事に対して、ああ、前半のアレが、この伏線だったんだなと気付くことが多い。この伏線が無いと、駄作って事になる。
 でも、こういった純文学的な作品(これは太宰治賞受賞)って、ミステリと違って、伏線があまり無いのだ。出来事はそのまま作品中に置かれているから、ちょっとフラストレーションがたまります。


 女主人公のホリガイは、大学4年生で、就職も決まり、ホッとしてバイトに精を出す日々。彼女は子どもの頃、TV番組で、子どもの行方不明事件(誘拐された?)が多発している事を知り、将来、児童福祉に関する仕事をしようと決意した。
 大学入学時から、食品工場で働き始め、せっせとお金を稼ぎ、公務員試験向けの専門学校にも通い、見事、地元の役所に職を得る。
 この「君は永遠にそいつらより若い」という変わったタイトルは、ホリガイが虐待されている子どもたちに対して、「君たちは、そいつら・虐待している大人より、永遠に若いんだ。だからなんとか生き延びろ!というメッセージから来ている。
 最初は「マン・イーター」というタイトルだった。これはこれで怖い題名です。

 ホリガイの周りの大学の友人、その恋人、バイト先の上司・同僚のなかにも、訳ありの人はいる。リストカットを繰り返す女の子、その女の子を疎んじながらも愛する男、子どもの時レイプされ、心にも身体にも傷を負った後輩、親からネグレクトされ部屋の中でうずくまっている小学生…。
 でも、最後は明るい光が差し込んでくるところで、この小説は終わる。
 津村記久子の作品って、読後感が良いんだよね。


 そうそう、先日、新聞で、津村記久子のインタビュー記事を見た。津村さんって、結構かわいいんだ!驚いた(失礼!!)クールビューティってわけじゃないけど、柔らかく優しくかわいらしい容姿。いいなぁ。
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